シナリオ詳細
玉響のエスぺランス
オープニング
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「――油断したぜ、リタ。まさかお前が騎士団のスパイだったとはな」
天義国内北部に存在する港町エルウッド――
其処はそれなり程度に大きな街であった。交易などによって発展してきた歴史があり季節によっては港が埋まる程の商船が訪れたりする事もあるという、が……光り輝く面があらば影も強くなるというべきか。
エルウッドの街の陰では近頃マフィアらしき者達が勢力を広げていたのである。
船の行き交いの最中に紛れ己らの商品――例えば薬物――などをやり取りし、街に広げる。だが斯様な行い、勿論天義の騎士団が見逃す筈もなくマフィア達を一網打尽にしようと彼らの拠点を探るべく秘密裏の調査を行っていた――
しかし、それは露見した。
マフィア達に接触し潜入捜査を行っていた者が逆に捕らえられてしまったのである。
それがリタ・アンドラーデ。
騎士団に属する女性であり――このエルウッドを生まれ故郷とする人物でもあった。
彼女は、両腕を天井に伸ばすようにして拘束されている。
鉄の枷がしかと両手首に架せられており更には……
「はぁ、はぁ……なんの、事……? 私が、騎士団……?」
「とぼけなくていいぜ。もうネタは割れてんだ――
それより、お前さん以外に仲間はいるのか? どれだけ潜入してんだ?
――なるべく早く吐いとけよ。そしたら楽にしてやれるぜ?」
「冗談、言わないで、よね……それより、早く、解かないと……
後でタダじゃ、すまさないわよ……」
その身は既に、幾つもの鞭の跡が刻まれていた。
脚や腕、頬など見うる白き柔肌に刻まれた跡は如何にも痛々しい……既に拷問が始まりどれ程の時間が経過しているのか分からないが、しかしリタは疲弊しても尚、その口を閉ざし続けていた。
己が信じる神の為。天義という国の為。そして何より故郷を汚す輩への怒りが故に。
――再度、鞭が振るわれる。
風を切る音。肉を打つ音。直後に生じる、苦悶なる声。
一撃二撃、三に四――気絶せんとすれば塩水をぶちまけ強制的に意識を覚醒。
それでも吐かぬ。己が騎士であるとは認めぬ。絶対に、絶対に。
「チッ。強情な奴だな」
「どうする? 時間の無駄かもな……もういっそ始末しちまうか?」
「まぁ待てよ。見ろ。大分お疲れの様だぜ――もう少しだけ遊んでやろうや」
リタへと痛烈な痛みを与え続ける者達が言を交わしている――いずれにしても彼女を生かす理由はない。情報が搾り取れるにせよ、取れないにせよリタはいずれマフィア達に始末される運命にあるだろう……
更には、数多の鞭打ちによってリタの体力は奪われ続けている。
自力で逃げられる様な余力はもうなかった。精神は保っても肉体は限界に近く……
「う……ぅ……ぐぅっ……!」
いっそこのまま死んでしまえば情報は洩れぬと、彼女自身思い始めていた。
意識を闇に沈めれば、きっといつかこの街に光は差す。
その為の礎になるなら――本望だと――
●
――同時刻。エルウッド街の港方面。
その倉庫街を移動する複数人の影があった。
彼らは――イレギュラーズだ。
何故いるのか? むろん、ローレットならば理由は一つ……依頼だ。
――あのね、あのね! お姉ちゃんが連れていかれっちゃの!!
少し前。ローレットに駆けこんできた子供達が、いた。
知り合いのお姉ちゃんとやらが――怪しげな者達に連れていかれたと言う。そこから情報屋が調べ、恐らくマフィアに連れていかれたのだろうと予測を立てるのに時間はいらなかった……この街の情報を収集し鑑みれば事態は明白だからだ。
――お願い! お姉ちゃんを助けて……!!
故に急ぐ。子供達の、切なる願いをその耳に聞けば。
件のお姉ちゃん……リタ・アンドラーデが拉致されたと思わしき倉庫街へと。さすれば陰より周囲を眺めれば――一般人ではなさそうに武装している男達がいるものだ。ここのどこかに拉致されているのは間違いなさそうだ……さて。
「騎士団を待っている暇は――なさそうだな」
誰にも聞こえぬ様に呟く一言。身軽たるローレットの出番が此処に在る訳だ。
さて――マフィア達の警戒網を潜りながら倉庫を調べていくか。或いは同時に散発的に存在している警備達を各個撃破していってもいいかもしれない……一度騒ぎが起これば周囲の者達がどうせ集まってくるだろうから。
いずれにせよ――さぁ。希望の光を届けに行くとしようか。
- 玉響のエスぺランス完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年05月24日 23時00分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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天義は正義たる心を内に秘めた国だ。
しかし、かの国の街で斯様な行いが蠢いていようとは……
「……やはり天義動乱の影響が大きいのでしょうか。
こういった類を放置していればやがて『何処ぞ』へ繋がらないとも限りませんね」
「ええ。だからこそリタさんを必ず救うわよ。
……どんな時だって光はあるんだって。あの子達の為にも示してあげなきゃ」
周囲。警戒しながら言を紡ぐのは『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)と『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)だ。影は影を呼び込み、広がり往くもの……下手にアドラステイアと共謀などされようものなら如何なる事態へと発展するか。
故に防ぐ。何より、頼って来た子供達の為にもと。
暗きを見通す目を正純は巡らせ、リアも周囲で異なる旋律がないかと音色に魂を寄せれば。
「やれやれ、幼き子らに泣きつかれては断れぬでござるな……子の涙とは、なんとも言い難い」
『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)もまた二人と共に往くものだ。
気配を消し、足音を殺して。更には壁の先すら見通す術をもってすれば警戒も万全である……が。どれ程注意しても勿論、マフィア共があちらこちらに居れば容易くとはいかぬ。
「まぁ随分と警備はざるの様ですが。ただまぁ……流石に突っ切る訳にはいきませんね」
吐息一つ正純は零すものだ。未だ此方の侵入には気付いていない様子だがリタのいる場所までは時間が掛かりそうだ――と。
だから。
「世は闇に埋もれ、闇の中で悪は跋扈する……
されど夜の闇が広がれば、渦中に紛れ世の悪を討つ男もまたいるもの――
―――――そう。殿的存在、一条夢心地とは麿のことじゃ!」
てってれー! 効果音も付きそうだけど、小声でバレぬ様に。しかし存在感は抜群の人物は『殿』一条 夢心地(p3p008344)だ――! 深夜の倉庫におなご騎士を連れ込んであんなことやこんなことをする……? ゆるさぬ……そんなけしからぬこと……ゆるさぬ……
「断じてゆるさぬ……!! PPPは全年齢である事を麿自ら示してやらねば……!! 救出は深夜の港の倉庫で拘束されてなんやかんやげふんげふんされる状況のエキスパート、小金井・正純やリア・クォーツというプロに任せようぞ!」
殿の頭がマスタリング対象である――と、冗談はともかく。
正純らが極力戦闘を避け潜入する事を目的として動いているならば、夢心地の方ではマフィアの構成員を少しずつ排除していく事を目的に動いていた。
「どうせなら囚われの姫君をお助けに……と行きたかったんですけどねえ。
まっ、派手に暴れるほうが性に合いますし?
――バレても上々。いかせてもらいましょうか」
「リタさんをこのまま無為に死なせるのは、少々惜しいでごぜーますしね。
どれ、救出劇の一つでもやってみんしょうか――」
そして同様の動きを見せているのは『返の風』ゼファー(p3p007625)や『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)もである。ゴロツキ共なんぞに好き勝手調子に乗らせて、勇敢な騎士が犠牲になるなど――物語のオチとして一切合切相応しくない。
故に闇夜に紛れて接近するもの。
気付かれていなければ一撃必殺の如く。紡ぐ一閃が背後より迫りて――打ち倒せば。
「やれやれ……ガキの小遣いで動くなんざ、ローレットサマもお優しいこって。
いつからローレットは慈善事業の精神に目覚めたんだ――?」
ったくよ、と紡ぐのは『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)だ。
ああ全くガキの一声で絆されるなどあり得ないあり得ない。
――だが。あんな『ごっこ』遊びで悪党気取られても面白くもなんともねェんだ。
「一丁、ホンモノってやつを見せてやらなきゃなぁ!
おぉよテメェもそう思うだろ? ガチなヤツを見た事あるか? どうだぁ!?」
「ん――!! んんんッ――!! は、離……ぐぁッ!!」
「運が悪かったねェ。おれさまに初っ端から見つかるなんてよ。ま、これも日頃の行いってなァ!」
で、あれば。グドルフもまたマフィアの見張りへと陰から強襲するものだ。
その動き、正に卓越している。敵がまだ察知していなかったとはいえ、攻撃の一手に至れば闘志が零れてしまうものだが……それすら悟らせぬモノ。一撃ぶちかまし、倒れ伏した所の口を押さえつけ声も上げさせんとしつつ無力化していくもので。
「よし……! いい調子だと、思うのです……! 正純さん達も、進めてるみたいですッ」
さすれば周囲の状況をファミリアーにより俯瞰している『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)が、事態の推移を正確に把握するものだ。二体の使い魔を使役出来るニルは一体を周囲の偵察に。一体を正純に預け、救出班の動向も確認している。
今の所は順調だ。どうにも、周囲の様子がおかしいと気づきかけているマフィアもいるようだが、それ自体は計算内。要は救出班が無事にリタに辿り着くのが一番なのだから。
故にニルは物陰に潜みながら周囲を窺う。
ばれないように、ばれないように……と念じながら、そして。
「リタさん、きっと大丈夫ですからね……!」
『お姉ちゃん』が無事でいますように。
救出班のみなさまが、無事でいますように。
救出が、うまくいきますように。
子供達の願いが届きますようにと――祈る様に、呟くものだ。
●
「おい! 東側の方に侵入者がいるみたいだぞ! 人手を向かわせ……ぬぁあ!?」
「なーっはっはっは!! マフィアを許さぬスーパー夢心地、推参!! さぁ麿の顔に見覚えはないかの? 知らぬとは言わさぬぞ、この乙女を連れ込んであれそれこれの破廉恥者共が――!!」
なんだこいつは――! あぁ夢心地が暴れる音が聞こえている――
遂に陽動班の存在も露見した様だ。さすれば、そちらに向かう足音が幾つも響いて……
「ふむ。あちらも相当に引っ張ってくれている様でござるな。
では今の内に……むむっ。恐らくはこの辺りであると思うのでござるが」
「……旋律が近くなって来たわ。リタさんは――この先ね」
直後には咲耶が抜き足、差し足、忍び足……忍びの十八番で先導するものだ。
敵の注意が彼方に向いていれば気付かれぬとは思うが念には念を入れるものである。聞き耳を立てながら慎重に。そうしていれば――先程からどこまでも脳髄に鳴り響く『苦痛』の音色を感じ取っていたリアが、微かに顔を歪めるもの。
リタだ。きっとこの先にある倉庫が本命なのだろう。
――念のためにと咲耶が透視の力をもってして覗き込めば。
「いた。間違いないでござる……! 件のリタ殿でござるよ!」
「――よし。では手筈通りに、一気に行きましょうか」
しかと視認しうるものだ。正純も倉庫の扉の一角を微かに開けて、進入路を確認。
内部の敵は三人。ならば……押し込めるとッ!
「チッ。本当に喋らねぇな……仕方ねぇ。そろそろ始末するか?」
「残念ながら始末されるのは――皆さんの方ですよ」
「んッ!? テ、テメェら一体どこから……!」
「悪党に名乗る名は無く。ただただ無辜なる民に害を成した罪を数えよ――
この世に悪の栄えた試しなし。囚われた娘は返して貰うでござる、成敗!」
失礼。と言を零して正純や咲耶は一気に奇襲を仕掛けるものだ。
咲耶の撃と共に、強襲と断罪の拳が正純より放たれる――近場の者の鼻っ面を叩き折る様に。無抵抗なリタをいたぶる事に集中していた者達はいきなりのイレギュラーズに対応の手が遅れるものだ……
「どうしました? 勝ちを確信して気が緩みましたか?
警備も、見通しも、甘すぎる。抵抗できない女性を拷問して悦に入って……
そんなんだから此処で負けて――何もかもを失うんですよ」
「く、クソ、このアマ……! テメェも捕まえて鳴かせてやるよ――がッ!!?」
更に紡ぐ。正純が、彼らに侮蔑の表情を向けながら。
さすれば怒りを抱いた一人が正純に、リタを拷問していた鞭を向け――しかし、正純の踏み込みの方が早いものだ。敵の首筋を貫くような三撃が至近より放たれれば、一気に道を切り開くもの。
そしてその道筋をリアが駆け抜け、リタに接触すれば。
「うっ……ううっ……あ、貴方達は……?」
「大丈夫、無理に喋らないで。
貴女を助けに来たわ。貴女の帰りを待つ人達からのお願いを受けてね。
――それだけ大事に想われてるんだから、絶対に帰らないと駄目よ」
治癒の一手を紡ぐものだ。
奉仕と献身。天使の旋律が彼女の肌を抉る痛々しき傷を治癒していくもの――
が。どれほど打たれたのか分からぬが、これは痣と残るやもしれぬ……
「……でも安心して。ここからは連中の好きになんてさせないから!」
「クソ! 外の連中はどうした、リタが逃げるぞ!! 援護を呼べ!!」
マフィア達の応戦。放たれる銃撃が『逃げられるぐらいならば』とリタを狙う――
だがそれを封ずるのがリアだ。
これ以上傷つけさせぬとばかりに射線の前へ。庇い立てる彼女が壁となりて鉄壁の如く。
「貴女には帰りを待っている人がいるの」
「帰りを……? ま、まさか……」
「想われてるのね。――大事にしなさいよ、あの子達」
同時。紡ぐのは――心の儘の言だ。
此処に私達が来た理由。此処に救いの手が差し伸べられた理由。
――貴方を生かす『理由』が待っているのだから。
「だから、もうちょっと根性振り絞って! 痛いだろうけど、耐えて!
貴女にこんな事したクズ共は、あたし達が分からせるから!」
「なんだとこの女……! 此処から逃げれるつもりかよ!!」
「当ったり前でしょ!!」
アンタ達如きに、何が出来るつもりよ!
一喝。同時、あまりの圧に怯んだ男がいれ、ば。
「そろそろ大人しくして頂きましょうか。こちらにはまだ帰りもあるんです。
二人とも、行きましょう! 今の騒ぎが外にも伝わったかもしれません!」
「承知にござる! リタ殿、鎖を断ち切る故、動かぬよう!!」
その間隙を突く様に正純が敵の足を穿つものだ。
人を害するのならばそれ相応の痛みぐらいは覚悟してもらおうか――
轟くマフィア共の悲鳴。然らば咲耶はリタの鎖を断ち切る一撃を成し、外を目指すものだ。
「リタ殿。これより少々揺れる故、拙者にしっかり捕まっているでござるよ!」
「え、ええ……! ありが、とう……!」
「礼はここをしかと出る事が出来た――後より!」
救出は成した。しかしまだ終わりではない……脱出まで果たしてこそ、だ!
「な、なんだまだ敵がいたのか――!?」
「あらあら。あんたらのお仲間、今頃倉庫の床とキスでもしてるか、コンテナに熱烈なハグでもして夢見心地でしょうねえ――嗚呼、そこで荒ぶってる殿のことじゃなくて、ね!」
キエエエ――! 叫びながら敵を斬る夢心地を、ゼファーは視線で微かに見据えながら隙を見せたマフィアを一薙ぎ。倉庫内のあちらこちらを走り回って奇襲を幾度も繰り返す彼女に、マフィア達の陣形は常に引っ掻き回されているものである。
一度位置がバレた以上は、後はド派手にいくのみだと。
跳躍。コンテナの上を駆け抜け、眼下に敵を感じれば――更に強襲だ。
「えいえいっ! ニルは、こっちですよ! 逃さないのです!」
「ふむ。リタ様はそろそろ救助出来た頃でありんすかね……
ではではもうひと暴れのお時間でありんしょうか――ね?」
そしてニルは、ゼファーの軽やかな動きに眼を奪われ注意が疎かになっている集団を一纏めに絡め捕るものである。『そーれ!』の掛け声と共にぶんぶん振り回さんとして、コンテナの壁に打ち当てるもの――
同時にエマは精霊より得た情報で救出班の動向を知れば、彼女らの為の安全なルートを確保せんと往くものである。邪魔立てせんと銃撃を放ってくるマフィアがいれば、虚無の剣を形成し――一閃。
「やれやれ全くリタ様も、もしもの時に備えて策の一つも講じておけば……いえ、まぁそれはそれ。自らの命が危険な事は承知の上での行動だったんでありんしょうか」
と。エマは吐息一つ零しながら思案を巡らせるものだ。
一人で行動する彼女の心境たるや如何であったかと。
まぁいい。救出完了したなら重畳だ――後は然るべき医療機関にでも担ぎこめば良し。
あと一歩を紡ぐ為にこそエマは道を切り拓かんと突き進み。
「よぉ、どうだった? ちとばかし縄張りもって調子乗ってよ。
マフィアごっこは楽しかったかよ? ――さあて、遊びはしめえだ」
そして――戦場の中枢でグドルフは告げるものである。
彼らにとっての絶望を。お前達は終わりなのだと。
「優しい優しい依頼主サマが言ってたぜ。そのツケはてめえら全員の命でいいとよ!」
「ヒッ……! う、撃て撃て!! 撃ち殺せ――!!」
「足が震えてんぞオィ! どうしたもうちっとマトモに狙えやぁ!!」
放たれる銃撃。しかし敵の、グドルフの圧に対する恐怖を感じ取れば彼は踏み込むものだ。
必要なのはたった一閃。圧倒的なぶった斬りによって――敵を圧倒する。
銃弾がグドルフの身を抉れども、彼がそんな程度で止まろうものか。
続けざまに向ける視線にはまるで闘志が漲っていて。
「ま──遊びの代償にはちと重いがねェ!」
――そのまま全て薙ぎ払うかのような斬撃を、続けざまに放つものだ。
「わーぉ。山賊のおっさんは相変わらず絶好調ねぇ。
ちょっと。なにを其処で臆してるのよ、男が廃るわよ?」
「はっはっは! まーだ抗うのかの?
この攻勢、分からぬか? そなたたちは最初からハメられておったのじゃよ!」
「な、なにぃ! そいつはどういう事だ!!?」
「つまりの――人に聞かず偶には自分で調べよという事じゃ!」
直後には、グドルフの獅子奮迅の動きに臆す男の背中にゼファーが襲来。
その背を蹴とばす様に蹴撃一閃――激しき衝撃を与えればヒットアンドアウェイ。常に動きを止めずして次へと赴き、更に夢心地も奴らへと撃を成し――誘導せんとするものだ。
忘れてはおらぬ。今回の肝はリタの奪還と、そこからの撤収!
故に救出班が導くルートとは逆サイドに出来る限りの敵を誘き寄せるのだ。その為に意味深な言を重ね敵の思考を混乱させる――銃撃の雨あられが降り注いでくるが、そこは殿。凌ぎ凌いで奴らを翻弄せしめるものよ! アイタタッ! いくつかは直撃するけれど!
「あっ! 正純様達が来るのです! リタ様は、リタ様はご無事ですか!?」
「ええ! ですが、敵の追撃も来ています。一刻も早く離れましょう」
そして。リタを連れて逃走してくる正純らを、ニルはその瞳に遂に捉えるものだ。
夢心地らに治癒の術をニルは放ちながら――あの子達が話していた『お姉ちゃん』の無事を、見据える。生きている。苦しそうにしているけれど、咲耶に背負われリアに庇われながらも、確かに生きている。
「みなさん、もう大丈夫です……! 脱出を目指しましょう!」
「最後まで警戒は絶やさないようにね。後ろからも来てるわ……!」
「むぅ、しつこい連中でござるな……! しかし、しかと守り通してみせるでござる!」
であればと。ニルは誘導班の皆に言を飛ばす。
リアと共に治癒の補助を行いながら、総撤退の時間だと。
咲耶はリタを背負っているが故に物陰などを素早く利用しつつ戦場を駆け抜けるものだ――
「くふふ。ここまで来たからには……是が非でも助かって貰わねば困りんすからねぇ。
さ。リタ殿、死地を乗り越える為にも、意思の輝きを今少し保ってもらうでごぜーます」
「あ、よっせっせ! さぁとんずらの時間ぞ皆の衆!
エンディングテーマと共に夕日の彼方へ……あ、今の時間は夜ではないかー!」
「次があったら――まぁないでしょうけど。VIPはもっと丁重に扱う事ね」
あちこちから銃撃の追撃が飛んでくるが、邪魔する者はエマが袈裟斬りし。
突き進む。追われている夢心地や、コンテナの壁を地の様に跳ねながらゼファーも合流して。
「てめえらのオモチャはおれらが預かったぜ。
さぞかし、面白おかしいてめえらの裏事情を吐いてくれるだろうよ。
震えて眠りやがれ! ママにでも助けを求めるんだな――ゲハハハ!」
最後にはグドルフが全霊の逃走を見せるものだ。
三十六計逃げるに如かず! 高笑いの言を吐き捨てながら、港より離れていく。
……しばし銃撃の音が付いて回ったものの、しかし街まで至れば彼らの縄張りではない。
終わりだ。救出は上手く行った――後はリタの身を騎士団と、確かな病院へと運ぼうか。
「う、ぐ……皆、さん、私の為に無茶を……感謝、申し上げます……」
「いいのよ。それより礼はあの子達に必ず言ってあげてね」
「そうです。ニルは、ずっと心配してたあの子が安心してれるといいなって思うのですよ」
リタを、助けてくれという懇願が無ければ今の時は無かったのだと。
最早周囲に悪意の旋律は無い事を確認したリアと、ニルが彼女へ言を紡ぐ。
元気な姿を、また見せてあげてねと。
「ええ……子供たちが心配していました、早く元気な姿を彼らに見せてあげましょうね」
「勿論、です。ああ――」
本当に、ありがとう。
正純の。穏やかな微笑みにリタは安堵と共に気絶して。
そのまま彼女を運んであげるものだ。
一刻早く、元気になってくださいね。
貴方が無事であれば――喜ぶ人がいるのだからと。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
かくしてリタさんは救出されました。後に彼女の情報から、この街の安寧に繋がる事になるのでしょう……
皆さまのおかげです。ありがとうございました!!
GMコメント
●依頼達成条件
リタ・アンドラーデの救出。
●フィールド
天義国内北部に存在する港町エルウッドの港方面です。
周囲は倉庫街であり、多くの倉庫が立ち並んでいます。
その一角でマフィアに捕まったリタがいます――彼女を救助してあげてください。
周囲の時刻は夜であり灯りが無い場所も存在しています。潜みやすいでしょう。
後述のリタがいるのはその中に存在する一つの倉庫の中であり、そこでは多くの木箱が乱雑に置かれているなど障害物が存在している場所です。扉は幾つかあるようですので、警戒の薄い方から侵入するまでは出来るかもしれません。
ただ、倉庫で何か活動が生じれば周囲の警備の耳が気付く可能性が高いです。
周囲のマフィアが集まってくる恐れがありますのでご注意ください。
●敵勢力
・マフィア構成員×10人~
港町エルウッドで活動しているマフィアのメンバーです。
目標の倉庫周辺が彼らの縄張りらしく、あちこちに見張りが存在しています。シナリオ開始時点で確認できるのは10人ですが実際にはもっと多い人数が存在しているでしょう。
しかしまさか侵入者が来るとは思っていないのか警備には甘い点が見られます。
隠密系の非戦スキルがあればスムーズに移動できるでしょうし、そういったスキルがなくても慎重に移動すれば見つからない事も可能かもしれません。また、見張りは各地に散らばっていますので各個撃破的に奇襲も可能でしょう。
尚、倉庫内部には確定で3人のマフィアが存在しています。
武器としては主に銃器を所持しているようです。
至近~中距離タイプのハンドガン型。
中~超遠タイプのライフル型。
●救出対象『リタ・アンドラーデ』
マフィアに潜入捜査していた騎士団の人物です。
なんとかマフィアの拠点を見つけるにまでは至ったのですが……ほぼ同時に敵にも自身の正体が露見してしまい確保されてしまった様です。
彼女は鉄の枷で拘束されています。ちょっと堅いですが攻撃スキルなどを用いれば壊す事は十分に可能でしょう。また、彼女は度重なる拷問により既に体力はほぼ奪われています。自力で歩く事は難しいかと思われます。
救出にあまりにも時間が掛かると始末される可能性がありますので、その前に倉庫に辿り着き彼女を救出してあげてください!
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