PandoraPartyProject

シナリオ詳細

港を開け、海へ行け! 或いは、悪魔の岩礁に覆われた街…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●悪魔の岩礁
 渇いた砂漠を幾つか超えれば、遥か遠くへ広がる海が見えて来る。
 ラサ、南端部。
 砂漠の終わり、海の始まり。
 かつては交易の拠点であったその場所には、古い港の街がある。
「港が廃れてしまったのには、当然なにかの理由があると思っていたが……行けそうか? “キングマンズポート”の船は性能がいいだろう?」
「いや、無理だな。これは酷い。うちの船は海運用で、冒険は管轄外さ」
 砂漠の立った男女が2人。ラダ・ジグリ (p3p000271)とジョージ・キングマン (p3p007332)である。
 2人の目的は港の視察だ。
 正確に言うのなら港予定地の施設……ということになるか。
 事の発端は、暫く前に開始された覇竜との交友だ。
 世界は広い。その中でも運送という面で言うのなら海洋に一日の長がある。
 しかし、砂漠をはじめとした陸路となれば話は別だ。
 そこに商機があると2人は踏んだのだ。
 例えばラサでは手に入りにくい木材を、海の向こうから仕入れたり。
 ラサで持て余している労働力を、海の向こうへ送り込んだり。
 目指すは豊穣・海洋とラサを結ぶ交易路の開通・拡大。ラダの商会“アイトワラス”とジョージ率いる“キングマンズポート”が他所に先んじて、それを成そうということだ。
 そのためには港が必要だ。
 それも、まだ他の商会の手が入っていない、新しい港が。
 そこで目を付けたのが、ラサの南端にある廃れた港跡地というわけである。
 港を0から造り上げ、10にするのは大変だ。
 しかし、10の港を100にするのなら幾らか楽だ。
「……地図にも古い資料にも名前が残っていないのは何が何でもおかしいと思っていたが」
 そう呟いて、ラダは港を……否、海中から道路、果ては家屋を打ち壊してまで突き出した黒い結晶体を見て溜め息を零す。
「見たことのない結晶だ」
 足元に落ちていた結晶体を手に取って、ジョージは顎に手をあてる。
 黒……僅かに透き通っており、水晶のような質感がある。
 家屋から突き出した黒水晶の中には、人が閉じ込められている。
 港町の中から近海にまで手あたり次第に突き立ったそれが、港の廃れた原因だ。
「ラダ、これは何だ?」
「おそらく“悪魔の岩礁”と呼ばれるものだ。砂漠に伝わる古い寝物語と思っていたが……まさか実在するとはな」
 “悪魔の岩礁”は砂漠に伝わる怪奇現象である。
 笛の音と共に現れた悪魔が、人の街やオアシスを一夜にして壊滅させるのだ。人のいなくなった街やオアシスは黒水晶に覆われ、誰も住めなくなってしまう。
 噂に過ぎないと思っていたそれが、こうして目の前に存在するのだ。
「……悪魔がいるなら、倒してしまえば良くないか?」
「あぁ、それもそうだな。昔からよく言う……一番怖いのは、結局人間だったってな」
 なんて。
 その時だ。
 言葉を交わすラダとジョージの耳朶を、高く澄んだ笛の音色がくすぐった。

●悪魔が来りて
 夜の砂漠を馬車が行く。
 手綱を握る盗賊姉妹は、チラと背後を振り返る。
 屋根付きの荷台には、都合6人の男女。長い距離を馬車に揺られ続ける砂漠の旅では、不慣れな者が体調に異変を来すことも多い。
 しかし、荷台に乗った6人はそんな様子を微塵も見せずラダから届いた手紙に視線を落としていた。
「さて、夜が明ける前には合流予定のオアシスに着く。その前にもう1度、手紙の内容を整理しておこうかの」
 そう言ったのは小柄な老婆、チヨ・ケンコーランド (p3p009158)だ。一見すればどこにでもいそうな老婆だが、その実態は商人ギルド・サヨナキドリ傭兵支部長を務める古強者である。
「目的は“悪魔の岩礁”に覆われた港の奪還。つまり、岩礁……黒水晶をばら撒いている原因の排除じゃよ」
 ほれ、とチヨは手紙と一緒に送られていた黒水晶の破片を取って、それを亘理 義弘 (p3p000398)へと投げ渡す。
 その隣に座ったジェイク・夜乃 (p3p001103)が、興味深そうに水晶へ視線を注いでいた。
「どうだ義弘? 砕けそうか? お前でも砕けねぇとなれば結構な大事だぞ?」
 ジェイクに問われ、義弘は水晶片を指で摘んで力を加えた。
 実に十数秒の時間を要したが、やがて水晶は乾いた音を立てて微塵に砕け散る。
「砕けるには砕けるがかなり硬いな。それに……っ! こりゃ【懊悩】と【魔凶】か?」
 黒く染まった指先を見下ろし、義弘は眉間に皺を寄せた。
「性質の悪い石ころだな。“悪魔の岩礁”を見るのは初めてだが実在したのか」
「安全なものなら高く売れそうだったのに残念だね」
 床に散らばる水晶の破片へ目を向けてアーマデル・アル・アマル (p3p008599)とイリス・アトラクトス (p3p000883)が言葉を交わす。
 “悪魔の岩礁”と呼ばれる黒水晶の特性は分かった。
 けれど、それが発生した原因が分からない。
「手がかりは無いのでしょうか? さほど大きい港ではないと聞いていますが、手あたり次第に探し回るのではいかにも効率が悪すぎますが?」
 暫しの思案の後、そう言ったのは蓮杖 綾姫 (p3p008658)だ。
 問いを受けたチヨは、手紙の2枚目を捲ってみせる。
「ほっほ。安心せい。“悪魔の岩礁”は人為的に発生したものじゃ。ある一族が代々継承している特別な魔術でな……おそらく術者が港のどこかに隠れておるじゃろ」
「何で知ってる?」
 チヨの言葉に目を見開いて、ジェイクは疑問を口にする。
 愉快だとでも言うように、チヨはくっくと肩を揺らした。
「亀の甲より歳の功じゃよ!」
 長く生きれば、それ相応に知識も増える。
 サヨナキドリ傭兵支部長ともなれば、集まる情報の量も質も桁が違うということだろう。
「つまり、術者を探して討てば良いと?」
「うぅむ。それだけでは不十分じゃの。港を探せば4~5ほど核となる“何か”が用意されておる。核は“本来そこに無いもの”であり、すべて同じ形をしておる必要があるそうじゃ」
 そして、そのうち1つは必ず術者が所持している。
 核とはつまり、術者が広範囲に魔術を展開するためのアンテナのようなものである。
 術者を倒し、核を破壊することで“悪魔の岩礁”はきれいさっぱり消え去るだろう。
「“悪魔の岩礁”は自動的に侵入者を襲う。今しがた確認できた【懊悩】と【魔凶】のほかに【石化】【混乱】【封印】もあるじゃろうな」
 タフな仕事になりそうじゃよ。
 そういってチヨは窓を開け、暗い砂漠へ視線を向けた。

GMコメント

●ミッション
港の安全確保

●ターゲット
・黒水晶の術者
ラサに古くからいる呪われた一族。
“悪魔の岩礁”と呼ばれる黒い水晶を出現させる術を使う。
“悪魔の岩礁”を維持するためには術者本人が近くにいる必要がある。
何らかの依頼を受けて、港を使えなくしたものと思われる。

黒水晶:神中範に小ダメージ、呪殺
 範囲内の対象に黒水晶を生じさせる魔術。

・“悪魔の岩礁”
港町一帯を覆う黒い水晶。
中には、水晶内に人や動物が閉じ込められているものもある。
水晶の中は近づく者を自動で迎撃するものが存在しているらしい。
射程は短いがその攻撃には【懊悩】【魔凶】【石化】【混乱】【封印】が付与される。

●フィールド
ラサ南端にある小さな港街(跡地)。
街中や近海には膨大な量の黒水晶が出現している。
“悪魔の岩礁”と呼ばれるそれは“核”となる何かを破壊しなければ消え去ることは無い。
“核”は術者本人が持っているものを含めて4~5つ。
“核”を破壊すれば、周辺の黒水晶は消失する。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 港を開け、海へ行け! 或いは、悪魔の岩礁に覆われた街…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年04月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
チヨ・ケンコーランド(p3p009158)
元気なBBA

リプレイ

●悪魔の岩礁
 遠くで聞こえる波の音。
 空は快晴。
 燦々と降り注ぐ陽の光。
 空へ視線を向けた『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は眩い光に目を細める。
「新参のうちにすれば中々博打な事業だが、ここで引いてはラサ商人の名折れ」
 ライフルを構え、スコープを覗く。
 スコープ越しに捉えたそれは、光を吸い込む黒々とした水晶だ。“悪魔の岩礁”の名で古くよりラサに伝わるそれが、港町の大半を覆い尽くしているのである。
「この黒水晶の術者はいったい何を考えてこんな事をしてんのかねぇ」
「これはまた悪質ね……完全に環境破壊だし」
 『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)と『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)が、町を覆う水晶を眺めて言葉を交わす。
「悪魔の岩礁……黒い水晶の近くに術者が居る筈、なのだな。ラサに古くからいる呪われた一族とやらはヒトの形をしたものなのだろうか」
 なんて。
 『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)の零した呟きが、乾いた風に吹かれて消えた。
 何はともあれ、遠目に町を眺めていても“悪魔の岩礁”が消え去ることはあり得ない。
「皆、準備はいいか? 始めよう」
 ラダの号令に応と返して、一行は町へと歩を進めた。

「さて。一大プロジェクトの始動だ」
 そう言って『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)は地面を蹴った。
 咥えた煙草の紫煙を燻らせ、その巨体が徐々に宙へと上昇していく。
 ジョージの隣を通り過ぎて、3羽の鳥が町の四方へ散っていった。それを見送り『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は、上昇を続けるジョージへと声を投げかける。
「思惑はともかく、先ずは術者を何とかしなければいけないってのは分かる……よぉ、なんか見えるか?」
「いいや。どこもかしこも水晶ばかりだ。地道に探すしかねぇな……悪いな、手間をかけさせる」
 ぐるりと町を見回してジョージは視線を眼下へ落とす。
 ジョージの見つめる先には、若い女と老婆の姿。
『厄斬奉演』蓮杖 綾姫(p3p008658)と『元気なBBA』チヨ・ケンコーランド(p3p009158)である。
「交易の活性化はラサに領地のある私にも縁のあるお話ですからね……いや、そりゃまぁ、お飾りの領主ですけども」
「ほっほっほ! サヨナキドリとしても販路の開拓は専門の部署を置いてあるくらい積極的じゃからな! ラサはわしの庭の様なもんじゃし一枚噛まぬ訳にはいかんじゃろて!」
 港町の開拓は、元々ラダとジョージの主導で始めた事業だ。
 しかし、町の解放には相応に危険が伴う。そうして、声をかけた結果集まったのが、この場に集った者たちというわけだ。
 それぞれ違った思惑はあれど“悪魔の岩礁”を排除し、港を解放したいという思いは共通している。
「……とは言ったものの。近づきゃ攻撃して来るってんだから、面倒臭い話だよな」
 慣れた手つきで安全装置を解除して、ジェイクは銃を前へと向ける。
 無造作に、しかし狙いは正確に。
 引き金を引けば、銃声が1発。
 放たれた弾丸が、黒水晶を撃ち抜いた。

●黒水晶の術師
 青い空に銃声が響く。
 久方ぶりに、波と雨以外の音を耳にした。
 ゆっくりと目を開けば、太陽の光が網膜に染みる。
「……あぁ、どれぐらいぶりだ? 覚えてないな。ここ暫くは暇だったからな」
 掠れた声で、男は呟く。
 それから“彼”は、ゆっくりと身体を起き上がらせた。
 拍子にパラパラと、男の身体に張り付いていた水晶片が零れ落ちる。
「たまには運動しないとな……って思ってたが、なんだこいつら? 俺の水晶をバカスカぶっ壊してやがる」
 俺らのことを知ってんな?
 そんな風に言葉を零して、男は笛を取り出した。
 ひゅるり、と。
 微かな音色が、潮風に乗って運ばれていく。

 空を切り裂き剣が舞う。
 綾姫が腕を振るう度、飛翔する剣は操られるかのように軌道を変えていた。
 斬撃が黒水晶を半ばほどで断ち割った。
 砕けた水晶片が散らばり、中に閉じ込められていた少女の身体が解放される。力なく地面に倒れた少女は、生きているのか、死んでいるのか。
 港町が放棄されたのが、いったいどれほど前のことかは分からない。けれど、町のあれ具合から見て数年かそこらではないだろう。
「さすがに全部除去は難しいですが……さて、まずは人命救助からですね」
 生きていればの話ですが。
 口の中で言葉を転がし、綾姫は再度、剣を大上段へと構える。
 それから綾姫は視線を頭上へ。
 アイコンコンタクトを受けたチヨが、ワイバーンの手綱を打った。翼を畳んだワイバーンが、矢のような速度で地上目掛けて降下する。
 今しがた、綾姫が救出した少女を助けるためだ。
 けれど、事はそうそう思い通りには運ばない。
「っととと! 近くに寄ると流石に反応してくるの!」
 ワイバーンの接近に呼応し、水晶の幾つかが不気味な黒い光を放つ。
 すべての水晶がそうというわけでも無いが、黒水晶の何割かには迎撃機能のようなものが備えられているようだ。
 そして、おそらくそれは“中に人や動物を閉じ込めていない水晶”に限られる。
「……ぇか、たす、け」
 翼を広げたワイバーンが、空中で無理矢理軌道を変えた。
 その際に起きた突風を浴びて、少女が微かに目を開く。
 半死半生といった様子ではあるが、ひとまず息があることだけは確認できた。
 となれば、取るべき選択は1つに決まっているだろう。
 誰か助けて、と彼女は確かに己の言葉で助けを求めたのだから。
 助けを求める声を聞き、自身の怪我さえ顧みずに行動に移す者がいる。
 そう、彼女は……。
「わ し じ ゃ よ ! ! !」
 黒水晶より放たれる、水晶の礫を浴びながら。
 チヨは少女の手を取った。

 逃げるチヨを庇うべく、ジョージが地上へ舞い降り
 手にするは青刀『ワダツミ』。
 正確にはそのレプリカだが、切れ味は本物だ。
「水晶に近づくのは最低限に留めておけよ」
 下から上へ、振り上げるようなかち上げ一閃。
 水晶の礫を弾き落したジョージは、刀を構えたまま裂帛の気合を込めて怒号をあげた。
 闘気の波濤が並ぶ水晶柱を飲み込み、その全体に無数のヒビを走らせる。
 ピシ、と水晶の欠ける音。
「なぁ、水晶の維持には核が必要って話だったが……その核となるものが岩礁内の人や動物って事はないよな?」
 ヒビの入った水晶へ、大口径の弾丸を撃ち込みジェイクは言った。
 砕けた水晶が、乾いた音を響かせる。
 地面に散らばる黒水晶の破片は、まるで脈打つかのように僅かに震えているのが見えた。
 どうにも不気味な鉱物だ。
 ジェイクはそれを靴の底で踏みにじり、次の水晶へと銃口を向ける。
 人や動物の閉じ込められていない水晶柱であれば、遠慮も容赦も無しに弾丸をぶち込める。

 水晶群から助け出した人の数は、都合10名を超えていた。
 中には衰弱が激しく救助した時点で息絶えていた者もいたが、まだ若い女性や子供は生きていた。もっとも、何らかの手当を施さなければそう遠くないうちに命を落とすことは確定的だろう。
「だが、そんな状態でも幾つか情報を得られたのは僥倖だった」
 そう言ってジョージは、視線をチヨへと向けた。
 チヨが膝に寝かせているのは、初めに助け出した少女である。今は意識を失っているが、その直前に「笛の音色が聞こえた。旅の人がくれた笛だと思う」とそんなことを言っていた。
「黒水晶の一族について詳しいことは分からんが、ラサの辺境に住む部族が源流と聞いておる。それらしい笛があればすぐに分かるじゃろうて」
「まったく頼りになる御老人だ。っと、向こうは派手にやってるが笛を探す気はあるのかね?」
 視界の隅で雷光が瞬く。
 綾姫とジェイクが、残る水晶の破壊活動を続けているのだ。人間は助け出したのだから、後は力の限り暴れて問題ない。
 ごう、と衝撃が吹き荒れて水晶がいくつか砕けて散った。綾姫の斬撃によるものだ。
「ジェイク坊と綾姫ちゃんか。まぁ、水晶と一緒に笛を壊してしまっても、何ら問題はないからの」

 黒水晶の礫を浴びた義弘の腕が石化した。
 踏鞴を踏んで後方へ下がる義弘は、そこでふとした違和感に気付く。
「っ……んだ、こりゃ?」
 石へと変わっていく右腕の皮膚を突き破るようにして、黒い水晶が現れているのだ。それに気づいた瞬間、義弘の内臓に痛みが走る。
「ぐっ……」
「義弘さん?」
 異変に気付いたイリスが義弘に駆け寄った。
 しかし、義弘は手で彼女の接近を制し、代わりに声を張り上げる。
「どこにいるか分からないが……術者の攻撃を受けている!」
 声を張り上げた義弘は、拳を振るい近くの水晶を撃ち砕いた。

 水晶を砕いた義弘が、地面を蹴って宙へと飛んだ。
 一方イリスは、盾と釵を構えて前へ。
「術者と戦うのよね? だったら安全地帯を増やしておいた方が良さそう」
 水晶の礫を盾で防ぎつつ、イリスは果敢に前へ出る。燐光の鎧を纏い、釵を振るうイリスは次々、黒水晶を壊して回った。
 水晶からの攻撃が激しい。
 今の時点で、閉じ込められている人たちを助け出すのは悪手であろう。意識不明の一般人では、水晶の礫を避けることが出来ないからだ。
「好都合だな。術者を押さえられれば核がどんなものか確認できそうだ」
 戦線に加わるアーマデルは、淡々と告げる。
 鞭剣が閃き、黒水晶を抉った。反撃とばかりに射出される水晶の礫を回避しながら、地上を見渡す。
 そこかしこを埋め尽くす膨大な量の黒水晶。
 イリスと義弘が破壊を続けているが、壊し尽くすには時間が足りない。
 と、その時だ。
「っと……姿は見えないが、確かにいるな」
 アーマデルの肩から右腕の皮膚を破って、黒水晶が現れる。
 内部から肉を裂かれる激痛と、形容しがたい不快感がアーマデルの動きを鈍らせた。
 高度を下げたアーマデルの身を黒水晶の礫が撃ち抜く。
 血の雨が降って……アーマデルの身体が地面に落ちる。
「ぐぉ……近づけねぇ」
「こういう戦い方に慣れている風ね」
 援護へ向かうイリスと義弘だが、水晶礫と術師による波状攻撃に阻まれ、思うように動けない。
「……向こうは私たちの姿を視認できているようだが」
 さて、と。
 ライフルのスコープを覗き込み、ラダは深く息を吸い込む。

 笛の音色が鳴り響く。
 直後、数本の黒水晶が地面より生えた。
「あっちか!」
 笛の音色を耳にするなり、義弘が腹部に手を押し当てた。
 彼が手に取ったのは、血に濡れた水晶礫だ。先ほど撃ち込まれ、義弘の腹部に突き刺さっていたものである。
 腹部からだくだくと血が流れるが、お構いなしに義弘は腕を振り上げた。
「おぉっ!」
 勢いをつけ、水晶礫を全力投擲。
 投擲された水晶礫は、黒水晶ごと民家の壁を撃ち抜いた。
 家屋の内部は暗くて見えない。
 だが、確かにそこに“笛”は存在しているはずだ。
「さて、やはり核は笛なのか」
 銃声が響く。
 ラダの放った弾丸は、民家の壁に空いた穴をまっすぐ射貫き、安置されていた何かを壊した。
 瞬間、笛の音色が止まる。
 それと同時に、辺りにあった黒水晶の大部分が塵と化して砕け散る。

 砕けなかった黒水晶は、およそ同じ区画に立ち並んでいる。
 その奥には、半身を水晶に覆われた痩せた男が佇んでいた。
「あーあ、ちくしょう。みつかっちまった」
 黒く変色した腕で、男は笛を唇に当てる。
 澄んだ音色が鳴り響き、男の姿を覆うみたいに幾つかの水晶が現れた。
「まぁ、見つかっちまったけど、まだやりようはあるよな」
 なんて。
 男が一言、呟いて。
 黒水晶が、ラダの腹部を突き破る。

●妨害の港
 旋回していた1羽の鳥が、黒水晶に捕らわれ落ちた。
 地面に倒れたアーマデルは、それを一瞥して笑う。
 ジェイクの鳥は、一部始終を見ていたはずだ。
 ならばきっと問題ない。
 すぐに仲間が、この場に駆け付けるはずだ。
「さて……少しでも引き離すか」
 そう呟いたアーマデルは【パンドラ】を消費し立ち上がる。
 塵と化した黒水晶から解放された住人たちが、戦闘に巻き込まれてしまうことのないように。

 銃弾も、鞭剣も、義弘の拳も、イリスの釵も、何もかも。
 黒水晶の柱に阻まれ、術師の男に届かない。
「まずはあいつだ」
 水晶の影に隠れるように、術師の男は移動を開始。
 彼の視線が向く先には、身体中から黒水晶を生やしたアーマデルがいる。
 男は腕を高く掲げ、アーマデルをその目で捉えた。
 にぃ、と乾いた唇に薄い……けれど、悪辣な笑みが浮かぶ。
 だが、しかし……。
「オォラキャノンじゃ!」
 老婆の叫びと共に放たれた魔力光が、男の視界を遮った。

 老婆が地上を駆け抜ける。
 その横に並んだ綾姫が、機械仕掛けの大剣を大上段に振り上げた。
「随分悪趣味な景観ですね。早いところ除去させていただきましょうか」
 斬撃と共に解き放たれた魔力の刃が、地面を抉り男へ迫る。
 咄嗟に黒水晶の影へと跳び込むことで、男は綾姫の斬撃を回避。その一撃で傷を負うことは無かっただろうが、代償は決して軽くなかった。
 綾姫の斬撃に巻き込まれ、黒水晶が砕け散る。
 つまり、男が身を隠すための壁が減ったということだ。
「ジョージ坊、ジェイク坊! 悪ガキ術者はなるべく不殺で捕らえるぞい!!!!!」
「あぁ、姿は捕えた。もう逃がさねぇ」
「さぁ悪魔使い。港は明け渡してもらうぞ!」
 チヨの指示に従って、ジェイクとジョージが前へと駆ける。
 全身しながらジェイクは男へ銃を発砲。
 水晶片や地面に跳ねた銃弾が、男の肩や脇を掠めた。
「ちくしょう。予想以上に来るのが速いな!」
 水晶の影から顔を覗かせ、術師の男が悪態を吐いた。
 その眼前に、ジョージは姿勢を低くしたまま肉薄し……。
「実戦で剣を振るうのは随分と久しい。悪魔には、試し斬りの相手になってもらおうか!」
 斬撃。
 水晶の礫で腹部を射貫かれながら振るったジョージの刀が、男の肩から胸にかけてを引き裂いた。

 激痛に歯を食いしばりながらも、術師の男は咄嗟に反撃を試みる。
 ジョージの腕に黒水晶が生じた。
 その隙を突いて、転がるように男は後退。
 唇に笛を寄せ、澄んだ音色を響かせる。
 地面より立ち上がった黒水晶が、礫を放つ。
 しかし、それはイリスが構えた盾に弾かれる。
 1歩、イリスが前へと駆ける。
 2歩、イリスの釵が生じかけていた黒水晶を打ち砕く。
 3歩、イリスの腕に黒水晶が生じた。
「義弘さん!」
 足を止めたイリスが叫ぶ。
 盾の影から跳び出した義弘は、男の眼前へと駆けた。
 強く地面を踏み込んだ。
 固く握った拳を振るう。
 狙うは男の顔面だ。
「まぁ、殺しゃしねぇよ」
 唇に寄せた笛ごとまとめて、義弘の拳が男の鼻と前歯を数本へし折った。

 目を覚ますなり、男は激痛に絶叫を上げた。
 その額に、ラダがライフルを突き付ける。
「黙ってくれ。そして、こちらの質問にだけ答えろ。この先も計画の障害となるのか、情報を吐いてもらうぞ」
 ラダの問いに、男は暫し思案する。
 隙は無いかと視線を周囲に巡らせるが、辺りの黒水晶はすっかり破壊しつくされていた。核となる笛も、おそらくすべて破壊された後だろう。
 攻撃手段は自身の術だけ。
 しかしそれとて、周囲に多くの黒水晶があってこそ初めて十全に機能する代物だ。
 逃げる術はない。
 攻撃手段も失った。
「任務は失敗か……あぁ、ちくしょう。じゃあここまでだ」
「なに?」
「ラダ。そいつ、何か変だぞ」
 引き金にかけた指に力を込めるラダ。
 その肩を掴んで、アーマデルはラダを後ろに下がらせる。
 直後、術師の身体から幾つもの水晶が突き出した。
 腹を、手足を、顔を、次々と水晶が覆う。
 絶叫をあげる男の声も、口から突き出した黒水晶によって無理矢理に中断された。
 そうして、後に残ったのは壮絶な死に顔を晒す哀れな男の遺体。
 否……男の名残りを残した水晶の塊だ。
「依頼人の情報は吐かないか。まぁ……岩礁の掃除と港の整備をすれば、とりあえず町は復興できそうだが」
 そう言ってラダは、視線をジョージとイリスへ向ける。
 咥えた煙草の紫煙を揺らし、ジョージはわざとらしく肩を竦めて見せた。
「口を割らなかったな。持ち物から依頼主を探ってみるか」
「身包みはがして調べるのは想定の内だしね。あまり大したものは持ってなかったけど」
 なんて。
 イリスが指差した先には、割れた笛の残骸と、男の纏っていたローブや身に付けていた幾つかの装飾品がある。
 手がかりは少ないが、調査を進めれば男の雇い主に至る情報を得ることも可能だろうか。
 なにはともあれ、港を封鎖していた岩礁はすべて消えた。
 依頼は無事に達成されたということだ。
 もっとも……港が使用できるようになるまでには、もう暫くの時間と人手が必要だろう。

成否

成功

MVP

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
港を覆う“悪魔の岩礁”およびそれを発生させていた術師は排除されました。
水晶に捕らわれていた生存者たちが、港の復興に手を貸してくれる模様です。
依頼は成功となります。

この度はシナリオのリクエスト、ありがとうございました。
またのご利用をお待ちしております。

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