シナリオ詳細
もっとまともに生きるためのすべを、誰か教えて
オープニング
●貧富の差
貴族階級がいると同時に、貧しい人たちも存在するのが世の常だ。私は路地裏に捨てられて、物乞いをして育った。罵倒する人もいれば、汚物を見るような目で見る人もいた。暴力をふるう人もいた。
たまに親切で物好きな人が暮れる食べ物を、同じ境遇の孤児と分け合って生きてきた。ドブネズミみたいに薄汚れていて、誰にも必要とされない、いなくなれば病気の運び手が少し減る。そんな風に自分を喩える人生だった。
生きていくために体を売った。生きていくために物を盗んだ。人を殺してはいないけれど善認か悪人かでいえば立派に悪人だろう。どうしてそこまでして生きていたいのかがわからない。わからないけれど死ぬのは嫌だったし、飢えたら死ぬから食べるために悪事を働いた。
青空の下を歩くのは似合わないな、と思う。同時に胸を張って青空の下を歩きたいな、と願う。きっと叶わない願いだけれど。
教養がない。後ろ盾がない。生計を成り立たせるために身ぎれいにして職を得るためのつてや清潔を保つための金銭がない。この先ずっと、やっぱりドブネズミはドブネズミのままなのかもしれない。それが悔しい。たらればを語ればきりがないけれどもっと真っ当な生き方をしたい。
腐敗した貴族のような傲慢さはいらない。そんな貴族にこびへつらう生活なんてまっぴらごめんだ。
私はただ、私自身の心に恥じない生き方をしたい。叶うならば、一緒に十数年を生きてきた仲間と一緒に。
●社会復帰を目指す孤児たちへの応援歌
「血なまぐさい戦いの話ではないのですが、切羽詰まったぐあいでいえばこちらもなかなかでして。貧民街の孤児の皆さんが、盗みや売春をやめてまっとうに生きたい、けれど盗みをしてきたから町の人からは信用されていない。橋渡しになってほしいそうなんです」
盗人をしていたという過去は自慢できないが追手から逃げるために足は俊敏、過酷な環境を身一つで生きてきたからきちんと栄養を取らせることができればそこらの一般市民よりずっと丈夫な免疫力。
なにより生きることに懸命である姿に心を打たれたのだと職員は語る。
「町の人たちからの心証は、さっき言った通り決して良くありません。むしろ非常に悪い。貴族たちからも害悪だと目を付けられています。報酬もほとんどないに等しい。それでも、まっとうに生きたいという願いを否定してしまったら。それは人でなしという存在になってしまうと思うのです。だから、どうか助力を。
みなさんであれば過去の活躍から市民からある程度の信頼を受けているでしょう。読み書きもできない子供たちではありますが……そうですね、足の速さを生かして配達人や、スラムの複雑な地理を覚えた記憶力の良さをいかしてあげれば、きっと少しずつ生活の基盤を築いていけると思うんです。
浮浪児の数は六人。全員十代前半から半ば。薄汚れてはいますが磨けば光る少女がリーダーになって依頼を持ち込みましたね。男女三人ずつです。
テーブルマナーや文字を教えるには時間が足りなすぎるので、とりあえず体を清潔にした後商家や運送業の下働きへの口ぎきをお願いしたく思います。
まぁ、説得できるかどうかは皆さんの口のうまさ次第ですが……もっとひねくれた正確に育っていてもおかしくないのに、暴力や罵声を与えた人たちを恨まず、食料やわずかな金銭をめぐんでくれた人たちへの感謝を忘れない、根っこの根っこは善良な子供たちです。
だからこそ、恵んでくれた相手と、恵まれる程度には幸せな自分に恥じずに行きたいと奮起することができた。そのお手伝いをね、してほしいんですよ」
冒険者の仕事ではないんですけど、広義で見れば人助けでしょう?
そういって職員は浮浪児たちとの待ち合わせの場所と時間を告げたのだった。
- もっとまともに生きるためのすべを、誰か教えて完了
- GM名秋月雅哉
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2018年08月04日 21時45分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●どうか健やかな生き方を
悪事から足を洗ってまっとうに生きたい。幻想の貧民街の孤児たちがそんな依頼を持ってきた後、その依頼を受けた八人は待ち合わせの時間までに孤児たちに向いている仕事や教えるべきことなどを話し合った。
そして待ち合わせ当日。時間に遅れずにやってきた、というか時間より前に来ていた六人にまずはこちらが彼らをまともに扱わないと、と特異運命座標』ロゼ(p3p006323)が真っ先に声をかける。
「ロゼだよ、初めまして。君たちのプロデュースを担当させてもらう。よろしく」
「今回は依頼を受けてくれてありがとう……じゃない。ありがとうございます。私はテレサ。みんなの名前のことはしってる……しってますか?」
「目上の方、または仕事上でお世話になる外部の方やお客様へ対する敬語は大事ですよ。接客業なら特に必要になってきます。今日一日でどれくらい自然な敬語になるかはわかりませんが頑張って覚えましょう」
覚えておいて損はないですよ、と緊張でがちがちに語真ている様子の六人に 『誓いは輝く剣に』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)が微笑む。
彼女は幻想には珍しく選民思想を持たない家の教育を受けており敬語の大切さなどはよくわかっているタイプだった。逆に恵まれた家で育ったため盗みや売春をしなければ生きられなかった孤児たちの苦労をどこまで理解できるか、と少し心配していたが自分にできることをなすだけだとも心に定めている。
(弱者は強者の糧になる。努力は必ずしも報われない。でも。まぁ。報われてほしい努力はあるス)
内心の思いを言葉にせず、口に出すのは。
「ま、僕たちが八人がかりであれこれ力を尽くしまスんで。頼りにしてもらって構わないってことっすよ」
『双色の血玉髄』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)のそんな一言。
ヴェノムは孤児たちの準備が終わるまであらかじめ人手を求める商家などを探してくるという。可能な限り商家の情報、今回は使用人への態度や町の孤児に対する感情、どういった働き手を求めているかを確認してその中から孤児に対して悪感情のない場所を厳選、情報網だけでは精度が低い可能性を考慮して実際に様子を確認してくるという。
「妾は六人の衣服の調達に行ってくるのじゃ。寸法を測らせてもらうぞ? 身だしなみは大事故な」
「あ、あの、でもお金……」
「気にするでない。といっても気にしそうよなぁ。ならば、そうじゃな。つらいことがあってもあきらめずにまっとうに生きていく努力をして、立派になった姿を妾たちにみせにくるのじゃ。何年かかっても構わんからの。先行投資というやつじゃ」
六人の孤児は『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)の言葉に神妙な顔をして頷いた。そうだ、自分たちはまっとうに生きていくのだ。ここから、はじまるのだ。
「向上心というのは、生きる上においてとても大切なものサ。それが正しく、人の摂理に沿い、人々の営みに必要とされる範囲のものであるなら、なおさらだヨ。きみたちにはその心意気がある。とてもスバラシイ! おれたちの持てる力を、キミたちのために尽くすことを誓うヨ」
「ありがとうございます。わからないことだらけですけど、精いっぱい期待に応えていただけるよう頑張ります」
テレサより幾分しっかりした敬語で返したのはフェミナ。テレサの良き相談相手だ。
(まっとうに生きたい……ですか……まっとうでなくなってしまった私に、どれだけのことができるかはわかりませんが……私のできるすべてを以て、力になってあげたいですね……)
『ハートハードクエイカー』闇川 患(p3p006321)は生きることに一生懸命であろうと目をキラキラさせている子供たちを見て灰色の目を細める。執事服を身に着けているが華奢で小柄な体格からは女性のようにも見えて何人かの虎児は不思議そうにそんな患をみていた。
「じゃあ洋服の買い物が終わるまでまずはお風呂だね、お風呂。女の子たちは僕についていて」
「男子三人はこっちっすよ。髪はもちろんのこと足から首まで至るところを清潔殺菌消毒ッス! 嫌って言っても力づくで清掃ッス!」
「別に嫌ではないですけど……」
「うん……むしろ、ちゃんと体洗えるのならそっちのほうが嬉しいし」
「やっぱ清潔って大事だと思うから……」
力づくといわれて男子三人は困惑したように答える。
「お兄さん、私たちだって好きで汚れているわけじゃないのよ。スラムだとお風呂に入る余裕がないの。むしろみんな清潔でいたいって思ってるんじゃないかしら」
六人の中で一番おしゃまだというレベッカが遠慮がちな男性陣の心の声を代弁する。
「おっと、それもそうっすね。すんません。じゃあ、体の粗い方とかを覚えておくっすよ。仕事についたら清潔さは保たねぇとっすから」
「はい」
「よろしくお願いします」
「覚えられるかな……」
ニケは気弱なタイプなのか少し自信がなさそうで、アルフォンスに場数を踏めばそれこそ嫌でも覚えるッス!と励まされている。
孤児たちとの交流は出だしはなかなか良好なようだ。
女の子だし、とロゼは事前に髪油とブラシを何種類かかってきていた。それからよく落ちるという石鹸も。
ローレットの職員が浴場を借りるのを手伝ってくれたので男女別にそこに連れていく。
爪の間の泥を落とし、髪の洗い方やお風呂場でのマナーを教えながらロゼはほかにもお風呂の間にできるアドバイスをしていく。
「第一印象はなかなか大事だよ、なめられたりするからね。けど居丈高になってもダメ。隙を見せないように、けれど礼儀正しく。ちゃんとした人間だってことをみせる。これが大事だね」
仲のいい孤児同士でエピソードを聞いたりおしゃべりも楽しんでお風呂から上がったらブラシと髪油で三人の女子の髪を整えて仕上げ。
デイジーがかってきた服に着替えた六人は長年の汚れを落としたこともあってそれだけで見違えるようだった。
「まずはイーフォさんと私で礼儀作法の基礎を覚えていただきましょうか。大丈夫、そんなに難しくはないですから」
「何方つかずの私はお二人の補佐と手の回らない部分などのお手伝いをさせていただきますね」
話すときは確りと相手の目を見て話し、できるだけ身振り手振りも交えて自分が伝えたいことを誤解されずに受け取ってもらえるように、と患が実演してみせる。
「百も承知だろうケド、第一印象は立ち居振る舞いと雰囲気で、相手から自分への信頼度の幅はその後の接し方で決まるヨ。患が言ってるけど相手の目を見て話すことは大事ダ。後ろ暗いことがある相手は人の目を見て話せないからネ。 大人と接するには、相手から自分はどう見られているかってことを把握するのも重要だケド、その点ではキミたちはとても分かりやすい。好印象を持たせる余地があるという意味でネ」
表面上の立ち居振る舞いと話し方だけでなく、こういうこともちゃんとできるのかという細かな驚きを与えるのかという細かな驚きを与えるのが印象を変えるには手っ取り早いと話して聞かせる。
「だから、たくさん教えるからたくさん吸収してくれ。キミたちは可能性の結晶だ!
大事なん尾は、相手に、人々に対して敬意を持つコト。そして負けない心を持つコト。最初は心無い言葉を浴びせられるかもしれないけど、大丈夫。がんばるキミたちなら彼らに自分を認めさせられるヨ。キミたちには手足があり、強い意志があり、なにより心があるんだかラ!」
イーフォの心構えに孤児たちはしんと静まり返って聞き入る。
シフォリィの敬語の使い方や挨拶の仕方など具体的な指導に関しては活発な質疑応答があった。
デイジーが選んだ服は事前に本人と、本人に同行して就労を支援する人がどんな職業に向いているか、といううのを考えて選んだもので彼女が同行する予定のレベッカには郵便の配達人を考えていたため一緒に使いやすそうな鞄と日差しをよける大きな帽子を合わせているが、テレサは話を聞く間は帽子をかぶっていては失礼になるだろう、と礼儀作法のレッスンの間は帽子を鞄の上に置いていた。
(どの子も細やかな気遣いのできる子よな。たしかに、スラムにいるのはもったいなかろう)
わからないことはわからないと聞くように、ごまかして後から取り返しのつかない失敗をして信用を失わないようにと教えられてたどたどしいながらもどこがわからないのか聞いて、仲間同士でもここはこうなんじゃないかと知識を乾いた砂が水を吸うように積極的に学ぼうとする子供たちを見てデイジーは静かに微笑んだ。
「ではそろそろ個別に就労させてもらえないか交渉にいこうかのう」
礼儀作法の指導が一通り終わってデイジーがレベッカを手招く。
「そなたは妾とじゃ。足が速いと聞いた故郵便配達なら活躍できると思っての」
「はい、足の速さには自信あります。……盗みのためじゃなく働くために足の速さを自慢できる日が来るのを、ずっと夢見てたんです」
そばかすの浮いたほほに笑みが浮かぶ。
ヴェノムが情報を集めてきた中で郵便配達員を募集しているという場所に二人で赴き、スラムの孤児であるということは隠さずに就労を希望していることを告げる。
「うちは盗難とかにはあってないけど……配達したお店から被害が出たら真っ先に疑われるよ? それでもいいのかい」
「きちんと稼いで、暮らしていくのが目標なんです。手助けしてくれたローレットの人たちに恥じない生き方をして、きちんと生活できるようになったら報告しに行くんです。貴方たちのおかげでこんなふうにまともに暮らせるようになりました、って」
「このレベッカは足が速い。郵便配達にはうってつけなのじゃ。お主の知っての通りスラムでの暮らしは過酷。そんな環境の中で生きてきたのだから体力だってそこらの者よりある。
小柄ゆえ、細い路地などの裏道もすいすいと配達するじゃろう」
「うーん、まぁ確かに適職かなぁ。それにローレットの人には俺もお世話になってるし。一か月使用期間ってことで雇ってみて、問題を起こさなかったり覚えがよかったらそのまま採用、なにかトラブルが起きたり雇えないってほど覚えが悪かったら他をあたってくれるかい?」
まだ小さいし働くのは難儀そうだからなぁ。まぁ、うちで雇えなくても一か月一緒にいれば長所も見えてくる。うちに向いてなくて断るときは向いてそうな職場への口ききくらいなら手伝うよ、とがっちりした体格の代表は請け負った。
「ありがとうございます! 一生懸命働きますのでよろしくお願いします!」
「最初のうちは偏見とか誤解とかあるだろうけど風評被害に負けるなよ、嬢ちゃん」
「頑張るのじゃぞ、レベッカ」
シフォリィとニケは彼が要点を記憶する能力にたけていることに注目して服屋を訪れていた。デイジーが見立てたのは派手過ぎず地味すぎず、ニケの魅力を最大限に生かすおしゃれな服だ。
「服飾店において、情報は大事ですよね? ニケさんは要点を記憶するのが上手で情報通なんです。それに就労に我々ローレットを頼るという発想を思いついた当事者として新しい視点を呼び込んでくれるかもしれません」
「ここは見た感じだと、若い男女がデートでおそろいのアクセサリーとかワンポイントのペアルックを探しに来ることに重点を置いてるんじゃないですか?」
「おや、それがわかるのですか。少し意外ですね。どこで気づきました?」
「どれもサイズが男物と女物、両方並べてペアで置いてありましたから。女性ものと男性物で分けずにペアで分けてるからデートの記念に狩ってもらおうってことなのかなって」
「なるほどなるほど、確かにいい観察眼だ。孤児が盗みから足を洗ってくれれば貧民街の情勢も少しは改善される。その第一歩を踏み出してほしいものですね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「頑張ってくださいね、ニケさん」
うまくいった喜びにシフォリィはニケを抱きしめて思いっきり喜んでくれたのだった。
ヴェノムとテレサが向かったのは飲食店。
まずは自分で働きたいという意思を店側にアピールしてみるようにヴェノムに言われてテレサはしばらく考えた後口を開く。
「いままで、人に言うのがはばかられるような生き方ばかりしてきました。でも、それじゃいけないってずっと思ってたんです。太陽の下で胸を張って生きるような人生を送りたい、と思ってるんです。でも理想だけじゃ生きていけないから、ローレットの皆さんに頼ろうって友達が提案して、ローレットの皆さんは親切に世話を焼いてくれました。飲食店でのお仕事がどれだけ大変かはまだわかりません。働いたことがないですから。でももう一度スラムに戻る気はないんです、雑用でも何でも、一生懸命やります。どうかここで働かせてください」
「この子は今回の依頼人の中でリーダーだった子なんス。下働きから始まるでしょうがみての通りやる気もあるスから積極的に物事に取り組んでくれると思うス。
盗みなんかをやめてまっとうに生きたいっていう目標に対して改善すべき点を明確にして、人に迷惑をかけない解決方法も仲間と一緒に考えた子でもあるし、心根も外見もいい子だから人受けもいいと思って飲食店を進めてみたいんスよ」
「さっき孤児をどう思うか聞きに来たのはそういうことだったのね……ちょうど皿洗いの人が産休で。その間働いてもらって、問題がないようなら手伝ってもらおうかしら。皿洗いをしてる間に見込みがあるなら接客の仕事に対する作法を覚えてもらいましょう」
リリアーヌとロイドは工事現場へ。六人の中で一番力が強く芯の強い心を持っているロイドは体が資質である労働に関して最も真価を発揮すると考えたのだ。
ロイドはまっとうに生きることを望んでて、生きるために様々なことをしてきたが決して悪人ではないこと、力持ちで芯が強く、この職場であればきっと人一倍の活躍ができること、まだまだ育ち盛りで長く職場に勤められるという意味でも職場にとって有用であること。
それから孤児に職を与えることは治安の良化につながり、転じてそれに協力したということはよい評価を生むであろうことを材料に説得する。
「やってみないとわかりませんけど、スラムで汚い生き方をするよりずっとやりがいがありますし、何より心がつらくないですから。過酷な仕事でも働いて得た賃金でまっとうに暮らしていくことの充足感のほうが、大事です」
「かかか! いうねぇ! 見習いでよければ雇ってやるよ。無理して体壊すんじゃねぇぞ。育ち盛りで働けなくなるのは悲惨だぜェ。老後はもっと苦労する。きりきり働いてお前らを見下した奴らに胸張れるようになる手伝い、してやるよ! 部下の面倒は親方が見るもんだ。だからロイドっつったか? 長い付き合いになるといいよなぁ?」
「はい、頑張ります」
患とテスタが向かったのは患が案に出した中で比較的人手が足りなく同業が多そうな商店。テスタの口の堅さを売りにしようという思いからだった。
責任感の強さといってはいけないことは墓場まで持っていく口の堅さを売りに根気強く交渉していく。
なぜ悪事を働いてしまっていたのか、彼が本来はどんな人間であるのかを色眼鏡をかけずに見てほしい、テスタという少年自身を見てほしい。そう訴える患。
「口が堅い分、うまい言い回しとかは下手なんですけど……人生をやり直したくて、やり直すなら早い方がいいって思います。今までやったことは患さんがいうとおり変わりません。変わらないけど未来までそのままにしておいていいとは思いたくない。だから」
「見ての通り小さな店だ、仕事は山ほどあるが稼ぎは少ない。それでもいいなら基礎くらいは面倒見てやりますよ。ローレットの人の頼みを無駄にはできませんからね」
「ありがとうございます、よかったですね」
「はい、ありがとうございます」
ロゼはフェミナが孤児たちの相談相手になっていたと聞いて診療所の仕事を紹介してみることにした。
「でも、一番の強さは環境に立ち向かえる強さ。孤児の大半は環境に流され、あきらめて他人を憎むもの。でも彼女たちはまっすぐな思考で動き始めてね。その精神の強さが一番の強みじゃないかな。これが成功すれば、他の孤児たちにも希望を与えられて社会からも孤児だから、と見捨てない動きになっていくかもしれない。それって素敵じゃない?」
生まれや環境は結局のところ本人たちの咎ではないし偏見なく彼女たちを見てよければ味方になってほしいと告げる。
「この診療所、体の不自由な老人や、災害で親を失った子供を引き受けている施設と連携しているんです。医療技術はすぐに身につくものではないですし、心の痛みに寄り添う仕事を、ということならそちらのケースワーカーのほうが向いてるかもしれません。福祉の仕事は人手が足りないと思うから」
「そんなことはありません。相談役ってロゼさんは紹介してくれましたけど、私は私にできることをしていたらみんなに悩みを打ち明けててもらえただけで、たいして力に慣れていませんし……そんな私でも、いいえ、私だからできる仕事をしたいんです。それがローレットの皆さんへの恩返しになると思うので。よろしくお願いします」
そうして新しい一歩は踏み出されたのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
二本目のリプレイになります。
もっと色々入れたかったのですが入り切りませんでした……。
六人の孤児の皆の未来を案じてくださってありがとうございます。
いつかこの六人が胸を張ってローレットにお礼を言いに来られる日がきますように。
GMコメント
目的
浮浪児六人(男女三人ずつ)に働き口を見つけてまっとうに生きられるように助力する
成功条件
働き口のあっせん成功。ただし町の人たちからの心証は大分悪いので皆様の「この子たちにはこういう良さがある」という説得がキーになります。
汚い仕事(正義のない殺人や強盗、空き巣など今より悪くなる職業や悪徳貴族へおもねる仕事)は子供たちは拒否します。
義侠心の強い浮浪児たちですので偏見の目をはらすことができれば時間はかかりますが少しずつごく一般的な生活ができるようになるでしょう。
失敗条件
仕事のあっせんの失敗・汚れ仕事の仲介をする・子供たちの意思を踏みにじる行為(まっとうに生きたいという願いを無碍にする行為)
浮浪児
テレサ:リーダー格でギルドに助けを求めた少女。十五、六歳。磨けば光る外見。オレンジの髪に赤い瞳。竹を割ったような性格ですこし素直じゃないですが根は善良。
彼女がきっかけで他の浮浪児たちもまっとうに生きることを選ぶことになったキーパーソンです。
フェミナ:テレサの良き相談相手。おっとりとした性格の少女。テレサとは対照的に水色の髪に藍色の瞳。テレサと同年代。
レベッカ:十二歳くらいの少女。おしゃま。六人の中では一番足が速い。ダークブラウンの髪に高茶色の瞳。ほほにそばかす。
ロイド:十四、五歳の少年。気弱そうだが芯は強い。六人の中で一番力持ち。縁の下の力持ちタイプ。黒髪に茶色の目。
テスタ:十六歳くらいの少年。男子組の中でのリーダー格でいうべきことはきちんといえるタイプ。言ってはいけないことは墓場まで持っていく男気溢れる性格。金髪に蒼い瞳。
ニケ:十三歳くらいの少年。六人の中で一番情報通(人の話を聞くのが苦にならないのと立ち話をする人たちの会話を聞いて要所要所を記憶する能力にたけている)で、ギルドに出入りしている人たちから橋渡しをしてもらえれば自分たちが直接交渉するよりもモンスター退治などで世話になっている一般市民から受けが良くなる、と発案したのがこの少年。どちらかというと策士タイプで体力はあまりない。
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