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シナリオ詳細

喰らい合う『鬼』

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 雨が降る。
 あらゆる雑音を掻き消すが如く。
 あらゆる雑念を洗い流すが如く。
 ――だが。渦中において『何か』が弾ける様な音色も響いていた。

「くっ……!」

 地を滑る。雨粒に濡れた大地を、勢いの儘に。
 ――それは女性だった。胴着を着込んだその者の名は、イオリ。
 かつて『ある一団』に属し、しかし足抜けした者であり――
「ん~~おいおい。逃げの一手だけかぁ――? ちょっとは反撃したらどうだ」
 そして今は『その一団』の者に追われている者である。
 刹那。後方より至るのは極大の殺意――反射に伏せたイオリの直上を掠めるは神速の蹴りであった。樹に直撃すれば、豪快な音を響かせ……幹より捩子倒れるモノ。
 直撃すれば頭が潰れていたか――?
 背筋に走る悪寒と共に再跳躍。距離を離して、眼前の男を見据えれば。
「隙を窺っていればいつかは……なんて思ってるのかぁ~?
 無駄だ無駄だ。そんな事出来る訳ないだろぉ。
 かつてのお前の様に何もかも捻じ伏せたらどうだ~?」
「……こんな事をしても私は鬼閃党には戻らんぞ」
 枯れそうになる息を整えながら最大限の警戒をイオリは継続するものである――
 鬼閃党。今しがた彼女の口から洩れたその言葉は、かつて彼女が属していた『一団』の名である。強きを追い求め、ただその為だけにある者達――ある旅人が率いている、組織……いや集団とも言える鬼閃党だが、イオリはかつてそこから足抜けした。
 そして眼前の男――ター・ユーは当時の鬼閃党における知り合いの一人である。
 知り合いと言っても互いに顔を何度か合わせた程度だが……しかし。
「それとも私の尻を追いかけるのがそんなに趣味だったか――? 執念深い男は好かれんぞ」
「ハハッ! 相変わらず気の強い女だなぁ~
 だが良いぞ、そういう所を買っていたんだ俺は」
 ター・ユーはソレだけで十分だった。
 彼は強い者が好きだ。純粋にその武威に敬意を抱く。
 そして強い者を屈服させるのも好きだ。己が強いと示せる事が魂を震わせる。
 ――イオリは以前から目を付けられていたのである。
 が。鬼閃党にいた頃の彼女は――面倒くさいが故にター・ユーの私闘を避けていた。
 あの頃ならば勝てただろうか。分からぬが、しかし。
「それにしても弱くなったな~以前のお前はもう少し抜き身の刃の様に鋭かったぞ」
「……知った事か。今の私が、今の全てだ」
「残念だぞ。孤児の一人を拾った程度で腑抜けちまって……それが原因で党まで抜けるとは」
 今のイオリでは、駄目だ。
 ……そも。彼女が鬼閃党を抜けた理由は、少し前に拾った孤児に起因する。
 それは偶然。或いは必然だったのやもしれぬが。
 その孤児は、己がかつて死闘の末に打ち倒したある者の――遺児であった。
 親を失ったが故の苦難の生を歩んでいた子の姿に、なんぞやの感情を抱いたイオリは拾い、世話をしていた……しかしやがて、己が拳の腕に鈍り始める。
 その腕に抱いた子の温かさが、彼女から強さをいつの間にか奪っていたのだ。
 ……故に党を抜けた。
 子を捨てれば強さは戻ったかもしれぬが、捨てれぬ弱さを自覚したから。
 その後は各地を転々としながら安住の地を見つけんとしていた――が。
 奴が来たのだ。党の一員たる、ター・ユーが。
「鬼閃党は……抜ければ処罰、などという法は無いはずだが?」
「そうだぞ。だからこれは別に党の方針ではない――俺個人の動きだというだけだ」
「全く。心底女にしつこい男だ……」
 鬼閃党は私闘を禁じない。
 誰に挑んでも良し。どのように戦っても良し。
 全ては勝利と力こそが至上であると……だからこそター・ユーの行いは咎められる様な行為でないのだ。逆に言えば、これは鬼閃党の一団としての行動や方針の類ではない。あくまでもター・ユー個人的な事情であり、彼が倒されればイオリは再び自由であろう。が。
(……キツイな)
 イオリは追い詰められていた。
 既に右の腕が砕かれている。上がらず、残った左腕だけでどこまでやれるか。
 弱くなったとは思っていたし。ター・ユーもそれなりの実力者である事も分かっていたが。
 ここまで抗えぬ程に拳の動きが鈍るとは。
(……ここで終わりか)
 更には、周囲にはター・ユーの弟子らしき者達もいる。彼らは遠巻きにこちらを眺めているだけだ――つまりは、イオリを逃がさぬ為だけにいる者達。彼らを強引に突破して尚に逃げ切るだけの余力は……ない。ター・ユーはこちらの命を奪わんとして来るだろう。
 ……あの子は逃げ切れただろうか。
 鬼閃党の面々が近づいてきていると察して、咄嗟に逃がしたあの子は。
 この日までに生きていく術は教えたつもりだ――
 私がいなくても、きっと生きて行けるか。
「やけっぱちの眼だなぁ~ソレで俺を倒せるか、試してみるか?」
 故に。最後の力を振り絞り、奴へと相対せん。
 勝てぬだろうが。それでもあきらめる訳にはいかぬと。
 息を整え。死を覚悟した跳躍を成さんとする――

 正に、その時。

「むっ? なんだぁ~?」
 ター・ユーの弟子の包囲の一角が――打ち破られた。
 そこから雪崩れ込んでくる影が幾つか視える。何だお前達は、と思えば。
「やぁお姉さん。どうやら間に合った様だね――事が片付いたらデートでもしない?」
 そこにいたのはコラバポス 夏子(p3p000808)であった。
 ター・ユーとイオリの間に割り込む様に彼が至り、更には夏子だけではなく……ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の影もあって。
「こちらはローレットの者だ。乱入悪いが、依頼でな」
「い、依頼だと……? どういう事だ、いや、まさか……!」
「――雨の中、ずぶ濡れになりながら走って来た子が一人、いただけの話さ」
 そう。それは――イオリが逃がした子が近くの街に。ローレットの支部に駆けこんだのである。

 『お願いだよ! 師匠をたすけて――!! お代はきっと、いつか払うから!!』

「あんなに懇願されちゃ仕方ない――それに話を聞いてみれば美人のお姉さんって事だったし即参上、ってね! ま、とにかく無粋な男にはご退場願おうか」
「ハッハ――噂のローレットとは海老で鯛が釣れたか! いいぞぉ、これもまた面白い!」
 しかしター・ユーは臆さぬ。
 途中で乱入があったからなんだというのだ?
 イオリが腑抜けていてむしろつまらなかったのだ――
「楽しませろよイレギュラーズ。お前達は強いんだろうな?」
「――その目でしかと確かめてみろ」
 ター・ユーが言を紡ぎ、ベネディクトが視線をもってその闘志に応えるもの。
 ――直後、激突。
 強きを求める鬼閃党らの一員との戦いが――繰り広げられんとしていた。

GMコメント

 リクエストありがとうございます。
 以下詳細です――よろしくお願いします。

●依頼達成条件
 敵の全撃退or全撃破
 イオリが死亡しない事

 両方を達成してください。

●フィールド
 天義のある山奥です。
 周囲は大雨が降り注いでいますが、時刻は昼なので視界に問題は無いです。
 木々が立ち並んでいるため、多少障害物として機能しそうな所があります。ただ、邪魔になる程生い茂っている訳ではないので、戦うに問題はほとんどないでしょう。

●『伏ス者』ター・ユー
 鉄騎種の一人で、両足が機械状態である人物です。
 後述する『鬼閃党』の一員であり、強き者が好きであり、同時に強き者を屈服させる事も好きという、些かあまり性格の良い人物ではない者です――誰ぞに執着すれば決着が付くまで追い回していくなど――しかし実力に関しては鬼閃党に属する者として相応しい程の能力を有しています。

 主に蹴り技を得意とし、近接戦闘が主体です。
・蹴撃『龍天』:物至単。威力傾向:高。【ショック、感電、雷陣、乱れ、崩れ】BSアリ。
・蹴撃『龍吼』:物近列。威力傾向:中。【痺れ、出血、流血、飛】アリ。
・蹴撃『龍顎』:??単。威力傾向:超高。【致命、呪い、体勢不利、移、溜1】アリ。

 その他の能力値に関して詳細は不明ですが、基本的に防御よりも攻撃主体の人物である様な雰囲気が窺えます。
 追い詰められると防御系が低下する代わりに攻撃力が上昇する『集中力』系統のパッシヴも所持している様です。

 強い者が好きであり、イオリの事は以前から眼を掛けていた一人でした――
 故に逃がしません。党から抜けた程度で、己が食指から。

●ター・ユーの弟子×4
 ター・ユーの弟子の様な者達であり、ある程度戦い方は異なりますが、基本的に拳や蹴りなどを主体とした接近戦型です。イオリとター・ユーの戦いに関して邪魔をする気はなく、イオリを逃さないための者達でしたが、イレギュラーズの介入により動き始めています。

●イオリ
 元々鬼閃党に所属していた人物であり、当時は只管強きだけを追い求める人物でした。
 その結果達人――とまではいきませんが、かなり高い実力を有する程の者であったようです。しかし偶然から拾った子供――つまり護るべき者が出来てから動きに鈍りが見え始め「弱くなった」と自ら自覚する程の状態になってしまいました。
 その結果鬼閃党を抜けたのですが、ター・ユーに追い詰められ疲弊しています。

 現在右腕が使えない状態に成っている様です。
 左腕は使えますが、戦闘能力は激減していると言っていいでしょう。戦闘が始まって以降、ター・ユーが彼女を狙うかは不明ですが、依頼の性質上、彼女が死亡する事態にはならない様に注意してください。

●『鬼閃党』
 それは強きを求める集団の事を指しています――
 新城 弦一郎という人物が率いる一団ですが、今回のシナリオに関しては鬼閃党に属する、属していた者達の私闘と言える事情の範疇であり、鬼閃党という組織そのものはほとんど関係ありません。詳細は此方(https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/2274)もご覧ください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 喰らい合う『鬼』完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年05月31日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
※参加確定済み※
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
すずな(p3p005307)
信ず刄
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
※参加確定済み※

リプレイ


 力なき想いは無意味である。
 その理屈は、分かる。だけど、それなら。
「想い無き力は最悪だ」
 マルク・シリング(p3p001309)は――雨粒の先に在りし者へと言の葉を。
 力を振るう者達へ。ただ暴を振るう者達へ。
「んん~じゃあどうするつもりだ、小僧? 俺と、やりあってみるか?」
「無論だ。僕はそんな理不尽な暴力から死を遠ざけるために、これまで牙を研いできた……!」
 ター・ユー。鬼閃党なる集団に属する一人よ――
 幼き依頼者の願い、必ず叶える。黒狼の名に賭けて。
 ――彼の瞳に闘志が宿る。鋭き瞼は、まるで雨の幕すら裂く様に。
 どちらから仕掛けるか。どちらから攻を成すか。
 刹那を見切らんと誰しもの意思が動いていた。
 一片たりとも隙は見せられまいとしている――その最中に。
「雑魚弟子諸君~君らの相手は俺一人で十分だってよえーと……ひ……ぴ……ぴえん党? だっけ? 随分可愛らしい名前だよね! 最近の流行りに乗るってヤツ? 『最近』の定義がちょっと広い気もするけど」
「ねぇねぇ夏子さんさっきあの人デート誘ってなかった? ねえ?」
 言を紡いだのは『イケるか?イケるな!イクぞぉーッ!』コラバポス 夏子(p3p000808)と『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)である――まずもってして邪魔な弟子諸君の注意を引き付けんと夏子はあえて挑発的な言動を投げかけるものだ。
 同時にタイムは息を切らしているイオリの傍へ。周囲の殺意から目線は逸らさぬ儘に。
 ……後で話があるからね。むすーっ、と頬を膨らませつつも一切の警戒は怠っていない。
「……鬼閃党だ。間違えるな下郎」
「あ、そうなのごめんねゴメンね~大の大人が大人数で一人の女性追っかけ回す組織がぴえん党か。あ~あヤダヤダみっともないねぇ。僕が所属してたらあーんまりにも恥ずかしくて泣きそう。ぴえん」
「貴様……!」
 刹那、揺らぐ。夏子の変わらずの様子に、弟子達の意識がちらほらと。
 で、あれば。静寂にも似た拮抗が崩れるのもそう遠くはあるまい……そして実際に。
 一拍、二拍。
 三拍目の刹那に――大気が流動した。
 跳び出すマルクに夏子。動き出すター・ユーの弟子達。
「馬鹿が~そんな程度の挑発に乗るとはぁ、俺は悲しいぞぉ」
「そんな郎党を率いている貴方の器も知れますね――然らば、御免ッ!」
 吐息一つ。乗せられて動く形になるなど醜悪だと言わばかりのター・ユーに斬りかかったのは『介錯人』すずな(p3p005307)だ。取り巻きの弟子達は予定通りに夏子に押し付け……もとい、お頼みする事が出来た!
 ならば後は主力たる彼へ全力を持って攻めるのみ。
 一足にて距離を詰めるは旋風が如き無数の斬撃。
 抜刀の刹那すら見せぬ。然らばその指先に宿りしは神速の妙技であり――
「おっとぉ――危ない小娘だなぁ~人に刃物を向けるなんざ悪い子だ」
「大物ぶって結構な所だけどよ。いい年した男が未練がましく女追いかけ回してんじゃねーよ!」
 その、すずなの閃光を凌ぐべく跳躍せんとしたター・ユーとの間を詰めたのは『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)であった。自らに闘争の加護を齎し、万全の態勢を持って攻め往く彼の剣撃には……力が宿っている。
 正直、人を相手に剣を振るうのは苦手だ。
 得物を手に、血を流し痛みを与え合い……時に死を与えるなんて所業。
 好きになれるわけもない。だけど。

 大人は、子供の願いを叶えるもんだ。

「お前の望みは果たせねぇよ。此処でお前は終わるんだ」
「イレギュラーズ如きが随分調子に乗るじゃないか。
 いいぞ、そういう強い奴は――俺も嫌いじゃない。どうだ、推薦してやるぞ鬼閃党に入らんか?」
「……鬼閃党、か。時折名前だけは聞いていたが、な」
 強い決意。瞳に抱きながら誠吾は攻め立てる――
 が。ター・ユーも熟練者であるが故か、早々に崩れはしなかった。自慢の足で撃を受け止め、あまつさえ彼らを『党』側に誘う始末である……であれば『黄金剣』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)もまたター・ユーへと向かいつつ。
「依頼の事もあるが、鬼閃党とやらの実力には以前から興味はあった──
 しかしそういう誘いの旨は、まず勝ってから告げるんだな」
「随分な自信じゃないか……そっちこそもう勝ったつもりか?」
「さて――しかしこれだけは言える」
 ター・ユーの視線を受け流しながらベネディクトは動き続ける。
 誠吾の動きに応じて侵されざるべき領域の加護を齎しながら、続けざまに己にも超加速の一端を顕現させ。そして零す言の葉は。

「俺達は、負けんよ」

 お前にとっては生憎だがな、と。
 振るう槍の一閃が――空を切り裂き貫いた。


 イオリは見ていた。己が周囲で行われる高速の数手を。
 瞬きすれば見逃しそうな程の攻防は、二か所。
 一つはター・ユー。一つは夏子。
 どちらにも攻撃が集中しているものだ――夏子は先んじて挑発を行っていたからであろう。弟子の複数名が彼に撃を成し、今にも殺さんとする程の苛烈さが其処にあって。
「ぴぇ~んおっかなぁい~ん。こわいこわいこわ~いよぉ~
 無理やり女の人に迫る男の人達が俺にも迫ってきてこわいよぉ~!」
 しかしそんな嵐の中にあっても夏子は相変わらずであった。
 ――ただしその動きに冗談は含まれていない。
 男が一人、放った蹴りがあらば腕を割りこませ軌道を逸らし。
 軽槍を巧みに操りて致命傷を受けぬ様に立ち回る――
 そして刹那の隙を見つければ横薙ぎの一閃を放つものだ。発砲音と強き光が敵に纏わりて。
「ところで思ったんだけどさ――
 お前らの親分が先に倒れりゃ お前らより俺のが強い ってコトだよなぁ?」
「……! お前達如きが、調子に乗るなよ……!!」
「おっ図星? 今の反応図星だよね、ね! イオリちゃん今の聞いてたよね!?
 あっイオリちゃんは無理しないで良いからね――我々がなんとかするから、さ!」
「あ、ああ……すまない、感謝する……!」
「むっ~! また夏子さん、女の人のお尻みてなかった……!?」
 微笑む夏子。彼の有り様に困惑する様子を見せるイオリ。またふくれっ面のタイム。
 夏子の事をよくみているものである――そんなタイムだが、イオリに治癒の術を齎しつつ周囲の状況を手早く認識し続けるものだ。ター・ユー達の射線がイオリに通っていないか? 他はどうか――?
「腕は動かせる? とにかくわたしの後ろにいて――まずは生き残ろう」
「何から何まですまない……なんとか、邪魔にならない程度には痛みが引いてきた……!」
「良かった。しかしそのままでいてください……必ず、守り通しますから」
 さすれば、イオリの腕も多少回復してきたようである。流石にこの場で完全なる治癒……とまではいかないが。回復をタイムに任せればマルクが紡ぐのは攻勢である。
「さて。焼き払われるのには慣れてるかな――?」
 顕現させるのは破壊魔術。熱量の閃光が飛来し、弟子の一人を焼かんとする。
 一人ずつ。一人ずつでもいいのだ――状況を動かして行こう。
 どちらが先に落ちるメンバーがいるかで戦況は変わっていくだろうと推測。
 その為にこそ着実に傷を仕込む。いつか敵が倒れ伏す、その時の為に。
 ……そしてタイムが同時に思考するのは周囲で蠢く『鬼閃党』の面々の事である。
 其の名。聞いた事がある様な無い様な。でも、仲良くなれそうにはないかも。
 だって。イオリさんをこんなに追いかけ回して平然としている人達なんて。
「……ヤな感じ。なんにも思ってないのかしら」
 彼らの好き勝手にさせてたまるものか。
 勝利と力だけが強さじゃない。
 人を守り生かし命を未来へ繋ぐこと――それの価値を、私達は知っているから。
 その為にサポートする。イオリの命を。皆と共に……!

「――本当にそんな腑抜けを護る価値があるのかぁ~? お前達が必死になってまで」

 と、その時。ベネディクトらと交戦していたター・ユーが蹴りを放つものである。
 まるで薙ぐ様に。そしてその陣形を乱すかの様に吹き飛ばさんとしつつ――
「俺達は別にローレットと敵対してる訳じゃあない……
 ガキの頼みは間に合わなかった。そういう事にして帰る――てのはどうだ?」
「これはこれは。強さを象徴として掲げる鬼閃党の者とは思えない言動だな。
 先程とは打って変わって――そんなに俺達に勝つ自信がないのか?」
 一言で纏めれば『邪魔だから帰れ』という内容を、ベネディクトが一蹴した。
 何を言われようがイレギュラーズ達の動きに淀みは無い。むしろベネディクトの動きに追随する様な形で、尚に連携を取り続けるものだ――刹那の間隙にベネディクトが夏子にも守護の加護を齎し。無駄なき動きの儘にター・ユーの隙を突かんと槍を振るう。
「最後まで付き合って貰うとしよう。まさかこの場から逃げるとは言うまいな――?」
「もしそういう事すんなら――情けねぇ、っていうレベルじゃねーな」
「はっは――! 安心しろ。退かないなら、お前達ごと始末するだけさぁ」
 続けざま。ベネディクトの動きに合わせて誠吾も往く。
 些か、弟子たちを引き付けている夏子の方が心配にはなるが……無理はして、ないか? よく他者を――特に己を――からかうけれど。こういう時のあの人の在り様は頼りになるものだ。
 故に誠吾は前へと至る。ター・ユーを倒す為に。
 彼の剣撃は未だ全霊だ。後先の事よりもこの刹那に全てを懸ける――
「この中じゃ一番ひよっこだが、少しは良い所見せねーとな!」
 意地ってもんがあるのだと。
 誠吾が繰り出す一撃がター・ユーへと届く。多数から攻撃され、少しばかり防御に傾きを置いていたター・ユーだが――遂にその芯に撃が届き始めて。
「強者を求む。その性質と気質……えぇ、分からない訳ではありませんよ。
 ただ貴方ほど捩じれてはいませんけどね! ご自覚はおありですか?」
「はっは! 無論だ、俺はこんな俺だと自覚はあるさ――その上でこのままだぞ」
 更にその傷口を広げんとする為にすずなも往くものだ。
 ベネディクトなどを始めとし、名うての方々が多ければ頼りになるものだ……己が剣先が足を引っ張らぬ様にと――しかし彼女自体の剣捌きもまた卓越しているもの。彼らの動きに合わせ連鎖的に行動し一気呵成に攻めたてんとする。
 引き続く旋風の様な斬撃。渦中には潜ませた本命たる『隠し』の刃も仕込んでいれば。
「おいおい。こういうのって『ガチ』なんじゃないか結構~」
「ええ。ですが――こういうのがお望みでしょう?」
 いくらかは気付かれ阻まれたのもあるが。
 それでも望んでいる筈の強者との……そして死闘であれば満足でしょう?

「く、は――あぁあぁ全く。流石に一対一ならまだしも、これじゃあなぁ」

 で、あれば刹那。ター・ユーが一度大きく跳躍するものだ。
 逃げる――否。それは態勢を立て直さんとする動きであり。
「ちょいと流石に傷が増えてきたんでな――本気でやらせてもらうぞ」
 見た。ター・ユーが脚に力を込めているのを。
 地を踏み砕かんばかりの勢いと共に。
 放つソレは――まるで、顎の様であったとか。


 竜の顎――
 それはター・ユー渾身の一撃。彼方に居ようとも狙い穿つ、直死たる一撃だ。
 絶対に逃さない、死ね。そう言わんばかりの勢いがター・ユーへ攻勢を仕掛けていたベネディクトへと飛来し……
「くっ――! だが、まだだッ!!」
 それでも、崩れない。
 槍を旋回させター・ユーの撃を受け流さんと刹那の攻防。衝撃が彼を襲い――しかし。
「焦ったか? なら、駄目押しをさせてもらおうかッ……!」
 その傷を即座に治癒する動きを見せたのは、マルクだ。
 攻撃手としてイオリの近くに居ながらも最前線からは距離を取っていた彼は、いつでも治癒役にも回れるように注意を張り巡らせてた。そしてなにより、ター・ユーの動きが変わるタイミングも、だ。
 戦闘の激化と変化の予兆を俊敏に感じた彼が、戦線を崩壊させまいと立ち回る。
 治癒術。福音の証が傷深き者への恩寵となり。
 次手では歌声が如き神秘の欠片が数多の者を癒す――
「想いの無い力を前に、折れるわけにはいかないんだ。力無き人を守る為には!」
 そしてこの場がチャンスでもあると彼は認識していた。
 ター・ユーの動きが前のめりになり、反面防御が疎かになっているのだ。
 ――ならば凌げる。倒される前に倒す事は不可能ではないと。
「チィ、うざったい奴だな……オイ。いつまでそこの馬鹿にかまけてる。散れ」
「えっ。もしかして馬鹿って僕の事言ってる? ひどいよ~!」
 だからこそター・ユーは弟子達に散開する様に指示を出すものだ。
 馬鹿――と名指しされた夏子――を中心にイオリ方面に守護として展開しているイレギュラーズ達へ圧が掛かれば良しと思っていたが故に今まで口は出さなかったが。もう状況は変わった。むしろこちらに来て余分な奴は弾けと言わんばかりに。
 だが、もう遅い。
「イオリちゃんも倒しきれず、我々もイナしきれない。負けじゃんね。もう認めたら? ストーカーに加えて引き際も見切れない奴なんて赤点どころの話じゃないよ」
 数多の撃を凌ぎ続けてきていた夏子が後一息だとばかりに――踏ん張るものだ。
 彼にもまた傷が多く、決して無傷ではない、が。
 ター・ユー。お前には一生分からねぇだろうなぁ。
「守る側の意識ってヤツがよ。人数で囲って戦闘強要する様な――クズにはなぁ!」
 尽くす死力。振るう槍にはまだあともう少しばかり、彼の全霊が宿っていて。
 弾き飛ばされる弟子達。で、あれば。
「油断はしませんよ。強者は最期の最後まで、己が力を振るえるものですからね」
「だが。こうなるのも全部お前が追いかけてきたからだ。自業自得ってヤツだな」
 彼らがター・ユーへと合流を試みんとする前に、すずなと誠吾がター・ユーへと。
 彼の放つ蹴撃には疲弊しても尚、未だ力が宿っている。それは流石と言うべきか。
 だけどだからこそ油断はしない。返しの一撃を見据え一発逆転の余地など残さぬ。
 両者は左右より攻め立てて――その刃を彼へと穿たせれば。
「――ハハ。いや全く、世の中にはわざわざ命を懸けてまで来る馬鹿が多いもんだなぁ」
「ター・ユー。あなた……まだ分からないのね」
 彼が、口端より血を吐き零しながらも言を紡ぐものだ。
 理解できぬとお前達の行動が。何の為に来たのかも何もかも。
 ……だからこそタイムは、ついぞ零してしまった。
 格好悪い。
 ううん――かわいそうだわ。
 告げるは侮蔑と、憐れみを込めて。心の底からの本心を、風に乗せて。
 大の男がお気に入りの女が離れていくのが嫌で癇癪起こしてるようだわ。そんなに強いのに気持ちの向け方が分からないなんて……どこまでも、子供みたい。
「好きならそう言えばいいじゃない。違うなら何故追うの!?」
「好き? おいおい下らない事を抜かすなよ。んなの粘膜の幻だ――
 それより。まだ戦いは……終わっちゃいねぇぞ」
「貴方ねぇ……!!」
 瞬間、タイムは見た。ター・ユーが最後の悪あがきをせんとしている所を。
 ――もう一と龍の顎を放たんとしているのか。
 させない。例えソレがもう戦局を覆すモノでなかったとしても。
「貴方みたいな格好悪い人は――最後まで格好悪いままでいるのがお似合いなのよ!」
「タイムさん!」
 だから、庇った。最後の最期。イオリへと向かう極大の一撃を。
 マルクの声。弾け飛んだ時にはタイムが受け止め――そして失敗させる。
 ター・ユー最後の、あがきを。
「――仕舞だ。最後に言い残す事はあるか?」
「ん~そうだなぁ……鬼閃党は良い所だぞ。お前もいつか――入ったらどうだ?」
 さすればベネディクトが往く。
 ター・ユー。執念深く、しかし熟練者ではあった者の生を――終わらせてやる為に……


「……依頼は完了した。
 後はあの子と好きにどこへなりと行くと良いさ。もう追われる事もないだろう」
「あ。もしアテがなければ何ならウチの領地に暫く居ても~
 やコレは人道的な人助けだからして。特に他意とかそういうのは」
 かくしてター・ユー一派は全て退けた――故にベネディクトと夏子はイオリへと言を紡ぐものだ。そしたら『う~ッ!』とタイムが睨んできてる様な気がしたが、気のせいかなぁ?
「ありがとう……そう、だな。もう党から誰も来なければ――それもいいかもしれない」
「うんうんいつでも待ってるからね。
 一応言っとくけど、ダメだよちゃんと生きないと。無碍に死んだら弟子君の後悔になる」
 ――な~んちゃってね。そのように、冗談めかして紡ぐ夏子。
 ……しかし鬼閃党、か。
「今回は守れたけれど……あれよりも強い実力者が、まだゴロゴロいるんだろうね」
「組織の足抜けはご法度――なんて。考えてる人がいないとも限りません、か」
「……けど、ま。これからまた会う事になるかは知らないけどよ」
 その時は。笑い合う為の邪魔になるのなら――きっとまた戦う事になるのだろうと。
 誠吾はマルクやすずなの言に続いて述べるものだ。
 ……この世界で生きると決めた時に受け入れたんだ。
 もしも明日の為に選ぶ必要があるのなら、迷わず自分は戦うと。
 例えどれ程の敵が待ち受けていようとも。

 皆と一緒に。笑い合える明日こそが、なによりも尊いから……

成否

成功

MVP

タイム(p3p007854)
女の子は強いから

状態異常

コラバポス 夏子(p3p000808)[重傷]
八百屋の息子
タイム(p3p007854)[重傷]
女の子は強いから

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 鬼閃党。強者の集まり。やがては更なる上位が何処かに――?
 ともあれ皆様のおかげで救われた命がありました。

 ご参加どうもありがとうございました。

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