シナリオ詳細
<覇竜侵食>それはきっと砕けぬ宝石
オープニング
●死を目前にして
「オオオオオオオオオオオオーーーッ」
ワイバーンの悲鳴が轟いている。何かに掴まれたように、必死に羽を動かそうとする。ワイバーンは無傷であるのに。「一見して」ではなく、「本当に」無傷であるのに、その動きは精彩を欠いている。もがき苦しんで、ゆっくり、ゆっくりと地上に落ちていった。地上では、2mはあろうかという巨大なアリがヒュンヒュンと顎を鳴らしていた。宙に向かって。届かぬ攻撃を。届かぬはずであるのに、あたかもワイバーンは死に瀕しているかのように、顎にとらわれて飲み込まれていく。無傷(のはずの)身体は、アリの――アダマンアントの餌となる。
覇竜領域デザストル。
そこは、死と隣り合わせの領域である。
村人は全員が互いを知っているような、小さな集落。
この土地に生まれたからには。ここで生きていくからには、少年は外敵と戦う覚悟はあった。いつだって俺たちはそうやって生きてきたし、親父も、おふくろも、そうやって生きてきたに違いなかった。けれども、どうして「戦う前に戦意を喪失して死ぬ」と思うだろう。
ヒュン。
アダマンアントが顎を鳴らすと、首が落ちた。少年の首が。
そんな気がした。しただけだ。ただの「感覚」。
「おにいちゃん! おにいぢゃん゛!」
助けを求める妹の声がする。
ヒュン。
アリがぎちぎちと顎を慣らして、顎をはさむふりをすると、妹はぐったりとその場に倒れる。
上がった血しぶきを俺は確かに見た。不吉な予言を確かに見た。血の匂いを嗅いだ。そんな気がした。実際は無傷であるのに。
一瞬だけ、目くらましのように、輝くその胴体から放たれる光を見た時に、悟った。
「あれをまともに食らえばどうなるか」を。
イコール、死ぬ。それを見せつけられてしまったから、もう立ち上がることはできなかった。たとえそれがまやかしにすぎないとしても、きっと起こることだとわかってしまったから。思い知ってしまったから……。
まやかしだ。
けれども、俺の手はもう動かない。
外骨格だけの、真っ赤に身体を染めたアリを前に。全長2m……とはいえ、ただのアリ。そう言い聞かせていたけれども、やはり身体は動かない。
敗北を突き付けて、それから、奴らは俺たちの体を持ち去っていく。「食糧」にするために。その先は知りたくない。知りたくない……。
●イミテクル
イミテクルと出会った者は、素晴らしい幸運と、また、同じだけの不運に見舞われるという――。
それは、亜竜集落に伝わる伝説のひとつ。
『イミテクル』は、かつて覇竜の集落に存在したとされる竜種である。その額の宝石は、先を見通すとされている。
「って、まあ。ホンキでその宝石を取り込んだとは思えないんだが。ここにでたアダマンアントは、おおむねそんな能力らしいな」
『カーバンクル(元人間)』ライ・ガネット(p3p008854)は、倒れた村人から話を聞きだしていた。「殺された」と感じて、気が付けば身体が動かなくなっていたのだという。
じっとライが持っている宝石を見ている『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)。
「ちょっと味見……あ、ウソウソ。今はね。あとでね!?」
「……」
「でも、予知かー。食べたらわたしもできないかな!?」
この土地に伝わるという、宝石竜の伝承――はあくまで伝承であり、産出するのはよく似た宝石だ。だから、きっとそんなアダマンアントが発生したのは偶然なのだろうけれど……。
「……あ、いた、あっちだよ!」
『自在の名手』リトル・リリー(p3p000955)はぱたぱたと舞い上がって、その敵を見据える。あちらはまだこちらには気が付いていないようだ。
「正義の味方は、死の予感なんかに負けないよ! そんなのはホントじゃないんだから」
『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)は、きっと、……死の予感にもひるむことはない。
- <覇竜侵食>それはきっと砕けぬ宝石完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年05月02日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●救いの手
きらりと差し込む陽光、一瞬だけ反射した光が、「集落の全滅」の光景を映し出す。
それは幻想に過ぎないが、つきまとう死の匂いは――放っておけばすぐにでも現実のものとなるだろう。
「イミテクル! むかーしおかーさんに聞いたことあった気がする!」
『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)の義母は、宝玉窟『アンペロス』の里長代理である。さまざまな宝石にまつわる話を、ユウェルに教えてくれたものだ。
「イミテウルはー、額の宝石はどんな味なのかなって思った記憶! 今回はもしかしたら味見できるかも」
……じゅるり。
思わず舌なめずりをして、ユウェルは首をブンブン振った。
「いけないいけない! そんな事より救出と討伐しなきゃね! みんなを食べさせたりなんてしないんだから!」
「ここにはイミテクルの伝承を聞いた時くらいにしか来てないが……それでもこんなことが起こると心にくるな」
『カーバンクル(元人間)』ライ・ガネット(p3p008854)は空から集落を見下ろしている。
イレギュラーズの中で空を飛べるものは、風に乗り、空から地上の様子を探っていた。
「幸いここの奴らはまだ生きてるはず。絶対に助け出すぞ」
「もちろんっス!」
『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)は飛んだ。緑青色の鱗が日にきらめいている。
今、この状況ではこれが一番速いと確信できる。ライオリットの気配は空に溶け込んでいた。
今にも連れて行かれようとしている人々とともに、倒れている人の姿が見える。
「……わぁ、えげつない事になってる。というか、村人を運んでるって……人を食べるって事? それとも……いや、今はそんな事考えてる場合じゃないよねっ」
『自在の名手』リトル・リリー(p3p000955)はふわふわと飛びながら、位置どりを探っている。
「なんだか面倒くさいですね……でも、やりましょうか」
リトル・ライはこぼし、リリーを見た。
リリーが選んだ位置取りは――戦う者に最適な位置だ。
風下で、狙撃手として気取られぬような位置。――どこか、戦いの気配に興奮しているような気がする。
けれども今は敵を倒すことが必要だから、これでいいとリトル・ライは思う。
降下するライオリットは村人を抱え上げ、引き上げる。大柄な男性だったが、ライオリットにとっては軽いもの。ライオリットは力強く羽ばたいていく。
ライ・ガネットの光が、傷ついた村人を癒やしていった。
「すまない、動けない」
「わかってる、大丈夫か」
一匹のアリが、こちらを向く。
獲物を背負っていたアダマンアントが、顎をカチカチと鳴らして威嚇をみせる。
「アダマンアント!
イルナークだけでなく他の集落にまで……!」
ドラゴニアである風花(p3p010364)は知っている。覇竜の生物は総じて硬い。これが変異種であるともわかる。
それでも、やりようはあると知っている。どんな生き物にも弱点はある。
イミテクルの顎が鳴り、宝石が輝いて死を予感させる。
けれど、死地に飛び込むのにためらいはない。
『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)と『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は勇ましく血しぶきの予感に飛び込んでいった。
「死んじゃったかも……なんてネガティブになってる暇は全くないよ!
怖くても、死ぬほどつらくても、生きていれば何とかなるし絶対に生き延びてやるし、何よりも……目の前で絶望してる人を助けて希望を一緒に見つけるのも、正義の味方の役目ってワケ」
「ああ。迷っている暇はない蟻共を倒さなければ村人は救えないからな」
どしゃり、と自分が倒れるような錯覚がして、風花は僅かに眉をひそめた。仲間がそれほど弱いとは思っていない。
「妙な能力、予知を幻として見せる……さしずめアクティブテレパスの類ですか。リアルな幻術はなかなか厄介ですが、対応できないわけではないです!」
まばゆい音。閃光。
風花の持つ、パンツァーファウスト型クラッカーがあたりをまばゆく照らし、揺らしたのだ。
「音が聞こえたなら、光が見えたなら、立ち上がってください。あなたたちは、まだ抗えますよ!」
村人たちが反応し、僅かに身体を動かした。
それだけで、勇気が湧いてくる。彼らは生きている。まだ間に合うのだ。ライオリットは力強く羽ばたいた。
全員を助け出す、と念じて。
「蟻にはやばい力がある?
だから、どうした。
そんなの、いつもの事じゃないか」
きらめく宝石の中。イレギュラーズたちが倒れている光景が頭をよぎる。けれどもそれは蜃気楼にすぎない。
未来は少しずつずれていく。
ジェイクの獣の嗅覚が、奇襲の気配を嗅ぎつけた。壁を押し破って、突き出される顎をかわす。
「『未来』は不確定なもの。
そして『観察』と『予測』『予想』は、未来が視えなくともできる」
『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は倒れている者を助け起こした。そして、その瞳をのぞき込む。
「生きている。精神に干渉する能力なのかもしれないな。
心折れれば正常な判断も、抗う事も、難しくなる。
…だろう?」
「そのとおりだ」
イシュミル・アズラッドは頷いた。
「息があるようだ。説得はあまり得意ではないが、イシュミル、あんたはそういうの得意だろう?」
「またキミが戦場に立つのかい?」
「『未来』は不確定なのだと、そう教えてくれたのはあんただろう?」
●運命をほどく
敵に都合良く編まれた未来が、少しずつ編み直されていく。
「大丈夫、みんな生きてるしそこのあなたも大丈夫! だから、生きろ! 生きなきゃダメなんだよ!」
咲良が叫んだ。
死の予感。
かまわず、加速し、そのまま突き抜けていった。
首筋を顎がとらえたのはやはり幻想だ。鋭い痛みが走るけれども、そんなのは関係ない。乙女の勝負服をひるがえす。装甲が衝撃を受け止める。垣間見えた敗北の未来の代わりに、目をそらさずに弱点を見届けていた。
「大丈夫、こいつら、そんなに硬くない! 見た目だけ! 装甲の隙間を狙えば……これさえ分かれば何とでもなるよ!」
アリは、うめいて後ずさる。――敵にも、恐怖心がある。
アーマデルにそれはない。笑うことも乏しくなった。
けれども微かな感情は先へ進めと告げている。前を向き、相対せよと。身体を動かせと……。
妖精の木馬に琥珀糖を預け、載せる。
「だいじょうぶなのかい、これは?」
イシュミルは心配そうにアーマデルを見る。
「いけるだろうか……いや、なんとかする。乗ってくれ」
妖精の幻想を載せた木馬が、イミテクルのねじ曲げられたおとぎ話を抜き去っていく。
遙か彼方へ。遙か遠くへ。
風花は、静かに構えて、アリに狙いを定める。
脆い位置。咲良が教えてくれた――装甲の下。狂咲の弓が、花影をつがえる。自身が倒れる夢を見る。しかしそれは像にすぎない。幻覚との相違点は、踏みつけた小石の音。
稲妻のように放たれた攻撃は、素早く二つの弧を描いた。
「やったね! クリーンヒット!」
空中で、ユウェルがにっこり笑い、仲間の活躍にガッツポーズを決めた。
「うーん、食べるところ残ってるかなあ。でもアリさんだもんなあ。あ、しっかり掴まっててね。巻き込んじゃったら大変だからね!」
「……しかし随分と自分たちに都合のいい未来を見せてきますね」
幻の中での風花が膝を屈する。それはやはり仮定の話だ。
花びらが舞い散り、過ぎ去ったあとは――苦しんでいるのはアリのほうだ。
「もしかして未来予知の幻というよりは、我々自身の危機への恐怖だったりするのでしょうか……?」
「めんどくせえ! てめえら纏めてかかって来い!」
摂理の視。ジェイクの目にもまた、アリの弱点が見えた。『狼牙』と『餓狼』から弾丸が放たれる。それは、装甲の隙間を貫く。
ライの宝石が砕ける音がする。元の姿に戻れぬまま、地面に倒れる幻影を見る。
「……これが殺される感覚って奴か、かなり鮮明だな……」
ライ・ガネットはふるふると頭を振った。
「こんなのを体感したら心が折れるのもおかしくない……。
だが、俺は諦める訳にはいかない……! ここで諦めたら救える命が救えなくなってしまう」
「そのとおり」
アーマデルの声はゆったりとしたもので、とても落ち着く。
「運命の糸を紡ぐのは自分自身であるという自認、他人に紡がせるものかという自負。
即ち、未来は他人に確定されるものではない」
つまりそれは『威圧』のようなもの。
気を呑まれた者が苛まれる、破滅への恐怖が生み出しす想像上の恐怖。
(……どのような破滅を垣間見ようと、その仮想未来、違えてみせよう)
「アタシの声、聞こえる?!」
誰かが呼んでいる。だれかが……。咲良が。
「困っている人たちを救うのは誰?! アタシ達でしょ!!
大丈夫、あなたには沢山仲間がいる。全力で支えるから、あきらめるな!」
ライ・ガネットは目を開ける。それは一瞬の出来事だった。
(大丈夫、所詮こんなのはただのまやかしだ。俺は実際に姿を変えられて、それでもなんとか耐えてきたんだ。こんな物には屈しない!)
激しい決意が、光となってあたりを満たす。ライの生み出した宝石から光が生み出され、清浄な光が恐怖を打ち破る。
「う……」
ライオリットに抱えられた男が目覚めてうめいた。傷一つないが、顔面は蒼白で、唇を震わせる。
「人生の最後を悟るにはまだ早いっスよ」
ライオリットは力強く言った。
「自分の胸に手を当ててみるっス。
そこから感じる鼓動が、熱が、今この時を生きている証っス。
だから、こんなところで生きることを、これからしたいことを諦めちゃ駄目っス!」
しがみつくようにするしかできない。けれども、心臓は動いている。
「起きて、リリー」
リトル・ライに起こされて、目覚めたリトルは再び舞い上がる。恐怖なんかどこかに捨てて、綺麗な声で仲間を呼ぶのだ。
「起きて、起きて」
リトル・リリーも声をかける。
アリたちの動きは、非常に素早い。何かが見えているかのように。
「速そうだねっ……でも当てる。"当ててやる"」
DFCA47Wolfstal改にもまた、狼の刻印が刻まれている。ジェイクの二銃が勇ましく勇猛な銃だとするのなら、リリーのものはしなやかな獣だ。
魔力を込めた弾丸がカースド・バレットが、宝石にひびを入れる。キシャアアア、と鋭い声を上げてアリはうめいた。
もう一体が怯えて下がる。
やはり、リリーは楽しそうだな、とリトル・ライは思った。だが今は――やはりこの場を切り抜けるのが先決なのだ。
宝石の光が、リリーを見つめる。
littleの心得。
読めない。
死を前にしてもなお「それなら一発撃っておけばいいか」とためらいもなく攻撃に転じる小さな妖精のことなど。それがひどく正確である理由なんて分からない。リトル・スタンピードはがむしゃらに撃ち出されたように見えて、計算され尽くしている。狙いは奥のアリである。
(相手のリズムを崩すこと……まぁ、いつも通り、リリーはやるだけだねっ。ただ、覚悟が必要、かなっ。錯覚を見せられても諦めずに撃ち続けなきゃいけないから……頑張らなきゃねっ)
●砕けない
死にかけたアントの宝石が、ぴかり、と輝いた。咲良は崩れる。いや、違う、崩れたと思ったときが――そのときが敗北だ。
だから、立つ。負けなければ、勝つ。
「アタシの知ってる正義の味方は、こんなところでへこたれたりなんか絶対にしない……!
ここでアタシが立たなきゃ、救える人も救えない!
立て! そして周りを見て! 仲間がいるでしょ!
だから、目を覚ませ、アタシ!」
起き上がって咲良は前を向く。ポニーテールを揺らして、正義の味方であり続ける。鋭く、速く、相手の動きを上回る加速を見せる。いや、予測できたとしても――かわすことはできない。その鮮烈な攻撃は。
一匹はジェイクの攻撃で動けない。もう一匹の射線を、蛇銃剣アルファルドが薙いだ。未練の結晶が奏でる音色は、イミテクルの宝石と共鳴し、ばらばらとアリとともに砕けて消える。
「なるほど。アリは簡易な未来予知をしてるんっスかね?
なら、予測可能は回避不能な攻撃をするしかないっスね」
ライオリットは住民をおろし、自身に課せられた制限をはずす。もっともっと、強ければもっと速ければいい。巨体は加速し、その前にある風ごとアリにぶつかっていく。
ライオリットは見る。風が、向かい風になって自分をあおるのを……。自分が地面にたたき付けられる光景を。
……かまわない。飛ぶと決めたのだ。
「どんなに強くて恐ろしくても、壁は高いほど越え甲斐があるってもんっス
たとえ嘲笑されようとも、誰かに決められた未来に従うなんて、オレはまっぴら御免っス!」
宝石にヒビが入る。
「傷は深くない。焦るな」
ライ・ガネットの癒やしの光が、仲間たちを癒やしていく。回復魔法は美しく、輝いている。こちらの光は元気が出る。力がどこからか湧いてくる。
「ああ、偽物だ」
ジェイクは断じる。
この感触は確かにいやなものだ。だけれど、今までに味わったことのある恐怖はこんなものではなかった。
これは、本物の恐怖ではない。相手の能力、あくまでこちらの意識に映す虚像にすぎないのだ。
安いトリック。
「死ぬ程の恐怖は何度も克服してきた。
俺達は廃滅病を患いながら、あの冠位魔種やリヴァイアサンすら倒した。
こんなのあの時の恐怖の比ではない」
ジェイクは幻を撃ち抜く。
分かってしまえば、あとはゆっくりと幻術は薄れていく。
致命傷を負う攻撃は、幻のなかでもかすり傷に。
そして幻のなかでも、よく目をこらせばそれすらもかわすことができるようになる。
「それだけじゃない。俺には愛すべき家族が居る」
ジェイクの頭に浮かぶのは、愛おしい娘の姿だ。
「俺の命はもはや俺だけのものじゃない。こんな所で楽に死ねないんだ」
勝てる。刹那の攻防を制し銃口を向ける。
「虫けらども。どうして、死ぬと思ったら動きが止まると思う? 失う恐怖があるからだ。守りたい者があるからさ。そのぶん、恐怖は増すもんだ。人を愛するという事を知らぬ、虫けらには分からねえだろ」
家族がいる。守らなくてはならない。愛する人々を。
だから、ジェイクはまだ動ける。帰る場所がある。あのアリが背負っている誰かはきっと誰かの大切な誰かだ。
もう一方の銃口は、自身を向いているアリの口の中を向いていた。
「今度はお前達が恐怖する番だ」
銃声が響いた。頭蓋を撃ち抜き、アリを物言わぬ亡骸にする。
「これで、とどめです」
風花は再び、矢を引いた。それはヒビに向かって、思い切り突き刺さる。そして……。
「はーい! おまたせー!」
爆裂クラップスをとどろかせ、ユウェルがやってくる。
研ぎ澄まされた一撃は。狙い澄まされた一撃は、わかっていても避けることはできない。
「わたしの竜爪をくらえ!」
反撃なのだろう。幻影が見える。攻撃が外れて、反撃を食らう幻影が……。
けれども、ユウェルは舌の上で、宝石を転がす。キャンディのように。
「そんなのでわたしがとまると思わないでねー!」
ばりばりばり、とがれきごと突き抜けるように壱式・竜爪をふるった。
風花に撃ち込まれた矢が押し込まれて、宝石が割れた。
光が漏れる。痛い気はしたけど、ただ、それだけだ。
(これくらい出来なきゃおかーさんに怒られちゃうからね!)
ぱきり。運命がかみ砕かれたように目の前が真っ暗になる。
ああ、これは死んだ、と思ったところで……。
ばきり、と宝石をかみ砕く。
「石を食べられるならまだ動ける! 戦える! もんだいなーし!」
リリーは笑う。にっこりと笑う。
「……そういえば、イミテクルと出会った人は、素晴らしい幸運と、また、同じだけの不運に見舞われる、んだよね?」
リリーは微笑む。もう、死の影はリリーをとらえることはない。呪いを纏った魔法の弾丸によって仲間を討ち、それから獲物を失ってぐるぐると周り、自身を傷つけているアリを、リリーは冷たく見据えていた。
「……ここまでが幸運だったんだよ、蟻達は。でもそれももう終わり。同じぐらい苦しんで……さっさと死んでね」
セカンド・カースド・バレットがアリを呪った。忌まわしき宝石は、閉じ込められて割れる。
幻想の中でアリは崩れて消える。それから、現実のアリも。何度も、光景が重なるように何度も乱反射した幻影の中で、何度も砕けて散っていく。
もう、幻は晴れていく。
「リリー、起きた?」
リトル・ライがリリーに尋ねる。
「うん、ちょっと疲れちゃったけど!」
と、リリーは、いつものように微笑んでくれた。
●幻は幻のまま
「おし、起きたか。しゃべれるか? よし、大丈夫そうだな」
アリたちに閉じ込められていた住民たち。主を失うと、粘液はでろりと溶けて村人が転げ落ちていく。
「う、うう……」
「落ち着いて、ゆっくり呼吸するんだ」
ライ・ガネットの光を見ると、人々はようやく笑顔を見せる。優しい光だ。
幸いなことに、見た目以上にケガはなかった。奮闘の成果だろう。ユウェルはふんっと胸をはった。
「大勝利ーっ!」
「たぶん何とも無いとは思うが……思い込みでも体に影響が出ることがあるらしいし、念のため、だな。具合が悪いやつは回してくれ」
「あ、あんた……」
住民の一人に、ライオリットは呼び止められる。曰く、幻を見ていて、ああ、落ちてもうダメだ――と思ったときに、不思議と、ライオリットに受け止められた幻を見たのだという。
「そうっスか。無事で、良かったっス!」
「よかった! 本当に良かった! え? アタシ? うん、正義の味方は、負けないんだから!」
咲良はぐっと大丈夫と請け負って見せた。
「む、むむむ……」
崩れた宝石は、アリの一部か……。粘液がついているから口に入れたくはないものだ。
「あーあ、いつか食べられたらいいなーイミテクルの宝石。未来が分かったら明日のおゆーはんもわかるもんね!」
「うんうん、ちゃんと食べるのは大事だよね! ヒーロー的にも!」
「今日のおゆーはん、なんだろうなー。美味しい石だといいなー」
「特殊個体の襲撃でしたが、誰も巣まで連れ去られた方とかいませんよね?」
イシュミルが軽傷の少年を連れ立ち、生存者の確認を行っていた。少年の顔色は悪いが、たいした傷を負っていない。適切な手当と判断のなせるものだろう。
「うん、頑張った」
アーマデルは少年の肩を優しく叩いた。
村のあちこちでは、互いの生存を喜び合っている光景がある。誰一人、欠けることはなかった。悲しむ者はいない。安堵の涙だ……。
風花は頷き、宝石を拾い上げる。
「今までの覇竜生物を襲うアダマンアントの目的は、もしかするとこういう特殊能力の獲得だったりするのでしょうか……」
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
アリの討伐、お疲れ様です!
死者0、ケガ人も限りなく少ない勝利です。
またご縁がありましたら、一緒に冒険いたしましょうね!
GMコメント
アリだー!
布川です。よろしくお願いします。
●目標
アダマンアント・イミテクル種の討伐
一般人の救出
●状況
いま、まさに。亜竜種の小集落が襲撃されています。
連れていかれる最中です(急げば追いつけることでしょう)。
アダマンアント・イミテクルの背には宝石のような粘液に閉じ込められた一般人がおります。後述の幻惑(まやかしの予知)により、村人は戦う意思を折られており、抵抗はできないようです。
集落に残っている村人も数名おりますが、「殺された」と錯覚してその場に倒れているようです。放置するのも、少々危険かもしれません。さらなる被害を生まないために、避難させてやるといいでしょう。
起こして何らか鼓舞すればとりあえずじぶんでなんとか避難できるくらいにはなりそうです。
●敵
アダマンアント・イミテクル×5?
赤い色のアダマンアントです。今にもぼろぼろと風化しそうではありますが、骨格のみ残ったアリたちは非常に高い回避・命中を誇ります。まるで何かを見ているかのように……。
食料として村人を運搬中です。背には複数の村人が閉じ込められている場合があります。
<イミテクルの攻撃>
アダマンアントの攻撃時、相手の攻撃が「当たった」かのような錯覚、また、自分が「戦闘不能になる」ような錯覚に陥ります。これは錯覚であり、必ずしもではありません。対処をしなければ大きな恐怖に飲まれることでしょうが、プレイング次第で軽減することが可能です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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