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シナリオ詳細

<覇竜侵食>蒼穹のメナス

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●givenのメナス防衛戦
 歌と指示が飛び交っている。
「――ボクは外の防衛チームを信じてる!」
 声は幼さを残した少年のものであった。

 青空に日輪が煌々と輝き、地上を照らしつけていた。風が大地と芽吹きのやさしい香りの中に、戦いの匂いを混ぜている。
 種の存亡を賭けた戦いは――この大地では、珍しいことではない。この過酷な地、己より強固な個体が当然のように闊歩する山岳荒野では、ちょっとした判断や天運で容易く勝敗が決し、親が死に友が死に子が死に――種が滅ぶ。

「こっちに来るみたい――逃げるのよ!」
 妊婦が小声でそう言って隣家の幼い子供の手を引き、物陰から飛び出した。2体のアダマンアントが一瞬前に彼女らがいた空間へと粘液を飛ばしていた。隣宅が別の個体からの酸弾を浴びるのは、同時。もし子供の親族が中に隠れているならば無事では済まないだろうと思いながら妊婦は「おかぁさあん!」と泣き叫ぶ子供を必死に抱き上げようとし――中断して必死に子供を突き飛ばした。逃れられないのを悟ったから。
「坊、逃げなさい!」
 べちゃりと粘液が降って来て、妊婦が囚われる。
「うわぁぁん!」
 突き飛ばされた子供は火がついたように泣きながら、妊婦に近寄ろうとする。そこへ、もう一度粘液が飛ばされた。大きな影がぎちぎちと怪音を奏でながら粘液で固めた『食糧』に近づいていく――。

 竅土竜フルフルドの頭蓋骨が嘗ての仲間の頭蓋骨と寄り添い、民を守っている小集落メナス。この集落は、現在滅亡の危機に瀕している。ここしばらくの間、覇竜領域デザストルを騒がせていたアダマンアントの群れが、メナスに押し寄せてきたのだ。
 アダマンアントは巨大で数が多く、亜竜相手でも集り喰らい付き生命を削り取る恐ろしさを見せている。もちろん、三大集落に迫る規模を誇っていた亜竜集落イルナークが被害に遭い亡びたという話を聞いた時から、メナス側も警戒はしていた。襲撃に気付いてから短時間のうちに他集落やローレットに救援要請を出し、集落の外側に防衛戦力を配置して集落を守ろうと動きもした。
 しかし、敵アダマンアントはその数の強みを活かし、様々な小集落に兵を割き、同時に襲撃を仕掛けていた。また、アダマンアントは地上を直進して侵入するだけでなく、地下を掘り進めて内部への侵入を果たしてしまった。
 そのため、小集落メナスは非戦闘要員が日々を暮らす場、集落の内部までアダマンアントの侵入を許してしまっている。

「こっちに来る……」
 息を殺し、震える小さな亜竜種の兄妹。ドラネコや羽リスたちも身を寄せ合い、怯えている。全身に包帯を巻いた父親がベッドから起き上がり、母に「おれの可愛い奥さん、槍を取ってくれるかい」と唸った。顔色は悪く、起き上がっただけで息が荒くなっている。だが、眼の色は爛々としていた。
「あなた……」
 目に涙を浮かべながら槍を取る妻を抱きしめ、父は槍を握る。
「ははっ、……怪我の功名ってやつだ。外の防衛に出ていなかったおかげで、集落の危機に槍を奮えるなんてね」
 まだ若い父親が背筋を伸ばし、戦士の顔で子供たちに見送られて駆けていく。

 メナス内部を蹂躙するアダマンアントは、黒く巨大な躰を青空の下で自由奔放に暴れさせていた。破壊と殺戮の凶音、絶望と苦痛の悲鳴。それを塗り潰そう、塗り替えようとするように、若い亜竜種たちの声が響く。敵の動きを鈍らせ、味方の動きを向上させる支援の呪歌も聞こえていた。
「侵入したのは4体だ! それ以上は来ない!」
 号令で弓が無数に飛び、アダマンアントの足を止めようとしている。鈍らせようとしている。
「外で防衛チームが防いでくれている……!」
 弓の支援を受け、槍の使い手が隊列を組んで一斉に得物を突き出した。使い手は見るからに若い。
「やぁっ!!」
 槍の切っ先が敵の硬い装甲に軽く弾かれる音が連続する。
「――硬いッ!」
「怯むなぁ!!」
 関節部位を狙う斧手が接近して――集る虫ケラを払い落とすようにアダマンアントが前肢を振り、数人が容易く薙ぎ飛ばされた。2体目のアダマンアントはくわりと顎を開け、粘液で数人を行動不能に陥らせる。3体目のアダマンアントも酸弾を吐いて剣の使い手に重傷を与え、4体目は――竅土竜フルフルドの頭蓋骨を睨むように複眼が数秒ぎらぎらして、大あごがガチガチと鳴った。

「まるで嘲笑うかのようだね」
 集落内部の戦闘指揮を執る『指し手』柯・安茜(こ・あんしぃ)は呪歌を止め、重傷者の撤退指示を出す。撤退といっても、外も中も敵が暴れ放題のこの集落に安全な場所などありはしないが――、
「でも、今は4体が纏まってくれてるや。ばらけて暴れられるより、いいね」
 濡れたようにしっとりと艶めく黒髪が風に揺れる。前髪に隠された瞳は必死な色を浮かべていたけれど、口元には笑みを象り、安茜は愉し気に謡ってみせた。
「敵の硬さは前評判以上。
 あの素材を使った武具は自分たちで使っても戦力増強になるし、売っても集落の糧になる。
 他集落も襲われていて敵側に勢力拡大の意思強いのが明白なのだから、ここでメナスが防衛に成功し敵戦力を削げば全集落の士気向上にもつながるよ」
 余裕を装い、強気に言うのはそれが必要だとわかっているからだ。

 安茜は幼くとも指揮官である。メナスの戦士たちは彼の言葉を支えに、ただ一つの生命を――誰かにとって大切な、代わりのない重い命を危険に晒している。
(ほんとうは――大声で喚き散らしたいくらいだよ)
「ボクが保証するよ、勝てる」
(こんなの無理だ)
「――ボクは外の防衛チームを信じてる!」
(外の防衛だって、いつまで保つだろう。突破されて、内部にどんどん敵が押し寄せてくるかもしれない)
「だから、あとはこの4体をボクたちが狩ればおしまいさ!」
(どうやって狩るんだ――どうしようもないじゃないか)
 視線の先で槍の使い手が重傷者を何人も出している。安茜は急いで重傷者を下げさせた。戦況を一言で表すと、味方は一方的に蹴散らされている。全く傷を与える事ができていない。被害だけが膨れ上がっていく。

(ボクは、無力だ)
 震える手を握りしめ、13歳の安茜は敵を睨んだ。

 思い出すのは、6歳の時だ。
 あの時も、小集落メナスは外敵に襲われた。こんな風に集落の内側まで敵が入り、皆の大切な生命や住まいをずたずたにされてしまった。安茜の父や沢山の戦士たちも、亡くなった。妹も。
(ボクはその時、何もできなかった)
 成長した安茜は特にここ最近は、集落の安全のため、集落周辺の外敵討伐を積極的に進めていた。自らが積極的に外遊し呪歌の力を貸すことで他集落の有力家と有事の時の協力関係を築いてもきた。アダマンアントの話を聞いてからは、警戒も強めていたのだ。
(なのに、今も……ボクは結局、何もできないのか!)

 ――絶望しかけたその瞬間。視界に眩い光が咲いた。
「……これは?」
 今にも息を引き取ろうとしていた剣の使い手が目を瞬かせ、声をあげた。そして、安らぎを感じさせる可愛らしい癒し手の少女たちに気が付いた。「だいじょうぶ、ですか」と小さな声で問いかけるメイメイ・ルー(p3p004460)。隣でココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が「重傷者を集めて! わたしたちは救うためにここに来たの!」と声をあげた。そんな治癒者たちやメナスの戦士たちの前に立ち、アダマンアントと対峙するのは。

「――……」
 生命は生まれた時から根源たる本能に因り動いている。
 『生きねばならぬ。食わねばならぬ』。
 さらりと風に揺れるのは、特異なる灰色の髪。人間の世界に溶け込むために人の姿を取ったモノ。中性的な少年、或いは少女めいた外見の者。
「貴方達は……?」
 飢えをよく知っていた。守りたい者も出来た。問わば声はひたりと返る――「僕は傭兵だ」
 飢獣、幻戯、獏馬の夜妖憑き――恋屍・愛無(p3p007296)。

「イレギュラーズ!」
 特異の名を呼ぶ声が周囲からパラパラと上がり始める。
「もう何回も戦って来てるし、オレはこいつらとの戦いのプロといってもイイかもね!」
 快活に笑う声を響かせるのは、よく鍛えられた鋼を思わせる大柄で精悍なオールドワン。銀煌の細い編み髪と紅の結紐を揺らして拳を固め、双眸に純戦闘志を魅せる――イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)。

「――救援か!」
 安茜が飾る事を忘れた声色で嬉しそうに叫んだ。
「それに――えっと」
 安茜の顔が見る見るうちにぽぽぽと赤くなっていく。小声で零した声はさきほどまで指揮を執っていた者とは思えない動揺っぷりで。
「め、めいめいちゃんがいる……幻でなければ」
(こんな危ない現場に……!)
 安茜とメイメイは、一方的に安茜が彼女を見て一目で恋してしまっただけの関係(?)でしかない。
(どうしよう、ほんものかな? 友達になれちゃったりするんじゃないだろうか)
「えっと、救援ありがとう。とっても助かるよ……こんな危険な現場だけど、怪我に気を付けて楽しくやろうね。あと友達になってほしいな……なんて」
 安茜は両手の指を胸の前でもじもじさせている。

 突如ぽんこつ少年になってしまった指揮官!
 しかし、イレギュラーズが頼もしくきびきびと作戦行動を開始してくれるから大丈夫のはず!

「命を惜しまないアリ兵の数の暴力にも困ったものだ」
「粘液で固めた民を巣に連れて帰らせたら大変なコトになりそうだ」
「まず喰われてしまうに違いない。そして、喰った物の形質獲得などもするならキャラ被りも生じてしまう」
「民を連れ去られはしない、オレたちは勝つ! ――それじゃあ、始めようか!」

 活力を取り戻し、前線に捨て身で駆けようとしたメナスの戦士をココロが引き止めて、もう捨て身で戦う必要はないと語っている。その胸には、『死ぬのだけは、死んでも避けろ』という師匠であり戦友の教えが息づいていた。
 ホタテ貝の傷薬ケースから薬を取り出し、負傷者の手当をする頬に、心根をあらわすようなまっすぐな長い髪がはらりとかかる。戦場を見据える瞳はいつも探求好奇に煌めいて、幾多の心に触れてきた。
 知りたいと思ったから――複雑で不思議も多いそれを、知りたい、知ろうと思って問いつづけてきた。
 優しくて少し孤独な海色の瞳はきらきらと輝いて、「知りたい」以外の望みにも幾度も瞬いた――それは例えば、「救いたい」という望みや、「大切な存在に戦友として認められたい」という望み。
 ――『わたしが、それを望むから』。

 強大なる統率者「アダマンアントクイーン」を頂くアダマンアント群は、間違いなく強い戦闘種であり圧倒的な脅威である。弱肉強食、熾烈な生存競争の只中にあるこの覇竜の地は、個体数も個体単体の強さも兼ね備えた凶種に今、じわじわと侵食されようとしている。
 イレギュラーズへのオーダーは、『目の前の敵を倒す事』。
 この侵略を真正面から力で、強さで、叩き潰す。跳ね退け、押し返す。
 それがこの地に生きる人々が生存の未来を掴み取るための、たった1つの手段なのだ。

GMコメント

 透明空気です。
 今回は覇竜の依頼で、ハザマGM主導の全体依頼、かつ愁GMとの合わせシナリオとなっております。贅沢!
 愁GMチームが集落に押し寄せる外の敵を防ぎ、透明空気チームはすでに内部に侵入した敵を撃破する、という連携となります。

●オーダー
・アダマンアント4体の撃破

●ロケーション
・小集落メナス
 フリアノン周辺にある小集落。死せる竅土竜の骨を利用して地上の脅威から隠れ住んでいる。7年ほど前にも小集落メナスは外敵に襲われ、当時の時期里長候補たちや戦士たちを多数亡くしています。

●敵
・アダマンアントX4体
 集落中を移動し、民や建物を傷つけています。また、粘液を吐いて固めた民を攫おうとしています。滅茶苦茶硬い外骨格のアリ(全長2m)です。

主な攻撃手段:
 酸弾……岩をも溶かす酸を弾丸のように飛ばす技
 大顎撃……強靭な顎による振り回し&叩きつけ攻撃
 粘液……特殊な粘液を口から吐きます。粘液に触れた者は幻夢に囚われます。幻夢は「好きなものや楽しい夢」。「これは幻だ」と幻を振り切る事ができれば戦闘に支障は出ませんが、ほとんどの民や現地戦闘要員は状況を忘れて夢に浸ってしまい、行動不能に陥ります。粘液は時間経過で固まります。

●NPC
〇『指し手』柯・安茜
 メイメイ・ルー(p3p004460)さんの関係者です。
 小集落メナスの里長の孫。父は他界済みで、もう数年すれば里長を継ぐ予定です。指揮の才能があり、現時点でメナスの戦闘指揮権を有しています。覇竜にイレギュラーズがやってきた後、現地の亜竜種が空中庭園に召喚され、何人もイレギュラーズになっており、安茜もその一人です。
 安茜は後方での指揮や呪歌での支援を得意としています。最大の特徴として、メイメイさんに一目惚れ(初恋)しているという点があります。緊急時ですが、これを機にお友達になれたりするととても喜ぶことでしょう。
「友達ってどうやったらなれるかな。いや、それどころじゃないんだとわかってるんだけど……でもこんなチャンス二度とないかもしれない……!?」
※安茜のギフト:『遊び歌』
 楽しい気分で歌った時に限り、風の精霊が歌声をふわふわひらりと運んでくれる。ただし、風の精霊は気紛れで、東西南北上下どっちに吹くかはわからない。楽しいね!

〇メナス内部の戦闘要員
 若い世代を中心とした戦士たちです。集落が戦場となり、家族や住まいを守るための戦いとあって士気は高いですが、練度は低く、ほとんどの者はイレギュラーズではないため、戦力として過剰な期待は抱かない方が良いでしょう。

〇メナス内部の非戦闘要員
 乳幼児や傷病人、高齢者や妊婦といった戦闘能力が低いメナスの民です。今回、非戦闘要員は避難ができていません。集落の各所で個々人で家々に身を隠したりしています。中には、アダマンアントの群れに固まった粘液などで閉じ込められ、運び出されようとしている民もいます。また、ドラネコや羽リスといった日常を共にしてきた可愛い動物たちもいます。

〇ドラネコ
 亜竜集落内をトコトコ歩いてる姿も散見されるかわいい亜竜。
 大人になってもサイズは猫程度。可愛さに全振りした結果戦闘能力を失った、可愛さで世の中を渡る亜竜。
 猫にドラゴンの羽が生えたような姿で、色や模様は千差万別。
 鳴き声は「ニャー」です。メナスのドラネコたちは怯えて逃げ回ったり、物陰に隠れて震えたりしています。

〇羽リス
 亜竜集落内をトコトコ歩いたりパタパタ飛んでる姿が散見されるかわいい自然動物です。
 リスに白い羽が生えたような姿です。
 鳴き声は「きゅ~」「きゅ?」。メナスの羽リスたちは怯えて逃げ回ったり、物陰に隠れて震えたりしています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。緊急事態だけど状況はシンプルで意外と安心!

 以上です。
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <覇竜侵食>蒼穹のメナス完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月02日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
空木 姫太(p3p010593)
一般人のモブ

リプレイ

●鴉
「それじゃあ、始めようか!」
 『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が必殺の雷吼拳を喰らわせ、不敵に笑った。
「まとめて駆除できるね! オレたちがアリを引き付けるから、住民の避難を!」

 反応に優れた者のうち、先に動いたのは『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)。
「集落内に入り込んだアダマンアントの数は……この様子では、然程多くは無いようですね」
 名門貴族の令嬢であり、幻想屈指の魔法戦士でもある彼女は自らの立ち居振る舞いが及ぼす周囲への影響を理解している。
「お任せください」
 情報を報せる風の精霊におっとりと感謝を伝えて、味方を鼓舞して軽やかに駆ける。ひらりと翻るのは、父が娘のために贈った戦装束。煌めく高位氷霧、美しき術式を紡ぎながら。
「その牙が味方を傷つけぬよう、味方の手が届くよう」
 絶麗の氷撃は黒き敵を包み、味方の攻撃の足掛かりとなった。


 ――生まれたての霊たちの聲がする。

(……なんとか、やってみよう。今、自分にできる限りを)
 『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が名乗り口上を試みるのを背景に、『白ひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)は安茜に話しかけられて戸惑っていた。ふわふわの羊耳をピコピコさせ、可憐な瞳が風に花弁を遊ばれる紫の雪割草めいて瞬いて。
「??? ……と、ともだち、です、か?」
 無垢に疑問を紡げば、少年がふぁーっと赤くなる。
「あっ、今はそれどころじゃないよね。ごめんね……」
 失敗した! という感じで俯く安茜に、メイメイはあたふた。
「……え、えっと、はい」
 そぉっとそぉっと言葉を選ぶ。小さな声で、両手をぱたぱたさせて。
「わたし、で良ければ……」
 少年がぱぁっと嬉しそうな気配を見せて、嬉しそうで、メイメイははにかんだ。2人の周囲だけほんのり時間が止まったような、和やかな――ドカァン! 戦いの音が空気を破る。
「「あ……!」」
 2人揃ってハッと状況に気が付いて。
「ひ、ひとまず目の前の敵を、何とかしないとです、ね。がんばりましょう……!」


(大好きな世界が壊される音は嫌いです、そんな色は知りたくないんです)
 悲鳴や苦痛、哀傷、混乱、不安――ちらりと甘酸っぱい色も見えたけれど。繊細で高い感覚と感性の『未来を願う』ユーフォニー(p3p010323)にとって、蹂躙される集落は眼を瞑り耳を塞ぎたくなるほど過酷な現場だ。然れど。
「頑張ります! 安茜さん、きっと全部大丈夫です!」
「ありがとう!」
 対話は安茜のメンタルに上向きに作用してギフトを発動させる条件を満たした。広域に歌が響く。敵の回避を下げ、味方の命中を底上げする支援歌が。
「助かる。あとは住民避難の指揮も頼みたい」
 マントで粘液を弾き、アーマデルが言えば安茜は即座に頷いた。
「カッコいいとこ、見せてよね!」
 『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が意味ありげに視線を送れば、安茜は頑張る、とやる気をみせた。


 少女のような少年のような儚げな『決別を識る』恋屍・愛無(p3p007296)の腕の輪郭が静謐に――奇しく、蠢く。
 ――己の命を惜しまない。集落を襲った蟻も。集落を守った亜竜種達も同じではあるだろう。

 ならば前者のそれを勇気と呼ぶか。否。
 ならば前者のそれに誇りはあるか。否。

 それは勇気ではなく誇りもない。その言葉はこの地の亜竜種達に。叶わぬと知り蟻に挑んだ亜竜種達に相応しい。
 ならば応えねばなるまいな。ならば守らねばなるまいな。彼らの誇りを。彼らが守りたいと願うモノを。

 僕はヒーローではない。僕は「傭兵」だ。ゆえに。
「この依頼。承った」
 ――この地に「ヒーロー」がいるならば、彼らにこそ相応しい。

 可憐な声、透徹な紫水晶の瞳。ぐずり、と、変質する腕。闇色の粘膜がぶわりと異形の気配を溢れさせ――「ば、……ばけもの」民のうち、誰かが思わずといった風に呟きを零したのが、はっきりと響いた。言った本人は口を抑え慌てた顔をしたが、愛無は動じる事無く淡々と強力な保護結界を展開した。

(この地とて彼らの思い出の地なのだ。守れるモノは守らねばな)

 大地の恵み、甘酸っぱい生命の歓びを感じさせる優しい守護の気配が結界中を満たしていく。
「とっておきだ。出し惜しみはしない」
『ばけもの』が大音量の咆哮を轟かせ、敵が釣られる。ひげうさの褒章が気高く煌めく――それがローレットの賞与であり各地での活躍の証なのだと民は知っている。
「助けてくれてるんだよ!」
 安全圏で見守る幼い男の子が叫ぶ。大人は項垂れて謝罪した。敵の攻撃を受け止め傷口から黒を滴らせる愛無は殴打を叩き込み――どぷりと表面が脈打ち、同化吸収して傷を塞ぐ。
「謝る事はない」
 腕は器用に形を変え、愛無はニンゲンらしくサムズアップしてみせる隣で金髪を華やかに躍らせて、リースリットが霧氷を輝かせている。

 後方では、
(大きくて、少しこわい、けれど……それでも……!)
 メイメイがタクトを控え目に揺らして思い描くのは夏の風。故郷の険しい山岳で、青空の下緑食む家畜の体毛を優しく撫でる風。くるり、タクトの先が風を引く。気流が強まり、荒くなり、熱砂の嵐に育っていく。
「氷漬けの敵の、特に関節や口を狙うといいかと」
 『一般人のモブ』空木 姫太(p3p010593)が背を押すように影から助言する。その瞬間、嵐の向かう先が視えた気がした。
「弱点、を!」
 タクトが指揮を執り、嵐が敵を包み込む。

「俺より、あの勇士たちを」
 喘鳴交じりに治癒を拒む負傷戦士へと、首を振って。
「これは、わたしの我儘……」
 ココロが手を伸ばす。
 どうやったって、人はいつか死ぬ。

 望まない生き方をする時はあれど――望まない死に方だけは、させたくない!

「救える命がある。だから、手を伸ばすんです」
 薄桜色の爪先が優婉に想いを紡ぐ。

 それは、太陽の恵みに似た慈愛のひかり。
 生命を貴び咲く、藤の花のような優しい癒し。

 死が遠ざかり、未来へと生命が繋がるのが誰の眼にもわかった。戦士が目に透明な涙の膜を見せて感謝すれば、ココロは微笑んだ。
「もう捨て身で戦う必要はありません。ここは引き受けました。あとは死ぬ気で仲間と逃げてください」
 近くで震えていたドラネコの背を優しく撫でて、明確に安全な方角を指す医術士の声――その声を彼らは生涯忘れまい。

 使い魔の鴉を連絡要員として操りながら、姫太は崩れた家屋の隙間で動けなくなっていたドラネコを引っ張り出した。
「いやはや、初依頼で随分と厄介な戦場に来ちゃったよね」
 にゃあ、と応える声は元気そうで、姫太はよしよしと頭を撫でてやった。髪で隠れた両目が苦笑する。
「一般人のモブの俺には荷が重いよ」
 どこにでもいそうな平凡な青年。そんな気配で呟いて。
「……だけど、人の命がかかってるって言うなら泣き言なんて言えないよな?」
 ばさりと黒コートを羽織り、
「モブはモブなりに出来る事をやって蟻野郎に一泡吹かせてやるよ!」
 サングラスを装着すると、混沌卿と呼ばれた暗殺者のスイッチが入る。
「我の眼には視える。救命の波動――この魂が反応している!」
(あれっ? さっきまでと雰囲気が?)
 ユーフォニーは疑問に思ったが、問いかける余裕はなかった。
「あの建物の裏だ!」
「はい!」
 姫太は別方面の囚われた民の元に行き、軽く刺激して――「だめか」首を傾げ、魔眼を魅せた。

 左は赤、右は金。
 隠していた美しく神秘的なオッドアイが夢を上書きすると、民は恍惚の表情で自ら立ち上がり、避難場に向かった。

「そちらも救助できたんですね。よかった……! エーちゃん、リーちゃんと一緒に誘導をお願い!」
 ユーフォニーが呼びかけ、エイミアとリディアが避難誘導に動いた。
「外のみなさんも頑張ってくださっています、内部は私たちが頑張らないと……!」
 逃げ遅れた妊婦を助け出す際に触れた粘液が、綺麗で優しい世界を魅せてくれる。


●幻夢
「あ……」
 そこは、誰も傷つかない綺麗な音と色の世界。
 ミーフィアが寛いで、今井さんが時間を気にする事無くのんびりと笑顔でハーミアを頭に乗せ――「これは、嘘です……!」現実は辛い音と色で溢れている。
 幻は、優しくて楽しそうで。
「私、現実を選びます。夢は綺麗ですけど」
 願いの弓の弦を鳴らし、意思の音を響かせる。
 波紋が幾重にも広がって、世界にユーフォニーの魔力が広がっていく。

「みなさんを……ドラネコさんたちを怖がらせないでください……っ!」
 音が敵を傷つけるのがわかって、指先が冷たくなる。
 その重み、その色――、
「ちゃんと、みます」
(だって私は、自分の意思でここに来たのですから)
 懸命に前を向き、ユーフォニーは魔砲を放った。


『ちょっとは将来について真面目に考えて生きちゃどうかな、イグナート・エゴロヴィチ・レスキン?』
 ため息が近くに感じられる。
 ――ミハイロ?
 またしかめっ面をして。
 幻夢を後ろに流すように駆ける。可愛らしい赤毛の少女の手の温もりが柔らかく感じられる。
 ――スヴィータ。
「幸せなマボロシか……」
 獲物を粘液で絡めたと顎を鳴らしていた敵が本能に何かを感じ、顎を止めた。獲物の力が高まるのがわかったからだ――その圧倒的な重圧に、敵が一歩後退る。

「幻夢?」
 リースリットの声がする。「平手打ちで治る?」という声はココロか。

「ぶん殴れば消えるでしょう!」
 イグナートが口の端を吊り上げ、言い放つ。奮うは覇竜穿撃――恐るべき膂力で豪快に撃力を爆発させて、快音を立てて硬い装甲をぶち破る。それは、敵にとって悪夢のような猛襲撃だった。
「平和な時なら悪くないユメなんだろうけれど、今現実で泣いてる子供の前で寝ぼけてるワケにはいかないからね」
 幼馴染の夢幻にますます勢い付く主人の拳に煽られてか、ワイバーンも高揚した嘶きで羽搏きを強めた。


 ――敵が倒れる音がする。人々の歓声が――、
『儲かりゃいいってもんじゃねぇ』
 談笑の賑わいに変わる。食卓の気配。
『愛と平和ね』
『ハハハ!』
 愛無は首を振った。夢など、とうの昔に忘れてしまった。

(僕は何度も失った。
 家族と呼べる存在も。守りたいと思ったモノを)

 ――そして解った。
 失った夢を求めるだけでは何も守れないと。

「失ったモノは、戻らない」
 距離を詰める。そこに敵がいるのがわかっていた。
「だから守りたいモノは守る。狩りたいモノは狩る」

「――れ」
 子供の声がする。敵の匂いがする。闇色が振り上げられる。
「がんばれ!」
 男の子の声に、大人の声も加わっている。皆が見守る中、異形の腕が破壊の音を立てて敵を撃つ。現実の手応えが確りと感じられた。どう、と倒れる敵に歓喜と称賛の声が湧く。
「やった!」
「倒したぞ!!」

『強くなったのう』
 そうだ。強くなった。

(蟻は狩る。この地は守る。寝ている暇は無い。倒れている暇も無い)

 ――戦うのみ。

 人々の歓声を背に、愛無はさらに敵を引き倒さんと高らかな咆哮をあげた。


 ――たった2mの敵なんて怖くない。
 ココロは粘液を拭い、ぴしゃりと自分の頬を打つ。"あの人"は、もっと背が高い。寄り添う体温、がっちりとした筋肉の腕に触れたときめき、ココロに向けられる眼差し。甘く胸の奥が疼く。
 息を吸い、ココロが透き通る歌声を紡ぎ出す。
 高く、喜びを届けるように。
 柔らかに、癒しの歌を――戦線を支える、医術士として!

「聴こえるよ!」
「こちらも、大丈夫です」
 イグナートとリースリットが無事を伝えあい、攻勢を強めた。
「こちらも――うッ、」
「フシャァッ!?」
 物陰に身を潜めていたドラネコが声をあげ、ぴゃっと飛びのいた。大顎撃に飛ばされ、近くの柱に強かに身を打ち据えたアーマデルが舞う土埃の中で身を起こし、ドラネコに気が付いた。
「……ここは、危ないぞ」
 アーマデルはくろねこダンジョーを腹話術のようにしてドラネコに話しかける。ドラネコたちは意を汲んで逃げて行った。
「そうだ、逃げろ」
 守るべきものたちを見送り、少年は立ち上がる。汚れたマントを翻し、近くでお辞儀をする霊を安心させるように。
「ああ、俺たちが守る。安心していいぞ」
 神官の言葉は、違える事なき重い約定。使命をひとつ分天秤に加えて顕現するイモータリティの奇跡で傷が癒える。感情の抑揚に乏しく、ドライに聞こえる声の優しさに霊たちが感謝の念を向け。
 スッ。
 闇影の帳を縫うように忍んでいた姫太が並び立ち、霊に笑む。
「誇るがいい。貴殿らの情報提供が同胞の命を繋いだのだからッ!」


●戦友
「ならば共に行かん」
「あの絶凍の黒躰に道は繋がりて」
「挟撃は幸運を齎すだろう」
 通じ合うように声を連ねて、姫太とアーマデルが氷漬けの一体へと走る。途中、まるで霧と化したように姫太の気配が消失した。

 掠めた粘液の影響か、アーマデルには偽物の弾正やイシュミルが視える。
「本物かどうかくらいは分かるぞ」
 若干どや顔寄りのクールフェイスで言い捨て――優しい思いやりのスムージーもどきが視えて、疑念を零す。
「好きなものや楽しい夢?」
 用意してくれるのは嬉しいが、これはとても不味いのだ。
「だが、視えるという事は俺は……」
 ミステリアスで知られるアーマデルの心は、他者からはわかりにくい。本人も実は自分をよくわかっていない。
「否、好物とは違うはず。まあいい」
 首を捻りつつ厳かな所作で敵に注ぐのは、赫灼。

「炎禍血柘榴の奉納神酒、死神の魔凶の呪」
 ――外骨格が固くとも、タフであろうとも。
「『蛇巫女の後悔』」
 腕輪の蛇鱗が鈍く光る。
「呪は、仲間の攻勢を支える為」
 蛇が牙を剥いた。同時に姫太は関節にスニーク&ヘルの奇襲を成功させ、また影に気配を消す。息ぴったりに共闘する事しばし――、
「うわぁぁぁぁ……」
 黒のコートがするりと外れて姫太が素に戻った。
「どうしました!?」
 悲鳴めいた聲にリースリットがレイピアを鋭く突き出し援護する。人々の目を奪う美技は、魔眼の力を攻撃に転用した制御の難しい技でもある。
(これが、限界――いいえ!)
 紅い瞳が強い意志に彩られ、反動の痛みを噛み殺す。出力をあげた焔が燃え上がる。ひりつくような敵視を感じ取り、リースリットは横に跳ねた。掠めた幻覚――、
(味方を守るため!)
「さあ、こちらに来なさい!」
 ――握る剣の感触こそ真実。
(戦場で我を失って不覚を取る等、それは名を汚す無様!)
 風精霊が集い、剣が焔に替えて風を巻く。精霊たちが敵を捉える。硬き敵の防護を和らげ、斬り拓く傷の内部で風が渦巻いて――裂傷が広がっていく!
「あと1体っ!」
 リースリットが華やかに声をあげ、味方を視た。

 ココロが「大丈夫?」と心配そうに声を掛けている。
「いえ。ただの羞恥なので」
 姫太が首を振った。自らの中二言動で心がつらたん、なんて言えるムードではなかった。
「……羞恥?」
「恥ずかしがるコトはナイ!」
 よくわからんが、とイグナートが闊達に笑った。ココロが「大丈夫ならよかった」と優しく微笑み、リュミエール・ステレールの光を放つ。
「もし貴方に闇が訪れても私が星で照らしてみせる」
 星のごとき燐光の尾を追うようにリースリットが精霊剣の極撃を繰り出した。
「気にするな」
 肩をぽんと叩く者がいた。アーマデルだ。真意は不明だがなんとも落ち着く響きの声で。
「またやろう、戦友」
 しずかに頷いて、姫太はそっと存在感を消した。
「……光強ければ」
「影もまた深し……」
 初対面なのに妙に通じ合う2人にユーフォニーが「それは……光も闇も素敵、という事ですね♪」と相槌を打った。

「鉄帝国の対城技を披露しよう!」
 イグナートが高らかに吠え、エゴールの呪腕を突き出した。

 真っすぐ、ただ力の限り純粋に放った正拳突き。
 インパクトは強烈で、イイ音がした。
 どんな防護も破ってやると叫ぶような撃力が、黒装甲を打ち破る。

 それは、堅牢な敵にこそ真価を発揮すると言っていい、武芸の粋。
「鋼覇斬城閃!!」
 誇り高き技名と共に、敵が倒れて大地を揺らす。後には一瞬の驚愕と静寂、そして歓声が続いた。


●友達
 ――戦いの後。

「改めまして、メイメイ、です。宜しくお願いします、ね……ええと、安茜さま」
「ボクは柯・安茜。あの、さっきはあんな状況でごめんね」
 少年の声色が照れている。傍で甘える羽リスを撫でながら、メイメイは微笑んだ。
「ふふ、お友達が増えるのは嬉しい、ですから」
「友達になれて、嬉しいな……!」

 足元ではドラネコがにゃぁんと鳴いて、トコトコとついてくる。
「わ、わ……かわいい、です、ね」
 思わず抱き上げてもふもふの幸せに溺れてしまうメイメイ。ごろごろと喉を鳴らすドラネコは、メイメイに懐いているようだった。
「その子も、メイメイちゃんが好きみたいだよ」
 安茜はそう言って、幸せそうに微笑んだ。

「もう、大丈夫ですね」
 リースリットが風に笑み、
「帰ってショクハイと行こうよ!」
 イグナートが明るい声を響かせた。

「集落をまもってくれて、ありがとう!」
 男の子が愛無に花を渡し、お礼を伝えた。愛無は人型の腕でサムズアップした。

 ちいさくて甘やかで、儚く短い生命を咲き誇る『ありがとう』の花は、とても可愛らしい花だった。

成否

成功

MVP

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。防衛戦、お疲れ様でした。
 結果は無事、成功となっております。この集落内からは、敵に攫われた民間人の被害は出ていません。安茜はとても喜んでいます。
 MVPは戦線を支えたヒールワークの優先付けプレイングと心情が素敵なヒーラーさんに。具体的なNPCへの言葉かけもとても良かったです。
 保護結界、BS、NPCやドラネコへの対応、非戦空手や部位狙い、心情など、全体的に高いプレイング力や、細やかな気遣い、熱量といったものを感じました。丁寧にプレイングを書いてくださり、ありがとうございました。皆様全員にお礼申し上げます。

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