PandoraPartyProject

シナリオ詳細

【月夜の華】それでもあなたが愛おしい

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・その情は毒となりて

 愛している。そう口にするのは、随分と容易いものである。唇に笑みを載せて、決められた音を吐き出す。それだけで想いが通じ合うならば、どれほど幸福になれるのだろう。

 華国には、婚姻が自由にならない場所がある。身分だとか、家のためだとか、そういった理由で、愛を語らう相手を決められてしまう。

「いいか。これは家のためなのだ」
「あなたのために、良い相手を見繕ったのよ」

 常夜の世界では、月明りがなければ星の光に頼るしかない。それすら雲に隠されてしまえば、一寸先も見えないような闇に包まれる。

 望む相手がいるのです。本当は、望む相手がいるのです。そんな言葉は許されず、何もない深い闇に溶けていく。

 ひとの心から逃げ出した感情は、行き場を失う。誰かに与えられるはずだったそれは、もう二度と、あるべき場所には戻れない。
 そんな想いのかけらたちは、いくつもいくつも溶け合って、黒い羽へと変わる。愛を形にしたそれは毒となり、触れたものを蝕んでいく。

「かえして」

 命を絶った後ならば、この世のしがらみからは抜け出せる。今度こそ想い人と結ばれようと、失った情を取り戻さんと、死霊――鬼は夜闇を歩き出す。

「返してくれ。おれには、それが、ひつようだ」

 死者は成長をしない。欲しいものを手に入れたとて、世界はそれを許さない。
 毒と化した想いは、儚くも消えてしまう。それどころか、鬼の魂すら穢してしまう。鬼はそれを知ってか知らずか、失った愛に縋り続ける。だがそれは、いつか来る生まれ変わりの時を、欠けた魂で迎えることになる。

 いつかの未来で、望む愛を手に入れるために。鬼たちの魂を、救ってはくれないだろうか。


・心は零れ落ちた

「好きなひとと結ばれたら、それは幸せなんだろうけど」

 本の頁をぱらぱらとめくりながら、境界案内人の雨雪は言葉を紡ぐ。

「ま、そううまくいかないこともあるよな」

 華国には、婚姻が自由にならない場所がある。それぞれが定められた相手と縁を結び、生涯を共に過ごす。しかし、人の心とは思う通りにならないものである。婚姻の相手とは別に、誰かを愛してしまうことなんて、珍しくはない。

「どうしようもないからって、その想いを捨てることもあるだろ。で、そういうのが毒に成り代わっているらしい」

 愛はほんの少し違えば、甘く優しいものではなくなる。華国ではそれは毒となり、触れたものを蝕んでいくのだ。

「その感情を落としたやつらが、鬼になってから取り戻そうとしているんだ」

 その毒は、鬼の魂を欠けさせる。一度魂が欠けてしまうと、正しくひとに生まれ変わることはできない。いつかくるその時のために、彼らの魂を守る必要があるのだ。

「毒を探している鬼は何人もいる。見つけたら、助けてやってくれ。言葉をかけるなり、毒を取り上げるなり、そのあたりは任せる」

 華国の人間じゃなきゃ、毒は危なくないから。そう一言付け足して、雨雪は笑う。艶やかな笑みだった。

NMコメント

 こんにちは。椿叶です。
 中華風味の世界で、愛に飢えた鬼と会う話です。「月夜の華」の二番目の話ですが、最初の話を読んでいなくても問題ありません。

世界観:
 中華に和が混ざったような「華」という国が舞台です。決して陽の光の差さない常夜の国で、季節を問わず牡丹の花が咲き乱れています。
 この世界では、死んだ人間は「鬼」と呼ばれる死霊になります。死者の国とは隣り合っていて、鬼は華国との行き来が可能です。
 華国では、婚姻が自由にならない地域があります。所謂家のための結婚が推奨されている場所です。とはいえ心まで思い通りにはならず、捨てられた愛情が集まり、鳥の羽の形をとりました。それが毒です。

目的:
 毒と化した愛情を取り戻そうとする鬼を止めることです。その毒は鬼の魂に傷をつけます。魂が穢れるとただしく生まれ変われず、来世で望む愛を手に入れることが叶わなくなります。
 対話をしたり、毒を取り上げたりして、鬼が毒を取り込まないようにしてください。

毒について:
 捨てられた感情の集まりです。誰かを愛おしく思う気持ち、恋しく思う気持ちが集まって、黒い羽の形をとりました。華国の人間、特に鬼にとっては猛毒です。華国の人間でなければ害はありませんが、しばらく触れているとその感情が流れ込んできます。

鬼について:
 ここで出てくる鬼は、愛した者と結ばれずに命を落とした者です。生涯寄り添った誰かがいたのか、それとも愛のために命を落としたのか。出会う鬼によって様々です。大きな悲しみを抱えている者もいれば、憎しみを抱えている者もいます。
 死者は成長することはありません。死んでから取り戻した感情は、淡くも消えてしまうでしょう。

できること:
・鬼と対話する
・毒を取り上げる
・鬼を死者の国に帰す


サンプルプレイング:

 好きが、いつでも叶えばよかったんだけどなあ。俺も正直、いつだって分からないよ。愛とか見えないし、どこかに消えちゃうしさ。だからまあ、鬼たちの気持ちがすこし分かるような、気がするというか。
 ひとまず出会った鬼に話しかけるよ。……なんだか君は悲しそうだね。そうか、君が好きなひとを迎えに行く前に、相手が死んじゃったんだね。
 死者になったからこそもう一度、か。わかるけど、その毒はだめだよ。だめだから、今すぐ手を離して。


 出会う鬼について希望があれば、特徴(性格、見た目、境遇等)をプレイングに記載していただければと思います。記載がなければこちらで出会う鬼を選ばせていただきます。
 よろしくお願いします。

  • 【月夜の華】それでもあなたが愛おしい完了
  • NM名椿叶
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年04月01日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼
空鏡 弦月(p3p010343)
孝臥の恋人
ジゼル・ベグラーベン(p3p010507)
特異運命座標

リプレイ

・手のひらから

 愛。残念ながら『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)にとっては、無縁のものである。だから、自分がこの方向で役に立てることは多くはないだろう。それでも手は尽くしてみようと、世界は空を見上げた
 真っ暗な空に、ほのかに香る牡丹。まだ周囲に鬼らしき姿は見えないが、この空間に何かしらが現れるような気がした。

 さて、手を尽くすと言ったがどうしようか。未来のない相手に何を語ったところで、意味があるわけではないのだ。既に亡くなった者に、送る言葉はないだろう。
 勿論、他の誰かが鬼に言葉を尽くそうと構わない。批判をする気も、止める気もない。単に世界がそう考えているだけだ。

 鬼と話す以外となれば、やはり毒とやらを消していくことになるだろうか。少しでも多くの毒を消すことができれば、目的を果たすことになるはずだ。
 ひとまず落ちているものを拾うか、鬼から奪い取るとしようか。

 歩き出して間もなく、足元に黒い羽が落ちているのが目に入った。なるほど、これが毒か。
 手のひらほどの大きさのそれをつまみ上げて、空にかざす。黒々とした毒は、時折周囲の色と境が曖昧になった。

 どう処理しようかと考えていると急に、頭の中に何かが流れ込んできた。

 何とも形容しがたいものだった。甘く痺れるような感情に紛れた、ほんの少しの痛み。体温を根こそぎ奪っていくようで、不思議と温かい。そんな感覚だった。

 これが捨てられていった愛情か。これ自体はそう悪い物には感じないが、この世界にとっては、何かしら悪い方向に働くらしい。鬼だけでなく、まだ生きている人間にも毒となるのは些か不思議ではある。ただ、それだけこの世界では恋を叶えることが難しいということのようにも感じられた。

 身体の中を、流れ込んできた愛のかけらがまだ巡っている。ただ、今は無きものを感じたところで、共感できるわけでも、何かが出来るわけでもないのだ。ならば、さっさと握りつぶしてしまおう。

 羽を包むように握り、拳に力を込める。手の中で黒色はあっけなく崩れて、端から零れていった。そっと手を開くと、形すらなくしたそれが、さらりさらりと風に流されていく。

 黒いかけらを見送りながら、世界は静かに目を伏せる。

 恋愛感情一つで、来世すら棒に振りかねないとは。恋愛なんて、やはりしないに限る。
 他人の恋バナを聞く程度で丁度いいのだ。少なくとも、今の自分にとっては。


・愛の姿

 愛とか、理解できない。理解したくもない。

「これがあれば、あたし、あの人と幸せになれるの」

 目の前で黒い羽に手を伸ばしているのは、艶やかな衣装を纏う女。毒を守るようにうずくまる彼女を見下ろしながら、『呑まれない才能』ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)は奥歯を噛み締めた。

 友愛、親愛、家族愛。そういうのは感じたことはあるし、恋愛というものを想像してみることはできる。ああ、だけど。

 ヘルちゃんが、私が、誰かを「愛する」事ができるところが、終ぞ思い浮かばない。

「あたしはどうしても」

 愛に狂った者がどんな姿になるのか、この身をもって知っている。だから、あんなのには絶対になりたくないと、思ってしまうのだ。

「悪いけどてめぇにこの毒を渡すわけにはいかねえのだ」

 これが彼女にとって、大切な気持ちだということは理解してやれる。ただ、それが魂を穢し、彼女を正常な魂にするのを妨げるというのなら。やはり、渡すことはできない。

 女から半ば強引に毒を取り上げる。羽の黒色が、鱗粉のように指先に絡みつく。

 自分は、「死出の番人」(ニヴルヘイム)の巫女なのだ。多少強引にでも、死者の国に帰らせるとしよう。

「恨むのなら恨んでくれても構わねぇのだ」

 泣き叫ぶ女を、宥めることはできないだろう。だから無理やり弱らせて、ギフトを使った。

 気が付いたら、女はいなくなっていた。残されたのは真っ黒な毒だけ。それを手離そうとして、感情に飲み込まれた。

 頭や胸の中でのたうち回る痛み。胃をかき乱すほどの憎悪、そして、溺れるほど甘やかな苦しみ。
 ああ、これが「愛する」気持ち。なんて、気持ち悪い。

 吐き気がせり上がってきて、口元を押さえる。しゃがみこんで吐き気を堪えていると、ちらちらとあの忌々しい母の顔が浮かんだ。ああ、おぞましい。
 愛のために、娘を捨てた女。愛を欲した亡者。どちらも、見たくない。

 口では理解してやるとは言っても、本心では拒んでいる。こんなにも心を乱されるくらい、「愛」には触れたくない。触れられたくない。
 あんなのには絶対に、なりたくないのだ。

 誰かを愛して、幸せになる。きっと「人」としてはそれが普通。だからきっと、こんな自分は異常で、欠陥品。
 だけど、ああして壊れた姿に成り果てるくらいなら、今のままでいたい。

 かき乱されたままの胃が気持ち悪くて、ヘルミーネは再び口元を押さえる。苦しくて、涙がこぼれた。


・来世こそ

「おっと、その毒は取り上げさせてもらうぜ」

 木陰に座り込む男性だった。半ばぼんやりと羽を見つめている彼から、『特異運命座標』空鏡 弦月(p3p010343)は毒を掴み上げた。
 暗い場所に、相手の顔が浮かんで見える。後ろで咲き乱れる牡丹の花が、彼の顔を染めているように感じられた。

「おや、だめかい」

 ひっそりと笑う男性に、頷いて返す。
 あなたのため。家のため。こういうのは大抵碌なものではない。結局は自分たちの利益のためでしかない見合い話も少なくないのだから。
 男にどうだったのかと尋ねると、彼はふっと微笑んだ。

「僕より、想い人は随分と身分が低くてね」

 聞けば、想い人とは結ばれることはできず、結局お互いに好きでもない相手と縁を結ぶことになったらしい。だが彼は、想い人のことがどうしても忘れられず、鬼になってようやく、捨てたものを取り戻しにきたらしい。

 そうかい。弦月は口の中で呟いた。
 結局、死ぬまで好きな奴のことを思って鬼になったって訳か。

「来世なんか、いいかなって。今はあの人と一緒にいたいよ」

 分からないでもない。彼に穏やかに見つめられながら、静かに言葉を選ぶ。

「ただ、そいつはいけねぇな」

 彼はもう死んでいるのだ。死んだ人間がこの世に居続けるのは、輪廻転生に反することになる。

「アンタの魂は、まだ穢れちゃいない」

 弦月の手に握られた羽が、その形を歪めていく。

「今ならまだ、来世に望む者が待ってるかもしれん。その可能性を捨ててまで、アンタはこの毒に触れて可哀そうな自分ごっこを続けるのか?」

 毒を掴んでいない方の手を、差し出す。男の手が何度も惑うように揺れて、やがて弦月の空の手を掴んだ。
 彼を引っ張るように立ち上がらせて、その背中をとんと押す。

「さぁ、行け」

 今度こそ、幸せを得るために、新たな命を授からなくてはならないのだから。

 押された勢いで数歩前に進んだ男が、顔をこちらに向けた。

「ありがとう。僕、今度こそ」

 するりと彼の姿が掻き消えて、同時に羽も砕け散った。牡丹の香りばかりが残る場所で、弦月はゆったりと周囲を眺めた。

 捨てられた愛が毒になる場所、か。
 ここに生まれていたのなら、自分も彼らのように鬼になってしまうかもしれない。

 彼が先ほどまで座っていた場所を見つめながら、ひとつ息を吐く。

 身分差の悲恋ってのは、嫌だねぇ。ぽつりと呟いた言葉は、闇の中に消えていった。


・幸福

「酷い場所ね」

 吐き捨てるような言い方になってしまったのは、苦い顔をしてしまうのは、自分の過去のことを思い出すから。

「ねえ、ちょっと待って」

 少しだけでも、お話してくれないかしら。そう女の鬼の腕を掴んだのは、『特異運命座標』ジゼル・ベグラーベンである。良いわよねと微笑みかけると、鬼は諦めたように頷いた。

 月明りのないここでは、目に映るものが全てではなくなる。羽を握りしめた女が何を隠しているのかを覗いてみたくて、ジゼルはその唇を動かした。

「私はジゼル。ジゼル・べグラーベンよ。貴方達とはちょっと違う『鬼』ね」

 自分は別の世界で、吸血鬼と呼ばれていた身。一度心が死んでいる身。だからここにいる鬼と、少しだけ似ている。

「そうね、まずは貴方の事から聞きたいわ。どうしてその毒を求めているのか、とかね」

 女の手を包むように握り、そろりと黒い羽を奪い取る。女は自分の手から消えた羽と、ジゼルの顔を交互に見つめ、やがてぽつりと口を開いた。

 鬼の口から語られたのは、幼馴染と結ばれなかった、という話だった。

「そう、愛していたのね」
「そうよ」
「でも、捨ててしまったのでしょう?」

 女はジゼルを見つめ、それからゆっくりと項垂れた。

「ええ、そうよ」

 彼女の姿は、どうすれば良いのかと問うていた。ジゼルには、そう思えた。だから、自分の話をしようと思った。

「私もね、愛していた人がいたわ」

 ジゼルはかつて奴隷だった。そんな自分よりもずっと身分が高くて、素敵なひとが、一人ぼっちのジゼルを側において、愛しんでくれた。
 だからとびきり、幸せだった。

「ただ、その人は私を裏切ったわ」

 甘く優しい日々は、終わりを告げた。その人に縁談が舞い込んだからだ。
 縁談を嬉しそうにこちらに話すあの人は、ああ、ほんとうに酷い。あんなに、大好きって言ってくれたのに。

「でもね、私は見つけたの。真実の愛を」

 ジゼルの心は、一度死んだ。あの世界で、一度灰になった。だけど今はあの子がいる。違う世界で巡り合ったあの子が、ジゼルを生まれ変わらせてくれた。
 青い羽の少女と過ごす日々はどこまでも美しく、甘やかで、幸せだ。

「だから、どうか貴女も次を、未来を信じて。諦めないで」

 鬼の女の瞳に、ほんの少しの光が宿る。

「貴方にだって、真実は訪れてくれる筈だもの」

 女は頷いて、そっとその姿を消した。ジゼルは残された羽を、しばらくの間見つめていた。

成否

成功

状態異常

なし

PAGETOPPAGEBOTTOM