PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<覇竜侵食>刃軋る音、祈りの朱

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「――アダマンアントたちの襲撃!?」
 伝え聞いた言葉にルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)は目をまん丸にさせ、アルテミア・フィルティス(p3p001981)は「まずいわね」と眉間に皺を寄せた。
 アダマンアント。それは覇竜領域デザストルに生息するモンスターの一種である。巨大なアリといえばイメージはつきやすいだろうか。
 彼らはここ最近、統率された行動で以て三大集落に匹敵する規模であったイルナークを壊滅へと追いやった。アダマンアントたちを統率するアダマンアントクイーンは、こちらの動きよりもはるかに早く行動を開始し、イルナークだけでなくデザストルに住まうモンスターや亜竜までも襲撃し始めていた。
 しかし、これまでデザストルを生き抜いてきたモノたちだ。そう易々と圧されないことに気付いたか。アダマンアントと彼らを率いるクイーンは、その標的を変えたのである。
 即ち、イルナークよりも抵抗が少なく、デザストルに住まうモンスターたちよりも弱く。そういった小集落の者たちを狙えば、より事を進めやすくなるということだ。
「アダマンアントたちは抵抗する者を殺すのではなく、攫っているそうだ」
「攫って……? わざわざ生け捕りにしているということ?」
 『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)の言葉を聞いてアルテミアは訝しんだ。抵抗する者をねじ伏せるにしても、こう言ってしまってはなんだが――力に任せて、殺してしまった方が後も含めて楽だろうに。
「奴らは近頃、モンスターや亜竜を狩って回っていたと聞くが」
 ふと確認のように告げたフレイムタンに2人は頷いた。彼女たちもまた、アダマンアントに追い回されるスレイプニールと一時共闘を果たし、倒した事がある。しかしそんな間にもどこかではモンスターがアダマンアントに狩られていたはずだ。彼らは狩ったモノを糧として勢力を拡大し、ドラゴニアたちへと魔の手を伸ばしている。
「……ルシア、嫌な想像をしてしまったのでしてー……」
 顔を引きつらせ、ルシアがフレイムタンを見上げる。いいやそんなまさか。けれど事実、イルナークは滅ぼされた。
「――攫われている人たちは……食糧、です?」
 元々さして強くもないモノなのだ。邪魔をする者ごと食糧として持ち帰ってしまえば良いと。その抵抗を封じ込めることは赤子の手を捻るくらい楽なものなのかもしれない。
「それなら尚更、急いで向かわないと……!」
「貴殿らにはより脅威となるアダマンアントを相手取ってほしい。集落には他のイレギュラーズも向かう手はずだ」
 アダマンアントとの戦闘経験があるからこそというその相手は、アダマンアントの中でも上位種にあたり、また戦闘種と呼ばれるモノである。その姿は普通のアダマンアントと酷似したものからかけ離れたものまで様々であるようだが、今回は後者であるという。
「我も力を貸そう。手がいくらあっても足りまいよ」
 何せアダマンアントたちの大侵攻。しかも戦闘種が紛れ込んでいるとあれば、厄介な事この上ないだろうから。



 キィ、キィ、キィ。
 鋭利なものが擦れるな音に息を殺す。あれに見つかってはいけないと、かあさまが言っていた。
 そのかあさまはと言えば、子を狭い場所へ押し込めてどこかへ行ってしまった。それは果たして子から敵の目を欺くための囮となったのか、それとも子を餌にして逃げてしまったのか。けれど子は母がいつか迎えに来てくれると、心の底から信じていた。
 そう、だから、ここで絶対見つかっちゃいけないんだ。
 身を縮めて、呼吸を止めて。酸欠に頭がくらくらするけれど、見つからなければ、命があるなら、多少の苦しさだって大丈夫。
 そうして幾ばくかの時が過ぎたと思われ――唐突に、満ちる静寂に気づいた。何の音も聞こえない。近所のおじさんが逃げろと叫ぶ声も、物が破壊される音も、刃同士を擦ったようなあの音も。
(終わった?)
 小さく、長く、息を吐いて。それからゆっくりと大きく息を吸う。肺が痛い。痛いというのは生きている証拠だ。
 僕はまだ、生きて――。

 ――がしっと音がしたのは、一体何処だっただろう。

「……ぁ、」
 吐息交じりの声にキィキィという鳴き声が被る。痛い。痛い。頭を鷲掴みにする足を両手でつかむけれど、びくともしない。たらりと朱が地面へ零れ落ちた。
(かあさん、ごめん、ごめんなさい)
 いるかもわからない神に縋る。だって他に縋れるものなんてないんだ。

 おねがい、神様。
 もう一度、かあさんに会いたいよ――。

GMコメント

●成功条件
 エネミーの撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気をつけてください。

●フィールド
 小集落『ララスラ』と呼ばれる場所ですが、既に荒らされた後です。天然洞窟の中に出来た集落で、やや薄暗いです。
 住民の一部は掴まり、他の一部は逃げ、また残りの者は未だ集落のどこかに隠れていると思われます。
 壊された住居等が障害物となるでしょう。

●エネミー
・アダマンアント・クラック
 アダマンアントの上位種であり戦闘種です。研ぎ澄まされた刃で作られたような体となっており、歯でさえも鋭利になっていることからキィキィと甲高い音が鳴ります。言葉を解すことはできません。
 そこそこに知能があるようで、集落到着当初は気配を殺している事でしょう。皆様の前には荒れた集落の姿ばかりとなります。
 戦闘能力としては攻撃に特化しており、【反】【出血系統】【乱れ系統】などが想定されます。体の全てを使って何もかもを切り刻み、戦意喪失させたところで酸とは異なるどろりとした粘液に捕らえているようです。
 反応・EXAが特に優れている他、攻勢BS回復の技を持っているようです。他のステータスも侮れない為、十分に注意してください。また、体の一部をブーメランのように投擲することが可能な様です。
 現在、通常種となるアダマンアントたちのほとんどは食糧を運んでいるらしく、時間をかければかけるほどより増援の可能性が高まります。

・アダマンアント×2
 アダマンアント・クラックに付き従う通常種。巨大なアリです。その身はとても硬い外骨格に覆われています。初期は2体ですが、時間経過で増える可能性があります。
 彼らは強靭な顎で噛みつく他、酸を吐き出して溶かすような攻撃を繰り出してきます。また、食糧を確保するため、蜘蛛のような粘性の高い糸を吐き出すことも可能です。
 集落到着時、比較的彼らは見つかりやすいでしょう。但し、攻撃しなければ攻撃してきません。彼らにとって大切なのは食糧を確保する事です。攻撃しない場合、集落がますます荒らされ、隠れている住民が捕らえられることになります。また、タイミングによっては囚われた住民を盾にされた状態で戦うことになるでしょう。

●友軍
・『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)
 グリムアザースの青年。物理アタッカーでそこそこ戦えます。
 アダマンアントのことは報告書づてに聞いた限りで、実際に見るのは初めてです。
 また、戦闘後は集落の住民を救助に回ります。

●ご挨拶
 愁と申します。
 住民たちを助けるにも、まずは凶悪な戦闘種を退けてからとなるようです。
 よろしくお願い致します。

  • <覇竜侵食>刃軋る音、祈りの朱Lv:30以上完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年05月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
風花(p3p010364)
双名弓手

リプレイ


 小集落『ララスラ』。天然洞窟の中にできた集落は空を舞う亜竜に見つかりにくく、また食料などを保管しておくのに適した冷暗所も多くあったのだという。
 その天然洞窟へたどり着いたイレギュラーズたちは、小さく息をのんだ。『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)が信じたくない、というように首を振る。
「こんな……なんて、酷い」
 吐息のようなその呟きが指していたのは、アダマンアントたちによって蹂躙された住居『だったもの』だった。内部にあったのだろう家具は破壊され、その破片が道に転がっている。あそこにこすれたような黒い跡は……血痕、だろうか。
 しかしそのような惨状だというのに、ドラゴニアは1人として――遺体でさえも――見つからない。同時にここを襲ったとみられるアダマンアントの姿もないが、この集落を出たという情報もなかったからどこかに潜んでいるのだろう。
「まだ残っている者がいるはずだ」
「そう、だよね……うん。まだ捕まってない人もいる」
 『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)の言葉に頷くメルナ。まだ人がいるというのなら、これ以上食糧として奪わせるわけにはいかない。
「……物音が聞こえます。気を付けて」
 『忠義の剣』ルーキス・ファウン(p3p008870)の表情に険がにじむ。話し声ではない。潜むような、小さな音。それが果たして住民の隠れている音なのか、アダマンアントたちが隠れている音なのかまでは判断がつかない、というのが正直なところだ。
(こうしている間にも集落の住民たちが……)
 怪我をしていれば失血死してしまうかもしれないし、そうでなくてもいつ見つかるとも限らない。『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は小さく歯噛みした。
(モンスターたちへの襲撃を阻止してきたけれど、かえって標的を小集落へ返させてしまったということ……?)
 だとすれば、ここで奪われた命は――さらわれた命は、アルテミアたちのせいとでも言うのか。
(多くはない……けれど、少なくもない。集落の住民が、助けを求めてる)
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の脳内に響き渡るいくつもの警鐘。助けて、助けて、助けて。この集落で誰もが明日を望んでいる。
「アダマンアントの大侵攻、か……」
「……クイーンの頭脳もそうですが、一体いつから準備されていたのでしょう」
 索敵の間、ふとこぼした風花(p3p010364)の言葉にイズマやアルテミアははっと視線を向けた。
 突発的に、しかも一度に起こされた多数の襲撃。もしかしたら、もっと前から『第二の案』として準備されていたのかもしれない。イレギュラーズでなくとも、アダマンアントたちを阻む勢力が存在した場合の手として。
 しかしこれほどに大規模な行動を取ってしまったら、アダマンアントたちにとってもリスクは存在するはずだ。全体の戦略は不透明だが、外へ出ている以上巣の戦力は手薄なはず。加えて、アダマンアントたちが食糧を運んでいけば自ずと巣の位置も特定されよう。
「ともあれ、急ぐ必要があります」
 敵も救助対象も、この薄暗闇で息を殺している。敵をいち早く探さねばと目を凝らす『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)に、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は位置を看破して叫んだ。
「そこだ! 住居の裏手にいるぞ!」
 天然洞窟の天井近くまで飛び上がっていたアルテミアがすぐさま動く。
(悔やんでいても仕方がないわ)
 今できることは1人でも多くを救うこと。これ以上被害を出さないこと。
「この手が届く限り……絶対に守って見せるっ!!」
 強烈な一手がアルテミアから仕掛けられ、戦闘の気配にもう一体のアダマンアントも身を晒す。しかし肝心の上位種であるアダマンアント・クラックは未だその姿を見せない。
(どこにいる……!?)
 後方から援護しながらも視線を移すゼフィラ。戦闘種でもあるというのなら、必ずいるはずだ。アダマンアント・クラックが戦って邪魔者を足止めした方が、彼らの食糧探しは捗るだろうから。
(でも、どうして襲うことに拘ってるのですよ?)
 破式魔砲を撃ち放つ『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)。以前も亜竜やモンスターを襲っていたが、止めても別の方法で食糧を得るのではなく、その対象を変えるだけ。もっと生産性のある方法があるだろうに、と思わずにはいられない。
 しかも今になってアダマンアントたちが変異・進化を遂げているというのもなんだかきな臭い、と思わずにいられないルシア。しかし考えてばかりもいられない。
「もう一発なのですよ! ルシアの魔砲を前にして、硬さが意味をなさないというのは今までの戦いで証明済みなのです!」
 洞窟に響き渡る破壊音。容赦のかけらもない一撃が愛らしい少女から放たれるというのはなんとも言えぬギャップである。
 後から出て来たアダマンアントを引きつけたリースリットはすぅ、と息を吸い込む。戦闘音に何事かと出て来てしまう者もいるかもしれないが、それは困る。
「アダマンアントを全て排除します。まだ、私たちが救助に向かうまでは隠れていてください!」
 小集落というだけあって、洞窟もそこまで巨大で複雑な作りではなさそうだ。残っている住民へ届いたことを祈りながら、リースリットは引きつけたアダマンアントを住居などから離すように移動し始める。
(この状況になってもまだ出てこない……ってことは、まだ様子見してるのかな)
 ギガクラッシュを放ちながら視線を巡らせるメルナ。奇襲を防ぎたいところだが、薄暗い洞窟の中ではそれも限度があるだろう。できればある程度目星をつけておきたい。判断材料はといえば、甲高い音と仲間の索敵になるだろうか。
 しかし出てこない以上、できることは急襲への注意と目の前のアダマンアントを倒すことのみ。風花は魔弓礼装でアダマンアントたちをしかと定める。
「私は狩人、弓矢の礼装は、この地の生物を貫くためのもの……!」
 何者にも、ヒトを害させてなるものか。
 散る花びらと共に魔術で作られた矢がアダマンアントへ雷撃と共に突き刺さる。ルーキスはすかさず1体の懐へと入り込むと、急所目掛けて三撃を展開した。若干よろめいたように見え、手応えもしっかりとそこにあった。しかしアダマンアントはゆらりと体制を立て直すと牙を剥く。
「っ……!」
 強靭な顎で噛みつかれればひとたまりもないだろう。あわやのところで直撃を免れたルーキスは刀を構え直す。
「――いたぞ、アダマンアント・クラックだ!」
 索敵範囲を広げていたイズマの声が響く。ゼフィラは広角を上げた。
「ここからが本格的な反撃だ。私がいる以上、先手は取らせないよ!」
 ゼフィラの瞬発力に足並みを揃える仲間たち。アルテミアは見つかったアダマンアント・クラックへ素早く視線を走らせたが、幸いと言うべきか人質の姿はない。
(今まで息を潜めていたなら、住民を抱えている可能性もあったけれど……よかったわ)
 だが、安堵するにはまだ早い。むしろゼフィラの言う通り『ここから』なのだ。
「侵略しようとしてる内はあげられるものは何も無いのでして! 手ぶらで帰るのですよ!」
 ここで食糧となる住民を持ち帰らせたなら、今度は『村を襲えば食糧が手に入る』と学んでしまうことになる。住民は食糧ではないのだ。
 先にアダマンアントたちを倒すべく、破式魔砲が洞窟の中を横切っていく。その間に攻撃を浴びせるのは風花とルーキスだ。後方からの攻撃でアダマンアント・クラックが体の向きを変えるのに合わせ、キィ、キィ、と刃の軋る不快な音が響く。
「悪いな、自由にさせる訳にはいかないんだ」
 イズマが簡易封印を放つ。キィ、と刃の音が響いて、
「っ……!」
 自身から溢れる朱に瞠目した。続け様に放たれる煌めきを咄嗟に避ければ、髪の1、2本が宙に舞う。
(1人で応戦し続けるのは、まずいな)
 いつまで持つか。しかし持たせなければ戦線崩壊しかねない。イズマはルーキスと引きつけ役を交代しながら、苛烈なビートで敵の自由を奪っていく。
「投擲技が来ます、気をつけて!」
 ルーキスの言葉で横っ飛びに避け、返ってくる刃を再び躱す。なんとしても仲間が来るまで耐えなければ。
「お待たせしました」
 ダイヤモンドダストがアダマンアント・クラックの体を包み込む。リースリットに続き、メルナの剣身が纏う蒼炎が氷ごと敵を焼き払った。
(外殻は固そう。――でも!)
 どこかに弱点があるはずだとメルナは振り向きざま斬り返す。
 まだ増援のアダマンアントたちは戻ってこない。畳みかけるなら今のうちだとゼフィラに合わせイレギュラーズたちの猛攻と、アダマンアント・クラックの刃軋りが洞窟内に響き渡る。
「出来るだけ私の近くにいておくれよ?」
 ゼフィラが力を与えられるのは自身の周囲にいる者たち。離れてしまっては与えられるものも与えられないのだと。
 イズマはその傍らから斬撃を放ち、黒く大きな影が顎を開けてアダマンアント・クラックへ襲いかかる。影に飲み込まれたかと思われたが、次の瞬間内側から影を切り裂き、敵が姿を現す。その姿は疲弊しているように見えなくもないが、しかし想定よりもずっと余力を残しているだろう。
 キィン、と一際大きな音を響かせて、敵は刃の手を構える。ルーキスはゼフィラの回復を受けながらも傷だらけで笑みを浮かべた。
「斬り合い上等…… どちらの得物がより優れているか、いざ勝負です!」
 向かってくる刃を躱し、側面から攻撃を仕掛けていくルーキス。すぐ横でべしゃりと酸が吐き出されるが、防具で飛沫を素早く払う。
(例え戦闘種であっても、限界は来るはず)
 風の精霊術で畳みかけるリースリット。まだいける。撃破への道は見えるのだと信じている――その横合いから、新たな影が出現する。
「増援……!」
 アダマンアントたちが戻って来たのだ。ダメージを負っていない彼らも戦いに混じれば、こちらの敗戦は濃厚か。
「させないわ!」
 そこへ躍り出たアルテミアが鍔鳴りの音色を響かせる。小さく、けれど確かに空気を震わせる音。それらがアダマンアントたちを引きつける。
(絶対に通さない……!)
 一方のアダマンアント・クラックも、メルナが敵前へ滑り込んで「今度は私が相手だよ!」と注意を引きつける。すかさずゼフィラがルーキスを回復した。
「助かります」
「今のうちに倒しましょう……!」
 風花の魔術礼装が力を溜め、強固な外骨格へ向けて放たれる。
 その威力か、それともイレギュラーズの止まない攻勢にか――アダマンアント・クラックが徐に両手の刃を擦り合わせた。一際大きな不協和音に顔を顰めれば、その間にアダマンアントの1体が動き出す。
「待ちなさい……!」
 追いかけようとしたアルテミアだが、残っていたアダマンアントたちが逆に足止めをするが如く攻勢に出る。その間にアルテミアから離れていったアダマンアントは、繭のようなものを抱えて出口へ向かい出した。
(あれは……あの『中身』は……!)
 ルシアは歯噛みした。あれはきっと――住民を捕らえた檻なのだ。
 ここで1人でも欠ければこの戦線はひっくり返されかねない。故に深追いは難しい。ルシアは身に受けた痛みも気にせず、破式魔砲の術式を続け様に展開させる。
「これ以上好きにはさせないのです!」
 できる限り多く照射して、少しでも早く倒す。そして今も助けを求める者たちを早く安心させなければ。
「だから、だから……! そのための道を開けてもらうのですよ!!」
 洞窟を照らすような魔砲がアダマンアントたちを焼く。それなりの被害があったものの、アダマンアント・クラックは魔砲に焼かれ、その刃をイレギュラーズたちに叩き折られることでようやくその息を止めたのだった。

 イレギュラーズたちは周囲の安全を確認した後、さらなる増援に警戒しつつも捜索と救助を開始した。誰もが疲弊した状態ではあったものの、ここで投げ出すわけにはいかない。
「誰かいますか?」
 助けに来たのだとリースリットが半壊した家屋へ顔を覗かせれば、ややあってガコンと床の一部が持ち上がる。頬に土をつけた子供が恐る恐るこちらを見て、それから妹もいるのだと告げた。
「助けに来たよ」
 イズマも家屋を回り、足のおぼつかない者がいれば手を貸してやる。そこへ軽傷だった住民も歩み寄り、手伝えることはないかと問うた。
「貴殿はあまり、無理をしない方が良いのではないか」
「いえ……気がかりなままでは、休むにも休めませんから」
 気遣うフレイムタンに首を振って、ルーキスはよく聞こえる耳で存命の者を探す。一人でも多くの者を救いたい。救えなかった者はせめて、弔ってやりたい――それが終わった時、ようやく心を落ち着かせることができるだろうから。
 そんな彼らから見えないように、風花はアダマンアント・クラックの遺体を物陰へと引きずっていった。もう動かないと言っても、住民達からすれば同胞を拐っていったモンスターの仲間であり、より危険なモノだっただろう。見ないに越したことはない。
「さて、と」
 風花は遺体を見下ろす。あまり見ないタイプゆえに、解体すれば何かわかるかもしれない。なれば、どこから始めようか?
 しかしそんな一幕は殆どの人物が知る由もなく。ゼフィラは保護された者たちを集落の広場――最初にリースリットがアダマンアントを相手していた場所――にて治療を行う。
「待たせて済まなかったね。もう大丈夫だ」
 ありがとうと涙ながらに礼を言われるたび、胸の奥が小さく痛むのは守れなかった者がいるからか。
 この集落で保護できた者は、規模からすればあまりに少なすぎた。当人たちからすればイルナークのように滅亡するしかないと絶望していたのだから、少しでも救えたことはイレギュラーズの力以外の何物でもないのだが――それでも、思わずにはいられない。

 アダマンアントたちが持っていった、繭に囚われた者を1人でも多く解放できていたら――と。

成否

成功

MVP

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女

状態異常

アルテミア・フィルティス(p3p001981)[重傷]
銀青の戦乙女
ルーキス・ファウン(p3p008870)[重傷]
蒼光双閃

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 集落に平穏は訪れましたが、数名は連れ去られてしまったようです……。

 またのご縁をお待ちしております。

PAGETOPPAGEBOTTOM