PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<spinning wheel>いつまでたっても廻らず、時計の針はそのままで

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


――冬の気配が濃い。
 ふゆにはね。と、ティック・クロウリスは思う。
 みんなねるんだよ。
 ティックはわさりと枝を動かした。
 ティック・クロウリスは長く生きた樹である。
 旅人たちが背を預け、うとうとと枕にしていたうちに、夢の中をちょっとつまんで、少しだけことばと、世の中のことを知った。
……。
 ティックの元で足を止める旅人は、いろんな夢をみていた。
 つらいことがあるんだなあ、と思うと、なんだかティックもさみしくなるようになったのはいつだっただろうか。楽しいと楽しくて。誰かが寝ているのが嬉しくて。
 寝ている間は、つらいことがありませんようにと。
 根を動かして、そっと一緒に寝てやった。
 冬には力尽きる鳥もいて、また、傷ついて、夜を越せない旅人もいて。そういうときも、ティックは生えた根で抱き寄せて一緒に寝てやったっけ。

 彼が変質してしまったのは、いったいいつだっただろう。
 長い長い眠りから覚めた『オルド種』は、とても暗い目をしていた。

『起きていたって、いいことなんて何もないんだなあ』

 ティックはボンヤリ空を見上げる。茨に覆われる妖精郷があった。ここはとても寒くて、もう虫たちも。動物や妖精たちも生きてはいけないだろうと思う。

 みんながあっちにいったら、きっと傷ついてしまうね。
 そうだね。

『誰かがつらいのは、いやだなあ』

 だから、眠らせてあげなくちゃ。いまのうちに。けがをしないうちにね。と、ティックは思う。
『死はとても安らかなものだよ。受け入れる限りは……』
『止めてあげないとね』
『ねかしつけて、あげないとね』
 さわさわと枝が揺れた。はやくいってあげないと、みんなが凍り付いてしまう前に、あたためてやらないと。
 ちゃんと息の根を止めて、寝かしつけてやらないと。


 突如として『茨』に閉ざされた深緑は、かつてのように、静かに外界を拒絶しようとしていた。謎の茨による国家の封鎖――。
 見え隠れする『怠惰の魔種ブルーベル』の姿を追うように、イレギュラーズ達は、再び妖精の国へと足を踏み入れた。

 ここは、大迷宮ヘイムダリオンを抜けたところ。

 おそらく、普段とは全く違う光景なのだろう。チラチラと雪が降っていて、霜ついてすらいる。吐く息は白く凍えていく。どうしようもなく強大な冬の気配が、すぐそこまで迫っている。
「さっむい! さっむい」
『おおまじょさま』オズ・テトラテトラはぷるぷると震えた。魔女様、と、声をかけられた『深紫の魔女』竜胆・カトレアは咳ばらいを一つ。テトラテトラは見るからに幼女ではあるが、こちらのほうが弟子なのだ。
「お師匠様~、はーい、お仕事ですよ」
「うううー。ぷるぷる。わたしのひっさつ魔法で、なんとか……。へっくちゅん!」
 オズはこれでもかなりの魔女を育ててきた実力者であるという。竜胆・カトレアは苦笑して、イレギュラーズ達に向き直った。
「私から、説明するわねぇ。深緑が『茨』によって封鎖された事件はもうご存知、よね。
大迷宮ヘイムダリオン。その先の、『アンテローゼ大聖堂』の近くは、冬に閉ざされた世界が広がっていて、眠りに満ちているらしいわ。そこで暴れているのが、『オルド種』というものね……」
「ん。そだね。ティックくん、疲れちゃったんだねぇ。たぶん、もうすごく長生きしてたから、きっと枯れてしまうところだったんだねぇ。……戻れないから眠らせてあげないといけないんだね」
 えいっと、オズが呪文を唱えると、こころなしかぽかぽかと温かくなった。光の翼でぱたぱたとしながら、テトラテトラはふんっと胸をはった。
「おねがいしてもいいかな。ティックくんをねかせてあげて。ねむけにまけないで、いってらっしゃいっ!」

GMコメント

いつだっておふとんが恋しい。特にこの季節は……っ!
布川です。

●目標
ティック・クロウリスの討伐

●場所
アンテローゼ大聖堂周辺、『眠りの森』
普段はぽかぽかとした陽気があたたかい、絶好のお昼寝スポットのはずですが、今は薄暗い場所です。
雪が降っていて、とても寒いです。とはいえ行動に支障はないくらいです。

●敵
オルド種『ティック・クロウリス』
「ねむっていたいでしょう、おやすみ」
「つらくないうちに、おやすみ」
「ここはもうすぐ、つらいことになるから」
「いまのうちに、おやすみよ」

 大樹であり、その化身です。大樹の嘆きの上位存在、『オルド種』です。魔種らからの呼び声などを受けて変質しています。
「安らかな眠りを与える木陰を与える」存在でしたが、全ての生き物は「眠りたいと思っている」と信じ込み、「これ以上苦しまぬよう、安らかな眠りを」というものになりました。基本的に動機は『親切』です。
 とんとんねかしつけ:物理・単体・強力な一撃。
 子守歌:神秘・範囲

大樹の嘆き『コットン』×20
 ふわりとした綿毛のような敵です。
 風に乗って喉に詰まり、【窒息】系のBSを引き起こします。
 反撃が強いのですが、体力はそれほど高くはありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <spinning wheel>いつまでたっても廻らず、時計の針はそのままで完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
天穿つ
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
水月・鏡禍(p3p008354)
守護者
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
うそつき
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
冬兎 スク(p3p010042)
跳び兎バニー
呂・子墨(p3p010436)
豪放磊落

リプレイ

●眠り導く森の前
「おお、雪だ。……ってはしゃいでる場合じゃねぇな」
『豪放磊落』呂・子墨(p3p010436)は物珍しそうに、幻想の中に閉ざされる景色を見つめている。
 ぶるるるるっ、と、頭をふった『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)のほっぺはリンゴのように赤い。とても寒いのだ。ぼさぼさ頭にかかった雪が、はらはらと落ちる。
「魔法のおかげで凍えないけど寒い感じするかも……。
これも閉鎖された影響……?」
「そうね。いつもだったら、こんな景色でもないはずだけどね」
『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)の黒い髪と、長いまつ毛に雪がちらついている。『激情の踊り子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)はじっと美咲の横顔を追っていた。
「?」
「あ、ううん、なんでもなーい!」
 見とれていたなんて。いや、いつものことなのだけれど……。美咲はくすりと笑うと、ヒィロに手を伸ばす。
「ヒィロ、雪がついてる」

「茨の奥はどうなっているかと思っていればこの寒さか。春先に冬眠に誘われるとは思わなかったが――この地には竜もいるはず。トカゲよろしく動きが鈍ってくれていれば幸いだが、どうだろうな」
『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)の一言に子墨は気を引き締める。
「竜か……」
 ラダは、この先を見ている。ここでどうするかではなく、もっと先を見ている。
(そうだ。俺のやりたいことはこんなとこでとどまらねぇ。これは第一歩だ)
 ここは通過点に過ぎない、と言い聞かせて、子墨はバンダナを口に巻いた。こんなところで足止めされているわけにはいかない。
「あのコットンは厄介そうです。……少々お行儀が悪いですが、防ぐにこしたことはないですね」
『鏡に浮かぶ』水月・鏡禍(p3p008354)は服を口元までひっぱりあげる。
「だな」
 ラダも頷いて布で口を覆った。こうかな、とリュコスもまねる。
(U――Urrr? ちょっとおちつく……かも)
「ふむ。便利な時もあるものだな」
 今回、この場において――『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)の仮面は丁度良い魔除けになるようである。
 静かな森。
(雪、か。このような寒空の下で、今まで一体どれほどの命が喪われ、白雪に埋もれていったことだろうか?)
 ルブラットは靴で雪を踏みしめながら、生物の死にゆく姿に思いをはせる。
「汚染されてしまったものは、できれば浄化したいものですが……」
『ゆめうさぎ』冬兎 スク(p3p010042)の優しさに、ルブラットは目を細めた。けれど、あのオルド種を救う方法はないのだろう……。
「残念ながら、あの樹の針はもう過ぎ去っている。あの樹はもう枯れているも同然だ」
「そう、なんですね。……ならボクも頑張ります」
 スクの垂れ耳がえいや、と、心なしか持ち上がった。
「死ぬことと眠ることは違うんですけどね」
 鏡禍は、静かに、ただ静かに目の前を見つめて、狂ってしまった大樹のかつてに思いをはせている。灰色の目は鏡禍自身の意思を感じさせない。ただ、そのままの光景を映し出しているだけだ。
「……見てきたんじゃないんでしょうか、気持ちよく目覚めた人たちを」
 それを忘れて死したものだけを真実だと思ってはいけないんですよ。つぶやいた言葉が、雪のように溶ける。

●安らぎを振りほどいて
 ふわふわの雪を、ヒィロはざくざくと踏みしめて歩いている。機嫌よく靴を蹴り上げて、それで舞う雪すら楽しんでいる。
 なんたって、大好きな美咲さんと一緒なのであるから。
「おやすみなさいしてあげるなら、子守歌聞かせてあげるのがいいよねー」
 うんうんと頷いて、快活に笑った。
「きっと幸せな夢を見ながら、楽しかったあの頃に戻りながら、心穏やかに眠りに就いてもらえるよ――まぁボクは子守歌聞いたことなんてないけどね!」
「子守歌、ですか」
 スクは、少し考えるそぶりを見せる。誰かを寝かせるために語られる物語……。その中に、うさぎはいただろうか。
 おどおどしながらも、リュコスは足を止めることはない。
 ルブラットはただ、穏やかに笑っている。

 ラダが止まるように合図した。子墨は言われるまでもなく静止している。リュコスも気配を察してからは、ぴたりと止まって一切動いてはいない。
「ヒィロ、見て、あれ」
 ちらちらと舞い落ちる雪を美咲が指し示した。
「ああ、あれ? コットンってやつ! ふーん」
「こっちには気が付いてないみたいだ」
 子墨は頷き、イレギュラーズたちはそれぞれ死角へと回り込んでいった。

……果たして、奇襲は完璧に決まった。

 ラダの異界の銃が奇妙な音色を響かせる。
 それが合図だ。
 美咲はあえて無防備な術式を編んだ。魔力の隙間を縫ってやってくる反動は、殺意の乗った反撃である。強引に誰かを寝かしつける暴力の正体……。からくりの一端はつかんだ。
 子墨は慎重にスコープを覗く。絶妙に敵を撃ち抜くあらぬ方向からの狙撃は、当たるべくして当たった。……当てたのだ。それを証拠に、二度目の狙撃も問題なく真ん中にきまる。
 ラダと美咲が即座に移動し、場所をずらす。

『あれはなんだろう』
『あの光は』
 対峙するオルド種は、穏やかな声をしていた。……いや、人外じみている感性のなせる技かもしれない。
 ティックが見たのは、きらきらとした、まぶしい光だ。
 雪に反射して遠近感を狂わせる何か。
 水月の鏡。
 暗い湖の底のように黒く、こちらを誘う手鏡。
 今までにいくつもの景色をみたのに、美しい光景だとオルド種は思った。
『もうねむるじかんなのに』
『ああ、なんだかにぎやかだ』
 ティックが虚空を指さすと、吹雪のようにコットンたちが押し寄せる。
 だが、イレギュラーズたちはひるまない。
「悪いがね、大樹よ。私達は騒がしく足音を鳴らし、皆を起こしに来たんだよ」
「こちらです。領域を犯しているのはここにいますよ」
 ラダと鏡禍は同時に姿を現し、そして、陣取った。どちらを狙おうか、……ティックは逡巡する。
「君はやさしい木……? なんだね」
 その逡巡のうちに、相手が疲れているほうを狙ったのであろうことが、リュコスは分かった。
 きっと、それは相容れない優しさだ。
『だまっていたら』
『苦しみはしないよ』
 リュコスは首を横に振る。きっぱりと。
(常に優しさが誰かのためになるとは限らないから
誰かに強制される安らぎをぼくたちは求めてはいないから)
『そっか』
 ああ、計画通りにいかないな、と、ティックは思った。リュコスは小さいのに、ちゃんと自分の意志があるみたいだった。怯えているようにも見えたけれども、それは戦わない理由にはならないらしい。
「きっと、貴方もその境地に至るまでに様々な出来事を経験したのだろうな」
 ルブラットはしみじみと言った。
「ああ、だからといって上辺を飾り立てる必要は無い。結局は殺し合うだけだろう? 貴方の意志と最期の刹那は、私が記憶してあげようではないか……」
『……おもしろいことを言う』
 木々がざわざわとざわめいていく。
『覚えてるよ、樹のほうがずっとずっと長生きなんだ』
 態度こそ穏やかにして攻撃は苛烈。それが、ティック・クロウリスだった。
 その一撃をかわしたのは、ヒィロである。
 心臓を狙った鋭い一撃を、宙返りして避ける。

●子守唄
 ハレーションが雪を反射してきらめていた。
 イレギュラーズたちの戦術はシンプルだ。
 ヒィロがティックを相手取り、その間にコットンを減らすというもの。
 コットンを引き付けるのは、ラダと鏡禍である。
「ボクの『怒涛』の子守歌を聞けーーー!!」
『これが、』
『子守歌?』
 ヒィロの溢れ出る闘志が、ただの意志だけで信じられないほどに雪を溶かす。これだけ長生きしていたのに、見たこともないようなことばかりだ。ガーディー・グリーンが燃えている。
『どうして』
「え、意味が分からない? だいじょぶ、キミを永遠の安らぎに導く子守歌だから、安心して身を任せてくれればいいよ!」
 なんてにぎやかなんだろう。無理やりだ……、と、ティックは思った。
『はやく寝かしつけて、ほかの人も寝せてあげないとね』
 けれども、ヒィロにはそれだけの実力があったのだ。
「ボク達イレギュラーズの子守歌って、きっと激しいと思うけどね!! アハッ」
 ヒィロは、攻撃をぎりぎりまで引き付けてかわす。あと一歩、のところで捕まらない。冷気をものともしないはずの大樹の根は、それでも怒涛の攻撃によって動きを止められる。
 それが、明るくて、きれいで、ずっとみていたいような気もする。
 生命のきらめきというものを。
『まあいいや、手伝ってくれる友達はたくさんいるから……』

 びゅうびゅう、びゅうびゅう。
 コットンたちが降り積もる。
「凍える冬から守ってくれるのはお前達か。だが眠るにはまだ足りないな。そら集まれ!」
 これは、持てる者の幸運だろうか。それとも、果たして、技術だろうか。
 いや、好機を逃さぬ決断によるものか。
 コットンの一撃はラダに届かない。ラダが飛び退り、銀の弾丸を撃ち出した。その一撃はコットンを真正面から弾き飛ばす。
「皆も私が倒れる前に何とか頼む!」
「ヒィロ、すぐに行くから」
 終焉の帳が、コットンを舞台から引き下ろしていく。なんとか、かろうじて幸運を掴んだものすら、すべてちぎれて無に帰していく。
「ああ。見えたとも」
 白き鴉の仮面の下、ルブラットは笑ったのだろうか。
 幾多もの生命がきらめいている。ティックによって、この地でかつて眠った旅人もいたのだろう……。淑やかなる闇色の慈悲。あるいは殺意。どちらでもいい、結果は同じだ……。
 淑やかなる闇色のミゼリコルディア。
 光翼が眠りを妨げる。凍ってはならない。イレギュラーズたちの時はひとときも止まることはなかった。時を進める。先へと。死へと向かって、ルブラットは凍り付いた時計の針を溶かしていく。
『……』
 オルド種は見かけ以上に狡猾だった。雪が舞い上がる。それにまぎれたコットンが忍ばせてあった。
 けれども、子墨とスイは同じものを見ていた。視線が酌み交わされる。
(いけるか?)
(やります。ボクでもお役に立てると思います!)
 頷いて、子墨が下がる。距離を保って、冷静に一番得意な射程距離を。それから、スクは畏れずに武器を構える。
 子墨の一撃が、隠れていたコットンを大きく跳ね上げた。兎のように跳ねるスイが、高い位置のコットンを散らす。
 まだ、数体。
「みつけた」
 けれども、そこにはリュコスがいた。もちろんスイも子墨もそれに気が付いていて、身を引いた。
 リュコスの感覚は紛れ込んだコットンを見つけ出す。狩りのための嗅覚。喉元で唸り声が震えている。
 ハンターの乱撃が、コットンを散らしていった。

●大樹を揺らす
「大丈夫?」
 美咲のメガ・ヒールがリュコスを勇気づける。
「U――Urrr。まだ、だいじょうぶ……」
「ここは通しません。まだ、眠るわけにはいきませんので」
 鏡禍はただ、相手の動きに合わせて構えた。近くではラダが。まだ、立っている。
 そこは、ルブラットの加護の及ぶ範囲だった。
「ジグリ君、どうだね」
「問題ない。数が減ってきて楽になった」
「エヒト君は」
「年季が違う。それにほら――見な」
 美咲がまだ余裕を見せている。
(わかってきた)
 反動をものともせず――どのくらい耐えられるのか分かってきた。魔術の塊をぶつけて、互いをぶつけあって苛烈に攻撃を重ねる。
『ああ、もうすこしなのにな』
 ティックの一撃を、スイはかわす。前に出すぎないように距離を保っていたのが功を奏した。今はこっちじゃない。それから、踏み込んだ鋭い一撃で、スイはコットンを散らす。鏡禍が、攻撃を弾き飛ばす。
 攻撃に転じるために、リュコスは息を止めた。ティックに吐き出してぶつける言葉のかわりに、黒顎魔王を叩きつける。
 目が、慣れてきた。
 ゆったりとした動きの中にある小さな溜めを、リュコスは感じ取っている。コットンに駆け寄ると、上に投げつける。
 それから、すかさず別のコットンの狩りにとりかかる。
 あれはほうっておいていい。
 そうすれば、ラダか子墨が撃ちぬいてくれるとこれまでの動きで思い知っていた。
 案の定、コットンは二発の銃声で空中ではじけ飛んだ。

「ボクの奏でる“子守歌”の余興にダンスもいかが!」
『おかしいな、今は冬なのに――』
 ティックの吐息が白く辺りを染めるが、それはヒィロの熱によって吹き飛ばされ続けている。
 美しい。まるで夏の生き物のいのちを全部集めたみたいに、ヒィロはきらきら輝いている。眠るなんて想像がつかないくらいに、ギラギラと輝いている。燃え尽きそうなほどに輝き、でも、とどまるところを知らない。応戦すればするほど、眠りとは程遠いような破壊音を奏でてしまう。
 これを『眠らせる』なんていうのは到底無理なことではないのだろうか?
 そうしている間にも、コットンは一体、また一体と命を散らしている。
……ペースが乱される。
『ああ、そうか』
 殺すつもりでやらないとならないのか。
 ティックがヒィロを寝かしつけるための枝が、ヒィロの首筋に伸びる。
 けれども。
 気糸の斬撃が、枝を切り落とす。
「お待たせ。……どう? お昼寝しちゃいそう?」
「もうね、からだ、ぽっかぽかだよ!」

●おやすみティック
『……っ』
 死が目前に迫っていることを、ティックは、ルブラットによってようやく理解する。
 切り裂かれるような痛みも、長生きのうちに忘れていた。
「さあ、どうだ。貴方の意志と最期の刹那。苦しいのだろうか? それとも存外満足しているのかね? ……どうなんだ、オルド種よ。死を目前にして何を思う?」
 白い仮面を見つめる。わからない。苦しいと言われれば苦しいし、結構楽しいな、とも思った。長く味わったことのない変化だった。心臓があるとするならきっとそれは弾んでいる。
 ルブラットは、こちらを退屈させない。
 鮮烈なる回復と攻撃は、予測をさせないのだ。
「待たせた、ヒィロ!」
 コットンたちが降り注ぐ。いや……。
 あれは雪じゃない、弾丸の雨。
 ラダのプラチナムインベルタが、戦場に降り注いでいった。
 残ったコットンが、たんぽぽの綿毛のように空を舞った。
「寝るにも順番があるんだ、ティック・クロウリス。
今日ここで寝るのはお前だけだよ」
 ラダの降り注がせる鉄の弾丸の雨は、つかのまの豪雨だった。激しく熱く、すべてを溶かしていく雨。それが途絶えると、子墨の一撃が決まっていやな位置から狙撃を加えてくる。
 スクのソニックエッジが、コットンを散らした。
『ひとりでもおおく、』
『眠らせないと』
 根を伸ばす。
 ここで無理に前線に出る必要はない。……仲間を信じている。
 だから、スイは下がった。代わりに鏡禍が前に出て、攻撃を弾き飛ばした。
 鏡は、ひび割れることはなく。壊れるのは鏡禍の髪にうつった自分だけだと知れる。

 ざわざわ、ざわざわ、枝が揺れる。
 寒さは増していて、それで、眠るにはとても良い日だとティックは思うのだけれども。
 彼らは眠ろうとしない。どころか、騒がしく――。
(大技、使わせてもらうぜ)
 眠りを捧げんと口をついたけれども子墨が果敢に声を上げている。
『コットン』
 コットンですら、喉を塞ぐことはできない。
 彼らはまだ前に進むことを確信しているかのようだ。
「悪いな。狙撃手はまだ眠らないぜ。おやすみティック」
 子墨が、ティックに別れを告げる。
「今まで見守ってくれてありがとう。だから……これ以上きずつけてしまう前に」
『ありがとう、なんて』
 おかしいな。今日初めてあったのではなかったっけ、とティックは思った。
 リュコスの喉が、遠吠えを奏でた。送るための叫び声を。きっと、今まで見守ってきた誰かの声が混じっている。
(どうしてさいごまでがんばるんだろう。つかれてるだろうに)
「おやすみ……」
 雪が。
 枝が、スナイパーの一撃で。倒れた子墨の最後の一撃によって落ちてくる。
 それが冷たくて、一瞬だけ。
 こんな戦いと比べ物にならないようなそれが意表を突いた。背筋がひやりとして、意識を持っていかれる。
『せめて……』
「眠ることだって楽しいです、いい夢だって見られます。
でも起きなかったらその先にあったはずのいいことが、未来が、なくなってしまう」
 きっぱりと鏡禍は口にした。
「少なくとも僕は望みません。
僕にはまだずっと先までそばにいたい人がいるんですから」
 ああ、自分には見れない光景があるのだな、とティックは思った。
 彼らはそれを知っていて、先に進むと確信をする。
 そういえば、と、ティックは思う。
『ちょっと、つかれたなあ』
「ね、ボク、考えたんだよ。ティックさん。寝かしつけ方。最高の子守歌!」
『……』
「最後のおやすみなさいをしてあげるのは、いちばん、きれいな音! ちょっぴり激しいかもしれないけどね」
 鮮烈なエネルギーが輝いて爆ぜる。
 怒涛の恍惚から、美咲が奏でる夢幻へ――。
「お疲れ様」
「おやすみ。どうぞ、安らかにお眠りなさい」
 連鎖する攻撃が、夢幻劇場の舞踏に強引に幕を下した。
『まだ』
 この先が見たいとティックは思った。
 けれども、それは叶わない。
「おやすみ、良い夢を」
 ラダの一撃が降り注ぎ、ティックはその場に崩れ落ちた。銀の水鏡の底に沈んでいくような、不思議な感触があった。
 それでも、どこか安らかではあった。

「みんな、大丈夫?」
 美咲の暖かい光が、傷を癒す。木漏れ日のようだった。
 僅かに雪が解けて、それでも旅路は遠いけれども。枯れ落ちるティックに、ルブラットが進み出る。とどめの一撃は、慈悲の一撃だったろうか。いや、それがなくともティックはもたなかっただろう。
 ティックは『おやすみなさい』と、返事をした。

成否

成功

MVP

呂・子墨(p3p010436)
豪放磊落

状態異常

水月・鏡禍(p3p008354)[重傷]
守護者
呂・子墨(p3p010436)[重傷]
豪放磊落

あとがき

イレギュラーズの皆様のご活躍で、オルド種は穏やかな眠りについたようです。
いつか眠りにつくときは、冒険譚を聞かせてね。
おやすみなさい!

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