シナリオ詳細
<天翼のグランサムズ>魅せられた物語
オープニング
●行方知れずの騎士様へ
「……なるほど、それで私に話を持ってきてくださったのですね」
熱心に報告書を眺めていたテレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)がそれを丁寧に横に置いて、マルク・シリング(p3p001309)を見上げた。
「そちらの方がこの報告書に出てこられていたヤツェクさん、ですか。
この報告書によれば、その魔種、アデレード・オークランドがグレアム・アスクウィスの名を出したと」
「あぁ、そうだ。それでグレアムって奴の今までの足取りを調査したい。あんたなら知ってんじゃないか?」
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が問えど、テレーゼの表情は芳しくない。
「異形の姿であれば誰だって分かるはず。
恐らくですが、そのグレアム卿は一般的な人間種と同じような容姿をなさってると思います。
そうなると、なんでしたか。振りまいている原罪の呼び声ぐらいでしか魔種であると外から判別するのは難しいんだと思います。
それさえも、人里離れている場所に潜まれでもしたら伝播するのを気づくのは困難でしょう」
くるくると報告書を丸めて紐でくくった後、それをマルクやヤツェクの方へ寄せてから、ちらりと視線を2人の後ろへ。
「この国の内部まで絞れるとはいえ、それでもレガドイルシオン全土、広いです。
そこから風貌も知れぬどこかの誰かを探すというのは、少々時間がかかるでしょう」
「……風貌であればイングヒルトさんに頼めばわかるんじゃ?
イングヒルトさんはたしか、アスクウィス家と元々は許嫁関係にあったはず。容姿を聞いてみます」
話を聞いていたマルクが顔を上げれば、テレーゼがきょとんとして、少しだけ微笑んだ。
「一歩前進だな……まぁ、それでもグレアムって男を見つけ出すのは難しいってのは変わらないか」
「こちらも諜報に探らせてみますが、すぐに見つけるのは難しいでしょう。
それよりも、こちらの報告書を読んでいて1つ気になったことがあるんです」
そういうと、テレーゼは立ち上がって備え付けられている本棚へ足を運び。
「ええっと……たしか、図書室から休憩用に……あぁ、ありました」
本棚を見上げ、何やら見つけたらしい彼女は、そのまま脚立を持ちだして、登り始める。
「あっ、お手伝いしますよ」
マルクとヤツェクが脚立を抑えれば、お礼と共に1冊の本を持ちだした。
「うん? そいつは……たしか、天翼のグランサムズって本だな?」
「ええ、ありふれた大衆小説です。初版本はかなり昔のものでして……私のこれも流石に初版本ではありません。
と、それはともかく。ええっと、たしか……あぁ、ここですね」
ぱらぱらとだいぶ後ろの方までめくってから、テレーゼが2人の方へ本を差し出してきた。
●ある有り触れた逸話の話
森の音は静まり返り、泉を照らす月明かりは湖面に影を作る。
湖の中心に小さくある陸地にて、たった一本の大樹に寄り添う2つの影があった。
「すまない……こんなところまで来てしまいました」
騎士の言葉に、女は微笑む。
「どうして? 貴方と旅をするのはとても楽しかったのに。
あの頃のままだったら、こんなに色々な所へ来ることなんてできなかったよ?」
「俺は、騎士なんかじゃない。あんたを連れて逃げるのに、何人もの人間を殺してしまいました」
「それは、仕方のなかったことなのよね? だって、お父様もお母様も、私を殺したかったんだもの」
女は、そっと騎士の頬に手を触れた。
「大丈夫よ、大丈夫、私達はいけないことをしてるわけじゃないもの」
女はそう言って騎士の頭を掻き抱いた。
そのまま、自らの翼に彼を包み込むようにして小さく笑う。
「ねえ、貴女がして?」
「すまない……すまない……」
「いいえ。構わないわ。苦しまないで。嘆かないで。
貴方と一緒になるのだもの。そんな顔の貴方を迎えたくないわ」
「――あぁ、そうだ、な」
騎士はぎこちなく笑って、剣を取る。
そっと、女を抱きしめ返すようにして――
●向かうべき場所
「テレーゼ様、これは?」
「クライマックスシーンです。
ネタバレですけど……そのクライマックスシーンで騎士と女は心中します。
騎士が女を抱きしめて握った剣で女を貫き、そのまま貫通した剣で自らを殺すのです。
それで、その話は終わります。もうちょっと続きはありますけど、事実上、そこで終わりです」
「それがどうしたって言うんだ?」
「お話の実話であるかの是非はともかく、
その話の泉と森――そのモデルとなった場所が、ブラウベルク領の南部にあります」
差し上げます、とだけ言ってテレーゼはマルクに本を手渡す。
「モデルとなった場所、ですか」
手渡された本の装丁は、前回に触ったものと微妙に違うようにも思えたが、それが版の違いだからかなのかまでは分からない。
「ええ、ちょうど、その近隣で魔物の姿を見たというお話がいくつかありまして……
そういった意味でも、調査をお願いしたかったのです」
テレーゼはそこまで言って、再び椅子へ戻っていった。
- <天翼のグランサムズ>魅せられた物語完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年04月09日 22時35分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
ちらほらと姿を見せる魔物を蹴散らしながら、イレギュラーズは歩みを進めている。
「グレアム卿なんかより僕はお嬢様と遊びたいのだけどねぇ。
こんな薄暗い森でモンスターハントとは面白くない仕事だよ、全く。
……ロマンチックなロケーションが出来すぎている点を除けばね」
愛銃を手持ち無沙汰にくるりと回す『Safety device』ヨハン=レーム(p3p001117)は狩り終えた魔物から目を外して前に進んでいく。
「グレアム・アスクウィス。ジュリアス卿の、行方知れずになっていた次男の。
彼が……彼も魔種の可能性が高い、と。…………そう、ですか……」
『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は聞いた話を反芻する。
顔に火傷を負いそれを理由に廃嫡となった長男、主君に引っ張られて反転をきたした当主、そして生き残った次男さえも魔種の可能性が高い。
その事実に少しばかり考えを纏めていく。
「あの本、ろくでもないな」
そう言う『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)が思い起こすのは天翼のグランサムズと名打たれた本のこと。
悲恋の呪いを纏う妖精武器としては嫌悪感しかない。
「そもそも騎士は守る者の為なら殺しも必要だし、守るべき者もろとも心中とかあり得ない。
騎士の武器視点からしたらたまったもんじゃない!」
「物語のモデルになった場所かぁ。
なんだかロマンチック……と思わなくもないけれど、肝心の物語は、なんだか悲しいお話みたいだね」
『嶺上開花!』嶺 繧花(p3p010437)は話を聞いてそんな感想を抱く。
「でもでも、この物語は作り話なんだよね? だったら今は、魔物の調査! 全力で頑張ろう!」
「そうだと信じたいんだがな……」
そう言ったのは『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)だ。
恐らくは、何も関係ない――そう信じたいがそうではないとも言い切れないのが今立てている推測だった。
自らの持つあらゆる手段を用いて天翼のグランサムズの初版本を探し求めたヤツェクだったが、残念ながら見つからなかった。
いや、正確に言うならば、『あの日にあの家でみた版本が見当たらなかった』が正しいか。
(おそらくオリジナルが前の事件で取って行かれた本だと推測していたが、初版本すら違うとなるとあれは何だったんだ?)
「ま、でも行ってこいとはシンプルで良い。物語の裏を探るのも詩人の嗜みだ。やろうじゃないか」
最後はぽつりと独り呟いて。
「アダレードが天翼のグランサムズを求めた理由は、オースティン・オークランド卿の遺した何かが切欠の様ですが……
有翼の少女と騎士の物語……偶然かは兎も角、奇妙な符号ですね」
リースリットもヤツェクの反応に同意を示せば。
「ここが、このお話のモデルになった場所……
私たちが情報を得て、関わった途端にここの魔物の被害の話。
聊かタイミングが良すぎる気がします、が」
そう言う『厄斬奉演』蓮杖 綾姫(p3p008658)の手にも天翼のグランサムズがある。
足元には気を付けながらも読みながら進んでいく。
「ブラウベルク領内に出現した魔物は対処が必要だけど、このタイミングでこの場所……必然を感じるね」
マルク・シリング(p3p001309)はちらりと着いてくる赤毛の女性を見る。
「天翼のグランサムズの物語をなぞろうとしているのか、それとも結末を変えようとしているのか。
どうであれ、これ以上ブラウベルク領で、犠牲を出させない」
マルクはぎゅっと拳に力を込めた。
「フリック 墓守。主ノ後 追ワズ 墓標 護ル 選ンダ者。
ン。物語 史実ナラ 大樹 付近 墓標 アル?」
歩みを進める『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)の頭上ではレンゲが生えている。
「心中ね。気が滅入るけど安心なんでしょうね。
1人じゃないんだし、一人ぼっちにしないで済むもの」
そういうレンゲとて、フリックを独りにしたくないが故の言葉だ。
●
歩を進めたイレギュラーズは不意に開けた場所に出た。
臭い立つ腐敗臭が立ち込めるその中心に、その獣の姿はある。
「森に入った時の大きな鳥のような気配に、ケルベロスの死体……なんか、森に入ったばかりだっていうのに、危ない雰囲気しかしないじゃん……」
繧花は思わずそんな言葉を漏らす。
「ケルベロス! これは何だろう?
脅しか? 素敵な趣味の目印だね、僕たちの合流地点は腐った死肉だ」
ヨハンは大げさな仕草を示してそう言えば、そのままなりを潜めて真面目な表情を見せた。
「ケルベロス……この森に棲んでいるのでしょうか」
その姿をみとめたリースリットはそれの周囲をぐるりと回ってみる。
そこかしこを食い荒らされているこの魔物が倒されてから時間が経っていることだけは分かる。
戦闘の痕跡はほとんどない。もしかすると他所から来たのではないか――そう考えてみたが。
「流石に他所から運び込んだものではなさそうですね……
いえ、意図して持ち込むのなら、こんなところに捨てられてるはずもありませんか」
言ってはなんだが、こんなところに放置していても利は無さそうだ。
「ってことは、この森ってそんな魔物も棲息してるってことだよね?」
繧花は思わずふるりと震えるものだ。
(でもここには先輩たちが一緒にいてくれるんだもん。
大丈夫……だよね?)
「経過時間大&食イ荒ラシ 情報獲得困難カモダケド 死因ダケデモ分カレバ 対処ヒント ナルカモ」
フリークライは緩やかな足取りでケルベロスへ近寄っていった。
「……ヨクワカラナイケド モシカシテ コレカモ」
そう言ってフリークライが指さしたのは、ケルベロスの背中と首筋だ。
「コッチ コウ ナナメニ コッチハ 上? カラ」
首筋の傷は言われてみれば斜めにすっぱりと一太刀を入れているように見える。
深い切り口はこれだけで心臓まで到達していそうでさえある。
背中の方は真っすぐ穴が開いている。まるで真上から銃弾にでも撃たれたように。
「この傷、どう思う?」
マルクは首筋に入った一太刀に近づいて、後ろにいるイングヒルトに問う。
「……もしかすると、グレアム様のものかもしれませんね」
「やっぱり、そうなのか」
「ただ、分かりません。彼の一太刀だとしても、ここまで一撃で入れられるかまでは」
「その辺りは反転して力が増したからっていうのも考えられるね……」
そのまま少しばかり考えながら、じっと傷口を観察する。
サイズはそんな会話を聞きながらその話をノートに記録として残していく。
モンスター知識を駆使してここまで討伐してきた魔物の数を記録するのはもちろん、このケルベロスの事も記録している。
(こうやってまとめておけば帰った後で報告書も作りやすくなるし……)
さらさらとペンを動かす速度は変わらない。
「ン 待ッテテ フリック 埋葬スル。
簡易デモ 弔イタイ」
そういうフリークライに同意するように、イレギュラーズはそっとケルベロスの埋葬を始めた。
変化があったのは、ケルベロスの下を離れてから少し経った頃の事だった。
「な、なんだか敵が強くなってない?」
近づいてくる死神モドキの腹部辺り目掛けて殴りつけながらの繧花の呟きは気のせいではない。
ケルベロスのあった広場を抜けてなお歩みを進めるイレギュラーズの前に姿を見せる魔物の質は、どんどんと上がっている。
「それもそうですが……問題はこれですね。……何でしょう、これは。怨霊の類……?」
リースリットは、眼前に立つその魔物へ首を傾げる。
ふわふわと浮かぶローブとフードで覆われたナニカ。
攻撃を加えて思うのは、その感触。斬っているのが布の感触だけ。
まるで中に何もないような――そんな違和感。
「森には獣、それでは獣以外の魔物は? そりゃあヤバイやつさ。
間違いなく強敵ではあるが、ここに間違いなく何かが存在するという事。
つまり負けられない敵だ! 全力でいくぞ!」
回復術式をフル稼働させるヨハンの言葉にも道理という物だ。
「ン、任セテ フリック ホボ永久機関」
淡く輝き、味方の魔力を、闘志を充電するのはフリークライの役目である。
いつどんな敵とどれだけ戦うのか分からない今回の戦場にて、その役割は重要不可欠と言えた。
「なんであれ、こんなのが外に出たら人々に危害を与えるのは間違いない。ここで倒そう――」
マルクは同意しつつ目の前に在る3体の謎の存在へ魔弾を走らせたl。
不殺なす閃光の魔弾は眩く輝き、草木を照らし付ける。
「不思議な敵ですが、勝てないわけではありません」
綾姫は黒蓮の力を限定的ながら解き放ち、直線上を焼き払うように薙ぎ払う。
壮絶なる神秘の一太刀は一刀を以って2体の死神モドキを切り払った。
●
水面が陽光に照らされてきらきらと輝き、その島に浮かぶ大樹は穏やかだ。
そこへ姿を見せたイレギュラーズは、先客の存在に気づいた。
ちょうど、島からこちらへと渡ってきたその青年は、腰に禍々しいオーラを放つ剣を帯びている。
「――グレアム卿、お久しぶりです」
その先客へ、マルクの連れてきたイングリットが短く返す。
「間違いないか?」
「はい……以前にお会いした時とほとんど変わりがありません。間違いなく」
マルクが確認すれば、イングヒルトが小さく頷いた。
「……貴方がグレアム卿ですか」
「こんばんは、ファーレルの姫君」
リースリットの問いかけにグレアムが静かに返す。
「……これを問うのは、あまりにも明白な事なのかもしれません。
ですが、それでも敢えて問いたいことがあるのです。1つ、よろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
「……何故。何故、貴方は反転を?」
「…………彼女の前で言うのは少しばかり気恥ずかしいのですが」
深い沈黙の後、イングリットをちらりと見た青年はそう言って、目を伏せた。
「父は理不尽へ怒りを抱き。私は兄の代わりに騎士らしくあろうと決めたのです。
兄が、大やけどを負って自ら廃嫡を望んだ日に。
そう、兄の後悔も、悲嘆も、憤怒も、全て私が代わりに晴らす。そのためには力が必要だ」
「それへの『怒り』が、ジュリアス卿の反転を促した。
……貴方から聞こえるこの呼び声は、『そう』ではない。
つまり、お二人は1つの事件に際してそれぞれ別の属性の魔種となった――とそういうことですか」
リースリットに小さくグレアムが頷いた。
「……ええ。でも唯一、良かったことがあります。私は、美しき小鳥を見た。
それが許されぬことなのだとしても、だからどうだというのでしょう。
俺は、傲慢の使徒なのだから――気にする必要もない」
「アダレードはどこに? それに、ここに来た目的はなんなのですか?」
綾姫の問いかけに、青年は少しばかり言葉を噤んで。
「じきにお会いできますよ。私がここに来たのは――これのため」
そういうと、グレアムが剣をこちらへ突きつけるようにして構えた。
禍々しいオーラを放つソレは、一般的には魔剣と呼ばれる部類にも見える。
「申し訳ありませんが、この剣が飢えていて……一つ、やりましょうか」
刹那、グレアムの全身から闘志と魔力が溢れ出す。
氷の結界を張り巡らせたサイズが一気に前へ飛び込んだ。
「――させない!」
強烈な閃光を放つ自身を振り抜けば、鮮やかな軌跡を上げ居て斬撃を刻む。
それを正面から受けたグレアムは、平然と剣を翻してきた。
「天翼のグランサムズの舞台は月明かりの泉。夜に何も起こらないはずがないと思ってたが。
悪いやつってのは明るい時間に出歩かないものじゃないのか?」
ヨハンは期待外れの男にそう言いながら聖銃を構えてぶっ放す。
邪悪を穿つ聖別の輝きは躱そうとしたグレアムを追い喰らう。
「止まれ、グレアム・アスクウィス!」
マルクは魔弾を構築しながら声を上げる。
「残念ながら、それは難しいですね――」
マルクの言葉を無視したグレアムの剣が、前衛を大きく切り裂いた。
「やれやれ、やっぱりこうなるか。『あったらいやだなあ』ほど往々にして予感は当たるもんだ」
ヤツェクはグレアムとの出会いを出来ればなかった方が楽とは思っていた。
掻き鳴らすは素早く調和の一手。
刹那に彩る響きが奏でられれば、続けて引き金を引いた。
魔弾は戦場を走り、グレアムの身体へと炸裂する。
「あれが――魔種」
繧花にとって、その存在を実際に見るのは初めてだった。
竜と亜竜種、その絶対的な力の差を受け入れて、模られた常識と小さな世界の中で生きてきた。
その常識を、先を行く者達が打ち砕いてくれた。
そんな先達たちが、戦って互角に争ってきた相手。
その1人がアレだ。
「――私だって、竜なんだ」
ここにいるより多くのイレギュラーズが、全力で戦って退けたのが怪竜だ。
なら――8人で互角の場合がある魔種ぐらい、どうだっていうのだろう。
紅蓮之竜甲で拳を握り締めて、肉薄と同時に連撃の拳を振り抜いた。
「ン 支援 任セテ」
フリークライが再び魔力支援を開始する。
多種多様な支援魔術は継戦状態の長いはずのイレギュラーズを、そうとは思わせない。
充実した魔力を受けてマルクの魔弾が走る。
キューブ型の複数の魔弾を纏め上げ、形を大きなキューブにして構築。
それを空へと打ち上げれば、放物線を描いて放たれる。
強烈な魔の光がグレアムを包み込んだその刹那、既に次手はある。
意外と守りの堅さを見せるグレアムを屈折を起こした魔弾が貫いた。
――だが、戦いは思いのほか早くに終わりを告げる。
「……今日は退かせていただきましょう」
戦闘が始まってから少しの事だ。不意に、グレアムがそう言った。
「皆さんをここで殺すのは出来なくもありませんが、手負いの英雄を討ち取るのは流石に騎士らしくはない。
ここは一度退かせていただきますね」
そういうと、彼は構えていた剣を鞘に納めた。
「待て!」
マルクは直ぐにイングヒルトに視線をやってそれを追うべく走り出した。
●
「ン、物語 舞台 ココ?」
フリークライの問いに頷いたのは本を持っている面々。
「史実ナラ 墓標 アリソウ?」
「この物語の真実は……どうだったんだろうな。
騎士と女がオークランド家の関係者だったあたりか?
死なずに生き残ってしまったやら、女が泉の主に変化したやら……」
続けるようにヤツェクも考えを口にする。
泉の主――そう言って、そう言えばこの場所には何かがいるような気配がないことに気づいた。
「ねぇ、フリック? 木の裏を見て」
レンゲに言われて、フリークライはゆっくりと木の裏へ。
「ン……グリフォン 死ンデル」
即死ではないにしろ、ほぼ瞬殺であったのだろう。
「ソレニ コレ マダ温カイ」
死んでからそんなに時間が経っていない。
そう言ったフリークライに、他の面々はこれをだれがやったのかを直ぐに理解した。
直ぐさっきまで戦って早々に退却していった相手がいる。
「グレアムはこいつと戦ったのか? だから俺達との戦いを早々に終わらせて退却したってわけか。
殺せるが手負いのどうこうってのは方便で単純に自分の方が万全じゃなかった……」
ヤツェクの判断は恐らくそう間違ってはいまい。
「俺は門外漢だが、その傷痕、さっき見たケルベロスにも同じものがあったんじゃないか?」
グリフォンへと入った傷痕は大振りの剣で一撃入れられたような傷だ。
となれば、ケルベロスを斬り捨てたのはグレアムの一撃であったと考えられる。
「そうなると、さっきのケルベロスを真上から撃ち抜いたのはお嬢様(アダレード)と考えられるかな?」
ヨハンはケルベロスのもう一つの傷痕を思い起こす。真上から撃ち抜くなら、それが倒れた時ともう一つ。
空から文字通り真下に撃ち抜いた場合があろう。アダレードは飛行種から変じた魔種だ。空ぐらい飛べる。
綾姫が気にかかっているのは呪いの事だ。
(はるか昔の事、もう何もないかもしれませんが……
一連の関わりの中で、ここの事もでてきて
それらが一切無関係とは、考えにくく思えてなりません)
獣の呪い。そう呼ばれていたという呪いは、まるで何かを嘆くような、憐れむような呪い印象があった。
大樹へ寄り添うように近づいていった時だった。
心臓の鼓動が激しくなり、熱っぽくなり始めた。
そうして――そのまま、ふらりと意識が遠のいた。
「だ、大丈夫か!」
それに気づいた誰かが声を上げた。
●
それは夢だった。
誰かの手で刺され、ぐったりと倒れこんでいた。
横たわった綾姫――いや、この夢の視点の主は何か声を上げた気がした。
●
「ん、んん……あれ、私は」
「良かった、意識を取り戻したみたいだな」
眼を開けた綾姫が最初に見たのはサイズの顔だった。
「大丈夫か? 木に近づいたと思ったら倒れたんだ」
それに気づいたらしいヤツェクも声をかけてくる。
「え、えぇ……何か夢を見ていたような気がするのですが……」
そう思っても、何も分からなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
MVPはフリークライさんの支援能力の高さへ。
GMコメント
こんばんは、春野紅葉です。
<天翼のグランサムズ>2弾をお送ります。
小説のモデルとなった森と泉――そこにあるのは果たして。
●オーダー
【1】泉への到達および調査
【2】魔物を出来る限り討伐する
●フィールド
鬱蒼と茂る森の中です。
昼であれば光源の問題はありませんが、ファミリアー、広域俯瞰などによる空からの状況把握は困難です。
森全体の大きさは左程なので、まっすぐにいければそれほど時間はかからないでしょう。
●エネミーデータ
・『泉の主』
正体不明の魔物です。
イレギュラーズは森の中に入る直前、異様な大きさの羽ばたきの音と鋭い鳥のような鳴き声、
奥の方から散るように逃げる多数の鳥を見ることができます。
それがこの謎の存在と関係あるのかは不明です。
・『流離う者』×???
謎の存在です。時折姿を見せるふわふわ浮かぶローブとフードですっぽり包まれたナニカです。
手には大鎌を持ち、さながら死神をイメージさせます。
・獣型魔物×???
獣型の魔物です。
イヌ科やネコ科、鳥類など、森に生息しそうな生き物が魔物の姿をとった存在で構成されます。
脅威ではありますが、特別な対処が必要なわけでもない、そんな存在です。
・ケルベロス(死体)
イレギュラーズが森に潜入して最初に存在する合流地点となる開けた場所に存在します。
既に誰かによって殺められいますが、周囲に戦闘の痕跡が見られず、瞬殺であったことを感じさせます。
死後、相応に時が経っており、獣に食い散らかされています。
・『灼銀の壊剣』グレアム・アスクウィス
消息、能力不明の魔種。今回のシナリオで登場するかどうかは不明です。
人間種風の風貌、騎士っぽい武装であると推測されます。
また、マルクさんが参加される場合、反転前は赤色の瞳に銀色の髪の騎士であったこと、かなりのパワーファイターであったことをPC情報で取得します。
※攻略ヒント
どんな敵であろうとある程度は対処できる作戦を立てておくことをおすすめします。
深追いしすぎも慎重を期しすぎるのも禁物です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的で詳細不明な点が非常に多く、警戒が必要です。不測の事態に備えて下さい。
Tweet