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シナリオ詳細

<太陽と月の祝福>夢陽炎を匂う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 失敗。

 それとも、運が悪かったというべきなのだろうか。

 深緑。
 大樹ファルカウを中心とした大森林に私たちは住んでいる。
 ある日。友達との遊びの一環。
 周囲の期待に嫌気がさして、少しばかりの熱に浮かされて、みんなで村から離れた。警備隊にも気づかれないようにと少しばかりの魔法を使って。
 曇りのない満天の夜空。
 足をくすぐる草の感触。
 夜露を飲む柔らかい土の冷たさ。
 まとわり付いていたものを夜の風が吹き払ってくれるような解放感。
 ああ、楽しい。みんなと夜に出かけるなんて、小さい時分以来だろうか。
 燐光を放ってじゃれあう虫たち。水流緩やかな岩の影で眠る魚の群れ。
 ひそやかに笑いあう友との歓談。
 これほど穏やかな時が深緑の他にあるだろうかと、私たちは全く信じて疑っていない。
 ……そうして。
 目が覚めたとき、私は一人、警備隊に保護されていた。
 混乱と、異様な眠気の残る頭では彼女たちの言葉が理解できず、辺りを見渡した。
 粗野な身なりの男たちが警備隊によって連行されている。
 警備隊が赤く光り、燃えている木々の前で消火を行っている。
 どこにも、一緒に遊びに出たはずの友人たちは誰一人もいない。

 木々は赤く燃え、その奥で誰かの絶叫が重なって、死して木霊していた。
 私は目の前の光景を呆然と眺めていた。



 フォルカウを切り抜いて造られたフォークロア的街並みは今や戦場と化した。
 中層部を駆け抜けて上層部へ。
 茨に囲まれ鬱蒼とした空気がイレギュラーズたちを出迎えた。
 本来であれば上層部など立ち入れないが、この上層部の状況こそが本来あってはならない。このような事態にフォルカウの一部が燃えているという情報が拍車をかける。
 急がなければ。焦る想いがイレギュラーズの足を速める。未だ眠り続けている幻想種たちも多くいる。
 救助を放置して戦火が広がればどうなるか。
 商店と住宅である程度分けられた通りを進む最中、街並みの一角に立ち上る陽炎を見た。
 並んだ住居の一棟が燃え始めている。
 一般的な深緑集落の住まいの内装は荒らされていない。
 だが、布の仕切りを手当たり次第に開いていった先で一人の幻想種の女性が眠りに落ちているのを見つける。
 横たわる身なりの良い幻想種の体に異変はない、しかし。
 周りがいくら呼び掛けても起きる気配はない。……眠りに囚われている。
 他に住人がいないことを確認して眠ったままの幻想種と共に外へ出る。
 静謐な夜の森は風に冷気を含ませて流れている。
 せせらぎが聞こえる。近くの川で水を汲んで消火すべきだろうか?

 ――あれは?

 その場にいた誰かが呟いた。
 黒炭を思わせる風貌、立ち上る陽炎がその輪郭を朧にしている。
 木々の開けた中心を陣取って宙に滞留している、首と下半身のない骨のようなもの。
 表面を覆っていたであろう皮もまた黒いボロ布のように垂れ下がっている。
 炭のようになっているとはいえ、両腕らしい骨が完全に残っているので骨の原型は人間なのだろうと考えられた。
 ここにいるということはこれもまた魔種の手先のはず。
 そうして身構えて、戦いに備えるべき時に考えるべきことではないのだが、

「自分たちは今どこにいる?」

 誰かの口をついて出た言葉に反応するように、周囲を囲む夜の森が赤く光り、突如として燃え上がる。
 爆ぜた炎が地面に落ち、宙に吸い上げられて骨の周囲を漂う火の玉と化す。

 何度景色が入れ替わっていただろうか。
 その果てに確定した景色は地獄の如き炎のさなか。
 ここは既に夢の世界。

 絶叫が赤く燃える木々に死して木霊している。

GMコメント

●成功条件
 夢魔の撃破
(夢魔を撃破すれば後述する炎魂も全て撃破扱いになります)

●失敗条件
 敗北又は神官(幻想種の女性)の死亡

●ロケーション
 フォルカウ上層部。夢の世界。

 断末魔が絶えず反響し燃える森の中。

※特殊なロケーション効果(NPCにも適用)
 燃え続ける森の中では2ターン毎の各PCの手番の最初に特殊抵抗判定が発生します。(ライトヒット扱い)
 失敗した場合【火炎系列】のBSが付与されます。
 自然回復はせず【BS回復】によってのみ解除されます。
 BSが付与されたまま更に2ターンが経過し、特殊抵抗判定に失敗した場合火炎→業炎→炎獄とBSが悪化します。
 スキルやアイテムでの【火炎系列】無効化が有効です。

●敵
■陽炎の夢魔*1
 全距離対応神秘型。
 宙に浮かぶ約80センチの骨。黒炭のような色合い。首のない上半身。
 炎に限らず一般的な幻想種が使う魔法を増幅したような攻撃を行う。
 攻撃目標順位があるようです。

■炎魂*3
 近・中神秘型。
 宙に浮かぶ約10センチの火の玉。
 一般的な幻想種が使う魔法攻撃を行う。
 陽炎の夢魔と同じ攻撃目標順位があるようです。

●NPC
 身なりの良い幻想種の女性。眠っている。神官らしい雰囲気。
 攻撃対象かつロケーション効果の対象です。放っておくと燃えて死にます。

●挨拶
 夢って板付きで始まるのなんででしょうね。少なくとも自分はいつもそうなのですが。
 そんなわけでお待ちしております!

  • <太陽と月の祝福>夢陽炎を匂う完了
  • GM名豚骨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月29日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
ファニー(p3p010255)
炎 練倒(p3p010353)
ノットプリズン
葵 夏雲(p3p010384)
りゅうのたいせつ
リスェン・マチダ(p3p010493)
救済の視座

リプレイ


 世界を包む炎が赤き舌となって内側にいる者全てを舐める。
 黒炭のような陽炎の夢魔は灼熱の森の中心で静かに浮いていた。木霊する断末魔を、顔もなければ体も満足に形作られていない敵は、聴いているのだろうか。
「ガーハッハッハ。どうやらいつの間にか眠りの世界に誘われていたようであるな」
 土壁を作り出しながら『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)が笑う。気付かなかったと言う赤き竜は、襲い掛かる火を恐れることなく、じゃらじゃらと手枷の音を鳴らしながら炎魂へ向けて術を操った。
「しかしわざわざ姿を現して襲うとは、その傲りが間違いであったと骨身に叩き込んでやるのである。そう」
 骨だけに、と。それを聞いていた『スケルトンの』ファニー(p3p010255)がハっとして振り返る。
「おいおい。それ、俺が言うべきジョークじゃねえか」
 ――なんてこった。同じ骨のよしみで燃えっぱなしのコイツに同情してたのがマズかったようだぜ。
 灼け朽ちたような皮と、黒炭としか言いようのない外見。コレがなんであれ、元になった存在がいたはずだとファニーは考えていた。それはもしかすると、あの神官の……。
「ちょっと! 真面目にやってよね!」
 その声は、この渦中において、物思いに耽るような暇は許されないと、そう言って見せた『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が発したものだった。
 夢魔たちの懐へ飛び込んだ彼女の周囲に、桜の風が舞う。それはまさしく、景色を桜色に染め上げる吹雪であった。だがこの赤き森の中で、その色に囚われた者からすれば、炎の色を受けて輝く辰砂の赤にすら映っただろう。
 自失を誘う桜吹雪。ゆえに、それに紛れて背後へ回った『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)に夢魔は気付かなかった。
「ここで足を止めるなど甘受致しかねます。ですので」
 桜の色の髪が、白き輪郭を残して背後を取った。
「疾く、押し通ります」
 放たれた白き光が、桜吹雪の残像と重なる。そして、
「熱い暑いあっついじゃねえか!」
 桜舞う灼熱の森の中にもう一つの吹雪、否、嵐があった。
 全力で駆ける『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)目掛けて膨大な熱波が襲い掛かる。余人が受ければ、足が止まるどころか、その体の表面は元の形を残さなかっただろう。
 しかし、彼はそれを受けても、それを受けながらも走った。
「炎程度で、俺を止められると思うなァッ――!!」
 周囲の炎を巻き込んで嵐が吠える。暴風の中に、型に嵌めたような細やか技などない。殴り、斬り、時に蹴る。防御など考慮に入れる余地すら与えない連撃を炎魂へ叩き込む。
 陽炎の夢魔は動かない。自身と、炎魂が攻撃を受けても。
 夢魔は微動だにせず魔法を手繰る。それが蛍へ集中的に向かっている以上、意識は確実に存在しているはずだが、それでもなお漂い続けている。
「ごめん、なさい」
 神官の口が開かれる。震える喉を伝って呼気が漏れ出る。
「私のせいです。私のせいです、私のせいで、ごめんなさいごめんなさいごめんな、さい……」
 眠ったまま、譫言のように。断末魔にかき消されていくほど小さな、涙に濡れた声であったが、その声を聞いた者がいた。
 二人はそれぞれ、違う物語の存在に憧れていた。国も違えば登場人物も違う物だが、しかし根底にある想いはきっと、とても良く似ていた。
 顔を上げ視線を交わした二人は、犇と頷いた。
 ――死なせはしない。
 『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)と『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)。炎が逆巻き唸る中、二人は神官の女性を守るように立っていた。
 森が燃えるということは、森に棲む命が脅かされるという事。リスェンは、深緑出身でもなければ幻想種でもない。だが、その心を締め付ける痛みと、命を想うことに貴賤などあるはずがなかった。
「ここは、夢なんでしょうか」
 もしそうなら、これは過去の出来事の転写か。写した世界が現実に現れているというのなら、イレギュラーズが夢魔を倒せなかった場合、どうなるか。
「こんな景色、現実にはさせない!」
 アレクシアの声が、そんな「もしも」を振り払う。
 幻想種であり、イレギュラーズでありながら、大聖堂の神官でもあるアレクシア。フォルカウが燃えているという報が彼女の耳に入った時、胸中へ去来した感情は如何なるものだっただろう。そしてだからこそ、それは万感の一言だったに違いない。
 炎と、絶叫される悲鳴が満ちる空間。心地の良いはずがない、本来空気すら焼け落ちて、炭と、灰だけが残るはずの場所で戦うなど。
 他者より優れた聴覚を持っている『りゅうのたいせつ』葵 夏雲(p3p010384)は不快に顔を歪めることもなく戦っていたが、纏った青き衣も、この炎の中にあっては夕暮れの色に染まっていた。
「本当に、熱い」
 夏雲は、神官の盾となっているアレクシアとリスェンを見る。
 夢の世界を焼く炎が持つ熱量は本物だ。炎への耐性がない者は、一分を待たずその身を火に巻かれるだろう。
 その証拠に、アレクシアと神官はほぼ同時に、前触れなく“灯った”。
 しかし次の瞬間には春の風が吹き、彼女と、神官を中心に魔力が広がっていく。吹き抜けていく春花の花弁。それを細めた目で追いかけて、夏雲は夜刀神を振るい弾丸を放った。
「さあ、数を減らしましょうか」
 花弁を追い抜いた弾丸が炎魂を打つ。
 気分が良いはずがない。それでも頼もしい先輩たちがいるなら、心強い。
 敵はどうやら、何かの指標を持って攻撃する相手を決めている。それが分からないうちは気を引き締めなければならない。



「コイツはかなり痛いぜ」
 直線で捉えた炎魂を、炎の波に風穴を開けてファニーが狙い撃つ。
(どうにも妙だぜ。こっちに直接の攻撃が来ねえじゃねえか)
 それどころか夢魔と炎魂の攻撃は、当てられると分かっていて注意を引き付けている蛍を除けば、ほぼ二人に限定されていた。
 神官の女性、そしてアレクシアだ。
 なんとかなるはずだと考えていたが、ああも集中して攻撃を受け続けるのは良くない。
「こっちは無視か? 同じ骨のよしみじゃねぇか。仲良くしようぜ」
 炎魂の数は着実に減っている。このままいけば全て倒すのは時間の問題だろう。
 だが、それはアレクシアが倒れなければ、だ。女性を庇い続ける彼女が倒れることは、前提の崩壊を意味する。
(この人を狙ってるの……?)
 しかしそれは違う。アレクシア自身も、狙われていることがわかっているからそう思う。なら、それはやはり、
「幻想種の人を狙ってるんだ……!」
 リスェンも、同じ結論に至った。
 夢魔の魔法が飛来する。幻想種たちが攻撃手段として使用するそれらとは桁違いの威力に増幅された魔法から女性を庇う。その直撃を受けても、アレクシアの毅然とした表情は崩れない。
「アレクシアさん!」
 リスェンの握るおんぼろの杖に力が込められて、癒しの術が広がっていく。アレクシアもまた、その一助を受けながら自身を守る障壁を修復する。
「ありがとう、でも大丈夫! このくらい平気だよっ」
 だが、執拗に攻撃を受ける中で、消耗はじわじわと広がりつつあった。
 向けられる明確な殺意。幻想種を周囲を包む炎では焼き尽くせないならば、この手で燃やそう。それでも駄目なら――。理由は分からないが、そんな執拗なまでの殺意が、攻撃の順位の指標となっている。
「作戦に間違いはなかったわね」
 もし神官の女性を守る者がいなければ、そして炎魂を先に倒す選択をしていなければ、状況はもっと悪かっただろうと夏雲は考える。
(けれど、急がないといけない)
 いくらかの攻撃目標を蛍が引き受けているとはいえ、その他全ての攻撃はあの二人に向かうのだ。しかも、その攻撃の余波は周囲にも及んでいた。戦闘が長引けば、リスェンと共に回復役を担っている幻想種のアレクシアから芋づる式に倒れていくことになるだろう。
「全員で生還するの、幻想種のお姉さんも、ローレットの皆も」

「「はあァァ――――!!」」
 散り様まで美しくあれと、手向け草の花が咲いて蛍の力が瞬間的に増大し、作り出した桜の渦が炎魂を包み込んでいく。その中心の目を、一条の閃きとなって疾駆する珠緒が切り裂いた。
 夢魔たちが手繰る魔法はイレギュラーズたちへ猛然と襲い掛かるため、アレクシア同様、蛍が負う傷は時間と共に深くなっていく。
「珠緒はまだまだやれますが、蛍さんはどうですか?」
 それは珠緒からしてみれば、蛍の身を案じてのただの確認だっただろうが、
「っ! ええ、勿論!」
 蛍からしてみれば、意地悪な問いだ。そんな風に言われて「私はもう無理」なんて、言えるわけがないのだから。だから、そんな行き場のない感情を、仲間と、彼女守って見せるという想いを込めてぶつけた。
「敵ながら哀れね、そんな恰好で戦わなくちゃいけないなんて!」
 誰もそれを見てはいなかったが、その時、確か口元に珠緒は笑みを浮かべていた。
 桜の風と斬撃が交差して最期の炎魂が切り裂かれる。
「さあ残りはこ奴だけである!」
 気合を込めた赤き竜が、唸り声を鳴らして術を連続で詠唱する。
「ヌゥゥゥンッパゥワーーーー!」
 練倒を縛る鎖はもうなかった。というか自分で千切った。弧を描いて振るわれた腕から眼前に浮かぶ陽炎の夢魔へ業火を放つが、黒炭のような体に火は点かない。
「傲るだけの実力はあるようであるな。しかし、これで終わりではないのである」
 一度でダメなら何度でもやればいい。研究者らしいと言えばらしいが練倒の隆々の肉体から感じられるニュアンスによって多少印象が歪められる。
「俺らを相手にするにはちっと足りなかったんじゃねえか?」
 傷だらけのルカは両手剣を構えて不敵に笑う。攻撃対象がほとんど幻想種に絞られているとはいえ、巻き添えや余波によって蓄積したダメージは深刻だ。回復の手が、アレクシアへ集中することを考えれば、他が薄くなるのは自明。
「悪いが、さっさとケリ着けさせてもらうぜ!」
 満身創痍で笑って見せた彼の手から繰り出された一撃は、今日一番の威力を誇っていた。
「――許して」
 その声が神官の口から洩れたものだと、一体何人が気付いただろう。
 そしてただ浮かび、動かくことすらなかった陽炎の夢魔が、顔を手で覆っていたことに驚愕しなかった者はいただろうか。
 その姿に、顔はない、だがその仕草はまるで涙を抑えるようで――そして夢魔は、腕を大きく開いた。
「あ、あ、ああああああ違う、違う違う違う!!」
 神官が苦しみだしたかと思うと、反響する断末魔にかき消されるほど小さな譫言とは比べもつかないほどの声を挙げ始める。
(このタイミングで急に苦しみだすなんて)
 夢魔の異常とシンクロするような神官の異常にアレクシアが瞠目する。
「なにか変だよ! 皆一旦下がっ」
 次の瞬間、夢魔を中心に熱が広がった。
 赤く燃える森に反響した断末魔も、アレクシアの声も。全てをかき消す破裂音が先に響いて、爆発の速度より速く迫った熱波が、確かな質量を持ってイレギュラーズたちを吹き飛ばした。
「ッ! まだやれるのかよ、タフなや――」
「わざとじゃ、わざとじゃなかったの! ごめんなさい!! ごめんなさい――!!」
 絶叫がルカの言葉尻を切り裂く。
 譫言などと、戯れた言葉では片付かない叫びの声の主は、アレクシアに庇われた神官の女性だった。
「リスェンさん……立てる?」
 強かに体を打ち付けたリスェンは、薄紅色の花弁に包まれながら杖を立てて何とか身を起こす。
「はい、はい……! 立てます!」
 この光景が、彼女の悪夢の光景なのだとしたら。彼女にとって、この夢は一体どれだけの責め苦になっているのか。自然と杖を握るリスェンの手が固くなる。この戦いが終わった後、彼女が見る景色が少しでも良い物であるようにと願うように、固くなった手を無理やり握り直し、味方の傷を治していく。
「さっきの爆発は、流石に堪えましたね……」
「もう一回、っていうのは勘弁してほしい所ね、でも」
 まだやれるでしょ、と。今度はどちらともなく口にして、走り出す。
「まあこれで手を緩める手はないよな」
「うむ、全くである。やるかやらないか? その問いの答えは常にYESである」
 ファニーと練倒の前に炎が集まっていく。
 いつまでもそんな骨ばった恰好じゃしんどいだろ。炎でこちらを焼き尽くすというのなら、その炎を凌駕する、更なる炎をくれてやる。
「俺様たちが灰も残さず燃やし尽くしてやるよ!」
 夏雲がありったけのお呪いを付加したその炎が奔り、夢魔の体を灯した。
「そろそろ、夢から醒めねばならないでしょう?」
 いつまでも怠惰には浸るわけにはいかない。ここを無視することは出来ない、だが、ここは終点などでは決してないのだから。
 夏雲の後ろからルカが跳ぶ。黒き両手剣の質量を、全力に乗せて振り下ろした。
「気付けをくれてやるぜ――ッ!!」
 体を燃やし尽くす炎を、超重の一撃を、やはり夢魔は動かずに受けた。
 固い岩にヒビが入るような音がする。
「――此処っ!!」
 黒炭の構造に生まれた、その僅かな隙を、珠緒の赫き剣が貫いた。

 気付けば、あれほど激しく燃えていた炎は、森と共に陽炎の如く消え去っていた。代わりに茨の絡みあった鬱蒼とした空気を感じるが、『眠りの世界』ではない、自分たちが登ってきたフォルカウ上層であることが分かる。
 崩れ始めていた夢魔の体は、やがて見えなくなるほど細かくなり、何処へと融けていった。



 ファニーは、何も言わずに崩壊を見ていた。疎通の意思を、アレは受け取らなかったのか。何も感じ取ることは出来なかった。
 そしてその後、神官の女性が目を覚ました。彼女は上体を起こして、放心した表情のまま周囲を見渡した。
「えっと、ですね……。実は……」
「見ていました……だから、知っています」
 リスェンがどう説明しようかと言葉を考えていると、女性はその表情のまま呟いた。
「そっか……でも、もう大丈夫だよ!」
 悪夢は消えた。この戦いで神官の中から全ての負が取り除かれたとは、アレクシアも思っていない。けれど、怖い夢から醒めた時の感覚は少しでもと、彼女は笑って見せた。女性もまた、笑顔を返すが、やはり心ここにあらずと言った様子だ。
 珠緒はそれを告げるべきか、少し迷う。けれど隣に立つ無二の、蛍の顔を見て、小さく口を開いた。
「『自分も焼かれて死ぬべき』と、そうお思いなのですか」
「……ぁ……」
 女性は幼少より、神官になることへの期待を込められていた。それを裏切って自死を選ぶなど、考えなかったのだろう。少なくとも意識の上では。それを今、指摘されて初めて気づいたのだろう。
「夢はその人のを写すものですから……」
「あ、夢魔が、それを現実に……?」
 人の夢の形を使い、自分の体と力とする夢魔。恐らくあれはそんな能力を持っていて、夢の主を殺すことで、初めて自由に夢と眠りの世界を使えるようになるといったところだろう。
「とにかくアンタはさっさと安全なとこに移動しな」
「……ありがとう、ございます」
「どんな夢でもいつかは醒める、なら長く想うことは無いわ」
 ルカの手を取って起き上がる女性に、夏雲が声をかける。しかしそれとは別の誰かの声を聴いた気がして、ふと、ファニーは視線を落とした。
 炎魂たちが落ちて、消えていった場所。それは夢魔が消える、ずっと前に。
「…………ああ、まったく同意だな」

「そりゃきっと、骨折り損ってもんだぜ」

成否

成功

MVP

桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
皆さんプレイングにいろいろ書いてくださっていて嬉しかったです。情報色々不足していた中で本当にありがとうございます。
神官の女性については会おうと思えば全部終わった後にでも会えるかと思います。ひとまず自殺はしないようです。

MVPは彼女に気付きを与えてくれた方へ。
ご参加ありがとうございました。ご縁がありましたらまたよろしくお願いいたします。

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