PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<チェチェロの夢へ>目覚めの朝

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――メタトロン・キーの起動を確認。

 青みがかったフローライトの巨大な結晶の中で、星屑が瞬くように煌めきを帯びる人の形をしたもの。
 長い睫毛がふわりと上がり、花の光を宿す緑の双眸が開かれた。
 ゆっくりと腕を伸ばした高位精霊――マイヤ・セニアはフローライトの結晶に内側から触れる。
 嫋やかな指先が結晶の表面に触れた瞬間、破砕音と共に視界が光に包まれた。

「市民登録を0人から1人に変更」
 結晶の中から降り立った精霊マイヤは静かな声で紡ぐ。
 メタトロン・キーの起動を確認し、市民を迎え入れるということはマイヤの目覚めを意味してた。
 都市機能管理を司る高位精霊マイヤ・セニア。それが少女の名であり役目であった。
 彼女の周りにはホログラムモニターに似た光板が浮かび上がる。

「都市機能の再起動を実行…………えっ? 嘘でしょ!」
 エラー。エラー。エラー。エラー。
 膨大な数の警告が精霊マイヤの前に連なった。
「ここも、こっちも? どうなってるの?」
 以前起きたのは、おおよそ百年ほど前の事である。先代のキー、即ち登録市民でもある『存在』が、その寿命を終えて、1人から0人になるのを見届け、彼女は再び眠りについていた。
 その時は、どうだったろうか。
 たしか同じく、膨大なエラーを前に数十年間を呆然と過ごしていた記憶がある。
 同じように驚き、同じように慌てふためき、そして同じく呆然とするのだ。
 彼女には都市の復元機能はなく、それらは本来ゴーレム達が行っていた。彼女はそのように認識しているし、他の行動をとることはない。ただ都市機能を管制する。そのような契約であり、使命であるからだ。
 指示を出す先、ゴーレムがほとんど見当たらない以上は、この精霊都市レビカナンが誇る高位精霊の一翼であろうとも、たかが中級管理者である彼女に出来ることなんて、たったの一つだってありはしなかった。

 ならばその前はどうだったろう。
 百年前に眠りから覚める、その前は――
 おぼろげな記憶はある。そうだ。たしか強大で恐ろしい存在が――けれど思い出せない。
 あの時も恐ろしい数のエラーに囲まれていたように感じる。
 強大な存在は、すぐにいずこかへと消えた。それから長い長い間、誰も訪れはしなかった。
 ならばその前はどうか。さらにおぼろげな記憶だ。たしか老婆だった。故郷を捨てる事が出来ないと言っていた。故郷とはどこ。否、ここか。そこではじめて1が0になった。彼女はゴーレムに命じて老婆を丁重に埋葬し、そして誰も居なくなった都市を、使命のまま管理しつづけていたはずだった。
 恐らく、きっと、もうほとんど思い出すことさえ出来ないけれど。
 そして何かの拍子に眠ってしまったのだと思う。
 ならば記録なら。システムにアクセスしたならば――

 ――エラー、五百十二年以前の記録が確認できません。

「どうしよう、どうしよう、どうしよう」

 不安、懸念、焦燥――高位の精霊が持つ『人に似た心』が胸の内を、ただ軋ませる。
 冷たいトゲがかき乱していく。
 都市が破壊されている理由も、何もかも、全てが分からないままに。


 ただ、ただ、そんなルーティーンの幾星霜に微かな光明が差したのか――

「俺の筋肉を見ろ!」
『黒顎闘士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)が、良い笑顔でサイドトライセップスのポージングをキメた。
「来訪者(ビジター)の方ね。精霊都市レビカナンへようこそ。発達した筋肉ね」
「――だろう?」
 マイヤの前で、アンドリューは得意げにアドミナブル・アンド・サイをキメる。

 ここ浮遊島アーカーシュでは、イレギュラーズと鉄帝国軍による共同探索が成果を上げつつある。
 精霊が暴走する原因が解明された他、ゴーレムの修繕や、様々な新規発見物が学会を賑わわせていた。
 イレギュラーズが発見した遺跡の近くに、同じくアンドリューが発見した遺跡――名付けて隆々殿堂(マッソーキャッソー)があった。ラド・バウ闘士のアンドリューは他数名の闘士達と共に、軍に腕っ節を買われる形で仮の軍属として調査に参戦しているという訳なのだった。
「筋肉はいいぞ」
 その結果が、これだ。

 これ以上こういった連中(のうきん)に任せていても、こうなってしまって埒があかない。そこでイレギュラーズの協力が必要不可欠となる(?)。どうやらマイヤは都市の管理を司る精霊らしく、大変困っているようだ。都市はゴーレム達が物理的な運営や修繕を担当していたが、持続不能なほど破損してしまった。新規のゴーレムを作成することも出来ないようで、大変困っているらしい。
 遺跡が大きく損壊してから、果たして何年が経過しているのかすら分からない状況だ。古の勇者王の時代までさかのぼるかもしれない。

 おとぎ話の時代の話はひとまず置いておくとして、今成すべきことは何か。
 鉄帝国はアーカーシュに農耕や入植を期待しており、都市機能の回復は国益にも叶う。
 そこでマイヤの困りごとを解決してやれば、協力が得られるかもしれないというわけだ。
 本件はそれを『検証』するための依頼である。
 実際にマイヤの困りごとを聞いてやり、解決してみせることで、彼女の様子を探るというものだ。
 具体的には、この隆々なんとか遺跡周辺で、ゴーレムのパーツを見つけて修繕したり、厄介な古代獣を討伐したりしてやれば良いということである。

「そういう訳で、よろしくな! マイフレンド(と言ったアンドリューとの存在しない記憶が何故か蘇る。猫耳メイドを着たアンドリューと写真を撮っている。しかしこちらが出したのはハート。アンドリューはグッド。絶妙なすれ違い。そんな所がまたイイ! )!」
 この人が説明をしてくれないものだから。
 熱心に依頼書を読むイレギュラーズの前で、アンドリューはとびきりのいい笑顔を作り、ダブルバイセップス・フロントのポージングをキメた。

GMコメント

 もみじです。イイ筋肉で良い笑顔!
 アンドリューとマイヤを連れて探索しましょう。

●目的
 マイヤのお願いを聞く。
 具体的には、二点です。

・周辺の古代獣を討伐すること。
・周辺に点在しているゴーレムの破損パーツを出来るだけ沢山回収すること。

●フィールド
 アンドリューに隆々殿堂(マッソーキャッソー)とか名付けられてしまった遺跡です……。
 朽ちた柱や瓦礫、石畳などの間から木々が生い茂っています。
 古代獣が跋扈しています。

●エネミー
 古代獣と、精霊です。

○スムニエスニ(紫夢花)×10
 巨大な紫の花で、無数の触手を持っています。よくアルベリヘ(幻惑蝶)の群れと共にいます。

○アルベリヘ(幻惑蝶)
 よくスムニエスニ(紫夢花)の周囲を舞っている、美しい翅の蝶です。よく数十単位の大きな群れを成しています。不思議な存在であり、物理的には触れることが出来ません。

○ブルーストーン
 都市の水路を司る精霊です。水路は瓦礫に埋もれ汚れており、枯渇している箇所もあります。
 その穢れを溜め込んだブルーストーンが暴れているようです。
 倒すことで鎮めることが出来ます。

●同行NPC
○『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)
 ラド・バウのC級拳闘士。
 筋肉を見せつけてくる気さくな青年です。
 今回は一応、軍の指揮下に入り探索をしているようです。
 笑顔と持ち前の明るさで、パーティを盛り上げてくれるでしょう。

○精霊マイヤ・セニア
 アーカーシュの精霊都市レビカナンを管理する精霊です。
 見た目は可憐な少女です。
 酷い有様になったレビカナンに心を痛めています。
 眠って居た間の事は分からず、混乱しています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●特殊ルール『新発見命名権』
 浮遊島アーカーシュシナリオでは、新たな動植物、森や湖に遺跡、魔物等を発見出来ることがあります。
 発見者には『命名権』があたえられます。
  ※命名は公序良俗等の観点からマスタリングされる場合があります。
 特に名前を決めない場合は、発見者にちなんだ名が冠されます。
  ※ユリーカ草、リーヌシュカの実など。
 命名権は放棄してもかまいません。
  ※放棄した場合には、何も起りません。

  • <チェチェロの夢へ>目覚めの朝完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
イズマ・トーティス(p3p009471)
子を護るは大人の役目
ライオリット・ベンダバール(p3p010380)
胃腸(重傷)
凛・詩楼(p3p010438)
特異運命座標
フーガ・リリオ(p3p010595)
黄金の旋律

リプレイ


 視界いっぱいの青空が広がって、見た事の無い木々が足下で揺れている。
 空が近いという感覚は、帝都スチールグラートで暮らす『黒顎闘士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)にとって新鮮なものだった。自然と高揚感で満たされる。
「イイ! 実にイイ! これぞ、俺が名付けた筋肉殿堂(マッソーキャッソー)だ!」
 腰に手を当てて大きな笑い声を上げたアンドリューは筋肉を見せつけるように振り向いた。
 彼の視線の先には『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が頭を抱えて佇んでいる。
「こういう史跡って普通の闘士を集団で駆り出して大丈夫なヤツなのかこれ……」
「何を心配しているのだ! カイト! 皆で力(きんにく)を合わせれば、問題は解決する! あれだな、カイトは賢い物の考え方をするんだな!」
 バシバシと友人の肩を叩いたアンドリューは歯を見せて笑う。
「いや頭脳派気取る訳じゃないけど! 鉄帝は!! 肉体労働重視し過ぎだっての!!!」
「ああ、筋肉はイイぞ!」
「話しを聞け!」
 カイトは万が一はしゃいだアンドリューが遺跡を壊したりしないように、結界を念のため張った。
「探索中に奇襲されても困るしな」
「奇襲……?」
 怖い事が起るのだろうかと身を震わせた精霊マイヤ・セニアは「どうしよう」と小さく呟く。
 そんな小さな少女に「大丈夫」だと声を掛けるのは『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)だった。
 この精霊都市レビカナンの管理を司る彼女に落ち着いて貰わねば、進めるものも進めなくなってしまう。
「まずは深呼吸するっスよ。都市を再建するにしてもマイヤさんの力が不可欠っス」
「深呼吸……」
「そう。今やれることをコツコツとやっていくっスよ。深呼吸はその第一歩っス」
 ライオリットもマイヤと一緒に大きく胸を上下させる。
「ここは、レビカナンという都市なんだな。招いてくれてありがとう」
 深呼吸をして落ち着いたマイヤに、そっと手を差し出し、微笑み掛けたのは『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)だ。
「ふふ、ようこそ精霊都市レビカナンへ」
 まるでそうする事が決められているように滑らかな動きで恭しくお辞儀をしたマイヤ。
「想像もできないような大昔の事を知れるなんて、興味深いよ」
「今は何処も荒れ果てて、美しい都市をお見せできなくて悲しいわ」
 かつては清らかな水が流れ、整えられた町並みと街路樹と、広がる青空があったのだろう。
「生命は生まれて死んで容易に入れ替わってくけど、物体は劣化すれども長く残るよな。壊れてたって何も無いわけじゃないし、不安になることはない。俺達が手かがりを見つけてみせるよ!」
「イズマさん……ありがとう」
 儚げに笑ったマイヤの頭を優しく撫でるのは『特異運命座標』凛・詩楼(p3p010438)の手。
「精霊とはいえ、女の子が一人でねぇ……」
 詩楼は青き双眸を上げて、朽ち果てた遺跡を見遣る。こんな状態であれば途方に暮れるのも無理は無い。
「こりゃあ、手伝ってやらにゃ男が廃るってやつだぜ。な? ゴーレムもどうやって直すのかもちょいと気になるし。一肌脱いでやるから安心しな!」
「詩楼さんも……」
 以前目覚めた時は、荒れ果てた都市を前に呆然とするだけだったのに。
 今回はこんなにも頼もしい来訪者(イレギュラーズ)がいてくれるのだとマイヤは感動を覚える。

「まぁ、マイヤにも思う事はいろいろあるだろうが、兎にも角にも安全確保をしないと何もできんだろう」
 隣に並んだ大きな『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)の姿にマイヤは目を大きく見開き感心するように見上げた。
 エイヴァンはマイヤを抱き上げて肩車をする。
「ほら、遠くがよく見えるだろう?」
「うん」
「一人じゃ何もできなかったかもしれないが、今は一人じゃない……そうだろう? 自分に何ができるかは安全が確保されてから考えても遅くはないだろう。ブルーストーンやらも目を覚まさせて手伝わせてやればいいし。それに俺達もいるんだから」
 マイヤはエイヴァン達の優しさに頬を緩ませた。

「よろしくネ、マイフレンドアンドリューサン! ラド・バウ以外でも冒険ご一緒できて嬉しいデス!」
 目の前に差し出された『拵え鋼』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)の手を、アンドリューはぶんぶんと振り回す。
「おう! よろしくな! 友好の証に俺の筋肉を見るがイイ!」
「わー! すごいネ!」
 その様子を見つめていた『鋼鉄の冒険者』フーガ・リリオ(p3p010595)と目が合ったアンドリューはにっかりとした笑顔を見せながら近づいて来た。
「おお! マイフレンド! お前も俺の筋肉が見たいのか!」
 勢いのあるアンドリューに思わず頷いてしまうフーガ。初めて顔を合わせたアンドリューにマイフレンドと呼ばれるのはむず痒いが、嫌ではない。
「こんなおいらでも役に立つことあれば、マイヤ殿達を助けるのを手伝うよ」
 エイヴァンに肩車をされたマイヤを見つめ『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は彼女が置かれた状況に憐憫を覚える。
「なんと言いますが苦労されたのですね、マイヤ様は……」
 都市精霊として人々を見守り、最後の一人を見送った後眠りに落ちたマイヤ。途方もない年月で都市の修復を担っていたゴーレムが壊れ、機能を停止させてしまったあとに目覚めてしまえば、困惑してしまうのも無理は無いとリュティスは眉を下げた。
「その苦労に報いる為にも頑張ると致しましょう」
 リュティスの言葉にリュカシスが手を掲げぐっと拳を握る。
「マイヤ様、此度はボク達があなたの手足となって働きます! 今は分からない事だらけで不安なお気持ちが強いと思うケレド、壊れた都市もきっと元に戻せるように、ゴーレムパーツもたくさん見つけてみせるから、どうかご心配なさらないでくださいネ」
「ありがとう、みなさん」
 笑顔を零したマイヤを連れて、アンドリューが名付けたマッソーキャッソーへと足を踏み入れるイレギュラーズたち。


「まずは、周辺を見回りながら、古代獣が出てこないかを確認ですね。安全が確保出来たら、ゴーレムの破損パーツを回収しましょう」
 その方が効率が良いとリュティスは仲間へと提案し、皆が其れに同意した。
 リュティスは道すがら覆い茂る草木へと言葉を掛ける。
「この辺りで古代獣や精霊を見ませんでしたか?」
 彼女の問いかけに応えるように、草木は近くにスムニエスニ(紫夢花)が居る事を教えてくれた。
「どうやら、この先に古代獣がいるようです」
「お、戦うのか!?」
 アンドリューが嬉しそうに身を乗り出して来たのを、リュティスは「落ち着いてください」と手を翳し慎重に行動するよう促す。
「できればもう少し具体的な位置が分かればいいのですが、アンドリュー様は敵の気配が探れますか?」
「この辺りが……震えると近い気がする」
 胸筋をぷるぷるさせたアンドリュー。
 肌(きんにく)で感じるという事だろうかとリュティスは首を傾げた。

「おっと、どうやら敵さんのお出ましだ」
 蔦が這い回る遺跡の中、一早く敵を視認したカイトは素早く術式を展開し意識を切り替える。
「古代獣の討伐にパーツ集め。あちこち敵がいる中での探索はおっかねぇし。先に邪魔な連中を片付けるってわけだな。よおし、俺らにまかせろ! 危ねぇからマイヤは下がってろよ。すぐ終わらせてやっから!」
 詩楼は古代獣の出現に狼狽えるマイヤに振り返り、安心させるように笑みを零した。

「ほーら! こっちダヨ!」
 カイトの背後からリュカシスが飛び出して、群生する紫夢花の射程に身を晒す。
 突然現れた外敵に驚いた紫夢花はリュカシスへと一斉に触手を伸ばした。
 この古代獣を倒してから安全にパーツを回収するのだ。その為にも全力で叩き潰すしかない。
 リュカシスの身体を紫夢花の触手が締め上げ、皮膚が裂ける程に痛烈な鞭打に痛みが走る。
「大丈夫ッスか!?」
「ウン、それよりもそっちお願いスルネ!」
「分かったッス!」
 ライオリットはまだ怒りに囚われていない紫夢花と幻惑蝶を纏めて双軍刀で切り裂いた。
「アルベリヘは物理的に触れてないってことなので、攻撃が通らない可能性もあるっスが……」
 彼の予想通り、幻惑蝶は幻影のように軍刀をすり抜ける。
「やっぱり物理攻撃はきかないッスね! ……っとお!」
「じゃあこれならどうかな?」
 ライオリットに叩きつけられた触手の合間を縫って前に出たイズマが紫夢花と幻惑蝶を狙い夜空のラピスラズリを思わせる細剣を走らせた。
 星が瞬くように幻惑蝶へ触れた剣先。青い鱗粉を散らし、蝶は儚く霧散する。
「消えたな……どうやらこの青い色をした蝶は幻影に近いものなのかもしれない」
 イズマは細剣を翻し、紫夢花の攻撃をいなした。肩を掠める攻撃に痛みが走る。

「こっちは任せとけ!」
 エイヴァンはライオリットとイズマを狙う紫夢花の前に立ちはだかり、大きな巨斧を回転させた。
「おら! お前らの相手は、このエイヴァン=フルブス=グラキオール様だ!」
 空気を揺るがすような雄叫びが遺跡に木霊し、紫夢花は怒りを露わにしてエイヴァンへと迫る。
 エイヴァンの雄々しい戦いぶりにフーガは身体を震わせた。
 こんな風に自分を盾にして仲間を守る勇ましい戦士がイレギュラーズには沢山居るのだろう。
「だったら、おいらにできることをする!」
 フーガの手には光を帯びたトランペットが握られ、大きく息を吸い込んだ青年は勇壮の旋律を奏でる。
 戦場に響き渡る音色。鼓膜を打つ音にイズマは魂が揺さぶられるように感じた。
「良い音だな」
「そうか? ありがとうイズマ殿!」
 音を繰る者としてこれ以上の賞賛は無い。フーガは息の続く限りトランペットに魂を込める。

 ――――
 ――

「アンドリュー様は、背後の敵を!」
「おう! 流石リュティスだ!」
 リュティスの僅かに焦りを帯びた声にマイヤは身を震わせた。
 紫夢花との戦闘に引き寄せられて、ブルーストーンが背後からやってきたのだ。
 それに一早く気付いたのは、周囲に気を張り巡らせていたリュティス。
 彼女は戦場が瓦解しないようリュカシスの回復を続けながら、アンドリューへと指示を飛ばした。
 ブルーストーンの前に立ったアンドリューは、近くに居るマイヤに逃げろと声を張り上げる。
「は、い……」
 一歩後退ったマイヤが遺跡の窪みに足を取られ後ろ向きに重心を崩した。
「おっと、危ない。大丈夫か?」
 詩楼はマイヤを抱き留めて、敵の攻撃が当たらぬよう少女を連れてその場から瞬時に飛び退く。
 瞬間、ブルーストーンの放った濁流が地面を穿った。
「やるじゃないか詩楼! 良い動きだ! 良い筋肉をしている証拠だな!」
 アンドリューの大声が遺跡の中に跳ね返って反響する。
「褒めてくれんのはありがてぇがよ! あんたの肉体のイイ所ってのも見せてくれよなぁ?」
 この遺跡マッソーキャッソーの命名の仕方といい、面白い奴だと詩楼はアンドリューに応えた。
 彼の底抜けの明るさと筋肉は見ていて飽きないし、鍛えた身体を褒められるのは悪い気はしない。
 アピールが激しすぎるのが玉に瑕なのだけれども。
「任せておけ! 行くぞカイト!」
「おうよ!」
 アンドリューとカイトは力を合わせ、ブルーストーンをその場に押しとどめる。


「――っしあ! これで最後!」
 詩楼の一撃は紫夢花を両断し、ずるりと胴体を分裂させた。花は急速に生気を失い、茶色く枯れ果てる。
 同時に、周りを飛んでいた幻惑蝶も青い光を弾けさせ霧散した。
「はわ……皆さんすごい」
 エプロンに付いた埃を払ったリュティスへ近づいたマイヤが、尊敬の眼差しを彼女に向ける。
 的確にマイヤの危機を救った彼女に感謝を示しているのだろう。
「ありがとう、リュティスさん」
「いいえ、当然の事をしたまでですよ。どうですか? もうこの辺りは安全ですし、マイヤ様も一緒に探索をしてみませんか?」
 リュティスの提案にマイヤは目を輝かせて大きく頷いた。

「戦闘中は余裕が無かったからな」
 エイヴァンは拾い上げたパーツをライオリットのリュックの中へと入れる。
「重くないか? ライオリット」
「大丈夫っス! パーツの運搬なら任せて欲しいっス」
 一応修理もそれなりに得意だというライオリットを頼もしいなとエイヴァンは肩を叩いた。
「設計図とかあれば助かるんッスけど……それを見ながら直して、まあ、最悪無くても何とかしてみせるッスけどね! 石や金属は鉱山でそれなりに見てきたつもりっスからね。動かなかったら叩けばきっと何とかなるっス!」
 ライオリットの陽気な声を聞きながら、エイヴァンはカイトの元へとやってくる。
「どうだ? これはゴーレムのパーツだろうか?」
 丁度アンドリューとカイトが掌サイズのパーツを覗き込んでいた。
「ふむ……?」
「俺も手を貸そう」
 エイヴァンは懐から懐中時計を取り出して開いてみせる。
 組み込まれた緻密な術式がカイトの視界をより、色彩豊かに映し出した。
「おお、よく見えるな……こーいうの平和利用で済めばありがたいんだけど……鉄帝だしなぁ……」
「どうしたカイト? 何か言ったか?」
 険しい表情で眉を寄せた友人の顔を覗き込むアンドリュー。
「いや、何でも無い。心配するな……しっかしさぁ、そのさあ。……アンドリューさ、その名付けはなんとかならんかったのか??」
 カイトの問いかけに何の事だと首を傾げる筋肉。
「ほら筋肉方面ならそれっぽいワードあったろ。いや見つけたのお前だから兎や角言わねーけどさ! 永久に名前が残る可能性……あるんだよなぁ……」
「良いじゃ無いか! 筋肉殿堂(マッソーキャッソー)は良い名だろう? ダメなのか?」
 純真な瞳の友人が過度に政治的な面倒事に巻き込まれるのはあまり好ましくない。
 せめてアンドリューには彼らしく居て欲しいのだとカイトは胃の辺りを押さえた。
「お前と居る時は楽しく居たいなーって」
「おう! カイトと居ると楽しいぞ! 今もとても楽しい!」
「そうかい、そりゃ良かった」
 色々と悪い方向へ考える癖があるカイトは友人が危ない目に遭うのは杞憂であって欲しいと願うのだ。

「よーし! たくさん見つけるぞ!」
 リュカシスは両手を挙げて嬉しそうに笑顔を向ける。
「ボクのギフトは鉄のパーツをくっつけらるデコボコハグルマ。つまり! パーツの組み立てや修理は大得意ということデス!」
 後々、ライオリットと手分けしてゴーレムの修復をする手筈だから、見つけたパーツを可能な限りその場で組み直すリュカシス。
「これは、手かカナ? 足?」
 手際よくゴーレムのパーツを組み直すリュカシスを見てフーガは感嘆の声を上げる。
「なるほど、すごいな。おいらは捜し物も苦手だから、散らかってる瓦礫を片付けよう」
 フーガはリュカシスと手分けして辺りを手当たり次第探って行く。
 こういう時は直感に頼るしかないけれど、あまり得意ではないと肩を落すフーガ。
「にしてもマイヤ殿が心配だな……」
「何かご用時?」
「うお、マイヤ殿。いや、頼もしい人達が側にいるから大丈夫なんだろうが……目が覚めたらいきなり住み慣れた場所がボロボロになったり。変な獣達に囲まれていたってなったら、そりゃあ落ち着かなくなるよな。おいらも嫌だよ。これが夢でも、現実でも」
「そうだな。精霊だとしても一人きりってのは堪えるだろうしな」
 マイヤの頭を撫でた詩楼は彼女の隣に座り込み、笑みを零した。
 フーガと詩楼の優しい心にマイヤは嬉しそうに微笑む。
「マイヤ殿が元気になりますように……」
 金色のトランペットを取り出したフーガは目覚めたばかりの精霊の為に優しい音を奏でた。
 軽やかに楽しげに。遺跡の中に音楽が響き渡った。

「マイヤ様、こちらへ来てみてください」
「はぁい」
 リュティスに呼ばれ、とことこ歩いてきたマイヤは朽ちた家屋の前で立ち止まる。
「これは……?」
「綺麗な花ですね。星の形をした薄紫色の花」
 崩れた屋根から差し込む光の中で、凜と咲く可憐な花にリュティスとマイヤは頬を緩めた。

「都市が壊れた理由って分からないのかな」
 イズマがマイヤに問いかけるも、精霊は首を横に振った。
 この遺跡に一番詳しそうなマイヤが知らないのであれば、多くを知ることは難しいのかもしれない。
 けれど、探さなければ掴む事は出来ないとイズマは遺跡と空を見上げる。
「無機疎通って断片的なんだよな」
 遺跡の瓦礫の記憶を読み取るイズマは、何か巨大な力が突然降り注いで、大きく吹き飛んでしまった石材に思い馳せた。分かる事は吹き飛んだという事だ。
「自然に朽ちたのもあるだろうけど、マイヤさんが眠ってる間に何か大変な事が起きたのかもしれないね」
「はい」
 悲しそうな顔をする精霊の心を少しでも和らげたくてイズマは遺跡を見上げる。
「それにしてもマッソーキャッソーって、適切かはさておきアンドリューさんらしいな。マイヤさんはこの名前、どう思う?」
「アンドリューさんは、とても筋肉が好きって、いうのが分かったの。すごい見せつけてくるから、きっとこの遺跡もどーんと目立つような名前にしたかったのかしら?」
 くすりと笑ったマイヤにイズマも一緒に笑みを零す。
「遺物調律師として、ここに眠ってた物を丁寧に大切に扱うから……任せてくれ。ゴーレムが直ったら、マイヤさんを助けてあげてほしいとお願いするよ」
「ありがとう、イズマさん。他の皆さんも……とても助かったわ」
 水路を司るブルーストーンとゴーレム、都市全体の機能を回復するには足りないピースだけれど。それでも一歩を踏み出すことが出来たのはイレギュラーズのお陰だとマイヤはぺこりと頭を下げた。

「また、レビカナンへ遊びに来てね。まってるわ」
 笑顔で手を振った精霊マイヤに見送られ、イレギュラーズは蒼天の遺跡を後にする。

成否

成功

MVP

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 MVPは戦線を支えた方へ。
 また、精霊マイヤに会いに来てくださいね。

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