PandoraPartyProject

シナリオ詳細

港を開け、海へ行け! 或いは、港を狙う4つの組織…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●港の利権
 渇いた砂漠を幾つか超えれば、遥か遠くへ広がる海が見えて来る。
 ラサ、南端部。
 砂漠の終わり、海の始まり。
 かつては交易の拠点であったその場所には、古い港の街がある。
 街の至るところには、砕けた黒い水晶の破片が散らばっていた。立ち並ぶ古い家屋のほとんどは半壊状態。そこに住む住人たちに活気はなく、誰もが浮かない顔をしている。
 長い間、街は住人ごと“悪魔の岩礁”と呼ばれる水晶に閉ざされていた。
 つい最近になって、ようやくイレギュラーズの活躍により街は水晶の呪縛より解き放たれることととなったのだが、だからといって失った時までが戻ることはない。
 水晶の中で命を落とした者を悼み、水晶によって荒れ果てた街の現状を憂い……けれどほかに行く宛てもない住人たちが、静かに日々を生きている。
 生きながらにして、街はもはや死んだも同然の有様だった。
「気持ちは分からないでもないがな……時間が解決してくれればいいが」
 街の一角。
 古い酒場の跡地に集った8人のうち、浅黒い肌色をした青年が呟くようにそう言った。彼の名はアーマデル・アル・アマル (p3p008599)。今日も酒場への道すがら、街の様子を見て来たらしい。
「完全に無気力ってわけでもねぇ。復興のために瓦礫をどかしてたんだが、手を貸してくれた連中もいるぜ」
 店にあった古い酒をグラスに注ぎ亘理 義弘 (p3p000398)はそう告げる。それから彼は、新しいグラスと酒瓶をアーマデルへと差し出した。
「とはいえいつまでもあのままってのもいただけねぇ。“悪魔の岩礁”が何者かの差し金ってんなら、きっと近いうちに仕掛けて来るぜ」
 良くない出来事は、望まないタイミングで畳みかけるように起きるものだ。
 獣の勘か、それとも経験則によるものか。
 果たしてそれから数時間後。
 ジェイク・夜乃 (p3p001103)の危惧した通り、港へ4人の招かれざる客が訪れた。

●4つの組織
 ある暑い日の昼下がり。
 港へとやって来た4人の使者を出迎えたのは蓮杖 綾姫 (p3p008658)とイリス・アトラクトス (p3p000883)の2人であった。
 それぞれ所属する組織の異なる4人だが、おおよその主張は以下のように共通したをものだった。
 曰く「港に先に目を付けたのは自分たちだ。だから港の再興をするなら1枚噛ませろ」ということだ。
「ところがチヨさん曰く、その4つの組織は以前から仲が良くないようで」
「お互いに牽制し合っていて雰囲気は最悪……はぁ、お腹が痛くなりそう」
 コップに注がれた冷えた水を飲みながら、綾姫とイリスは同時に重たいため息を吐いた。
「その4つの組織ってのはどういった連中なんだ?」
 そう問うたのはジョージ・キングマン (p3p007332)だ。
 咥えた葉巻が紫煙を燻らす。
 数秒、立ち昇る紫煙を目で追ってチヨ・ケンコーランド (p3p009158)は「ふむ」と口の中で言葉を転がす。
 海洋を拠点とするジョージが、ラサの組織に詳しくないのは当然だ。
 けれど、詳しく説明をするとなると時間がかかり過ぎる。
「奴らはラサの各街において、大なり小なり根を張っておるんじゃ。そして、街の発展に少なからず役立っておるのも事実……当然、物事には表があれば裏もある。良いことばかりというわけでもないが」
 人差し指から小指までを立て、チヨは4つの組織について以下のように説明をした。
 1つ目の組織は“チーム:ピーカ・ブー”
 文化や娯楽を提供するクリエイターたちの集団で、活気のある街ではとくに影響力がある。
 2つ目の組織は“教徒会”
 幾つもの宗教団体や占い師、預言者たちの集団で、彼らの存在は人々の精神的な支柱となり得る。
 3つ目の組織は“法を守る銀の騎士”
 流浪の騎士を起源とする者たちであり、武力による治安の維持に大いに貢献してくれるだろう。
 4つ目の組織は“アスクル学者団”
 学者や研究者、錬金術師の集まりで、豊富な知識は町のインフラ構築や経済の活性化に影響を与える。
「詳しくは後程資料を纏めるが、まぁ“どの組織も港の発展に有用であると同時に、問題をもたらす可能性も孕んでいる”と思ってくれれば良い。ついでに言うなら“悪魔の岩礁”で港を閉ざしたのも、連中のうちのどれかじゃろうな」
 港の利権を狙いかつて4つの組織は対立した。
 争いは次第に苛烈となり、多くの犠牲者が出たという。結果として、どこかの組織が“悪魔の岩礁”を操る術師へ港の封鎖を依頼した、というわけだ。
 港を奪われるぐらいなら、いっそのこと封鎖してしまおうということか。
「ほとぼりが覚めたころに“黒水晶を除去する手段を確立した”として港の利権を奪取しようと企んでおったんじゃろう」
「ところが私たちが力づくで港の封鎖を解いてしまった。港の利権を狙う連中に横槍を入れた形だな」
 チヨの話を聞いたラダ・ジグリ (p3p000271)は、4つの組織の思惑を思案する。
 奪われた港の利権を得るために、組織の選べる手段はそう多くない。
 力づくで奪い盗るか、取り入って分け合うかの2択だ。
「幸いなことに4つの組織同士は仲が良くないらしい。どこかと協力関係を結ぶことが出来れば、他の3つの組織に対しての抑制力になってくれるはずだ」
 問題は、どこの組織と手を組むか……。
 手を組むのなら、少なくとも“対等”な立場であるべきだ。
 つまり、何らかの方法で組織にラダたちの実力を認めさせなければならない。さもなくば、港の開拓事業において、主導権を奪い去られることになる。
「手を組んだからと信頼がおけないのが何ともな……獅子身中の虫という奴か」
「“悪魔の岩礁”の件もある。どこと手を組むにしろ、いずれはきっちり話を付けなきゃなるまいよ」
 ラダの提案に否はない。
 ジョージと義弘は協力関係を結んだ先にある問題についても視野を向けていた。

GMコメント

●ミッション
4つの組織のいずれかと協力関係を築くこと。
※“対等”な協力関係を築くには、何らかの手段で組織の代表に認められる必要がある。

●4つの組織
港を狙う4つの組織。
詳細については下部にも記載していますが、そちらは別の読まなくとも問題ありません。
どの組織も港の発展に有用であると同時に、問題をもたらす可能性も孕んでいると認識ください。
港の開拓を進めるためには、以下のうち1つの組織と協力体制を結ぶ必要があります。
いずれかの組織とコンタクトを取り、何らかの手段を用いて少なくとも“対等な立場”を手に入れてください。

■チーム:ピー・カブー
文化、娯楽の伝道者およびクリエイターたち。
港の活気は増すだろうが、治安や衛生の悪化リスクが伴う。
代表者はピーカブーと呼ばれる仮面の演説家。「楽しくない奴とは会話する気も起らない」というのが彼女の思想だ。彼女の言う「楽しい」とは、血沸き肉躍る熱狂である。
ピー・カブーの構成員たちは【ブレイク】【怒り】【恍惚】の効果を備えた肉体による攻撃手段を有する。

■教徒会
占い、予言、宗教といったスピリチュアルな分野を担う宗教家たち。
住人達の指導者たり得る。反面、教徒会による住人の精神的な支配が生じるリスクが伴う。
代表者は大司教と呼ばれる女性。彼女は警戒心が強く滅多に表へ姿を現さない。彼女とコンタクトを取るためには3人の従者を捕まえて“メダイ”と呼ばれるコインを手に入れる必要がある。
教徒会の構成員たちは争いを好まない。しかし【魅了】【不運】【懊悩】を付与する魔術を行使する。

■法を守る銀の騎士
治安維持、悪人の捕縛、法の整備などを担う秩序の番人たち。
街の治安維持に長ける。一方で暴力による過剰な制裁や、高い税を住人に課すこともある。
代表者はシルバーと名乗る騎士。彼は実力至上主義を掲げる頑固な男だ。彼は力ある者が、力なき者を管理する世の中を当然と考えている。
構成員は戦闘に長けており、その攻撃には【失血】【封印】が付与される。

■アスクル学者団
学者やその弟子、または研究者によって構成される知識の探求者たち。
彼らの知識は街の発展に大いに役立つだろう。しかし、彼ら時として街に混乱を起こす。
代表者はアスクル教授という男性。彼は自分たちを庇護してくれる存在と、自分たちの知識を存分に発揮できる環境を求めている。
多くの知識を有した彼らは【氷結】【業炎】【感電】【致死毒】の伴う魔術や薬品による攻撃手段を有する。

●フィールド
ラサ南端にある小さな港街。
住人たちは活気を失い、またインフラは壊滅状態。
家屋のほとんども全壊もしくは半壊している。
街に活気が戻らねば、港としての機能を取り戻すことは出来ないだろう。
そして、そのためには“商人”以外の協力が必要不可欠だ。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。






※4つの組織詳細(読んでもいいし、読まなくてもいい内容です)

●チーム:ピー・カブー
文化、娯楽の伝道者およびクリエイターたち。
吟遊詩人の斡旋や、劇場、サーカス、パーティや祭りのオーガナイズなどあらゆる“娯楽”に通じる一団。彼らが何より重視するのは、他者の笑顔と熱狂だ。
人生を豊かにするために、娯楽は決して欠かせない。
楽しみがなければ、生きている意味などないのだから。
けれど多くの場合、クリエイターとは独創的で我が道をひた進む性質を有する。彼らにとって優先すべきは先にも言った通り「笑顔と熱狂」であり、そのためならば多少のリスクはやむを得ないと考えている。
およそエンターテイメントに関することであるのなら、彼らはきっと満足のいく結果をもたらしてくれる。反面、娯楽に湧いた者たちが街の治安や衛生を幾らか悪くすることもある。
娯楽とは刹那的かつ魅力的なものだ。それは人に活気を与えることもあれば、破滅に誘うこともあるだろう。

●教徒会
占い、予言、宗教といったスピリチュアルな分野を担う宗教家たち。
彼らはいわば、数多ある宗教や信仰の集合体だ。
未来を見通し、神の加護を得られようと時に困難は彼らを襲う。また、心の悪しき者たちが暴力を持って敬虔なる信徒や非暴力の信奉者を虐げることもあるだろう。
そのような悲しい結末を避けるために、彼らは手を組み、1つの組織となったのだ。
また、その成り立ちゆえか、彼らは人を束ねることに長けている。彼らの多くは優秀な指導者となり得る人材だろう。
彼らは平和を愛している。しかし、彼らの言う平和とは「自分たちの定めた法の下で与えられる」べきものだ。表だっては占いや預言、説教といった活動に従事しているが、真偽不明の悪い噂が囁かれることもまた事実である。
未来とは絶えず変動するものだ。そして時には対価を払えば「望む未来」が与えられる。けれどその結果として、誰かの未来が閉ざされることになるだろう。

●法を守る銀の騎士
治安維持、悪人の捕縛、法の整備などを担う秩序の番人たち。
彼らの起源は数世紀ほど昔に存在していた流浪の騎士である。無法の者がのさばる世間を良しとせず、武力によって恒久的な平和の実現を目指したという。
長い年月の間、彼らは1つの誓いに従い平和の実現に尽力し続けた。
つまり「正義なき力は暴力なり、力なき正義は無力なり 」だ。
彼らの管理下に置かれた土地において、人は皆、平等に扱われる。例え当人たちがそれを望もうと、望まざるとに関わらず。
また、彼らの活動資金は住人たちから“税”という形で徴収されることになる。安全、平和、命の保証の対価として、幾らかの金を差し出せということだ。
正義とはひどく独善的なものだ。人が何より加虐的になるのは“正義の側に立った”時だというのは、永久に変わらぬ常識だろう。


●アスクル学者団
学者やその弟子、または研究者によって構成される知識の探求者たち。
彼らの修めた学問は多岐にわたり、彼らの保有する知識を合わせれば人の歴史を数十年ほど一足飛びに進化させられるとも言う。また、知識は歴史より得るものであるという考えの基、彼らの中には古き文化や他国の有り様に精通する者もいる。科学はもとより、地質、考古、民俗……そして、錬金術もまた学問なのである。
彼らは非常に勤勉だ。一方で武力や権力、あるいは富に対する関心が薄く、また時として知識の探求は己や他者の安全よりも優先されるという彼らの中でのみ通用する独自の常識を持っている。
彼らは街の発展に大きく寄与してくれるだろう。
しかし彼らは勤勉ではあるが“真面目”ではない。彼らに与えた仕事が、彼らの興味を惹かぬ類のものならば、それが十全に完遂されることは稀である。
知識とは繁栄に欠かせぬものだ。しかし、知識を探求するに伴い他者を見下す“傲慢”や自身よりも優れた者に対する強い“嫉妬”に心を支配されることもあるだろう。

●商人連合
幾つかの商会やその関係者によって構成された集団。
種族、年齢、性別、拠点、また扱う商品やその商売の在り方は多岐に渡るが、誰もが新たな商機を狙っていることに違いはないだろう。
街の発展や住人たちの生活に、商人の存在は不可欠だ。また、大商会を有する街の発展速度は目を見張るものがあるのも事実。
けれど時に商売はひどい貧富の差を生み出す原因ともなりかねない。
また、商人たちのいざこざにより国や街同士のパワーバランスが崩れた例も多い。時にそれは、大規模な戦争へと発展することもある。「金は命よりも重い」とそう嘯いた商人もいるほどだ。
金や物資の流通は人の営みに欠かせぬものだ。同時に金や物資の奪い合いは、人と人が争う理由の最たるものであるだろう。

※商人連合=皆さんです。

  • 港を開け、海へ行け! 或いは、港を狙う4つの組織…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年05月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
チヨ・ケンコーランド(p3p009158)
元気なBBA

リプレイ

●港の覇権
 ラサの南端。
 廃墟寸前といった様子の港町。
 潮気を孕んだ湿った風に髪を揺らす『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は正面に座る1人の老爺へ視線を向けた。
「さて、あくまで対等な立場として話そう。この港を解放したのは私たちなのだからな」
 そう言ってラダは、視線を隣の偉丈夫へと向けた。黒い髪をオールバックに纏めた男だ。
 名を『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)という、ラダと並ぶ港開拓の主導者である。
「……ふむ? 身なりは良いが、なかなかに荒い生き方をしてきたと見える。暴力を持って儂らを追い出す心算かな?」
 ジョージを見上げて、老爺は顎髭を撫でた。
 老爺の名はアスクル。仲間たちにはアスクル教授と呼ばれている、学者集団“アスクル学者団”の指導者的存在だ。
「交渉のメインはジグリ嬢に任せる。俺はサポートだ」
 それだけ言って、ジョージは1歩後ろへ下がった。
 所は港の、とある粗末な酒場跡地。
 窓ガラスなど割れて1枚も残っていないが、長い年月、放置されていた港ではこれでも比較的、過ごしやすい場所なのである。
 
 港を覆う黒水晶を排除してから暫く経った。
 その間、港に滞在していたラダやジョージの元を訪ねて来た組織は都合4つ。彼らの主張を要約するなら「港には前々から目を付けていた。新参者は消えてくれ」ということだ。
 とはいえ、黒水晶から港を解放したのはイレギュラーズたちである。
 現在、港の管理者はラダやジョージということになる。当然、4つの組織もそれは理解しているのだろう。そこで彼らは「自分たちにも港の開拓に1枚噛ませろ」と提案して来た。
 諸々の思惑や、他組織への牽制といった目的もありイレギュラーズはそれを承諾。
 まずはアスクル学者団を誘致すべく、交渉の席を設けることと相成った。

「どういった思惑と経緯があろうと、今現在ここを解放したのは私達。理不尽な搾取は許しませんし、住民への不当な態度や各集団間での諍い等を見かけた場合は相応の手段で排除させていただきましょう」
 酒場の裏手。
 茶と軽食の用意をしながら『厄斬奉演』蓮杖 綾姫(p3p008658)はそう呟いた。
 港を覆っていた黒水晶は、1人の術師によって生み出されたものだ。そして、術師を雇い港を人ごと封印したのは、4つの組織のうちどれかだと判明している。
「不利益を被らないためにも、無事に交渉をまとめて五分の杯を交わさなければな。あぁ、他組織にも断りを入れなければならねぇが、筋を通さなければよ」
 握った拳を鳴らしながら『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)が立ちあがる。
 視線の先には、事前調査から戻って来た『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)の姿があった。
 ラダとジョージ、綾姫がアスクル学者団と交渉を進めている間に、残るメンバーで他の組織に断わりを入れる手はずとなっているのである。
 そろそろ行くか、と。
 立ち去っていく義弘の背を、綾姫は無言で見送った。

「結論から言うと、どいつもこいつも胡散臭え。住民たちの話じゃ、当時は街のあちこちで組織間のいざこざが起きてたって話だ。公にはなってねぇが、怪我人は日常茶飯事。死人が出た可能性もあるってよ」
 荒れた往来を歩きながら、ジェイクは声を潜めて言った。
 そもそもの話として、組織というものには必ず正の面と負の面が同居する。ローレットであってもそれは変わらず、例えば俗に“悪依頼”と呼ばれているものがそれにあたる。
 加えて、胡散臭い相手とはいえ4つの組織が持つ力や影響力が大きいことに違いはない。街の発展に彼らが有用であることも事実だろう。
「最終的にはわしらが調整役となって、他の組織と助け合いながら街を盛り上げていけるのがええのぉ!!!」
 足を止めて『元気なBBA』チヨ・ケンコーランド(p3p009158)はそう言った。イレギュラーズたち“商人連合”を含め、組織同士は現在対立状態にあるが、目的を同じくするのであれば、向く方向性を同じくすることも不可能ではないはずだ。
 つまるところ。
「サヨナキドリも部署が山盛りじゃ! みな、得意な事でそれぞれ盛り立てておるのじゃ!!!」
 と、いうわけである。

 街の外れへ差し掛かった頃、チヨたちの前にドサリと重たい音を立てて何かが放り投げられた。
 見ればそれは、縛り上げられた男のようだ。
 派手な飾りの付いた衣装や顔に施したメイクから、おそらく“ピー・カブー”に所属している者であることが見て取れた。
「ん? 何だ?」
 素早く拳を構えた義弘が、視線を周囲に巡らせる。
「空き家を漁っていたから捕まえたんだが……こういうのは教徒会や騎士の守備範囲だろうか?」
 投げ出された男に続いて、物陰から現れたのは『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)である。
 目深に被っていたフードを払うと、冷たい視線を転がっている男へ向けた。
「港の復興はしたいけど、本当に面倒な話になってきたわね……」
 『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は、眉間を押さえて唸るようにそう呟いた。
 
 盗みを働こうとしていた男を引き摺り、一行は町の外れへ向かう。
 街の外には4つのテント。よほどに仲が悪いのか、テントとテントの間には十分な距離があった。そのうえで、テントは互いに監視し合えるような配置で建てられているのだ。
「さて、相手側の出方を見つつできる範囲で情報収集かな?」
「あぁ、今回は手を取らずとも、実情を見、できる対処はしておく事で、つけこまれる隙は多少なりと削げるかもしれない」
 手札も増えたしな。
 イリスの言葉に頷いて、アーマデルは縛り上げた男へ視線を投げるのだった。

●タフな交渉
 パチパチと、焚き木の燃える音がする。
 暗い夜闇に、炎の赤が怪しく揺れた。
 暖かな湯気が立ち昇る。周囲を木板で囲んだ区画で、ドラム缶風呂を沸かしているのだ。
「いい湯じゃろう!! 温泉に浸かれば元気もでるぞい!!」
 夜の静寂に老婆の叫びが木霊する。
 幾つも並んだドラム缶風呂に浸かっているのは女性ばかりだ。彼女たちは、悪魔の岩礁に捕らわれていた街の住人たちである。
 中には命を落とした者もいたものの、辛うじて集落を維持できる程度の人数は無事に救出することが出来た。失われた時を嘆き、荒れ果てた街を前に項垂れるばかりであった彼女たちを、チヨは風呂へ誘ったのだ。
 身を清め、心の澱や悩みを洗い流す。
 入浴には、そう言う効果もあるのである。
「そう……ですね。なんだか久しぶりな感じです」
 チヨに言葉を返したのは、1人の若い女性である。どこかおどおどとした様子で、しきりに周囲を見回していた。野外入浴という行為に慣れていないためだろう。
「あの、大丈夫なんですか?」
「うん?」
「ピー・カブーの人たちが来ているってことでしたけど……あの人たち、すぐに大騒ぎを始めて、問題を起こすんです。それで、騎士の人たちとは喧嘩になるし」
「なぁに、若い娘さんがそんな心配はせんでよい! 連中はわしらが相手するでな。なんで、街でどういう振る舞いをしておったかとか聞かせてくれんかの! 素敵なエピソードからちょっと黒い話まで何でも募集じゃ!」
 任せておけ、と気安く請け負うチヨを見て、女性はぎこちなく笑う。
 これが昨夜の出来事だ。

「あーあー、うちのが迷惑かけたかな? っても、空き家に入ったってだけじゃんねぇ?」
 仮面の女がそう言った。
 ピーカブーと名乗る彼女は、縛られた男を指さしてさも愉し気に笑っているのだ。
「ってか、そっちだってアタシらの不在に付け込んで、港を奪って行こうとしているわけだろ? お互い様ってことで1つさ、見逃しちゃくれないかしらん?」
 ケタケタと笑いながら、ピーカブーは縛られた男を爪先で蹴飛ばす。
「だったらしっかり管理しといてくれや。目を付けていたのはそちらが先かもしれねぇが、こちらのシマを荒らされては黙っている訳にもいかなくなるからよ」
 ピーカブーを威嚇しながら義弘は告げた。
 すぐに騒ぎや問題を起こすとは聞いていたが、幾ら何でも早すぎる。
 しかし、こうして厳しく取り締まる姿勢を早期に示せたのは僥倖だった。馬鹿な真似をする者に釘を刺すという意味もある。
「……そいつらには言うだけ無駄だ。不要な騒ぎを起こしては、何の責任も取らぬ無法者ども故」
「おーおー? シルバーじゃん。一等、頭の固い奴が出て来たわね」
 会話に割り込んで来た白銀の騎士へ笑みを投げかけ、ピーカブーは肩を揺らした。
 一瞬、騎士……シルバーの纏う怒気が急激に膨れ上がる。一触即発の気配を察知し、ジェイクは懐へ手を滑らせる。
 ジェイクの指先は拳銃の引き金にかかっている。何かしらの動きがあれば、すぐにでも銃弾を撃つ心算か。
 暫しの沈黙。
 睨み合う3者を、教団員らしき男が遠目に眺めているのが見えた。
 黙り込んでいても仕方が無いと、その沈黙をイリスが破る。
「埒が開かないわ。ジェイクさん……人は揃っているみたいだし」
「あぁ、本題に移ろう。はっきり言うが、悪いんだが今のところあんたらと手を組むつもりは無いんだ」
 と。
 ジェイクが口にした瞬間、シルバーは無言で腰の剣を引き抜いた。

 一方その頃、酒場にて。
「町の統治や交易は私達で行うが、復興や発展には専門知識が要る。そして知識は蓄積し、減る事のない財。つまるところ未来への投資だな」
 淡々と。
 しかし、視線は眼前のアスクルへと向けたまま、ラダは言葉を舌へと乗せた。
「ほぉ? では、儂らの好きにやらせてくれるということでいいんじゃの?」
 にぃ、と口角を吊り上げてアスクルは笑う。
 港の発展には、様々な知識が必要となる。また、産業を興すにしても、技術だけでは限界がある。その点を埋める手段と知識をアスクル学者団は保有していると見ての提案だ。
 重用されている、とアスクルはそう判断したのだろう。
 けれど、ラダの話はまだ終わってはいなかった。
「あぁ、待ってくれ。無軌道になっては意味がないんだ。まず、多様の知識を活かす為にも部署を分け、顧問につき活躍してもらいたい」
「……部下になれということかの?」
「そうではないさ。あくまで対等な立場でありたい。こちらの条件に従ってもらえるのなら、リターンとして、金銭や交渉、武力に絡むサポートを提供できるだろうな」
 加えて研究区画の用意や外国の文献・技術輸入、研究の産業転換や利益還元に住民との折衝といった、アスクル学者団が不得手とする分野にも手を貸せる。
幸いなことに、現状、港には空き地が多いのだ。アーマデルの調査により、学者団が住むのに適した区画も幾つか見当が付いている。
「悪くないの。悪くは無いが……もう一押し欲しいところじゃな」
「でしたら私の方から提案が。私の領地にある古戦場や遺跡の調査権などいかがでしょう?また発掘された品物の流通や確保に便宜を図ることもできるかと」
「それから安全の保障もだ……そうだジョージ、私達から船出したりもできそうだな?」
 綾姫とラダから出された追加の条件は、アスクルにとって悪くない話だったようだ。
 一瞬、アスクルの視線が酒場のカウンターへと向いた。そこに置かれている機械剣は誰の振るう得物だろうか? 長年、知識の研鑽に身を捧げて来たアスクルも見たことのない技術の粋がそこにある。
 欲をかいて、敵対するのは悪手であろう。
「……まぁ、こちらにとっても悪くない話じゃの。ところで、この港をどうしようというおつもりかな? 明確なゴールがなくては、どういった知識を提供すれば良いかも分からん」
 アスクルの問いを受け、ラダは視線をジョージへ向けた。
 ラダの背後に直立したまま、ジョージは静かに言葉を紡ぐ。
「我々の目的は、この港ではない。此処を起点として、静寂の青を越え、その先の新大陸との交易。未知が蔓延る、その航路の開拓だ」
「それに何の意味があるのかの?」
「例えば、砂漠において値千金の真水、そして緑をここにもたらす技術があれば、ここに新たな食文化が生まれ、貴方方に提供できる食事が美味くなる。学び場は、過ごしやすい事に越したことはないだろう?」
 ここから先は、信頼関係を結んだ後に話すことだ。
 言外にそんな意図を込め、ジョージは老爺へ手を差し出した。
 老爺がこの手を取れば交渉は成立。
 取らなければ……最悪の事態を想定し、綾姫が脚に力を込めた。

●明日の繁栄に向けて
 シルバーが剣を振るより速く、義弘の拳が手甲を叩いた。
 さらに、ジェイクやピーカブーを守るようにイリスが前へ。
 機先を制されたシルバーと、義弘の視線が交差する。
「っ……! 貴様ら!」
「不用意な行動は慎んで。私たちの話はまだ終わっていないわ」
「……俺はヤクザだからよ、シマを守る為なら容赦しねえぜ?」
 義弘の拳は、シルバーの胸に突き付けられている状態だ。彼の技量を持ってすれば、シルバーの意識を殴打の1発で刈りとることも難しくない。
 加えてシルバーの体勢も悪い。今の姿勢からシルバーが剣を一閃させても、イリスの鱗を断ち斬るだけの加速は乗せられないだろう。
 決してシルバーの実力が不足しているというわけでは無いのだ。しかし、当初より戦闘を想定していた義弘とイリスの方が、初動が速かったというだけの話。
 そして、実戦において初動の速さは勝敗を分ける要因となり得る。
「……易々と引くわけにはいかん」
 けれど、十全な成果が得られないからと抜いた剣をそのまま鞘へ納めることを、シルバーは良しとしなかった。
 踏み込むと同時に、強引に剣を横に薙ぐ。
 ぎゃり、と硬質な音が響いてイリスの鱗が刃を止めた。

 シルバーが動き始めるのと同時。
 行動を開始した者がいる。
 遠目に状況を静観していた教団の徒弟らしき男だ。彼は腕を掲げると、何かの魔術をピーカブーへ向けて放った。
 驚愕に肩を跳ねさせるピーカブー。
 回避に動く時間は無い。完全に虚を突かれた形だ。
 けれど、魔弾が彼女を撃ち抜くことは無い。
「ビジネスライクな付き合いをしようって矢先に……ここで1人、指導者を落としておく腹か?」
 空気を引き裂きうねるアーマデルの蛇腹剣が、魔弾の軌道を変えたのだ。
 暗殺は失敗と見て、逃走へと移る徒弟。
 その後を追い……一瞬で追い越し、チヨは徒弟の進路を阻む。
「ほほほ! 若いのに足腰の鍛錬が足らんのう! 狼藉を働いた以上“落とし前”は付けねばならんて!」
「う……く」
「アーマデル坊! 他にもおらんか辺りを見て来てくれんかの?」
「あぁ、了解した。それと……」
 騎士の周囲に恨みを抱いた霊魂が多い。
 囁くような声音で告げて、アーマデルは駆けて行く。
 常人では聞き取れぬほどの小さな声も、ババア・イヤーはひと言さえも聞き逃さない。

「あーあぁ、これで借りが2つ。こりゃどうにも、立場が弱いわねぇ」
 参った、と頭を掻いてピーカブーはため息を零す。
 既に徒弟とシルバーは引き上げており、その場にいない。武力行使に出たうえで、それを潰された2つの組織は、言葉少なにジェイクの提案を了承し、帰還の準備に移るようだ。
 もっとも、教団と騎士団がこれで港の利権を諦めたとは思えない。
 しかして、当面の目的に関しては達成と見ていいだろう。
「将来的には港町にカジノや闘技場といった娯楽システムを置きたい。その為には君達の力が必要となる」
 得意だろう?
 ジェイクの問いに、ピーカブーは「当然」と返した。
「こういった娯楽は港町に富を与えるだけではなく。多くの人々を熱狂の渦に落とすであろう。君達にも悪くない筈だ」
「まぁ、今の状況じゃ客足も伸びないか……こっから盛り上げていくってのも、面白そうだとおもったんだけど」
 仕方ねぇかな。
 なんて。
 あっさりとした調子で言って、ピーカブーは踵を返して去って行く。
 
 重なるように倒れ伏した騎士と術士を見下ろして、綾姫は「はて?」と首を傾げた。
 一体どうして、騎士団と教団が一緒に行動しているのか。
「位置的に……狙いはジョージさんでしょうか?」
 綾姫の見やる視線の先には、話し合いを続けるアスクルとラダ、ジョージの姿があった。
 互いに酒を酌み交わしているのは、どこかの地方に伝わる契約の儀式だろうか。
 せっかく手を結んだというのに、3人のうち誰1人として笑っていない。きっとお互い、心から相手に信用を置いたわけでは無いのだろう。
「ですがまぁ、ひとまずはこれで……」
 アスクル学者団との交渉は成功。
 今は詳細を詰めているところだ。
「……鼠が紛れ込んでいないか、見回る必要がありそうです」
 ポツリと。
 綾姫は短い言葉を吐いた。
 
 翌日。
 ラダの口から、アスクル学者団との協定締結が住人たちに知らされた。
 この日を境として、街の修繕と発展は格段に加速することとなる。

成否

成功

MVP

蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
この度はシナリオリクエストありがとうございました。
普段とは些か毛色の違ったシナリオであったかと思いますが、お楽しみいただけたなら幸いです。

縁があればまた別の依頼でお逢いしましょう。

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