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シナリオ詳細

<タレイアの心臓>灰釉に消ゆ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●観測者
 それは人々が寝静まっている夜半に唐突に起きた。
 樹上のツリーハウスで眠る何名かがむくりと身を起こし、裸足のままぺたりぺたりと歩いていく。瞳は閉ざされたまま。けれども起きている時と同じ動きでスルスルと梯子を下り、里から出――暗い森の中へと消えていった。
 ノームの里の人々は気付かない。『眠り』に苛まれていない者たちはみな、今は地下を生活の拠点としているからだ。
 離れた樹上で前脚に顎を置いていた炎の獣が、眠った人々が動く気配に頭を上げる。丸みを帯びた小さな耳をぴくりと動かし、スンと鼻を鳴らしてから見遣るは東――大樹ファルカウ。

 ――力の有無を見ようと思っていたが。

 屹度、此処に集っている特異運命座標たちは彼奴等を追うことだろう。
 炎の豹めいた獣は大きく伸びをして立ち上がると、眠ったままふらふらとファルカウへと向かう人々を追いかけて暗い森の中へと消えていった。

●日々是万華鏡
「フラン、大変だ!」
 いつだって事件や情報は、突然飛び込んでくる。
 ノームの里は今、地下部分で護りの術を交代制で受け持ち、茨を寄せ付けない安全地帯を維持していた。イレギュラーズたちが物資の支援も行ってくれているため、元通りとは言えないものの安定した生活を送ることが叶っていた。だからフラン・ヴィラネル(p3p006816)がずっとしてみたいなと思っていた、幻想でお世話になっているパン屋さんで焼いてもらった美味しいパンを、おかーさん特製の野菜たっぷりシチューに浸して食べる。そんなことだって可能で――けれどもそんな幸せな時間は、突如崩れ去ったのだ。
 本人の想像の範疇外で扉が大きな音を立てたことに気が付いたマルク・シリング(p3p001309)は、食事中であったフランを始めとしたヴィラネル家の面々へと騒ぎ立てて済まないと頭を下げた。
「あらマルクくん、おはよぉ。ご飯食べていく?」
「今朝も見回りをしてくれていたのだな。何か異変が?」
「ど、どうしたの?」
 お玉を手にフランのおかーさんのミュスカがおっとりと笑み、娘にくっつく虫ではないとマルクを認識しているおとーさんのレザンは娘に勧めようとしていたハーブティーを、マルクくんもどうかと勧めた。
 これはとても余談ではあるのだが……レザンは最近、娘の様子がどうにもおかしいことに気付いていた。しょんぼりとしたり、どこか遠くを見たり、先程だって少しぼんやりとシチューを見ていた。その姿はまるで失――いやいやいやいや、『パパの可愛いフランに限ってそんなはずはない』。まだ早いし、もし万が――いや、億が一あったとしても、娘を袖に振る者なぞこの世に存在しないはずだ。居たとしたら顔を見てみたい。ミュスカにそれとなく尋ねてみたが、にこっと微笑まれた。それはもう、にこっと。……結局レザンは、フランが母だけに何か話しているかどうかすら解らずにこの数日を過ごしていた。
 そう、そんな思いで娘に対してどう切り出そうかとまごつきながらいれられたハーブティーに感謝の意を告げたマルクは、今しがた目にしてきた状況を伝えるべく口を開いた。
「眠っていた里人の内、数名が居なくなってしまったんだ」
「えっ!?」
 ノームの里滞在時は必ず見回りを申し出ていたマルクは、誰がどこの家族の人かを知っている。里の上層部を見回ったマルクはすぐさま、姿を消した里人の家族に最後に見たのはいつかの確認を取った。
「昨日の日暮れまでは確実に居たみたいだよ」
 夜の内ならば、まだ半日と経っていない頃だろう。
 追いかけるならば、早ければ早いほうがいい。
 仲間をすぐに集めて、それから、それから――やるべきことは沢山ある。
 そう判じたフランは一度両頬をぺちん! と大きな音を立てて叩くと、よし! と顔を上げた。
「おとーさん、おかーさん! あたし、行ってくるね!」
 しょんぼりなんてしている暇はない。今は前だけを見よう。
 あたしは、皆を助けるって決めてるんだから――!

 ――――
 ――

 ――『ファルカウ制圧作戦』。大樹ファルカウにて敵勢力を一掃する作戦だ。
 ノームの里を出たフランたちの耳にもその作戦は届く――というよりも、道中で増えた仲間たちが教えてくれた。
 酷く凍えるような森を抜け、遅い来る敵勢力を躱し、そうして辿り着いた大樹ファルカウ。
 緊張にピンと糸が張るような心持ちで、仲間とともに大樹ファルカウの下層へと脚を踏み入れた。
 居住区と思われるそこは、かつては整った、そして入口付近として賑わっていた町だったのだろう。
 しかし今は、見る影もない。
 シンと静まり返る建物の間には時折幻想種が倒れており、茨が絡んでいた跡が残されている。その残骸と思われる茨が地に落ちているが――『タレイアの心臓』で振りまく権能が停止しているのか、襲いかかってはこないようだ。
 そこに、動く影があった。二足歩行で動く、人型の。
 敵か、無事だった人か、それとも――。
 イレギュラーズたちは息を呑み、それぞれの得物を握る。
 一歩、二歩。『それ』が歩いてくる。
 近づくごとに鮮明になるその姿は――。
「――あ、ああ」
 歓喜が零れるような、驚愕が溢れるような。
 そんな声を喉から漏らしたのは、クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)だった。
「あぁ、ジャネット。無事だったのですね」
「待っ――」
 マルクが止めるよりも先に、ふらりと体を揺らして一歩前に出たクロサイトの足元に銃撃があった。
「ジャネット? やはり、怒っているのですか?」
 クロサイトの声に、彼の愛しい妻――『鐵の女傑』ジャネット=キャラハンは応えない。
「ジャネ――」
「あっ!」
 建物の影から、ふらり、ふらり。人影が増えた。
 その姿にフランが素早く反応をして、か細いクロサイトの声はかき消される。
「みんな……」
 新たに動く人影――それは、ノームの里から居なくなった人々だった。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 新緑の事件も少しずつ確信に迫っていっているようです。

●目的
 操られている幻想種たちの開放

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●フィールド
 大樹ファルカウ(下層)になります。
 大樹ファルカウ内部は木の幹が刳り抜かれたような状態で、下層は居住区になります。(その一角にPCの領地等もあったりします。)上層は信仰の対象であるため侵入できません。また、外からファルカウに登ることや、枝を折る等ファルカウを傷つけることは幻想種達にとっては赦されないことです。内部でも幹と思われる壁には気をつけましょう。
 多層構造のファルカウ内――今回皆さんは入ってすぐくらいの浅い場所での戦闘となります。元は綺麗に整えられていたと思われる居住区ですが、茨が絡んでいた痕跡や様々な魔物が出入りしたであろう跡が痛ましく残っています。家々の影に眠りについている住民たちの姿が見えることでしょう。

●邪妖精『グローツラング』×1体
 カロン配下の怠惰の魔種……の配下の邪妖精です。この邪妖精を倒しきれなかった場合、ノームの里や他の村で眠っている住民たちを引き続き集めてイレギュラーズたちの足止めに使おうとします。命令を下している魔種は怠惰なため自分が働きたくありません……。
 ダイヤモンドの目を持つ、目にしたものに災いを齎す大蛇です。基本的に、イレギュラーズたちの足止めが目的です。そのため自ら姿を見せません。ステルス能力を有し、潜んだ状態で操っている幻想種たちとイレギュラーズたちの戦いを見ています。
 攻撃は毒や麻痺や災厄の毒霧や牙、締め付け等。また、視線を向けられた者は魔凶状態になります。

●操られた幻想種
 眠りに落ちて夢を見ながら、体を勝手に操られている幻想種達です。
 眠っている状態では言葉を投げかけても通じませんし、負傷により目が覚めることがあるかもしれませんが、目覚めても彼等の体は彼等の意思に反して勝手に動きます。操っている邪妖精を退治することで操縦を断ち切ることが可能です。
 操られている幻想種たちには痛覚があります。痛ければ苦しむし、目覚めた状態で誰かを攻撃させられていても心が苦しいことでしょう。(ジャネットはその限りではありません。)
 基本的にはグローツラングは足止めが目的なので、縛られたりすると死物狂いで暴れたり等イレギュラーズたちを困らせる動きを優先します。
 目覚めていない状態で邪妖精が倒された場合は眠り続けたままとなります。

・ノームの里の人たち×3名
 フランさんの故郷、ノームの里から居なくなった人たちです。
 全員がフランさんの知っている人たちです。フランお姉ちゃんと顔を見る度によく笑っていた愛らしい少女、その少女の手を引くような形で眠りについていた兄らしき青年。お世話になったことのあるおばさん――おかーさんの友人。
 眠りについたまま魔術を操り攻撃してきます。

・『鐵の女傑』ジャネット=キャラハン
 クロサイト(p3p004306)さんのお嫁さんです。クロサイトさん以外にも46名の夫(クロサイトさん含めて『OSK47(夫諸君ふぉーてぃーせぶん)』)がいますが、彼等は新緑内の領地で眠りについています。
 眠りについたまま銃器で攻撃してきます。連射可能な銃をいくつも携えています。

・見知らぬ幻想種×?名
 ファルカウ下層の住民です。そこら辺に倒れて寝ているので、必要に応じて操られます。
 眠りについたまま魔術を操り攻撃してきます。

●『????』
 OPに出てきている謎の炎の豹。
 今回、リプレイには登場しません。

●『夢檻』
 当シナリオでは<タレイアの心臓>専用の特殊判定『夢檻』状態に陥る可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <タレイアの心臓>灰釉に消ゆ完了
  • GM名壱花
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月05日 22時06分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
天穿つ
マルク・シリング(p3p001309)
浮遊島の大使
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
安心する匂い
クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)
悲劇愛好家
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
アルトゥライネル(p3p008166)
舞祈る
柊木 涼花(p3p010038)
奏でる言の葉

リプレイ

●眠りの淵のアンプロンプチュ
 ゆら、ゆら、腕を振って。
 ふら、ふら、身体を揺らして。
 その人たちは、まるで『夢の中にいるように』歩いてきた。
「ジャネット!」
 揺れる白銀髪を目にした『悲劇愛好家』クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)が、最愛の妻の名を叫ぶ。――と、同時に銃が撃たれ、「危ない!」とマルク・シリング(p3p001309)が彼の腕を引いて避けさせた。
「みんな、ここに居たんだね。帰ろう、ノームへ!」
 どうしてここへと問いたい気持ちを押さえ、『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は「ここに居たら危ないよ」とノームの里の人々へと切実に声を掛ける。
 あの子は……そうだ、セレネちゃんだ。まだ小さいセレネちゃんに、セレネちゃんのお兄さんのシャールさん。奥の方にいるのは、おかーさんと仲良しのアザレラおばさん。
 どこかおかしいとは感じながらも、ノームの里から居なくなった人たちに会えてフランは心底安堵したように眉を下げた。
「……ノームの里から居なくなった人たちだね。けど、フランさん――下がって」
 居なくなった人たちの顔はマルクも覚えている。ノームの里へ滞在し、人々と交流を持った。起きている人たちはみな感謝してくれて、労ってくれて、大変な状況の中でも笑顔を見せてくれるのが嬉しかった。眠っている人たちの顔も一方的にだけれど覚えて、早く目覚めてほしいなと――いや、必ず目覚めさせてみせるという気持ちを日々強くしていた。
「え……」
「ボクも、そうした方がいいと思う」
 大丈夫だよと告げるように『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)がぎゅうとフランの手を握り、目を見てしっかりと頷いてから前に立つ。
 ――警戒をしている。
 その意思を背中から感じて、そうしなければいけない状況に、フランはきゅうと唇を噛んだ。
「見て、目を開けていないわ」
「……まだ、目覚めてはいないんだ」
 『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)がよく見てと細い指で差し示し、『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)もその隣で眉を顰める。眠っていた人々が居なくなったと聞いた時から、嫌な予感はしていたのだ。目覚めたのならばまず家族を探すであろう彼等が家族のもとに顔を出さずに消えたのなら、攫われたか――考えたくはないが、操られて自ら出ていった線が強くなるからだ。
 やっとの思いで故郷へたどり着き、家族の安否を確認して胸を撫で下ろした。その矢先で、これだ。幸いと言うべきでは無いのだろうが――幸い、怒りをぶつける相手はいる。眠る人々を操っている者だ。
(誰が操っているのかは知らないけれど、楽に死ねると思うなよ)
 口にはしないが心中で吐き捨て、ウィリアムは手が白む程に強く杖を握りしめた。
 この状況に置いてわかること。それは、敵が眠っている人々を操る事が可能だということだ。わざわざノームの里の人々が操られたことから、何か特定の条件があるのかもしれないが、あちらこちらに手足が見える、倒れている幻想種も動き出す可能性もある。
 ざわり。さざなみのように、イレギュラーズたちの間に不安を始めとした様々な感情が伝播する。
 どう対処すべきかと悩む空気に銃弾が打ち込まれ、クロサイトが悲鳴に近い声で最愛の妻の名を呼ぶことで、ひとまずはそちらの対処が優先か――と、思った矢先。
「――来ます!」
 一等反応が素早い『とべないうさぎ』ネーヴェ(p3p007199)が鋭く警告を発した。
「うそ……」
「くっ……」
 ジャネットだけでなく、ノームの里の人々までが魔術をイレギュラーズたちへと向けてくる。やだと唇を震わすフランの前に出ていた焔が彼女を庇い、ネーヴェと『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)も前へと出る。
「やはり、攻撃をしてくるか」
 素早く周囲を見渡すが、焼け焦げた茨の残骸や少し崩れた家々、倒れて眠る幻想種以外の姿は見えない。
 幻想種の手によって放たれた炎で茨を始めとした植物は燃え、精霊も動物も逃げてしまっているのだろう。普段なら彼等の感情を聞き取れるジルーシャの耳にも精霊たちの嘆き声すら入ってこないようで、眉間に深く皺を刻んでいる。彼等がどんな思いで逃げたのかを思えば、心が締め付けられるようだった。
「人を操って襲わせるなんて……惨いことをします」
「ああ、全くもって怠惰で悪趣味だな」
 現在新緑で起きている事件の裏には怠惰の冠位魔種『カロン』が絡んでいる事は周知されている。悲しげに眉を寄せた『勇気の歌』柊木 涼花(p3p010038)に、『舞祈る』アルトゥライネル(p3p008166)は短く同意を示して前を見据える。仲間であるフランとウィリアムの同郷の幻想種たちの手に、色を帯びた光が集まり出している。魔術を再度放つのだというのが知れた。
「……仕方がない。無力化しよう」
「っ……、そう、ですね。それしかなさそうです」
「みんな……」
「フラン」
 いつだって守るように前に立ってくれるウィリアムが、肩越しに深い森の朝靄のような瞳を向けている。『やれるね』と問う目だ。ウィリアムが強く杖を握りしめる手に彼も同じ気持ちであることを読み取って、フランはぐっと目に力を篭めて彼を見つめ返した。
 ――やれる!
 本当はまだ胸の痛みは癒えきっていないし、追い打ちを掛けるように次から次へと起きる災難に心は疲弊している。けれど、泣いて立ち止まってただ地面に涙をぼたぼた落とすことが『イイ女』じゃないことを知っている。 
 ――あたしが、みんなを助けてみせる!
 下を向くくらいなら、上を向いて綺麗な空を見よう。いつか皆で笑い合いながら空を見れる日が来た時にそうあれるように、下を向いてなんていられない。前を向けば攻撃しようとしてくる同胞たちの姿が目に入って辛いけど、それはきっと一緒にいてくれている仲間たちも同じことを思ってくれているはずだ。
「あたしは大丈夫だから! だからお願い! みんな、力を貸して!」
 少女の成長はあっという間だ。
 おとーさんがこの場にいたら、号泣していたかも知れない。

●微睡みエレジー
 ”それ”は見ていた。
 大樹ファルカウ内に侵入してきた者たちは、”それ”の敵である。
 大魔種――『煉獄篇第四冠怠惰』カロン・アンテノーラは、大樹ファルカウとともに眠りにつくことを望んでいる。深緑という国を総て眠りに鎖し、穏やかな眠りを永遠に、怠惰に。
 侵入者たちは、その大願を阻む者たちである。許されざる存在だ。
 大魔種の望みを叶えるべく動く手足の――指先から枝分かれしたひとつの『駒』である”それ”が直接の『主』から命ぜられたのは『足止め』であった。眠りたい、眠っていたいと願う大魔種が少しでも長くそうあれるように、侵入者たちを先に進ませないことこそが”それ”の役目である。
 そのために、足止めの『材料』たちを深緑内から呼び寄せた。大樹ファルカウ内にもあるにはあるが、多ければ多いほど良いだろう、と。
 材料は何でも良かった。侵入者たちを阻めるのなら。侵入者たちを少しでも長くその場に留めおくことができるのなら。ただそれだけで良かったのだが――どうやら侵入者たちには縁の深い相手であったらしい。
 ――これは、幸運だ。
 ”それ”――災いを齎す大蛇『グローツラング』は、ほくそ笑むように目を細めて成り行きを見守っていた。

「ジャネット、私です。貴女の夫、クロサイト=F=キャラハンです!」
 銃を打ち込んでくるジャネットに、クロサイトは精一杯声を張り上げる。
 目を閉ざした彼女は声に反応して目覚める様子はなく、的確にその銃口はリトルワイバーンに騎乗しているクロサイトの頭部へと向けられていた。
(私がもっと早いうちにジャネットと向き合っていれば、こんな事にはならなかったかもしれません)
 彼女に嫌われることを恐れて逃げていなければ――。
 それは今となってはどうしようもないことだが、けれど幾度も想いが胸を焦がす。
 血が滲みそうなほどに唇を噛み締めたクロサイトは、眠ったままふらりと動くジャネットをまっすぐに見据えた。起きている彼女ならば、最初の一撃で確実にクロサイトの頭を狙ったことだろう。けれど、そうはならなかった。眠って――操られている彼女は、クロサイトが知っている彼女よりも精細を欠いている。
「眠ったままこんな風に動くって事は、操っている何かが近くにいるってことだよね」
「そうだろうな。……しかし、それらしい姿が見えない」
 焔の言葉に、ラダが頷く。ラダの超視力を持ってしても、動く影や怪しいものがあるようには見えなかった。
「ちょっと……悪趣味にもほどがあるでしょ、こんなの……!」
 ノームの里の少女――セレネが、幾つもの風の刃を放った。直接武器を携えて攻撃してこない分、まだ気持ちは楽ではある。が、無力化させるにはイレギュラーズたちからも手を出さねばならない。イレギュラーズたちとて、総ての異変の元凶を断つために先へ進まねばならない身だ。
「セレネ! シャールさん! アザレラおばさん!」
「……言葉や音では起きてくれない、ようだね……」
 起きてと幾度も声を掛け続けたフランがけほっと咳をするのを、ウィリアムが背をさする。声を掛けて目覚めるならば、村に居た時にも目覚めていたはずだ。けれど、動いている姿を見ると思いと声が届くのではないかと期待して、やめられなかった。
「私が引きつけよう。その間に、皆は操っている者が近くに居ないか探って欲しい」
「わたくしも、ジグリ様と引きつけます」
「それじゃあボクはジャネットさんの相手をしているクロサイトくんを手伝ってくるよ!」
 戦闘をしながらの調査は困難だ。耳を澄まそうとも眼前で炸裂する魔法や発砲音の方をが大きくて、小さな音が遠くで聞こえたとしてもかき消されてしまう。ラダとネーヴェがノームの里の人々の注意を引くと口にして、焔はリトルワイバーンに跨って仲間へ銃口が向かないように避けているクロサイトの元へと向かった。
「あたしも!」
 茨は燃やせたけれど、一緒に燃え尽きてしまった自然や焦げた壁――ファルカウの幹を見れば、ぎゅうと胸が痛んだ。これ以上ファルカウを傷つけないようにと杖を掲げて保護結界を展開させたフランは、ちらりとネーヴェとラダへと視線を向ける。
(みんなを、よろしくね……!)
 茨の残骸を飛び越え、焔の後へと続いた。
「さあさ、兎と、遊んでくださいませ!」
 眠っている幻想種たちに、声は届かない。掛けられた言葉に怒ることもない――が、誰かが操っているという事は、その者が見ているということだ。現にリトルワイバーンに乗って目立っているクロサイトへジャネットは攻撃を仕掛けている。目立つことこそが矛先を集めることなのだと察したネーヴェは、可愛らしくぴょんぴょんと飛び跳ねてみせる。
 義足はまだしっくりと馴染んではいないけれど、それでも少しずつネーヴェの身体の一部になってきてくれている。跳躍力も、きっと以前に比べたらまだまだだ。けれども出来ることを、少しずつ。ネーヴェは大切な人たちのために為せることを成そうと、精一杯飛び跳ねて愛嬌を振りまいた。
「幻想種を抑えるのは任せろ。申し訳ないが、少しだけ痛みは耐えてもらうことになる」
「皆さんの回復は任せて下さい!」
 アルトゥライネルと涼花もノームの里の三人を引きつけるラダとネーヴェの元で、指揮棒と長布を構えた。

「……だめね」
 大樹ファルカウを焼かれて精霊たちは逃げてしまっているし、温度視覚ではそれが寝ている幻想種なのか敵なのかの判断がつかない。
「ステルス能力と透視能力があるのではないか?」
 アザレラへぐっと肉薄して取り押さえようとしながら、ラダが助言をする。そういうモンスターもいたはずだと今まで戦ってきた知識から伝えれば、同じことを考えていたマルクが鼠のファミリアーをこっそりと呼び出した。鼠は視力がとても弱いが耳が良く、イレギュラーズたちが動いて『誰か』に見咎められるよりかは接近できる可能性が高い。確認すべきは、物陰となっており、通常の角度からは見えにくい箇所。眠っているファルカウ下層の幻想種が多くいる箇所だ。後者は、そこに潜んで肉壁にするかもしれないという可能性も考え、そうさせないように、だ。
(それにしても、何故こんな風に……足止めをするような手を取るのだろう)
 最初は嫌がらせだと思った。けれどどうやらそうではないようだ。もしかしたら操れる条件があるのかもしれないが、倒れている全ての幻想種を一度に操って数で攻めてこちらを倒し切る……という意欲も見えない。極力動きたくないし、力も使いたくないとでもいいたげで……。
 何と言うか、その有り様は酷く『怠惰』なのだ。
(敵は怠惰の魔種。もしくは魔種に連なるものではないか?)
 だとすれば、足止めするような動きも解る。
 自分で動かず、できれば誰かになんとかして欲しい。
 もし相手にすることになったとしても、それは一分でも一秒でも先がいい。
 怠惰に連なるものならば、『嫌だなぁ』『面倒だなぁ』の感情が強いことだろう。
 ならば、探知すべき感情は――嫌悪だ。
「――居た。二時の方角、かなり離れた家屋」
 素早くマルクの鼠が向かう。しかしそこには何も居ない。
「……聞こえたわ。シュル……って言うのかしら、衣擦れのような……」
「私も聞こえた。あれは、蛇のようだな」
「移動したね」
「でも、場所は解る」
 更に嫌がる感情を強くしたそれを、ウィリアムの感覚が捉え続けていた。

●目覚めのカデンツァ
 敵の位置を把握したイレギュラーズたちは、ひとまず眼前の幻想種たちの無力化を目指すことにした。
 攻撃を当てても大丈夫かという不安ではあったが、軽く当てたくらいではその瞳は開かれなかった。
 しかし、体力をけずるために攻撃を続ければ――。
「……え? なっ……うぅ」
 シャールの目がぱちりと開き、痛みに唇を震わせる。
「フラン、おねえ、ちゃん? なに、いた……ひぅ、おにぃ、ちゃ……っ」
「セレネ! シャールさん!」
 聞こえた声に、フランが振り返る。
 幻想種たちの身体に傷が増えていくことに悲しみを覚えながらも体力を削っていたところで、彼等は痛みに苦しみ、ぼんやりと瞳を開かせた。シャールに続いてセレネが、そしてアザレラも。
 茨に巻き付かれている状態では目覚めることの無かった彼等だが、茨がタレイアの心臓により焼き払われ操り手に主導権が移っている状態ならば、強い痛みで深い眠りから目覚めるのかもしれない。
 ――それは全て仮定であるし、苦しめねばならないと言うことではあるが。
 それでもそこに、いつ覚めるか解らない眠りからの開放という道が見えた。
「……フラン、なの?」
「――ッおばさん!」
 視界に入った知り合いの顔に、ノームの里の者たちが反応を示した。
「あっ、ご、ごめなさい……!」
「どうして体が勝手に……!?」
「こわいよ、いやだよ、いたい……」
 意思に反して体が動く。小さなセレネはボロボロと涙を零し、他のふたりは驚愕に目を見開きながらも魔術を操った。五体満足で育ったものにとって、当たり前に動かしていた手足が自らの意思に反するというのは、それだけで恐怖だ。その上勝手に攻撃までするとなれば――。
「大丈夫。このくらい平気だし、怪我ならすぐ治る。怖いなら目を瞑っていてもいい」
「わたくしも、痛くはありません。ほら、ね? 元気でしょう?」
 不安げなノームの里の者たちの攻撃を受け止めたラダとネーヴェは元気づけるように口にし、事実さほど深くはない彼等の傷はすぐに涼花の歌によって癒やされる。あなたたちの怪我もちゃんとこうやってすぐに治すからと、イレギュラーズたちは努めて柔らかく語りかけて。
「痛みは、少しだけ耐えてくれ」
「……苦しい思いをさせてごめんなさい。絶対に助けるから……少しだけ、我慢して頂戴ね」
 もう少しだからと声を重ねて。
 少しでも不安を取り除こうと、目の前の『人形』なんかじゃない、『生きている幻想種』たちに精一杯のこころを届けた。
 大丈夫、大丈夫だよ。怖いね、ごめんね。
「必ず、救うから! だから、ごめんなさい! 今は耐えて」
 フランはぎゅうと杖を握りしめ、眼前の――ジャネットに相対する焔とクロサイトへと「がんばろ!」とエールを送った。
「ジャネット! 起きてください!」
 焔に続いての一撃に、ジャネットが蹈鞴を踏むようによろめいた。
「……っ、これは?」
「ああ、ジャネット! ……逃げ続けて、ごめんなさい!」
「状況説明を要求する。手短に答えろ」
 説明は、手短に。
 眉をぴくりとも動かさずに銃を撃つジャネットへ「今度こそ、夫の務めを果たします」と告げたクロサイトを、ジャネットは受け入れる。冷静で冷徹で、何より厳しい彼女だが、彼女は彼女なりにクロサイトを認めて大事に思ってくれている。
「……貴方も深緑も救ってみせる。信じてください」
 その手で意識を刈り取ったジャネットの身体を抱えると、不殺(ころさず)の誓いを掲げた範囲攻撃で素早く終わらせたノームの里の面々の隣へと横たわらせた。ノームの里の人々の横で膝をついたマルクがそれぞれの顔の上に掌を掲げ、息があることを確認して頷く表情に、フランとウィリアム、そしてフランのことを案じていた焔とネーヴェが小さく息を吐く。
「回復、させますね」
「本当に悪趣味な敵だ。しかし、後は隠れている敵だけだな」
 涼花が指揮棒を手に歌い軽く回復を施す中、アルトゥライネルからの視線を受けてウィリアムが頷く。場所の把握は出来ている。後は全員で取りかかれば良い。
 ――のだが。
「他の、寝ている人たちが……!」
 あちらこちらで倒れている人々が起き上がる音に気がついた焔がハッとした声をあげ、イレギュラーズたちは想定していた最悪がまだ続くことに各々の拳を握るのだった。

 ――――
 ――

 新たに起き上がって魔術を操りだした幻想種の攻撃が当たらないようにノームの里の面々やジャネットを守るように位置取り、彼等の相手をまた先程までと同じように行う。
 けれどももう、隠れている敵をそのままにはしない。
「出てらっしゃい、卑怯者!」
 手持ちの吊り香炉を揺らして砂塵を呼んだジルーシャが、ウィリアムに示された『何もない空間』へと砂嵐を呼んだ。
「これで少しは見えやすくなるかな!」
 砂の中に薄らと形が見えたのを逃さずに炎の槍を投げつけた焔が『神炎』でマーキングをすれば、大蛇の形が更に薄っすらと解るようになった。
「我が妻を弄んだ代償を払って戴きましょうか。とりあえず100回くらい死んで戴きますよ!」
 仄かに光るそこへクロサイトがカラーボールを投げつけて蛍光塗料を付着させれば――ウィリアムには嫌悪の感情が膨れ上がるのを感ぜられた。
「覚悟しなさい! アタシたち、ものすっっっごく怒ってるんだから!」
「そろそろ幕だ、覚悟はいいな?」
 シャラララララと、楽器を奏でるような音がする。
 それが怒りで発した敵の――グローツラングの声であると認識したイレギュラーズたちは、怒っているのはこちらのほうだと啖呵を切った。
「え? あれ? 私たち……」
「うぅ……、何が……」
「おはよう。目覚めたばかりで混乱しているだろうが、安心してほしい」
「わたくしたちは、大丈夫です。不自由をおかけしますが、暫し辛抱を」
「ごめんなさい。すぐにあなた方を開放しますから」
 仲間たちへの歌を贈る合間に、涼花も目覚めた幻想種たちへと安心させるように微笑む。不安は大きいだろう、けれど絶対に大丈夫だから。傷だってちゃんとしっかり癒やすし、誰一人として死なせはしない。だからどうか、歌を聞いていて。仲間に、幻想種たちに、勇気を与えんと涼花は歌い続けた。
 新たに操られた幻想種たちをネーヴェとラダが引き寄せ、纏めて殺さずの誓いのもとに集中攻撃で行動を封じ、それでもまだ意識のある少数はそのままに「いってください」とネーヴェが仲間たちの背を押した。
 少数ならば耐えられるから、今は一刻も早く、支配からの開放を。
 攻撃したくない相手を攻撃しなくてはいけないときの苦しみを知っているイレギュラーズたちは多いからこそ、彼等の心を救うべく開放をと望んだ。
 小さな幻想種が泣いている。
 子供を傷つけたくないと極力攻撃をせずにいたため、残っていた。
 即座に片を付けることを胸に、ネーヴェとラダ、涼花以外はグローツラングへの反撃に転じた。
「絶対に、許さないんだから!」
 グローツラングに相対すれば、ざわりと嫌な感覚が背中を這う。
 けれどもそれに負けず、フランが杖を掲げた。
 仲間たちが、次々にグローツラングへと攻撃を浴びせにいく。
 毒にも、麻痺にも、災厄にだってイレギュラーズたちは怯まない。操られた幻想種たちの――戦いを生業としていない者たちの心は、もっともっと苦しかったはずだから。
 小さな子供の見開かれた瞳が恐怖に染まる表情が脳から離れない。
 優しそうな女性が、ごめんなさいと涙を零しながら魔術を放つ姿。
 そしてその守るべき対象へ攻撃させたこと――。
「僕は絶対に、お前を許さない」
 常よりも厳しい顔で渾身の熱波をマルクが放ち、その熱波を応用に駆けたウィリアムがグローツラングへ肉薄する。
 杖を放り捨てるように手放す。
 気持ちは全て、拳に込めた。
「よくも僕やフランに里の皆を傷つけさせたな……原形が無くなるまで潰してやる」
 楽に死ねると思うなと、眼前で告げてやる。
 一撃目は幻想種たちのため。
 二撃目は仲間たちのため。
 拳に全ての魔力を集結させたウィリアムの連撃が、グローツラングを『文字通り』消滅させた。

(フランは大丈夫だろうか……)
 案ずるようにウィリアムが背後を振り返る。元凶がいなくなったことを察知したフランは「もう大丈夫だよ」と声を掛けながら、意識が残っていた人々の背中をポンと叩いて回っていた。強い子だ。自分が辛くとも、誰かに心を分けてあげられる強い子だ。ノームの里の女性は本当に強いなぁなんて、此処には居ない妹や家族のことを思えば柔らかな笑みも浮かぶ。
「皆様、おはようございます。痛むところはございませんか? あ、わたくしは大丈夫です! ご心配ありがとうございます」
 元気ですと示すように、ネーヴェがぴょんと跳ねる。ラダとともに前衛を務めた彼女の儚げの風貌を知っている者たちは眉を下げるが、大丈夫ですよと殊更明るく振る舞って彼等の心が少しでも軽くなるようネーヴェは務めた。
 涼花が歌を広げ、マルクとウィリアムが福音を唱えて傷ついた人たちを癒していけば、気絶させた人々も目を覚まし始める。操られなかった幻想種たちは未だ倒れたままだけれど、それでも少しだけ与えられる聖葉よりもたくさんの幻想種たちを救うことが叶った。
「今はゆっくりと心を落ち着けて」
 ジルーシャは心を落ち着ける香りを広げて助けた幻想種たちの心を宥めていき、傷が癒えきっても目覚めぬ者たちにはラダやアルトゥライネル、焔が無理のない範囲で揺り起こして、もう大丈夫だと声を掛けていった。
「フランおねえちゃん……っ」
 フランの元へ、目覚めたセレネがシャールを伴い駆けていく。
「帰ろう、ノームの里へ。みんなが待ってるよ」
 優しく背に手を当てられたセレネがごめんなさいと涙を零すのを、いいんだよと抱きしめて。そんなフランをアザレラが「イイ女になったね」とぎゅうと抱きしめた。
「ジャネット……行ってしまうのですか」
 仲間たちとは少し離れたところでクロサイトから応急手当を受けたジャネットは「ああ」と答えて夫を真っ直ぐに見据えた。怜悧な瞳のその奥には、冷たい炎が怒りとなって揺れている。――しかしそれがクロサイトに向けられている訳ではないことを、間近で見たクロサイトは感じていた。
 怒っているのだ、キャラハン家に手を出した者たちのことを。そして、成すすべもなく敵の手に落ちた己のことを。
 彼女はキャラハン家の大頭目として、自領に戻らねばならない。
「解っているな、我が夫」
「ええ、ジャネット」
 キャラハン家に手を出したものは鏖だ。鉄槌を、制裁を。
 それを終えるまで、キャラハンの地を踏むことは許されない。
「すぐに総てを終え、必ず貴女の元へと戻ります」
 怯まずに真っ直ぐに瞳を見つめて告げる、クロサイトの言。それに満足した『鐵の女傑』ジャネット=キャラハンは、数多の勲章(きず)の残る顔で美しく微笑んだ。


 アザレラに抱きしめられているフランを暫く見守ってから、マルクはツイと視線を背ける。
 グローツラングは魔種ではなかった。ならば、魔種の影響を受けている邪妖精と見るのが正解だろう。
(他にも操られている幻想種がいるかもしれないし、グローツラングに影響を与えている存在に繋がる手がかりがあるかも知れない)
 仲間たちが幻想種たちを介抱している間に、周囲をもっと探索してみようと思った。
 危険は承知の上だ。危険を冒してでも、マルクは人々を救いたかった。
(危険を冒さねば、誰も守れない)
 瞼を下ろせば、猛吹雪の幻影が見えていた。
「僕も行くよ」
 眠りから覚めた幻想種たちの世話を焼く仲間たちに少し周囲を見て回ると告げて離れようとしたマルクを、ウィリアムが素早く追いかけてくる。何かあった場合、ひとりでは危険すぎる、と。
 仲間たちから離れ、廃墟となってしまっている建物の陰も残さず見て回る。遠くへ行けば行くほど倒れている幻想種の姿は見掛けるが、安らかな寝息をたてており動き出す気配は見えない。
「マルク」
 そろそろ仲間たちの元へと戻ろう。これ以上は流石に離れすぎだろう。
 そう声を掛けようとしたウィリアムの背後で、カタン、と小さな音がした。
 すぐにふたりは身構え、振り返る。
 アッシュグレーの毛並みの子猫が、突然振り返ったふたりに驚いた顔で固まっていた。こんな場所に居るせいだろう。四肢は痩せきり――マルクの脳裏でまた白が溢れ、ごうごうと吹雪の音が聞こえてくる。
「こんな状況でも生き延びれたのか。強い子だ」
 仲間の元に連れ帰り、保存食を分けてもらおう。誰かミルクを……そうだ、ラサ出身のラダやアルトゥライネルなら、ヤギの乳製品を所持しているかもしれない。
 マルクが抱えあげようと手を伸ばす。
 そこでふたりは同時に、ふと違和感を覚えた。

 ――『何故、ここに子猫がいるのだろう』。

 大樹ファルカウの下層に入ってから今まで『一体も野生、もしくは愛玩動物を見ていないのに』。
 脳が警鐘を鳴らす――が、もう遅い。
 ふたりの意識はそこで一度途絶えたのだった。

 ――にゃーお。
                       ○灰猫のプレリュード

成否

成功

MVP

ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹

状態異常

マルク・シリング(p3p001309)[夢檻]
浮遊島の大使
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)[夢檻]
奈落の虹

あとがき

眠っているだけの幻想種や仲間たちに当てないために識別範囲不殺を持ってきてくださった方が多かったため、想定よりも多くの幻想種を救うことが叶いました。最初の4名+10名程救出しております。

ウィリアムさんの殺意が高まっていて良かったです。
「楽に死ねると思うなよ」
一生に一度くらいは声に出して言いたい言葉ですね。

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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