PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<13th retaliation>てんしがうたう

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●黙示録・外典
 アンテローゼ大聖堂より、外へ。ラサ方面に向かう、森林迷宮のいちルート。
 ラサ・および深緑残存兵力による危機対応部隊が集結し、イレギュラーズ達が制圧・拠点としたアンテローゼ大聖堂へ通づるルートの開拓を急いでいた、そんな頃の話である。
「ふふん、ふーん♪」
 そんな剣呑とした森林迷宮、その木々の周りと跳びまわる、一人の少女。カラスの濡れ羽色のその翼は、彼女が飛行種であることを示している。手にしているのは、科学的な技術が使われているであろう、映写機。カメラ。銃砲のような望遠レンズを装着したそれを持つ彼女は、間違いない、撮影者(スナイパー)であり、特ダネを狙う記者(スナイパー)なのである。
 その名を、瓦 讀賣(よみうり)。個人発行のゴシップ紙、『舞文新聞』を発行している彼女が、どうしてこんな所にいるのかと言われれば、それは簡単な話で、ここはイレギュラーズ達の戦いの最前線であるからだ。
「ローレット・イレギュラーズの戦いあれば、そこにあたしがいるのは当然って事!」
 にぃ、と笑ってファインダーを覗けば、ローレットの活躍が見てわかる。そんな英雄たちの活躍を、ある事ない事ない事書き立てて、世に知らしめるのがあたしの使命――とは彼女の言だが。とにかく一言で言えば、彼女は『制御するのが面倒な協力者』である、と認識してもらえれば、ひとまずそれでよい。
「色々撮れたなぁ。見れば大体、どんな敵と戦ってるのか分かるねぇ」
 カメラの撮影履歴を見れば、イレギュラーズ達の戦いの足跡が見える。この辺りでは、例えば『大樹の嘆き』、『炎の怪物』、『邪妖精』、『常夜の王子の配下』、そして『魔種』。こんな連中が相手であることが見える。
 こうやって情報を整理することで、讀賣にも、ローレットがどんな敵と戦っているのかが見えてくる。そうとなれば、明日の見出しも決まってくる。
「『ローレット・快勝! オルドの嘆きも冬の王も相手にならず! 敵の魔種は今夜も歯ぎしりか』……とか?」
 大げさなプロパガンダに間違いないのだが、ある事ない事ない事書き立てるのが有能記者(スーパーパパラッチ)である讀賣である。そこに罪悪感とかそういうものは一切ない。まぁ、嘘は言っていないのだ……ローレットが一矢報いたことも事実であり、どういった敵がこれまで攻めてきたのかも、まったく、嘘は書いていない。
 ――が。
「……ん?」
 ふと、讀賣の耳に、何かが飛び込んできた。どんなネタも逃さぬ聴力が捕らえたそれは、『奇妙なうめき声』であった。
 とっさに、讀賣がカメラを覗き込む。望遠レンズから覗く、遠距離の映像――飛び込んできた絵に、讀賣はたまらず呻いた。
「――なに、あれ」
 讀賣が、喘ぐように息を吐いた。恐怖からである。その者が持つ異常性――この世のものとは思えぬ何かが、強烈な剣音恐怖を讀賣に抱かせ、刹那、呼吸を忘れさせたのだ。
「うるぅぅぅぃぃぃぃあああ」
 『それ』は呻いた。
 赤子のように見える。
 だが、斯様な純粋無垢な存在ではない。
 明確な、悪意のようなものが。
 呪詛のようなものが。
 ――生命への冒涜のようなものが、感じられた。
 そのような怪物が、この時、二十。
 べちゃり、と這いずるもの。
 とつとつと、歩くもの。
 ずるり、と脚を引くもの。
 多様ではあれど、画一衣的な外見のそれが、二十。
 存在した。
「……ぐっ」
 たまらずレンズから視線をそらし、讀賣は口元を抑えた。それは狂気の産物である。見れば見るほど、正気を抉られ、呼吸と共に正常な自分が吐き出されてしまうような、そんな妄想が駆け巡るほどに、それは恐ろしく、悍ましく、痛ましかった。
「ろ、す、して、ください」
 それが呻く。
「えれれれ、ぇ、なんでぇぇぇぇぇ」
「ぉぉぅ、れるれるれ、こおおおお」
 言葉にならぬ、訳の分からぬ『文字列』を紡ぐ。
 それは、突如としてこの戦場に現れた、明確な異物であった。
 ――だが。讀賣には、一つ心当たりがあった。『情報元』から渡された情報を探るべく、胸元の取材メモをひったくり、ばらばらとめくる。数十ページ、めくって、ようやく目的のページにたどり着いた。
「間違いない」
 讀賣が、呻いた。
「戦術天使……! その量産型だ……!」

●天使殲滅
「ローレットの皆さん! たいへん大変! タイヘンな事件だよ!」
 と、深緑茨事件に対応するチームがキャンプ地とするこの場所へ、駆けてやってきたのは讀賣だ。丁度その場には、長月・イナリ(p3p008096)がおり、讀賣と顔なじみであったイナリは、その可愛らしい眉をひそめた。
「あら、売文屋。またゴシップでも売りに来たの?」
 腰に手をあて、むぅ、と唸るイナリに、讀賣はぶるぶると顔を振った。
「違う違う! 大事件大問題! これまで存在の確認されてなかった怪物が、突如現れたんだよ!」
「怪物?」
 イナリが小首をかしげる。なんだなんだ、と集まってきたイレギュラーズ達が、讀賣に状況を尋ねた。
「怪物って言うと、邪妖精や大樹の嘆きじゃないのか?」
「違う違う! 常夜の王子の配下でもない! なんていうか、もっとヤバい奴!」
 わーっ、と両手を広げて、危険さをアピールしてみせる讀賣。讀賣は静かに、イナリにだけ聞こえるように、声をあげた。
「戦術天使の量産型、って言えば、きみにはわかるよね?」
 その言葉に、イナリが目を丸くした。
「あなた、その言葉、どこで」
「今はとにかく!」
 讀賣は追及をシャットダウンする。
「奴らはこの森の奥、迷宮森林に突如現れたの! このままじゃ、呪いで動けない村に到達する……後はご想像通り!」
 おそらく、村の住民は皆殺しにされるだろう。讀賣が見た怪物はそれほどまでに恐ろしく、凶暴で、悍ましい相手だったようだ。
「とにかくすぐに迎撃に向って! 今から村に向かえば、ぎりぎり迎撃できると思う!」
「わかった。どうやら緊急事態のようだな」
 イレギュラーズの一人がそういうのへ、他のイレギュラーズ達が頷く。イナリは少し、考え込むようなそぶりを見せた。
「長月さん? どうかされましたか?」
 そう尋ねるイレギュラーズへ、イナリは頭を振った。
「いいえ、大丈夫。すぐに準備するわ」
 その言葉に、仲間達は頷いた。敵の正体が何であろうと――呪いに蝕まれ、眠る人々を、守らなければならなかった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 謎の敵が現れました。これを迎撃してください。

●成功条件
 すべての『量産型天使』の撃破。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 ゴシップ紙の記者、讀賣。彼女は取材中に、これまでの戦いでは遭遇したことのないような怪物と遭遇します。
 例えるなら、それは天使。ですが、あまりにも邪悪な、量産された天使……『量産型天使』、です。
 敵の目的は不明ですが、その進行先は、呪いに侵され住民たちの避難も完了できていない小さな村。このまま放置していては、天使たちは村に到達し、そこで虐殺を始めるでしょう。
 皆さんは村に先回りし、侵攻してきた量産型天使を迎撃してください。
 作戦決行タイミングは昼。戦場となるのは、村の入り口です。天使たちの到着まで少々時間があるので、何らかの迎撃準備は可能かもしれません。

●エネミーデータ
 量産型天使 ×20
  異形の怪物たちです。羽の生えた赤子のような姿をしています。言葉のような呻きを発しますが、会話は成立しません。
  この場に現れた個体は、パラメータ的には、物理攻撃に特化した個体が多いようです。特に近接レンジでは、手にした斧で強烈な打撃を与えてくるでしょう。
  もちろん、遠距離への対応ができないわけではありませんが、近距離攻撃に比べれば不得手としているようです。
  皆さんより強力な相手、というわけではありませんが、とにかく数が多いです。知能は低く、連携などは行わず、ひたすら攻撃をしてくるだけの相手ですが、その数に圧殺されないように、うまく迎撃しましょう。
  

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <13th retaliation>てんしがうたう完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
ルビー・アールオース(p3p009378)
正義の味方
天城・幽我(p3p009407)
孔雀劫火
ファニー(p3p010255)

リプレイ

●天使の侵略
「ア、アアア、ア」
「ス、します、して、してぇええええ」
 うめき声か。或いは、それが言葉なのか。
 喘ぐように、呻くように、囁くように、吠えるように。言葉をあげつつ進軍するのは、『天使』の群。
 醜悪な外見は、吐き気を催すほどに、悍ましい。生命に対しての侮辱、それを感じるような――いや、そうではないのかもしれない。例えば、悪意を持ってこの様な生命を想像したのならば、それならばまだ納得できよう。悪意が、そこに意図があったのだから。
 だが――この『天使』達から感じる、悍ましさはなんだ?
 意図があるならいい。意図的に悍ましくしているなら、それには理由があるのだ。
 だが……もし、この姿に意味などないのだとしたら?
 この姿が結果にすぎず、そしてその姿にすることによる利益を、この生命を生み出した存在が享受していないのだとしたら?
 それこそが、本当に、恐ろしい事なのではないだろうか……?
 敵の思惑がいずれにあるにせよ、確実なのは、突如として始まったこの殺戮の天使たちの行軍は、今まさに無辜の村人達に迫りくるという所だ。何処からともなく現れた天使達は、そのグロテスクな武器を振りかざしなが進軍。今まさに、茨の呪いに眠る村へと到達しようとしている。彼らが村に到着して、何をするかなどは想像するに難くはない。神聖なる加護を与えるなどは、とてもではないが想像できないし、そういうものではない、という事を、情報屋の讀賣も言っていたし、何より『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は、それを重々に理解していた。
(間違いないわね。量産型の天使……)
 胸中でそう告げるイナリ。感じる気配は、間違いなく、彼の怪物のものだ。
(あの連中が、無意味な殺戮の為に手勢を投入するなんて事はありえないわよね。
 何が目的なのかしら? 天使の素材の確保? 威力偵察? 新技術のテスト……?)
 口元に手をやるイナリ。イナリ達がいるのは、天使たちの進行方向、村の入り口だ。依頼を受け、天使……量産型天使、と呼ばれた怪物たちの撃退にやってきたイレギュラーズ達は、こうして敵を迎え撃つべく布陣しているのだ。
 さて、沈思黙考するイナリに、ヒヒヒ、と『闇之雲』武器商人(p3p001107)が笑う。
「おや、長月の方。あの子達について、何か心当たりが?」
 尋ねる武器商人に、イナリは頭を振った。
「……いいえ。連中の目的については分からないわ」
「そうかい?」
 含むように、武器商人は笑う。
「まぁ、いいさね。
 しかし、高位の天使ほど異形に近づく、とはいうけれど、あれはどうもそういう事じゃあなさそうだ」
 武器商人がそういうのへ、ずるり、ずるりと、獲物を引きづる音があたりに響く。果たして、イレギュラーズ達が布陣する村の入り口に向ってやってくる、20の異形。
「天使ねぇ……いや、俺様はそういうの興味ない。
 見た目もえげつねぇうえに量産物の天使サマなんぞ、嗚呼、嗚呼、あまりにも滑稽だろう」
 そういう『スケルトンの』ファニー(p3p010255)には、現れた天使に対する焦りの色は観られない。既に、敵が近づいてい来る様子はキャッチしていたし、事前に準備も終えてある。
 敵の数も、把握済みだ。なれば焦ることはない。
「天使サマのお出ましだぜ! おまえら配置に付け!」
 そう告げるファニーに、仲間達は頷いた。
「ここで奴らを迎え撃つ! ビビるなよ!」
「わかってる……けど」
 『孔雀劫火』天城・幽我(p3p009407)が、ごくり、とつばを飲み込みつつ、言う。
「これが、天使……!?
 何て禍々しい姿……! これを天使と呼んでいいのかな……」
「ほんとだよ、あれじゃ、練達で遊んだホラーゲームとかで出てくる奴!」
 『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)が声をあげる。ルビーの感想はまさにその通りと言った所だろう。赤子のような身体をベースに、およそグロテスクに各パーツをつぎはぎされたような外見は、相手を「怖がらせる」ためのそれであったとしたならば、確かに成功したといえよう。
「あいつらが何なのかはわからないけど、これまで、深緑の事件で遭遇したタイプの敵じゃないのと、敵意を持ってることだけは分かる……!」
「うん。目の前にいるだけで、ひしひしと伝わってくる。
 あの天使たちが持って居る害意だけは……!」
  ルビーの言葉に、幽我が頷いた。不気味な天使たちから、その思考自体は感じ取れないが、しかしこちらに対しての敵意・害意のようなものは、嫌というほど感じ取れた。
 殺す。殺す。鏖殺する。そう言った、明確な意思は、肌にピリピリと感じるほどに――それを、一般のものは恐怖と呼ぶのだろう。
「くっ……!」
 その気配にわずかに押されるように、ぐ、と拳を握る『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)。一体でも、心に傷を負ってしまうほどに、悍ましい敵。それが、20という数をそろえて進軍してくる様は、常人ならばトラウマになってもおかしくはない光景だ。だが、それに負けぬ勇気を、イレギュラーズ達は持ち合わせている。そして絆も。それを示すように、『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は、優しく蛍の手に、己の手を重ねた。言葉はいらない。ただ微笑むだけで、伝わる。
 自分が傍にいると。
 貴女が傍にいると。
 だから大丈夫だと。
「うん……ありがとう、珠緒さん。
 ボクたちが負けたら、村の人達が大変な目に合う。
 やらなきゃいけない時があるの、女の子にだって!」
「ええ、もちろんです、蛍さん。
 一緒に、立ち向かいましょう。あの、悪夢に」
 ずず、ずず、と天使が這う。
「たす、たすけ」
「ころす、ころす、ころし、て」
 天使がさえずる。天使が歌う。
 それは悲しい呪歌か。生あるものが憎いのか。
「天使というには醜悪だけれど、こういう天使もいると言われればそうなのかもしれないわね。
 まぁどのみち知性を感じられないのだし、そこら辺にいる獣未満と言ったところでしょうか。
 まだ獣の方が知性も可愛げもあるしね」
 ふぅん、と鼻を鳴らす『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)。掲げたその手に侍り師は、真紅の大精霊。その身を守るために侍りしは、紅蓮の大精霊。
「天使さん天使さん、醜い天使さん。どこへ行くと言うの?
 この先に行く前に、私達の遊び相手になってくださらない?
 ……なーんて♪ フィニクス、ジャバウォック、みんな、ひとつになりましょう」
 笑うようにいう刹那、精霊たちはフルールの身体と合一した。炎まとう、美しき精霊。半精霊のフルール プリュニエ。
「あなた達では無粋ですけれど。
 さぁ、夢伽を共に謳いましょう?」
 そう、誘うように手を掲げるフルール。かくしてそれが、戦いの合図となった。

●天使の殺戮
「おおおおああああああいいい」
「ふむふむふぃむふみみみぃ」
 奇声をあげながら、天使たちがなだれ込む! それは、アポカリプスの光景か。破滅の悪意が形を持って、生きるものをむさぼり食らうために現れたような、そんな恐ろしい光景だ。
「ああ、これらは食べて良いものだよ」
 キャハハ、と子供のような笑い声が響いた。武器商人の纏う『影』から聞こえるそれらは、目の前の天使とはまた違う、本能的な何か忌避の感覚を覚えさせる。
「さあて、我(アタシ)が拾おう。
 なるべく拾うが、零れ落ちたのはよろしくねぇ。ヒヒヒヒヒ!」
 武器商人が、ゆっくりと、歩む。怪物たちの群の目の前に立ち、その怪物の腕を緩やかに振るった。
「漏れた敵は、ボクが引っ張るから!」
 蛍が頷き、対照的に駆けだす。ぶわり、と蛍の背後で、何か恐ろしい気配が膨らんだ気がした。それは敵ではなく、武器商人の撒いた声であったから、蛍はそれを振り切る。
 なだれ込む天使たちは、武器商人に向けてずずずず、だだだ、と駆けだす。ヒヒ、と武器商人が声をあげた。悲鳴ではない。笑ったのである。
(ひとまず、武器商人さんに預けて大丈夫……拾えなかったのは、ボクが請け負わなきゃ!)
 蛍が胸中で声をあげると、ぐっ、と拳を握る。桜が、蛍に力をくれる。同時に、蛍を中心に舞い散る桜吹雪が、天使たちの注意を引いた。
「そんな風に生まれたって、桜の魔力からは逃れられないでしょ?
 ボクもそう。でも、あなた達に、ボクの桜には触れさせてあげない!」
「さくらさくさくさくさらさくららららぁぁ!」
 天使が手にした凶悪な獲物を振り上げて、蛍に襲い掛かる。振り下ろされた己のような鎌のようなそれを、蛍は手甲、そこから展開した力場で受け止める。どしん、と重い感触が、力場越しに伝わる。一匹目は防いだ。が、二匹、三匹と、親を求める子のように、とはあまりにも綺麗すぎるが、子供達はのしかかってくる! 重み、そして痛みが、蛍の体の内を駆け巡った!
「蛍さん!」
 珠緒がサポートに入る。元々二人一組で動く前提だ。蛍がひきつけ、珠緒で撃つ。蛍への負担が大きいが、それをなすのが蛍の矜持――傷つく姿を見るのは心苦しかったが。
 いずれにせよ、珠緒はその背に輝く光の翼を展開した。光翼・乱破。光の翼は、珠緒のそれのように美しい桜色。蛍の愛しい桜の色。
「散りなさい! あなた達が触れて良い子ではないのですから!」
 桜色の翼が、天使たちを切り刻む。珠緒の斬撃に次々と散り、そしてあぶくのようにずぶずぶと消えていく天使たちの死体。
「ありがとう、珠緒さん!」
 蛍は頷いてから、
「みんなも! 迎撃お願い!」
 叫ぶ。駆けたのはイナリだ。その手の爪を、鋭く変化させ、一撃必殺の刃となす。振るわれた爪が、天使の身体を抉り、
「きゅういいいたいいたいいたいいいいい」
 悲鳴をあげさせる。その醜悪さに、イナリも思わず眉をひそめた。
「趣味の悪いわね……!」
 ぶおん、ともう一どちら強く爪を振るう。切り裂かれた天使が、あぶくとなってとけて消える。
「不安定……まだ試作段階かしら!?」
 地面に手をついて、イナリは逆立ちの要領を見せると、そのまま隣にいた天使を蹴りつけた。もちろん、その脚は鋭い槍のごとくだ。胸を貫かれた天使が、どう、と倒れる。
「あの連中、この天使で使用している素材も醜悪だし、見た目の醜悪、やってる事も醜悪だし、性根が腐り落ちてるじゃないのかしらね……もう最悪だわ!」
 ぎり、と歯ををかみしめるイナリ。
「ほんとだよぉ!」
 ルビーが苦笑を浮かべつ、そういう。手にした大鎌状態のカルミーナ、その刃にしがみつく二体の天使に、足を止められていた。
「気持ち悪いし……とにかく気持ち悪いっ!」
 ルビーがどうにか、カルミーナを振るう。ぶおん、と音を立てて、刃から天使が振り下ろされた。受け身もとらずに派手に転倒するが、すぐに起き上がり、
「おああああああ!」
 雄叫びをあげてどたどたと走り出す!
「こない、でっ!」
 カルミーナを力強く横なぎに振るった。横一文字に切り裂かれた天使が、泣き別れの胴体を見つめながら、
「ころころ、す、された、よか、よかた」
 べちゃり、と泥のように鳴って消える。
「調子はどう? 武器商人さん!?」
「まだまだ耐えられるねぇ。
 藤野の方には頼もしい相棒がついているけれど、アールオースの方、はどうだい?
 我(アタシ)と藤野の方で大半は抑えているけれど、それでも逸れていくのはいくだろう?」
 ヒヒヒ、と武器商人は笑う。その衣には、傷一つついてない。いや、ダメージは蓄積しているのだろう。だが、その存在を侵すことは、この程度の低級の存在には不可能なのだろう。
 さておき、蛍、武器商人が引っ張り切れなかった敵は、ルビーが掃討することになっている。
「大丈夫! しっかりがんばってるよ、二人とも!」
 にっ、と笑うルビーに、武器商人はヒヒヒ、と笑い、蛍は視線を向けて微笑んだ。
「いやはや、しかし、心地の良い存在ではないねぇ、長月の方。
 どんな気持ちで、こんな存在を生み出したのだろうねぇ?」
「さぁ、て、ね?」
 武器商人の言葉に、イナリはふん、と鼻を鳴らしつつ、天使に切りかかる。
 雪崩のごとく襲い来る天使たち。武器商人と蛍、そしてルビーによる盾役の力を借り、攻撃メンバーの決死の攻撃が続く。
「私に触れないで、無粋な獣さん?」
 フルールは薄く笑うと、その炎と化した腕を揮う。爪のような形状となった炎が、天使の肉を切り裂き、そのまま強烈な熱で焼き尽くした。
「あああるるるるぐらららら!」
 奇声をあげて駆けよる天使へ、フルールは薄い笑みを撃変えたまま、一礼をするようにその手を振るう。斬撃が軌跡となって、炎を描いた。世界を断ち切る様な、炎の斬撃。紅蓮閃燬。それは周囲の空気もろとも天使を焼いて、そのままあぶくへと散らせた。
「泡に消えるなんて、おとぎ話の人形のようですね。
 ああ、ああ、でも残念。あなた達、きっと願いを叶える事はできませんわ?」
「こいつらの願いってのは、何なんだかな?」
 ファニーが構えるレーザー砲に、強烈な魔力が充填される。刹那の間、放たれた魔力砲撃が、天使を飲み込み消滅させた。
「ロクなもんじゃなさそうだが」
「そうだね。何を考えているかわからないけれど、殺意だけは伝わってくる……!」
 幽我の掲げたその手、指の先から、放たれる、一筋の雷。それが空中で増幅し、巨大な雷の鎖のごとく、宙を舞った。振るわれる鎖が、天使たちを打ち据え、その強烈な雷で焼ききる!
「止めをお願い!」
「ええ、承知しました」
「任せな」
 フルールとファニーが、止めの一撃放つ。強烈な、炎の斬撃。そして、魔力の砲撃。放たれたそれらが、「うるいああああ」と悲鳴を上げる天使たちを斬り/燃やし/飲み込み/消滅させた。
「本当に、不気味な奴らだ……ちゃんと、倒せてるのかな……?」
 幽我が不安げに言うのへ、ファニーが笑った。
「とけた死体が集まって再生とかか。確かに生命力はありそうだが、そこまでではないだろう」
「うん、そう、そうだよね……」
 胸をなでおろす、幽我。フルールが頷く。
「敵の数もあと少しです。このまま一気に、制圧してしまいましょう?」
 うっすらと微笑むフルールに、二人は頷いた。かくして、最後の制圧戦が開始される。引き続き、武器商人を筆頭に盾役が敵を引き付け、その隙をついて叩く。当初こそ、数の問題で相当数の敵が盾から外れて攻撃をしていたが、数を減じた現在となっては、武器商人の声から逃れられるものなどはいなかった。
 盾役は不要と感じたか、蛍、ルビーも積極的な攻勢に入り、火力面が厚くなった一行の攻撃を、天使たちは耐えられるはずもない――。
 イナリの振るった爪が、天使の首を斬り飛ばした。
「ころすころすころす、します、してしててててころして」
 本能か執念か、首一つになってイナリに食らいつこうとするそれを、幽我の放った炎が焼き尽くす。
「大丈夫?」
「ありがとう。あとわずかよ!」
 イナリの言葉通り、敵の数は残り2,3体。その内の一体も、たった今フルールの爪によって、泥と消えた。
「楽しい舞踏会でしたけれど、やっぱり、ダンスの相手には無粋すぎますね?」
 炎の半精霊が笑うのへ、天使たちは呻いた。恐怖ではない。ここにきてなおの事、下された命令を、目につくものをすべて殺せといったような、そういうものから逃れられないのだ。
「いっそ哀れでもあるが。ま、そんなものに生まれちまったのを恨むがいいさ」
 ファニーの放つ魔弾が、天使の額を貫いた。
「あ、あ、あり、が、と」
 ばぢん、と天使がはぜる。ファニーは眉をひそめた。
「……いっちょ前に、人語を話そうとしやがったか? 何なんだよこいつ等は……?」
 その問いに答えるものはいない。残る一体が、蛍に襲い掛かった。
「ころす、して、ころす、してしてして」
 懇願するように喘ぐそれは、然り強烈な力で蛍の手甲を握りしめる。
「お望みとあらば――」
 珠緒が呟く。その手を振るうと、指先から離れた血は、投げナイフのように鋭く飛び掛かり、天使の首筋を貫いた。とん、と衝撃のままに、天使が倒れる。
「あいあ、と」
 ぶぢゅる、と天使が崩れてとけた。
「大丈夫ですか? 蛍さん」
「うん……ありがと。誰かを守るための戦いなら、ボクは頑張れるよ」
 捕まれていた手甲をなでながら、蛍は笑った。
「これで終わりだね? いや、まさに怒涛の勢いだった」
 武器商人がそういう。気づけば敵は、全てが掃討されていた。イレギュラーズ達は、襲撃をしのいだのだ……。
「あ、村の方に被害がないか、一応見てくるよ!」
 幽我がそういうのへ、仲間達は頷いた。戻ってきた幽我の語る事には、村への被害は一切なかったそうだ。
「それにしてもこいつら何処から現れたんだろう。
 深緑で戦った相手はもっとこう、この国に似つかわしい感じの植物の魔物とか妖精っぽいのだったけどなんだか異質だよね?
 これを放ったヤバいのがいたりするのかな……?」
 ルビーが首をかしげるのへ、ファニーが頷く。
「ああ、なんだか得体のしれない奴が、動いてるのかもしれねぇな……」
「そうね。『報告』はしっかりしておかないとね」
 イナリが頷くように言った。
 深緑の異変の最中、現れた異形の敵。
 果たしてその正体とは何なのか。
 未だわからぬ中、しかしその第一波を迎撃できたことだけは、確かであった。

成否

成功

MVP

桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 天使たちは消え。
 しかして、その正体は謎のまま――。

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