シナリオ詳細
勇者志望の女の子たち、最初の小さくて大きな冒険
オープニング
●亜竜種の少女たち、外の世界に出る。
覇竜領域。竜と、亜竜、そして、そういうのに負けないくらいに危ない魔物達。そういうのが沢山住んでる、とっても危ないところに、私達は住んでいたの。
私達は、亜竜種と呼ばれる種族。竜の因子を持ちながら、でも亜竜たちにも怯えて暮らす、そういう小さな生き物。
日々を一生懸命生きて、でも、外の世界へのあこがれは捨てられなくて。貴重な外の本を、里長に見せてもらっては、いつか外の世界で冒険をするんだ、って、私達四人は約束し合った。
集落の戦士たちに、一生懸命基礎の体力作りを教えてもらったり、魔術や弓術、銃術を教えてもらったり。私達はみんな女の子だったけど、それでも一生懸命、訓練して、練習して――。
そんなある日。私達は四人は――イレギュラーズになったんだ!
「すっごい! ほんとに、空にワイバーンが居ないよ!」
ぴょんぴょん、と少女が飛び跳ねた。ピンク色のふわふわの髪。背中に背負った大きな剣は、その小さな体にはひどくアンバランスに思えたが、少女が小さなころから相棒にと選んだ、自称勇者の剣だった。
「レィナ、走り回らないで!」
腰に手を当てて、もーっ、と声をあげるのは、黒髪の生真面目そうな少女だ。背中には銃を背負っている。ロングバレルのそれは、些か古めかしい。ラサあたりから流れてきた骨とう品だろうか。とはいえ、現役で使用するには充分なほどに、手入れがなされている。
「ごめん、ユーリィ。でもでも、ほら、みて! 空!」
ばっ、とレィナ、という少女がユーリィのほっぺたに、自分のほっぺたをぎゅーってあてて、同じ空を見ようと視線を空に上げた。
「空!」
「見ればわかるわ! フリアノンだってペイトだって、どこだって空は一緒でしょ!」
「でもほら、ワイバーンが居ないの!」
「聞いたわよ、それ!」
「すごいよね! すごいよ! 空! ずっと見てられる!」
そのまま、解き放たれた元気な犬のように飛び跳ねて行きそうレィナの手を、ユーリィはぎゅっと握った。
「だめ! 目的地はこっち!」
すっ、と指をさすと、そちらにはうっそうとした森が広がっている。レィナは分かりやすく、嫌そうな顔をした。
「……じめじめしてそう」
「してないっすよ」
と、眼鏡の少女が言う。青い髪を、少しだけぼさぼさにした、まさに魔法使い然とした格好の少女だ。
「幻想は、この時期は湿度は高くない、って聞いてるっす。
レィナは湿度ってわかるっすか」
眼鏡少女の言葉に、リィナはぷぅ、と頬を膨らませた。
「むー、馬鹿にしないでよ、ネネナ! えっとね、湿度、しつど……酸!」
「何で酸(アシッド)は知ってるんすかね」
ネネナ、という少女がけらけらと笑う。
「とにかく、この時期は程よい暖かさで絶好のピクニック日和っすよ。火の魔法も氷の魔法も、問題なく発動できるっす」
「そもそも、ピクニックではないのですが……」
白のローブをまとった金髪の少女が、困ったように言った。手にしたロッドは、回復の術式を増幅させる、神聖なる恩寵の宿ったそれだ。となると、見た目通りに回復術士、という事になるのだろう。
「キッツェは真面目すぎるっす。こんなの、うちらには楽勝っすよ」
ネネナがそういうのへ、キッツェは困った顔をした。
「でも、これがわたしたちの初仕事でしょう?
ネネナちゃんだって、昨日は緊張して眠れなかったじゃないですか?」
「それは」
ぼ、とネネナの顔が赤くなる。ふい、とネネナが顔をそむけた。
レィナ、ユーリィ、ネネナ、キッツェ。四人とも亜竜種の少女たちで、この度イレギュラーズへとなったばかりの新人たちだ。
子供の頃から、外に出たいと冒険の準備をしていたらしいが、この度ローレットより初の依頼を受けて、はじめての冒険へと旅立つこととなった。
キッツェが優しそうな笑顔を浮かべてネネナをなだめてから、あなた達=イレギュラーズ達の方へと向き直った。
「よろしくお願いしますね、先輩の皆さん!」
キッツェがぺこり、とお辞儀をするのへ、ネネナ、ユーリィが続いた。リィナが笑顔でぶんぶんと腕を振っていたので、ユーリィが無理やり頭を下げさせた。
事の起こりはこうだ。というのも、実にシンプルな話で、ローレットから、初仕事に参加する新人たちの面倒を見て欲しい、という依頼が、あなた達にもたらされたのである。
「別に、新人たちを信じていないわけじゃないが」
と、ローレットの情報屋が、あなた達に告げた言葉を思い出す。
「あの辺は、確かに魔物達も大したことがない。あんたらなら、片手でだって用足りる位だろうさ。
ただ……ちと妙な噂を聞いてな。『怪王種(アロンゲノム)』、ご存じ魔物版の反転、って奴だ。どうも、アロンゲノムがうろついてる……って事らしい」
別に、いちいち新人共のケツを拭いてやる気はないが、と情報屋は断りつつ、
「だが、危険が想定される場所に、ド新人を送るのは……ま、ウチとしても寝ざめが悪い。
というわけで、既に実績のあるアンタらに、奴らの後見人をお願いしたいってわけだ」
つまり――本来の彼女たちの仕事である、害獣退治。これは、サポートやアドバイスをしながら、彼女たちが達成するのを見届ければいい。あなたたちの仕事は、むしろ万が一が起きた時、アロンゲノムが現れた際、彼女たちを助けつつこれを撃退する、という事になる。
「ま、もしアロンゲノムが現れなかったら、子供のお守りだ。気軽に先輩として後進を育成してきてくれ。
そう気張る事じゃない、いつも通りに頼むぜ、先輩方――」
そんな情報屋の言葉を思い出しつつ、あなたは苦笑した。どうやら少なくとも、彼女たち新人の面倒は見なければいけない様だ。
「よし。じゃあ、気を付けてやってくれ」
仲間の一人がそう告げるのへ、あなたも促すように頷く。
「よーし! 先輩たちをびっくりさせる位に頑張るぞ!」
と、レィナが元気よく駆けだすのを、
「こら! 先走らないで!」
と、ユーリィが慌てて走って追いかける。
「レィナ、はりきっちゃってまぁ」
ふふふ、とネネナが後に続き、キッツェがペコリ、と頭を下げながら、
「ま、待ってください~!」
と後を追う。あなた達も苦笑を浮かべつつ、その後を追った。
些か、疲れる仕事になりそうだなぁ、と思いながら。
- 勇者志望の女の子たち、最初の小さくて大きな冒険完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年05月30日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●彼女たちの冒険
「なんだか、外って本当にデザストルとは雰囲気違うんだね!」
と、一行の先頭に立って進むのは、大剣を持った少女、レィナだ。彼女たちの最初の仕事がありきたりな害獣退治という訳なのだが、どうにもそれでは終わらなさそうな雰囲気を、彼女たちの監督役でもあるイレギュラーズ達は感じていた。
「……ふーん? 確かに、なんかいるかもねー?」
と、ケタケタと笑う『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)。霊魂からの声でも聴いたのか、イレギュラーズ達が付き添いについた本来の目的……怪王種の気配を、マリカは感じ取っている。
「ま、それはそれとして、今はあの子達の相手かな?」
その言葉に、『血反吐塗れのプライド』百合草 瑠々(p3p010340)はチッ、と舌打ちをした。
「アロンゲノムは良いが、ガキのお守り付とはな……。
しかも、良かったらアドバイスしてやれだ? そういうのは柄じゃねぇ」
「そうですね。勇者にあこがれる、ですか。しかし、その憧れの下に、幾千もの死が埋まっていることに気づいたとき、彼女たちはどうするのでしょうね」
そういうのは、『神ではない誰か』玉ノ緒月虹 桜花(p3p010588)だ。
「私は、アドバイスのようなものは得意ではありません。皆さんにお任せします。その分、アロンゲノムに対しての対処に全力を尽くしましょう」
石材店で手に入れた石の欠片を手にしつつ、桜花がいう。
「あらあら、じゃあ、あの子達はおねーさん達に任せてもらおうかしら!」
と、ニコニコと笑う『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)。
「大丈夫、とってもお守りしたいけれど、過保護が過ぎれば成長がなくなってしまうわ!
だから、おねーさん、泣く泣く、見守ろうと思うの。あ、でも少しだけお手伝いとかはしてあげたいわ! アドバイスね!」
「そうですね。まずは、彼女たち自身の力で、依頼を達成してもらった方がいいでしょうね」
ふわふわと笑う、『料理人』テルル・ウェイレット(p3p008374)。
「それにしても、私にもあの子達のように、右も左もわからない頃があったなぁ、と思ってしまいますね。
私もまだまだ道半ばですけれど、それでも教導する立場になったとなると、少し不思議です」
「ああ、わかるよ。
新人の面倒をみる。それを任されるくらいには先輩になったんだね、私」
そう言って、どこか懐かし気に『今は未だ秘めた想い』ハリエット(p3p009025)が言う。
「ふふ……ああやって、キラキラしてるのは可愛いな、って思う。
初めての依頼、ちゃんとした思い出を残してあげたいね」
「そうですね。もちろん、戦う以上楽しい事ばかりではありませんが。それでも、あの真っすぐな瞳はなくさないでほしいものです」
そういう『双名弓手』風花(p3p010364)も、口元にわずかな笑みを浮かべている。
「さて、では各々始めましょう。私も、アロンゲノムへの警戒に当たります」
「頼んだぞ! 俺は、あの子達を守ってやるな!」
うんうん、と頷く『紲家のペット枠』熾煇(p3p010425)。同じドラゴニアだが、熾煇の方が実際に先輩だ。
「俺たちも依頼に失敗しないようにしなきゃな!
じゃあ、頑張ろうな、皆!」
熾煇の言葉に、仲間達は頷く。一方、前方を行くレィナたちも、何やら「おーっ!」と声をあげて、高くハイタッチをしていた。
「向こうも作戦会議を終えたみたい」
ハリエットが言うのへ、桜花が頷いた。
「では、彼女たちをよろしくお願いします」
そう言って、風花と共に、姿を隠す桜花。アロンゲノムへの警戒に当たる。
「じゃあ、皆! おねーさんのお話を聞いてちょうだいね!」
ガイアドニスが言うのへ、少女たちは四人、並んで、『はい、よろしくお願いします!』と元気よく返事をした。
「まぁまぁまぁまぁ! とっても可愛らしいわ!
まず、おねーさん達は、とっても残念だけど、皆が依頼を達成することの『お手伝い』はしません」
「えー、先輩たちがちゃちゃっとやってくれるんじゃないんっすか」
ぶー、と文句を言うネネナに、
「だ、だめです! わたしたちのお仕事なんですから!」
とキッツェが言う。ネネナは「ふふふ」と笑って、
「冗談っす……それに、動物を追い払う位なら、フリアノンでもたまにやってたっす」
「と言っても、ローレットに依頼されるくらいに凶暴な奴だよ」
ハリエットが答える。
「油断はしないで。どんな時でもね。まぁ、続きはある気ながらやろうか」
その言葉に、少女たちが頷く。森の現場へ向かう道すがら、ハリエットはユーリィへと声をかける。
「あんた……じゃない。あなたがユーリィ?
私はハリエット。あなたと同じ。遠距離から銃を使うスナイパーだよ」
ユーリィは、真面目そうな顔でこくり、と頷いた。
「ユーリィです、よろしくお願いします!
すごそうな銃だって見てました。カスタムタイプですか?」
「緊張しなくていいよ。いつもの様子で大丈夫。
カスタムタイプなのはそう。あなたのも、結構使いこんでるね」
「は、はい! 外から流れてきたものらしいんですが……!」
初依頼、憧れのイレギュラーズの先輩相手という事もあり、ユーリィは他のメンバーよりもずっと緊張しているように見えた。真面目なのは良いが、少し固すぎるかもしれない。
「落ち着いて。スナイパーは、いつでも落ち着いてなきゃだめだよ」
ぽん、とハリエットはユーリィの頭に手をやった。
「スナイパーは、後ろから皆を見るんだ。何かあった時に的確に助けられるように、いつも冷静にね」
「は、はい!」
まぁ、それで緊張がほぐれないくらいに、彼女は真面目なのだろう。ハリエットは苦笑した。
一方で、なぜかマリカに懐いているのはネネナだ。
「マリカさんも魔術師っすか? 死霊術系の感じっすけど……!」
魔法オタク、という事もあるのだろう。マリカは得意げな顔をして見せた。
「んー? マリカちゃんのはお友達だよ?
術、なんて言い方、面白くないよね!」
「おお、その領域にはとどまらない、みたいな感じっすか……!?」
微妙にかみ合っていない気もするが、ネネナがマリカの才に感動しているのは事実だろう。
「どうやったら、そんな風になれるっすか?」
ネネナが尋ねるのへ、マリカは「んー」と口元に人差し指を当てて。
「あなた達は今やるべきことは、デコレーションじゃなくて、スポンジの味を知ることだよ?
強いて言うなら、大事なのはいつでも笑顔を絶やさないでいるコト♡
トリック・アンド・トリート♪」
「お、おお……イタズラっすね! うちもやってるっす。レィナとかからかいがいがあるっすよ」
なんだかんだ意気投合している……のかもしれない。
「熾煇さんはドラゴニアなんだね! それでも、私たちより先輩かぁ」
むむむ、というレィナに、熾煇は頷いて見せた。
「そうだぞ! 俺も最近イレギュラーズになったけど、ちょこっとだけ先輩なんだぞ。俺も同じくらい弱かったらごめんな?」
「そんなことないよ! 先輩ってだけあって、すっごく強そう……ううん、わたしも結構鍛えてきたつもりなんだけど……イレギュラーズになった時に、レベル1? になっちゃったからね」
そういうレィナに、ユーリィは苦笑した。
「私たちは、レベル1になったからちょっと強くなった方かも……」
「そっかなー? 昔の私は強かったよ?」
「すぐ調子に乗るのやめなさい! ……ごめんなさい、こういう奴で……」
ユーリィは、まるでレィナの保護者のようだ。熾煇は笑った。
「ううん、気にしないで! 元気なのは良い事だ!」
そんな仲間達を少し離れたところから見ているキッツェ。テルルはそんな彼女に話しかけてみた。
「実は、あなたがメンバーのまとめ役だったりしませんか?」
そういうテルルに、キッツェはびっくりし試してから、ふふふ、と笑った。
「ユーリィちゃんもしっかりしてるけど、わたしの方が少しお姉さんなので……。
テルルさんも、回復術式を使うんですよね。良かったら、参考にさせてください」
そういうキッツェに、テルルは微笑んで見せた。
「もちろん。色々教えてあげますね……でも、実戦で、になりそうです。気づいていますか?」
そういうテルルに、キッツェはハッとなった。あたりに漂う、剣呑な空気。獣の気配――。
「みんな、近くに敵がいます!」
イレギュラーズ達はすでに気づいていたようだが、新人たちはワンテンポ遅れたようだ。慌てて武器を構えた刹那、飛び込んできたのは、巨大な猪、そして血走った眼をした鹿だ!
「うわ、なにこれ、すごい怖い顔!」
びっくりしたようレィナが言うのへ、瑠々が声をあげた。
「おい、ビビんな! 盾役が舐められたら終いだぞ! アンタが倒れたら、後ろの連中は総倒れになるからな!」
「う、うん! わかったよ!」
レィナが大剣を構える。
「緊張すんな、いつも通りにやれ! 手助けはしねぇぞ、自力で何とかしな!」
「いわれなくてもーっ!」
レィナが大剣を構えて、猪に躍りかかる。巨大な猪は、レィナの大剣で切り裂かれてなお、その内臓を抉るには届かない。硬い筋肉が、鎧のようにそれを防いだのだ。
「まぁまぁ、確かにあれは、可愛い猟師さんじゃ荷が重いわね」
ガイアドニスが頷く。ローレットに依頼が来たのも頷ける。魔に一歩足を踏み込んだような怪物。
「キッツェさん、ドキドキしてるかもしれないけど、落ち着いてね?」
テルルが声をあげる。
「回復術士は、どんな時も冷静に。むやみに術を唱えたら、息切れしてしまうから」
「は、はい!」
テルルのアドバイスを受けて、キッツェは深呼吸をした。そのまま、レィナのサポートに回る。
「あなたも、レィナが心配かもだけど、落ち着いて。スナイパーの銃弾は一撃必殺。確実に当てることが、最大の防御だと自覚すること」
「わかりました!」
ハリエットのアドバイスに、ユーリィは頷き、深呼吸。そのまま狙撃銃を撃ち放つ。放たれた銃弾が、猪の目に突き刺さった。動きを止める一撃。
「ほらほら、今だよ♪」
マリカの言葉に、
「おっけーっす!」
ネネナが放つ炎の魔術が、猪の身体を焼き払った! 四人娘の連携に、猪はあっという間に倒される。
「すごい、こんなにすんなり行った事なんて今まで一度も……!」
ユーリィが驚くのへ、瑠々が叫んだ。
「おら、気を抜くな! もう一匹いんだろ!」
「はい!」
残る巨大な鹿へ、四人娘は向かっていく――。
「がんばれ~!」
熾煇が応援の声をあげる一方、影からその様を見やる風花、そして桜花は、
「……どうやら、見ているようですね」
「ええ。石たちも、それを告げています」
と――新たなる存在の来襲を、確かに感じ取っていた。
●あなた達の戦い
「こいつでとどめっす!」
ネネナが放った火炎の術式が、鹿の怪物に対してのトドメとなった。ぐらり、と地面に倒れ伏す怪物を前に、少女たちの顔に満面の笑みが浮かんだ刹那――ガイアドニスは、その四人の前に、立ちはだかった。
「あれ、おねーさん?」
レィナが小首をかしげるのへ、ガイアドニスはにっこりと笑った。
「ここからは、おねーさん達のお仕事でっす!
だから、どうか、どうか下がっていて?」
刹那――豪咆が、響いた。木々の合間から現れた巨大なそれは、
「あ、亜竜……!? いえ、違う……!」
ユーリィが驚くように、巨大な亜竜のようにも見える。だが、その身に纏うまがまがしさは、間違いなく、魔性を帯びたモノ……。
「あれが噂の怪王種……なんと禍々しい。
覇竜生物も相当ユニークだと外の方は言いますが、彼らはそれでも生物の範疇……しかしこれは……」
風花がそういうのへ、少女たちもごくり、とつばを飲み込んだ。生物ではない、世界を侵す呪い。それがアロンゲノム……怪王種なのだ。
「ハッ。でたな。ようやく仕事のし甲斐があるってもんだ」
瑠々がにぃ、と笑った。
「見てろよきらきら新人共。こっからがリアルだ。
さぁ、怪王種。殺してくれよ。テメエがウチを殺せるならな」
轟――アロンゲノム・ヴェノムリザードが吠える! リザードの鋭い牙が、瑠々に迫る――瑠々はそれを、強烈な魔力障壁で受け止めた。
「おう、新人共。わかるか? ウチらがやることは、アンタらと同じだ。
抑えて、叩いて、ぶっ殺す!!!」
瑠々が、障壁でリザードを推し返した。リザードは負けじと、その尻尾を強烈に振るいはらう! 瑠々は飛び跳ねて、それを回避。空中で体を反らすその背をかするように、桜花の鋼矢が無数に飛んだ。
「的がでかいと助かります。ああいう輩は、まず足を狙いなさい」
無数の鋼矢が、リザードの足に突き刺さる! ぎぃ、とリザードは吠えた。その口に毒液を溜め込み、散弾銃のように周囲に解き放つ! 少女たちに迫るそれを、ガイアドニスが身体で受け止めた。
「おねーさん!」
「大丈夫でっす! 皆は、見てるだけ? 少しくらい、身体を動かしてもいいわ!
何かあったら――今みたいに、おねーさんが守ります! おねーさん、身体は大きいので!」
にっこりと笑うガイアドニスに、少女たちは頷いた。
「うん……私も、おねーさんみたいに! 皆を守りたい!」
レィナが言うのへ、少女たちは頷いた。
「少しでも、皆の力になるっすよ!」
ネネナが言うのへ、マリカが笑う。
「じゃ、がんばれがんばれ♡」
マリカは戦列から離れると、リザードの退避コースを潰した。そのまま距離をとり、ぱちん、と指を鳴らせば、巨大な墓石が降ってきて、リザードの頭を殴りつける!
「ネネナは火の魔法だけ? ノンノン、それじゃトリックにはつまらない♪ 色々遊んでイタズラしちゃえ♡」
「自分は氷の魔法で相手の動きを止めるっす!」
「私は……ハリエットさん!」
「いいよ。隣にきて。でも、目立っちゃだめだよ」
ユーリィの言葉に、ハリエットは頷いた。
「私たちがやるべきことは分かるね?」
「相手の弱点を突きます、鱗の隙間とか、関節とか!」
「それが分かれば上等。サポートの気持ちで、私に続いて!」
二人のスナイパーが撃ち放つ、銃弾。ユーリィのそれはまだまだつたないものだったが、ハリエットのそれはまさに正確無比だ。リザードの腹、或いは内側の肉の柔らかい所に、的確に銃弾を突き刺していく。
(すごい……私じゃ、まだまだこの人に追い付けない……!)
ユーリィが胸中で悔し気に呟く。一方、レィナはリザードの前に立って、大剣を構える。
「新人、引っ込んでた方が怪我はしないぞ!」
瑠々が声をあげるのへ、レィナが頭を振った。
「ううん、わたしも、皆を守りたい!」
「そうかよ、邪魔はすんなよ!」
再度飛び掛かる瑠々に、レィナは続いた。一方で、テルルと共にキッツェがその手を掲げて、回復の術式を編み上げる。
「やっぱり、テルルさんほどうまく術を編めません……!」
悔しそうに言うキッツェに、テルルは微笑んだ。
「だめ。落ち着いてください。今は、仲間を癒すこと、戦線を維持することを最優先に考えてくださいね?
私たちが崩れたら、仲間は深く傷ついてしまう……全部を守り切ることはできないけど、傷を抑えることができるのは、私たちなのですから」
「……! はい!」
キッツェが必死に回復術式を編み上げる。まだまだつたないそれが、仲間達を守るべく、聖なる光となって皆に降りそそいだ。だが、リザードの攻撃は苛烈だ。仲間達も当然傷ついていく。
四人だけなら、怯えて逃げてしまったかもしれない。
でも、八人の先輩たちは、誰一人、戦意挫けぬまま、敵と相対している。
まるで、物語の勇者のように――。
リザードが、その強烈な爪で、瑠々を薙いだ。障壁で受け止めたが、衝撃が身体を駆け抜ける。ちっ、と舌打ち一つ、攻撃を引き受けながら、瑠々はとんだ。
「そろそろ止めを刺してくれ、こいつの牙じゃウチを殺せねぇだろうさ!」
「承知しました。このような邪悪な存在、それを許してはいけません」
風花が、魔弓礼装:狂咲を展開する。放たれた魔の矢が、リザードの足を地へと縫い付ける。
「あなたはここで、地へと還りなさい」
再びうち放つは、砲撃の如き強烈な魔の矢だ。放たれたそれが、リザードの身体を飲み込む。ばぢばぢと魔力が爆ぜ、リザードの表皮をバチバチと焼いていく中、トドメとばかりにと飛び込んだのはその両爪を火炎のそれへと変貌させた、熾煇だ!
「こいつでお終いだぞ!」
轟! 強烈な火炎が、巨大な爪となって振り下ろされる! その爪撃が、リザードを切り裂いた! ぎゅおお、とリザードが悲鳴を上げて、のけぞった。強烈な攻撃の奔流が、その時、リザードの命を確かに刈り取ったのだ。リザードは脱力すると、力なく大地へと倒れ込んだ。そのまま、眼は白く濁り、動かなくなる。
「や、やった……」
レィナが、酷く肩で息をしながらそう呟いた。その疲労は、イレギュラーズ達の比ではなかったが、
「ふん、良く動いたじゃねぇか、きらきら新人」
瑠々が皮肉気に言うのへ、レィナはうんうんと頷いて、キラキラとした笑顔を向けた。
「はい、師匠!」
「あぁ?」
瑠々が目を丸くする。
「すごかった! ガイアドニスおねーさんもそうだけど、あんなすごいのに立ち向かって……私、師匠みたいな強い勇者になりたい!」
「やめろ、やめろやめろやめろ! そのきらきらした目でウチを見るな!!」
「ふふふ、みんな愛らしいでっす!
あ、そうそう、さっきやっつけた猪と鹿だけれど、ちゃんと処理すれば、村の食料になるから。
そのあたりのことも、今から教えるわね~」
ガイアドニスがそういうのへ、少女たちは、「はーい!」と元気よく返事をした。
かくて、小さな勇者たちの最初の冒険は成功に終わり。
イレギュラーズ達は、自分たちを慕う後輩を、手に入れたのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆様の活躍によって、四人娘は無事生還。
これからも、皆さんを目標に、冒険を頑張っていくのでしょう。
もしかしたら、また皆さんの前に、姿を現すかもしれませんね。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
亜竜種の新人冒険者たち。彼女たちの初依頼に付き合ってあげてください。
……ですが警戒を。森には危険なアロンゲノムが居るようで……。
●成功条件
アロンゲノム・ヴェノムリザードの撃破
●特殊失敗条件
レィナ、ユーリィ、ネネナ、キッツェが全員戦闘不能になる
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
この度イレギュラーズとなった、亜竜種の四人娘、レィナ、ユーリィ、ネネナ、キッツェ。
幼いころから冒険にあこがれていた彼女たちは、ローレットに所属して初めての依頼を受けます。
依頼は簡単な害獣退治で、それだけなら皆さんが参加する必要はないのですが……どうもアロンゲノム・ヴェノムリザードが付近に発生したという噂があります。
四人娘が依頼を受けた時には発生せず、依頼書にも危険性は書かれていなかったのですが、アロンゲノムが徘徊している可能性があるとなると、四人娘には荷が重い任務です。
というわけで、皆さんの出番です。前半は、四人娘が害獣退治をしっかり行えるように、皆さんがサポートしたり、手本を見せたり、ちょっとピクニック気分で一緒にお話したり、お休みしたりと、彼女たちのサポートをしてください。
これはメタ的な情報ですが、アロンゲノムはすでに森に入り込んでいます。彼女たちが仕事を終えた段階で遭遇することになるでしょう。そうなったら、皆さんの本格的な出番です。
先輩として、名をはせる勇者として、後進にその実力を見せてあげましょう。
作戦決行タイミングは昼。エリアは森。視界はあまりよくありません。害獣くらいなら問題ないですが、アロンゲノム側からの奇襲には警戒してください。
●エネミーデータ
害獣 ×4
凶暴化した猪や、魔物化した鹿などの、いわゆる「ゲームの初期に遭遇しそうな雑魚モンスター」です。
性能面でも、皆さんの足元にも及ばぬほどの、言ってしまえば雑魚です。
が、新人の四人にはちょうどいい相手でしょう。新人の四人娘に任せっきりでも問題ないですが、アドバイスをあげたりすると、より手際よくやっつけてくれるかもしれません。
アロンゲノム・ヴェノムリザード ×1
アロンゲノム――動物・魔物版の反転現象により生じた、毒持つ巨大トカゲの怪物です。その様は、もし真に亜竜を知らぬものが見たら、ワイバーンだと誤解するような、巨大な爬虫類です。
皆さんの相手は、主にこいつになります。非常に素早いため、EXAや機動力が高めです。尻尾はリーチが長く、中距離程度までは届くでしょう。
牙は『毒』系列、『痺れ』系列、『出血』系列を持ち、じわじわとこちらの体力を減らしてきます。BSを解除してしまうか、回復を厚くすると安定して戦えるでしょう。もちろん、此方が倒れる前に倒しきってしまう、という前のめりな作戦も可能です。
敵は四人娘も狙ってきます。四人娘は、戦闘不能になることによって死亡することはありませんが、出来れば守ってあげてください。全滅してしまうと依頼も失敗になります。
●味方NPC
レィナ
勇者にあこがれた、四人娘のリーダー格。ピンクの髪の元気な少女。
前衛タイプで、盾、攻撃、しっかりこなせます。もちろん、皆さんとは比べるべくもない実力です。
ユーリィ
黒髪で生真面目な女の子。レィナに良く振り回されています。銃を持ち、ロングレンジからレィナをサポートします。
基本的に、この子達の戦法は、レィナがタンクを行い、攻撃力の高いユーリィとネネナがアタッカー、キッツェが回復などサポート、という形のようです。アドバイスなどがあればどうぞ。
ネネナ
魔法オタク気味の青髪の女の子。友達、とくにレィナを弄って遊んでいますが、根はやさしくて良い子です。キッツェに甘えがち。
見た目通りの魔法使いタイプ。遠距離から基礎的な魔術を使い、敵を攻撃します。
キッツェ
金髪でおとなしい、心優しい少女。ネネナとは隣の家の幼馴染。
回復支援タイプで、豊富な回復とバフを使えます。もちろん、皆さんよりは下級のそれです。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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