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シナリオ詳細

<13th retaliation>ブランクブラック

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●大聖堂前の攻防
 アンテローゼ大聖堂東側。崩れた尖塔の瓦礫が転がる花園を覗くようにして、等間隔に並ぶ柱がある。
 美しい模様と絵が彫刻された柱には一人ずつ、弓を手にした妖精たちが背を付けて身をかがめていた。
 統一された装備から、彼女たちが妖精郷にて悪しき錬金術師と戦った妖精部隊であることが、詳しい者には分かるだろう。
 中央の柱にて身をかがめていた金髪の妖精がすっくと立ち上がり、そっと柱から花園側を覗き込む。
 美しく広がる花園と、転がる石のブロック。逆さに、そして斜めに倒れた尖塔屋根を背景にして、一列に並ぶ人影が見えた。
 黒い鎧に、それは見える。
 全ての鎧のヘルメットは人間の骸骨のように見え、訓練されきった騎士のように彼らは一糸乱れぬ動きで一斉に剣を抜いた。
 フルプレートメイル。しかしその髑髏型ヘルメットの内側には、何もない。
 鎧だけがひとりでに動き、武装し……そして襲いかかってくるのだ!
「総員、撃て!」
 金髪の妖精が叫びながら柱から飛び出し、弓を放つ。続けて周囲の妖精たちも一斉攻撃を開始したが、それを予期していたかのように黒鎧の集団は走り出した。特に中央の鎧は飛来する矢を剣で切り払い、更に加速する。
 通常の鎧よりも一回り大きく、頭に崩れた王冠のようなものをのせた黒鎧は、妖精を柱もろとも斬り付けた。
 ガバンというはげしい破砕音をおこし崩れる柱。間一髪で逃れた妖精だが、反撃をすることなく後方へ向けて走り出す。
「下がれ、下がって撃ち続けなさい! ローレットが駆けつけるまでの時間を稼ぐのです!」

●呪物『屍象黒鎧(ブランクブラック)』
 場所は深緑。呪いの茨に覆われ、住民達が昏倒する今日のこと。
 妖精郷の助けを借りファルカウのふもとアンテローゼ大聖堂を制圧、拠点化したローレット及び妖精部隊は、継続し拠点奪還を目指す敵勢力の迎撃にあたっていた。
 敵側の思惑はその個体によって分かれるだろうが……。
「今回の敵の考えは単純。この大聖堂を取り戻し再び自分達の拠点とすることでしょう!」
 カッと目を見開き語る、金髪の妖精。ドールハウスに置かれるような小さな椅子に腰掛け、後方では空色髪をツインテールにした妖精が金髪妖精の髪を両サイドで括るように掴んで上下にふっさふっさと振っていた。
「…………」
「…………」
 目を瞑り、眉をぴくぴくとさせる金髪妖精。
「ポッカ、いま大事な話をしてるから……」
「それって風船より大事?」
「大事よ」
「そっかー……」
 口をぽかーんとあけたまま、ポッカと呼ばれた空色ツインテールの妖精は継続して金髪の疑似ツインテールを上下にふっていた。リズムは先ほどと変わらず一定である。
 両手で顔を多い、ぷるぷるとする金髪妖精。
「ごめんなさい。こういう子で……」
「いや、ええと、大丈夫だ」
 ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)が真顔のまま手をかざした。
 椅子に座って、視線の高さを合わせるためか相手の椅子はテーブルの上に置かれている。
 ここはアンテローゼ大聖堂のなかの一室。テーブルを囲むようにブレンダやその仲間達が妖精の話を聞きに来ていた。
 金髪妖精の名はクノールといい、かつて悪しき錬金術師に戦いを挑んだ妖精部隊の生き残りである。今は部隊のひとつを率い、大聖堂奪還作戦にも加わってくれていた。
 つまりは、戦友にして友軍だ。
「どこまで話したでしょうか。話が途切れてしまいましたね」
「ああ、大丈夫だ。分かっている」
 苦笑したクノールに対して、ブレンダは手をかざしたまま話を続ける。
「たしか風船の大事さについてだったな?」
「ちがう……」
 もっかい両手で顔を覆うクノール。
「こちらへモンスターの一団が接近している件です。黒い鎧の姿をした呪物で、おそらく『常夜の王子』ゲーラスの配下でしょう」
「ふむ」
 黒鎧と聞いてなんだかつい最近の出来事を思い出したブレンダだが、まだ髪を上下に振られているクノールに口を挟む気にはなれなかった。
「外周部で警戒していた妖精達からの報告によると、10~15体の『動く鎧』であるとのことです。重そうな外見とは裏腹にいざというときの動きは素早く、剣や魔法を用いた戦いかたをするようでした。
 特に剣による破壊力は高く、相手もそれを主に活用するだろうと」
 ブレンダが『なるほど剣か』と完全に理解した顔で頷く。
 それに頷きを返すクノール。
「私達が先に出て時間を稼ぎます。その間に準備を整え、私達と交代する形で黒鎧の一団を迎撃してください。
 私達も損耗をさけつつ後方から援護射撃を行いますが、戦力の要は皆さんです。皆さんが敗れれば、この防衛作戦は失敗するでしょう」
「なるほど、わかった」
 ブレンダは完全に理解した顔のまま立ち上がり、きりっと目を光らせる。
「その鎧かなにかを残らず破壊すればいいわけだな!」

GMコメント

●オーダー
 アンテローゼ大聖堂の防衛作戦です
 敵は黒鎧型の呪物モンスターの一団。
 剣での攻撃を主とし、他の攻撃手段として魔法により射撃を用います。
 戦場は大聖堂東の花園。前回の攻略戦においても戦場となった場所です。

●黒鎧
 正しくは呪物『屍象黒鎧(ブランクブラック)』。
 中身のない、ひとりでに動く黒鎧です。
 調べによるとこれら呪物は人々の霊魂を抜き取り閉じ込めることで作られているらしく、深緑で眠らされているハーモニアたちの霊魂であることは確実なようです。
 黒鎧を倒す事は大聖堂を守るのみならず、霊魂を生きたまま奪われた人々を助けることにも繋がるのです。

 黒鎧の武装はほぼ同じですが、兵の中には崩れた王冠を被った特別に強力な個体が一体だけ混じっています。これを自由にさせないことが作戦の要になってくるでしょう。
 また、後述する『茨咎の呪い』対策として作戦が長期戦にならないようにしたり、どこかのターンで誰かが動けなくなってもいいように作戦に幅やあそびを持たせておくのも有効そうです。

●『茨咎の呪い』
 大樹ファルカウを中心に広がっている何らかの呪いです。
 イレギュラーズ軍勢はこの呪いの影響によりターン経過により解除不可の【麻痺系列】BS相応のバッドステータスが付与されます。
(【麻痺系列】BS『相応』のバッドステータスです。麻痺系列『そのもの』ではないですので、麻痺耐性などでは防げません。)
 25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <13th retaliation>ブランクブラック完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
一条 夢心地(p3p008344)
殿
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)
レ・ミゼラブル
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

リプレイ


 妖精達が一斉に放った矢が、黒い両手剣によって切り払われる。
 こもった魔力が爆ぜたのか、無数の火花が散りながら爪楊枝サイズの矢がからからと地面に落ちた。
 王冠のついた黒鎧はその様子を見てフンと鼻で笑うように顎を動かし、再び妖精達へ視線を向ける。
 アンテローゼ大聖堂そば。ならぶ石柱。
 剣を翳した王冠黒鎧の命令に応えるように、周囲の黒鎧たちが走り出す。
 林のように無数に、しかし等間隔に並ぶ石柱の間を黒鎧がジグザグに駆け抜け――ようとした瞬間、柱の裏から姿を見せた『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)の剣が激しく切り裂いた。
 鎧に込められた呪力がブレンダの剣に込められた魔力と反発したのだろう。血しぶきのごとく火花が散り、黒鎧は勢いに飛ばされるかのように後じさりする。背を柱につけたその瞬間を狙うかのように、『ライカンスロープ』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)の放ったカラトリーセットがざくざくと突き刺さった。
 腕をフォークで刺されただけだというのに動かすことができない。無理に動かそうとしたところへ、ミザリィは巨大化した銀のスープスプーンによって殴り倒した。
「これが呪物……」
 崩れた黒鎧は地面に散らばった。中身が空っぽの鎧だけが地面に転がるさまはどこか滑稽で、そして不気味だった。
 よく観察してみると、光のようなものがパッとあがってどこかへ帰って行くのがわかる。
 方向は大聖堂内。おそらく眠りの呪いによって昏倒した誰かに霊魂が戻っていったのだろう。
「ようやくこの騒動の解決の糸口が見つかったか……
 下手人はまだわからんがこの鎧を壊せば霊魂が解放されるのだろう?
 そういうのは得意分野だ。今回は働かせてもらおうか!」
 剣を握り、走り出すブレンダ。
 人や柱を無視して通り抜けていった霊魂を見送って、『神威雲雀』金枝 繁茂(p3p008917)は眼鏡の位置をどこか几帳面そうになおす。
「人の霊魂を鎧に押し込み戦わせるなど許せる所業ではありませんね。
 責務を果たしましょう。最期に救いを願った者として」
 大きな鎌を肩に担ぎ、走り出す繁茂。
 その左右を固めるように一緒に走り出したのは『殿』一条 夢心地(p3p008344)たちだった。
「なーーーーっはっはっは! 呪いの甲冑というわけじゃな。
 数は揃えたようじゃが……マサカド級の祟りでも無ければこの麿は害せぬわ。
 ほっほ、まとめて返り討ちにしてやろうかの」
 高笑いをしながら刀の柄に手をかける。鞘から抜き放つと同時に鋭い斬撃を繰り出すと、立ち塞がった黒鎧の短剣が弾かれた。弾いた勢いのまま相手の腹を切りつけると、反発した呪力が黒い火花となって散る。
 返す刀で再度斬り付けようとした所で逆手に握ったナイフが夢心地の刀のしのぎにぶつかり動きを止めた。
 ムッと唇を動かす夢心地。だが一緒に走っていたもう一人――『炎の剣』朱華(p3p010458)の剣が黒鎧の頭部へドスンと突き込まれた。
 ただの剣だが、貫く瞬間から燃え上がった激しい炎が黒鎧の上半身へと燃え広がっていく。
「ブランクブラックだか彷徨う鎧だか何だか知らないけど、連中をさっさと動きようがないスクラップに変えてやりましょっ!
 時間を稼いでくれたクノールやポッカ、妖精達の代わりに!」
 どういう原理なのだろう。頭を貫かれただけだというのに黒鎧の動きは目に見えて鈍った。剣の柄を握ったまま思い切り蹴りつけ、剣を引っこ抜く。抜くどころか黒鎧のヘルメットだけが剣にのこり、首なし鎧がばたばたと暴れながら後退する。
 鎧とヘルメットを交互にみてから顔をしかめる朱華。
 トドメとばかりに放たれたのは桜の花びらが竜巻状に散るようなエフェクトだった。
 黒よりが竜巻にまかれ、呪力の火花が体中のあちこちで散ったかと思うとそれまでくっついていたのが嘘のように鎧がばらばらと崩れて落ちていく。
 朱華たちが振り返ると、『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)が杖を突きつけるような姿勢で立っていた。
「あの中にが囚われてる眠ってる人たちの魂助け出さなきゃ。聖葉で眠ってる人みんなを救えたら良いけど、あれは数が限られているもの」
 同意を示すように頷き、改めて別の鎧へと襲いかかっていく朱華や夢心地。
 キルシェはそんな彼らに治癒魔法で支援を行いつつ、心の中で呟いた。
(黒い鎧の呪物……やっぱり、ゲーラスお兄さんと関係があるのかしら……)
 一方――。
「セララ! 今行けるのはオレたちだけだ、まずは大物を抑えるぞ!」
 『嵐の牙』新道 風牙(p3p005012)が走り出すと、『魔法騎士』セララ(p3p000273)がオッケーと言いながら助走を付けてじゃんぷ。靴から魔法の翼を広げるとアイススケートのような華麗な軌道を描きながら無数の柱の間を駆け抜けていく。
「頑張ってこの鎧を倒してハーモニアの皆を起こしてあげないとね。そして皆の日常と笑顔を取り戻すよ!」
 スピンジャンプの勢いで黒鎧を斬り付け通り抜けると、その勢いのまま王冠黒鎧へと盾をぶん投げる。
 飛んできた盾をキャッチし、投げ返してくる王冠黒鎧。
 それをフリスビーキャッチの勢いで跳躍して受け止めた『嵐の牙』新道 風牙(p3p005012)は、ぽいっとセララにパス。背負っていた槍を手に取ると王冠黒鎧めがけて突きつけた。
「状況の打開策はまだわからないままだけど……敵が攻めてくる以上は護らないと。これ以上状況の悪化はさせたくないしな!」
 今だ眠ったままの深緑民たち。森じゅうを覆った呪い。暗躍する魔種たちの影。奪還できたのはまだ大聖堂だけとはいえ、希望が潰えたわけではない。
「反撃を続けていくんだ。勝利をつかみ取るその時まで!」
 風牙が決意を込めて見開いた緑色の目に、王冠黒鎧のヘルメットが映り込む。ヘルメットの奥で、ギラリと赤い光が灯った。


「繁茂、頼んだ!」
「――お任せを」
 風牙の合図によって器用にセララたちと入れ替わる繁茂。
 かろうじて王冠黒鎧から直線的な視線が通る斜めの位置へあえて回り込むと大鎌を握って猛烈な勢いでダッシュする。
 ヘルメット下の赤い光が動き、繁茂を睨むように強まる。
 風牙の合図が功を奏したようで、王冠黒鎧が他の仲間へ迫るより早く繁茂が距離をつめることができた。
 鎌を剣でもって払う王冠黒鎧。繁茂ごと水平になぎ払った剣が柱を浅く破壊するが、朱華の保護結界が効いているのか副次的な損壊は起こっていないようだ。
 つらいのは、むしろ繁茂本体のほうである。
「ぐう……っ!」
 鎌の柄で防御をはかるも、まるで自動車にはねられたかのような衝撃がはしり繁茂の身体が柱に叩きつけられる。
 そのままメリッと柱にヒビをいれ、振り抜いた剣の衝撃に飛ばされる形で繁茂は地面を転がった。
 起き上がりつつ、左手で治癒魔法を発動。自らの胸に押し当てかきまぜられた内臓や砕けた骨を修復させる。
 一方で、多少の距離をとりつつミザリィが治癒魔術を練り上げ、繁茂へと放射し続けている。
 二人がかりで治癒を行っているが、王冠黒鎧の放つ攻撃の威力はそれでも抑えきれるものではないようだ。
 ミザリィはちらりと仲間達の方を見る。
 黒鎧の全ては別の仲間を狙っている……というわけではないらしい。一部は王冠黒鎧を阻む繁茂を排除すべく張り付き、あるいは払いのけようと襲いかかっている。
 このまま治癒魔術を使い続ければ、かなり早期にガス欠になってしまうだろう。
 だが、あえて、ソレで良い。
「短期決戦は望むところです。それに、こちらが常に十全に動き続けられるとは思っていません」
 柱の間からいつの間にか伸びていた茨がミザリィの腕に絡みつく。それを無理矢理引きちぎり、追撃の茨を巨大なテーブルナイフで切り払った。
 もしミザリィたちが動けなくなれば、サブプランとしてセララたちが時間を稼いでくれる。手札も計画も充分だ。
 ある意味で、ミザリィたちはこの戦いが始まったと同時に勝っていたようなものなのだ。
「あとは、手抜かりを潰すだけですね」

「黒鎧共を手早くぶっ壊すのが朱華達の役目よっ!」
「倒せば倒しただけ住民たちの霊魂の解放につながるのだろう?
 であればできるだけ多く、などとは言わん。目に映る全ての黒鎧を破壊し全員救ってやろうではないか!」
 無数の黒いハンドハンドアックスが飛来する。それを朱華とブレンダは剣でたたき落とし、あるいは弾き飛ばした。
 斜めに弾けた斧が柱に食い込むようにとまり、二人は黒鎧めがけて走り出す。
 対する黒鎧は背負っていたシールドを掴み、両手に握った。大きな半円形のシールドはその二つを組み合わせられるように作られているらしく、ガチンと眼前で挟めばまるで鉄扉で閉め出したかのようにブレンダたちを阻んだ。
 サイドからえぐりこむように撃ち込んだ二本の剣が止められ、ブレンダがクッと歯を食いしばる。
 視界が青と黄色の残像で一杯になるくらい炎の剣で連続攻撃を繰り出した朱華も、それらが弾かれるさまに顔をしかめる。
「――下がれ!」
 ブレンダが叫んだ。咄嗟に朱華が大きく飛び退くと、盾にいつのまにか空いていた穴から鋭いスパイクが飛び出した。
 飛び退いていなかったらあれが自分に突き刺さっていただろう。
 剣を構え、ちらりとブレンダの横顔を見る朱華。
「盾越しに透視したの? 凄いわね」
「いや……なんとなく何かが来そうなカンが」
「それはそれで凄いわね……」
 黒鎧の両手盾が僅かに開き、ヘルメットがちらりと見える。赤い光がぼんやりと光り、まるで挑発するようにこちらを見つめていた。
 彼をスルーして別の敵を狙おう、とは思わない。なぜなら先ほどからチラチラとミザリィたちの方に身体を振る動作をしており、こちらが攻撃の手を緩めればいつでも動けるように準備しているのがわかるのだ。
 かといって、破壊力に優れたブレンダと朱華が足止めされる状態は非常にマズい。
「朱華殿。私に良い考えがある」
「その台詞を言ってうまくいった人、朱華知らないんだけど……なぜだかうまくいきそうな気がするのが不思議ね」
 フッと笑ったブレンダは朱華にそっと耳打ちをし、朱華は一瞬だけあきれ顔をした。
「いいわ。いちにのさんでいきましょ! いち――」
 大声でそう言った朱華――の横で、ブレンダはいきなり大地の剣グラウィタス・ラーミナをぶん投げた。朱華も朱華で剣を思い切り投げつける。
 咄嗟に盾を閉じ防御モードに入る黒鎧。がつんと剣がぶつかり弾かれ、地面に転がった音がした。
 黒鎧の主観からすれば、閉じた盾の向こうでは朱華とブレンダの足音がする。走ってくるのだろう。おそらくは正面に意識を向けさせ左右から挟み撃ちにすることで防御を疎かにしようという作戦だろうが――。
 無駄だ、とばかりに黒鎧は盾の左右からも更にスパイクを伸ばし、自らを包み込むように展開した。
 全方位を包み込むこの絶対の防御形態。隙を突くことなど不可能。
 そう確信した次の瞬間。
 ゴッ――と二本の剣が盾を貫いてきた。
 目を見開く黒鎧。その胸に刺さる剣。
「よい――」
「しょ!」
 剣を突き刺したブレンダと朱華は、剣で『つかむ』ようにして黒鎧をぶん投げた。
 グオオと叫び、柱に叩きつけられ崩壊する黒鎧。
「盾が固いなら強く突き刺せば壊れる。当然の道理だな」
「本当にできたことに驚きだけどね」
 手をかざし軽くハイタッチをすると、二人は落ちた剣を拾って戦いに戻った。

「行くわよ、あの鎧に囚われている人たちを助けるために。
 ルシェたちを支援してくれている妖精さん達のために!」
 キルシェは杖をくるくるとバトンのように回転させると、その軌跡から桜色の花びらを散らした。自分の背丈よりも長い杖となればバトンどころか棒術のそれに近いが、軽々と回したキルシェはぶんと振り込み黒鎧たちへと突きつける。
 払われた花弁の群れは大きな鳥の形をとり、黒鎧たちへと突進。
 突進した先は、風牙が今まさにぶつかり合っている黒鎧であった。
「さあ、呪いの鎧ども! ここに生きのいい魂があるぞ! 取り込めるものならやってみろ! まあ、寝ている者しか食えないような連中には無理かもだがな!」
 風牙は槍を両手でしっかりと握り、吠えた。襲いかかる黒鎧の武器もまた槍だ。鋭く突き込まれた槍の先端を紙一重で回避すると、自らも黒鎧の足めがけ槍を突き出す。
 跳躍によってかわす黒鎧に、それを読んでいたかの如く二発目の突きを繰り出す風牙。
 相手の腹部を今度は見事に貫いた――かに見えた槍は、横から飛び込んできた黒鎧の両手斧によって撃ち落とされた。
「つっ――!」
 体勢が前にがくんと揺れる。そんな風牙の顔面めがけ、黒いメイスがたたき込まれる。また別の黒鎧の攻撃だ。
 今度はフルスイングだったようで、風牙はひっくり返りながらも吹き飛んでいく。
 柱の一つに激突し、跳ね返って転がった。
 が、そんな風牙の真上を桜色の鳥が通り抜け、密集していた黒鎧たちの間で炸裂。
 パッと散った桜の花びらは風牙のかけた誘引の術を更に強固なものに変えた。
「ナイスだキルシェ」
 起き上がり、口の端の血を拭う風牙。
「そのまま引きつけて。回復はあとでね!」
 キルシェは起き上がった風牙の前へ割り込むように滑り出ると、杖を水平に翳した。
 黒鎧たちの攻撃が一斉に打ち込まれ、それらを杖の柄でうけとめる。
「ナイスだキルシェ、パートツー!」
 風牙はニッと笑い、地を這うような動きで自らを中心にした全員を一気に切り払った。
 いや、訂正しよう。見事にキルシェ以外の全員を切り払ったのだ。
 一斉に転倒する黒鎧たち。
 その一体に、セララによる大上段からのギガセララブレイクがたたき込まれた。
「さあ、どんどんいくよ!」
 セララはアイススケートのように地面を滑りながら、次々に黒鎧たちを斬り付けていく。
 風牙とキルシェの二人がかりで引きつけ、押さえつけた黒鎧たち。彼らを狩るのはそう難しいことではなかった。
 そんなセララめがけて、手斧が回転しながら飛来した。
「おっと!」
 盾で弾き、空中をキュッとスピンするようにブレーキをかける。
 手斧を投げてきたのはまた別の黒鎧だったようだ。弾いたはずの手斧はブーメランもかくやの軌道を描いて黒鎧の手元へ戻り、セララへ再び狙いを付ける。
 セララはあえて挑発するように盾を翳し、剣を下に下ろしてみせた。
 二つの手斧が連続で飛来。
 盾で一つは受けるが、かすめたもう一つがあり得ないような180度ターンをかけてセララの背中へと突き刺さる。
(なるほどね……)
 攻撃を受けてしまった。――わけでは、ない。わざと相手の手札を捲らせるのがセララの狙いだ。黒鎧は鎧そのものが動いているタイプの呪物だ。そして彼らの武器もまた、呪物の一部ということなのだろう。
 そして、捲らせる役目を終えたセララはぷいっと背を向けた。
 驚く黒鎧……の背から胸にかけて、刀が突き出る。
 夢心地の妖刀東村山である。
「セララよ、競争じゃ。どちらが多く倒すか……って抜けぬ! セララ待て! そなた何体倒したのじゃ!?」
 鎧に思い切り食い込んだ刀が抜けず、足を突っ張ってぐいぐいやる夢心地。
 その背後から短剣を逆手に握った黒鎧がじりじりと近づいてくる。
 ぬおーと叫びながらぐいぐいやり続ける夢心地。迫り来る黒鎧。すんでの所で――。
「あっ」
 思い切り引っこ抜けた表紙に後ろ向きに転がり、反動で振り込まれた刀が黒鎧のヘルメットにどういうわけか知らないが突き刺さった。
「こいつは失礼しました」
 奇妙な訛りの混じった古の挨拶をして、夢心地は片手で軽々と刀を抜く。
「さて……そろそろ時間じゃ」
 ギラリと目をひからせ、王冠黒鎧へと目を向けた。

 部下達が倒されたことを察したのだろう。
 これ以上は勝算無しとみたのか、黒鎧はザッと大きく飛び退き撤退の構えをみせた。
「逃がしません! 風牙君、頼みま――」
「もうやってる!」
 傷付き膝をつきかけた繁茂が叫んだ時には、風牙とキルシェが風のように王冠黒鎧の退路へ回り込み、セララが繁茂がガッとさらうようにして急接近をかける。
 ミザリィの巨大なテーブルフォークが投擲され、朱華とブレンダの炎と嵐を纏った交差斬撃が、夢心地とセララとそして繁茂による三方向からの交差斬撃が一斉に炸裂する。
 更には風牙とキルシェが大上段から槍と杖を振り下ろし、思い切り叩きつけ……。
 砕け散る音と共に、王冠黒鎧はバラバラに散ったのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 呪物を倒し、捕らわれていた霊魂を解放しました。

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