PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<覇竜侵食>食らうもの、食らい尽くすもの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――――――卵鞘、と言うらしい。
 覇竜の一角。巨大な常緑樹が乱立するその森の中に於いて、それら木々に植え付けられている泡のような真白の塊が、時と共に微かな脈動じみた震えを伴い始めていた。
 そして、それを護るモノたちの姿もまた。
『………………』
 カサカサ、と言う音を立ててながら森林を行き交うのは、全長10mもの巨大なカマキリたち。
 尤も、その数とは然程多くない。精々二体か三体程度のそれらは、自身らの卵の近くをうろつく以外はただ食って休むだけと言う日々を過ごしている。
 ……その動きが、ある日突如として切り替わった。
 自身らが仮の縄張りとしている森林の外に複眼を向ける巨大なカマキリたち。
 その果てに見えるのは、地平から昇る夜――否。そのようにすら見える、体長2mほどのアリたちの群れであった。
『……!!』
 そのアリたちが、このカマキリたちを、或いはその卵を目的としているのかは分からない。ひょっとしたらこの森はアリたちにとっての『通過点』でしかないのかもしれない。
 だが、アリたちの側に進路を変える意図は恐らく無く、それ故このまま行けばカマキリたちと出くわすことは恐らく必定。
 それを理解したからこそ、カマキリたちは翅を広げ、飛翔を始めた。
 自らの『子』が襲われるよりも早く、親として矢面に立つ責務を果たすために。


「……成る程」
『ローレット』の一角にて。情報屋の少女に呼び出された『竜剣』シラス(p3p004421)が歎息を吐いた。
「俺を……『俺達』を呼んだのは、アイツらに関する共闘経験が有ったから、ってことだな?」
「左様だ。此度、覇竜の集落を食い荒らさんと地表を大移動中のアダマンアントの群れ。貴様らにはその対処をしてもらう。
 そして、その交戦予測地点とされる場所には、貴様らが以前共闘したとされるモンスター……エクスマンティスも存在している。これを利用しない手はない」
 ――仮にも共に戦った相手に対して「利用」という言い方は少し気が咎める。
 自然と表情にそれを少しだけ浮かべた『炎の剣』朱華(p3p010458)に、しかし視線を合わせることも無く、情報屋は淡々と説明を続ける。
「状況の大枠は理解しているだろう? 嘗て亜竜集落イルナークを滅ぼした元凶、アダマンアントの群れは現時点も増え続けており、更にその数を活かして覇竜に存在する小集落を次々に『食料』とするべく進軍を開始している」
「被害を抑えるだけじゃなく、これ以上のアダマンアントの拡大を防ぐためにも妨害は必至、ってコトだろ?」
 言葉を返したのは『ラッキージュート』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)である。自身のコインを手の中で弄びながら呟いた彼に情報屋は然りと頷き、そうして詳細な内容の解説に移った。
「此度、貴様らに行ってもらう場所は遥か昔に放棄された小集落地点だ。現在は巨大な樹木がそびえる森となっている。
 件のモンスター達は貴様らが到着した時点で森林の外側でアダマンアントたちの接近に構えている。貴様らがそれに接近しても……少なくとも、即座に敵対とはいかんだろう」
「因みに、対処するアダマンアントたちの数は?」
「100体だが」
「………………。待った」
 頭を抱えながらストップをかけたのはシラスだった。
 当然だろう。前回彼らが対処した時、討伐したアダマンアントの数は17体。それも先に言ったエクスマンティスとの共闘もあっての結果である。
 対する情報屋自身も無理筋だと理解してはいるのだろう。一つ頷いた彼女は「案ずるな」と一言を置く。
「此度の戦い、貴様ら自身の手で彼奴等を殲滅する必要は無い」
「いや、エクス達の手を借りたってこれは流石に……」
「戦場となる森林地帯には、現在そいつ等の卵が植え付けられている。卵鞘単位で大体3個程度か」
 曰く、戦闘開始から数分程度が経った段階でそれらは徐々に孵化を始め、生まれたカマキリの子供たちは旺盛な食欲を早速周囲の生物に向けるだろう、と言うことである。
「子供とは言うがな、それとて大凡体長1m程度の大きさだ。それらが最大1000匹程度生まれては周囲の生き物に食らい付き始める。
 その最たる対象が何物であるかは、お前達にも良く分かっているだろう?」
 無論、アダマンアント達とてその数を前に無抵抗でいる筈も無い。
 卵が孵化した段階で特異運命座標達が離脱したとして、双方が喰い合った場合、恐らく幼体エクスマンティスの側が10か20程度生き残って終わりだろう、と言うのが情報屋の推測である。
「纏めるが、この依頼の成功条件は『エクスマンティスの卵が孵化するまでアダマンアントたちを食い止めること』だ。
 一応言っておくが、孵化が始まった段階で貴様らは一斉に離脱しろ。アダマンアント諸共奴らの栄養にされるぞ」
「……諸行無常だねえ」
 昨日の敵は今日の友とは言うが、その逆となり得る可能性にジュートが乾いた笑いを浮かべる。
 それに対して「何を今更」と言う顔を見せたのは情報屋の方だった。
「嘗て貴様らが共闘したように心を交わしたとて、彼奴等には彼奴等の生き方が有る。貴様らが意味も無くそれを歪めてやるな」
 ――それが、「この依頼を介して多くが死ぬであろう『子』らに対し、特異運命座標達が抱く罪悪感を軽くするため」の発言だと、理解する者はどれほどいただろうか。

GMコメント

 GMの田辺です。
 以下、シナリオ詳細。

●成功条件
・一定ターンまでの間、シナリオ参加者が一定数以上戦闘不能状態ではないこと

●場所
 覇竜領域内。放棄された小集落の外縁です。時間帯は昼。
 巨大な樹木が乱立する森林であり、最奥の樹には下記『エクスマンティス』達の卵が植え付けられております。
 鬱蒼と茂った森であるため、全長2mのアダマンアントは兎も角、参加者の皆さんの多くは恐らく隠れやすいものと思われます。奇襲や罠の設置も可能。
『エクスマンティス』達はその体長から森林内での戦闘は適していないため、森の外で『アダマンアント』達を引き付け戦闘を行う模様です。
 シナリオ開始時、『アダマンアント』達と森林(と『エクスマンティス』)までの距離は凡そ50mです。

●敵
『アダマンアント』
 全長2mの巨大なアリです。数は100体。覇竜のあらゆる小集落へと移動を行っている途中で本シナリオの戦場を通過する予定だった模様。
 本シナリオの個体は自身らの巣へと食糧を持ち帰る『運搬』能力に特化している為、純粋な戦闘能力は高くありません。
 が、その分移動力と防御力が並外れて高いため、「倒す」ことを目的として戦闘を行った場合、相当の労力を強いられることは想像に難くないでしょう。
 攻撃方法は近距離単体対象に噛みつく物理攻撃と、遠距離単体対象に蟻酸を飛ばす神秘攻撃の二種類。
 またこのエネミーには飛行能力こそ無いものの極めて平衡能力が高いため、戦場となる森林内の木々も足場として支障なく戦闘を行うことも可能です。

●その他
『エクスマンティス』
 戦場となる地点にて、上記『アダマンアント』と抗戦の構えを取っている巨大なカマキリ型のモンスターです。数は合計3体。
 鎌から放つ衝撃波、鎌を振り上げる事による敵への「怒り」付与、近距離からの超連撃「スラッシュストーム」を使用します。
 上に乗る事も可能でしょうが、それによる「利」を示せなければ普通に振り落とされます。
 が、本シナリオの優先参加者様に対してはそうした制限が在りません。『騎乗』こそ不可能ですが、必要と在れば足場として軽く飛行してくれることもあるでしょう。

『エクスマンティス(幼体)』
 戦場となる森林の奥部で、卵からの孵化を待っているエクスマンティスの幼体です。数は卵鞘にして3個。卵自体の数はおよそ1000程度。
 幼体とは言いますが、生まれた時点で人間の子供程度の大きさを持ち、尚且つ獰猛と言えるほどの食欲を発揮して自身の『親』以外のあらゆる生物に襲い掛かります。
 本シナリオではこのモンスターが生成されるまでの間、持ちこたえることが作戦目標となります。
 付け加えておきますと、仮に本シナリオで相当数の幼体が生き残ったとしても、『アダマンアント』達ほどの統率力を持たないこのモンスター達は自然と食糧の取り合い、乃至共食いを始めて数を損なうため、新たな脅威となる可能性は極めて低いと言っていいでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。



 それでは、ご参加をお待ちしております。

  • <覇竜侵食>食らうもの、食らい尽くすもの完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
シラス(p3p004421)
超える者
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
星穹(p3p008330)
約束の瓊盾
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)
ラッキージュート
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者
劉・紫琳(p3p010462)
未来を背負う者

リプレイ


「しょくもつれんさ、ですね!」
 ――広大な森林内で、聞こえた最初の声は『おかえりを言う為に』ニル(p3p009185)のものであった。
 覇竜領域が一つ、放棄された小集落に現在聳え立つ巨大な木々と……其処に植え付けられている、これまた巨大な卵鞘を遠目ながらも視認できる位置に於いて、ニルたちを始めとした特異運命座標達は現在、『侵入者』達に対する罠の設置に勤しんでいる。
「……まあ、そうさなぁ。前には100の大蟻後ろにゃ1000の大蟷螂の卵、虫嫌いなら諸手を挙げて逃げてくに違ぇねえな」
「流石にあの量の虫と戦うと考えると、些か寒気がするのは否定できませんが……依頼ですものね」
 子供さながらに明るい表情で言うニルに対して、苦笑交じりに返す『帰ってきた放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)と、若干の気鬱さを覗かせる『桜舞の暉盾』星穹(p3p008330)の二人。
 バクルドが言う通り、本依頼の目的は現在彼らの背後にある卵鞘の孵化まで『侵入者』ことアダマンアントの群れを食い止め、孵化後に現れるモンスター……エクスマンティスの幼体と食い争わせることにある。
「あれだけの量の卵、もし持ち帰られてしまえばどれだけのアダマンアントの養分となるか……」
 阻止は必定。そう呟く『紫晶銃の司書竜』劉・紫琳(p3p010462)もまた、他の面々と共に木々に切り込みを入れ、ワイヤートラップを仕掛けるなどの作業に注力している。
「それをエクスマンティス達と共に食い止めるって意味では、ひょっとしたら俺たちはニルの言う『食物連鎖』を歪めているのかもな」
「……そうね。それは、わかってる」
『竜剣』シラス(p3p004421)の言葉に対して、若干困惑したような表情で応えたのは『炎の剣』朱華(p3p010458)である。
 その心に去来するのは、出立前、情報屋の少女に言われた一つの言葉。

 ――彼奴等には彼奴等の生き方が有る。貴様らが意味も無くそれを歪めてやるな。

「わかってるわよ、その位」
 少しだけ、むくれたように呟く彼女の胸中は、過去に彼女同様、あのモンスター達と共闘した者にしか分からない。
 覇竜領域は過酷な環境である。その中で暮らすモンスター達も、此度相対する両者ともに己が生き残るために必死であることも。
 そうした、生き物としての自然な在り方に――けれど人の手を介入させることは、しかし、朱華には少しだけ受け入れづらかっただけ。
「……自然の摂理っつったってなァ、心が痛むのは変わりねぇ」
 そんな、朱華の心を読んだわけではなかろうが。
『幸運の女神を探せ』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)が静かに笑っていた。粗方の罠を仕込み終わった彼は、「だけどな」と一言を置いて、
「なのに妙に楽しくなってきやがる。『いい子ぶるのはそろそろ止めろ』って」
 理屈で感情が制御できるものかと、ジュートは言った。
 受け入れられなくても構うまい。ただ、己が役目を忘れるのでなければ。そう言外に語る彼に対して、朱華も漸く肩の力を少し抜いて。
「……いずれにせよ、決着をつけるのは彼等の役目。
 わたし達はただ、天秤が傾くのをほんの少し遅らせる、其れだけのこと」
『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が締めくくるように言葉を零したのは、自身が展開していたファミリアーを介して『それ』を察知したから。
 遅れて、人並み外れた五感を有する紫琳が。そしてそれから然程経たず、残る仲間たちも地響きのようなその音に、時が来たのだと理解する。
「お出ましか」
「ああ」
 仕込んだ罠の起動を待つ者。或いは森の外側へと向かう者。
 八名の特異運命座標達はその数を半々に分け、待ち伏せるものと迎え撃つものの班に分かれる。
「……よう」
 そうして、森の外縁に出た者たちの中。シラスが最初に声をかけたのは、10mを超す巨体を以て構えるモンスター達。
「また、会ったな」
 特異運命座標と、エクスマンティス。
 言葉を掛ける彼らの視線の向こうには――地平を黒く埋め尽くす、アダマンアントの群れが見え始めていた。


 彼我の距離、目測にして100m。未だ遠い。
 70m、未だ。
 40m――――――善し。
「動きます」
「それじゃあ、こっちも」
 呟く星穹。次いでジュートが。
 出だした『無幻星鞘』の刃で掌を傷つける。溢れた血が零れるよりも先に濃密な赤の霧と化してアダマンアントの側へと這い寄れば……その香を知覚した一群が彼女を目掛けて殺到する。
「それじゃあ、よろしく頼もうか!」
 エクスマンティスに飛び乗ったジュートが、取り出した幸運のコインを指ではじく。きぃんと言う音は一個の福音と化して、戦場に並ぶ仲間たちへと正しく加護を付与していき。
「力を借りるぜ、相棒……!!」
 声を上げたシラスもまた、喚声を以てアダマンアントの誘因を行う。
 距離にして20m。ここまでくれば敵方の個体の大きさとその数は恐怖すら寄越そうものだが、対する特異運命座標達に、エクスマンティスにその気配は微塵にも覗かない。
 ――蹂躙。その形容が当て嵌まる百の巨躯が襲い来る様に、シラスが歯を食いしばる。
 それは同様のスキルを介して敵を惹きつけた星穹にしても同じことだが、その「効果範囲」が違う。
 攻撃地点から周囲10mの対象のみを巻き込む星穹のそれは、即ち全長が2mのアダマンアントに対して想定未満の数のドローイングしかできないのに対して、シラスは自身を基点としてその倍の対象を巻き込むことが出来る。
 そして、その巨大な身体は単純にフィジカルの高さに直結しているのだ。事前に情報屋が「戦闘能力は高くない」と言った範疇の中に於いても。
「――――――!!」
 身体が拉ぐ。骨が軋み、全身の関節が撓みそうになる。
 継いだ呼気が、果たしてどれほどの効果を為そうものか。あと数秒、いや一秒ですら続けば潰れかねなかったその身体を。
『………………!』
「ええ、今回も共闘よ」
 彼が乗っているそれとは違うエクスマンティスが。それに騎乗する朱華が、其々の術技を以て救い出す。
 目にも止まらぬ斬撃の嵐、スラッシュストーム。其処に空いた『穴』を通して広範囲に炎を振りまく朱華の灼炎剣・烈火。
 耐久性に優れたアダマンアントの多数はそれに頽れることすら無いものの、明確に分かる程度のダメージを負ったと理解できる。それを確認した朱華が、笑いながら改めて言葉を掛けた。
「互いに互いを利用して、それぞれの為すべき事を為しましょ。貴方達もそれでいいわね?」
 ……答えは、自らの背に彼女を乗せた時点で分かりきっていようもの。
 戦闘はすべてが順調とはいかない。そもそも100の巨体すべてを四名と三体で食い止められるほど、彼らも状況を楽観視はしていない。
 その上で、出来る限りのことをやると言う意味では、冒険者たちはよくやっていた。
 エクスマンティスの戦闘スタイル……要は敵を怒りの状態異常で引き付けた後に先の連撃を叩きこむと言う方法を理解していたシラスたちは、ならばそのプロセスの短縮化――敵を状態異常で引き付ける役を自身らが分担することで、エクスマンティスへ攻撃に専従できるようにしたのだ。
 これは敵の足止めと言う点でも奏功しているが、問題はそれがどの程度続けられるか……続けられるだけの体力を残しておけるかという点である。
「『抜けた』奴らに構うな、後ろの味方が合図をくれる!
 ここが踏ん張りどころだ、諦めるな! 皆で生きて帰ろうぜッ!」
 叫び、支援するジュートの身体に然したる傷は見受けられない。
 それは、彼を時折庇っていた星穹の成果ともいえる。無論その分のダメージを蓄積した彼女は、戦闘が開始してからそれほど長い時間が経っていないにもかかわらず、パンドラの消費すら余儀なくされていたが。
「どうぞお構い無く、私は、盾ですからね」
 荒いだ呼吸の狭間。微かに臍を噛んだジュートに、独り言ちるかのような言葉を零す星穹。
 敵が戦闘能力に優れない個体と言えど、それが百体にもなって襲いかかれば少なからぬダメージは必須だ。それに加え、彼ら共闘班はこの状況に於ける回復手段にも乏しい。
 それでも尚、敵方を止めると言うからには……文字通り「命懸け」になって臨む必要が出てくるし、今現在、特異運命座標らは正しくそれを実行している。
「さて……どうなることでしょうね」
 それをして、止められぬ敵は必ず出てくる。ならば。
「其方は、皆さんにお任せしましょう」
 星鞘から二刀を出だす星穹が呟き、未だ眼前に居座る多くのアダマンアントへと襲い掛かる。
 信じ、時を待つだけ。それが彼女らが自らに定めた役目であるのならば、と。


 そして、その後方地点。
 戦況は正しく『激戦』と言うに相応しい状況を形成していた。
「ど派手にやったって構いやしねえだろと、言いはしたがな……!!」
 苦笑と呆れ、その間のような表情を浮かべたバクルドの仕掛けた罠――精霊爆弾は確かに奏功したが、その足止めが有効であった時間は長いとは言い切れなかった。
 元々罠にかけるアダマンアント自体の身体が大きかったこともあって、木々を倒して押しつぶそうとしたところでどうしても隙間が生まれてしまう。その間をバクルドが懸念した通り他の個体が潜り抜けてくることで、結果として罠に引っかかった個体は「敵の群体の中の最前列」に限定されてしまっていた。
 尤も、それとて敵方の十数体が暫く身動きを取れなくなったことは確かであり……何より。
「『戦場』は、構築できましたね」
「ああ、合図を飛ばす!」
 紫琳の言葉に頷いたバクルドが、巨大クラッカーを鳴らしてエクスマンティスとの共闘班に向けての誘導を行う。
 罠を構えて待ち伏せを行っていた彼らの最大の目論見は、木々が乱立するこの地点を「エクスマンティスが戦いやすいだけの広さを確保する」ようにすることだった。
 当然、最前線で敵を食い止めている彼らが此方に来ると言うことは、その時点で足止めしている個体も纏めて釣られてくることとなる。そうすれば後は純粋な総力戦だ。
「……此れが仮に自然の営みだとして」
 それでも、特異運命座標達に迷いはない。
「其れでも、此の地に住まう人々を、根付いた営みを踏みにじらせる訳にはいきませんから」
 故に、総てを切り刻む。そう言祝いだアッシュの気糸が『Mistarille.』を基点に展開される。
 そうして発された糸の「網目」は、更に色濃く。
「卵を守ること。生まれてくるものを守ること」
 ――「ニルは、守るの、がんばりますね」。
 闘う前、そう言った秘宝種の幼子の糸が、アッシュのそれに重なった。
 糸切傀儡、二摘。敵は倒れこそしないものの、畳みかける様な状態異常の連撃は確かにその足取りを重く、遅くさせる。
 それでも、縋らんとする敵は少なくない。それを水際で食い止めるのが紫琳の双手に携えられた対物ライフルだった。
「重力フィールド展開、アメイズ・グラヴィティ・ヴァレット――――――!」
 一点に打ち込んだ銃弾から、クレイモア地雷のように紫水晶のような破片が放たれる。それを浴びたアダマンアントたちの全てが吹き飛んだ後、その身を紫晶の重力に縫い付けられていた。
 その身を挺して敵を食い止める共闘班の面々とは違い、罠と遠距離からの状態異常の畳みかけで足止めを行う待ち伏せ班は体力的なリソース減は極めて少ない。
 が、その分「完全な足止め」が出来ないと言うのが欠点である。
 事前情報にある通り、移動能力が優れているというアダマンアントたちの動きは糸切傀儡の状態異常を受けた後でもその歩みを大きく抑えることが出来ていない。紫琳の紫晶重力弾を介してなお、さながら撤退戦のようにじりじりと距離を詰められていく状況だ。
 そしてそれとて、紫琳の気力はアッシュやニルのような充填能力を備えていない。時間経過と共に追い詰められていく彼らの最中、けれどバクルドの猛攻は僅かにも衰えない。
「全部倒すのを目指すこたぁねえ! 素通りしようとしてる蟻共に通行料をせしめてやれ!」
 烈火業炎撃、プラチナムインベルタ、DD。
 元々が「倒すこと」へのビルドを主としたバクルドのスタイルは、今回のような防御特化の敵、依頼に対しては相性が悪い。それでも彼は止まろうとせず、声を高らかに上げてはアダマンアントたちへの攻手を止めようとしない。
 耐えること。そして信じること。それこそが肝要だと彼は叫び。ならば何を信じるのかと言えば。
「――――――こっちだぜ、相棒!」
 それは即ち、前線から帰ってきた共闘班に他ならず。
 事前に「騎乗は難しい」とされていたエクスマンティス達に、しかし乗り込んだ状態で待ち伏せ班の元へと素早く辿り着けたシラスたちが、その場で再びの叫声を上げれば、それに縋りつくように群がる巨大な蟻たち。
 彼を始めとして、共闘班の面々はジュートを除いてほぼ全員が満身創痍だった。すかさずニルがコーパス・C・キャロルを謳いその傷を幾許か癒し、戦場は後僅かの猶予を得ることを可能とする。
 ――そして、その微かな猶予こそが、決め手であった。
「……生まれる」
 言葉は、卵鞘の傍にファミリアーを配置していたニルと、その卵を破る音を聞き遂げた紫琳、両者のもの。
「撤退を! 急いで!」
 言葉よりも、早く。
 それまで彼らが構築していた戦線の背後から、無数の幼いカマキリたちが走り寄ってきていた。


 ――それを目視した後の、特異運命座標達の行動は早かった。
「とっととずらかるぞ!流石にあのサイズの蟷螂に巻き込まれて食われたくはねえだろ!」
 バクルドがタイニーワイバーンを呼び寄せ、血塗れの星穹の腕を掴んで飛翔する。
「頑張ってください、ハイペリオン様。のんびりしているとわたし達共々カマキリのご飯にされてしまいます……」
 アッシュは上空で待機させていた量産型ハイペリオン様の背に乗って、同様に飛び上がった。
「巻き込まれたら、大変、なのです」
「利用するようで心苦しいですが……あれに巻き込まれたくはありませんね」
 ニルは陸鮫に乗ってモンスター達の居ない地点を巧妙に潜り抜けて去り、ジュート、朱華、紫琳は持ち前の翼で空へと飛行する。
 ならば、シラスは。
「………………っ?」
 それは、果たして感謝の意図か。
 アダマンアントとエクスマンティスの幼体。双方に巻き込まれかけていた彼を、それまで乗っていたエクスマンティスが翅をはためかせることでどうにか戦線の離脱に成功する。
 ――数分後。森の外縁に降りたったエクスマンティスの背から降りたシラスが何かを言うよりも早く、モンスターは再び元の戦場目掛けて飛び立っていった。
「……互いを利用しましょうって、そう言ったのに」
 思わず、苦笑を浮かべたのは朱華だった。
「それじゃあ寂しかったんだろ? アイツらだって」
 何時か。『最初』に彼らと共闘した時に言った台詞を、今度は確信を込めてジュートが返す。
「生き物の世界は弱肉強食。此処で生き残れたとて、明日は解りませんから」
 星穹の言葉は、本来ここで死すであろうアダマンアント達と、生き残ったエクスマンティスの幼体へと向けられた無常のそれであるはずだった。
 けれど、今その言葉は違う意味を持っている。「いつ来るか分からない別れだからこそ、今伝えられる思いを行動に載せた」エクスマンティスたちのそれへと。
「……これっきりでも、また会うにしても」
 重傷を負ったシラスが、そうして飛び去って行くエクスマンティスの姿を見送りつつ、届く筈も無い言葉を捧げる。
「一先ずは、またな。相棒」
 最初の邂逅から言い続けた『相棒』を、もう一度だけ。

成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
超える者

状態異常

シラス(p3p004421)[重傷]
超える者
星穹(p3p008330)[重傷]
約束の瓊盾
煉・朱華(p3p010458)[重傷]
未来を背負う者

あとがき

その戦いの中、最後まで『相棒』の為に戦い続けたシラス(p3p004421)様にMVPを。
同様に、その存在に友誼を寄せていた朱華(p3p010458)様に称号『翅竜連理』を付与致します。
ご参加、有難うございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM