シナリオ詳細
ドラゴン生ハム原木戦争
オープニング
●ドラゴン生ハム
ドラゴン生ハムをご存じだろうか――?
もちろん、本当に竜種を用いた生ハムではない。亜竜(ワイバーン)の肉である。デザストリアン・トロウルと呼ばれる、覇竜領域に生息するトロウル達の作る料理だ。
料理、と言ったが、これがなんとも、そう言いづらい。というのも、トロウルは料理を作っているつもりなどはないのである。
トロウルが食い散らかした、亜竜の肉。これを、トロウル達の住処である洞窟に捨てられたもののうち、岩塩の特に強くしみ出すエリアに捨てられたものだけが、奇跡的に熟成され、ドラゴン生ハム原木となるのだ!
ドラゴン生ハム原木は、淡白な味である亜竜の肉を使いながらも、うまみが凝縮され、まさに『肉を齧っている』という味がするのだという。さらに、トロウルの住まう洞窟の岩塩もまた貴重にして美味なものであり、この塩気がうつったドラゴン生ハムに調味料はいらず、と言われている!
そしてこのドラゴン生ハム原木であるが――トロウル達が食べる、というわけではない。知能なきトロウル達に、ドラゴン生ハム原木を食べるという文化はない。トロウル達は、よりによって、この美味なるドラゴン生ハム原木を――武器にするのである!
棍棒に!
するのだ!
ドラゴン生ハム原木、それは熟成され、ギュッと身は締まり、相応の重みを誇る! 故にトロウル達は、「なんかわからんが硬くて重い=棍棒だ!」と思い込み、それを振り回してさらに亜竜を狩るのである――!
そう、ドラゴン生ハム原木とは――おいしい棍棒なのだ――。
「ゆるさーーーーーーん!!!!」
と、あなた達の目の前にいた、リザードマン風の亜竜種の男が言った。ふくよかな腹。大きな顔に似合わぬ小さな丸眼鏡。外見をどうこう言うわけではないが、「グルメな方ですか?」と聞きたくなるような風貌。
「というわけで、今回の依頼者の、鳳羅(ホウラ)……」
「ミスター・グルマンです!」
「……ミスター・グルマンさんだ」
と、フリアノンの戦士、亜竜種の真我(マナガ)が紹介した名前を、鳳羅あらためミスター・グルマンは否定した。何かこだわりがあるらしい。
「許せないとは思えませんか! あなた方も!
あの! あの! 究極の美味の一つとして私が勝手に数えている、ドラゴン生ハム原木を、棍棒にするとは!!!
冒涜! 絶対に冒涜!!!!」
と、グルマンがじたばたする。真我が困った様子で見つめる。
真我から、ローレットに依頼をしたい亜竜種がいる、と聞いたのはつい先日の事だ。それならば、と聞いてやってきてみれば、初見で聞かされたのはドラゴン生ハム原木の話と、ゆるさーん、の絶叫。これにはあなたも困った顔をしてしまう。
「……すまん。彼はこう、中々……困った方でな」
真我が頭を下げた。
「とは言え、彼のいう事も、中々もっともでな。
彼の舌は確かだ。彼がうまいといったものは確かに、極上に美味い。
食に関しては、我々亜竜種にとっても共通の趣味だ。外のように、飽食・満漢全席、とはいかんが。それでも、美味いものは活力になるからな」
「私から言わせてもらえば、ローレットの皆さんには、もっと外の食材や料理法をもたらしてほしいものですな」
と、グルマンが言う。
「安定した外との交易路が発達すれば、それも解消できるのでしょうが……いや、今はそんな事より! ドラゴン生ハム原木の話です!」
「まぁ、話の流れは大体予想がついているだろうが。皆には、ドラゴン生ハム原木を採取……いや、奪取か? とにかく、持ってきてもらいたいのだ」
「トロウル共の巣に乗り込んで、泥棒のような気持になるかもしれません!
ですが、そもそも食べ物を粗末にしているのは奴らです!
そういう奴は死んでかまいません!!!!」
過激な事を言うグルマン。真我が困った顔をした。
「すまん。悪い人ではないのだ……食べ物のことに関すると見境がないだけで。
だが、ドラゴン生ハムは、実際に美味い。俺も食べたことがあるが、あれはそう、まさに『肉を食ってる』という濃厚な味だった……。
そのまま食べてもいいのだが、甘みの少ないメロンあたりにのせて食べるとな、実にこう、合う」
じゅるり、と真我がつばを飲み込んだ。まぁ、とにかく、おいしいらしい。
「まぁ、やることはシンプルだ。デザストリアン・トロウルの巣に入り込み、とりあえずトロウル達を討伐してくれ。
ああ、彼の言う事じゃないが、罪悪感を感じる必要はないぞ。元より、我々にあだなす怪物でもある。どうせ討伐対象だ」
わっはっは、と真我は笑う。
「つまり……害獣退治のついでに、生ハムも持ってこい、って事?」
あなたの仲間である、ローレットのイレギュラーズが呆れたように言うので、真我は、また大きく笑った。
「そうなるな! まぁ、手に入れた生ハムは食っても構わん! 最低一本持って帰ってきて、グルマンさんに渡せばそれで満足だろうさ。
もちろん、俺に土産に持ってきてくれてもいいがな!」
その言葉に、あなたは苦笑する。なんとも妙な依頼だが、周囲の治安維持と考えれば、決して悪い仕事ではないだろう。
「了解しました。では、生ハムをとりに行ってきます」
冗談めかして言うイレギュラーズに、真我は頷いた。
「頼みましたぞ!」
と、グルマン氏もぶるんぶるん頷く。
さて、そんなこんなで始まった、トロウル討伐……いや、ドラゴン生ハム原木戦争。
その結末や如何に?
- ドラゴン生ハム原木戦争完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年04月28日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●開戦
薄暗い洞窟の中には、ヒカリゴケや、日光を湛えて光る特殊な植物などが壁にくくり付けられている。日中ほど、とはいかないが、特に差し付けなく動ける程度には明るい洞窟内に、ぬっ、と巨大な影が動いた。
例えるなら、オランウータンのような類人猿だろうか。とはいえ、知能の類は観られない。その眼はぎらぎらと輝いていて、凶暴さと凶悪さを如実に表している。手にしている棍棒は太く、重量感を感じさせる。後なんかおいしそうなにおいがする。デザストリアン・トロウルという、凶悪な怪物たちだ。
さておき、トロウルはのしのしと洞窟内を進む。洞窟内は、天然のそれを利用しているのだろう。非常に大きく、広い。そんな広大な洞窟をノシノシ進むと、やがて大きな広場に出た。そこには、トロウルの仲間達が居て、地面に転がっていたおいしそうなにおいがする棍棒を、不思議そうな顔で見つめていた。
もう隠しておく必要などはないので宣言するが、彼らの使っている棍棒は、肉の塊である。ドラゴン生ハム。その原木と呼称される。生ハムの塊だ! よりにもよって、このトロウル共は、おいしいおいしい生ハム原木を武器にしてやがるのだ! 許せん!
と――がさり、と、音がした。トロウル達は、流石覇竜領域で生きていけるだけのことはあり、気配と危機には敏感であった。果たして、トロウル達が棍棒……というか生ハム原木を持ち上げて警戒態勢をとる。がう、とトロウル達が吠えれば、広場の入り口あたりに、何か小動物の姿がある。子猪(うりぼう)とか、ドラネコさんとか、そう言った生き物だ。フリアノン・リトルワイバーンの姿も見える。なぜこんな所に? といった疑問は、トロウル達は抱かない。目の前に現れたのは、獲物だ。ならばトロウル達は、雄たけびを上げ、その獲物を狩るのみ!
ぴゅう、と悲鳴を上げて、うりぼうたちが逃げ去る。ドラネコさん達はぱたぱたと空を飛び、ワイバーンも怯えた様子でドタバタと走った。トロウルがその後を追い続ける。雪崩のように迫りくるトロウルは、なるほど、驚異的に見える。ワイバーンを狩るというのも、嘘ではないのだろう。
戦闘能力は充分――だが、知能のほどは。さほど良くはないらしい。
トロウル達が十字路に差し掛かったその時! 左右から撃ち込まれた攻撃! トロウル達が浮足立つ! 奇襲攻撃をされた、と考えるほどの知能はない。何かわからんが、とにかく攻撃された、という事だけは分かった!
「お前達!」
と、声が響いた。
「生ハムを! 粗末に! するな!」
でーん、と効果音がなりそうな感じで仁王立ちするのは、生ハムにキラキラとした視線を向ける、『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)の姿であった――。
ここで少し時間を戻そう。そして視点も、Я・E・D達イレギュラーズのものへと戻る。
さて、一行は、トロウルの洞窟を進んでいた。ダンボールを被りながら。
「皆ダンボールは被ったわね、行くわよっ!」
がさ、とダンボールの中から宣言するのは、『炎の剣』朱華(p3p010458)である。ただのダンボールと侮るなかれ。気配遮断効果のある不思議なアイテムである。
「凄いですね……ダンボール。本当に、風景に溶け込めている感じがします……!」
感動するように言うのは『未来を願う』ユーフォニー(p3p010323)だ。
「こんな洞窟の中にダンボールがあったら、本来は違和感すごいと思いますけれど……」
「そこがダンボールの力よね!」
なんか得意げな朱華。なるほど! とユーフォニーが頷く。この状況を素直に受け入れている。良い子なのだろう。
「さておき、作戦は頭に入っているかい?」
と、Я・E・D。いつものように冷静なように見えて、頭の中では生ハムでいっぱいだった。
「いいかい、今回の作戦は、生ハムだ。何せ生ハムだからね。生ハムを回収するためなら、ちょっと野蛮な事も許される。
というか、食べ物を粗末にするとか酷いやつらだよ!!
でも粗末にされてる食べ物があるなら食べても問題無いって事だよね?
うん、今決めた問題なし。わたしは絶対に、生ハムを食べる。これは決定事項」
「それは作戦なのか?」
『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が唸った。
「だが、気持ちは分かる……何せ生ハムだ。しかも、ワイバーンの生ハム……なかなか食べられたものではない。
それが、原木で? 10個? そんなにあるの? すごい。
一個は提出するとして、9個? まぁ、一個はお土産で真我に渡すとしても8個? 生ハム原木が? 8個?
すごい、生ハム原木という事は、生ハム原木という事なのだぞ?」
著しい知能低下の様相を呈しながら汰磨羈が言うのへ、Я・E・Dが頷いた。
「その通りだよ。家に生ハム原木があるだけで、わたしたちは強く生きていける」
「天国か~~~~~?」
じゅるり、と汰磨羈はつばを飲み込んだ。
「ふふ。お気持ちは分かります」
『アーリオ・オーリオ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(p3p010347)が、うんうん、と頷く。
「ええ、良いですよね。生ハム。サラダにパスタ、チーズも合わせて。
そして何と言っても、アルコール……。
所で私、葡萄酒を作るギフトを持っているのですが」
「真実(マジ)か」
「あなたが仲間で本当に良かった」
汰磨羈とЯ・E・Dが心の底から嬉しそうにいう。
「ふふ。皆楽しそうで、エルも、嬉しいな、って思います」
『射抜く氷柱』エル・エ・ルーエ(p3p008216)がにこにこと笑って言う。
「エルも、いっぱい生ハム、食べたいです。
サラダ、パスタ、ピザ、お寿司……考えたら、お腹がすいてしまいました」
エルちゃんは可愛いが、エルちゃんも生ハムを食べる事しか考えていない。
「すげーよな! ドラゴンハム! ドラゴンじゃなくてワイバーンらしいけど、とにかくハム!」
『紲家のペット枠』熾煇(p3p010425)が、ぶんぶんと音を立てて頷いた。
「喰いたいよな! 家に持って帰って皆と食べたい! いい仕事だな! 生ハムを持ってくると生ハムを食えるんだ!」
熾煇くん、熾煇くんも生ハムを食べる事しか考えていない……。
「まぁ、いけませんよ、皆さん」
『想光を紡ぐ』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)さん! おかあさんは違いますよね! 真剣に害獣退治の事を考えて
「食べ過ぎは良くありません。塩分の取りすぎにもなりますからね。
生ハム原木は保存もききますから、毎日少しずつ、楽しんで食べましょうね?」
生ハムを食べる事しか考えていない。
まぁ、流石に本当に、生ハムを食べる事しか考えていないわけではない。彼らはプロフェッショナルである。作戦も事前に立案済みだ!
「えーと、リディア、エイミア、気をつけてね?」
少し心配そうに、ユーフォニーが送り出すのは、二匹のドラネコ……ファミリアーとドラネコ型の自律型ドローンだ。
「二人には、敵を引き付けて、ここまで連れてきてほしいの」
つまり、囮である。丁度十字路のど真ん中にいる一行は、この先にいるトロウル達を、ここ迄おびき寄せてもらうつもりなのだ。
その後は、十字路の左右側の通路に分散して潜み、挟み撃ちにする。エルもうりぼうのファミリアーを呼び出していたし、
「お前は食われないように気をつけろよ! ちゃんと助けるから、危なくなったらたすけてー、って言うんだぞ!」
と、リトルワイバーンに熾煇が言う。ワイバーンはくわ、と鳴くと、勇敢なる仲間達を連れて、洞窟の奥へと消えていく。
「よぉし、あとはダンボールに隠れて待てばいいわね!」
ダンボールに全幅の信頼を置く朱華がいう。ダンボールは無敵。
「うむ……おっ、早速おいしそうなにおいが……あ、いや、敵の気配がしてきたぞ!」
汰磨羈が声をあげると、確かに、遠くの方からドタバタと何かがやってくる気配を感じた。一行は、いそいそと左右に分かれると、そのまま攻撃態勢を維持しつつ、敵の登場を待つ。
果たしてほどなくして、現れたのは10体のトロウル達だ! 目の前の囮に夢中なトロウル達は、此方の気配には全く気付かない。気づかなければ、そのまま攻撃するのみ、である。
「よし、行くわよ! 一斉攻撃!」
朱華の号令の下、一行の奇襲攻撃がさく裂する! 炎、魔力の奔流、或いは銃撃。あらゆる一撃がトロウル達を狙い、穿つ! トロウル達は、体力充分の状態でこそその本領を発揮する。それを発揮させる前に、体力を削ってしまおうというのが、奇襲攻撃の肝だ。果たしてその作戦は、充分に功を奏したといえるだろう。
「お前達!
生ハムを! 粗末に! するな!」
Я・E・Dが叫ぶ!
「ホントに生ハムの原木を棍棒代わりに……っ!」
朱華が、怒りをあらわにするように言った。そう、奴らは、決してやってはいけないことをしたのだ。生ハム原木を、ああ、棍棒にするなんて……!
「それはあんた達が棍棒代わりに使っていいモノじゃないのよ!
大人しくドラゴン生ハム原木を寄越しなさいっ!」
叫ぶ朱華! そして浮足立つトロウル達を確認してから、エルが声をあげた。
「みなさん、突撃、です!」
その言葉に、仲間達は突撃! 果たして、ドラゴン生ハム原木戦争の火ぶたが、ここに切って落とされたのだ!
●生ハム原木戦争
「一気にドカンとやってしまうのが楽ではありますが、目標は生ハムですからね!
粘り強く戦いつつ勝利の生ハムを手に入れましょう!」
アンジェリカの言葉に、仲間達は頷く。敵はトロウル、目指すは生ハム。狙うは生ハム、食べるの我々。
振るわれる生ハム! 飛び交う生ハム! 戦場は、生ハムで生ハムを洗う生ハムの様相を呈していた――!
「わけが分かりませんね」
マグタレーナが、ふふ、と笑いつつパンツァーファウストを構える。いや、これはその形をしたクラッカーである。ばぁん、と強烈な音が鳴り響き、トロウル達が浮足立つ。
「さぁ、隙ありですよ、皆さん」
マグタレーナがパンツァーファウストをほうり捨てると、手にした弓を引き絞る。放たれた矢が、トロウルの額を貫くや、絶命したそれがどう、と倒れる。トロウルの原の上に落下する、生ハム。トロウルを倒すと生ハムをドロップするよ。マグタレーナが、す、とそれを取り上げると、
「一つ確保いたしました~。
あとはご随意に」
にこり、と微笑む。
「ふぁふぁっふぁ、ふぁふぁふぇふぇ」
と、Я・E・Dが言うので、マグタレーナが小首をかしげた。
「今、なんと?」
「ふぁふぁっふぁ、ふぁふぁ、ふぁふぁふぇふぇっふぇふぃっふぁ!
ふぁんふぉふぁふぁふぁむふぁ、ふぁいふうふふふぁふぁ」
というのも、Я・E・Dは生ハム原木にかじりついているのである。トロウルがすっげぇ嫌そうな顔をしながらぶんぶん生ハム原木を振るうが、Я・E・Dは離してなるものか、と文字通りに食らいつく。
「ふぁふぁー! ふふぁふふぁ! ふぉふぃふ!!」
生ハムにかじりつきつつ、げしげしとトロウルを蹴るЯ・E・D。
「うーん、食欲のなせる業……」
汰磨羈が感心したように頷く。さておき、振るわれた生ハムを紙一重でよけながら、ふわりと漂う塩気のある肉の匂いにじゅるりと涎を飲み込む汰磨羈。
「ええい、生ハムを振るな生ハムを!
洗井落雲が「生ハム原木って武器になりそうだな……トロウルに振らせるか」って思ったからって本当に振るうな!
勿体ないだろうが!」
と、トロウルに至近距離から霊撃をぶちかます! トロウルだけを焼く雷は、うまい具合に生ハムを避けて、トロウルの命だけを奪った。ぽろり、と落ちて生ハム原木を、汰磨羈はキャッチ。
「おお、いい匂い……これでしばらく酒のつまみには困らなさそうだな!!」
一方、ユーフォニーはハチワレにゃんこのチャームをきゅ、と握りしめつつ、声をあげた!
「今井さん、おねがいします!」
と、その声に応じた係長の今井さんが何処からともなく現れ、その書類を鋭いナイフのように投げつけた! トロウルの体毛を、皮膚を切り裂き、そのまま命をもかりとる書類は、先月だし損ねて経費にならなかった領収書だ! 今井さんは異様に機敏に飛び上がると、絶命したトロウルがハムを落とす寸前にドロップ! そのまま名刺を差し出すように、ユーフォニーに差し出して見せた。
「いつもありがとうございます……あ、今度、お中元で生ハム送りますね」
そう言って笑うユーフォニーに、今井さんは素敵な営業スマイルを浮かべると、虚空へと消えていく。
さて、如何においしい生ハムと言えど、歴戦のイレギュラーズ達の敵ではない。生ハムは次々とその数を減らし……いや、間違えた。
さて、如何に亜竜をも狩るというトロウルと言えど、歴戦のイレギュラーズ達の敵ではない。それに、今回は生ハムがかかっているので、イレギュラーズ達の力の入れようも違う。トロウル達は次々とその数を減らし、代わりに生ハムを残していった。
「いいペースですね。食前の運動にもちょうどよいです」
アンジェリカが言う。とはいえ、生ハムでも殴られると結構痛い。一応、生ハムとは言え普通の武器としてのデータがあるのだ! というわけで、殴られた傷はアンジェリカが癒している。
「……生ハムで殴られる……いえ、生ハムを叩くのって、良いのでしょうか?
もしかして、身がしまるのでしょうか……? だったらこう、もうちょっと殴られて……?」
美食の追及には痛みが必要なのかもしれない。いや、でも生ハムで殴られるのってちょっと嫌だなぁ。
「アンジェリカさん、エルは、生ハムをカチコチにして、保存しますね」
エルがにこにこと笑って言うので、アンジェリカもにこにこと笑った。
「ええ、ええ。その場合は急速冷凍をすると、風味が落ちませんよ」
「エル、がんばって、きゅうそくれいとー、します!」
ばっ、と両手をあげるエル。同時、現れたのは氷の子熊だ。子熊はがおー、と吠えると、トロウルに向けて突進! その体躯でトロウルを吹き飛ばす! 同時に、待とう冷気が、トロウルを、そして生ハム原木をカチカチに凍らせた。子熊はそれをぱくりと加えると、とことこと歩いて、エルの所へと持ってきた。
「ありがとう、です。いいこ、いいこ」
にこにこと笑いながら、エルが子熊をなでなでする。
「トロウルー! うぉー、あれがドラゴンの生ハムかぁ!
ドラゴンも違う種類のドラゴン食ったりするから、ワイバーンも食えるんだろ? 後で余ったやつを一緒に食おうな!」
囮の大役を務めたワイバーンをねぎらうように叫びながら、熾煇が殴り掛かる。拳の一撃が、トロウルを捉えた! 顔面を殴られたトロウルが、脳を揺さぶられふらふらと揺れる。そこに飛び込んできた朱華の灼炎の剣が、トロウルを焼き、そして切り払った!
「トドメよ!」
その言葉通りに、強烈な斬撃! だが、その一撃は生ハムを傷つけることはなかった! トロウルを憎んで生ハムを憎まず。
「よし、だいたいこんなものかしら?」
朱華が言う。あたりはすっかり静かになっていた。トロウル達は見事にせん滅され、まずは依頼の第一段階は完了。で、ここからが本題。
「えーと、無事な生ハム原木は、1,2……うーん、6つかぁ。流石に全部、とはいかなかったわね」
残念そうに言う朱華。すべてを回収……とはいかなかったが、健闘したといえるだろう。
「ふぁいふぉうふ、ふぉふぃふぇふぇうふぉふぉふぇんふふぁふぇふふぁふぁ」
Я・E・Dが生ハム原木をくわえながら言う。朱華が首をかしげた。
「今、なんて?」
「大丈夫、ボロボロになった原木も食べるから」
「うーん、食欲のなせる業……」
マグタレーナが感心する。
「あ、あと、岩塩とか、出来かけの生ハムとかも回収しておこう。もしかしたら、集落でも作れるかもだし」
Я・E・Dの言葉に、熾煇が頷いた。
「おー! 集落でも食えるなら便利だな!」
「そうですね。まぁ、原料のワイバーンの肉を確保するのは難しいでしょうが……」
アンジェリカが苦笑する。とはいえ、製法を確立しておくのは悪い事ではあるまい。
「じゃあ、岩塩もとってから、帰りましょう」
エルがにこりと笑う。完ぺきとは言わないまで、依頼は成功したのだ。後は、おたのしみタイムである。
●ドラゴン生ハム食べ放題
「おお、見事生ハムを回収できたようだな」
と、集落に帰ったイレギュラーズを待っていたのは、テーブルについてナイフとフォークを構えているグルマンと、エプロン姿の真我である。
「……完全に、生ハムを食べるつもりでしたね?」
ユーフォニーが苦笑する。
「まぁ、楽しみにしていなかったと言えばうそになる……とはいえ、ただ待っていたわけではない料理の下準備はしておいたぞ。
酒も、地元のもので良ければ、用意してある」
「まぁ、では、樽いっぱいのお水をいただければ、私が葡萄酒をご用意します」
アンジェリカがそういうのへ、真我は目を丸くした。
「本当か!? それは有り難い!」
「いいですな! 生ハムはお酒にもあう!」
グルマンさんがめっちゃ喜んでいる。
「では、私の分をとりあえず確保して、残りは五個……まぁ、全部は食べきれますまい、残ったものは皆さんへのお土産にしていただくとして、早速頂きましょうぞ!」
グルマンさんがそういうのへ、イレギュラーズ達が頷いた。
かくて、少しの準備の後。村の集会場の建物の一室に、ワインや地酒、様々な生ハムの料理が運び込まれ、テーブルをにぎやかに飾っている。
『いただきます!』
その声とともに、一同は生ハムをいただく。まずはシンプルに、そのままで。
「~~~っ!」
汰磨羈がかみしめるように、瞳を閉じる。
「美味い! まさに濃縮された肉のうまみか! 岩塩の塩気があるが、しかし辛くはない、まろやかなものだ……!」
「うん、思いっきり齧ってたけど、やっぱりおいしいね、これ」
Я・E・Dがぱくぱくと生ハムを口に運ぶ。
「凄いな! 本当に美味いぞ!」
熾煇がばくばくと生ハムを食べる。その隣で、朱華が上品に生ハムを口に運び、
「うん、これは――おいしいわ。その、こう――おいしい。うん、おいしい、おいしいという言葉だけが浮かぶ――」
語彙がない。
「そのままも良いです、けど、生ハムメロンもおいしい、って、エルは思いました」
にこにこと笑うエル。アンジェリカは、優雅にワインを一口。
「ああ、しっかりと締まったお肉の香り。葡萄酒で流すと、また何度も食べたくなるような……」
ほう、と満足げに笑うアンジェリカ。
「春キャベツを用意していますから、生ハムとサラダにして、皆さんも楽しんでください」
マグタレーナが差し出すさらには、生ハムと春野菜のサラダが盛り付けられている。ユーフォニーは、それをフォークで刺して口に運ぶと、
「おいしい……ドレッシングも必要ないくらいです……!」
「いやいや、見事なものだ。これも皆の働きのおかげだなぁ」
わはは、と笑う真我。美味しい、という気持は、この場で共通している。
果たして、生ハムパーティは、しばらく続いた。
覇竜領域の珍味は、イレギュラーズ達の舌を楽しませ、戦いの疲れをしっかりと癒してくれるのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆さんの働きに、グルマン氏も満足。
美味しい生ハムパーティは、皆さんの心も体も癒してくれたはずです。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です!
ドラゴン生ハム原木を採取してきてください!
●成功条件
すべてのデザストリアン・トロウルを撃破し、最低一本のドラゴン生ハム原木を回収する。
●特殊失敗条件
何らかの理由で、すべてのドラゴン生ハム原木がダメになる。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
デザストリアン・トロウル。亜竜すら狩りの対処にする、凶悪な覇竜領域の怪物です。
そんなトロウル達の巣には、奇跡的に熟成された亜竜の肉が放置されており、それを亜竜種はドラゴン生ハムと呼んでいます。
そんなドラゴン生ハムが食べたいミスター・グルマン。ついでに、近隣の害獣を追い払って、治安を維持したい戦士団。
二つの利害が一致し、ローレットに依頼をするか、という事になったそうです。
というわけで、お仕事です! 皆さんは、デザストリアン・トロウルの巣に侵入し、このトロウル達を全滅。
トロウル達が棍棒にしている、ドラゴン生ハム原木を回収し、持って帰りましょう!
ちなみに、ドラゴン生ハムは食べてもいいです。最低一本、原木を持って帰ってきて、グルマンさんに渡してあげてくださいね。
作戦決行タイミングは昼。エリアは広大な洞窟となっています。トロウル達が明かりをともしていますが、独自に用意すれば、より有利に立ち回れるでしょう。また、しっかりと準備をしておけば、奇襲攻撃などを仕掛けることも可能かもしれません。
その他、戦闘ペナルティなどは発生しないものとします。
●エネミーデータ
デザストリアン・トロウル ×10
覇竜領域に住む、巨大な毛むくじゃらの怪物です。オランウータンをでっかく凶暴に知能を低くしたようなイメージでしょうか。
基本的に集団で行動します。洞窟の1エリアに、10体まとまって待機しているでしょう。無策で近づけば存在を察知されますが、うまい事奇襲ができれば有利になるかも……。
特筆すべきは、やはり手にした棍棒……ではなくて、ドラゴン生ハム原木による殴打攻撃。硬くて重いので、相応に強烈なダメージを受けます。『渾身』の一撃も使用してきます。速いうちにHPを減らしてしまうのがいいかもしれません。
また、厄介なのは、強烈な攻撃をぶつけてしまうと、ドラゴン生ハム原木が破壊されてしまう可能性がある事です。壊れます。何せドラゴン生ハム原木なので。
というわけで、本シナリオに限り、「敵が戦闘不能に陥った場合の死亡判定は、ドラゴン生ハム原木が壊れるか否か」の判定になります。つまり、不殺で攻撃すればドラゴン生ハム原木は守れます。ちなみにトロウルは死にます。せちがらいね。
極端な話、すべてのトロウルを全力全開で倒したところで、一本くらいはドラゴン生ハム原木も無事に回収できるでしょう。でも、食べたいですよね、ドラゴン生ハム。食べたいときは、頑張って手加減してください。美味しいですよ。ドラゴン生ハム。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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