PandoraPartyProject

シナリオ詳細

砂漠の怪物。或いは、ライカの金策…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●部族再興
 灼熱の太陽に照らされて、狼たちは死にそうだった。

 ところはラサ。
 シュラム遺跡にほど近い、乾いた土地に40ほどの狼たちが群れている。
 年齢は様々だが、誰もが隆々とした筋肉を備えた戦士であることは間違いない。
 寒い土地から、縁あって砂漠へ連れられてきた40人が暑さに慣れるのはまだまだ先か。
「この辺りは僕の治める土地だ。来る者は拒まず、去る者は追わず……まぁ、適当にやっているんで、お前たちも適当にやってくれ」
 そう言ったのは性別不詳の小柄な人物。
 シュラム遺跡周辺の領主である恋屍・愛無(p3p007296)のありがたくも適当なお言葉である。
 それを代表して聞くのは、狼たちのリーダーである黒い肌をした隻眼の女。
 ライカ・スプローンだ。
「あぁ、まぁ確かに寒さに耐えかねて炉芯石を奪おうとしたのは私らなんだが……幾ら何でも暑すぎないか? それと、あんた……そんな風だっけ?」
 もっと禍々しかったことないか?
 そう尋ねるライカへ、愛無は首を傾げて返す。
「ま、いいんだけど。っても、着の身着のまま放り出されちゃ、私らあっという間に干からびちまうよ。獲物を狩ろうにもどこにどんな生物がいるか分からねぇし、ついでに言うともう暫くはうちの連中、使い物にならねぇ」
 ほら、と背後を指さしてライカは困ったような顔をした。
 ライカ率いる40人の狼の獣種は、極寒の土地で暮らしていた。
 過酷な土地を耐えず移動し、ギリギリのところで生きてきた。
 それにもとうとう限界を感じ、起死回生を賭けた“狩り”に挑んだ彼女たちだが、狩りはイレギュラーズの介入により失敗。
 すわここまでか、と種の存続を諦めかけたところで、愛無に誘われラサへと渡って来たというわけだ。
「……土地があればいいんじゃなかったのか? 炉芯石を奪って、それからどうするつもりだったんだ?」
「それを言われると辛いもんがあるけど、これでも寒さには強いんだ。洞窟だとか、雪を積み上げて造った仮家だとか、そういうので一時凌ぐつもりだった」
「なるほど。とはいえ、僕の方からそう多くの資金は提供できないぞ?」
「この土地に住んでいいんだろ? なら、後は金さえありゃ材料は買える。仕事と商人を紹介してくれよ。私は動けるからさ、ちょっとばかり稼いでくるわ」
「うぅん。となると……そうだな」
 困ったぞ、と。
 顎に手をあて愛無は悩む。
 それから暫く。
「あぁ、そうだ。それなら1つ、いい仕事がある」
 と、そう言って。
 砂漠の果てを指さした。

●オアシス開拓任務
 シュラム遺跡から暫く離れた砂漠の途中に、荒れ果てたオアシスがある。
 かつては旅の商人たちで賑わっていた、砂漠の交易所なのだが、とある理由により今ではすっかり廃れているのだ。
「その理由というのが、オアシスに住み着いた魔物だ。それを討伐し、オアシスの安全を確保する仕事だな」
 そう言って愛無は、ライカに1枚の紙を手渡した。
 紙に描かれていたのは、ライカの見慣れる怪物だ。
「なんだこりゃ? 魚か?」
「鮫だな。砂漠を泳ぐ鮫だ。普段はオアシスに住んでいるから、水陸両用だろう」
 尖った鼻先に、巨大な口腔。
 びっしりと並んだ鋭い牙。
 身体は魚のそれであるが、よくよく見ればヒレの先端が爪のように分かれている。
 きっと、その爪で砂を掻き分け砂中を自在に泳ぐのだろう。
「大きさは人を丸のみできるほどには巨大だな。噛まれれば【必殺】【致命】【滂沱】は免れないし、砂中に引きずり込まれれば【窒息】【足止め】の危険も付きまとう」
 そして何より厄介なのが、砂漠鮫は神出鬼没かつ広い縄張りを持つという点だ。
 これまで、愛無は数度、討伐に出て……残念ながらそのすべてが空ぶりに終わった。
 どうやら砂漠鮫は、1度の狩りでそれなりに大勢の人を喰らうつもりらしい。
 なぜならその方が効率がいいからだ。
「僕1人では砂漠鮫も追って来ない。かといって一般人を囮に使うわけにもいかない。だが、今は君がいるし、ついでに僕の同僚たちにも依頼を出そう」
「……なんか、事情があるのか?」
 これまで放置していた砂漠鮫を、ついでとはいえ早急に排除したがっている。
 ライカは愛無の口ぶりから、ほんの僅かな焦りを感じた。
 愛無は少し思案して、ライカに答えを口にする。
「オアシスに何匹もの鮫の影を見た者がいる。きっと砂漠鮫の稚魚だろう」
 これ以上、砂漠鮫が数を増しては周囲の危険は桁違いに跳ね上がる。
 それを避けるためにも、砂漠鮫の討伐を急がねばならないというわけだ。
「稚魚は普段、オアシスのどこかに身を潜めていて水面近くに浮上しない。水面まで上がって来るのは、親鮫がいない時だけだ」
 つまり、特別な手段を持たない以上は、親鮫をオアシスから引き離している間に、オアシスの稚魚を掃討するのが最も確実に鮫の数を減らす方法というわけだ。
 そうすれば仮に親鮫の討伐に失敗しても、今以上に鮫が増えることを防げる。
「なるほど。話は理解した。でも、砂漠を走って鮫を誘き出すのか? それとも馬車?」
「いや……馬車では少し遅いだろうな。しかし、先だっての依頼でいいものを見た。走るのが駄目なら、滑らせれば速いんじゃないか?」
 そう言って、愛無は砂の地面に絵を描いた。
 それは流線形をした帆船だ。
 風の力で砂上を滑る、砂漠船である。
「金は稼げるし、人の役にも立てる。ついでにオアシスにある古い家屋は解体して持って行ってもいい」
 まさに一石三鳥の名案だ。
 ただし、ベットするのは自分の命と少々割高ではあるが。

GMコメント

こちらの依頼は『逃げたい少女、カーバンクル。或いは、狼による追走…。』のアフターアクション依頼となります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7682


●ミッション
砂漠鮫の討伐

●ターゲット
・砂漠鮫×1
水陸両用。
人を丸のみできる程度には巨大な鮫。
通常の鮫と違い、水中はもちろん砂中をも自在に泳ぐ。
噛み付かれれば【必殺】【致命】【滂沱】の状態異常を受ける。
砂中に引き摺り込まれれば【窒息】【足止め】の状態異常を受ける。
1度の狩りでより多くの食糧を得たいらしく、3人以上の人影が無い場合は襲って来ないらしい。
※砂漠鮫の呼び名は好きに付けてください。そういうものです。

・砂漠鮫の稚魚×?
オアシスに住む小型の砂漠鮫。
まだ若い個体らしく、砂の中を自由に泳ぐことは出来ない。せいぜいが砂上を這いまわる程度である。
普段はオアシスの底近くに潜んでいる。
親鮫が近くにいない場合のみ、水面近くまで浮上する。

●同行者
・ライカ・スプローン
隻眼に黒い肌をした狼の獣種。
過酷な土地で生きてきたのか、体格が良く、勇敢で、そして凶暴。。
安住の地を求め、ラサへと流れ着いた。

野生の流儀:物近単に大ダメージ、飛、ブレイク
 殴打による吹き飛ばし。

狩りの極意:物近単に大ダメージ、流血、致命
 鋭い爪による残撃。


●フィールド
オアシスおよびその周辺の砂漠。
オアシスは直径50メートルほど。
周辺には、朽ちかけた家屋が並んでいる。
砂漠鮫に追われて破棄された状態にあるため、周辺に人の気配は無い。
また、砂漠は広く近くに遺跡などは無い。
砂漠鮫にとっては絶好の狩場なのだろう。

砂漠船×4
素材は木。
流線形の船体に、大きな帆が付いた砂上を滑る船。
砂上以外は走れないうえに破損しやすい。
馬車よりは小回りが効くし、音も抑えられそうだ。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 砂漠の怪物。或いは、ライカの金策…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ

●砂上を走る
 燦々と降る陽光と、さらりと流れる乾いた風と。
 それから、肌に痛い極小の砂粒。
 見渡す限りの白い砂漠。
 ラサでは見慣れた光景だ。
 そんな砂上に、見慣れぬ船が2隻。小型で、細く、それに比して帆が大きい。
 乗れて3人ほどだろうか。
 小さな船は、すっかり乾いた軽い木材で造られていた。
「アルトゥライネルだ。今日はよろしく頼む」
 そのうち1隻に跳び乗って『舞祈る』アルトゥライネル(p3p008166)は仲間たちへ言葉を投げた。アルトゥライネルの手には太いロープが数本。ロープを引いて帆を操ることで、風を動力に砂上船は走るのだろう。
「あぁ、よろしく頼む。雪山の生まれなもので鮫という砂漠の生き物に出会ったことは無いのだが、精一杯に働くつもりだ」
「サメからすれば生きるための戦いなのでしょうけれど、犠牲者が出てしまっている以上、放ってはおけませんわよね。ちょっと悪い気もするけれど、退治してしまいましょう!」
 アルトゥライネルに続き、ライカと『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が船に乗り込んだ。
 全員の乗船を確認し、アルトゥライネルはロープを手繰って帆を張った。風を受けた帆が膨らんで、船はゆっくり砂の上を滑り始める。

 砂漠の上を走る船は全部で3隻。
 そのうち1つを操る『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)にとって、砂漠の走行は慣れたものである。もちろん慣れているからと油断しては、早々に命を落とすことも十全に理解できている。
 ましてや今回のターゲットは人を喰らう砂漠鮫。
 それもひと際、大きく育った危険な個体だ。実際にオアシスの集落が1つ、潰されているという実績もある。
「放棄された集落をひとつ、人の住む場所に変えてくれるのならラサの者としてもありがたい。この後暮らしの準備もあるだろうし、サクッと済ませてしまおう」
 そう呟いて、ラダは視線を右後方へと向けた。
 視線の先には、今回の依頼に同行しているライカという獣種の女性がいる。元は雪山の生まれである彼女を『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)が連れ帰って来たというのが事の発端であると聞く。
「金の重みが命の重みだ。概ね、それがこの国のルール。さてライカ君には頑張ってもらわないとな」
「聞けば彼女はラサで集落を造るつもりだそうじゃないか。大変だろうし、暮らしの準備もいるはずだが……ところで、ルナは本当に走っていくのか?」
「あぁ。わりぃが俺ァ船は遠慮しとくぜ。てめぇの足で走った方がよっぽど速ぇし性にあってるからよ」
 獅子の脚で地面を蹴って並走している『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)へラダは問う。
 ラダや愛無もそうだが、ラサには時々、砂漠の上を難なく走るものがいるのだ。
 
 2隻の船が砂漠の真ん中で停止した。
 それを置き去りにして、先へと進む船は1隻。
 乗っているのは年齢も出身も性別も異なる3人だ。船を操る『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)を初め、回復や警戒を担う『炯眼のエメラルド』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)と『( ‘ᾥ’ )』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)である。
「砂漠を泳ぐ鮫とはラサにはまだまだ面白そうな話がありそうだな。久しぶりに身の危険を感じる依頼だ、気を引き締めていこう」
「えぇ、このお仕事を達成して、今後の彼女達を応援してあげないといけませんね」
 風を受けた船体が、大きく斜めに傾いた。
 ざぁ、っと巻き上げた砂を頭から被りながらもマッダラーは平然としている。
 一方、砂を浴びたマリエッタは僅かに顔をしかめていた。
「思ったよりも熱いですね。それに、砂に音が吸収されて鮫の接近にも気づきにくそう……囮役となる以上、危険は避けられませんが」
 そう呟いたマリエッタは、傍らで転がるリコリスへと視線を向けた。
 砂上を注視していた彼女は、目に砂が入ったのか顔を押さえて転げ回っているのである。つぶらな瞳から、滂沱と涙があふれている。

 生臭い血が風に乗って飛び散った。
 空になった革の袋も砂上に投げ捨て、リコリスは置いていた銃を取り上げる。
 砂上へ出かける前に一度、オアシスの様子を確認した。そこにいたのは砂漠鮫の幼体ばかり。ターゲットである親鮫は、広い砂漠のどこかへ狩りにでかけたようだ。
 ならば、闇雲に砂漠を探して走り回るより、親鮫を誘き寄せた方が効率がいい。
 例えば、鮫は血の臭いに敏感だ。
「あおーん! 来た来た! 後ろの方……いや、真下に回り込まれたかも! やっぱりサメって海にいる方が実は希少種で、普通は陸に居るものなんだよね! 映画で見た通りだよ!」
 リコリスが吠えて、銃の安全装置を外す。
 肩に銃底を押し当てたリコリスは、船床に膝を付けて銃口を砂上へ向ける。鮫の位置が分かっているのか( ‘ᾥ’ )っと、視線を忙しく左右へ揺らしている。
「……まぁ、鮫は飛ぶし、嵐も呼ぶし、四肢を駆使して走りもするからな」
 鮫は強者だ。
 それは古の時代から続く純然たる事実である。
 そして、強者とは自由であるべきだ。
 つまり、鮫は自由なのである。
「いえ、それは……どうですかね?」
「え!? 違うの?? あ、真下から来たよ!」
「了解だ。船体に捕まっていろ。その方が軽傷で済む!」
 とりあえず怪我はするらしい。
 ロープを操り、マッダラーが帆を傾ける。真正面から風を受け、船体は大きく傾きながら横滑り。大量の砂が巻き上げられたその直後、大口開いた巨大な鮫が砂中より姿を現した。

●砂漠の鮫
 太いヒレの先端には、獣のそれに似た爪がある。
 乾いた皮膚には膨大な量の細かな傷。
 感情を感じられぬ魚特有の眼差しが、ぎょろりとマッダラーを捉えた。
 人の2、3人は丸のみできそうなほどの巨大な鮫だ。全長は5メートルにも及ぶだろうか。
「まっすぐに進んでいたら、船ごと食いちぎられていたかもしれません」
「まだ危険は去っていない。冷静沈着でいることを忘れるなよ」
 マリエッタが後方へ下がったのを確認し、マッダラーは船の軌道を強引に修正。空中へと跳びあがった砂鮫と真正面から向き合う形だ。
「こういう神話どこかにあったよね! サメだかワニだかの鼻っ面でタップダンスを踊りながら向こう岸に渡るウサギさんのお話!」
 そんな真似をしてしまえば、兎もタダでは済まないだろう。
 事実、怒った鮫に全身の皮膚を削られて、浜で苦しむ結果となったのではなかったか。
 とはいえ、今回の目的は鮫を怒らせることにある。
 銃声が1発。
 まっすぐに放たれた弾丸が、鮫の口内を撃ち抜いた。

 怒りに狂った鮫が空から落ちて来る。
 強引に回避を試みるが間に合わない。ロープを掴んだマッダラーの右腕が、鮫の口腔へと消える。
 右腕を丸ごと……肩の辺りまで食いちぎられたマッダラーが、衝撃で船から投げ出された。マッダラーの腕を喰らった鮫は、船の一部を砕きながら再び砂中へ姿を消す。
「しまった。腕さえあれば舵は取れるし、足は後でオアシスの泥を使って戻せばいいが」
 今回、失ったのは腕である。
 おまけに損傷した船は、操作を失い砂上を今も滑り続けている状態だ。
 リコリスとマリエッタだけで、船の操舵は可能だろうか? その間、鮫の相手は誰がやる?
 船に追いつくべく、マッダラーは立ち上がる。
 と、その時だ。
「マジか! アンタ、本当にそれで生きてんのかよ!」
 マッダラーの襟を掴んで、猛スピードで砂漠を翔ける者がいた。

 鮫のヒレがリコリスの肩を引き裂いた。
 鋭い牙が帆を噛み破る。
「わわっ! また来てるよ!」
「今は回避に千年してください。耐えて囮を完遂すれば……状況は変わりますからね、反撃はそれからで十分です!」
 帆を操るリコリスを、マリエッタが治療する。
 戦闘はまだ続行できるが、船のダメージが深刻だ。リコリスが修理に回ればいいが、総舵手がいなければ早々に鮫の餌食となろう。
 
 マッダラーを背に乗せて、ルナが砂漠を疾駆する。
 2人が船に追いついたのと、鮫が高くへ跳びあがったのはほぼ同時。
「なぁマッダラー、死なねぇんだろ?」
「だからと言って鮫の腹に収まるつもりは毛頭ないぞ。足の一本は犠牲にする覚悟はあるが」
「なら何も問題ねぇ」
 マッダラーの腕を掴むと、ルナは地面に四肢を突き刺し急停止。慣性を利用し、マッダラーの身体を全力で投げた。
 
 マッダラーが宙を舞う。
 大口を空けた砂漠鮫の口腔へ、飛ぶ勢いを利用して並んだ牙を数本纏めて蹴り砕く。
 鮫の身体が砂上を跳ねた。
 転がった鮫を追って、アルトゥライネルの操る船が加速する。

「人数的にはこちらも標的になりかねない。近づき過ぎると危険だぞ!」
「構いません! 元より飛びついて攻撃するつもりでございますわー!」
「同じく! 船ってのはどうにも揺れて動き辛いしな!」
 アルトゥライネルがロープを強く引っ張った。
 張った帆が風を受け、船が傾く。
 砂上を転がす砂鮫の真横に滑り込んだ船から、2つの影が飛び出した。
「どっせえーーい!!!」
 振り上げたメイスに業火が灯る。
 落下の勢いを乗せたヴァレーリヤの一撃が、砂鮫の背を殴打する。ミシ、と骨の軋む音。血を吐いて藻掻く砂鮫の鼻先へ、ライカが蹴りを叩き込む。
 
 砂鮫がライカの脚に鋭い牙を突き立てる。
 血を吐きながら、ヒレの爪で砂を掻き分け地中へ潜る。
「うわっ!? なんだ!」
 砂に絡めとられたライカが悲鳴をあげる。
 そうしている間にも、ライカの身体は徐々に佐中へ沈んでいた。そう遠くないうちに、ライカの身体はすっかり砂に埋もれるだろう。
「引き上げる! ヴァレーリヤは地面を叩いてくれ!」
 ライカの手に巻き付いたのは、アルトゥライネルの長布である。
 鮫の引く力が強いのか、布を掴んだアルトゥライネルの腕がミシと軋んだ音を立てる。筋が痛み、肩が外れそうになるがアルトゥライネルは決して布から手を離さない。

 ヴァレーリヤが渾身の力で地面を叩く。
 地震のような激しい揺れ。
 衝撃で砂が弾け飛ぶ。それに伴い、砂中に隠れた鮫の姿も顕わになった。
「親玉はけっこういい素材になるんじゃねぇか?」
 暴風が吹き荒れた。
 ルナの放つ矢が、砂漠鮫の片目を撃ち抜く。
 解放されたライカはアルトゥライネルが回収。即座に船をUターンさせ、安全圏へと退避する。
 その隙にヴァレーリヤは砂漠鮫に接近。
 3度目の殴打が、砂漠鮫を打ち据えた。

「愛無、そっちに行きましたわよ!」
「あぁ、さぁ、仕事といこう」
「死体はどうする?」
「持って帰ろう。喰える物は貴重だ。此奴らが喰った分は還元してもらわねば」
 転がる鮫の眼前に、ラダが船を横づけにする。
 飛び降りた愛無の小さな体が引き裂けて、内より黒い怪物が姿を現した。
「さてライカ君にも頑張ってもらわないとな。とりあえずは部下の分まで」
「あぁ、任せとけ!」
 愛無は、砂漠鮫のエラに爪を突き立てた。
 内部より肉を抉られ、砂漠鮫が激しく藻掻く。鋭い爪が、ざらついた肌が、愛無の肉をズタズタにした。
 体内より毒に侵されて、砂漠鮫が吐血する。
 吐かれた血を浴びながらもライカが接近。
 鼻先に、強烈な蹴りを叩き込む。

 食欲よりも生存本能が勝ったらしい。
 砂漠鮫は砂中に潜り姿を消した。
「そちらだ! 下を通過したぞ!」
 ライフルを構えたラダが叫んだ。
 砂の動きから、砂漠鮫の逃げた先を予想したのだ。どうやら砂漠鮫はオアシスへと引き返しているらしい。
 銃弾を撃ち込むが、砂に阻まれ砂漠鮫には届かない。
「わわっ! 逃げられる!」
「と、止められませんか!?」
 リコリス、マリエッタが船体に張り付き声をあげた。
 リコリスの弾丸も、マリエッタの放つ衝撃波も、ダメージを与えるには至らない。
 けれど、しかし……。
「M・A・D!」
 操舵ロープをマリエッタへと手渡して、マッダラーが高らかに声を張り上げる。

 突如として現れた泥の壁。
 砂漠鮫は頭から泥壁に激突。たまらずに砂上へ跳びあがる。
 再び砂中へ潜られる前に、その背にリコリスが飛びついた。狙うは、先ほど愛無が抉ったエラの傷だ。
 小さな手をエラに突き立て、肉を抉る。
 飛び散った血がリコリスの顔を赤に濡らした。顔面を血で真っ赤に染めたリコリスの瞳孔はすっかり開ききっている。
「仕留めるぞ! 船が壊れるかもしれないが……突撃する!」
「了解ですわ!」
 アルトゥライネルの操る船が加速する。
 愛無、そしてライカが船に並走。
 船上ではヴァレーリヤがメイスを高く振り上げた。
 
 ラダの放った弾丸が、砂漠鮫の右目を穿つ。
 暴れ回る砂漠鮫に引き裂かれ、リコリスが地面を転がった。
 リコリスの上を跳び越え、ルナと愛無、ライカが砂漠鮫へと肉薄。同時に頭部へ痛打を浴びせる。
 次いで、ヴァレーリヤの放つ渾身のメイスが砂漠鮫の頭蓋を砕く。

●朽ちた集落
 船はボロボロ。
 マッダラーは手足を失い、リコリスは全身に無数の裂傷を負っている。
 2人の治療を行いながら、マリエッタはふと視線をあげた。
「もうすぐオアシスですね。どうやって子鮫を誘き寄せましょうか?」
「あぁ、それなら謎肉を持参している。確かそこに……」
「もぐ。んぐ……んぇ?」
「「…………」」
 沈黙が痛い。
 リコリスの頬が膨れているが、いったい何を喰っているのか。

 水面が跳ねる。
 撒き散らした砂漠鮫の血と謎肉に誘き寄せられて、子鮫たちが暴れているのだ。
 時折、高く跳ねた個体をライカや愛無が爪で引っ掛け、砂の上へと転がした。
「小さい連中は大した脅威じゃないな。取り放題じゃないか」
 1匹、2匹、3匹と、次々に子鮫が駆除される。
 砂漠鮫にとってオアシスは住みやすい環境だったのだろう。随分と繁殖しているようだ。
「あまり狩り過ぎると生態系を崩すかもしれん」
 既にだいぶ崩れているが、マッダラーの懸念はもっともだ。かといって、鮫の肉はアンモニア臭がひどくて食用に適さないとも聞いている。
 リコリスは構わず食っているし、ヴァレーリヤとルナはヒレだけ切り取っているが、それにしたって限度というものがあるだろう。
「ライカっつったか? 俺もノルダインの狼連中とはなんの因果かつるむことがあるがよ。寒いとこが好きっつうなら夜に動いたらどうだ?」
 そう問うたのはルナだった。
「寒いところが好きというわけじゃないけどな。割と平気ってだけだ。まぁ、この熱い中をあくせく動き回るぐらいなら、夜の方が過ごしやすいが」
 そう言ってライカはオアシスへと視線を向けた。
 叶うことなら、汗と砂を落とすためにも今すぐ水に飛び込みたい。
 そんなことをすれば、あっという間に鮫の餌になるだろうが。
「ライカ、ちょいと商売の話をしないかい? 捌き方や加工方法を教えるから、皮や油の売れる部分を買い取らせて欲しい。文無しで再出発ってのも厳しいだろう」
 現状、オアシスで採れた子鮫の素材は誰のものというわけでもない。強いて言えば、愛無の領地で採れたものなので、所有権を主張できるとすればそれは愛無だろう。
 そこを買い取り、資金を揃える手助けをしようとラダはそう言っているわけだ。
「いいんじゃないか? 僕が後ろ盾になるにしろラサでの実績は欲しい。これだけの素材があれば十分だろう」
 当然、所有権を有するだろう愛無もそれは承諾済みである。
「む? 商売はよくわからないからな。任せちゃ駄目か?」
「それでもいいが……ここはラサだ。そんな様じゃ、あっという間に骨の髄までしゃぶりつくされるぞ?」
 ラサは過酷な土地なのだ。
 ラダの言葉に、ライカは顔を青くする。
「だったら、私が手伝いますよ。ライカさん達が無事にこの地に馴染めたかどうか近況を聞きに行ってあげたいですし」
 笑顔で告げるマリエッタの背に、ライカは後光を観たと言う。
 
「砂漠の中での作業って、意外と疲れますわね……早く帰ってお酒飲みたいですわ」
「……資材運搬は手伝わなくていいのか?」
 水辺から離れた家屋の影。
 ヴァレーリヤとアルトゥライネルは鉄板を挟んで言葉を交わす。
 2人の仕事は、朽ちた家屋の解体だ。解体された家屋の部品は、ライカたちが住居建築に使うらしい。
 しかし、現在2人は鉄板でフカヒレを炙っていた。
 食べるわけではない。炙って、表面のざらつきと脂を落として日干しにせねば、食用として売り出すことは出来ないからだ。
 こうして加工されたフカヒレは、いずれ市場に出回るだろう。
 その前に1つか2つ、くすねてもバレないかもしれない。幸いなことに、フカヒレを調理してくれそうな居酒屋に心当たりがあるのだ。
 なんて。
 そんなことを考えながら、ヴァレーリヤはちらとオアシスへ視線を向ける。
 ( ‘ᾥ’ )っとこちらを見るリコリスや、ラダと視線が交差した。

成否

成功

MVP

マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形

状態異常

リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)[重傷]
花でいっぱいの

あとがき

お疲れ様です。
砂漠鮫は無事に討伐され、ライカはフカヒレ(売り物)と木材(非売品)を手に入れました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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