PandoraPartyProject

シナリオ詳細

その背に背負う、希望の薬草

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●火竜息病
 その日、その小さな集落にて、一人の子供が病に倒れた――。
 症状は、シンプルだ。高熱。まるで、身体の内から炎が巻き上がっているかのような、強烈な熱。
 この高熱を、まるで火竜の吐息のようだ、とたとえ、火竜息病、と俗に言われている病の一つである。
「これは……」
 その日、診療所にて、医歯役の亜竜種の男は呻いていた。目の前に倒れる、少年。幼き彼の身体は高熱に侵され、まさにそれは火竜息病の症状に間違いなかった。
「間違いない……こんな、伝説に近いような病が……!」
 医師がぎり、とこぶしを握り締めていた。
 医師は、ぐ、と辛さをこらえるように口元を抑えると、ゆっくりと息を吐いた。それからゆっくりと、病室を出る。外では、子供の両親が待機していて、不安げな表情をこちらに見せている。
「……火竜息病です。間違いない」
「……な、名前だけは、聞いたことが」
 父親が言う。
「ですが、それは、おとぎ話の病では……」
「いいえ、実在するのです。あまりにも発症例が少ないため、伝説のように語られていますが……」
 その病は、まさに伝説のように語られるほどに、発症率の少ない病だ。仮に病原体に侵されたとしても、一般的な人間ならば、ほぼ発症することのないほどの弱い弱い病原体によって引き起こされるその病。
 だが……伝説で語られるほどにレアな存在だとしても、実在はする。
 患者の、その時の健康状態。そして、感染した病原体の状態。様々な偶然が重なり、起こって欲しくない奇跡が起こることは、それが全く、本当に奇跡的な確率だったとしても――あり得るのだ。
「お、おとぎ話では」
 父親が言う。
「不治の病だと――」
「いいえ、実際には、治る病です」
 吐き出すように、医師が言う。
「ですが……その為に必要な薬が」
「ない、のですか?」
「はい」
 医師はつらそうに言った。
「……セラン・ワイバーンをご存じですか? 植物共生タイプの亜竜です。その背に、セランという特別な草を生やしています。
 セラン・ワイバーンがどのような理由で強制しているのか不明ですし、それを論じるのはいまではありません。
 重要なのは、そのセランこそが、この病の症状を抑える唯一の薬草だという事です」
「あ、あのセラン・ワイバーンの背中に?」
 父親が震えた。
 セラン・ワイバーン。凶暴な亜竜である。この周囲の集落を縄張りとする群れは、周辺の獲物を根こそぎ狩りつくす、といわれるほどに獰猛で残虐。この周辺の集落の人間が、外を恐れる大きな理由が、そのワイバーンの存在だ。
「わ、ワイバーンを、倒さなければ……ならない、のですか?」
「……ですが、無理です……」
 医師が言った。
「ワイバーンを倒すなど、この集落の人間には……!
 フリアノンなどで討伐隊を結成してもらうにも、大規模な人数が必要でしょう。そのような編成をしている間に、おそらくあの子の体力が尽きる……!」
「そ、んな」
 母親が、喘ぐように言った。
「なんとか、ならないのですか……!?」
「我々には、精々、対症療法的にわずかに解熱を行うしか、手は……」
 医師が悔しげにうめくのへ、母親は涙ながらに崩れ落ちた。奥の部屋からは、熱に浮かされ、苦しげにうめく子供の声が、ずっと、ずっと響いている……。
「わ、ワイバーンを、倒せばいいのですね?」
 父親が言った。
「わ、私が、私が行きます! 私が……」
「死にに行くようなものです!!」
「ですが! どうにかしなければ、ヒューは、息子は……!」
 ぐ、と父親が医師につかみかかる。医師は、抵抗できるはずもなく、申し訳なさそうに頭を下げるだけだった。
「……どこかに、勇者のような……そんな存在が居れば……」
 勇者。伝説の病に打ち勝てるような、伝説の強者が居れば。
 或いは――。
「いや、待てよ」
 医師が声をあげる。
「……そうだ、最近、フリアノンの方から話が来ていたんだ。
 外から来た人たちが、仕事を探してるって……!」
 医師は診察室に飛び込むと、メモ書きを取り出した。ローレット。そのような組織が、仕事を探していると……。
「もしかしたら……もしかするかも、知れません……!」
 医師はわずかな希望を胸に、ヒューの両親へと告げた。

●薬草を求めて
「ローレットの方ですね? この集落で医師をしているものです」
 と、亜竜種の男が、あなたたちイレギュラーズ達へとそう言った。
 緊急の依頼である。そう告げられたあなた達がやってきたのは、フリアノンからすこし離れた、小さな集落だ。
「お話通り、緊急の問題なのです。
 火竜息病という、高熱をもたらす山に置か攫た子供を助けるために、セラン・ワイバーンの背中に生えた薬草。これを、一握り、必要なのです」
「薬草が、ワイバーンの背中にはえているんですか?」
 あなたの仲間がそう尋ねるのへ、医師は頷く。
「はい。しかも、共生関係にあるためか、ワイバーンが死ぬと、薬草のセランも急速に枯れる……。
 採取するには、ワイバーンを弱らせ、隙を見てセランを採取するしかないのです」
「ワイバーン相手に、手が源をして戦う必要があるのか……」
 仲間が口元に手をやりながら、言った。相手は亜竜。しかも、此方を殺す気でかかってくる相手だ。それを相手にし、加減しつつ戦う……となれば、この依頼は些か難しいものとなるだろう。
「ですが、この薬草が無ければ、子供の命にかかわるのです。
 お願いします! 無理は承知ですが、どうか、お力をお借りしたい……!」
 頭を下げる医師。あなたにも、彼の必死さが伝わっただろう。それに、この場には居ないが、病に伏した少年の両親も、今はとてもつらい思いをしながら、自分たちが依頼をこなすのを待っているはずなのだ。
「分かりました。必ずや、達成してみせましょう」
 仲間がそういうのへ、あなたもまた、力強く頷いて見せる。
「あ、ありがとうございます……どうか、どうかお気をつけて……!」
 医師がそういうのへ、イレギュラーズ達は力強く頷いた。
 かくして、子供の命を救うための戦いが、始まる――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 病に臥した少年。彼を救うため、ワイバーンと戦う必要があるのです。

●成功条件
 『セランの薬草』を採取し、戦場から離脱する。

●特殊失敗条件
 すべての『セラン・ワイバーン』の死亡。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 火竜息病。火竜のブレスのような、とてつもない高熱に身体を焼かれる、非常にまれな病。
 伝説に忘れ去られるようなその病に、一人の少年がかかってしまいます。
 彼を助けるには、セラン・ワイバーンの背中に生えた薬草、セランの薬草をひとつかみ、採取する必要があるのです。
 ですが、問題があります。セランの薬草はセラン・ワイバーンと共生関係にあり、ワイバーンが死亡すれば、セランの薬草は急速に枯れてしまいます。
 つまり、ワイバーンを殺さないように戦い、隙をついて薬草を採取しなければならないのです。
 強力な亜竜を相手に、手加減をしなければなりません。ですが、やるしかないのです。
 作戦決行時間は昼。周囲は広い平原となっています。移動や戦闘ペナルティなどは発生しません。
 なお、撤退に関しては、全員が戦場の中心から100m外周側の地点に到達すれば完了とします。戦場は、半径100mの円のイメージです。


●エネミーデータ
 セラン・ワイバーン ×4
  セランの薬草を背中に生やしたワイバーンです。外見は緑色の、一般的なワイバーンです。
  口からは毒のブレスを吐くほか、鋭い爪や、すれ違いざまに斬りつける翼などで、俊敏に動き回りながら攻撃してきます。
  皆さんと同等か、少し上、くらいの実力の相手になります。
  全滅させるよりかは、一体を弱らせて薬草を採取、撤退した方がいいかもしれません。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • その背に背負う、希望の薬草完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
炎 練倒(p3p010353)
ノットプリズン
ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)
ラッキージュート
シャールカーニ・レーカ(p3p010392)
緋夜の魔竜
玖・瑞希(p3p010409)
深き森の冒険者
嶺 繧花(p3p010437)
嶺上開花!
劉・紫琳(p3p010462)
未来を背負う者

リプレイ

●希望を背に背負うもの、希望を背に戦うもの
「……まさか、亜竜の背に薬草、とはな」
 『黒狼』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が、静かに呟いた。依頼の現場へと向かう道中だ。皆は、その背中にセランの薬草、と呼ばれる薬草を生やした……というより、共生関係にある奇妙なワイバーン、セラン・ワイバーンの生息地へと向かっているのだ。
 目的は、セランの薬草。これは、火竜息病という、高熱をもたらす危険な病の特効薬になり、そして今、その病に臥した少年、ヒューの両親と、看護を担当する意志から、ローレットに依頼が持ち込まれたのだ。
 ベネディクトは、自身の両手に視線を落とした。ヒューの両親から、強く期待を込めて握られたのを覚えている。希望と期待を込めて握られた、その手の力は強かったが、同時にひどく不安に震えてもいた。当然だろう。目の前に現れたのは希望だが、確実にそれをなしてくれる保証はない。
 だが……そうと分かっているうえで、ベネディクトは力強く頷き、次のように言ったのだ。
「依頼を引き受けた以上、必ず持ち帰ろう。
 医師殿、それまでは患者や家族を頼む」
 その言葉に、両親は、医師はどれだけ救われただろうか……いや、言葉だけで救った気になってはいけない。ここからが、本番なのだ。
「……発症例の少ない難病か……。
 ……やっぱり、ここにもそういう病はあるんだね……」
 『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)がそう呟いた。所在なさげに、その手を胸に。何か、思う所があるのだろうか。悲しみに暮れる両親と、熱病に浮かされるヒュー少年の姿を見た後では、そうなるもの仕方ないだろう。
「ふむ。火竜息病。まさに伝説の病。レアなものであるな」
 『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)がそういう。火竜息病は、発症例の少ない病だ。それ故に常備薬も存在しない。これは、症例の少なさというより、セランの薬草の採取しずらさにもよるが。
「ああ。おとぎ話の病だとばかり思っていた」
 『ベンデグースの赤竜』シャールカーニ・レーカ(p3p010392)が相槌を打つのへ、練倒は頷いた。
「吾輩も、まさか生きているうちに患者と出会うとは……と驚愕に打ち震えているほどである。
 故に、一般人にとってはおとぎ話だと思っても仕方あるまい!
 まぁ、情報が出回っていない小集落では、謎の高熱病として処理されている可能性もあるが」
「なんにしても、薬を作らなきゃならないんだろう?」
 レーカが言う。
「それが、ワイバーンの背中にあるとはね。神様ってのは随分と意地が悪い」
「そうね。もし、前の私だったら……無理だ、ってあきらめてたと思う」
 『嶺上開花!』嶺 繧花(p3p010437)が、少しだけ震える、自分の手を見つめた。
「ううん、今だって、胸を張って「できる!」なんて言えない。少しだけ、震えてるのもわかる」
 安竜は恐ろしい存在だ。特に、一般の亜竜種たちにとっては。少し前まで、可能性をもたらすもの、イレギュラーズではなかった繧花にとっては、ワイバーンとは恐れ、逃げ回らなければならない相手だった。
 それを相手に、戦い、下すなど。夢に思わなかった。
 でも、今はその力がある。ワイバーンと相対し、撃退することもできた。完璧な自信は、まだないとしても。
「……でも、けど、だとしても……! 諦めてたまるもんか!」
「そうですね。その通りです」
 同様に、亜竜種である『紫晶銃の司書竜』劉・紫琳(p3p010462)が頷いた。
「それに、今はさらなる可能性を紡ぐことができるかもしれません。
 練達をご存じでしょう? 彼の国ならば、もしかしたら……薬草のサンプルを元に、薬を安定して作ってくれるかもしれません」
「そっか、火竜息病が今後もし発症しても、薬があれば、皆無理しないで済む……!」
「その通りです。それに、火竜息病の熱に対抗できるほどの解熱作用があるならば、他の高熱をもたらす病にも使えるかもしれません」
「なるほど、ヒューってのはラッキーキッズだな」
 『ラッキージュート』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)が言った。
「もちろん、病にかかったこと自体はアンラッキーだ。けど、医師の人みたいに、全力で助けようとしてくれる人がいて、そして、俺たちみたいに、助けられる力を持った奴らがいる……さらに、もしかしたら今後の病に対しても戦えるかも、だ。まさにラッキーキッズじゃないか?」
「そうだね。病に打ち勝てる手段がちゃんと残ってるのは、ラッキーかもしれないね」
 『深き森の冒険者』玖・瑞希(p3p010409)が、そう言った。
「ボクも、イレギュラーズになる前は、病気に負けてたから……そういう苦しさは知ってるつもり。
 ヒュー君が治るなら……笑顔を取り戻せるなら。
 そして、他の病に苦しむ子達が出た時に、その子のためにもなるのなら。
 ボクは頑張るよ!」
 瑞希の言葉は、仲間達も同じくするところだろう。可能性を紡ぐ者たちは、今その背中に純真なる願いと希望を背負った。
 あとは飛ぶだけだ。その希望を花開かせ、希う者たちに救いをもたらすために――。
「みつけた!」
 アレクシアが言う。ワンテンポおくれて、轟、と仲間達の頭上、上空を四匹のワイバーンが飛んでいた。く、と翼をはばたかせれば、その背中に緑色の薬草が生えていることに気づいただろう。あれがセラン・ワイバーンに間違いない!
「四匹……やっぱり、群れで活動してるみたいだね」
「ああ。まとめて相手をするには厳しいが」
 ベネディクトが言う。
「俺たちの目的は、あくまで薬草の採取だ。ワイバーンの全滅じゃあない。
 ならば、勝ちの目はある。
 苦しい戦いになるが……」
「任せるである。苦しいのであれば、ヒュー少年の方がよほど苦しいであろうよ!」
 練倒が言う。
「ああ。全滅させるような時間も惜しい。速く薬草を採取して持ち帰ってやらないとな」
 レーカが言うのへ、仲間達が頷いた。セラン・ワイバーン達は、凶暴な亜竜だ。眼下でイレギュラーズ達が何かを言おうと、獲物が騒いでいるとしか思うまい。セラン・ワイバーンはきぃ、と甲高い声をあげると、地上へ向けて突撃! イレギュラーズ達が散開すると、四体のワイバーンが大地へと降り立った!
「さぁて、それじゃあ薬草を採取のお仕事、始めますか」
 ジュートが笑うのへ、仲間達も頷く。
 かくて、『希望』を背負ったもの同士の戦いが、始まろうとしていた。

●希望に手を伸ばして
 ぎゃあおう、と高らかな雄叫びをあげるワイバーンたち。その背に湛える薬草は、そう簡単に触れさせてはくれないだろう。敵の数は4。群れ為すように襲い来るワイバーンたちは、俊敏に動き回らいながらイレギュラーズ達を翻弄する。まるでカッターのように鋭い翼が、すれ違いざまに瑞希の持つ軍旗と切り結んだ。頑丈な柄が、翼と衝突して、激しい音をたてる。
「……! 流石亜竜だね、鋭い一撃だ……!」
 手に走る衝撃に、瑞希はわずかにその手を振るった。痛みはあるが、倒れるほどではない。
「予定通り、ボクが三匹、引き付ける!」
 ばさ、と戦旗を振るい、瑞希が叫んだ。そのまま懐からヤキトリを取り出すと、これ見よがしに振ってみせる。
「美味しい美味しいやきとり! 興味ある? でも上げないよ!
 アレクシア先輩、何かあったらカバーお願い!」
「任せて! 倒れないとしても、痛いんだから! 無理しちゃだめだよ!」
 アレクシアがそう叫ぶのへ、瑞希は頷いた。走るとともに、戦旗が翻る。それと、ヤキトリの匂い。それにつられたのか、ワイバーンたちが瑞希を追って低空を飛ぶ!
「おっと……お前はこっちだ!」
 ベネディクトが武器を振るう。叩き込まれた一撃が、ワイバーンの内一匹を捉えた。殺人剣の衝撃に、ワイバーンは奇声をあげて飛びあがる。そのまま、ベネディクトへ向けてダイブ! 鋭い爪を持つ後ろ足が、槍のように突き出された! ベネディクトは横っ飛びにそれを回避。鋭い爪が大地を抉る! 一歩遅ければ、抉られていたのは自身だろう。やはり亜竜、侮れる相手ではない。
「だが、俺達もそう長い間お前達と戦う心算は無いのでな。可能な限り、短期決戦を狙わせて貰うぞ──!」
 ベネディクトが飛びあがり、その翼を狙う。練達の術式によって強化された刃が、ワイバーンの翼を切りつけた。被膜に傷がついたワイバーンが、僅かに体勢を崩す――そこを狙った練倒の魔砲が、ワイバーンのあらわになった足を狙う! 強烈な魔力の奔流が、その脚を焼いた!
「おっと、吾輩は加減ができんのである。
 なぶるようで申し訳ないが、外堀から埋めさせていただく!」
 再度うち放つ魔砲。だが、ワイバーンは無理矢理飛び上がると、それを回避した。そのまま、大きく息を吸い込み、ブレスを吐き出す! 毒のそれがあたりにまき散らされた! 肺の内部を痛めつけるような、強烈な刺激臭!
「まったく、薬草背負ってやることが毒を吐く、っての!」
 ジュートがその手を振るうと、不可視の刃が毒霧を切り裂いて、ワイバーンの皮膚を裂いた。ぎゃあ、と悲鳴を上げるワイバーンは、しかし流石の生命力、まだまだ倒れるそぶりは見せない。
「タフだね、やっぱり亜竜か!」
「ええ。しかし、興味深いですね。彼の共生関係と、相反するように吐き出される毒素……もしかして、薬草の毒素を、ワイバーンは摂取している、あるいは毒素そのものが、薬草にとっての栄養素となる?
 となれば、ワイバーンが死した場合に薬草もまた資するのも納得ができます、ええ。薬草が生きるためにはワイバーンも必須……ならば、もし栽培を行うならば、彼の毒素と同じ土壌が必要か、或いは毒素を吸収するような土壌が必要か……いや、毒素の成分も調べたい所ですね。ああ、もしかしたら練達のラボにサンプルを持ち込めばどのような栄養素が必須か見極められるでしょうか? それに」
 ぶつぶつと分析を開始する紫琳に、
「い、今は分析は後!」
 繧花が声をあげた。
「そうですね。失礼しました。援護を行います」
 紫琳が対物ライフルを構える。
「いい銃ですよ。Dominatorといいまして、これは――」
「解説もあと! 援護お願い!」
 繧花が飛び出すのへ、紫琳が頷いた。照準を合わせ、紫琳がトリガを引く。高らかな銃声と共に、凶悪な銃弾がワイバーンの鱗を粉砕して身体に突き刺さった! どぉん、というような音が鳴り響き、辺りに衝撃がまき散らされる。流石のワイバーンも、その衝撃には動きを止めざるを得ない。
「気絶させるよ! 採取お願いっ!」
 飛び上がった繧花が、隙を見せたワイバーンの後頭部を強かにたたきつけた。強烈な拳、紅蓮の竜甲が、まるで繧花の意思を反映したかのように、宝に炎のオーラを巻き上げた。
「絶対に! 絶対に皆で、あの薬草を掴み取ってみせる!」
 再度、強烈なパンチ! 叩きつけられた一撃に、流石のワイバーンも白目をむいた。ぎゅお、と悲鳴を上げて、ワイバーンが地に落下する! すず、と落着したワイバーンは、その背中を無防備にさらすこととなった。
「ジュートさん、練倒さん、お願いします」
 紫琳がライフルを構えつつ、そう言った。瑞希によって引きはがされたワイバーンたちは、流石に仲間の内一匹がやられたことに驚いたのだろう、此方へと狙いを定めて飛来する。紫琳が威嚇射撃を撃ち放つと、ワイバーンは一時的に空に逃れた。それを追って、瑞希が再び旗を振り払う。
「ごめん!」
 そういう瑞希の身体は、すでにボロボロだ。倒れていないだけ、という状況は相当な痛みを感じさせる。だが、それを引き受ける、といった瑞希の矜持の表れでもあろう。紫琳は、あえて「退け」とは言わなかった。ただ、
「いいえ、引き続きお願いします」
 とだけ返した。一方、倒れたワイバーンの背中に飛び乗った練倒とジュートの二人は、トカゲの鱗の隙間に根を伸ばす、奇妙な薬草の姿を確認していた。
「なるほど、こいつが幸運の草か。一つかみ、だったか?」
「うむ! さっさと引っこ抜いて――」
「ごめん、根っこから採取できるかな!?」
 アレクシアが声をあげる。残る三体のワイバーンを引きはがすため、攻撃を続行しているメンバーにもすでに傷が多く、アレクシアもまた強力なワイバーンと相対したが故に、相応の傷を負っていた。
「だが。そうなると採取にはしばし時間がかかるであるぞ!?」
「そうだ! 最悪、アレクシアちゃんが倒れちまう!」
「だとしても! ここで、次につながる可能性を手にしておきたいの!」
 アレクシアは、懇願するように叫んだ。根があれば、別の場所に植えることができるかもしれない。そうすれば、ワイバーンを刈らずとも、安定して薬草が供給できる。
 すべて可能性だ。かもしれない。出来るかもしれない。が、同時にできないかもしれない、無駄かもしれない、という事実に直面する可能性も、勿論ある。
 だが。だとしても。その可能性を、自らの身可愛さに、見過ごしたくはない――!
「安心しろ。背負うのは、彼女一人ではない」
 ベネディクトが言った。
「もしかしたら、薬草の研究や栽培が進むかもしれない。医師殿は、可能性はある、と言っていた。
 それは、とても小さい確率かもしれない。だとしても、俺は、その可能性をあきらめたくはない。
 ……それに、俺はこう約束したんだ。必ず持ち帰ろう、と」
 ベネディクトが、力強く頷いた。覚悟は決まっている。それは、他のメンバーも一緒だ。
「……しばし時間をくれ!
 ジュート殿、ナイフを! 亜竜の肉ごともって行くである!」
「了解だ! すまない、なるべく早く済ませる!」
「任せろ」
 レーカが叫んだ。飛び上がり、ワイバーンを斥力障壁を纏わせた拳で殴りつける。ぐん、と沈んだワイバーンが、しかし怒りと共にその尻尾で、レーカを周囲ごと薙ぎ払った。
「くっ……だが、斃れたりは……ッ!」
 レーカは踏みとどまった。が、がくり、と膝をつきそうになるのを、繧花が支えた。
「大丈夫?」
「すまない……!」
「気にしないで! こう見えてパワー系の私です、むん!」
 笑いかける繧花。一方、紫琳が放つ銃撃の嵐を背に、ベネディクトがワイバーンに殴りかかる。一匹目のワイバーンを倒した時点で、残り三匹のワイバーンはほぼ健在の状態であった。故に、倒すのではなく、如何に時間を稼ぐかが、この場合の争点になっていた。
「ハァッ!」
 気合の言葉と共に、刃を叩きつけるベネディクト。ワイバーンがわずかに姿勢を崩し、そこに瑞希の戦旗のえが叩き込まれた。ぎゃう、と悲鳴を上げ、ワイバーンが空へと逃げる。そのまま、毒のブレスを吐き散らせば、地上のイレギュラーズ達が強かに巻き込まれ、皮膚を焼くような痛みが走った。
「……ボクは大丈夫だけど、皆はそろそろ……」
 限界ではないか、といいかけた瑞希、だが、その刹那、ジュートの声が響いた。
「終わった! たっぷり回収したよ!」
 膨らんだ袋を掲げる、ジュート。その隣で練倒が頷く。
「もう長居は無用である!」
「わかったよ! ありがとう、皆……!」
 アレクシアが泣きそうな顔で、そう言った。だが、まだ戦いは終わっていない! アレクシアはその手を高々と掲げると、その掌に魔力が渦巻いた。
「ごめんね、でも、この薬草がどうしても必要なんだ。
 この可能性、ここで途切れさせたりはしない……!」
 振り下ろすアレクシアの手から、緑の魔力が迸る。刹那、大地より生み出された棘の花々が、その蔦を鋭く伸ばして、ワイバーンの足に絡みついた! 足止めされたワイバーンが、怒りの形相で叫ぶ。
「今だ、退くぞ!」
 ベネディクトの号令に、仲間達は返事の代わりに駆けだした。もがくワイバーンたちを後に残し、イレギュラーズ達は戦場からの離脱を開始するのだった――。

●紡ぐ、可能性
「この薬草を、こうして乳鉢ですり下ろします。出てきたエキスを、はちみつと混ぜて飲みやすくし、水で溶いて飲ませます……!」
 セランの薬草、その青々とした葉が、乳鉢でつぶされていく。にじみ出るエキスにはちみつと水を混ぜて飲み薬にした後、ヒュー少年の口に含ませた。
「薬効が現れるまで少しかかりますが、これで大丈夫です。彼の命は保証します!」
 医師が、安堵した様子でそう言った。刹那、イレギュラーズ達からも、思わず力が抜けてしまう。安堵から。安心から。そして少々の疲れから。
「見事な手際であったな」
 うむうむ、と練倒が言うのへ、医師は頭を振った。
「いえ、練倒さんの手際も見事なものでした」
 練倒は、薬の用意を手伝っていたのだ。練倒の知識は、確かに医師の役に立ち、素早く特効薬をこしらえることができた。
「これで、ヒューは助かるのか」
 レーニが、安堵したように言った。
「良かったね! へへ、苦労したかいがあったよ!」
 瑞希が笑う。
「それよりも、皆さんも心配です。瑞希さんも、随分と傷を負っている様子。手当をしましょう。他の方も、病室はあいていますから、どうかゆっくりと休んでください」
「病室で休む、ってのもなんか……病人になったみたいだな。俺は外の空気を吸ってくるよ」
 軽く手を振るジュート。その胸中には、誰かの笑顔と幸運を守れた喜びに、満ち溢れている。
「……生きろよヒュー。父ちゃんも母ちゃんも、俺達も…皆お前の無事を祈ってる。不幸なんて撥ね退けて、とびきりのラッキーを見せてくれよ!」
 小さくそう呟いた。
 一方、外では、アレクシアが集落隅の木陰に座り込んでいた。
「ここが、一番栽培に適していると?」
 ベネディクトが言うのへ、アレクシアが頷く。
「うん。薬草が一番落ち着いているのがここだから」
「それが根付けば、万が一また火竜息病にかかった子がでても、すぐ助けられるんだよね?」
 繧花の言葉に、アレクシアは頷いた。これが根付けば……栽培できれば、ワイバーンを狩らずとも、薬草が手に入る。
 その可能性は、小さいかもしれない。
 だが……。
「私は、残ったサンプルを練達へと持ち帰りましょう」
 紫琳の言葉に、仲間達は頷く。
「……芽が出るといいね」
 アレクシアが呟いたのへ皆は頷いた。
 可能性の種。
 その芽が出るように、静かに、静かに、祈った。

成否

成功

MVP

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、ヒュー少年は一命をとりとめ、今はすっかり元気を取り戻しています。
 セランの薬草が栽培できるのか、或いは練達で薬が作れるのか。それは未知数です。
 が――希望を背にのせ、戦った皆さんの紡いだ可能性です。実らないわけがない、そう思います。

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