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シナリオ詳細

<タレイアの心臓>眠れる獅子王。或いは、全ての止まった王の室…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●長い眠りの獅子王
 暗い暗い夢の縁。
 どれだけの間、眠り続けていただろうか。
 自分の名前も、自身の起源も、何もかもは忘却の彼方へ消え去った。
 なにもかもを忘れてしまえば、それが何より幸福であると知っているのだ。
 熱意も、希望も、鍛えた技と猛き誇りも何もかも。
 いずれは儚く消えて無くなる。
 失意も、恨みも、絶望も……報復の果てにそれさえ失い、後にはなにも残らなかった。
 だから、彼は何もかもを忘れることに決めたのだ。
 本当なら、このままいつまでも……世界が滅ぶその日まで、眠り続けるはずだった。

 深緑。
 大樹ファルカウを中心とした大森林……迷宮森林の一角で、それはじっと微睡んでいた。
 黒い毛並みに、骨の浮き出た痩せた体躯。
 艶を失った鬣を備えるその獣種は、まさに眠れる獅子である。
 怠惰のカロンの指示に従い、彼がこの地へ訪れたのはほんの少し前のこと。
 痩せた脚で大地を踏みしめ、さも面倒だと言いたげな様子で、彼は森を踏破した。そして、迷宮の一角……一際、静かな場所を選んで、氷の玉座を造りだした。
 長身痩躯の獅子はゆっくり玉座に座ると、はぁ、と乾いた吐息をひとつ。
 なにも語らず、なにも聞かず、なにも見ようともせぬままに。
 彼は周囲を、雪と氷で覆い尽くしたのである。

●時の止まったの王の室
「迷宮森林の一角を氷の壁が塞いでいるっす。より正しく言うのなら、氷の部屋……まるでお城にあるみたいな謁見の間っすね」
 そう言ってイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は上辺の空いた箱を両手で形作る。「凵」の形状と言えば分かりやすいか。
「最奥部には玉座が1つ。獅子王と呼ばれる魔種がそこで眠っているっす。それから凵の上辺に当たる部分は現在も拡大中。巻き込まれた幻想種の人たちが、氷像となって多く囚われているっすね」
 謁見の間の入り口に当たる部分は広く開かれている。
 むしろ、徐々に拡大を続け、次々と間に人や森を飲み込み続けている状態だ。
「謁見の間が進行の邪魔になるのはもちろん、被害の拡大を防ぐためにも無視しては通れ無いっすよね。とはいえ、そう易々と通してくれる相手のようにも思え無いっすけど」
 先にも述べたように、獅子王自身は玉座に座して眠っている。
 けれど、獅子王の安眠を守るかのように3体の騎士がそこに居るのだ。
「3体の騎士は雪で出来てるみたいっす。それから、それぞれ剣、盾、鎧を身に着けているのが特徴っすね」
 剣を持った騎士は【必殺】【滂沱】を備えた斬撃を。
 盾を持った騎士は【BS無効】と【ブレイク】【飛】を伴うシールドバッシュを。
 鎧を纏った騎士は【反】と【絶凍】【崩れ】を伴うオーラを放つ。
 それぞれ、姿形は獅子王に似ているものの、有する特性は異なっている。
「3体の騎士を倒せばそれで終わりっすかね? それとも、3体を倒したら獅子王自身が起きてきたりするんっすかね?」
 そう言ってイフタフは首を傾げた。
 獅子王自身は眠っているが、だからといって易々と突破できるわけでは無さそうだ。

GMコメント

●ターゲット
・怠惰の獅子王
2メートルを超える長身に、ガリガリに痩せた身体。
彼は全てを忘れてしまった。
自分の名前も、過去の誇りと栄光も、己の起源さえもすっかり忘却の彼方へ消え去った。
その身はもはや、世界の滅びをまつだけの一介の魔種に過ぎない。
そうして彼は長い間、1人静かに眠りについていたのである。しかし今回、カロンの指示によりファルカウへ繋がるルートの1つを封鎖するために深緑の地へ訪れた。
獅子王自身は眠ったまま動こうとしないが、彼の周辺を守るように「獅子王の鎧」「獅子王の盾」「獅子王の剣」と呼ばれる3体の騎士が立ちはだかっている。

・獅子王の鎧
白銀の鎧を纏った雪人形。
姿は獅子王を模したものらしいが、鎧を纏った騎士は常に王の前に控えている。
動きは非常に俊敏で【反】を持つほか【絶凍】【崩れ】を備えたオーラを発する能力を持つ。

・獅子王の盾
白銀の大盾を持った雪人形。
姿は獅子王を模したものらしいが、盾を持った騎士は仲間や王の護衛を優先するようだ。
非情に頑丈であり【BS無効】と【ブレイク】【飛】の効果を持った衝撃派を放つ。

・獅子王の剣
白銀の大剣を持った雪人形。
姿は獅子王を模したものらしいが、剣を持った騎士は非常に好戦的だ。
【必殺】【滂沱】を伴う斬撃を放つ。

●フィールド
大樹ファルカウへと繋がる通路。
獅子王の影響により、まるで氷で出来た謁見の間といった有様へ変容している。
床も壁も氷で形成されており、吹雪による【氷結】の状態異常を受ける。
広さは半径20メートルほど。
最奥の玉座に獅子王は座して眠っている。
また、謁見室の広さは徐々に広がっており、室内には謁見室に囚われて凍り漬けになった幻想種たちの姿が散見される。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●『夢檻』
当シナリオでは<タレイアの心臓>専用の特殊判定『夢檻』状態に陥る可能性が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <タレイアの心臓>眠れる獅子王。或いは、全ての止まった王の室…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
節樹 トウカ(p3p008730)
散らぬ桃花
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎

リプレイ

●凍える玉座
 真白い部屋の最奥。
 玉座に座る巨躯の男は痩身だった。
 身体に張り付く霜の層さえ意に介さず、彼は目を閉じ、静かに眠り続けている。
 凍てついた金のたてがみに、獣の顔から彼が獅子の獣種であることが分かった。
 否、獅子の獣種であった……というべきか。
 今の彼は“怠惰”のカロンに従う魔種の1人だ。
 大樹ファルカウを中心とした大森林……迷宮森林の一角に王の部屋を形成し、眠ったままイレギュラーズの進行を阻む1人の魔種。
 そんな王に付き従うは、王の分身たる3体の雪の騎士たちだ。
 1体は剣を。
 1体は盾を。
 1体は鎧を。
 がちゃり、と。
 以外なほどに微かな音を立て、3体の雪騎士たちが身構える。
 雪騎士の視線の向いたその先には、8人の戦士が立っていた。

 開戦の合図は、声にならない咆哮だった。
 剣を手にした雪騎士が、姿勢を低くし滑るように疾駆する。
 その背後から、盾持ちが続き……鎧を纏った騎士は獅子王の前を動かない。
 侵入者と見るや、誰何さえなく排除へ移る。
 素早く、そして連携の取れた動きだろう。
 けれどそれは想定された行動だ。
「うーん、凍ったり燃えたり忙しいですねぇ。いや燃やしたのは僕たちの側なんでしたか……?」
 王の剣を受け止めたのは、ぴょんと跳ねるように前へ出た巨大たい焼き……『不屈の障壁』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)だ。吹雪とともに一閃された斬撃が、ベークの胴を深く抉る。
 飛び散った餡と、勢いのまま地面に叩きつけられるベーク。
 半端な者なら、この一撃で胴が2つに分かれていたかもしれないほどの、必殺の威力を秘めた一撃に、しかしベークは「慣れたもの」と言わんばかりの表情でもって耐えて見せたのである。
 氷の床に、ミシと浅い亀裂が走る。
 ベークの胴に燐光が灯り、抉れた傷がじわりと再生していった。
 構わず雪騎士はさらに1歩踏み込むと、床に刺さっていた剣先を跳ね上げる跳ね上げるようにして一閃。
 ベークの身体に、2度目の斬撃を叩き込む。
 一撃が重い。
 跳ね上げられたベークを、雪騎士は見上げ声にならない咆哮をあげた。
 落下してくるベークを一刀両断すべく、大上段に剣を構える。
 小細工は無し。
 全身全霊を込めた斬撃を放つ構えには、ある種の神々しささえ感じる。
 けれど、しかし……。
「そこをお通しください、ませ!」
 壁を蹴って、跳んだ白い影が1つ。
 『とべないうさぎ』ネーヴェ(p3p007199)の蹴撃が、雪騎士の側頭部を狙う。
 真空の刃を義足に纏わせた蹴撃……タイミングも、速度も上々だ。
 空気を切り裂き、迫るネーヴェの蹴撃に雪騎士は反応できなかった。
 剣を叩く掲げたまま、そちらを一瞥さえもしない。
 なぜなら、雪騎士は知っていたから。
 いかなる攻撃も、自分の身を傷つけることは無いと。
「っ……!? 弾っ」
 キィン、と響く甲高い音。
 最低限の動作で割り込み、ネーヴェの蹴りを受け止めたのは盾持ちの騎士だ。
 獅子の意匠が刻まれた大盾が、ネーヴェの蹴りを防ぐ。
 シールドバッシュ。
 弾き飛ばされた小さな体が、氷の壁に激突する。

 想定通り。
 ベークは斬られ、ネーヴェは遠くへ弾かれた。
 元より魔種が、自身の護衛を任せるほどの騎士なのだ。相応の苦戦やダメージは覚悟のうち。ゆえにここまでの応酬は、すべて想定内なのである。
 そして、想定内の出来事が幾ら積み重なろうとも、慌てる理由にはならない。
 着実に。
 作戦通りに、事を成せばそれでいい。
 だからこそネーヴェが弾かれた瞬間に『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)と『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)は、同時に地面を蹴っていた。
 左右に分かれた2人の向かう先には、大上段に剣を構えた雪騎士の姿。
「武具を持ったパーフェクトな獅子王にも興味はあるが……遊びじゃねぇからな。さっさと片付けさせてもらうぞ!」
 右からはニコラスの振るう漆黒の剣が。
「ワルイけどアタシ、すっごく燃えちゃう女だから? 停まってるのは性に合わないの! 溶かしてやるよ、アナタの世界!」
 左からは、全身を業火に包んだ京が迫る。
 左右から同時に放たれた剣と拳は、けれど刺し込まれた大盾によって阻まれた。
 火花が散って、衝撃が吹き荒れる。
 京とニコラスを盾で弾いた雪騎士は、1歩前へと踏み込むと『散らぬ桃花』節樹 トウカ(p3p008730)へ視線を向ける。
 顔の高さへ掲げた盾へ、トウカが拳を打ち付けた。
「よぉ、これから終わらせなきゃいけない相手に思う事じゃないが……どうせ寝るならこたつとか作り出して寝た方があったかいと思うんだが。暑がりかね?」
 衝撃が盾を突き抜けて、雪の身体を震わせた。
 しかし、雪騎士は1歩たりとも後退しない。
 
 振り下ろされた大剣を、ベークは腕を交差し捌く。
 裂けた皮膚から鮮血が散って、衝撃で骨がミシと軋んだ。
 肉と骨とにダメージは負ったが、その甲斐あってほんの一瞬、雪騎士の動きに隙が生まれる。地面に落ちるベークの真下を潜るようにして、刀を下段に構えた『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が疾駆する。
「獅子王と呼ばれるからには、かつては高名な武人だったのでしょうか?」
 呟くような問いかけに、雪騎士は答えを返さない。
 ルーキスは雪騎士に肉薄すると、躊躇なく渾身の斬撃を見舞う。
 一閃。
 ルーキスの刀が、雪騎士の胸部に深い裂傷を刻む。

「これは『怠惰』の魔種としての能力か、それとも付喪神にでもなったのか……」
 瞳を赤く光らせながら『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)はそう告げた。
 彼の傍らには、氷に囚われた女性の姿。
 獅子王の間の至るところに、同じようなものが幾つも乱立している。
 徐々に範囲を増す謁見の間に、捕らわれた幻想種たちだ。氷の中にいる彼女らは、きっともはや生きてはいない。
 だからといって、戦闘に巻き込み遺体を損壊させるのは、いくらなんでも惨すぎる。
「眠りながらにして、周囲を凍てつかせる。ならば戦闘態勢に入れば、どれほどの脅威となるのかしら。成程、眠れる獅子を起こすべからずという訳ですわね」
 『星の巫兎』星芒 玉兎(p3p009838)の掲げた右の手に、煌と魔力の灯が灯った。
 次第に輝きを増すそれは、解き放たれる瞬間を今か今かと待っている。

●長い夢の果て
 剣と盾のぶつかる音を、耳にしたのはいつぶりか。
 懐かしい、とそう思わずにはいられない。

 拳と蹴りを織り交ぜながら、京が辺りを駆け回る。
 燃える拳が盾に阻まれ、握った拳に血が滲む。
 渾身の力で振り上げた蹴りは、インパクトの瞬間をずらされたことで十全な威力を発揮できない。
 シールドバッシュに弾かれて、京の身体が床へと叩きつけられた。
「がぁっ……まだまだぁ! 寝坊助の獅子王さん、いつまでアタシを無視できるかしら!」
 転がるように距離を取って京が起きる。
 じゅう、と流れる血潮さえ、炎に炙られ赤い蒸気となっていた。
 盾持ちの防御技術は大したものだ。
 素早く軽い攻撃は受け止め、威力を重視した重い一撃はいなして弾く。訓練だけでは身につかぬ、長く戦場に立ち続けてこそ、やっと習得できる技術だ。
「どこまでも、しつこく、追い回します!」
 けれど、いかに防御技術に優れていても数の有利には適うまい。
 右へ左へと跳びはねながら、ネーヴェは次々と真空の刃を蹴り出した。その大半を盾持ちは防ぎきるものの、幾つかがついに胴や肩を抉るに至る。
 何度も何度も攻撃を受け続けた雪騎士の身体は、次第に元の形状を失っていった。

「知りたい情報は幾らでもあるが……主を起こす訳には行かないだろうしな。それに、どうせ口は利けないだろう」
 そう告げて、錬は床へと落とした式符へ手を翳す。
 式符を中心に広がる魔力の紋様。
 ごう、と赤黒い炎となって渦を巻き、形成したのは火炎の大砲。
「どれだけ硬くてもこの炎の前に守りきる事は出来ないぞ……!」
 砲撃を察知し、イレギュラーズは雪騎士たちの前から退いた。
 剣を構えた雪騎士を、庇うように盾持ちが前へ。
 大盾の下部を床へ突き刺し、両の脚で氷の大地を踏み締める。
 刹那。
 轟音とともに、業火の砲弾が撃ち出された。

 錬の放った業火の砲は、床や壁を砕き、溶かした。
 水蒸気の立ち込める中、しかし雪騎士は立っている。焦げた大盾を構え、仲間たちを背に庇い、しかしその身はほとんど原型をとどめていない。
 辛うじて、右腕かた頭部にかけてが残っているだけ。
 それでも、盾を掲げ続けたという事実には賞賛と恐怖を禁じ得ないが……。
「思ったんだがよ。獅子王は過去を忘れてたとしても……お前ら武具達はどうなんだろうな。王と一緒に歩んだ軌跡を忘れてる。なんてことあるのかね」
 俺はそう思えねぇ。
 独り言にも似た呟き。
 一閃された漆黒の剣が、盾持ちの首を叩き斬る。
 がらん、と床に転がる大盾へ視線を向けることもなく……ニコラスは黙って、眠り続ける獅子王を観た。

 幾つもの戦場を超えて、王はただの1度さえも倒れなかった。
 王の偉業は、常にその剣と盾と鎧と共に語られる。
 けれど、今日……その一角が、いかなる剣も矛も通さなかった大盾が落ちた。
 剣を握る雪騎士は、怒りに任せ前へ前へと斬り込んだ。

 ニコラスの胸部を、大剣による一撃が裂いた。
 防御に回るベークを蹴って払いのけ、下段より放たれたルーキスの刀を受け流す。
 ルーキスと雪騎士の身体が交差。
 すれ違いざまに、両者は得物を振るっただろう。
「ぐぅ……こ、これだけの力を持っていながら、何故堕ちてしまったのか」
 ルーキスの刀は、雪騎士の顔面に裂傷を刻む。
 一方、雪騎士の剣はルーキスの肩から腕を裂き、骨にまで罅を走らせた。
 口の端から血を吐きながら、ルーキスは背後を振り返る。
 そこには、剣を高く掲げる雪騎士の姿。
 回避も、防御も間に合わない。
 衝撃に備え、歯を食いしばるルーキスの前にトウカが立った。
「ここの自然は凍ったが……凍らず散らぬ桃の花はここにあり!」
 振り下ろされた大剣を、桜の木刀で受け止める。
「おぉっ!」
 木刀の腹で剣を受け流しながら、握った拳を騎士の顔面へと撃ち込んだ。
 よろけた騎士が後ろへ下がる。
 そうしながらも剣を振り上げ、次の攻撃の姿勢を取った。
 猛々しい獣の王の戦い方がそれなのだろう。
「盾は! まだ運びだせないのか!」
「……随分と重たいのか。王に引き寄せられているのか」
 トウカの叫びにルーキスが応えた。
 馬と陸鮫、それから京やネーヴェも加わり、盾に結びつけた紐を引いているのだが、獅子王の大盾はほんの僅かずつしか動いていないのだ。
 盾を奪い返すつもりか、それとも目の前の敵を斬り伏せるためか。
 剣を構えた雪騎士が再び前進を開始した。
「耐えるしかなさそうですかね。では、持久戦に付き合っていただきますよ……食欲ないですよね?」
「雪が何を食うっていうんだよ」
 なんて、軽口を交わすベークとトウカが雪騎士の剣を受け止める。
 防戦一方というわけでも無いが、いかんせん雪騎士の戦意が高すぎた。ダメージを厭わず、ただがむしゃらに剣を振るうその姿は、まさに戦鬼といったところか。
 しかし、盾持ちに比べるとその動きは単調だ。
 目の前の敵を斬り伏せることにだけ意識が向いているのだ。
 だからこそ、玉兎が肉薄する隙も生まれた。
「剣も盾も鎧も、雪人形には過ぎたる品というものです。襟巻きや手袋を身に着け、水桶でも被っているのがお似合いですわ」
 吹雪に紛れ、音を殺して、彼女は雪騎士の横へと移動していた。
 燐光を灯す手を、雪の身体へと触れて。
 解き放たれるは、極限にまで練り上げた魔力の砲撃。
 閃光が、辺りを真白に染める。
 ここまでの戦闘で傷ついていた雪騎士の身体が、それに耐えられるはずもなく……。
 大剣を残して、雪騎士の身体は粉々に砕け散ったのだった。

 残るは獅子王本体と、鎧を纏う雪騎士のみだ。
 未だ眠る獅子王に代わり、前へと出たのは鎧の雪騎士。
 これまで2体に比べると、その動作は俊敏だ。足音も立てずに歩を進め、僅かな身じろぎにさえ鋭く反応を示す。
 野生の獣……とくにネコ科のそれを彷彿とさせる。
「如何なる流浪の果てに、此処に辿り着いたのか存じ上げませんが。現に人を脅かす魔種ならば祓うのみです。どうか眠ったまま、安らかに逝かれますように」
 手に魔力の光を灯し、玉兎は眠る獅子王へ、そう言葉を投げかける。

●獅子王のプライド
 一気呵成に攻め立てる。
 盾は護りを、剣は攻めを担っていた。
 鎧の持つ役割も、王の盾と似たものだ。違いがあるとすれば、鎧の動きが盾に比べて俊敏であることぐらいだろうか。
 どちらかというと、防御よりも回避や戦闘の補助といった役割を担っているらしい。
「獅子王ねぇ。お前は何を見て何を聞いて何を感じてきたんだろうな。その全てを忘れちまおうなんて思っちまうくらい辛いことでもあったのかね」
剣を振るいながら、ニコラスは問うた。
 当然、答えは返ってこない。

 吹雪の勢いが増した。
 鎧の放つオーラに呼応するように、ごうと視界が真白に染まる。
「吹雪の影響範囲も徐々に広がっている事ですし、疾く祓うとしましょう」
 そう言って玉兎は、鎧へ向けて虹色に輝く魔光を撃った。
 魔光の直撃を受けた鎧が、数歩ほど後退る。
 接近戦で鎧に挑むニコラスやルーキス、トウカは反射ダメージによって傷だらけだ。
「あー、だめだ。ぶん投げてやろうと思ったけど、投げられない!」
「先に鎧を倒した方が早そうですね。ところで……万一師子王が目覚めるとかそういうことがあった時は?」
「騎士がいなくとも、王が戦うのであれば……全力で、相手しましょう」
 剣と盾の排除を止めて、京、ベーク、ネーヴェの3人も攻勢へと回る。
 手数に対して、鎧の雪騎士は単騎。
 決着は近い。

 刹那。
 鎧の懐へトウカが肉薄。
 鋭いジャブを、顎へと見舞う。
「恨みはないが……このままだと幻想種さん達が凍死しそうだしな」
 頑丈な鎧を纏っていようと、その身は雪で出来たものだ。
 本来であれば、獅子の鬣が頭部を守るのであろうが……雪で形を模しただけの現状では、獅子王本体ほどの防御力は期待できまい。
 一閃。
 ルーキスの刀が、雪騎士の首へと食い込んだ。
「かつては武人としての誇りを持っていた筈。その頃の貴方と戦ってみたかった」
 強く、1歩踏み込んで。
 刀を横へと薙ぎ払う。
 サクリ、と。
 雪が飛び散って……雪騎士の首が、床へと落ちた。

 3体の騎士は討ち取った。
 残るは獅子王、1人だけ。
 玉座に座したまま眠る王が、ゆっくりと金の瞳を開く。
 くぁ、と大きく欠伸を1つ。
 次いで、獅子王はごうと大音声で吠え猛る。
「っ……全く、武具たちに任せて眠る事を選んだならそのまま永眠しておけばいいものを!」
 式符を構えた錬が言う。
 形成するは火炎の大砲。
 王が動き始める前に、錬は業火の大砲を放つ。

 熱波が吹き荒れ、氷の王室を溶解された。
 水蒸気と吹雪の舞い狂う中、獅子王はついに玉座を立った。
 そんな彼の足元には、剣と盾と鎧が転がっている。
 待ちわびていた王の帰還を迎える従者のように。
「あぁ……忠道、大儀であった。ゆっくりと休むがいい」
 そう言って獅子王は、鎧を手に取り身に纏う。
 次いで、盾を持ち上げて……最後に残った、剣を掴んで引き抜いた。
「“怠惰”め……このような者たちがいるのなら、先に言ってくれれば良いものを」
 そう言って獅子王は口角を吊り上げて笑う。
 視線の先には、傷つきながらも未だに戦意を滾らせるイレギュラーズの姿があった。
 良い気迫だ。
 かつて駆け抜けた戦場にも、こういう目をした者が大勢いたことを思い出す。
 そして、獅子王はそのすべてを打ち倒して来た。
 獅子王の後には、群れの仲間たちが続き……しかし、もはや仲間は1人も残っていない。
 かつての栄光。
 忘れようとも、忘れきれない、楽しくも、忌まわしき日々の記憶。
 考えないよう、思い出さないよう、眠ることにして……どれだけの時間が過ぎたのか。
「この戦は貴様らの勝利だ。敗者たる俺は、大人しく身を引こう」
 鎧と剣と盾とを身に着け、王はくるりと踵を返す。
 その背へ向けて、ネーヴェは真空の刃を放った。
 けれど、獅子王は振り返ることさえせずにそれを盾で払う。
「……戦う気は、ないのですね」
 歯を食いしばりネーヴェは呟く。彼女の声が聞こえていないのか、それとも敢えて無視を決め込んだのか。
 痩せた身体に似合わぬ堂々たる足取りで。
 敗戦の将らしからぬ、清々とした足取りで。
「お前とお前……そしてお前か。いずれまた、どこかで相まみえよう」
 ベーク、ルーキス、ニコラスの3人を指さして、獅子王は最後にそう告げた。

 後に残るは半壊した氷の王室。
 それから、氷漬けの幻想種たち。
「……兵どもが夢の跡ならぬ、獅子王が夢の跡、ですね」
「いずれまた、って言ったわよね? 本気にさせてくれたわね、覚悟しなさい! アタシの脚は、とっても熱いんだから!」
 刀を仕舞うルーキスは、獅子王が消えた方向へ視線を向ける。
 一方京は、獅子王の去って行った方向へと戦意に燃える眼差しを向けていたのであった。

成否

成功

MVP

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者

状態異常

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)[夢檻]
防戦巧者
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)[夢檻]
名無しの
ルーキス・ファウン(p3p008870)[夢檻]
蒼光双閃

あとがき

お疲れ様です。
獅子王の騎士は討伐。
目を覚ました獅子王は、どこかへ立ち去って行きました。
氷の王室を突破……依頼は成功です。
次なる戦場へ進行しましょう。

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