シナリオ詳細
<太陽と月の祝福>怠惰の獅子王。或いは、戦意滾る獅子の戦場…。
オープニング
●楽しくも忌まわしい日々
深緑。
大樹ファルカウの下層。
逃げ惑う幻想種たちを視界にもいれず、業火の中をゆっくりと歩む者がいた。
長身痩躯に白銀色の鎧を纏った、厳めしい顔つきの獅子だ。
熱波に踊るたてがみは金。
つまらなそうな顔をして彼……獅子王は剣を振るう。
一閃。
疾風が業火を断ち斬った。
飛び散る火の粉を浴びながら、獅子王は空へと雄叫びをあげる。
びりびりと空気が震え、威圧された幻想種たちがその場に倒れた。ある者は【重圧】を受けて身を震わせて、ある者はあまりの恐怖に【混乱】し、またある者は【苦鳴】を零して蹲る。
【炎獄】に飲まれた幻想種たちが、悲鳴をあげて焼け死んでいく。
嗚咽、悲鳴、絶叫、慟哭。
怨嗟の声を聞きながら、怠惰の魔種、獅子王は業火の中で目を閉じた。
白銀の大剣を地面に突き立て、大盾を背に負い、彼はただそこに立っていた。
「懐かしい……遥か昔、俺と仲間たちが駆け抜けた戦場は、どこもこんな風だった」
燃える大地を、仲間と共に駆け抜けた。
大剣を掲げ、吠え猛る獅子王の後ろには、100を超える部下が続いた。
彼らは皆、一騎当千の兵だった。
その先頭に立つ獅子王は、常勝無敗の戦神と讃えられていた。
けれど、もはや部下たちはいない。
ある時、獅子王は戦に敗れ、部下たちは全員が命を落とした。
古い記憶だ。
思い出したくなくて、忘れ去ってしまいたくて、長い年月をただ眠り続けて過ごした。
「けれど、思い出してしまった。1度は脱いだ鎧は再び我が身を包み、置いたはずの剣と盾は不思議としっかり手に馴染む。まるであの頃に戻ったようだ」
なんて。
燃えるファルカウの片隅で、獅子王の独白は続く。
イレギュラーズ。
眠っていた獅子王を起こし、再び戦場へと駆り立てた者たちの名だ。
「カロンよ。感謝する……長き怠惰の果てに、俺は再び戦場に戻った」
●獅子王の戦場
「さて、状況はかなり逼迫してるっす。まぁ、こんなにあちこち燃えてるし、一目瞭然っすよね」
そう言ってイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は疲労困憊といった様子で溜め息を吐いた。
大樹ファルカウの攻略に向け、情報収集に駆けまわっていたのだろう。
「皆さんに向かってもらうのは、ファルカウの下層、とくに炎の激しい区画っす。炎をどうにかしないと、大樹が燃え尽きかねないっすからね」
ましてや、火炎の中央で待ち構えているのは怠惰の魔種だ。
放置しておく理由は無い。
「怠惰の獅子王……便宜上、あいつのことはそう呼ぶっすよ」
長身痩躯の獅子である。
白銀色の鎧を纏い、大剣と大盾を装備したいかにも騎士らしい出で立ちだ。
空気を震わす咆哮には【重圧】【混乱】【苦鳴】の効果が。
大剣による一撃には【必殺】【滂沱】が。
大盾によるシールドバッシュには【ブレイク】【飛】が。
そして、身に纏う鎧には【BS無効】【反】が付与されている。
「【炎獄】の中にターゲットは1人。大樹ファルカウへの侵攻作戦の折、1度、イレギュラーズと交戦しているっすね。その際に何か感じるものがあったんでしょう……彼はイレギュラーズと戦いたがっているみたいっす」
獅子王の周囲には誰もいない。
幻想種たちは皆、逃げ去るか、焼けて死ぬかした後だ。
「今はじっとしたまま動いていないっすけど……イレギュラーズを見かけたら、襲い掛かってくるかもしれないっす。他の戦場に無用な邪魔が入らないよう、皆さんには獅子王の相手をお願いしたいっす」
と、そう言って。
イフタフは、獅子王の居場所を記した1枚の地図を差し出した。
- <太陽と月の祝福>怠惰の獅子王。或いは、戦意滾る獅子の戦場…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年06月28日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●業火の中の目覚め
炎が踊る。
たてがみが靡く。
聞こえていた無数の悲鳴は、いつの間にか途絶えていた。
業火の先に、ひとの気配。
閉じていた目を開け、気配の方向へと視線を向ける。
数が多い。
武装している者特有の足音も聞こえる。
彼ら……イレギュラーズだ。
遥か昔に失っていた戦意に火を灯してくれた存在たちだ。
懐かしい戦場の気配。
強敵を相手に、盾と剣を手に挑みかかる高揚感。
もう2度と思い出すことは無いはずだった戦場の記憶。
立つことは無いと思っていた戦の地。
「もう1度。もう1度、あの場所へ」
1歩。
足を踏み出せば、武威に押されて炎の壁が2つに割れた。
「やる気無さそうな魔種やら、変な性質のモンスターばっかりで、今回は楽しいのは竜で終わりかと思ってたが……いるじゃないのさ、丁度良いのが」
逃げも隠れもせずに立つ、8つの影がそこにある。
先に声をあげたのは、戦斧を手にした黒髪の女丈夫であった。
『暴風暴威』リズリー・クレイグ(p3p008130)の顔立ちと、その装備には覚えがある。
「先に名乗られてしまったな。我は獅子王。貴様、ベルゼルガの者か?」
そう問うた獅子王は、盾を前に突き出して、剣を腰の位置へと構えた。
戦闘の姿勢を整えるのに、かかった時間はほんの一瞬。
慣れているのだ。
『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)と『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が、咄嗟に腰を低くする。
「戦場にしか生きる楽しみを見いだせなかった獅子王、か」
「いざ、怠惰陣営が獅子王殿! お相手願う!」
得物を抜いた2人を見やり、獅子王は狂暴な笑みを浮かべた。
咆哮が森を激しく揺らす。
大音声に煽られて、ごうと火炎が舞い踊る。
小手先調べの牽制だが、獅子王がかつて渡り歩いた戦場においては、最も有効な初手でもあった。ウォークライを一たび浴びれば、雑兵どもは勝手に道を開けるからだ。
そこで逃げずに挑んでくるのは、いずれも決まって強者ばかり。
やはり戦うのであれば、一騎当千の猛者を相手にした方が愉しい。
そして、獅子王はそんな猛者たちを悉く退けて来た。
「その意気や良し! ……と言いたいところだが、些か軽いな」
一閃。
剣を薙ぎ、獅子王は『竜交』笹木 花丸(p3p008689)の拳を捌く。
「やっぱり強敵…だけど、だからって引いてなんていられないよっ!」
次いでの殴打は、鎧の肩で受け止められる。
見えているかのような動きだ。
否、きっと獅子王は花丸の攻撃を“知って”いたのだ。
かつて渡り歩いた戦場で、花丸のような動きをする者がいたのだろう。
咆哮が火炎を揺らす。
ビリビリとした衝撃が『医神の傲慢』松元 聖霊(p3p008208)の脳を揺らした。
「っ……何が王だ、笑わせる。この地をこんなにして、多くの生命を奪ってよ」
炎の中に、焼け焦げた誰かの遺体が見えた。
身体を丸めた小さな遺体だ。
きっと子供のものだろう。
「気に入らねぇな。それとも何か? お前の言う王ってのは人殺しのクソ野郎を指す言葉なのか? だったら間違いなくてめぇは王だよクソッタレ!」
歯を食いしばり、杖を掲げた。
吹きすさぶ燐光が火炎を散らす。
降り注いだ燐光が『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)の身体を包んだ。
「やれやれ、デカブツが相手かい」
唇から伝う血を拭い、コルネリアは銃を構えた。
総弾数5発の大口径リボルバー。
化け物染みた威力と引き換えに、反動も並みの者では扱えない。なぜ造った、と誰もが口を揃えてそう称したとも言われている。
「如何にも騎士ってナリしてるが未練でもあるってわけかい、今この土地はアンタの欲望晴らす場所じゃねえのよ、ぶち抜いてどかしてやらぁな」
「……冬の王に嵐の王、夜の王とこのトコロ深緑には王を関する輩が多いですね。タイミングを合わせてください。3……2……」
花丸が獅子王の剣を受け止める。
その隙を突いて、エーレンとヴェルグリーズが左右へ展開。
左右からの同時攻撃は、鎧の肩と盾で受け止められた。
金属同士がぶつかる轟音。
「今っ!」
『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)の号令に従って、コルネリアは銃のトリガーを引く。
銃声。
1発の弾丸が、獅子王の胸部を撃った。
鎧がへこむ。
衝撃は内部へと突き抜けて、多少のダメージは与えたか。
「飛び道具か。戦の形も変わったということか」
一瞬、獅子王の視線がコルネリアへ向いた。
直後、銃弾と同じ軌道を描いて蒼い斬撃が獅子王を襲う。
「おぉ! 飛ぶ斬撃を操るか!」
1歩、獅子王は脚を前へと踏み込んだ。
力を込めた腕の筋肉が隆起する。
剣を抑える花丸を、シールドバッシュで吹き飛ばす。
大上段から剣を一閃。
飛ぶ斬撃を打ち落とす。
銃弾に続いて、花丸の拳、そしてドラマの斬撃。
続けざまに3つの攻撃を捌き切った獅子王の戦闘技術は高い。
だが、技術だけでは補いきれない瞬間というものは、必ず訪れるものだ。
「力の誇示ならば充分過去が証明したはずです。独りで戦場に立ち、勝つ事に何の意味がありましよう?」
業火の中に身を隠し『シロツメクサの花冠』ジュリエット・フォン・イーリス(p3p008823)はこの瞬間を待っていた。
「……手が足りんな」
空を疾駆する魔弾が1つ……獅子王の眉間を撃ち抜いた。
●栄光の時
額から流れる血を舐めて、獅子王はくっくと肩を揺らした。
傷の痛みも、血の味も、盾を伝う衝撃も、弾かれた敵の漏らす苦悶の声も、どれもこれも懐かしい。
「だがこの程度ではなぁ! さぁ、皆共、反げ……」
盾を前へと突き出し吠える。
後ろへ続く仲間たちへと号令をかけ、そこで獅子王は思い出した。
既に自分は1人きり。
遥か昔に率いた仲間は、もはや1人もいないことに。
背に続く一騎当千、万夫不当の猛者たちは、既にこの世にいないことに。
「……否、まだ我がいる」
寂しさを感じないわけではないが。
1人きりでも、戦は出来る。
「おぉっ!」
大上段から叩きつける斬撃が、リズリーの胸を深く抉った。
血飛沫が散った。
胸部を裂かれたリズリーは、血を吐きながら獣のような笑みを浮かべる。
「はっ……悪くねえ、戦ろうぜ王サマ」
振り上げた斧が、盾によって弾かれた。
構わずリズリーは前へ。
獅子王に肉薄すると、弾かれた斧を強引に前へと振り抜いた。
剣と斧とが衝突し、獅子王の動きが一瞬止まる。
一瞬だ。
獅子王は叩きつけるように剣を1撃、2撃……その度に、リズリーの肩や腕に裂傷が走る。
左右から迫るエーレンとヴェルグリーズの攻撃を、鎧と盾でいなしながら、獅子王は前進を開始した。
それは何度目の斬撃だったか。
盾で眉間を殴打され、リズリーは意識を手放した。
【パンドラ】を消費したリズリーを、ヴェルグリーズが引き摺って行く。
代わりに前へ出たのは花丸とエーレン。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。……尋常にお相手願う」
下段より放たれるエーレンの剣が、獅子王の鎧に裂傷を刻む。
がら空きになったエーレンの頭部へ向けて、獅子王は剣を振り下ろした。
「っ!?」
横合いから飛び出した花丸が、盾で獅子王の剣を防ぐ。
剣を握る手に衝撃が走り、獅子王は僅かに顔をしかめた。
「いい盾だ。しかし……どうあっても前へ進ませぬつもりか」
「動きを抑え、距離を取って攻撃するのが一番だから……ねっ!」
盾に添えた拳を振り抜き、花丸は獅子王の剣を弾いた。
咄嗟に獅子王は盾を握る手に力を込めたが、ジュリエットの魔弾がそれを阻む。
遠距離からの攻撃は、獅子王の不得手とするものだ。
「力の誇示ならば充分過去が証明したはずです。独りで戦場に立ち、勝つ事に何の意味がありましよう?」
盾を持つ手が、ギシと軋んだ音を鳴らした。
歪む空間が、騎士王の腕を締め上げる。
一瞬、獅子王の意識がジュリエットへと向いた。
その隙を突いて、蒼い光が疾駆する。
否、それは蒼く輝く剣を握ったドラマであった。
剣も盾も間に合わない。
「だが、我が鎧は貫けん」
「いいえ。それでは私の剣は防げませんよ」
白銀に光る鎧の腹に、蒼く輝くドラマの剣が突き刺さる。
一瞬、眩い閃光が散った。
金属の砕ける音が鳴り響き……獅子王の腹に、ドラマの剣が突き刺さる。
口の端から血を吐いて、獅子王は目を見開いた。
それから、彼は獣の笑みを深くする。
「やはり貴様ら、強者揃いだ」
大上段から振るった剣が、ドラマの肩から腹にかけてを斬り裂いた。
咆哮が響く。
血を吐きながらも獅子王は剣を振り回す。
花丸の腹を斬り裂いて、エーレンの身体を盾で後方へと弾く。
無傷での勝利は望めないと知ったのだろう。
ジュリエットの魔弾を浴びて、たてがみは血に濡れている。
「あーあぁ。こっち来やがった。頼んだよ聖霊、アンタの癒しが頼りだ。ツーマンセルでいく、アンタへ攻撃はアタシが通さない」
「回復の代わりといってはなんだけど、近くにいる時くらいは守らせてほしいかな」
刀を手にしたヴェルグリーズが駆け出した。
コルネリアは、腰の位置に構えたガトリング砲のトリガーを押し込む。
銃弾の雨と、黒き魔力を纏う斬撃。
それらを盾と鎧で受けて、獅子王は再び咆哮を放つ。
「っ……無理はすんなよ、絶対に治してやるから」
リズリーの治療はもうすぐ終わる。
血塗れのドラマを、花丸が引き摺って来るのが見えた。
火炎に焼けて、血に塗れた仲間たちを前にして、聖霊に出来ることはただの1つだけ。
治療を。
一刻も早い回復を。
「野郎は絶対にぶっ潰す、病原菌はきっちり取り除かねぇとなァ!!」
強く噛み締めた唇から、血の雫が滴った。
刀と剣とが打ち合った。
その度に火花が散って、地面が揺れる。
衝撃で業火が波打った。
剣戟を交わす獅子王は笑みを、ヴェルグリーズは苦悶の表情を浮かべている。
「存分に語り合おうじゃないか、この剣で、この身体で、この心で」
肉薄して一合。
跳び退って、斬撃を放つ。
緩急を織り交ぜた剣術にも、獅子王はしっかりと対応してみせた。
にぃ、と牙を剥き出しにして獅子王は数歩、前へと駆ける。
「その割に余裕がないようだが」
ヴェルグリーズの踏み込みに合わせ、獅子王はシールドを前へ突き出した。衝撃がヴェルグリーズの身体を後方へと吹き飛ばす。
「ぐっ……!」
「わっ!」
ヴェルグリーズが飛んだ先にはジュリエットの姿。もつれあうようにして、2人が倒れる。
「ちっ。戦と勝利を誇りにするヤツの成れ果てか……敗ける事を嫌がるのはわからねぇでもねぇが」
鉛弾が降り注ぐ中、獅子王は地面を蹴って駆け出した。
狙いはコルネリアだろう。
ガトリングの砲撃は、獅子王に少なからずのダメージを与えた。咆哮によるダメージも、聖霊の治療で回復している。
しかし、接近戦となれば分が悪いのはコルネリアの方だろう。
ガトリングからハンドガンへと持ち替えて、その銃口を獅子王の眉間に突き付けた。
「そこから目を背けるのも悪かねぇ、そんなもんさ。だが……寝すぎたなライオンさんよぉ」
「あのまま起きぬつもりだったのだがな」
放たれた銃弾を、首を傾け回避する。
前へと突き出す大剣が、コルネリアの脇を貫いた。
溢れた血が地面を濡らす。
血を吐きながら、コルネリアは再び銃を持ち上げるが……。
「気迫は上々!」
シールドバッシュが、コルネリアを吹き飛ばす。
獅子王の猛攻を、リズリーと花丸が受け止める。
斬られた端から、聖霊とジュリエットが傷を癒す。
「独り戦場に立ち、かつての仲間も無く独りで戦う。背に守るべきものも無い。……それはもう王とは呼びません」
熱波と疲労で、2人の顔はすっかり汗に塗れている。
流れた汗も、火炎の熱であっという間に渇いていく。
「戦場に生き、戦場に死ぬ。アタシらと同じさね」
下半身を炎に巻かれたリズリーが、犬歯を剥き出しにして吠える。
獅子王のシールドバッシュに、リズリーが盾を合わせた。
獅子王の盾を受け止めた瞬間、筋肉と骨が悲鳴をあげる。しかし、1時的にせよ動きは止めた。
「ただ、アンタは確かに王なんだろうが……騎士たちの王ではあっても、民にとっての王じゃあなかったみたいだね」
「貴方の戦場は……戦いはこれで終わり。もう二度と眠りから覚めない様に、私が貴方を送ってあげるっ!」
盾を持つ獅子王の肩に、花丸が自身の盾を押し当てる。
咆哮。
大上段に拳を振り上げ、渾身の力で盾を裏から殴りつけた。
轟音が響き、獅子王が盾を取り落とす。
振り抜かれた剣が、花丸の肩を引き裂いた。
【パンドラ】を消費し意識を繋ぐが、ダメージは大きい。
ジュリエットの魔弾を獅子王は鎧で受け止めた。
コルネリアの弾丸を、しゃがむことで回避する。
「仕留めたと思ったが……何の魔術だ?」
リズリー、花丸、コルネリアの3人は今の戦線に立っている。
確かに絶命させた手応えはあったが奇妙な話だ。
「貴様らか?」
視線の先には聖霊とジュリエット。
少なくとも、傷を癒しているのはその2人で間違いないだろう。
●最後の騎士王
一撃が重い。
鍛え上げ、研ぎ澄まされた戦技は脅威だ。
長い眠りの末、身体が痩せ細っていてこれだ。
「同胞を傷付け、この地を汚した罪はその身で贖って貰います!」
「大いに頼りにさせてもらうぞ、ドラマ。その分の仮は戦働きで返してみせよう!」
ドラマの援護を受けながら、エーレンは滑るように前進を開始。
飛ぶ斬撃を、獅子王が剣で受け流す。
懐へ潜り込んだエーレンは、獅子王の手首を狙って刀を一閃。
鎧の隙間を狙ったそれが、獅子王の皮膚を深く裂く。血飛沫が散って、エーレンの顔を赤く濡らした。
獅子王の前蹴りが、エーレンの腹を打つ。
肺の空気を吐き出して、エーレンはその場に膝を突いた。剣の柄を後頭部に受け、エーレンは一瞬、意識を飛ばす。
その隙に獅子王は前進。
向かう先は、回復を担う後衛たち。
リズリーの斧が、花丸の拳が獅子王の胸を殴打した。
鎧に深い亀裂が走る。
「……未だに慣れねぇな、守られるってのは」
ギリと歯を食いしばり、聖霊は苦悶の表情を浮かべた。
「かつては戦神と呼ばれておられた様ですが、貴方は何の為に戦うのですか?」
“かつて”と。
ジュリエットは、獅子王の栄光を過去のものだと断じてみせた。
「騎士? 王? いいえ、その様な肩書きはもはや貴方に相応しくないでしょう」
ジュリエットの魔弾と、ヴェルグリーズの斬撃が、獅子王の纏う鎧を叩く。
降り注ぐ燐光を浴びながら、花丸とリズリー、ドラマが追撃を叩き込む。
泥沼の持久戦。
否、獅子王は戦闘を楽しんでいるようにさえ見える。
彼にとってこの戦いは、何度も渡り歩いた戦場の一幕に過ぎないのだろう。
だから、きっと……敗北なんて、微塵も意識の内に無い。
戦に勝利し、それを亡き同胞たちに捧げるつもりなのである。
「……今っ!」
「おぉよ!」
ドラマの号令と共に、聖霊が回復術を行使した。
「よし来た!」
燐光を纏ったリズリーが、獅子王目掛けて疾駆する。
斬撃がリズリーの肩へ食い込んだ。
リズリーは盾と斧で獅子王の剣を抑え込み……止まることなく、獅子王の後方へ向けて疾走。
手首の傷も伴って、獅子王は剣を取り落とす。
次いで、跳躍した花丸と、背後より迫るエーレンが、獅子王へと追い打ちをかける。
エーレンの刀が獅子王の背を斬りつける。
反動で、エーレンは後ろへよろけた。
顔面を狙った花丸の拳は、獅子王が鎧の胸で受けた。
遂に鎧が砕け散る。
衝撃が内臓へと抜け、獅子王は血を吐いた。
「風化しちまったアンタの、アンタらの英雄譚は物語でしかないのよ。最後に名前を置いていきな。せめてもの手向けの花だ、その名前を受け取ってやるわ」
血に濡れ、煤けたコルネリアが獅子王の眉間へ銃口を向ける。
鎧も剣も盾も既に失った。
残すは己の肉体のみだが……長き眠りの果てに瘦せ衰えた今となっては、格闘戦も望めない。
「……楽しき戦であった。我が名はネメアー。ネメアー=サバンナハート」
「ネメアーか。オーケー……そんで、さようなら寝坊助、あの世のお仲間と楽しくやるんだな」
銃声。
放たれた弾丸が、獅子王……ネメアーの眉間を穿つ。
「今度は眠りながら見ているがいい、獅子王。民たちの営み、決して退屈なものではないぞ。俺が保証する……安らかに眠ってくれ」
エーレンの言葉に、笑みを返して。
獅子王、ネメアーは息絶えた。
焼け焦げた遺体を前に、ドラマは静かに祈りをささげる。
その中には、獅子王・ネメアーの遺体もあった。
恨みが無いとは言い切れないが、死ねばそれはただの骸だ。死体に善も悪もあるものか。
「剣を交えて感じ取れた貴方の物語だけは、覚えておいてあげます」
そこに並ぶ遺体は10を超えている。
炎の中で、既に燃え尽きた遺体も多くあるだろう。
「痛かったよな、苦しかったよな。――生きたかったよな。お前らの魂も、生命も全部俺が連れて帰ってやるから」
救えなかった命を前に、聖霊は1人、俯いていた。
顔を上げねば、次の戦場には向かえない。
そんなことは、彼も理解しているはずだ。
けれど、今だけは……救えなかった命を前に嘆く時間が必要だ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
獅子王・ネメアーは討伐されました。
獅子王により阻まれていたルートは開かれました。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
怠惰の獅子王の討伐
●ターゲット
・怠惰の獅子王
2メートルを超える長身痩躯。
白銀色の鎧を纏い、大剣と盾を装備したいかにも騎士らしい出で立ち。
金のたてがみを業火に躍らせ、胸中で渦巻く荒々しい戦意を解き放つ時を待っている。
名前は既に失われた。
栄光は既に過去のもの。
かつて率いた部下たちもいない。
たった1人……しかし、彼は未だに“王”であるらしい。
※身に纏う鎧には【BS無効】【反】
咆哮:神中範に中ダメージ、重圧、混乱、苦鳴
シールドバッシュ:物近範に中ダメージ、ブレイク、飛
王の剣:物近単に特大ダメージ、必殺、滂沱
●フィールド
深緑。
大樹ファルカウの下層。
とくに業火の勢いが強い区画。
轟々と燃える業火の中に獅子王が1人、立っている。
獅子王の目的はイレギュラーズと戦うことらしい。
彼を放置することで、他の戦場に影響が出ることを防ぐことが主な目的となる。
辺りは火の海。障害物は無い。しかし、業火の中に身を潜めることは可能だろう。
※業火の中に立ち入ることで【炎獄】の状態異常を受ける。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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