シナリオ詳細
<太陽と月の祝福>いずれは朽ちる定めを破り
オープニング
●むかし、むかし
「まったく、危ないところだったわ。こんなところに火種が潜んでいるなんて!」
吊るされたランタンの中に、小さな炎が燃えている。閉じ込められた小さな灯りが、大樹の枝の上で揺れている。
炎の精霊、ちっぽけな精霊が一匹、妖精の門の入り口で、吊るされて命が尽きるのを待っているのだった。
かわいそうに思えるかもしれないが、この精霊は決して善良じゃない。むしろ、この結末は手ぬるいものですらあったのだ。
気の向くままにあっちこっち、小火(ボヤ)をつけては笑い、逃げ遅れた人々を嗤い、……「面白がっていた」だけで、さしたる悪意はなかったが、結果だけ見れば人が死んでいた。罪のない子供も、老人も……。炎の前では等しく燃えた。
それで、その悪しき精霊は、とある旅人のランプにしのびこみ、深緑に入ってみようとして、とっつかまってこのざまである。
だって、見てみたかったのだ。だって、妖精たちは口々に言うじゃあないか――じぶんの故郷は、どんなふうに素敵なところなのかって。
だって、燃やしてみたかったじゃないか!
ランタンの口はふさがれていた。
このまま、酸素が燃え尽きれば消えてしまうだろう。
ああ、炎の精霊にとってはそんなことはどうでもよかった。怖いのは静寂と闇だった。……そうしたら、自分を誰も見てくれなくなるということだけだった。
忘れないで、忘れないで、忘れないで……。
精霊のすすり泣くような声は、朝になって、燃え尽きるまで聞こえていましたとさ。
『ファルカウ今昔――「ランタンのよこしまな精霊』より
●ファルカウ中層部
妖精たちの楽器は繊細で美しく、それで――燃えないようにはできていない。
大樹ファルカウの中層部には、祈りをささげるための神具をしまう倉庫があった。ここはその一角、音楽をささげるための楽器倉庫だ。あちこちに飛び散った火の粉を浴びて、今や焼け落ちようとしている。
「うろたえるな! あいつはこっちを見てない」
自分よりもずいぶんと背の高い神官たちまでも引き連れ、先頭を行くのは、見た目だけならば少年と変わらないすがたの、エールトベーレ=キルシュであった。この中で一番、落ち着いている。
神具の調整、調律を得意とする聖職者であり、キルシュ家の長男。キルシェ=キルシュ(p3p009805)の兄である。
倉庫の神具を襲撃から守り、そしてまた逃げ遅れた仲間たちを救うために、果敢にもこの場所に居続けていた。
ブオオオオオーーー。
「ヒハアアアハハ! どれもこれも、安い安い安い!」
炎がいる。生きた炎がげたげたと笑い声をあげている。
それは、シェームの眷属と呼ばれる存在だ。目の覚めるような爆音が響き渡り、炎が持ったハープからは炎が噴き出していた。耐えかね、繊細なハープがばきりと音を立てて壊れる。
首をひねったフレイム・イーターは、新たなおもちゃを探すようにあたりを見回す。
そいつは、ただ興味の惹かれるがままにやってきたにすぎない。精霊種には興味がなかった。とはいえ、いつ、逃げ遅れた仲間たちが燃やされてしまうか……。
「ベーレ様、いかがいたしましょう」
ベーレに泣き言を言ったら平手が飛んでくるのは間違いない。涙声ではあったが、それでもこの非常事態の割には周りの者は落ち着き払っていた。ひとえに、ベーレの存在で。
「……落ち着け。手はある」
自分があれの注意を、うまくひければいい……。
身を隠していたベーレのそばに、古びたバグパイプがあった。
「……これは」
それはまだ、ベーレが神職についたばかりのころのことである。ぼろぼろの楽器を前に、神官たちがああでもない、こうでもないと言い合っていた。
見れば、そこには半ば朽ちているバグパイプがおいてあったのだ。これを修理するだの無理だのという議論をしていたらしい。つついただけでばらばらになりそうな具合だったが……。不思議と、ベーレにはまだそれが音を鳴らしたがっている、役目を全うしたがっていると感じられたのだ。
ベーレはそいつを任せてもらえないか、と頼むと、バグパイプを時間をかけて修理した。
見事、バグパイプは命を吹き返し、軽快な音を鳴らし人々の心を癒したのだった。
「なんでここに?」
長い時を経た今。そのバグパイプは永らえた寿命を使い果たし、倉庫の中に眠っていた。土に返してやろう、もはや修理はかなわないだろう。そういう話になっていたのだが……。
また、ベーレは何かを感じ取った。
ここが最後だ、と。
自分がアレを引き留める、と。
ベーレは限られた時間で調律を始める。めいっぱいの音量が鳴るように。あいつが気に入るような爆音を奏でるように……。あたりを見回し、おもちゃを物色していたフレイム・イーターはバグパイプを受け取った。
「よ、ヨ、よい音だなぁーーーっ!」
- <太陽と月の祝福>いずれは朽ちる定めを破り完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年06月29日 22時11分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●ド派手にいこうぜ!
「ベーレ兄さま!! 神官さんたちも……良かった……無事だったのね……!」
『桜花の決意』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は安堵で瞳を潤ませたが、きゅっとじぶんの手の平を握った。
それから、兄ベーレに向きなおる。
「みんなが手伝ってくれるから、今の間に神官さんたちと神具を安全な場所に!
敵さんはルシェたちが引き付けておくし、バグパイプさんが、頑張ってくれているから」
べーレは言葉を継げなくなった。「安全な場所へ」、と言いかけた口をつぐみ、ただ「わかった」とだけ返事する。
気丈にふるまってはいるが、キルシェは怖かった。
(本当は、すぐにでもぎゅってして欲しいけど)
けれども今は、壊れた神具や、みんなが助けを待っている……。
「まもりたいです」
『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)は言った。それはキルシェを勇気づけようとするものというよりは、自分に対する決意のような響きだ。そう、守りたい。守りたいのだとキルシェは思う。入りすぎていた肩の力が、少しだけ抜ける。
「キルシェ様のお兄様も、逃げ残ってしまった人たちも、楽器も
みんなみんな、まもりたい
楽器がつないでくれたもの、まもってくれたもの
ニルもちゃんと、まもりたい。ニルはかなしいのはいやなのです」
「うん……。出来るだけ早く敵さん倒すから、バグパイプさん、もう少しだけ頑張って!」
「まま、なるようになるってね」
『イケるか?イケるな!イクぞぉーッ!』コラバポス 夏子(p3p000808)の爆裂音が闇を劈く。その音は楽器の音よりも数段は派手でクレイジーだ。
フレイム・イーターは闖入者の気配を察し、向きを変える。
ニヤケた笑みは引っ込んだ。最大火力だと思っていた音に続いて、より、けたたましい音が鳴り響いたからだ。
「うんウチの隊にも居るんよその~燃やしたガールのアカツキんちゃんが」
夏子はヘラヘラ笑って、また閃光をたたきつける。
夏子の攻撃の派手さは、攻撃的なフレイム・イーターのものとは性質が違うものだ。イーターの吐き出した炎が燃え盛って柱が折れる。
悲痛な音を立てて崩れ落ちようとした、その光景は在りし日のものに似ている。
「あぁー、燃えてますねー。夕焼け空みたい。
でもテメェみたいなクソ野郎に夕焼けを表現してほしくはないんですよねぇ。
……私や兄弟を侮辱されてるような気がして」
『夕焼けに立つヒト』エーミール・アーベントロート(p3p009344)の瞳は、鋭利な剣のようだった。皮肉げに唇の端をゆがめてイーターを見る。
「大丈夫ですか、ルビーさん」
「うん、救助は私に任せて。こういう時に力を発揮するのがヒーロー!」
『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)は素早くスカーフで口元を多い、崩れる柱の下に駆けていった。
ギア・ゼロが際限なくルビーを加速させ、もう間に合わないはずの、「絶対に無理」な位置にいた精霊種を抱きとめた。
それでも降り注ぐ火の粉であったが、『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)の冷気が炎を食い止めた。
「派手にやらかしてくれるじゃねぇか。なあ。そろそろ眠る時間ってことだ」
「AAAAA!」
イーターは金切り声を上げた。それすらも凌駕して、カイトは魔弾を向ける。
「そろそろ、ここでピリオドだ」
カイトの言葉は、きっとあのバグパイプに向いていたのだろう。最後の一撃を。墓標を。
「あーね。忘れられる事は無いかも知れんけども
派手な上に解決しちゃう我々来ちゃって
覚えられてるのはコッチの勇姿ばっかだよ」
夏子はにいっと笑って、それからぽんとまた閃光を放り投げる。
「多分」
まばゆい光にまみれて、相手の無為な咆哮は土煙に紛れていく。緩急がダイジ、というやつだ。怒鳴りたてるだけでは波には乗れない。
「忘れないで、か。なんだか気持ちがわかる気がします。派手なのが好きなのもそのためなんでしょうか?」
「古い物には魂が宿る。俺としても馬鹿にできない言葉だけれど
ここにいる楽器たちも皆そういう物になる可能性のある物達なんじゃないかな」
『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)は相対するイーターに、『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は楽器たちに。二人は、互いに背中を預けながらそれぞれを見つめていた。
「それならここで燃やさせるわけにはいかないよね
神具も人も全員救出して、あの眷属を倒して終わろう!」
「ンマー派手好きなのは俺も一緒だ
許される存在じゃねぇだろけど」
夏子はばーんと見得を切った。背後でとどろく爆発音。
「手向けだ
精々派手に傾いたる」
●静かに、かつ、迅速に
エーミールはちょうどがれきの隙間に挟まった幻想種を見つけ出す。敵よりも、人命を優先した結果だった。
後ろでも火の手があがってはいるが……。追いかけていくイーターは今はそれどころではなかった。
「さーってと、バグパイプくんは……」
夏子はイーターが手に持った楽器を眺める。もうすっかり年老いていて、けれどもぽふ、とまだ息を吐く。まだまだいける、というように。
「よし、んならオッケー、セッションだ」
夏子は、空き缶を放り投げる。
「一緒にヤんぞぉオラぁー!」
きらめく閃光爆裂音。ここが市街地で、日常だったら、ご近所迷惑この上なく、ありえないほどうるさい、人の神経をさかさまに撫でるその音は、けれどもどこか愉快だ。
燃え盛る炎を浴びて、それでもなおひかない。
「夏子お兄さん……っ!」
「夏子様、とってもとってもかっこいいのです……!」
「はっは。やる気出るじゃんね?」
キルシェとニルの応援を背に、なお一層、夏子の火花が燃え盛る。横に薙いだ。悲痛でしかないイーターの演奏を、どこか楽しそうにアレンジすらしてやる。
「派手好きなんだって? 奇遇だねぇ 俺もなんだぁ~」
バババババ、という派手で苛烈な音が、炎を薙ぎ払っていくのだった。酸素を奪い、セリフを奪い、相手の爆発を線香花火のようにぼとりと落としてやる。ごふっと煙を吐いた。
「およよ? 随分お静かですねぇ~ 燃え方も地味みたいだぁ……どうしたよぉ? 閃光は? 爆音は? どっちも派手さが足りなくねぇか~!?」
夏子がひきつけた位置は、ちょうど誰もいない壁際で……やるべきことがわかったので、キルシェはうなずいて、福音を紡いで傷を癒した。
イーターの派手な爆発は、あたりを崩すことはなかった。うまいことキルシェの保護結界が効いている。エーミールはよく見ていたし、考えていた。救助対象の位置を見失うことはない。
「大丈夫ですか? 立てますか?」
吹き飛ばされ、軽いやけどを負いながらも、手放すことのなかったフルートを持たせてやる。
「ありがとう。でも、自分の身も大切に」
誰か、いや、「何か」の言葉を代弁するように、ヴェルグリーズは続けて言ったのだった。
「なんとか、まだ、もちそうですね」
鏡禍は煙の中で目を凝らす。服で口元を覆いながら、こんど攻撃をはじいたのはニルの保護結界だった。
部屋の中央の大物はピアノ。
あの大きなピアノはあとでいい。まずは人から、と、鏡禍は倒れた幻想種の手を取り引き寄せた。幻想種の折りたたまれた薄い羽根のすれすれを燃える円柱がかすめたが、エーミールが割り込んでそれを引き継いだ。
「させるかよ。こちらの方を!」
「りょーかい!」
ぐんぐんと加速するルビーが、エーミールから受け取った一人を担ぎ出していった。
よい連携だった。鏡禍は戦場を俯瞰していていてほしい位置にいるし、エーミールは逃げ遅れたものを見逃さない。ルビーは「それじゃ! 次」と、何度でも戦場に舞い戻っていった。熱で色あせることはなく、輝くように舞うルビーを、助けられた幻想種は、のちに「きらきらした、赤い蝶のようだった」と述べた。
「夏子お兄さん、大変だと思うけど、ルシェも回復頑張るから頑張って耐えてね」
「おう、まかしときっ」
●両手いっぱいに、できるだけ多くを
崩れてきた天井。
なんとか、と楽器を救おうとしていた精霊種が悲鳴を上げる。しかし、心配はいらなかった。こんどはエーミールの保護結界が、彼女と巨大なピアノを守ったのだ。
煙にまかれて見えなくなっても、エーミールは場所を把握していた。
エーミールの眼はたしかだった。運び出すためには順番が必要だった。まずは人命、次に助けられる楽器……燃えにくそうなものを残しておいた。ぎりぎりの状況下で、最大限のものを救えるように。そして、言うまでもなく仲間にはそれに応えるだけの器量があった。
「ルビーさん。こちら、いけますか?」
「まーかせてよ!」
ルビーもまた、その体躯に似合わぬほどの力でピアノを持ち上げる。ヒーローは、こんなところではくじけたりはしない……。
(このピアノだって、あのバグパイプみたいに意思が宿ったり、一つ一つに作った人使った人たちの思いが込められてるんだろうしね)
「こういうのはコツがあるから大丈夫……多分!」
大丈夫にする、と、ルビーはにっこり笑ってみせた。
エーミールの視界の外、零れ落ちたあれは……。神具ではない、練習用の木彫りの楽器だろうか。魂がこもったものではない未完成の楽器。……それでも、感情は燃える。
――研究で「失敗作」と扱われた兄弟達。
皆、燃えて死んだ事を思い出す。
(もし私も「失敗作」だとわかったら、私も、同じように死んでいた……)
「アアアアア! 死ね死ね死ね!」
イーターが叫んでいる。死ね、と?
(私は、死は怖くはない。
けれど私は、失敗作の烙印を押され燃やされるのだけは勘弁願いたい)
「だから、俺は」
エーミールは構える。
失敗しない。絶対に成功してみせるのだ、と。
その結果、ここにいるのだと。
「はい、到着っ! っとね」
ルビーが元気よく飛び跳ねた。
「ああ、あれがニル殿の馬車だ。さあ、次はハープか。どうだろう」
ヴェルグリーズは瓦礫を断ち切り、巨大な楽器をひっぱりあげる。
「夏子さん、まだいけますか」
夏子はせき込みながらも、煙の中で親指を立てていたが、思い切り横にとんだ。逃げ遅れた一人を助けるためだ。イーターの攻撃が直撃しそうになった……そのとき。
アシカールパンツァーが闇をつんざいた。キルシェだった。鏡禍はそのすきに、懐から何かをぶん投げる。
「ぶあっ!? なんだあこりゃあ!?」
「派手なのが好きなんですよね? こういう派手さはいかがでしょうか!」
七色、いや、それ以上の1680万色にはじけるゲーミング林檎を投げつける。リンゴの香りは笑っちゃうくらい甘やかで。
「派手さに自信はあります、何せゲーミングですからね」
「ヒ、ヒイーーーッ」
何が起こったかわからず固まったイーターは、それからゲラゲラと笑い始めた。摘まみ上げたその手を、鏡禍の黒鉄が打ちのめした。
鏡は、破壊の炎を映さなかった。狂気に染まりもしない。ただそこにあるだけ、だ。
「っとっと、あんがと、派手に助けてしまったなぁ!」
「ニルお兄さん……っ、応援お願いします」
うなずいて、ニルは妖精の木馬を送り出す。
ルリルリィ・ルリルラ。美しいキャロルは、楽しい音を奏でる。
「アアくそこの音は、音はァ……!」
ニルの降らせるダイヤモンドダストが、イーターの足元を凍り付かせた。鈍く鈍く、スピードが出ない。
ラースゴブレットに、たっぷりの魔力を注いで。ニルは、こくりと飲み干した。魔力が一点を指し示す。
フルルーンブラスターがイーターを貫いた。
「お待たせしたわね。今度こそ敵さん倒すのよ!」
「ルシェ!」
「ア、アアアア、燃えない。燃え……」
優しく降り注ぐ慈しみの雨が、仲間たちを包み込む。まだ立てる。
「うん、大事な神具たちこんな風に傷つけた分一発ルシェも殴るのよ! 反省しなさい!」
「それはとっておけ、ルシェ」
と、ベーレが代わりに一撃を食らわせた。
「ベーレ兄さまの一撃、凄く痛そうな音がしたわ……!」
ぱちぱちとキルシェは瞬いた。
「はい。ということでその汚いご尊顔をたっぷりぶん殴って差し上げますから、逃さねぇぞコラァ」
エーミールは彗星のように飛び出して、横っ面を張り倒した。
これで、救助対象は全員……。
いや、まだひとつ。
「そろそろバグ・パイプを取り上げた方がいいかな」
黒顎魔王がイーターの輪郭をえぐる。閉じ込められていた影のようなものに、ヴェルグリーズはおいで、とつぶやいた。
音はかすれて、小さく。もはや原形をとどめていない。
(あれも神具なのには変わりないし……それに、あれからは一種の意思を感じる。役目を終えたのであれば早く教えてあげないと、無理をしているのは目に見ているからね)
それでもその手は楽器を手放さないとしがみついているから。なら、断ち切ってあげよう、と、両刃の刃がきらめいた。光輝の神々廻剱皇に、剣守皇が揺れた。
「お疲れ様バグ・パイプくん、あとは俺達に任せてキミは休むといいよ」
「アアアアア!」
ヴェルグリーズの手によってバグ・パイプが離れる。
「勝手に燃える分には結構だけれどね、他の人や物を巻き込むのはいただけない
お望み通りここで燃え尽きさせてしまおうか」
イーターが燃える。
(お待ちかねのクソ野郎斬殺コーナー!)
エーミールは飛び出す。ああ、火傷なんて怖くはない。身を焦がす炎だって。なんだって、今は怖くはない。
「オマエ……!」
燃やす。燃やす。燃やし尽くす。空気を全部一呼吸ぶんたりとも与えてなるものか、という気迫でエーミールはイーターに迫る。
「本当に、本当に! あぁ、本当に!
その炎を見てると腹立たしい!
太陽と月の中間に位置するような、夕焼けを彩るような炎! 大っ嫌いだ!!」
エーミールの脳裏に、在りし日の光景が浮かぶのだ。元の世界でアーベントロートの名を貰ったときのことを思い出した。
イーターに、腕をつかまれた。けれども、ただ、エーミールは不敵に笑うだけだ。
「怖くないのか、オメェはよぉ!」
「自分の死なんか怖くないさ。ああ、一度たりとも怖いと思ったことはない!」
燃え盛る炎。
怒り。悲しみ。憤り?
イーターは見つめる。
それはまた純粋できれいだった。イーターは思う。輝いていた。
彼らは輝いている。その違いはなんなのか。音か。歌か。派手さか?
ほしい。きれいな音が。音色が。欲に任せて息を吸っていると、夏子が割り込んでくる。
「自分勝手にヤってるだけじゃ 誰も見てくれやしねーよ」
何が足りない?
きらり、宝石が落ちてくる。炎をも恐れぬ姿だった。敗れざる英霊。燃やせない、この存在を。ただきらめかせることしかできない。
「炎は燃えてこそかもしれないし、炎の精霊である貴方にとって燃やすことは存在意義なのかもしれない。でも、燃やされて困る事だって世の中にはあるの」
ルビーは加速する、ぐんぐんと加速する。
スーパーノヴァ。半身はすでに吹き飛んでいる。
「何時だって自分の事だけ考えてそれ以外を無視するような振る舞いをすると、こうやって懲らしめられることになるんだからね」
純粋とも呼べるような、エーミールの戦いぶりに……ああ、と、イーターは戦いを経て思った。
「そう」なのかと。
生れ落ちて邪悪で、反省などしたことがなかった。生の最後、燃え尽きる瞬間に自身を上回る熱を浴びて、ただ思ったのだ。
改心することはない。そういう存在として生まれたから。この運命だからこそ思った。わかったのだ。
おぼろげに、自分には何かが足りなかったのだと。
●燃え尽きる刹那
「花火とか知らんか?」
「ハナ……ビィ?」
そうそう、と夏子は小さな口笛を吹いた。ピュロロロロロ~~~、ドン。
それはそれは小さな爆発で、戦いの音なんぞに比べたらちっぽけな音である。
けれどもイーターはそれがおかしくて笑い始めた。
「本物には遠く及ばんが
コレより派手で鯔背なモンは知らねぇよ」
「ハ、ハハハハ。アーッハッハッハ!」
「次生まれてきたら 自分意外を喜ばせて そんで覚えて貰えよな」
「下がって」
ヴェルグリーズが警告する。鏡禍は夏子に手を差し伸べた。
どかん、と舞い上がっていったイーターは膨張し、それから爆発する。
「こんなに派手に燃え盛って忘れようにも忘れられないですよ
でももっといい方法もあったのかもしれないのに」
鏡禍はただ、見送るために空を見上げる。
「まぁ俺は今日のこと覚えてる かもな」
「おわ、ったー!」
どかんと倒れる夏子の髪は、少しばかりぷすぷすと煙を上げていた。
「バグパイプさん……有難う」
キルシェは、灰になった楽器に話しかけた。
「バグパイプさんのお陰でみんな無事よ
ゆっくり休んでね」
「ありがとうございます。お疲れ様」
その声をかけられた瞬間、バグパイプの灰は風にまかれていく。
「壊れてしまった楽器も、直せばなんとかなるものがあるかも?」
と、ニルは破片をひとつひとつ丁寧に拾っていく。
「キルシェ様のお兄様、無事でよかったですね
家族、はだいじなのです」
ニルはふわりとほほ笑んだ。
「はい、だいじなお兄様です」
「今はそんな場合じゃないかもですけど
全部終わったら、楽器の演奏聞きたいです。
だから、そのためにも、がんばらなくっちゃ
早く穏やかな時間が戻ってくるように」
楽器の調律が必要だとベーレが言って、ルシェが恥ずかしそうに歌いだした。ニルも歌声を重ねていった。深いけがを負っていない幻想種が一人また一人と演奏に加わる。
エーミールは瞑目した。
いつかは、万全の演奏も聞けることだろう。
イレギュラーズたちが救いあげたものたちが、歌い、響いていく。どこまでもどこまでも、空に吸い込まれていった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
楽器の救出&人名救助、お疲れさまでした!
イーターもきっと本懐を遂げたことでしょう。
GMコメント
おさないかけないしゃべらない!
布川です。
みなさんはたくさんしゃべってください。
●目標
・逃げ遅れた幻想種の救出
・シェームの眷属「フレイム・イーター」の討伐
●敵
シェームの眷属「フレイム・イーター」
「ここで燃え尽きる運命(さだめ)だぜ! 目いっぱいのソウルを聞かせてくれよ!」
派手に燃えている人影です。火球の中には、よく見ると古びたランプの影があります。
ー装備品「神具」バグ・ヴァイオレット
古びたバグパイプです。フレイム・イーターに空気を送り込み、強く燃やしています。興味を引いて、時間を稼いでいるように……。なぜか燃え尽きていません。きっと役目を終えるまでは……。
・<この身燃え尽きるまで!>
フレイム・イーターは燃やせば燃やすほど攻撃力が上がり、防御力が下がります。燃やし続ければ、毎ターン体力を失います。燃焼を止めれば攻撃力は上がりませんが、体力を失うこともありません。
・<ヒャッハー!>
フレイム・イーターは、「派手なもの・音が出るもの」がより素晴らしいと思っており、現状、それ以外には興味がないようです。そういったものを優先して攻撃します。
おかげで逃げ遅れた幻想種たちは無事でもあるわけですが、弱者に対するいたわりはありません。興味がないだけです。
・<俺を忘れるな!>
体力が3割以下になると焦りだし、数ターン後、捨て身の攻撃を行う傾向があります。
●状況
神具を気にして、逃げ遅れた幻想種が10名ほどいるようです。煙を吸い込んで気絶していたり、動けなかったり、さまざまです。
火災が起きています。フレイム・イーターの気を引いて避難させる必要があるでしょう。
また、いくらか楽器が残っています。こちらについては人命よりも優先させるものではないでしょうが、できれば救ってやりたいものです。
ピアノなど重い楽器もあります。妖精さんにはちょっと重いぜ……。
●味方
エールトベーレ=キルシュ
キルシュ家の長男であり、キルシェ様のお兄様です。
通称ベーレさん。
この状況にも動じず、的確に指揮を執り仲間と神具の撤退を行っているようです。指示がなければ支援活動を行ってくれることでしょう。
3桁年齢の割に見た目が幼いのが悩み。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
Tweet