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シナリオ詳細

<Celeste et>アブワンズヤードに風は吹くなり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ピカ×グリのレポート
 これは鉄帝軍の先行偵察隊の証言と記録を元に作例された再現である。

「浮遊島に地下ダンジョンがあるのはおかしい」
 指ぬきグローブの裾をひっぱりながら、鉄帝軍の女兵士グリーンは言った。
 グリーンが前を見据えながら物凄く真面目にいうので、マッピングをしながら歩いていたコヴェントが思わず振り返って顔をまじまじと見る。
 緑のシャギーがはいった長い黒髪に細い眉。自然に流した前髪の間から翡翠色の目が覗いている。
 とにかく真面目そうな、あるいは純朴そうな表情で、『おかしい』とグリーンは念を押して続けた。
 ピカデリーは彼女とは対照的に、きゅっとつり上がった眉や気の強そうな目をした金髪の女性である。対照的なのは外見だけではないようで、『あ゛ー……』と唸ったあとで頭をかりかりやって言葉を探していた。
「理由を聞こうじゃねーか?」
「だって、空に浮かんでるんでしょ。下に掘り進んだら絶対すぐに突き抜けちゃうじゃない」
「おめーはこの島の厚みが何キロメートルあると思ってんだよ。仮に100mしかなくてもビル30階分はあるんだぞ」
「……そんなに」
 どうやらショックをうけているらしい。こいつ感覚でいきてやがんなと思いながらピカデリーは苦笑した。
「ま、折角空に浮かべてんだからもっと上に詰めよってアタシも思うけどな。ここを作った奴はそうは考えなかったんだろ」
「作った人がいるの?」
「さあ? ただまあ、自然にこうはならねえんじゃね?」
 ピカデリーが指さしたのは、シカのような動物を蝙蝠っぽいなにかが追いかけるような壁画だった。かなり簡略化されており棒と丸だけで描かれているのではと思うほどだ。
 なるほどーと言いながらスケッチブックに絵画の内容を記録するグリーン。
 見たままをキッチリ書ける才能があるらしく、まるで写真のように正確だ。
 書き終えたのを確認すると、ピカデリーが壁から離れ、その先へ通じるであろう通路へと歩いて行く。
 鈍い金色をした棒で地面や壁をこつこつつつきながらの移動方法は罠を警戒してのもので、ピカデリーは罠の探知に優れていた。というか、罠に対して野生の勘が働くといったほうが正しい。つついているのも何か理屈があってやっていることではないのだ。
「先が明るいな。警戒しとけ」
 ピカデリーの言うように、通路の先はまるで真昼のように明るい。
 グリーンもスケッチブックを畳みつつ、おそるおそるだが進んでいった。
 そして広がる風景は……なんと言ったらいいのだろう。『草原』のようだった。
 空は青く、地面は緑で、風すらふいている。
「空……じゃねえ! コケだ!」
 目をこらしたピカデリーが叫ぶ。青いのは空ではなく、青く見える光を放つコケだったようだ。
 一方で地面にあるのは土と草。そう言う意味では『地下草原』とも言うべきエリアなのだが、ピカデリーとグリーンは探索道具を素早くしまって格闘の構えをとった。
 なぜなら、こちらを山羊が見ていたからだ。
 ただの山羊ではない。
 頭を二つ持つ山羊のような怪物である。
 グリーンが記憶を探り、レリッカで収拾した情報にあったものだと思い出す。
「双頭獣アブワン。古代獣の一種だね。たしか地上で発見された種だったはずだけど」
「草も土も空っぽいのもあるんだ、地上の種くらいいたって不思議じゃねえ――つか来るぞ!」
 ピカデリーの叫びが速いか、アブワンはこちらめがけて突進を仕掛けてきた。鋭いツノを突き出しての突進だ。
 素早く左右に飛び退いたピカデリーたち。
 が、直後にアブワンはブレーキをかけながらターン。酸の霧めいたブレスを吐き出した。
 これも事前の調査から知っている攻撃方法だ。
 グリーンが両手を翳すようにして魔術障壁を展開。
 ブレスを防御――した途端鋭い風の斬撃が背後から襲った。
「ウィンドエレメンタル! やっべ忘れてた!」
 ピカデリーが血を流すグリーンを引っ張るようにして後に庇い、追撃を仕掛けてくる緑色の竜巻めいた悪性精霊にパンチを繰り出す。
 ドッという衝撃と共に吹き飛ぶかのようにバックするウィンドエレメンタル。
「アブワンは大体ウィンドエレメンタルを引き連れてるんだった。地下でもそいつは一緒かよ」
 ちらりと振り返ると、グリーンがふーふーといいながら血の流れる肩を押さえている。
 無理に戦って全滅するのは避けねばならない。なぜなら自分達が持っているのは『未探索エリアの情報』だ。味方の手に渡らなければ無駄死にと一緒になる。
 ピカデリーはグリーンの手を引きながら、来た道を一目散に走り、撤退を開始したのである。

●アブワンとウィンドエレメンタル
 かくして持ち帰られた情報を元に、ローレットへの依頼が作成された。
 ここは鉄帝上空に発見された未知の浮遊島アーカーシュ。
 鉄帝主導により探索隊のメンバーとなったローレットは、前人未踏の空島探索を進めている。
 今回のケースはアーカーシュ地下に広がる広大かつ複雑なダンジョンの一部で遭遇したモンスターの退治という依頼である。
「発見したのは複数体のアブワンとウィンドエレメンタルだ。
 地上で発見されたものと同種の古代獣と精霊だな。ワンチャンいけんじゃねーかと思って殴ってみたが、精霊にも物理攻撃はフツーに効くみたいだぜ。ま、混沌あるあるだよな」
 作戦会議用にはったテントの中でそう語るのはピカデリー。横にはお茶をすするグリーンの姿がある。
 コツンと肘で小突くと、グリーンがスケッチブックを出してきた。
「えっと、こういう見た目の古代獣でした」
 写真と見まがうようなスケッチで描かれたのは鋭いツノをもった双頭の山羊。
 斜め上に『×5~10』と走り書きされ、隣には緑の小さな竜巻めいた物体が描かれている。こちらには『×10くらい』とあった。
「アブワンはツノの突進と酸(火炎系)のブレス。ウィンドエレメンタルは真空の刃をつかった出血系の攻撃が危険だ。逆に言えば、こいつを対策できれば有利に戦えるはずだぜ」
「皆さんが危険を排除して下されば、更に偵察を進めることができます。あー勿論、皆さんが先を探索して下さってもいいんですよ?」
 その方がスムーズですしねと言って、グリーンが両手を顔の前でパチンとあわせた。

GMコメント

●オーダー
 アーカーシュ地下ダンジョンで発見した仮称アブワンズヤードにて敵モンスターを駆除します。

・アブワン×5~10体程度
 頭を二つ持つ山羊のような怪物です。よく数体程度の群れを構成しますが、群れは他に10体ほどのウィンドエレメンタルを引き連れていることが多いようです。
 酸のブレスには火炎系のBSがついています。ブレスの射程はそんなに長くないようです。

・ウィンドエレメンタル×10体前後
 なんらかの原因で荒れ狂う精霊です。自然現象のようなものですが、倒すことで鎮めることが出来ます。
 出血系の攻撃を行い、攻撃範囲を広げることもできるようです。

 二種の連携がややキツいので、集中攻撃を受けすぎないように攻撃対象をバラしたり過剰に誰か一人だけが引きつけたりしないように調整するとよいでしょう。

●特殊ルール『新発見命名権』
 浮遊島アーカーシュシナリオ<Celeste et>では、新たな動植物、森や湖に遺跡、魔物等を発見出来ることがあります。
 発見者には『命名権』があたえられます。
  ※命名は公序良俗等の観点からマスタリングされる場合があります。
 特に名前を決めない場合は、発見者にちなんだ名が冠されます。
  ※ユリーカ草、リーヌシュカの実など。
 命名権は放棄してもかまいません。
  ※放棄した場合には、何も起りません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <Celeste et>アブワンズヤードに風は吹くなり完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老いぼれ
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼
ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)
焔王祈
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
未来への葬送

リプレイ

●未知なるかな
「空飛ぶ島に地下施設とは……」
 鎧のヘルメットによってくぐもった声で、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は呟いた。
 それゆえに独り言のようであり、実際そうだ。
「奥には島が浮くための仕掛けがあったりするのでしょうか?
 地下に草原を作る技術も、鉄帝の地を豊かにするのに役立つ技術なのかもしれません」
 オリーブは鉄帝の産まれであるがゆえ、しかも北東部の特に寒さの厳しい生まれであるがゆえ、作物の脆弱さがどれほど残酷に人間社会を破壊するかを知っていた。
 逆に言えば、『無敵の稲』なんてものがあればそれは黄金の価値をもつとも。
「そいつは面白え話だな。俺からすりゃあ、奇妙奇天烈なエンタメって感じなんだが」
 『帰ってきた放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)が義手指部分で、滑り止めをかるく引っかけるようにしてあたまをかきながら苦笑する。彼は彼で風来坊をやっていたがため、土地や文化に対する執着を持たないのかも知れない。あるいは、執着しすぎたからこそ風来坊になってしまったのかもしれないが。
「いずれにせよ、危険なモンスターの排除はしませんと」
 黒き鋼の右腕で、小指から順に曲げながら拳を作る『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)。
「未知のなにがしかが、この先にもあるかもしれませんわ。そして進むためには、阻む敵を倒すのみ」
「冒険なのだー!」
 ぐっと拳をあげたヴァレーリヤに合わせるように、『凶狼』ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)も拳をあげて飛び跳ねた。
 お互い小柄なせいか子供がはしゃいでいるようにすら見える。
「わーはっはっはっ! 浮遊島に地下ダンジョン! 何とも奇天烈で冒険心がくすぐられる案件なのだ! さっさと片付けてもっと冒険するのだ!」
「本で読んだだけではわからない以上のことがこんなに広がっているなんて……」
 はしゃぐ彼女たちを眺めながら、『炯眼のエメラルド』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はほわあとため息をついた。
 伝説の空島。太陽の翼。勇者王の物語。絵本になるほど有名で、しかし非現実的で、誰も見たことがなかったはずのもの。伝説が真実だと気付いた人々のなかに、マリエッタは確かにいた。
「調査のお手伝いを受けさせてもらってよかった……いっそこのあとも調査に協力させてくれましたらいいのに」
「できるんじゃない? 調査をしてはいけないなんて決まりはないもの」
 『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)がそう言いながら、情報にあった通路を進んでいく。
 はっと気付けば、先行調査隊のグリーンやピカデリーが見つけた壁画の前まできていたようだ。
 山羊のような絵があり、よくみれば頭が二つ描かれているのがわかる。
「アブワンって言うのね、あの動物は」
 調査員の話によれば、地上(ここでいうとアーカーシュの地表部をさす)にもアブワンが確認され、交戦した記録も残されているらしい。
「あの二つの頭、どっちもきちんと詰まってるのかしら? 精霊と連携というなら、どちらかがこっちの対応をし、どっちかの頭が精霊に指示を出してるとか……そうじゃなきゃテレパシーかもね」
 そうなんですかねえ、とマリエッタはぼんやりとした言葉を返す。
「そろそろのようだ」
 会話を遮るように手をかざした『無幻皇帝』ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)。
 扉……があるわけではない。通路の先には光があり、覗き込むと確かに青空にもにたコケがはっている。
 そして、アブワンがうろうろとしているのも見えた。
「地下には慣れてる…つもりだけど、こんなに明るいなんて、ちょっと調子が狂うかも」
 『微睡む水底』トスト・クェント(p3p009132)はそれまでの通路の暗さもあってか、まぶしそうに目を細めている。
「さて、あの天井もこの先も、ゆっくり調査するためには……ちょっと退いててもらわないと」
「だろうな」
 ムエンは魔剣グリーザハートをカバーから抜き、柄を強く握り込む。黒い炎にも似たエネルギーが湧き上がり、刀身を巻くように踊った。
「さあ、行くか。この先に何が見つかるか……この浮島は私の興味を刺激するのが得意らしい」


 アブワンはどうやら、遺跡への侵入者を攻撃するためにいるというよりただ単にここへ住み着いているだけのように見える。『地下草原』の入り口に立った今に至ってもこちらに気付く様子はない。警戒していないということだ。
 ただ、踏み入ればこちらに気付き、戦闘の構えをとることだろう。
「ならば先手必勝――ですわっ」
 ブンと振ったメイスに太陽のごとき炎を纏わせるヴァレーリヤ。
 長い聖句を詠み上げ、炎が二段階に膨らんでいったその後で、勢いよくアブワンたちへと突進した。
 一体がバッと頭をあげる。どうやらさっきまでのんきに草を食んでいたようだが、もはやこちらから目をそらすなどということはあり得ないだろう。
 周囲のアブワンもまた頭をあげ、突進するヴァレーリヤへ迎撃――の構えをとろうとした寸前にヴァレーリヤのメイスがアブワンの横っ面に炸裂した。
 左右どちらかの、ではない。『両方の』横っ面をいっぺんにぶっぱたいたのである。
 それによって起きた炎の波が、別のアブワンにぶつかりその個体が悲鳴のような声をあげながら飛び退く。
 が、これでも危険な古代獣。すぐにギエエと声を発したかと思うとヴァレーリヤめがけて酸のブレスを吐き出してきた。
「おっと危ねえ」
 バクルドが義手とコートを広げて割り込み、ヴァレーリヤをブレスから守る。
 酸のブレスはたちまちバクルドのコートを溶かしてしまったが、どうせ風よけ程度に被っていた安っぽい布きれだ。捨ててしまって問題無い。
 残った布きれを千切って放り捨てると、バクルドは義手に仕込んだボウガンの弓を展開。更に弓を大量に詰め込んだしたマガジンを義手の上に突き立てるようにセットすると横に飛び出したクランクを回転させる。自動で再装填された矢が次々と発射される矢がアブワンたちへ襲いかかった。
「ムエン、ガードを頼むぜ。射撃に集中したい」
「いいだろう」
 バクルドが味方を庇うような位置から動き、アブワンたちが避けづらいよう円周軌道上を走りながら撃ちまくる一方でムエンは魔剣を翳しアブワンを挑発するように手招きした。
 酸のブレスが集まり、更に突進がぶつけられる。
 酸の火炎効果はカットできても実ダメージまではカットできない。
 ムエンは持ち前の器用さでアブワンの突進を受け流すと、すれ違いざまに斬り付けながら身をかわす。
 更に浴びせかけられる酸のブレスを、魔剣をぐるんと激しく回転させることで強引に弾き飛ばした。
「――来たぞ、マリエッタ」
 突然声をかけられ、治癒魔法の手を止めるマリエッタ。
 ビュンと風を切るような音がしたかとおもうと、ムエンめがけ風の刃が飛んでくる。
 緑色の小さな渦巻きのようなものが草の上に現れ、ゆらゆらと踊っているのが見えた。
「ウィンドエレメンタル……引き離せるでしょうか?」
「いや、どうだろうな」
 遠距離射撃の利点は『火力を重ねやすい』ことである。
 射程距離の短い攻撃はそれだけ一点に対して集中攻撃がしづらく引き離されやすい一方で、アブワンの狙う固体に対して容易に風の攻撃を打ち込めるというのがウィンドエレメンタルが連携しやすいポイントなのだろう。
 オリーブは勇敢にもアブワンへ剣を叩きつけると、反撃のブレスを至近距離で浴びながらもがしがしと攻撃を連続させた。
「こちらが固まって射撃に集中すれば範囲攻撃のいいマトです。できるだけ混じるように味方を配置して孤立しないようにしましょう。相手の攻撃手段を制限させるんです」
 オリーブは鎧が徐々に溶けかかるのをよそに、アブワンの首を剣で切り落とす。
 戦術の基本と言われる『得意を押しつける』は転じて『不得意を強いる』ことでもある。
 無理に狙う必要はないが、オリーブやムエンのように近接戦闘に振った仲間が多い時には使っていきたい戦術だろう。
「そういうことでしたら、ええ、お任せください」
 マリエッタは腕まくりをして治癒魔法の詠唱を再開。集中攻撃を受け始めたオリーブへと治癒の魔法(メガ・ヒール)を送り始める。
 マリエッタを邪魔に思ったらしいアブワンが突進をしかけようと飛び出すも――ヘルミーネの呪紐グレイプニールがアブワンの首に巻き付きぎゅっと締め付ける。
 それも一体や二体ではない。周囲のアブワンたちをいっぺんに締め付けていた。
「これがヘルちゃんの実力なのだ!」
 糸を通じて襲いかかった悪霊たちがアブワンの脳へと両手でしがみつき、何かの呪いを焼き付けているようだ。
 トストがナイスと叫んでヘルミーネやオリーブたちに声を張る。
「魅了の魔法をかけるよ。巻き込まれないように一旦離れて!」
 無言で了解の意図をしめしたオリーブたちは散開。誰を狙おうか迷ったアブワンたちめがけ、トストはピンク色をしたサンショウオ型エネルギー体を生成。発射する。
 空中をしゃかしゃか泳いで突進したサンショウオ型エネルギー体はアブワンにぶつかったと同時に破裂。アブワンはぷるぷると首を振るが、その目はピンク色に濁っていた。
 再び敵を探そうとして、近くのアブワンへと激しいタックルを浴びせる。
 至近距離での乱戦において【魅了】効果ほど便利なものはない。
「このまま、連携を崩してしまいましょうか」
 フルールは『精霊天花・焔』の力を行使すると、焔の髪をなびかせながらアブワンへ『紅蓮閃燬』を放った。
 飛んでいった炎がアブワンを包み込み、もがくアブワンを逃がさぬように炎が絡みつき全身を激しく焼いていくのだ。
 やがて動かなくなったアブワンの周りには、荒れるウィンドエレメンタルが残っている。
 激しい敵をこちらにむけているのが、見ただけでわかった。
「まったく、エレメント・マスターの私の言葉を聞かないなんて、ちょっとお仕置きが必要かしら?」
 位によって知能レベルに大きな差のある精霊を人間と同じに例えるのはちょっと乱暴だが、たとえ言葉の通じる人間でも今まさにこちらを殺しにかかってくる相手に命令を押しつけるのは困難だ。そしてはるか古来から、そういう暴力は暴力をもって止めるものだと決まっている。
 ウィンドエレメンタルは大きく散開しながら、フルールたちめがけて風の刃を乱射してくる。
「私はあまり精霊をいじめたくはないのですが……」
 フルールはぼやきながらも更なる紅蓮の炎を発射。
 交差する炎と風が互いを攻撃する一方で、バクルドやムエンたちは背中を向け合うような陣形を組んだ。
「囲まれたか。どうする、散開して集中攻撃を防ぐか?」
「それもいい手だが、孤立すると厄介だ」
「回復の手が届かないところまで分断されれば各個撃破もあり得ますからね」
 陣形にオリーブが加わる。
 今回のメンバーの優れたところは、それなりに高い防衛能力をもったメンバーが揃っているところだ。
 アブワンに頭から突っ込んで火力の限りをぶつける攻撃陣形から一転して、ウィンドエレメンタルからの集中攻撃に対抗するための防御陣形へと移行できるのだ。
 無数の風のやい場が重なり、広範囲にかけてバクルドたちを襲う。
 オリーブは剣を翳し鎧の堅さに任せて前に出て、バクルドは義手を翳して前へ。ムエンは魔剣から溢れる炎をカーテンのように展開して防御を始める。
「範囲回復魔法が使えればもっと楽だったんですが……」
 マリエッタはうっすらと赤い魔力障壁を展開して刃を防ぎつつ、どこか楽しそうに苦笑した。
「持ちうるカードで勝負しなければならないのは世の常ですか」
「充分なのだ。範囲回復は任せるのだ!」
 ヘルミーネが『天使の歌』の術式を展開。四方を固めるように集まった防御チームの治癒を始める。
 今は八人の仲間達が5m弱の距離をあけながら2人×4組のペアを組んだ陣形をとっていた。防御に優れたメンバーが、比較的無防備なメンバーへの攻撃を庇うという陣形である。
 といっても、トストやヘルミーネのように粘り強く戦えるメンバーもいるので徹底的に庇い続ける必要は無い。
「キッチリ守って、一体ずつ倒していけばいいだけだからね。焦らず行こう!」
 トストは勢いよく飛び出すとウィンドエレメンタルめがけて新たなサンショウオ型エネルギー体を生成した。今度は赤いサンショウオである。またも空をしゃかしゃか走ったそれは物凄い勢いで炸裂し、赤い霧のようなものを周囲に散らせる。ウィンドエレメンタルの様子が明らかに変わった。弱ったようにすら見える。
 ヴァレーリヤはここぞとばかりに構え、自分を守っていたバクルドと前後の位置を切り替えた。
「――『主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え』」
 最初にアブワンの横っ面をぶったたいたのと同じ技だ。今度は遠距離に向けてぶっ放す砲撃としての構えである。突き出したメイスからドンと発射された炎がウィンドエレメンタルを貫き、パッと緑色の竜巻を焼失させる。
「あら、怒りが収まったようね」
 精霊の声がわかるフルールがそんな風に言った。
 諸説あるが、ひとつの解釈として精霊は『脳内多数決』をとっていると言われている。
 一個体を構成する無数のちいさな意志の集合体が、それぞれ考えを表明することで集合体の動きを決めるのである。今回の場合は、表面化した敵意や怒りといった感情を示した意志群が攻撃によって破壊あるいは沈静化したことで精霊がただそよぐ風になることに(多数決で)決まったという所だろう。
 しかも低位の精霊であるらしく、言葉を理解すらしていない様子だった。
 ……さておき。
「数が減って攻撃が弱まったみてえだ。ドンドンいくぞ!」
 バクルドは防御から攻撃に姿勢をシフトさせ、ウィンドエレメンタルへと攻撃をはじめた。

●そして草原に風はふく
 やがて、戦いは終わり……。
「思ったよりも頑丈な壁だったようだな」
 ムエンは地下草原の壁面を魔剣で叩きながら呟いていた。調査タイムである。
「なにか分かったことはあるか?」
「わからねー……っていうか、この辺幽霊の気配がぜんぜんねーのだ。ここまでないのもちょっと珍しいのだ」
 ヘルミーネがビミョーな顔をして言った。
 無菌状態みたいなものだろうかと思っていると、フルールが小さく首を振る。
「ウィンドエレメンタルがいたように、精霊は沢山いるわ。高位の精霊も探せばいるでしょうね。これは、それだけ環境が『自然寄り』だってことを示してるのよ」
 説明している、というか半分くらい独り言のようなものだったらしい。口調がそんな感じだ。
「なるほど……ということは、この植物は野生のものということでしょうか?」
 オリーブが地面から草をもぎ取った。根が強く、かなりみずみずしい。雨がふっているわけでもなかろうに、どうやって栄養を保っているのだろう。
「地下で育つ植物とは……興味深いですね」
 しげしげと見つめるオリーブ。草は太い茎と大きな一枚葉で構成されており、強いて言うならフキに似ていた。そんなオリーブがワイバーンにのって天井から採取してきたコケは、青く光るコケである。
「この光で光合成をしてるってことだよね。だとしたら凄いな……それだけの光量を発するのもそうだけど、これを使えば地下栽培が可能になるかもしれない」
 トストが植物をよく調べはじめている。
 その一方で、ヴァレーリヤとバクルドはこのフロアに至る前の壁画を調べていた。
 というより、それの解読を試みるマリエッタを手伝っていた。
「なるほど……『狩り』の様子が描かれているようです。狩りの手段と言うべきでしょうか、この『蝙蝠っぽいもの』の利用法でもあるようです」
 改めて細かく壁画を描き写し、そこに注釈を加え始めるマリエッタ。
「さて、と……折角です。この先に進んでみましょう」
 未だ見ぬ何かが、あるかもしれません……と。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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