PandoraPartyProject

シナリオ詳細

赤い惨劇

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●少年と家族
 天義領内──ある村の一角に、異様な光景が広がっていた。その家屋は赤い触手で覆われ、徐々に周囲の地形も侵食し始めていた。屋内にも更に触手が張り巡らされ、植物のツタがはびこるように、すべての壁や天井、家具などを覆いつくしていた。
 更に奥へと進めば、すべての元凶が部屋に鎮座している。見た目は手を組んだ聖母の石こう像だが、その眼窩を突き破ってうごめきあふれる触手が目を引く。巨大なヒルのような赤い塊が、床の上を複数這い回っている。
 穏やかな時が流れていたはずの場所は異常な状態に様変わりし、1人の少年はその場から逃げようとしていた。しかし、少年は廊下の途中でうずくまり、起き上がる気配を見せなかった。少年のそばには、床を転がったままの小さな箱と、その中に詰められていた大量の手紙が散らばっていた。手紙を読んだ者は、貧しくも暖かだった家庭の残滓(ざんし)をその内容から感じることだろう。

 1枚目の手紙。
「母さんからもらったこの箱に手紙を入れておけば、神様が読んでくれるというのは本当かもしれない。知らない間に手紙がなくなっていたんだ。
 もっといろいろな手紙を読んでもらいたい」

 2枚目。
「今日も母さんがたくさんの紙をもらってきてくれました。妹のユリアと一緒にお花の絵を描いてプレゼントしたら、とても喜んでくれました」

 3枚目。
「今日も母さんは忙しくて、あまり話すことができませんでした。ユリアもとても寂しそう」

 ××枚目。
「真っ黒な服を着た男が来ていた。母さんの友達みたいだけど、なんだか嫌な感じです」

 ××枚目。
「あの男からもらった赤い薬を飲むようになってから、母さんは機嫌がいい気がする」

 ××枚目。
「薬がないと、母さんは調子が悪くなるみたいです。僕も母さんのために頑張るので、どうか見守っていてください」

 ××枚目。
「母さんは、ユリアよりも薬の方が大事なんでしょうか? このままだとユリアが」

 ××枚目。
「ユリアはもういない。母さんが」


●イコルと母親
 『介錯人』すずな(p3p005307)はアドラステイアで製造されている特殊な錠剤――イコルが引き起こした影響を目の当たりにし、その元凶と思われるファザー・ルヴィエの足取りをつかもうと動き出した。すずなは『探偵』サントノーレ・パンデピス(p3n000100)にも協力を仰いだ。
 アドラステイアの外部に流出しているイコルに関して調査を続けていたサントノーレは、すでにルヴィエらしき男の情報をつかんでいた。
「ここから南東に向かった村で、ファザー・ルヴィエらしき男が出入りしているという話を村人から聞いたぞ。話を聞きに行ってみたらどうだ?」
 他にもイコルの中毒者が存在するとなれば、聖獣へと変化する騒動につながる恐れもある。すずなを含めたイレギュラーズ一行は、サントノーレからの情報を頼りに村へと向かった。
(「……このままルヴィエを放っておく訳にはいきません。イコルをばらまいている疑いがあるのなら、早急に止めなくては」)
 イコルによって堕落した者の、救いようのない末路を実際に見たすずなは、ルヴィエを追い詰めようと強い思いを抱いていた。
 農作業をしていた初老の男は手を止め、村内に踏み入ってきたすずなたちを物珍しそうに眺める。明らかによそ者であることを感じ取ったのか、男はすずなに声をかけた。
「あんたらも『探偵』か?」
 その男は、サントノーレに情報を提供した村人だった。男にルヴィエに関することを尋ねると、どうやらマリーナという女性の家に、それらしい男が出入りしていたというのだ。
「マリーナの家は母子家庭でな……マリーナ1人で、息子とその妹の面倒を見てんだ。まあ、妙な男だとは思ったが、うちもどこも貧乏暇なしさ。気にかけるような余裕もなくてな。終いには、薬欲しさに娘を売っちまったらしい――」
 一瞬表情を強張らせるすずなの反応に男は気づいたが、娘が売られたことを知った経緯について男は語る。
「マリーナの息子はオリバーと言うんだが、妹を取り返すのための金を工面しようと、俺の家に物取りに入ってきたんだ……」
 男の口調や表情は、徐々に暗いものに変わっていく。
「オリバーの妹はまだ7歳だったのにな……オリバーが不憫でならねえが、俺らには見逃してやることしかできねえ。マリーナが薬と引き替えに、出入りしてた男に娘を売ったんだろうよ」
 村民である男の話を聞いていたすずなは、静かに怒りを覚えていた。
 村民の話が確かなら、ルヴィエは母親の心の隙間につけ入り、薬漬けにすることで子どもを手放すようにそそのかしたに違いない。
「娘さんは、恐らくアドラステイアに……許せません」
 ルヴィエの卑劣な手段を知り、その悪事を止める決意をより強く固めたすずなはそうつぶやいた。その直後だった――。
 辺りに響き渡った轟音は、どこかの家屋が倒壊したことを示していた。すずなが音の方角を見つめると、男は「マリーナの家がある方角だ」と口走った。
 イレギュラーズたちは危険を顧みずにその場へと急行した。案の定、そこには全壊した家屋の跡があった。しかし、倒壊の痕跡だけではない異様な光景が広がっていた。バラバラになったレンガや木材の隙間からは、赤黒い触手が根を張るようにしていくつもうごめいていた。
 家屋が建っていたはずの中央には、聖母の姿を模した石こう像らしきものがあり、その眼窩からも無数の触手の束が伸びていた。また、聖母像の周辺には、巨大なヒルのようにうごめく触手が複数存在していた。
 聖獣と化したマリーナには、かつて人間だった頃の面影は消え失せていた。
 優れた感覚を持っている者は、瓦礫の下から聞こえるかすかな声に気づいたことだろう。その声は、助けを求めるオリバー少年のものだった――。

GMコメント

●独立都市アドラステイアとは
https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●元シナリオ
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7437

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●成功条件
 聖獣化したマリーナの討伐。


●戦闘場所について
 正午過ぎ。天義の首都から南東に進んだ寒村。
 マリーナ家族らの元住居周辺。付近の家屋はまばらで、主に畑などの農地が多い。

●『聖獣』マリーナについて
 討伐対象は計7体。
 聖獣化したマリーナの他にも、巨大なヒルのような触手(およそ1.5メートル)が6体、本体のマリーナを守るために行動する。いずれも物理攻撃に若干の耐性を持つ。
 本体のマリーナ、聖母像は無数の触手を操り、ツタのように張り巡らされた触手(神中扇【HP吸収】【泥沼】)を絡ませることで攻撃、妨害を行う。
 6体のヒルは、強力な酸性の液体(神近単【火炎】【麻痺】)を飛ばすことで焼けつくような痛みを与える。また、体を無数に分裂させて対象にまとわりつく攻撃(物近域【HP吸収】【火炎】)も用いる。

●オリバーについて
 ステータス的には重症の状態。
 ファザー・ルヴィエに関する情報を持っているかもしれない……。


 個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。

  • 赤い惨劇完了
  • GM名夏雨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
すずな(p3p005307)
信ず刄
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
スティール・ダンソン(p3p010567)
荒野の蜃気楼

リプレイ

 イコルによって繰り返される悲劇を前にして、すずなは剣の柄を強く握り締めながらつぶやいた。
 ──アドラステイアという都市も、イコルと言う薬も、それをばら撒くファザーも。
「……許せませんね」
 ――その男を見逃さざるを得なかった私自身も。
 かつてすずなと共にファザー・ルヴィエの所業を目の当たりにした
『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)は、険しい表情を覗かせるすずなと目配せし合う。
 眉間にシワを寄せるタイムはつぶやく。
「あれが、マリーナ……」
 ──慣れないな……。人がこれほど変貌してしまうのを見るのは。
 聖獣へと変貌したマリーナに目を奪われる一同だったが、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は瓦礫の下から聞こえるかすかな声にいち早く気づいた。
「オリバーさん、そこにいるのか?!」
 そう呼びかけるイズマに対し、オリバーは弱々しい反応を返した。イズマが超人的な聴覚を駆使してオリバーの姿を探す一方で、『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はファミリアー──ネズミの使い魔を召喚する。
 小さな体で瓦礫の間をすばやく抜けていく使い魔は、崩れた壁と壁の隙間に挟まれているオリバーの姿を見つけた。同時に使い魔と視界を共有していたスティアは、すぐにオリバーの下へ駆けつけた。
 スティアとイズマは、協力してオリバーの救出に専念する。2人の動きに反応したように見えた聖獣らに対し、援護にまわる者らは即座に攻撃を仕掛けた。
 タイムは『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)と共に聖獣の注意を引きつけようと、正面から攻撃を開始した。互いに強力な魔法、能力を発揮し、聖獣の周囲をうごめく触手諸共打ちのめそうとする攻撃を放つ。
「イズマさんスティアさん、子どもの救出をお願い!」
 タイムがそう声をかける間にも、剣を構えるすずなは果敢に聖獣らへ向かっていく。
 聖獣の周囲をうごめく、巨大なヒルを思わせる触手はすずなの動きに反応する。だが、俊敏な動きを繰り返すすずなは、幾重にもその太刀筋を刻んだ。
 すずなの勢いに怯んだヒルを更に押し戻そうと、イズマも細剣を振り抜く。
 イズマは鋭い一撃を叩き込むのと同時に、複数のヒルを弾き飛ばすほど衝撃波を発生させた。ひとまずヒルを遠ざけたイズマは、再度瓦礫の間のオリバーに声をかける。
「待ってろ、今助ける!」
 イズマとスティアの尽力もあり、すでにオリバーの上半身は見えていた。2人がオリバーの救出により専念できるように、『夕陽のガンマン』スティール・ダンソン(p3p010567)は隙を生じさせない手際で援護に回る。
 スティールのリボルバーから放たれた弾丸がその1体――ヒルAを撃ち抜いた直後、弓を構えた『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)も攻撃を放つ。正純の神がかった一矢は、流星群のごとく分散することでヒルたちの動きを制した。
 ヒルたちの間合いを避けて射撃を行うスティールや正純に対し、『盲御前』白薊 小夜(p3p006668)は攻撃を誘うように、相手を引きつけるためにあえて無防備な姿をさらした。その小夜に向けて、ヒルたちは強酸性の液体を次々と飛ばす。小夜は巧みに身を翻し、身を挺してヒルたちの注意をオリバーからそらすことに集中した。
 マリーナの前に回り込んだタイムは言い放つ。
「もうあなたは自分を手放してしまった。残念だけどこの先はもうないわ」
 物言わぬ聖母像そのものの聖獣、マリーナは、地表を覆うツタ状の触手をうごめかせる。
 地表に張り巡らされた触手は、接近戦を仕掛ける者らに絡みつこうとする動きを見せ、イレギュラーズを翻弄する。
 戦場からオリバーを遠ざけ、連れ出そうとするスティアやイズマにも触手は伸びる。イズマと2人でオリバーを抱えていたスティアだったが、自らを顧みずに触手の前に進み出る。
 スティアの手首に絡みついた触手は、幾重にも細く裂けてきつく食い込んでいく。手首を締め付ける痛みに対し、スティアはわずかに表情を歪めたが、瞬時に反撃を繰り出す。
 スティアの呼びかけに応えた亡霊の慟哭は、呪いの歌となって響き渡る。触手の動きは苦しみ悶えるように鈍くなり、スティアは触手の拘束から抜け出した。
 小夜は引き続き触手の動きを警戒し、オリバーに危害が及ばないように立ち回る。
 ──本当に? 本当に? もう何もわからないの?
 子を想う気持ちぐらいは、せめてひとかけらだけでも。ねえ!
「あの子はまだ生きてるのよ……!」
 思わず声を荒らげるタイムだったが、かつて母親であったはずのマリーナに、その声は届かなかった。
 瑠璃は冷静に振る舞うものの、タイムを一瞥(いちべつ)して攻撃に移る。
 ──戻れなくなるポイントはとうに過ぎているでしょう。せめて、魂に平穏を。
 マリーナに同情しつつも、瑠璃は未練がましさを感じさせない手腕で攻撃を繰り返す。
 瑠璃の周囲には虹色にきらめく雲が発生していた。瑠璃が操る無数の雲は、聖獣らの周囲をただ漂うばかりだったが、その気力を奪う影響を確実に及ぼしていく。イレギュラーズに絡みつこうとする触手の動きは、徐々に鈍さを増していった。
 スティールは弾丸を装填するわずかな間、変わり果てたマリーナの姿を見つめる。
 マリーナを憐れむ気持ちはあれど、スティールは引き金を引くことをためらうことはなかった。
 スティールは再度装填しながら、イズマとスティアがオリバーの安全を確保したことを横目で確認した。
 ――あんたが何処まで堕ちようが、それはあんたの勝手だが。俺たち大人が生き汚く、手を汚すことに意味があるとすれば。それは。
「……後に託すことだ」
 スティールは、聖獣マリーナへ銃口を向けながらつぶやいた。
「――引導は俺が渡してやる」
 一方で、スティアは戦況を確かめつつ、オリバーの治療を優先する。
 ――どうしてこんな酷いことができるんだろう? イコルを使って家庭を崩壊させるなんて……。
 擦り傷だらけの顔に、骨折しているであろう右脚――オリバーの痛ましい姿もだが、スティアは多くを失うことになった、オリバーの現状に心を痛めていた。
 小夜は盲人でありながら、視覚以外の感覚を駆使して鮮やかに触手の攻撃を避け続けていた。
 空気を揺らすすべての動き、聖獣の独特な臭い、怪しげなイコルの臭い――他の感覚から得られる多くの情報から、小夜は自らが取るべき行動を導き出す。
 小夜は進んで聖獣との戦闘に身を投じていたが、かすかに聞こえてきたオリバーの弱々しい息遣いに、どこか表情を曇らせた。
 ――……それしか救う方法がないとしても嫌なものね、子の前で親を殺すなんて。
 小夜はそのそばで、鋭い刀さばきを見せつけるすずなの存在も感じていた。風を切るほどの勢いで振られる刃の音からは、目的を果たす強い意志が感じられるようだった。
 奮戦するすずなの様子に、小夜も心を奮い立たせる。すずなも巧みに聖獣を引きつける小夜の動きに合わせ、ヒルAの体を寸断してみせた。
 小夜と共に聖獣らと対峙するすずなは、小夜を鼓舞するように言った。
「頼りにしてますからね、小夜さん!」
 そんなすずなの目の前で、寸断されたヒルAは中身が抜けた水風船のように、どろどろと地面と同化していく。
 正純は治療を続けるスティアと、横たわった状態のオリバーを守れる位置に構える。
 弓を引き絞る正純は、魔力を込めた一矢を放つ。神々しい輝きを放つ正純の矢は、触手の束が飛び出す聖母像の眼窩に突き刺さった。
 聖母像の姿を象った聖獣は、わずかに触手を引っ込めただけで、人間らしい反応は見せなかった。しかし、本体を攻撃した正純に対抗するように、ヒルは新たな動きを見せる。
 2体のヒルは、その巨大な体を無数に分裂させた。更に大量の小さなヒルが、イレギュラーズの目の前に山を成してあふれ出す。
 無数のヒルは素早い動きで正純の下まで押し寄せ、オリバーからヒルを遠ざけようとする正純の体を這い上がる。ヒルが触れた皮膚は焼け付くような痛みを覚え、正純はヒルを振り払おうとした。
 ヒルの群れは、瞬く間に正純の両脚を覆い尽くす勢いだった。だが、正純は自らの魔力を発散させることで、まとわりついていたヒルたちを全身から弾き飛ばす。
 瑠璃が雲を発生させる能力で、ヒルの動きを鈍らせていく中で、すずなやイズマは自らの剣技でヒルの群れを散らしていく。ヒルの動きを抑えつけている間に、タイムは治癒魔法を発揮する。傷の治癒を促進させるタイムの支援によって、イレギュラーズは攻撃の勢いを保つことができた。
「タイムさん、正純さん!」
 一層攻撃を畳みかけようとするすずなは剣を翻し、2人に呼びかける。
「──マリ屋の常識人トリオの力をみせましょう!」
 ヒルの動きに注意を払いつつ、正純は正確にマリーナを狙い打つ。
 ──貴方は、貴方の報いを受けなさい。貴方をこうした奴らは、いずれ後を追わせますから。
 倒すべき対象として、マリーナと真摯に向き合う正純は、容赦なくマリーナの体を射抜いた。すでに何本かの矢が突き刺さっている状態に加え、スティールによる銃撃も聖母像の体をボロボロにしていく。
 一通りオリバーの処置を済ませたスティアは、自身にも言い聞かせるようにオリバーに声をかけた。
「もう少しだから……絶対に助けてみせるよ!」
 スティアも戦線に加わり、ヒルは順調にその数を減らしていく。
 度重なる攻撃によってひび割れながらも、聖母像の形は保たれていたが、やがて変化は訪れる。その胴体部分を突き破るようにして触手の束があふれ出し、結束する無数の触手によって、マリーナは新たな姿をさらす。
 触手同士が絡み合い、不気味な四足歩行の動物の姿を象り、頭の部分には聖母像の頭だけが据えられていた。※
 絶えずうごめき絡み合う触手が巨体を支え、マリーナはオリバーのいる方角に踏み出した。マリーナの動きに危機感を抱いた正純は、瞬時に弓矢を構える。正純の放った矢はマリーナの触手の一部を削ぎ落したが、マリーナは怯むことなく反撃に出た。
 マリーナの体からは新たに触手の束が現れ、飛び出したそれは正純を激しく突き飛ばす。マリーナは四方八方に触手の腕を伸ばし、周囲のイレギュラーズを一掃しようと攻勢を強める。
 残る2体のヒルの攻撃にも耐えながら、イレギュラーズは触手を振り乱すマリーナに応戦する。
 体を分裂させ、ヒルは群れとなって押し寄せたものの、イレギュラーズはその数を凌ぐ勢いを見せ、一挙にヒルを駆逐した。
 ヒルをせん滅したことで、マリーナの抵抗は激しさを増していく。触手の手足をいくつも増殖させ、イレギュラーズの攻撃を封じようと動き回る。
 聖母像の頭が据えられた本体を中心にして、広い範囲に伸びる触手。イレギュラーズは各々の能力を駆使して触手を掻い潜り、損傷を与えるなどして、聖獣マリーナの勢いをくじこうと立ち向かう。
 斬り落とされた触手の断面は、再生を始める動きを見せていた。生え変わる触手を凌駕しようと、イレギュラーズの攻撃は苛烈さを増していく。
 治癒魔法を駆使するタイムは攻勢を強める者らを後押しする。
 魔力を放つことに集中していたタイムは、わずかな差で両手右脚を触手に絡めとられるが――。
「引き付けている間がチャンスよ! やって!」
 聖獣を追い詰めるためにも、タイムは信じられる仲間に託し、突撃を促す。
 すずなは即座に判断を下し、聖獣に接近する動きを見せた。迫り来る無数の触手が本体への突撃を阻むが、イズマは鋭く振り抜いた細剣から衝撃波を放ち、一挙に触手の群れを吹き飛ばした。地面ごとえぐられた触手はその守りに穴を開けられ、束の間すずなの突破を許した。
 未だ増殖する触手は衰えず、すずなの剣技を以てしても押し返される気配があった。しかし、リボルバーを構えたスティールにより、それは阻止される。弓を引く正純も、正確な射撃によって触手の攻撃を阻んでいく。2人の斉射によって、多くの触手が爆ぜるようにその身を散らした。
 更に小夜も聖獣本体の前に躍り出る。練り上げた闘気を発散させる小夜は、自在に対象の体を締め上げる。自らの闘気を糸と化した小夜によって、聖獣は翻弄され、同様に攻め上がるすずなの動きを追い切れない。
 怒涛の勢いで攻撃をつなぐイレギュラーズの勢いを押えることは敵わず、深く切り込んだすずなの刃は聖獣を捉えた。
 一太刀を放つ間に生じた無数の斬撃は聖獣を切り刻み、すずなは確実に相手を葬り去る痛手を負わせた。
 絡み合っていた無数の触手を切り裂かれ、聖獣は原型をとどめられずにくずおれる。間もなくしてどろどろと急速に腐り落ちていく様を見せ、地表にヘドロのような液溜まりを作って朽ち果てた。
 聖獣との激闘の後、すずなは息を整えながらつぶやく。
「思えば、貴方も被害者なのですよね……マリーナさん」
 変わり果てたマリーナの残骸に背を向け、すずなは手向けの言葉をかけた。
「――眠って下さい。貴方を巻き込んだ男は、私が代わりに斬りますから」

 スティアはできる限りの治療を施したが、オリバーは衰弱し切っていた。
タイムは痛々しいオリバーの姿を目の前にして嘆息する。負傷した腕を押えながら、タイムは空を仰ぎ見てつぶやいた。
「……後手に回っているのが歯がゆいわね」
 オリバーの様子を見て、イズマは「すぐに病院に連れて行こう」とオリバーの体を抱き起こす。
 回復を待ちたいところだが、ファザー・ルヴィエの情報をつかむためには、オリバーに協力を求める他なかった。
──母親を喪い、心も身体も深く傷付いた子供に頼るしかない、口惜しいわ。
 小夜はそう思いつつも、すずなからルヴィエや妹のことを尋ねられるオリバーを見守る。
 オリバーは弱々しい声で、ルヴィエの行方を追うための手がかりについて話始めた。
 オリバーの母親、マリーナは、聖都の工房に勤めていた。そこで同僚の女性を介してルヴィエと知り合ったらしい。また、妹のユリアがルヴィエによってアドラステイアに連れていかれたことは間違いないようだ。
 瑠璃はマリーナの残骸に視線を落とし、精神を集中させる。オリバーの証言を補完する意味も含めて、自らの能力を発揮する瑠璃は、マリーナの記憶と精神を通わせた。記憶の残滓を探る瑠璃は、確かにある女性との会話の記憶が残されていることを確認した。
 マリーナの愚痴に同調し、熱心に耳を傾けていた人物──口元に特徴的な2つのホクロがある女性は、『ホリン』と呼ばれていた。その女性からイコルらしき錠剤を受け取る瞬間も散見され、ルヴィエとの関与も深いようだ。
「……ルヴィエとのつながりがある彼女を追えば、あるいは──」
 そうつぶやいた瑠璃は、ふと瓦礫の間に立つスティールに気づき、視線を向ける。スティールは廊下があった場所に立ち、その床の上に散らばっている手紙の内容を読んでいた。
「ファザー・ルヴィエ──」
 ──……どうやら、俺の撃つべき相手は決まったようだ。
 スティールはその名前を強く記憶に刻み、静かにつぶやいた。
「安心してください。すぐに聖都に向かい、あなたの保護を求めましょう」
 そうオリバーに語りかける正純は、一方で義父の教会との仲立ちを務めることを申し出た。
 「ひとまず騎士団の預かりになるだろうけど……」と言いながら、スティアはオリバーの頭を優しくなでた。
「もし、あなたが望むなら、私の領地に来ない? あなたにとって、落ち着ける場所になると思う──」
 オリバーは返事をする前に、スティアの穏やかな声を聞きながら重いまぶたを閉じた。
「今は、眠らせてあげましょう……」
 そう言ったすずなは、オリバーの境遇に同情を寄せ、浮かない表情を見せていた。
 ──オリバーさんのお母様も……この先も、安らかに眠れるように……。
 オリバーとその家族のために、静かに祈りを捧げるスティアは、憐憫に満ちた眼差しを向けていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 オリバーは『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)さんの領地で厄介になりたいようです。

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