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シナリオ詳細

<13th retaliation>自分自身との戦い

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●これまでの深緑編
 ――深緑が封鎖された。

 『不可思議』な茨による封鎖、内部の人間の突如とした深き眠りに死をも感じさせる茨の呪い。
 行く手を阻む其れ等をショートカットするために、イレギュラーズは妖精女王の助力を経て、彼女達の無事を約束し、深緑内部への道を得た。妖精の門(アーカンシェル)の直接ルートではなく、迂回ルートである『大迷宮ヘイムダリオン』を経て。ついに、イレギュラーズはアンテローゼ大聖堂の制圧に至った。

 茨だらけであった外部とは異なり、アンテローゼ大聖堂の内部は『茨棘』に関連する『呪い』の気配は薄い。
 ……どうやら、大聖堂内部に存在した霊樹の加護が其れを赦していたのだろう。霊樹を使用する事の出来た司祭フランツェルの力添えもあり、イレギュラーズは聖堂近くの幻想種を茨から解放する事も出来そうだ。
 だが、霊樹の加護が途切れる『外部』に出れば呪いは襲い来る。あまり離れることは得策ではなさそうだ。
 拠点とするにも十分な施設である事を確認したイレギュラーズは、次なる課題に取り組むことになるのであった。

 次なる課題とは、幻想種の多くが居住区とする『大樹ファルカウ』への進軍と、深緑内部に存在する『茨咎の呪い』の打開である。魔種や精霊達には多くの影響を及ぼしていないようだが、イレギュラーズが活動する上でこの呪いは不可避のものであり、存在するだけで活動域が一気に狭まってしまう。
 故に、襲い来る刺客からアンテローゼ大聖堂を守り抜きながら、イレギュラーズは呪いの打開を目指さねばならない。
 活動域内で保護することが出来る幻想種の護衛や、怪我の介抱。周辺の『霊樹』の集落の巡回に外に出ていた妖精達の保護など、ファルカウへと進軍する前にやっておきたい事は無数にある。
 最優先事項である『解呪』を念頭に置きながらも、一先ずイレギュラーズはファルカウの麓での短期的活動を始めたのであった。


●『眠りの世界』
 アンテローゼ大聖堂から大樹ファルカウに向かうイレギュラーズの行く手を、猛吹雪が阻んでいる。猛吹雪に触れると奇妙な異世界に侵入できると研究者の報告には記載されていた。
 ――誰かの夢なのか、それとも擬似的に作り出された特殊空間であるのか。
 大樹ファルカウに進軍するための道を開くためには、この特殊空間を壊しておいた方が良いのは間違いない。だが、このフィールドは『何らかの存在の権能』が組み合わさったものであり、外部から解く(破壊する)ことはできない。『眠りの世界』に入り込み、何らかの条件を満たして特殊空間をクリアしなければならないのだ。

 『眠りの世界』攻略に選ばれたメンバーが猛吹雪に足を踏み入れる。肺腑も凍てつき息が詰まる程酷い極寒の風の中、視界は真っ白であった。氷の粒のような雪の塊が無数に全身に叩きつけられて、冷たさと痛さが混じり合う。頬も耳もひりひりとして、凍えた足先の感覚が無くなった。耳元で風の唸る音が聞こえるが、風がどちらからどちらに吹いているのかもわからなくなる。息をするために俯き、手で口元を覆い、――気付けば、独りになっていた。

 風が少しずつ止んでいく。
 音が消えて、呼吸が楽になる。
 周囲は――真っ白だった。

 足元は、雪が積もっている。右を見て、左を見て、上を視て、後ろを確認して、givenはここが真っ白な異空間で、仲間の姿はなく、ただ自分一人なのだと理解した。

 そして――再び前を視た時、其処には『given』が立っていた。

GMコメント

 透明空気です。今回は深緑の依頼で『眠りの世界』攻略です。
 今回は基本的に1人1人ばらばらのソロ行動となります。ちょっと特殊なシナリオですね。

●依頼内容
・『自分自身』と戦う

●場所
『眠りの世界』
 真っ白な空間です。足元には雪が積もっていますが、足場対策は不要です。

●敵
『自分自身』です。
真っ白な空間で対峙する『あなた』は、以下1、2の【どちらか、もしくは両方】の性質を持ちます。
(どんな『あなた』と対峙するのか、敵の『あなた』がどんな台詞を言ったり、どんな一面を見せるのかは、プレイングに書いてください)
1、『あなた』は、あなたと全く同じ戦闘能力を持ち、あなたを殺そうと襲ってきます。
2、『あなた』は、あなた自身が思っている『自分の醜いと思っている所や自分で嫌っている一面』を見せつけたり語ったりします。場合によってはトラウマシーンなどが幻のかたちで目の前で再現されることもあるでしょう。幻が視える場合は、第三者とのやりとりが幻聴で聞こえたりもするかもしれません。プレイングに自由に書いてください。

・戦い方
1を選んだ場合は純戦です。例えば、武器やスキル、戦闘方法などを考えて、自分の弱点はこういう点で、自分だったらこう切り込んでくるので、それに対してこう対応して勝つ!というようなプレイングを書いてみてください。
2、自分の弱点、嫌な面、トラウマ等を乗り越えて自分の殻を破り、一皮向けてやる!変わってやる!という、キャラクターの成長(のきざし)プレイングを書いてみてください。
(1と2両方を合わせると、より熱いのではないかと思われます。お好みでどうぞ)

・プレイングとリプレイについて
 特に2を選ぶ場合、プレイングに必要な情報、心情をしっかりとご記載くださいますよう、お願い申し上げます。EXプレイングも可能にしていますので、必要に応じてご活用ください。
 また、所謂白紙や薄プレがあった場合は、該当PCの文字数が減り、その分他PCに足される扱いとなります。
 お客様によっては、シリアスが苦手でコミカルなのが好き、というタイプもいらっしゃるかと思います。そんな方は、「ギャグ調で2人の自分がコミカルにわちゃわちゃして気づいたら勝っちゃった!」なプレイングを書いてください。プレイングに応じたリプレイが(たぶん)返ってくると思います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 以上です。
 キャラクター様の個性を発揮する機会になれば、幸いでございます。

  • <13th retaliation>自分自身との戦い完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月24日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
メーコ・メープル(p3p008206)
ふわふわめぇめぇ
松元 聖霊(p3p008208)
それでも前へ
鏡(p3p008705)
エア(p3p010085)
白虹の少女

リプレイ

●『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)
 甘い香り。
「あれは私? それとも偽物?」
 赤と青のあわい。

 此処が『夢』ならば。

「あら、あら。分かたれてしまったの?」
 そよ風に揺れる花のように『私』が微笑んで赤を纏う。
「あらあら、返事をしてくれないの♪」

 あぁ、あぁ♪
 ……なんて笑顔を浮かべているの?

 哀しい願い。胸に燈る熱を燻らせて。
「もしも目的(ゆめ)が同じならば、仲良く語り合うことだってできるでしょう。でも、わかる」
 李の花びらに指先を添わせれば、滑らかで柔らかな感触が感じられる。
「あれは、『敵』」
 情熱の赫、愛をそんなに魅せて。嗚呼――『殺したくなってしまうわ』。

「どうして?」
 ――殺すのは嫌いだったはずなのに。
 蕾が綻ぶように焔が揺れる。
「あなたもそうでしょう?」

 ひとつになりましょう、そう伸ばされた炎の手。
 翼めいて広がる精霊たち。精霊天花を始めましょうね――どちらが言ったのか、わからない。力のしるしを咲かせ競い、火照る魂を瞶め合い。

「私の夢は、すべての魂がひとつになって、自他の境界をなくすこと」
「他人がいるから、自分と違う存在が在るから争うのであるならば、すべてをひとつにしてしまえば争う意味は消えるから」

 連なる声、揃う聲。

「けれど、駄目」
 赦されないわ。
「魂は、同じ魂というものは存在してはいけないから。同じ名、同じ体があったとしても、その中身だけは唯一無二なの」

 『私』が不思議そうに首を傾げる。まるで、何もわからない子供のよう。
「2つあったら、どっちかが偽物でないといけないの」
 声を続ける。子供に言い聞かせるような聲が返る。
「ひとつになれば、『駄目』もなくなるわ」
 あなたはどうして、そう思うの?
 優しく炎が奔る。螺旋を描くように互いに向かって、ぶつかり合う。

「なんでそう思うかはわからない」
 迷子のように声を零して、雨垂れのように熱を紡ぐ。足元から、胸の奥から、肩の内側から、瞼の奥から――想いが。衝動が止まらない。

 ――赦すことができないの。

「だから、殺すわ」
 焦げる匂い。熱さと痛みが脳を揺さぶる。炎熱地獄に少女の哂い声が反響する。
 殺したい。熱い。くすくす、くすくす――、


 何かが焼ける。何かが燃える。
 息を吸おうとして。

 ――苦しいの。

 ふと思った。
 痛くて、哀しくて、切ないの。
 ふと気づいた。


 あぁ、私が魂をひとつに融合したいのは、私も愛されたいから。
「でも、もうひとつ李花がいたら、」
 愛は、減ってしまうんじゃないかしら?

 怖い。寂しい。イヤ――だから、だから。
「だから、なのね」

 小さな子どものように頬を濡らして、産声のように繰り返す。
「わかった、わかったの」
 感情を炎に替えるように。生命を燃やすように。
 ――『無茶な戦い方をする』『守ってやるよ』
 いつかの声が過って、白に溶けていく非現実の虚しさに喉が鳴る。

 ひとりしかいないの。独りだけなの。
 だから、いっそう無垢に凄絶に笑みを咲かせた。濡れた頬を炎熱が炙って、そんなものはなかったみたいに痛みが跡を残すから。

「だから、……絶対に殺してあげる♪」
 だから――甘く笑うの。優しく抱きしめるみたいに、炎華を放てば、私と私が同時に焼かれて紅蓮に感覚が染められていく。わからなくなっていく。溶けるみたいに、痛みが麻痺していく。まるで世界が、赤一色に塗りつぶされていくみたい――私が嗤っている? 私が泣いている? ……もう、わからない。


●『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
 生まれる子供は女子ばかり。そんな一族に現れた、珍しい男の子。
『神童だ。才能がある』
 大きな魔術書を抱きしめれば、古い貴重な紙の匂いがした。

 木漏れ日が彩を変える中、樹を登る。
 てっぺんまで登ろうと、当たり前のような声がする。
 大樹ファルカウの向こうにオレンジ色の朝焼けが広がる。
 唇が名を紡ぐ。外からやってきたウォーカーの青年が頷いた。友達の距離感で、手を伸ばしかけて――移ろう景色に、身を固くする。

「あ――」
 血の匂い。木々の悲鳴。死の影。腕の中で震える妹の体温。
「ライラ」
 これは、過去だ。幻だ。
 青年が戦ってくれている。守って傷付いて――自分は?

「シャハルが何もしないから、死んでしまったじゃないか」
 魔術と水の薫りを漂わせ、『自分』が嗤っている。

「『夜明けの虹(シャハル・ケシェット)』」
 友が世界を救った者として未来永劫この世に刻まれるように――生き残り成長したシャルルが名乗ったのは、亡き友の名だった。

 弾ける光に視界が明滅する。
「くだらない話だ」
 声に撃たれて喉奥からせり上がる塊を吐き出した。痛い、熱い。呼吸への渇望に術式をほぼ無意識で紡いで、福音に替えた。
「何であれ、死ねば終わりさ。お前がウィリアムを名乗ったからって彼は戻ってこない。功績だって、お前という別のウィリアムのものさ」

「友の名が世界に刻まれるように。まあそれは本心かもね。でももう一つあるだろう?」
 ああ――、
「夜明けの虹(ほんとうのじぶん)は何も出来ない。救えない」

 左手を突き出して、胸元を掴んだ。引き寄せるようにして体温に右手の拳を奔らせる。下から昇るような軌道で、途中で五指をひらいて爆発させるのは純然たる神秘の破壊力。拳が返ってくる。無風の空間に風を生むように半身を右に捻る。揺れた金髪に衝撃を感じて歯を食いしばり、脇腹へと光撃を返す。

「……戦っている最中に、べらべらとよく喋る」
 血の匂いが濃い。

「自分がこれまで多少なりとも世界の為に、誰かの為に戦う事が出来たのは、ウィリアムだから」
 魔力の波濤に喉が震える。全く同じ魔力の波動が狂おしく荒らぶり、ぶつかり合う。
「だって『ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズは最高の大魔法使い』だからね」

 真っ白な雪の地面にふらつく足が動く。

 我武者羅に腕を突き出す。魔術書が頁をめくる音がする。肩ごと衝突するみたいに撃力が爆ぜる。一族の体術――柳のように、風に溶けるように柔軟に流し避けるそれではなく、闘気を戦わせるように。牙で身を削り合うように。

「力で押し通るか。あの日震えていたお前だけは消えたかな」

 また、笑っている。

「力だけだ。いずれ虚像が崩れ去る時、お前には夜明けも、そこに輝く虹も無い」
 全身に魔力を循環させる。蠢く唇を、口腔を、舌を睨む。
「お前の行く先は奈落の底さ」
 穏やかな木漏れ日のように、尽きぬ赤が微笑んだ。

「……全て君の言う通りだよ」
 拳をつくる。指は強張っていて、自分の一部ではないようだった。
 けれど、自分だ。
「でも、それがどうした。例え虚像であったとしても、救われた人には関係のないことだ」

 『大丈夫だよ』
 遠くなる背中。
 ――叫ぶのと撃つのは同時だった。
「守りたいものを守れるのならば、この道が行き止まりであったとしても構うものか!」


●『ヒュギエイアの杯』松元 聖霊(p3p008208)
「……なるほど、ここが眠りの世界って奴か」
 杖を握る手に力を籠め、身構える。

「で、お前は俺を殺しに来たって訳か」
 返答代わりに殺意の杖が掲げられる。無限の紋章を顕して。

「ご苦労なこったね、生半可な火力じゃ俺は殺しきれねぇぞ。俺が治癒得意としてるのはお前がよく知ってることだろ」
 揃の紋章を輝かせる。衝撃波が迫る視界に杖を構えて、対抗させるのは治癒の術。杖が破壊を呼び、杖が癒す。杖が身を裂き、杖が傷を塞ぐ。根比べでもするかのように、繰り返す。

 白衣が裂かれ、乾いた血痕を幾つも残す。
 顔の半分を血に汚し、拭う事もなく杖を振る。疲労が足元から忍び寄る。何れ限界が訪れるとは理解しているが、気になるのはそれよりも――、

「……さっきから妙に変な顔してると思ったがお前泣きそうな顔してんな」
 杖を下げ、感情をぶつけるような魔力を受け止める。殺意が魂を粉々に砕くようだ。煮えた激情がぐずぐずに内外を切り刻むようだ。噴き出した血。暴力になすがまま吹き飛んで、雪に埋もれて血潮が白を溶かし広がるのを視た。

 零れた杖が転がっていく。
 悔しい、無念、後悔……「ああ、そうか」呟いて足音を聞く。

 影が伸びて、世界が暗くなる。
「お前……『諦めた俺』なんだな」

 仰向けに呟けば、父の形見の杖が上から垂直に振り下ろされる。杖先を両手で掴み、腹に力を入れて睨み返せば雫が降ってくる。上と下、同じ力ならばどちらが勝るか知れたもの。なのに。

「……ッ、全てを救おうとして、救えなくて。それどころか自分は無傷なのに大切な人たちがどんどん傷ついていって!」
 杖が震えている。そのまま離さず息を吐いて、吸って――目を覗いた。
「己の無力さに苛まれて『救う事を諦めた』んだな」
 魔力が熱を放つ。

 父の手。彼女の笑顔――死と傷が目の前で火花を散らすようで。
「無駄なんだよ」
 絵物語でも神話でもねぇんだ。夢想でしかねぇ。松元 聖霊がそう叫ぶ。
「全部救えるなんて傲慢なんだよ!」


 光が地面から湧くように爆ぜたのは、直後だった。

 轟音の中、
 手が伸びる。

「だったら何だ?」

 いつの間にか帽子は何処かに飛んでいた。朱に染まる雪原に手を伸ばす先には、杖がある。
「俺はその無力さも、後悔も、絶望も全部連れて行く」
 掴む冷たさは、硬さは、重さ。
「全部背負って、その重みに潰されそうになっても。地面這いつくばってでも前へ進んでやる」

 進んださ。俺だって。
 知ってるよ。
 駄目だったんだ。
 違ってた。
 届かなかったんだ。
 知らされた。

「っるせぇ!!」
 ありったけの声で言い放つ。黙らせる。

「この世界はやり直しが効かねぇんだ! だから、止まる? 違うだろうが!!」
 やり直しが効かねぇから、立ち止まってる暇はねぇんだろうが!

「お前は甘えたガキかよ? 医者だろうが!?」
 患者がいるんだ。助けられる命があるんだ。
「この杖を握る『俺』は、諦めねぇんだよ」

 立ち上がる。
 杖をかざす。
「穹に輝くへびつかい座と聖蛇の意匠に誓ってやる」

 全てが救われるなんて御伽噺の中だけだ、なんて言わせない。
「お前ごと救ってやるよ」
 傲慢と笑われようが、俺は全ての生命を救う医神になるんだ。

 ――さ、夢から覚める時間だぜ!
「俺はお前ごと救って、全部背負って先へ行ってやる!!」
 笑って光を輝かせれば――


●鏡(p3p008705)
「綺麗な場所ですね、何もなくて」
 陶然と、嬉々として。
「それに私の相手が私とは、実に詩的なお話しじゃないですかぁ?」
 鍔を鳴らし、享楽的に。口角を凶悪に吊り上げ笑み眼を創るように。

 これはこれは、私じゃないですか。
 頬を紅潮させ、恍惚と零す。
「アナタはきっとここで作られた偽物なのかもしれませんが――そんな事どうでもいいですよね」

「私を斬れるなんて機会、その歓喜に比べたらぁっ!」
 測りがたし白の間合いが縮むように一瞬の予期なき激突は邂逅し、黒艶の髪が蠱惑的に舞う。
 斬刀嗜虐の音奏で、不可視の初撃が高く澄んだ金属音の嬌声をあげている。「あァッ……!!」煽られるように二度、三度確かめ合う。感じ合う。「いいですよぉ!」「アナタも!」高め合うように刃を競わせる刃は、全てが全く同じタイミングで納刀と抜刀を繰り返す居合の応酬。

 キンッ、と攻め合いの音を響かせて。
 ざり、と音立てて足が地を擦る。爆発力を得るように蹴り、膝の伸縮で勢いを増して弾丸めいて飛び出せば空間が歪む錯覚と高揚。
 気流、血臭、
「速い! 鋭い!」
 燥ぐ聲、斬撃音!
 一瞬の力競り、反発力に互いに乗り離れる。世界が廻る。くるり、故意に抜かずのまま独楽めいて廻れば攻め手の斬刀嗜虐が髪を落として過ぎていく。一拍遅れて鮮やかな血が頬から肩から噴き上がり、同時に抜き放つ一刀が間合いにずぱりと脇を断つ。ホンモノの感触、手応え、匂い! 快感歓喜、増す鋭気。

「よくもギリギリで避ける!」
 血飛沫に笑みが弾ける。鍔鳴りが連なり、斬刀未だ視えず止まらぬ猛風吹き荒れる!
「楽しい! 愉しいですねぇ!」
 歯を剥いて、涎線引く赤を吐きながら戦舞曲を楽しむ剣鬼鏡魂、聲揃え。
「当然です」
「それでこそ」

 愉悦狂欲を溢れさせ、大輪の花が蜜を輝かせるように笑み咲かせ、示し合わせたように同時に後ろへと飛び退いて。膝が柔らかく勢いを殺し、黒髪を靡かせて着地すれば静寂充ちる。互いに詰め合う未来を誓い合うような熱い倒錯した眼差しを交差させ緊迫の死線に腰を落とし、鞘を握る。

 柄頭向き合うは双の断刀、『鈴音』。
 刀身は鏡の如くと謳われど抜身露わに衆目に晒される事は無し。
 其れは殺命刀。
 構えに悟り合うは必然。繰り出す技は全く同じ”奇跡”の余地なき破鏡の絶技。

 音速を待たず鯉口を切る。鏡刀光が漏れるより疾き抜き付け一閃。紫電真一文字に嚙み合って火花飛び、剣風同時に神速加速!
 音未だ空気震わせぬ一刀必殺、禍麗に華冷に走り駆け。

「『示現絶刀 破鏡不照』」
 残心血振りに漸くの倒音導かれ。刀刃鯉口を離るるならば敵裂かねば居合にあらず、間髪許されぬ剣風に断たれし命脈は返す言霊持つことなし。
 風凪げば首落ちる音、只一度だけ響いて後は無し。


 ……そうですかぁ。

 ひたり、見下ろす。余韻に艶笑い。
「くふ、」
 ――あーあ、私の身体……こんななっちゃって。

「大丈夫、心配いりませんよ」
 狂人の真似とて大路走らば即ち狂人なり。
 亡霊を装ひ戯れなば亡霊となるべし――アナタは私としてそこに立っているのだから。

「私はもう、私だ」
 血溜まりに――

 ご高説どうも、
 サヨウナラ。偽者さん。

 双眸は黒を視て、微笑んだ。


●『優しい気持ち』エア(p3p010085)
「っ、……」
 呼吸すら許さぬというように、風が唸りあげている。
 それは、内に眠る風竜の力。
 大きすぎる力――恐ろしい力。

 華奢な全身が暴風に攫われ、斬り刻まれる。意図は明白で、殺意を平然と露わにしている。
 敵は――『わたし』。

(これは、『魂穿ち』)
 呼吸を必死に繰り返し、前後も上下もわからなくなりそうな白一色に受け身を取る。雪地に叩きつけられた衝撃は、さほど大きくない。それよりショックだったのは、『自分』だったから。

「わたし……わたしは」
 両手をついて身を起こす。ぱたぽたと血が滴って、冷たさと熱さに震える手の間で赤が広がる。

 竜の特徴を見せる『自分』がいる。
 わたしの声を聞いている? わからない。けれど、顔をあげたら双眸が絡み合った。

 『わたしは他人の命を奪いたくない』。
 彩に視界が揺れた。
 首を振っていた。

 長い髪がふるふると揺れて、頬に首に、まるで穢れぬように、綺麗であるような色で煌めいて、手で抑えずにいられなかった。

「悩んだら、優しい? 考えたから、頑張った? 仕方ない……? そうじゃ、ない」
 そんなのは、綺麗なフリをする青春ごっこだ。
 自分が気持ちよくなるだけで、誰も救えていない。

「甘えなんです」
 震える声が言った。

「わたし、あなたを殺します。わたしが、あなたを殺します」
 つんのめるみたいに前傾になって、倒れ掛かるみたいに前に足を動かして、這う獣のように不格好に走る。懸命に。

 縺れた足で術を紡ぐ。
 英霊じゃなくて自分の生き様を、わたしの歩く足跡を刻むため。

 風が吹き荒れる。視えない刃、大気を歪ませ哀音を響かせる暴力。敵意。害意。

 摘み取らなければ、
 ――次に奪われるのは。

 力に飛び込む。周囲に流れる景色は、過去? 未来?
 命が奪われていく。
 風が啼く。苦鳴が後ろに流れて止まらない。一歩、右足で蹴って。左肩を前に倒して、倒れる前に疵付きながら左脚で確りと大地を踏んだ。

 進むごと、奪われていく辛い景色。でも。
「救う事も、でき、た……っ、から」
 泣きじゃくるみたいに言って、幼い子どものように手が伸びた。

 白い雲を夢見て空に差し出すように、
 赤い血傷を増やしながら敵意に向けて。ほら、もう――届く。

「例えそれで命を失う事になっても……見えない未来を恐れて逃げ続けるのはもう御免です!」
 届いた体温を掴んで、抱きしめる。
「わたしは自分の選択に責任をもって命を救い続けます」

 暴れる気配。爪を立てられて。獣みたいに吠える自分を離すまいと、力を籠めた。
「今のわたし達は一人じゃないんです……っ!」
 思い出があるじゃないですか。
 エドワード君を想う。いつも支えてくれる温かさを。笑顔を。
「命を預けてもいいって思える大切な人達に出会えたじゃないですか!」
 『儚き久遠』。冒険の希望や旅立ちの期待を思わせる贈り物から光が溢れて、止まらない。

「わたしは、『救う』ために戦うんです」
 仲間たちが事後始末ともいえる冒険に出て、多くの命を救う形で報いてくれた。

 殺す方がずっと楽だったはずの依頼。
 自身の命を賭して他人を救った彼等。

「そこには……っ、答えが、あった、でしょう……?」
 聲は、揺らがぬ答えを確り見つけている。

 だから『魂穿ち』は敵意を返すのではなく、邪だけを狙って――「迷わない」。


●『ふわふわめぇめぇ』メーコ・メープル(p3p008206)
 眠りの世界――眠りを司るメーコに最適と思ったのだけれど。

「めぇ?」
 ほわほわと首を傾け、真っ白な世界にぽすぽすと歩み寄る。

「そっくりですめぇ」
「メーコですめぇ」
 微睡みの夢に微笑むように綿菓子めいた姿合わせ、ふわふわの髪を可憐に揺らしてメーコがてのひらを上向きに差し出すから、メーコも驚きながら指を絡める。

 カラ、カラン、そっくりさんの音が鳴る。
 指先から感じられるのは、呼び寄せの気配。反動でメーコの指先からじわりと血が流れるから、夜紺色の瞳を覗き込む。敵を引き付けるために鳴らす音――


「……メーコは、怒らないめぇ」
 そぉっと指を包み込み、息をふきかけるように治癒を注いだ。傷が塞がって綺麗になる。


 情動を誘う音が鳴り続く。

「メーコと戦っているめぇ?」
 問いかける声は困り顔。メーコが手を引いて、メーコが座り込む。取り出したのは、栞。同じの、持ってるめぇ? 栞を揺らしてメーコは子守唄を紡いだ。

 元居た世界から召喚される際に持ち込んだしおりは、思い出がたくさん詰まっている。メーコは二人分の鐘を大切に鳴らした。

 ――それは、守るための音。

 怖い敵から、狼から。仲間を、羊を護るため。
「痛い思い、……たくさん、めぇ」
 あどけない瞳には、仲間への想いが燈っていた。
「皆さんのお役にたつために、メーコは頑張りますめぇ」
 でも、どうやって? ふわりと首を傾けて、メーコが鐘に首を振る。

「怒れないめぇ」
「傷つけられないめぇ」
 穏やかに、のびやかに、音紡ぎ。子守唄に変わっていく。

 温かな旋律、優しい歌声。
 眠りがふわふわ同時にいっしょに、訪れる。ゆったりゆったり、声がちいさく沈んで消えていく。二人分、ふぁさりと雪に転がる音がして。

「ゆめの中で、たたかう……めぇ」
 とろりとした眠気に巻かれた夜紺の瞳がうつらうつらと瞼を重くして、甘く舌足らずに言葉を紡ぐ。
「おんなじ夢をみるめぇ」

 メーコはほわほわとメーコを抱きしめて、冷たさと温かさが眠気に包まれ、気持ちよい。夢の世界へいざなわれ、二人いっしょに落ちていく。

 眠る世界は、すやすや、平穏――鐘の音は、もうしない。

成否

成功

MVP

鏡(p3p008705)

状態異常

フルール プリュニエ(p3p002501)[重傷]
夢語る李花
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)[重傷]
奈落の虹
メーコ・メープル(p3p008206)[重傷]
ふわふわめぇめぇ
松元 聖霊(p3p008208)[重傷]
それでも前へ
鏡(p3p008705)[重傷]
エア(p3p010085)[重傷]
白虹の少女

あとがき

 依頼お疲れ様でした。自分との戦いは、楽しんで頂けましたでしょうか。
 MVPはとてもイキイキとしていたあなたに。称号もお出ししますね。
 日々ご多忙な中、たいせつなお時間を割いてプレイングを綴ってくださり、誠にありがとうございました。

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