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シナリオ詳細

<チェチェロの夢へ>銀閃の乙女と未知への旅路

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 鉄帝国南部の町ノイスハウゼンーーその上空にて発見された浮遊島アーカーシュ。
 その地には百年ほど前に鉄帝国から派遣された調査隊の子孫たちが暮らしていた。
 伝説にこそ伝わるものの、眉唾に思われていたその場所が発見されてから少しの月日が流れている。
 既に鉄帝国の依頼を受けたローレットは幾つかの発見を熟してきている。
 真っ白であった情報は少しずつ既知となりつつもあるが、それでもあの幻想王国の勇者アイオンの時代より存在してきた古代遺跡は伊達ではない。
 未だに未知の情報や場所の方が多いことは事実だった。

 通い慣れつつある――或いは初めての道のりを通り抜けて辿り着いたのは浮遊島アーカーシュに存在する唯一の村であるレリッカ。
「ローレットの諸君、こんばんは」
 足を踏み入れたところで、女性が声をかけてくる。
「一応、挨拶をしておこうか。私はユリアーナという。鉄帝の軍人をしている者だ。
 中央からの命令を受けて、ここの探索に参加することになった」
 銀色の髪を風に遊ばせる女性が切れ長の瞳を細めて微笑みながら自己紹介をした。
「……と、まぁ、言いはしたんだが。ここ数ヶ月は別件に集中させてもらっていてね。
 正直、この島やその周辺の事はさっぱりわからん。
 君達の中に何回かこの辺りに来ている者がいれば、寧ろ教えてもらえると助かるぐらいだ」
 少しばかり気まずそうにそう言って苦笑したユリアーナが顔を上げる。
「……先程、ここの住人の方から依頼を受けているから、一緒にどうだろうか?」
 ユリアーナがイレギュラーズ宛の依頼状を差し出してくる。
 そこには今回の依頼の内容が記されていた。


 レリッカ村を出ると、目標となる遺跡へと足を進めていく。
 細身ながらも勢いのある小川を飛び越え、林とも森ともつかぬような木々の間を歩く。
 風化か埋もれたのか、土から1つだけ顔を出した小さな石を踏んで進む。
 小石は長方形になり、石のタイルに姿をかえていく。
 ふと耳をすませばいつの間にやら小川のせせらぎが聞こえてくるではないか。
「どうやら、川があるようだな……」
 そう言ったユリアーナの方から、きゅるるると言う音がして――彼女がそっと腹部を抑えた。
「……川と言うことは、魚の一匹ぐらいはいそうだね。
 どうだろう、少し休んでいかないか?」
 そういう女性が羞恥を誤魔化しているのはよくわかったが――ここは黙っておいてあげようか。
 腰ほどの小さな木を分け入って、徐々に大きくなるせせらぎの下へ。
 木々を抜けて川辺に足を踏み入れれば、穏やかな日の光に照らされて水面がちりちりと輝いていた。
「……ほう、先客のようだ」
 視線を巡らせ、ユリアーナがいえば、自身の愛槍を何時でも構えられるよう準備し始める。
 彼女の視線の方向へ目を向けてみれば。
「ンォォォ」
 そんな声を上げる牛が2匹。
 普通の牛と異なり、その鼻頭には一本の角が生えていた。
 2匹は此方に気づくと、ふるふると頭を振って、こちら側に身体ごと向き直る。
 蹄をガシガシと地面に踏み鳴らすその様を見れば、こちらに敵意を向けているのは一目瞭然と言うところ。
「……よし、諸君……やっぱり焼き肉にしないか?」
 ――さて、腹ごしらえから始めよう。
 依頼状に書かれている文言を見る限り、遺跡まではもう少しかかりそうだ。

GMコメント

 さて、そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
「出遅れる形で来たのもあってなんにも分からんが……?」となってる鉄帝軍人と一緒にアーカーシュ慣れするために探検にいきましょう。

●オーダー
【1】ユリアーナと共にアーカーシュを探索する。

●フィールドデータ
【1】小川と牛
 オープニング直後のシーン。
 小川です。ぱっと見とてもきれいなようですが、そのまま飲むのは危険……かもしれませんね。
 新種の牛がいます。どうやら古代獣のたぐいのようですが、多分食べれます。
 戦闘後は昼食を兼ねた小休止が出来ます。ちょっとした情報交換なんかもしてもいいかもしれませんね。

【2】遺跡
 小川を抜けて、再び森の中を突っ切った先にある遺跡です。
 石かセラミックのように硬質な素材で出来ています。
 地下へと続いているようで中には大小幾つかの部屋がありそうです。
 古代獣が住み着いていたり、精霊が暴走してたりするかもしれません。

【4】???
 不明です。遺跡を探索してみると辿り着けるかもしれません。

●エネミーデータ
【1】一角牛(仮称)
 鼻頭にえらい長い角を生やした牛っぽい謎の生き物です。
 名前はシンプルに見た目だけの仮ものです。
 突撃はかなり怖そうですね。

【2】古代獣
 一角牛を含むモンスターたちです。
 地上では滅多にお目に掛かれなさそうなものが多いです。

【3】精霊
 乱れた精霊力の影響で暴れている精霊です。
 倒せば鎮まります。

●NPCデータ
・『銀閃の乙女』ユリアーナ
 鉄帝の西部にある村の自警団長でもある鉄帝国の軍人です。
 普段であればクールな姉貴分といった雰囲気の女性ですが、
 未知の場所に途中から参加した形のため割とぽんこつモードです。
 アーカーシュ関連によく参加されてるイレギュラーズなら、逆に教える側に立てたりもする……かもしれませんね。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 不明点は多いですが、どちらかというと左程の危険はありません。

●攻略ヒント
 当シナリオは比較的のんびりとした、いわば描写量が増えたお散歩系イベントシナリオ……のようなものとなります。
 プレイングで『ある』と言えばよほどの無茶であったり、アーカーシュにありそうな感じであれば割と何でも用意されますし、既にアーカーシュアーカイブにある動植物などが登場する場合もあるでしょう。

●特殊ルール『新発見命名権』
 浮遊島アーカーシュシナリオでは、新たな動植物、森や湖に遺跡、魔物等を発見出来ることがあります。
 発見者には『命名権』があたえられます。
  ※命名は公序良俗等の観点からマスタリングされる場合があります。
 特に名前を決めない場合は、発見者にちなんだ名が冠されます。
  ※ユリーカ草、リーヌシュカの実など。
 命名権は放棄してもかまいません。
  ※放棄した場合には、何も起りません。

  • <チェチェロの夢へ>銀閃の乙女と未知への旅路完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月31日 23時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神

リプレイ


「魚か、肉か。俺ぁ肉の方が好みかな。特に川の魚はちょっと、な」
 角笛を吹く誰かが彼らを嗾けるのを眺めながら『最期に映した男』キドー(p3p000244)はぽつりと言うのみだ。
 こちらからだと言わんばかりに足を踏みしめる2頭めがけ、圧倒的な先手を取って走り出す。
 強烈な魔弾の弾幕と走り抜ける獣達によって2頭は瞬く間にその身を傷つけられていく。
「なんかでっかい牛がいるね……! ユリアーナ君は牛は好きかい?」
「あぁ、もちろん。豚よりは牛の方が好きだね」
 『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)はユリアーナの言葉に続けるように2頭が飲んでいた小川に視線を向ける。
「そうか! ふふ! 仕留めて豪華ランチと行こう!
 小川にはエリザベスアンガス正純もいるかもしれないよ! 後で釣りもしてみよう!」
「エリザベス……?」
 マリアが続けて言えば、ユリアーナの顔には「なんだ、その珍妙な名前の何かは」――と書いてある。
「アーカーシュには新種の変な生き物や植物がいるんだ!」
「それは、面白そうだ。あれもその一種……なのだろうな」
 首を傾げていた彼女の視線の先には敵愾心バチバチの牛がいるのだ。
「ゼシュテル人的なセンスが光る名前だよね。他にもセイバー魚とか、あと風船鮫ってのも居るってさ!」
 『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が続ければ。
「なるほど……不思議なところだという事は分かった。
 もっと聞きたいところだ。ささっとあいつを倒すとしようか」
「イイね! 食いでがありそうだ! 捕まえよう! ゼシュテル式の闘牛の作法を見せてやるよ!」
 ユリアーナの言葉に頷いたイグナートは闘志を漲らせる。
「ゼシュテル式闘牛だと牛の角をショウメンから掴んで踏ん張って、押し勝ったら首を捻るようにして引き倒すんだよ!
 身を躱したり、武器を使ったりしたらその後の食事会でチキンと呼ばれて鶏肉しか食べさせてもらえなくなるんだ! タブンそんな感じだったハズ!」
 なんてことを言いながら、向かってきた牛を正面から真っすぐに突撃を食い止めてみせる。
「いいですわね! 私の武勇伝もたっぷりと聞かせてあげましょう!」
 そんな話し合いに頷いた『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は握りしめたメイスに力を込めた。
 突撃を仕掛けてくる牛に合わせるようにメイスを構えれば、思いっきり振り抜いた。
 真っすぐに走る角のやや下を滑るメイスが牛の顔面を思いっきり殴りつけた。
「何はともあれ、食前の運動としてちゃっちゃと倒して焼肉にするわよっ!」
 その手に握る炎の剣を長く引き伸ばし、『炎の剣』朱華(p3p010458)は思いっきり振り下ろした。
 真っすぐに走る炎が2頭の牛を焼きつけんばかりに振り抜かれる。
(未知の遺跡、か。またどっかの派手なアゴ……もとい大佐殿が好みそうな要素だ)
 『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が脳裏に思い浮かべるはあのいけ好かぬ特務とかいう奴らのことだ。
「何かを探すってのは楽しいことだ。アーカーシュの冒険は、文字通り『冒険者』向きの仕事だ。
 だから邪魔してくれるなよ。しゃしゃり出るなら、こっちも食らいついてやる」
「君は相変わらずこじらせてるね、ヤツェク君?」
 小さく呟いた言葉に返すようにコインから声が聞こえたのは聞かなかったことにするとしよう!
「毛皮や角は何か加工出来そうですぞ! 可能なら傷つけずにおきたいですな」
 前に出た『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)が短剣を振り抜き、闘志の糸が片方の牛を縛り上げた。
 続けるように動いた『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)がテートリッヒェ・リーベを振り抜けば、斬撃が1頭の牛を取り囲む。
 陣を形成した斬撃は牛の身体に複数の呪いを撃ち込んでいく。


 さほどの問題もなく、2頭の牛を倒したイレギュラーズは次に重要な局面に立っていた。
 そう、それは。
「誰もいないなら俺が捌こうか」
 ややの話し合いの末にキドーはどこからともなく包丁を取り出している。
「あっ、オレも出来るよ。サバイバルなら任せてよ! 調理? 塩とコショウだよ!
 ダレかまともな調理はマカセタ!」
「なら薄切りにしてスパイスの効いたソースをかけ、白パンで挟むか……」
 イグナートに対して、ヤツェクが頑張るか……と腰をあげる。
「ふむ……すまないが、よろしく頼む」
 暫しの黙考の後に申し訳なさそうにするユリアーナに頷いて、3人が動き出す。
「お肉もいいけどお魚もやっぱりアリよね?
 小川に魚影が見えるならパパっと捕まえたりできないものかしら。
 ほら、マリアのあの雷とか魚を捕まえるのに丁度良さそう……って、ダメ?」
 その様子を見ていた朱華が言えば。
「それじゃあ、私達は小川で釣りをしよう!」
 ぴょんと跳ねるようにマリアが動き出した。
「あまり広範囲にやると川の環境を変えてしまうかもしれないな。
 気を付けた方が良いだろう。……心配だから私も連れてってくれ」
「そうかい? それじゃあ、行こう! ヴァ――『ヴァリューシャ!』リューシャ……?
 あっ、前に私が発見したレインボーVDMトラオウムだ!?」
 聞き覚えある単語に顔を挙げれば、虹色っぽく見える体毛の鳥が『レインボー!』と鳴いて旋回しているではないか。
「今みたいにヴァリューシャ! とかレインボーってたまに鳴くよ! 誰のせいだろう?」
「何とも不思議な鳥だな……」
 陽光に目を細めながら呟いたユリアーナの隣でしきりに首を傾げるマリアだった。

 3人が小川に近づく頃――その小川には先客の姿がある。
「がぼぼぼ……」
 それは喉が渇いたからと先に動いていたヴェルミリオだ。
「おお、これは皆さん、お先に飲ませていただいておりました!」
 口元を拭いながらヴェルミリオが3人に声を掛ければ、ユリアーナが少しばかり心配そうにしているではないか。
「それはいいが……大丈夫なのか?」
「なぁに、魚もいるようですし、味も心地よいですし、いけるいける!
 万が一毒とかでも血意変換すれば大丈夫ですな!」
「ふむ、何が上流から流れてきているか分からないから気を付けるに越したことはないと思うが……大丈夫であればいいさ」
「こんなに綺麗だし、沸騰させれば大丈夫だと思うけれど……どうかしら?」
「うむ……恐らくは大丈夫だろう」
 懸念点をあげたユリアーナに朱華が告げれば、彼女は少し考えた様子を見せて頷いてくれた。


「さて! それでは早速、ユリアーナに聞かせてあげましょう。そう、私の武勇伝を!」
 魚取りと焼き肉が始まって少し、ヴァレーリヤはユリアーナと肩を組みながら酒瓶を掲げるようにして持っていた。
「あれは、とある浮遊島を訪れた時のことでした。森を抜けた先に現れたのは、雲を突くような巨人の群れ!
 それを私はちぎっては投げ、ちぎっては投げ……と、最後には彼らの方から……」
 あることないこと言い始めた彼女の隣では、いつものようにマリアも「そうだね! ヴァリューシャ!」と全肯定している。
「……ですので、貴方も安心くださいまし。幾多の冒険を潜り抜けた私達が、ジェントルかつエレガントにエスコートして差し上げますわー!
 大船に乗ったつもりでいてくれてよろしくてよ!」
「あぁ、助かる。私はこの件については何も分からないからな」
「むむっ……なんですのその目は! さては信じていませんわね!?
 私が言っているのですから、本当にあったに決まってございますわ! このお酒飲みなさい!!」
 いつもの酔い方で酒瓶を押し付けるようにしてグラスに分けた酒をぐいぐいと飲ませていけば、受け取ったユリアーナにグイッとあおられる。
「ふむ、良い酒だね。これはどこで……」
「でしょう! これはですね……」
 そのままヴァレーリヤがお酒について語り始めれば。
「その様子じゃあ、鉄帝内の派閥がどうこうって話題にも疎そうだな?
 まあ俺は鉄帝民でも軍人でも何でも無いからとやかくは言えねェが、パトリック・アネル特務大佐とかいう男には気を付けた方が良いかもな。
 個人的には俺好みの野心と強欲さの気配がして気に入っては居るんだけど」
 その様子を見ながらキドーが声を掛ければ、それに気づいたらしいユリアーナが顔を挙げてくる。
「特務……ふむ、特務か。私を呼び出したのはたしか特務ではないからね、引き続き近づかないようにしておくよ。ありがとう」
 特務と聞いて、ユリアーナは少しの間だけ沈黙する。
 一瞬ながら警戒の色を浮かべて眼を閉じた後、反芻してから頷いた。
「それにしても、ここには本当に色々な……訳の分からない生き物がいるようだ。
 少し川に行くまでにも色々とあってしまった……」
 串焼きにしているトリコロールカラーの魚をしげしげと眺めるユリアーナにヴェルミリオが顔をあげる。
「ペシェ・ヌンムスですな! 香ばしい匂いもですが、ジューシーで美味しいでしょう!」
 ヴェルミリオが名付けたその魚にユリアーナは満足そうに頷いてもう一口ほおばっている。
「そちらはスケさんが名付けたのですぞ!
 おお! アーカーシュ! 未知なるアーカーシュ! 白紙の地図をうめる高揚感~銀閃の乙女と我らを未踏の地へと導きたまえ~
 おっと、ユリアーナ殿、改めてご挨拶を。スケさんはヴェルミリオと申します。
 未知と冒険が大好きなただの骸骨ですぞ~どうぞよしなに」
「あぁ、よろしく頼む。ユリアーナだ」
 頷いた彼女に陽気に笑って見せれば、ユリアーナもつられるように笑っている。
「そうね、朱華達も調査に出るたびに新しい発見があったりするのよ。
 この牛……牛で良いのよね? これも初めて見るタイプだし。
 だから教えてくれって言われても、こちらもまだ知らない事ばかりなのよ」
 スライスされた一角牛の肉を箸でもちあげた朱華は、そのままそのお肉を頬張る。
「実際にこの小川だけでも初めて見る生物を幾つか見た後だと説得力があるな」
「そうでしょう? ……それにしても美味しいわね。火を通した後はすごく柔らかいわ」
 確かに口に入れて噛み締めるまでは触感のあった肉は文字通り溶けるようにホロホロと崩れる。
 かといって、脂がすごいかと言われれば、そういうわけでもないのが不思議なところ。
「この牛にも名前付けようよ。ジュリアナ一角牛とかどうだろう? 今度ヤキニクパーティとか開いてミンナで食べたいね!」
「それは名案だが……どうして私の名前に……?」
 この後のことも考え、少しばかりセーブして休憩していたイグナートが言えば、ユリアーナからきょとんとした顔が返ってくる。
「え? セッカクだからユリアーナも名前付けたいかなって!」
「あぁ、なるほどな。ありがとう。でも私の事は気にしなくていい。
 折角ならば君が良い名前を考えてやると良い。私よりも君達の方があの牛も浮かばれるさ」
「そうかい? それじゃあ、どうしようかな」
 イグナートはそのまま少しばかり首を傾げる。


「……そういえば、君は食べなくていいのか? たしか……ハイン君か」
 昼食パーティと化していたその場を静かに眺めていたハインは、不思議そうに声をかけてきたユリアーナに首を振る。
「結構です。ボクに食事をする機能はありませんので」
「そうなのか……それはすまないな」
 戦闘用の個体として設計された自身にとって、食事をする機能は存在しない。
 不思議そうにしてたユリアーナが謝罪と共に隣に座ってくる。
「いえ、お気になさらず」
「食事をせずということは、何をしてたのだろうか」
「皆さんを観察させてもらっていました。
 何気ない日々の営みの中にこそ、人間性はその妙を見せます」
「なるほど……つまり?」
「知識、信仰、芸術、道徳、法律、慣行……人々が『文化』や『文明』と呼ぶものには、一見すると無意味に見えるものも多いです。
 しかし、それは違います。文化や文明の発展は人々の精神の発展なのです。
 この世に無意味なものはありません。いえ、正確に言えば全てが無意味です。
 ボクはイレギュラーズとしての活動を通じ、無意味から意味を見出し、取り出すことの意義を学びました」
 すごい澄ました顔しながら、その実はなにも分かって無さそうな女に説明し終える。
「よく分からんが……私達の食事風景を見ていたということか」
 結局なにも分かってないらしい女に、ハインは諦めて頷くと、話を変えることにした。
「遺跡の調査でしたね。ボクはその遺跡を――この浮遊島を造った者がどのような文化や文明を持っていたのかを知るのが、とても楽しみなのです。
 特にどのような日常を過ごし、どのような食事をし、どのような娯楽を楽しんでいたのかには、興味が尽きません」
「なるほど……そういうことならわからなくもない……気もする」
 そう言ってユリアーナが頷くのを見ながら、ハインはゆっくりと立ち上がった。


 食事と小休止を済ませたイレギュラーズがそのまま足を進めていくと直ぐにその遺跡は姿を見せる。
 森を突っ切り開けたそこには石かセラミックを思わせる硬質な建築物がぽつんと佇んでいる。
 石畳を裂いて伸びる木々と苔むしていることを除けば、その遺跡は明らかに浮いている。
 ヤツェクはその中へ入ろうとするメンバーを呼び止めた。
「E-A、準備は良いか?」
「全く、君は私を撮影機か何かと思っているのかい? そんなもの、とっくにできている」
 ヤツェクがE-Aを連れてきた理由は1つ。日付入りで遺跡内部に関する情報記録を作らせるためだ。
 2度も行くのは面倒だし、後で調査をし直す時にも楽――とまぁ、そんな理由だが、何より『先に見つけた物的証拠』になるからだ。
 たとえ、今日に遺跡を踏破することが叶わなくともある程度こっちが先に調べて見つけたのだという形を付けるためだった。
 ローレットに通された依頼は、やろうと思えば映像で残る――とはいえ、やっておいて損はあるまいという考えだ。

 足を踏み入れ、暫しの直線を突き進んだ先、それは宙に佇んでいた。
 それは言い表すならば光の権化であった。
 尋常じゃない光で照り付けられるその存在は人のような姿でありながら、翼も何もなく宙に浮かんでいる。
『珍しい客人ではありませんか』
 脳へと直接語り掛けるような不思議な声でそれはこちらに意思を伝えてくる。
『お待ちしていました。どれくらい待ったかなどとうに忘れましたが……長く待っていました』
 それは平然とそう告げる。
『我々は貴方達のような者達を待っていました。恐ろしき者を滅ぼす、大地の子らよ』
「アンタ、精霊か?」
 キドーは思わずつぶやいていた。
 精霊との意思疎通を図る己の技能がある種の予感となっている。
 だがとてもではないが操作などは出来まい――操作をするにはあまりにも『強大』すぎる。
『試練を超えなさい。さすればきっと――あれにも勝てるでしょう』
 そう語り掛けてくるや光は遺跡にとけるように消えた。
 暫しの間警戒をしていたものの、何の反応もない。
 一歩一歩前へ進んでいく。
 やがて別の部屋が1つ見えた。
 扉に触れた刹那――手が文字通り『燃えた』
「――ッ! とんでもなくアツいよ! ここ!」
 それに触れたイグナートは思わず声をあげる。
 だが、罠の一種というわけではない。
 単純に扉の奥の熱の分だけで手が燃えたのだ。
「蹴破る?」
「朱華に任せて」
 扉に触れた朱華は、一歩前に出た。
 扉が奥へと横に開き――その向こうで紅蓮の業火が立っていた。
 奇襲気味に放たれた炎の弾丸が朱華に迫れば、炸裂した炎を体力だけで受け止め、刹那――扉が音を立てて閉まった。
 また、ある部屋の前では触れた刹那に稲光が走り腕が痺れ。
 ある部屋では触れた扉が泥のように掴めず身体が沈んだ。
 ――そして、唯一開かない扉があった。
「とんでもない冷気だな……触れたら凍っちまうだろう」
 ヤツェクの呟きに一同は頷きあう。
 他3つの部屋は幸い、それらに耐性を持つ者がいて潜り抜けた。
 ただ――氷だけは、今の面々にはどうしようもない。
「先に進もう! まだ部屋はあるみたいだよ!」
 そういうイグナートに続くように、イレギュラーズは進む。


 しんと静まり返っていた。
 そこには業火はなく、雷光はなく、泥沼はなく、凍土はない。
 ただ、明らかに破壊されたゴーレムらしき物がいくつか転がっている。
 自身の脈動、呼吸はおろか隣のそれすら聞こえかねない無音の中で、その場所はただそこにあった。
 入ってきた入り口の正面、奥にもう一つ扉があり、そこからは嫌な空気が漂っている。
 まるで開けてはならないかのように。
『汝、霊核を示せ』
 扉の上にはそんな文字が記され、文字の上には壁画がある。
 警戒を緩めず奥へと進んだ面々は、結局何もなく扉の前までたどり着いた。
「なんだか、とてつもなく高価なもののように思えますが……」
 その壁画をじっと見つめるハインはその価値を見出していた。
 それは1つの大地を4つに分割したかのような絵だった。
 1つは燃え盛り、1つは凍土が広がり、1つは雷霆が降り注ぎ、1つは湿地帯が無限に広がるような。
 その中央には煌々と輝く光があり――その光によってより濃い闇が形成されていた。
 なにか濃い、泥のようなが羽ばたこうとしているようにもみえた。
『……霊核を示さぬのですね』
 そんな声が聞こえて、振り返る。
 気づけばそこには、最初の部屋でみた光の権化が浮かんでいた。
『出直してください。どうか――私が保つ間に』
 そう言った光は淀むような黒を滲ませ、扉の奥へと消えていった。

成否

成功

MVP

フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。
MVPは壁画を読み解いた貴方へ。

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