PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<太陽と月の祝福>瓜二つを分かつもの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●あなたとわたし、わかれてしまった
「……な、」
 シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)がみせた最初の反応は『絶句』であった。
 確かに、深緑はいま危機的な状態にあり、茨がはびこった全域で何がしかの被害が出ていることは明らかだ。
 血縁と言う意味では、彼女にとっても全くの蚊帳の外とはいかなかった。そもそも――幻想種という種族そのものが、彼女に無縁ではない。
 だが、それを押してなお。彼女には『なぜ』と唇の動きだけで述べるに足る権利がある。
「シフォリィさん、あれは」
 アルテミア・フィルティス(p3p001981)は彼女の動揺にフォローを入れようとした。だが、適切な言葉が見つからない。彼女は恐らくその顔を知っていた。
 虚ろな顔だが、しっかりと得物を持つ姿は過去の面影を些かも損ねておらず、身から吹き出す魔力のほどは往年の『英雄』としての輝きを全く失っていない。
 そして、その顔はシフォリィと(耳の長さを除けば)瓜二つであった。
「……敵は排除する。それだけよ」
「中姉、様」
 その幻想種の名は、ノクターナ・ノルン・フィオレという。
 旧姓は『アルテロンド』。誰あろう、シフォリィの姉であり。今でこそ一線を退きはしたが、立派な特異運命座標の一人である。

●歪んだ夢を掴む馬
「っヒィ……! その絶望の顔は気持ちいいモンだなぁイレギュラーズ! 俺の前でその表情(かお)は凄く唆るぜ、もっと見せてくれよォ!」
 絶望を色濃く残すシフォリィ、驚愕とともに肩を貸すアルテミア、そして嫌悪を持って現状を見守るイレギュラーズ。それらの姿を睥睨し、男はそう言って髪をかきあげた。
 2.5mはあろうかという偉丈夫は、顔立ちは悪くない。だがそれだけだ。彫りの深く濃ゆい顔立ち、筋骨隆々な肉体、ぎょろりとした目、深すぎる体毛、なにしろ下半身の人間離れした構造は、それがもとより人間ではないものから派生した生物であることは明らかだった。直感的な印象としては馬だろうか? そんな視線をより心地よいと感じたのか、男は胸を張る。
「そんな目線を飛ばすな飛ばすな! 俺はグラシュティン……違うな、『スロース』・グラシュティンだ。他のちゃちい連中とは違う、『滅びのアーク』で進化したってコトさァ!」
「あなたがこれをやったのね」
 男……否、怪王種スロース・グラシュティンは満足げに名乗ると、再び髪をかきあげた。シフォリィはそんな動作に興味はなく、事実だけを問う。
「ああ、そうだ。俺が触れたヤツはみんな“こう”なる。元々は俺達には女に逃げられる呪いがかかってたが、『滅びのアーク』ってのは大したモンだ。なあ?」
「あなたが求めるのであれば、如何様にも」
 ノクターナはグラシュティンの問いに頷くが、それでも一定の距離は取っている様に見えた。隷属能力は強力でありこそすれ、一定の命令範囲のようなものはある、と思われた。
「苛立つか? 腹が立つか? いいねえ、そういう連中を好き勝手にできるなら願ったりかなったりだぜ……お前ら!」
 下卑た笑みを浮かべたグラシュディンが一声かけると、彼よりやや小ぶりで、しかし雄々しい姿の馬面の魔物達を呼び出した。恐らく『ちゃちぃ連中』とは彼等だろう。
「こいつらと遊んでやれ! ついでに俺とこの娘で蹂躙してやるがなァ!」
「…………っく……」
「シフォリィさんのお姉さまにまで手を出して、その有様……絶対に許しません! 生きて帰れると思わないことです!」
 怒りや諸々の感情がない混ぜになったシフォリィを守るように、アルテミアは前に出る。
 恐らく、きっと。今この状況で打破できる一手がどこかにある。
 ノクターナの心を引き戻せる手段が、どこかに。

GMコメント

 こんにちは運命。

●成功条件
・『グラシュティン』2種の全討伐
・ノクターナ・ノルン・フィオレの生存

●失敗条件
 ノクターナの死亡

●スロース・グラシュティン
 『冠位怠惰』の影響を受け怪王種と化した邪妖精・グラシュティンの姿。(プレイングでは単純に「スロース」でも通じます。怠惰馬とか)
 本来は醜い姿をした人馬といった風体の筈ですが、変化した影響かかなりの美形になっています。とはいえ、2.5m程度の威容、むさくるしい体表などはもとの伝承のままです。
 怪王種となったことにより『触れた相手に強烈な催眠効果を齎す(物至単・【魅了】【災厄】)』能力を獲得しました。
 パンドラを持たないor持っていても強固な意志力を持たない、不意打ちであったなどの要因を持つ相手を強制隷属状態とします。
(ノクターナさんはこの効果により操られています。グラシュティンを倒すと解除されます)
 なお、こんな小細工がなくてもその巨体から繰り出される格闘攻撃や、どこからともなく水を生み出し投げつける(物中扇:【窒息系列】など)など、様々な攻撃バリエーションを持ちます。
 総じて近中距離パワータイプといったところでしょう。

●ノクターナ・ノルン・フィオレ
 シフォリィさんの姉(旧姓アルテロンド)です。
 シフォリィさんと非常に似ており、そのためか嫁いでもなおシフォリィさんとの仲は良好だったようです。
 深緑襲撃の折、どうやら隷属状態となった模様。夫である少年は恐らく眠りに落ちているでしょう。夫(イリオス・イネス・フィオレ)はこのシナリオには登場しません。現時点では。
 引退はしましたが元イレギュラーズで、魔術に関する知見に長けており、且つ現役時代からの変化として『フィオレ家の膨大な資料から知識を吸収している』ことが挙げられます。
 基本的に魔砲に近い(より洗練された)砲撃術式、射撃魔術の類のほかに範囲系のランダムBS2~3+【呪殺】魔法などを用います。
 神秘術式の他に肉体強化系術式も習得し、操られた状態であるため魔力の使用量や使用ペースの箍が外れています。
 さらに最悪なことに、隷属化の影響か【ダメージ中】【充填大】の自付魔術(高効率のHP→AP変換をオート化したもの)を使用してきます。
 さながら揮発油を混ぜた蝋燭の如くに短時間で燃え尽きる設計となっているため、早急に不殺で動きを止めたほうが賢明と言えるでしょう。
 なお、説得などでも意識を取り戻させることは可能です。かなりの根性が必要そうですが、無理ではありません。

●タイン・グラシュティン×10
 スロース・グラシュティンよりやや小さい(タイン≒小さな)サイズの個体の邪妖精で、こちらは馬頭に毛むくじゃらの肉体を持ちます。
 女の尻を追いかけ回す性質がある非常に猥雑な妖精です。
 女性をメインに狙おうとしますが、状況判断はそれなりちゃんと行います。
 こちらも肉体メインの攻撃を行ってきますし、散開して戦うなど知恵が回ります。

●余談
 皆さんは任意で、各人が『聖葉』を持っている(いた)ということにしても問題ありません。
 なお、これはノクターナの隷属解除には効果がありません。

●戦場
 ファルカウ上層部。
 茨が周囲に絡み合っており、絶えず周囲に幻影が飛び交っています(人や物の幻影などなど)。

  • <太陽と月の祝福>瓜二つを分かつもの完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月29日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)
宝石の魔女
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
星穹(p3p008330)
約束の瓊盾
ライオリット・ベンダバール(p3p010380)
青の疾風譚

リプレイ

●あなたにわかってほしかった
「……下衆、だな」
 『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)の呆れにも似た不快感の表明は、本来であれば――人ではない存在のモカからは発露されにくい感情だ。だが、目の前のグラシュティンの所業はそんな「正常」を軽々と奪うほどにはろくでもないものだった。
「下衆、下衆か! いい響きだ! 清く正しく生きるなんてクソッタレだね!」
「……中姉様を隷属させるだなんて、許せません」
「ノクターナさん、まさか貴女が操られてしまうだなんて……っ」
 モカの不快感に高らかに応じるスロース・グラシュティンの声に眉一つ動かさず、ノクターナ・ノルン・フィオレは佇んでいる。瓜二つの顔を持つ、姉。『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)にとって見慣れた己の顔と似通ったそれの冷たさは、彼女をよく知る『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)が沈痛な表情を見せるほどには薄っぺらな、機械的とすら思える平静さでそこに立っていた。だが、すでに臨戦態勢を整えているらしく、杖は確りと、よりにもよってシフォリィを照準している。
「人質に攻撃させるとかえげつないことするのう……しかもシフォリィ殿の姉じゃろ? 役満じゃなぁ」
「面白いこともあるものだ、そうは思わないか? 『冠位怠惰』さまさまじゃあないか! 感動的な再開が無意味なんだからな」
「いやぁ、なんていうか呆れるねぇ。怒りや侮蔑よりも哀れみの目で見ちまうわ」
「滅びのアークに縋らなければ女性ひとり口説けない。貴方は可哀想な人ですね」
 『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)の口元が何とも言えぬ形で(或いは呆れを通り越した様子で)開かれる。偶然はあるものだ。最悪の形で。それをあざ笑うグラシュティンの態度は誇らしげでもあるが、薄っぺらくも感じられた。だからこそ、『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)や『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)はその態度に明確な嫌悪を示したのだ。とりわけ寛治に於いては、他人の情を自分に向ける、その難しさを大いに理解しているだけに他者よりも嫌悪感が強くて当然だ。
「オレが言うのも何なんスけど、美形の馬って言われてもよくわからないっス」
「知る必要はないでしょう。倒す相手の下衆な道理は無視するに限ります」
 『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)はグラシュティンが何故そうも自信満々に己の姿を自画自賛できるのか、それで女性を己の手に引き寄せられるか、全く理解の外であった。どこまでいっても馬である。亜竜たる彼は人の姿をとれようが、それとはまったく違う美的センスなのは語るべくもなし。『桜舞の暉盾』星穹(p3p008330)は極めて冷静に彼を諭す。あんなものを理解できずとも、戦いが終われば忘れる道理なのだから。
「出来れば、今からでも私の手で、貴方を斬り捨てたいところです……ですが、まずは姉様を助けます!」
「これ以上、シフォリィに大切な人を失わせない為にも、絶対に助け出すわよ!!」
「……助ける? 私を?」
 シフォリィとアルテミアは、喉まで出かかった怒りを必死で飲み込んで各々の得物を手にした。心があらぬところに在るノクターナは、彼女らの『傲慢』が鼻持ちならぬ、と短く詠唱する。地が揺れ、風が薙いだかと誤認する魔力の爆発的増加。これが操られた結果でなければ、恐ろしい敵対者であったことは言うに及ばず。
「おおっと、俺からあまり離れるんじゃないぞ? あいつらのギラついた目はこちらを見てるからな、お前だけはここから離さな」
 グラシュティン達は一体の『スロース』の声に合わせ布陣し、ノクターナを手放すまいと前に出た。だが、その動きはあまりに鈍すぎた――寛治を軸とした三人の連携の前には。
「おっと。姫騎士へのお触りは厳禁ですよ」
「知らねえなあ! あの小娘は俺のモンだ、勝手は許さねぇぜ!」
「他人の縁者に割り込んで『俺のモン』とは甚だ身勝手な言説ですね。気持ち悪い。少し離れていただけますか?」
 寛治はノクターナを巻き込まぬ位置で、グラシュティン達の前に立った。棒立ちになった。ただそれだけが、なんと『唆り』、悪意を囃し立てることだろう。早く倒さねば、殺さねばと。だが同時に、何体のグラシュティンがまともに動けただろうか。よしんば呪いの軛から逃れ、その蹄を突き出したとて待っているのは星穹の城壁の如き堅牢な守りだ。蹄鉄でもつけていればともかく、単なる蹄ではかすり傷が精一杯か。何を言っても、強がりにしか聞こえない。
「男にゃ興味がないってか? かはは! そう言わずに俺たちと遊んでくれや」
 だからこそ、大剣を肩に担いで振り上げたニコラスの姿を見誤った。派手な爆撃もかくやと言わんばかりの攻勢は、タイン達の肉体を強かに打ち据えた。とはいえ、流石に馬をベースにした邪妖精だ。
「ノクターナさん、その運命……此方で操らせてもらう」
 そして、寛治ら三人と同等かそれ以上に素早く動き、蹴りを叩き込んだのはモカだ。敵集団をすり抜ける形でノクターナを、そして守りに入る前のスロースとタイン数体を撃ち抜いた蹴りは、モカの狙いを幾らかは反映できていた――はずだ。
「……この、程度」
「ノクターナさん、私の声が聞こえますか? 私が分かりますか!?」
「中姉様!」
 自らに起きた不調を振り払うように構えられたノクターナの魔術の予兆より、シフォリィとアルテミアの連携が速い。身体能力を高めたシフォリィの舞いがノクターナを幻惑し、その動きを縫ってアルテミアの突きが飛ぶ。咄嗟に構えを変えたノクターナであったが、貫通魔術を範囲魔術に切り替えただけで、フレンドリーファイアは必至。イレギュラーズを狙えはすれど、寛治達に向かったスロースの何体かは必然、巻き込まれる形となった。……そも、彼女は今の攻防で二人の攻撃をまともに食らっている。避けようとして足を縺れさせたのだ。
「まあ、その。すまぬとだけ言っておくのじゃ」
「今助けるっス、だから死んじゃ駄目っス」
 自らに起きた事象が信じられぬという具合で己の手を見たノクターナを狙い、クラウジアとライオリットの攻めが放たれる。
 通常時なら彼女も多少は抵抗できよう。だが、今は致命的に『運が悪い』。襲い来る攻撃をまともに受け止める術が、彼女にはなかった。
「何をしている小娘! 貴様はその程度の女ではないだろうが!」
「あまり、自分の器量のなさを棚に上げるものではありませんよ。程度が知れます」
「なんだと――」
 寛治はスロースに向けて鼻で笑ってみせた。彼は顔ばかり良くなって、しかし得た優位に浸ったことで自分らしさを失っている。
 所詮は女に逃げられる運命にある。それをきちんと教育してやらねば。
 ……そんな黒い感情が見えたとして、誰が彼を責められよう。少なくとも、スロースと対峙した者達は同じ思いを共有しているのだから。


「私は貴方とは違って、そこの姫騎士二人とは下着モデル等をお願いできる程の仲ですから。貴方を倒したらご褒美で二人に色々と……おっと、これは非モテの貴方には刺激が強すぎる情報ですね」
「……って、ちょっと何言ってるんですか新田さん!?」
「新田さんは覚えておいてくださいよ!」
 寛治の挑発はスロースに確かな苛立ちと、そしてシフォリィ達の反感を買う。だが、彼含む三人の先手があってこそノクターナの対応に集中できているのも事実なので、二人の運命は半ば決まったようなものである。
「呪いって言ってたが本当に呪いなのかよ。モテる努力はしてたのか? 自分振り返って次に活かすための行動は取ったのかね。あ、悪りぃ悪りぃ。お前にゃ無理か。所詮駄馬だもんな。過去を振り返る頭なんてねぇよな。無理なこと言った俺が悪かった! すまんな!」
「「私、息子のいる身ですので……その、なるべく近寄らないで頂いても?  息子の教育に悪いですし……私、貴方のこと今混沌で一番軽蔑している自負が御座いますので。本来なら会話も遠慮したいのですが」」
「言わせておけば好き勝手言ってくれる! だが、俺の手にかかって楽に逝けると思うなよ、女!」
 スロースにとって、挑発を重ねてくる寛治もニコラスも、まっさきに排除したいと思える相手だった。だが、それより何より彼らの前に立つ星穹をこそ、隷属させたいと思ったのも事実だ。強い女、子供を捨てて此方へと来るような幻視の前に、彼に密かな興奮がなかったといえば嘘かもしれない。……常人に到底理解できる思想ではないが。
「相手の心をもねじつけて共に居ることを強要するなんて、そんなご様子だから恋だの愛だのに縁がないのでは?  隷属系の技をお持ちだと言われるだけありますわね、独りよがりで大変滑稽です……この通り、私には効いておりませんので」
 だが、確かな事実として。星穹はスロースの手を打ち据えて振り払い、自らを侵す呪いなどなかったかのように構え直した。彼女を支えるのは、此処ではない場所に在る絆だ。
「ノクターナさんの動きが鈍いっスね。まだ戦えそうですけど、オレが手出しするのは不味そうっス。……だから、そっちに押し付けるっスよ!」
 ライオリットはノクターナへの攻撃の手を止め、手近なタイン達めがけ一撃を叩き込む。強烈な振動とともに叩き込まれたそれは、近場の数体に致命的な隙を生み、撃破への道を舗装する。
「あなたの攻撃は強烈だし、その魔力は恐ろしい。でも、それは裏を返せば『無理しなければすぐに崩れる』ということだ」
「チっ……!」
 モカの蹴りを、魔力障壁で受け止めようとしたノクターナ。が、その術式は魔力とともに霧散し形にならぬ。鳩尾に痛烈な蹴りを受けた彼女を覆っていた魔力の流れは途絶えた。一瞬であれ、命を削る魔力転換を止め得たといえよう。
「姉様。今の貴女は私と血が繋がっていても背負った名が違う存在です。姉様、貴女が今隣にいるべき方は、本当に後ろの彼なのですか?」
「余計なお世話。彼を守らなければ、私ではいられない」
 シフォリィはノクターナをこの場の誰よりも知っている。アルテロンドの家名から離れてまで得たかった絆を知っている。だからこそ、自分の存在意義を彼以外に縋る姿は見たくなかった。モカの初撃の影響で魔力が散っているとはいえ、その敵意は、指向は、シフォリィを狙っているのは明らかだった。……アルテミアにはそれが、我慢ならない。
「ッ! 貴女が、貴女自身がシフォリィを傷付けちゃいけないでしょう!? 今だって、迷っているくせに!」
「何を根拠に、」
「『聞こえている』からに決まっているでしょう!? いつまでそうやって黙って操られているんですか! またシフォリィに大切な人を喪う経験をさせるつもりですかッ!!」
「全く、強情なところは似ておるようじゃな! 過ちは過ちとして顧みられんのか!」
 アルテミアにはノクターナの心が伝わっている。迷いがあるということも。だからこそ、それを押し殺してまで敵意を向ける意味なんてどこにもないのに。
 クラウジアはその様子に軽く呆れを覚えつつ、己の役割を誤らない。助けると、手伝うといったからには、それを誤れば確かな不義理なのだから。
「巫山戯るな、お前達の甘言で呪いを覆せるわけが」
「自分の魅力ゼロだから催眠効果に頼って女性を隷属させるとか、虚しくなりませんか? ああ、ごめんなさい。非モテな上にコミュ障なブサメンには他に選択肢無いですもんね。美形? いやいや心はブサメンのままですよ」
「ところで、さっきから髪をかきあげる仕草ばっかしてるがよ。それカッコいいと思ってんの? すっっげぇダサいぜ。外見良くなっても行動がそれじゃそりゃモテねぇわな」
「~~~~~~!!」
 崩れかけた呪いの波長は、スロースの感情を揺るがすに足る。もう一度呪いを上書きすれば――そんな希望的観測は、しかし目の前に立つ寛治らを捨て置く理由には程遠かった。目を見開き、わなわなと震えるノクターナの姿は、あと一歩といったところ。そしてスロースと彼女との距離は、物理的なもの以上に遠いということを……気付かされていたはずだ。
「馬はどこまでいっても馬ってことっスね。美形になろうと、呪いがあろうと、馬以上の価値はないっスよ。……オレが言うのもなんでスけど!」
「その容姿でその思考、最初に見たときから本当に不快だった。それでは女にも逃げられるはずだ」
 ライオリットとモカは、最早ノクターナにかかずらうタイミングではなくなっていた。翻ってそれは、グラシュティン達への攻勢に加わることを意味している。倒せる、ということを意味している。
「思い出してください、本当に貴女が愛し、貴女を愛してくれる人の事を! 妹として、私は貴女を、義兄様……イリオスの元に送り届けます!」
「イリオス――私は――」
 シフォリィのダメ押しの言葉を前に、ノクターナは膝をつく。消耗は激しいが、命にかかわる程ではない。そして、『魔力は尽きていない』。
「あー、これはアレじゃな。悲惨な末路しか見えんのじゃが」
「私達に向けられない限りは問題ありません! あと新田さんに当たっても大丈夫です!」
「お待ち下さい。もう契約は成立していますから私をどうにかしてもそれは問題になると思います。気を確かに。私はノクターナ様が無事に戻れるようソリューションを提案しただけであってお二人については正答な対価と存じております」
「貴様ら、俺を差し置いて何を言ってやがる!」
 未だ戦える者が味方についた。その事実とスロースの末路を理解したクラウジアは目を覆った。アルテミアはここぞとばかりに煽りに行く。寛治はこれはまずいと言葉を尽くすが、それが受け入れられるかは別問題だ。そもそも論として、当事者であるスロースが無視されているというのが確実な事実なのだが――。
「お前にこれ以上関わる価値がねえってことだよ。言わなきゃ分からねえか?」
「それでは、私達はこれで。もう追うことも追われることもないでしょう。……ほら、この通り」
 ニコラスと星穹は、心から憐れむようにスロースを一瞥すると素早く交代した。……寛治をさしおいて。
 空から降る星の雨は、古代魔術の再現に等しい。おそらく一線級のイレギュラーズ、しかも術式特化者なら類似のものを再現できようが、如何せん規模が規模だ。おそらくノクターナの怒りが籠もっている。
「おい、待て小娘、お前は俺の」
「私もお暇しましょうか、まだ」
 不幸にも後ろから撃たれてしまった寛治が、姫騎士二人に提案した解決の報酬とは……。

成否

成功

MVP

モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera

状態異常

なし

あとがき

 いうて〇〇虐はなんぼあっても困りませんからね。シリアスのはずなんですけどね。

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