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シナリオ詳細

<13th retaliation>炎は消えず

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●新たなる拠点
 アンテローゼ大聖堂――茨の呪いに対抗しうる『灰の霊樹』を擁する、深緑に存在する建築物だ。
 先の戦いで、ヘイムダリオンからアンテローゼ大聖堂へと至ったイレギュラーズ達は、周囲に展開する敵部隊を撃破。
 アンテローゼ大聖堂を制圧し、ここを活動拠点とすることに成功したのである。
 そして……。
 アンテローゼ大聖堂を制圧したことにより、『茨の外』に待機する、人類側の部隊の動きも活発化。
 まずは、アンテローゼ大聖堂につながる街道を制圧すべく、多くのラサからの増援が活動を始めたのである。
 深緑を巡る戦いは、イレギュラーズ達の勝也機により次なるステージへ。
 敵の懐へと、もぐりこんでいくことになる――。
「――というのが、現在の状況ね」
 エリザ・スカーレットがそう告げるのは、茨の外側、アンテローゼ大聖堂へつながる街道を制圧するために展開した部隊のキャンプ地だ。エリザの前には、シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)を始めとするローレット・イレギュラーズ達の姿があって、改めて、自分たちの置かれた状況を確認していた。
「今後は、内から外から、戦っていくことになる……だね?
 アンテローゼ大聖堂も守らなきゃいけないし……」
 シャルレィスの言葉に、エリザは頷いた。
「ええ。敵側も、アンテローゼ大聖堂を重要な場所だと位置づけているみたい。『灰の霊樹』があるから、当然と言えば当然なのだけれど」
「それがあれば、茨の放つ呪いにある程度対抗できるんだよね!
 霊樹の葉っぱがあれば、眠っている人たちを起こすこともできる……!」
「でも、それも一時的なものだし、いくら霊樹といえど、葉の数は有限。
 だから、葉っぱを使って深緑の皆を起こす……というのは難しいの。
 結局は、大元を叩かないといけないわ」
 エリザの言葉に、皆は頷く。対抗策は在れど、それは根本的な解決はもたらさない。
 やはり大元を断たなければならないのだ。今はその大元へたどり着くための一歩を踏み出したところ。解決へとつながる、大きな一歩だ。
「ひとまず状況は分かったよ!
 それで、今日はどんなお仕事?」
 シャルレィスが尋ねるのへ、エリザは頷いた。
「ええ。私達は、アンテローゼ大聖堂へつながる街道を確保するための部隊。
 皆には、その為の偵察というか、露払いをお願いしたいの。
 道中には、敵が派遣した怪物たちが蔓延っているわ。
 特に、今回皆に討伐を依頼したいのは、フレイム・マンと名付けられた、人型の炎の怪物たちよ」
「炎の……それって、茨に協力してる、シェームって言う大樹の嘆きの部下なのかな?」
 シャルレィスが尋ねるのへ、エリザは頷く。恐らくそうであろう。炎を属性とする、大樹の嘆きシェーム。彼の目的は、人間の選別。弱者を捨て、強者の身を貴ぶという考えらしいが、今のところ、それ以外の目的は不明だ。
 となると、シェームが自身の部下を派遣し、弱者の排除を目論んでいてもおかしくはあるまい。腹立たしいが、奴のローレットへの『試し』はまだ続いているのだろう。
「だから、ある意味で、これは敵のご指名、って言う訳。皆を呼んでいるのかもしれないわね。
 本当は、私もついていきたいんだけれど……」
 むー、と唸るエリザに、シャルレィスは目を丸くした。
「だ、ダメだよ! エリザさん、戦えないでしょ!?」
 その言葉に、エリザは、あっ、と声をあげた後、
「そ、そうよね。ごめんなさい。村の皆が気になっていて、気が逸ってしまったの」
 取り繕うようなエリザの言葉に、シャルレィスは、うんうん、と頷いた。
「エリザさんが住んでる深緑の村の人達も、まだ呪いで眠ってるものね。心配だよね。
 でも、大丈夫! すぐに助け出して見せるよ! 私達に任せて!」
 とん、と胸を張るシャルレィスに、エリザは笑ってみせた。
「ありがとう。でも、気を付けて。実際にこの仕事は危険よ。
 ここから伸びる街道は、まだ茨の呪いが影響しているわ。
 多分、長くは活動できない……アンテローゼ大聖堂を制圧するときに、『茨咎の呪い』が、皆の身体を侵していたと思うけれど、それと同じ現象は、この先の街道でも起きる筈よ」
 つまり、長く活動はできないという事になる。事前の報告書の例などを見れば、おそらく、戦闘行動が可能なのは数分ほど……。時間制限のある中、敵をせん滅しなければならないのだ。
「なるほど……でも、大丈夫! 必ず敵をやっつけて、街道制圧のお手伝いするからね!
 それじゃあ、行こう、皆!」
 シャルレィスがそういうのへ、仲間達は頷いた。イレギュラーズ達が、目的地へ向けて去っていくのを、エリザは頼もし気に、見つめているのであった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 深緑の異変と、それを巡る戦いは新たなステージへ。
 アンテローゼ大聖堂迄のルートを開拓するために、まずは周辺の敵の排除をしましょう!

●成功条件
 すべてのフレイムマンの撃破。

●特殊失敗条件
 戦闘開始後、25ターンの経過。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 激しい戦いの果てに、アンテローゼ大聖堂を制圧したローレット・イレギュラーズ。その活躍に勇気づけられ、ラサ側の部隊も動き始めます。彼らの目的は、アンテローゼ大聖堂へつながるルートの開拓。安定して深緑内部へ移動を行えるようにするのが目的ですが、勿論それを黙って見過ごす敵ではありません。
 今回、皆さんの前に立ちはだかる敵は、炎の嘆きシェームの眷属である、炎の異形、フレイムマンたちです。その名の通り、人型をとった炎、といったいでたちのそれは、先の戦いで遭遇したシェーム・アバターを彷彿とさせます。
 もちろん、彼のアバターのように、一体でイレギュラーズ達を相手取るような力はありませんが、苛烈な炎の力は充分に脅威です。それに、皆さんには時間制限もあります。『茨咎の呪い』です。
 この呪いは、戦闘開始時点から徐々に進行し、『25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります』。この活動限界までに、敵を全滅させなければなりません。
 厳しい状況ですが、皆さんの力でしたら、必ずや突破できる、とエリザは信じています。彼女の期待に応えるためにも、敵を突破しましょう。
 作戦決行タイミングは昼。周囲は開けた森になっており、戦闘ペナルティなどは発生しません。

●エネミーデータ
 フレイムマン ×10
  炎が人型をとったような怪物です。文字通りの炎人間。人語は解しませんが、そこそこの知能はあるらしく、しっかりと連携をとって行動してくるでしょう。
  基本的に、全員が攻撃タイプ。特に物理属性の近接が得意です。
  遠距離攻撃はできなくもないですが、やはり近接攻撃がメインのようです。
  パラメーター的にはオールラウンダーとなっていますが、器用貧乏ともいえます。それを補う、数と連携なのでしょう。
  BSとして、『火炎系列』を付与する攻撃を行ってくるほか、『背水』を持つ攻撃も行ってきます。炎は消え去る寸前にこそ激しく燃え上がるのです。一体一体確実に仕留めたい所ですが、皆さんにはタイムリミットもあります。悩ましい所です。

●『茨咎の呪い』
 大樹ファルカウを中心に広がっている何らかの呪いです。
 イレギュラーズ軍勢はこの呪いの影響によりターン経過により解除不可の【麻痺系列】BS相応のバッドステータスが付与されます。
(【麻痺系列】BS『相応』のバッドステータスです。麻痺系列『そのもの』ではないですので、麻痺耐性などでは防げません。)
 25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります。

 25ターンの制限時間の理由です。これが完全発動してしまえば、戦うことは困難になるでしょう。撤退することになります。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <13th retaliation>炎は消えず完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
背負う者
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
わんこ(p3p008288)
雷と焔の猛犬
トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ

●『試し』は続く
 広がるは林立する木々の景色。迷宮森林の体の内は、春だというのに些か肌寒い。一行は、依頼された街道確保の露払いのため、森林迷宮を進んでいた。
「……冬の王の冷気かもしれないな」
 『黒鋼二刀』クロバ・フユツキ(p3p000145)は、それを指して静かにそう言った。アンテローゼ大聖堂を包んでいた、冬の気配。それが外にまで漏れ出しているのだろうか?
「なんにしても……放っておいたら、異変が広がる可能性はある」
 クロバの言葉に、頷いたのは『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)だ。
「ああ。敵の出方がまだ不明な以上、最悪を想定しても無駄にはならないだろう」
 そういうのへ、クロバが頷く。
「ああ。しかし、冬に、炎か。相反しそうな連中が、随分と仲良くやってくれる」
「利害の一致なのだろうな」
 ふむ、とラダが頷く。
「どちらの思惑もよくわからないが……だが、確実なのは、我々の敵である、という所だ」
「今回の敵は、炎の方デスね」
 『犬の一噛み』わんこ(p3p008288)がいう。今回、露払いを依頼されたのは、フレイム・マンと仮称された、炎の怪物たちだ。炎、森の民である深緑とは相反するような存在である、炎の嘆きシェームの眷属であることは間違いない。
「まだ此方の力を試している気取りなんデスかね? ふざけた野郎だ」
 シェームはどうやら、此方の力を試している様だ。本人の口から語られたところによれば、『強者選別』であり、強き者のみが生きる価値がある……とでも言いたいような口ぶりだった。
「戦うのがお好き、なのかしら?」
 『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)が、むー、と唸った。
「だったら、鉄帝のラド・バウに行けばよいのに。
 どうして、ここで迷惑をかけるのかしら?
 深緑(ここ)はわたしのお家もあるの。今は無事だけど、弟だって巻き込まれるかもしれない……ううん、わたしだけの問題にしちゃいけないわ。きっと、家族と引き裂かれて悲しんでいる人だっているのよね」
 しゅん、とした様子でキルシェがいうのへ、『蒼銀一閃』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)が頷いた。
「うん。エリザさん……今回私達に依頼をしてくれたあの人も、深緑の村に住んでるんだ。
 たまたま外に買い出しに出かけてたから、呪いには蝕まれなかったけど……村は、やっぱり茨の中に……」
 ぐっ、とシャルレィスがその手を握った。
「だから、はやくこの異変を解決してあげたいんだ。
 それに、エリザさんは、私が冒険者になりたい、って夢を応援してくれた人なんだ!
 夢をかなえて、今は立派にやってるんだって、恩返ししてあげたい!」
「そうね。きっとエリザお姉さんも、シャルレィスお姉さんががんばってるの、喜んでくれてるわ!」
 うんうん、とキルシェが頷く。
「……さて、敵に近づいてきたようでござるな」
 『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)が、そう言った。前方より、これまでの寒さに相反するように、熱のようなものが感じられたのだ。何か、強烈な『燃える炎』が存在するような、そんな感覚。
「話によれば、炎の怪物……。
 なれば、これはその怪物の熱と考えるべきか。
 森が燃えているとは考えたくないものでござるよ」
「そうね。そうね、この位の熱なら、きっと森は大丈夫」
 『謡うナーサリーライム』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)がそういう。ポシェティケトが纏う空気には、何か落ち着くような、心地の良い香りがあった。香水の香りだ。纏うものに力をくれる、それは不思議な森の香りだった。
 大好きな友達のお店で購入した香水。その友達のように、何度でも立ち上がれるように、祈りと決意込めて纏うその香水は、確かにその熱に負けぬような活力を、その身に与えてくれていた。だからポシェティケトは、まるでこちらを押し返すような熱に負けぬように、一歩を踏み出す。
「シェームの眷属、だったかしら?
 いらっしゃい。試したいというのなら、お相手になるわ」
 その言葉に応じるかのように、前方から、再び強烈な熱波が襲い掛かった! 先ほどまでの寒さを吹き飛ばすようなそれが、イレギュラーズ達の肌を熱で叩く。ダメージというわけではないが、敵の強大さを感じさせるには充分だ。
 はたして、前方に現れたのは、巨大な炎の塊だった。それがばぁん、と弾けると、10体の人型の怪物へと変貌を遂げた。フレイム・マンだ!
「オ、オ」
 炎の怪物が、呻くように声をあげた。いや、それは歓喜の声だったかもしれぬ。クロバ、わんこ、そしてシャルレィスは、その様をかつて見たことがあるだろう。
「……やはり、敵対するものが現れることに、喜びを感じている様だな」
 クロバが言うのへ、シャルレィスが頷く。
「うん。まるで、妨害されることそのものを望んでいるみたいだ」
「試し、ってやつデスね」
 わんこが言う。
「フッ……こちらに実力を試しているつもりか。
 いいだろう。黒鋼二刀、その炎で止められると思うなら、かかってくると良い」
 クロバがゆっくりと、その刃を抜き放つ。シャルレィスもまた、刃を抜き放った。
「私は、その試しとかいうのはよくわからないけど」
 ぐっ、と柄を握る手に力を込めて。
「冒険者として、困っている人たちは見過ごせない! あなた達のせいでみんなが困ってるなら、私は全力で戦うよ!」
「気をつけろよ、みんな」
 『劇毒』トキノエ(p3p009181)が、その目を細めながら言う。
「既に身体を蝕まれ始めてる……呪いって奴だ。
 体がピリピリしてしょうがない」
 身体を奔る、痺れるような感覚は、件の茨の呪いの影響だろう。
「悪いが、これは俺たちがいくら頑張っても対抗できるようなものじゃなさそうだ。
 それこそ、灰の霊樹の葉じゃなければ打ち消したりはできないだろう。
 結局……もって数分。これが活動限界だ」
 トキノエの言葉は正しい。呪いは急速に、身体を蝕んでいる。長々と戦ってはいられないだろう。
「なら、速やかに討伐する必要があるな」
 ラダが頷く。
「他の皆ほど格好よくとはいかないが。
 悪いが私も、ここでつまづくつもりはない、と言わせてもらおう。
 トキノエ殿、すまないが、呪いの進行に気を配ってくれ」
「わかってる。
 ふん、確かにここでつまづいてたら、本丸のシェームってのに呆れられちまうからな」
 トキノエがにぃ、と笑った。その腕に力を籠める。
「それじゃあ、鹿が前に」
 ポシェティケトが、優雅に笑って一歩を踏みだす。ふわり、と香水の香りが漂う。
「ぽし、ぽしぇ……ポシェお姉さん、気をつけて!
 ルシェも、一杯頑張ってサポートするから!」
 ぐっ、と力を籠めるキルシェに、ポシェティケトは微笑んだ。
「ふふ、ありがとう。ポシェお姉さん、って呼ばれるのも、なんだかくすぐったくてうれしいわ」
 ポシェティケトがゆっくりと踏み出す――同時、フレイム・マンたちの視線が、『鹿』へとうつった。獲物がいるぞ、そう告げるように、ゆっくりと踏み出すポシェティケト。炎が、燃え盛る。否、獲物ではない。そこにいるのは、勇敢なる鹿。戦い、進み、優雅に笑う、英雄たるものだ。
 ならば――炎たちのやるべきことは一つ。
 試しと行こう、と、誰かの声が聞こえた気がした。それは、炎の嘆きから発せられたものだったか。その答えは出ずとも、ここに戦端は開かれたのであった。
 雨が降る。ぽつぽつと、戦いを覗きに来たかのように。

●炎、そして勇者たち
 フレイム・マンたちが、その炎を巻き上げ、一斉に飛び掛かる! 殴り掛かってきた炎を、ポシェティケトは杖を利用して、優雅に振り払ってみせた。強烈な一撃は、それでもなおポシェティケトの腕にダメージを走らせるが、しかし。
「ふふ、鹿もちょっとは頑丈ですから。
 ちょっとやそっとの攻撃も、あなたの炎だって防いでみせるのよ。
 おにさんこちら、炎のあなた。一緒に楽しく遊びましょうか」
 微笑(わら)ってみせるポシェティケトに、炎はしかし、獰猛な笑みを浮かべるようにその身体を燃え上がらせた。強力な、倒すべき獲物を見つけた、という喜び。振るわれる炎の腕を、しかし小さな妖精が体当たりして、その勢いを殺した。小さな相棒。金色砂のクララ。
「ありがとう、クララ。
 さぁ、シャル」
「任せて!」
 シャルレィスは頷き、その片手半剣を翻す。振り下ろされた刃が、炎の腕を切り裂いた。轟! 風を受けて燃え盛る様に、盛る炎。背水のスイッチが入り、強烈な一撃が振り下ろされる――が、シャルレィスはそれを紙一重で回避。左側に流れていく一撃が、爆裂する炎と共に地面を抉ったのを確認しつつ、
「当たったら、確かに大変だね! けど――」
 当たらなければ、威力を持て余しているだけだ! シャルレィスが再度、刃を振り下ろす。丁度首のあたりを刎ねられた炎が、ぼん、と音を立てて弾けるように消えた。
「流石ね、シャル」
「ふふ、これでも深緑じゃ名のある冒険者だからね?」
 くすり、と笑うシャルレィス。一方、その様はまさに黒き疾風と言った所か――もう一人の勇者、クロバはその眼を紅に変貌させ、鋭く刃を振り払う。超貫通の一撃が、空間を断絶するかのように、一直線に炎を切り裂いた。ぼう、ぼう、と燃え上がる炎は、断末魔か。二体の炎が、クロバの刃の前になすすべなく消え去る。
「試し、と言っていたらしいな」
 クロバはニヒルに笑ってみせた。
「それでその程度か?
 お前達の炎は、俺の黒炎を揺らすことすらできない様だが――」
 挑発するようなその言葉に、しかし炎たちは怒るでも委縮するでもない。強敵たるは、望むところなのだろう。むしろ炎を強烈に巻き上げ、己の力をブーストしてみせる。
「フッ――少しは手ごたえが出てきたか?」
 飛び込んできた炎を、クロバは刃で迎撃。打ち付けられた拳を受け止め、斬り払う。クロバが後方へ跳躍した刹那、飛び込んできたのは一匹の獣。獰猛なる笑みを浮かべ、にぃ、と牙を見せる狼、わんこだ!
「かかって来いよ、炎人間。帰ったらシェームに伝えとけ、わんこの名前をなぁ!!」
 叫ぶ獣は、己が身の内に多くの怪物たちを抱え込む。猛烈に燃え盛る炎が、砲弾のごとくわんこに襲い掛かった。わんこはオーバーヘッドキックの要領で、その方弾を叩き落す!
「いいぜ、遊んでやるよ!」
 わんこは着地、姿勢を低くし、獣のように走り出すと、手近に居た炎の喉笛に、その手刀を突き刺した! 同時、さく裂する稲光! 走る電撃が、内側から炎を爆散! 消滅してみせた!
「おっと」
 わんこが笑う。
「爆発させたら帰れないデスね! キャヒヒ!」
 その通りだろう。だが、炎たちとて、ただ爆発してあだ花を裂かせるだけが能ではあるまい。追い込まれた炎は、消える寸前にこそ激しく燃え上がる。先ほど、シャルレィスが相対したそれで見た通りだ! 爆発せんばかりに燃え上がった炎、それらが、弾丸のごとくわんこに迫る。うち放たれるそれらを、わんこは回避してみせたが――その回避した先に、残る怪物が居た。それは背水の力を以て、逃げるわんこを捉える! 拳が、わんこに叩き込まれる! ボールのごとく叩きつけられたわんこが、痛みに顔をしかめつつ、無理矢理受け身をとって衝撃を殺した。そのまま立ち上がる。全身に走る痛みに、わんこは獰猛に笑ってみせた。
「やるじゃなぇか、つかいっぱしりが!」
「わんこお姉さん、無理しちゃダメ!」
 キルシェがその手をかざす。手首にまかれたブレスレットが優しく光り、聖なる光が歌となってわんこに降り注いだ。焼かれた肌が、ほのかに生命を取り戻していく。
「ラダお姉さん、足を止めて! わんこお姉さん、ちょっと無理しちゃってるみたい!」
 キルシェが叫ぶのへ、ラダが頷いた。
「了解だ」
 スコープを覗かずに、トリガを引く。狙撃ではなく、乱撃。とにかく撃ち放つ弾丸の雨は、驚異的な事に仲間達にあたることなく、ただ敵の足元を飲みを狙い撃つ!
「トキノエ、サポートを! ポシェティケトに攻撃が集中するのはまずい!」
「おう、わかってる!」
 トキノエが、ラダの銃弾の嵐を背に受けつつかけた。動き回るトキノエに、しかし一発の銃弾も命中しないのは、先述したとおりにラダの腕の証左だ。それを理解しているからこそ、トキノエもまた、フレンドリファイアの心配などは一切せずに、苛烈な弾丸の雨の中、駆けだせるのである。
「射程入りだ! 厄神の腕よ、今は苛烈にその厄を謳え!」
 トキノエの腕に、黒い雷が走る! 厄を湛えた雷、黒の雷鎖が、鞭のようにしなりながら、炎を穿つ! 炎の身体を穿った厄雷が、薙ぎ払うように戦場をかけた。弾丸の驟雨、そして黒の雷。圧倒的な面制圧の前に、立つものは存在しない!
「咲耶、敵の状態はどうなってる!?」
「順調に数を減らし、消耗しているように見えるでござるよ!」
 咲耶の叫び。同時、趣向より放たれた暗器、細い針のようなそれが鋭く放たれ、炎の額に突き刺さった。ぼん、と破裂する炎。その背後から残る炎が、背水の一撃を繰り出す! 爆発せんばかりの拳が大地に突き刺さり、至近を扇状に殴りぬけるのへ、咲耶は空中で回転しつつ、距離をとる。
「やはり、倒れかけが厄介でござるな!
 ポシェティケト殿、無理はめされるな」
「いいえ、いいえ。森ですもの。鹿はまだまだ、元気よく跳ねられるわ?」
 くすり、と笑うポシェティケトだが、これまで蓄積したダメージは大きい。
「わんこもいけるデスが!」
「わんこお姉さんもポシェお姉さんも無理しちゃダメです!」
 めーっ! とキルシェが声をあげるのへ、二人はくすりと笑った。
「だが、キルシェのいう事ももっともだ」
 クロバが頷いた。
「残りの敵は少ない。俺も引き受ける。
 俺たちは、一人で戦っているわけじゃない」
「そうだね! 治療に専念して!
 残りは、私達に任せて!」
 シャルレィスが声をあげる。
「ラダさん! トキノエさん、援護お願い!」
「任せてくれ。見せてやろう、私達の強さを」
 ラダが再度、銃を構える。途端、放たれる銃弾の驟雨。苛烈なそれが敵だけに降り注ぐのは前述したとおりだ!
「なんか、呪いで体が動きづらくなってる気がしないでも、ないが……!
 もうひと踏ん張り……やってやらぁ!! 」
 トキノエが、その手を掲げる。同時、放たれた黒の妖精が、その牙を炎の喉元に食らいつかせた。ばぢん、と音を立てて閉じた黒妖精の牙。それが喉笛を噛みちぎり、しかし炎がその腕を振るい反撃に出ようとした刹那、
「甘いでござるよ!」
 咲耶の暗器、仕込み刃が、炎の腕を切り落とした。くるり、と回転しつつ、今度は頭部にあたる部分を蹴りつける。頭部は派手に吹きとんだ。そのまま、ぼう、と炎の内に消えていく。
「のこりを!」
「任せろ」
 クロバは頷き、一気に炎へと接敵! その手にした太刀、そしてガンブレードを振り払い、まずは達による、横なぎの一撃!
「刹那の内に、雷は奔る――滅迅! 刹月界雷!」
 続いて放たれたガンブレードの一撃は、上段から振り下ろされた剛の一撃だ。振り下ろされる最中、トリガを引いて爆発する火薬が、その刃の一撃を強烈な断激へと変化させる! 黒衣の剣士の斬撃は、その衝撃によって跡形もなく、炎を粉砕した!
「これで、ラスト!」
 シャルレィスが跳躍! 上段から振り下ろした刃が、炎を一刀両断に切り裂いた!
「ご、ご」
 炎が、呻くように声をあげる。シャルレィスは、きっ、とそれを睨みつけた。
「あなた達が、何をたくらんでるのかは知らない!
 でも、どんな理由があったって、人を苦しめるなら私は許さない!」
 シャルレィスが、振り下ろした刃を、振り払った。同時、炎は爆散。後には、再び静かな、冬の気配だけが残った。
「私は、物語の勇者みたいに、皆を守れないかもしれない。
 でも、私は、夢に見た冒険者みたいに、誰かを守れる冒険者になるんだ。
 ……ね、そうだよね、エリザさん!」
 シャルレィスが、にっこりと笑った。エリザが待っているであろう、ベースキャンプへ向けて。

●炎なきあとに
「どうやら、今回は、辺りに被害は出なかったようだな」
 ラダが嘆息する。辺りの森には、戦闘の余波はさておき、意図的に燃やされたり、攻撃された様子はない。
「シェームは、より本格的に、私達イレギュラーズにターゲットを絞った……という事なのか?」
「かもしれないな。森に被害が出なかったのは、不幸中の幸いか」
 クロバが頷く。
「シェームっていう人は、戦いたい、のかしら?
 でも、迷惑をかけちゃいけないわ」
 ぷんぷんと、キルシェがいう。
「この戦いも、奴は観ていたのでござろう。奴の思惑に乗るのは気に入らないが……」
「今は、奴の配下を叩きつぶす、これしかできないデスね」
 咲耶の言葉に、わんこが答えた。
「さて、いつまでもここに残ってるわけにもいかねぇ。正直、呪いがぼちぼち体に回ってきただろ」
 トキノエが言う。トキノエが危惧していた通り、呪いはイレギュラーズ達の身体を蝕んでいた。
「そうね。きっとエリザも心配しているわ。
 帰りましょう、シャル」
 そういうポシェティケトに、シャルレィスが頷いた。
「うん!
 さぁ、帰ろう、みんな!」
 その言葉に、仲間達は頷く。
 かくして、勇者たちは凱旋する――。

成否

成功

MVP

ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 英雄たちにより、道は切り開かれます。
 その続く道の先に、なにがあるのか――。

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