シナリオ詳細
<spinning wheel>サイレントスノウ・メモリーズ
オープニング
●もういちど■■を思い出して
22時発の汽車に乗ったのです。
車窓の外の雪景色はいつまでも揺れて、揺れて、揺れて。
座席の前に置かれた小さなテーブルに広げた便せんには、まだなにも書けてはいませんでした。
揺れはゆるやかで、どこか静かですらあって、やがて、やがて、あなたは眠りにおちたのでした。
●あなたの■■が脅かされている
これまでの経緯を、どうか聞いてはくれまいか。
深緑という国が奇妙な茨に覆われて、誰も入れなくなってしまってから暫くが経過した今。妖精郷という場所から妖精の使いがやってきた。
彼女たちはアーカンシェルというゲートを使って、深緑内までのルートを繋げられるという。
とはいえ、深緑内にいまどんな脅威があるかはわからない。
だから大迷宮ヘイムダリオンという無数のダンジョンで構成された異空間を介することで、比較的安全にルートを繋げようという。
これは、そんな大迷宮ヘイムダリオンを攻略し、深緑内の中枢ともいうべきアンテローゼ大聖堂側を目指す物語である。
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)が担当したのは、そんななかのひとつ。
駅から夜汽車に乗ることで攻略を開始するというすこし不思議なダンジョンだった。
二人がけの座席の前には、小さなテーブル。それを挟んで向かいにも二人がけの座席があった。
窓際の座席に座って、となりにオフィーリア(かわいいうさぎのぬいぐるみ)を座らせたイーハトーヴは、うっすらと目を開いた。
「――」
自分を呼ぶ声がしたからだ。
「イーハトーヴ。まだ寝ているの? もう仕事の時間よ」
凛とした、女性の声だった。
目の前に。いや、テーブルを挟んだ向かいの座席にはひとりのビスクドールが座って居る。
二人がけの座席を占有するかのように、中央に。
ドイツ式のメルヘンなドレスを纏った、金髪と青い目をしたビスクドールだった。75センチほどの小ささに反した、美しく大人びた顔立ち。声もまた、その顔立ちによく似合う。
「うーん、ごめん。寝ちゃってた」
目をこすったイーハトーヴは、目の前でおきていることの違和感に気付いたような、そうでないような不思議な気分になっていた。
自分の作ったぬいぐるみと会話ができるという彼のギフトは、彼の生活をどこか特殊にしてくれる。人ならざるものが話しかける日常には慣れていたはずだ。はずだが……このビスクドール『メアリ』は、誰が作ったものだっただろうか……?
「もう、仕方の無い子ね」
メアリは座席からスッと立ち上がると、テーブルごしに身を乗り出した。手にしているのはレースのついた白いハンカチ。イーハトーヴの顔をぐしぐしと乱暴に拭うと、窓の外に目をやった。
ゆっくりと車両が減速する感覚。メアリは『到着したみたいね』と言って立ち上がり、個室の扉を引き開けた。
●思い出のサイレントスノウ
一面が真っ白な世界だった。すねが埋まるくらいに深く積もった雪景色はどこまでも続いているように見えて、今も尚斜めに降りしきる雪が視界を白く染め上げている。
それゆえに遠近感が死に、音が雪に吸収されることでひどく静かだ。
イーハトーヴは他の仲間と一緒に汽車を降りたはずだが、気付けばひとりきりになっていた。
「心配することはないわ。皆きっと、同じような状況よ。そういう仕掛けのダンジョンなんでしょう?」
どこか達観したような言い方をするメアリに納得しつつ、いつのまにかはいていた長靴をつかってざくざくと進んでいく。
自分の足跡は、すぐに消えた。道らしい道もない。
あてどなく歩き続けるには、この風景は無限に広すぎる。
「行く道がわからない? けれど、人生なんてそんなものよ。わかって歩いている人なんて、本当にいるのかしら。けれど、道を辿っていけば必ずゴールにはたどり着くはずよ」
すぐそばにいるはずのメアリの声だけが聞こえている。どういう理屈なのか、メアリは積もった雪の表面から埋もれることなくてくてくと歩いているように見えた。おかげで少し、背丈が高く見える。
「どうすればいいの? 俺にはよく聞く鼻も、先を見通す目もないんだ。道なんてどうやって探せばいいのかな……」
もっともな疑問だった。こんな場所、すぐにでも迷ってしまう。乗ってきたはずの汽車ももう見えなくなってしまったのだから。
「ちゃんと見なさい。自分の道は、いつも思い出のなかにあるものなのよ」
『思い出のサイレントスノウ』
それはヘイムダリオンダンジョンのひとつ。高い武力も知力も、探索能力やコネクションも、ここでは大きな意味をなさない。
意味を持つのは、あなたの『優しい思い出』だけなのだ。
あなたが優しい思い出を強く深く、かみしめるように思い出すことでこの真っ白な雪景色の中に道が見える。そういう仕組みのダンジョンなのだ。
進んでいった先では、雪の怪物が襲ってくるけれど、あなたがちゃんと思い出をかみしめていたなら、きっと打ち負けることはないだろう。
そう、ここはサイレントスノウ。
思い出だけが意味を持つ場所なのだ。
- <spinning wheel>サイレントスノウ・メモリーズ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年04月04日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●『最期に映した男』キドー(p3p000244)のサイレントスノウ
「優しい思い出ェ!? そりゅあおめー有料でボインなおねーちゃんのボインをこうよォ! ギャハハハハ!」
両手で胸元に山をつくる動作をし続けるキドーを、真っ白な雪が吹き付ける。
寒っ! と両手で身体を抱いて震えクシャミをしたキドーは、舌打ちをして歩き出した。
「クソッ、『こういうの』はガラじゃねえんだ。大体癪なんだよ。どんなオネーチャンの店よりも、酒カッくらったときよりも……」
ぶるりと震える肌の冷たさに、キドーは思い出していた。
ずっとずっと、はるか昔にさえ思えるほどの、けれど決して消えない思い出だった。
真冬の、たしかシャイネンナハトの夜だっただろうか。雪降る裏路地でカラ馬券を握りしめ『三人で』ぬけがらみたいにぶっ倒れた日のことだ。
「なんか……よお、三賊同盟で馬鹿やってた頃が……なんか一番……マシだったっつーか……」
キドーの歩く足跡はすぐに雪にうもれて消えていく。
その横を歩く『誰か』に、キドーは顔をしかめながら、下を向きながら語った。
「あのおっさん共ロクでもねェし、腹ん中俺の知らない事色々抱えててそれが気に食わないこともあったけど。ダチと過ごせたあの頃が……」
クソッと言いながら雪を蹴りつけ、キドーはじたじたと雪を踏み荒らした。
「『優しかった』んだよ! 俺にはよお!」
その時、パァッと目の前に道が開けた。カラ馬券や割れた酒瓶が散乱した汚い裏路地が、どこまでもどこまでも。
●『Safety device』ヨハン=レーム(p3p001117)のサイレントスノウ
吹き付ける雪が、今にも肩や頭に積もりそうだ。
「ふふ、サイレントスノウ……武力も知力も意味を成さない、か。
まるで僕への当てつけのようだ。僕はイレギュラーズとなってから……いや、その以前からただそれだけを追い求めていた。剣聖の息子というだけでも荷が重いのにましてやイレギュラーズだ。周囲の期待に応えながら才気溢れる同胞たちに、凡人が食らいついて行く事がどれだけ苦しかった事か……」
ヨハンは独り言をつぶやき、そして歩き始める。
突然迷い込んだこの真っ白な雪原。どこへ進めばいいかなんてわからない。
けれど『誰か』が囁くのだ。優しい思い出が道になるのだと。
「誰も助けてはくれない形ばかりのギルドと思っていたが……そうだ、彼女の髪はこんな雪のような色をしていたのだったなあ。マナ・ニール……何の見返りもなくお店の代金を払ってくれたスカイウェザー」
耳元で、あの日の声が聞こえた気がした。
『あなた……今日のパチンコ代ですよ……』
絶対意味が違うと思うし教えたやつにびんたしたかった台詞だけれど。
けれど。
あの日のように、ヨハンは振り返り――。
「あ」
道ばたに『乙女のぱんつ』が落ちていた。
舗装された煉瓦の、綺麗な道。まるで太陽にまもられたかのように雪はそのまわりをよけている。
「そうだ。僕が進む道は……」
ゆっくりと拾いあげたぱんつの温かさ……いや、そこにこもった愛の温かさが、道を瞬く間に切り開いた。
●『白ひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)のサイレントスノウ
人生はおかしなことだらけだ。
「まさか、汽車に乗って向かうなんて、思いもしませんでし、た。
あ、あれ? 他の皆さま、は……??」
汽車をおりたと思ったら粉雪のふる雪原で一人きりになるなんてことがある。
メイメイはもこもことした上着をしっかり首までしめると、ぷるぷるとしてから歩き出した。
ひとりぼっちで進む道は、まっすぐでさみしい。
丁度それは、村を旅立つときに見たまっすぐな土の道に似ていた。
「故郷の村の皆はわたしに優しくしてくれたし、とてもとても、大好きで……」
誰も聞いていないはずなのに、『誰か』に向けて語りかける。
「村を旅立つことになった時は、悲しくて、寂しくて。
いつの間にか召喚されて……あの時も道が見えませんでした、ね」
ふっ、と口の中に思い出の味が広がる。
「美味しかった、な…。ほかほかの焼き立てのパン、あちあちの豆のスープ、鶏の照り焼き……」
幻想王国の首都で途方にくれていたとき、食べさせてくれたご飯の味だ。
おもわずおかしくなって、ふふっと笑えてきてしまった。
ガチャリ。と扉が開くような音がする。
ちょうどそれは、パンやスープを貰ったあとの、町へ出たときの扉の音を思い出させた。
まっすぐな道。
舗装された、綺麗な道。
まっすぐでさみしい筈の道は、ふしぎとキラキラしていた。
胸に灯った温かさが、どこへ行けばいいのか教えてくれたような気がしたのだ。
「先の見えない道を、道ですらない所を、歩いていくのは、いつでも変わらないのです、ね。
でも、誰かが、いてくれる。ひとりだけど、ひとりじゃない。
そうして、ここまで歩いてこれたわたしは、運のよい、人間なのかもしれません、ね」
微笑むメイメイが振り返ると、あの日と同じ道が、どこまでもどこまでも延びていた。
●『ドキドキの躍動』エドワード・S・アリゼ(p3p009403)のサイレントスノウ
「これはこれで綺麗だけど、このままだと遭難しちまうんだよなー」
困ったなあ、と呟くエドワード。来た道を戻ろうにも足跡はもう見えない。空も見えないので方角すらわからない。どこかへ向けて一直線に無理矢理進もうとしたって、『自分がまっすぐ進めているか』なんてわからないのだ。そのつもりでもぐねぐね曲がったり、気付けば元の場所に戻ってしまったり。『自分』というやつはなんとも頼りないものだ。
けれど……。
「こういうとき、エアとコトがいるとなあ……」
誰かと一緒に歩くとき、なぜだろう。まっすぐ進めているような気がするのだ。
ぱちぱちとたき火の燃える音がして、思わず振り返る。
そこには誰もいなかったけれど、灰と少しだけ雪の溶けたあとがあった。
「あの時も今みたいに寒い中だったなー…あの時は雨だったけど。
オレが見つけた謎の卵を保護するために、雨の中近くの洞窟に移動して……。
それから焚き火を焚いて、2人で夜明けまで待ってたっけ。
ぱちぱち鳴る火に喜ぶみたいに卵がコトコトしてて……だからその卵から生まれた幼ワイバーンを”コト”って名付けたんだ」
そこにはいない『誰か』に向けて、思い出を口に出してみた。
するとどうだろう。
遠くから、あの日のたき火の音がした。
誰かと一緒に見つめた日の暖かさが、感じられた。
「そっか……教えてくれて、ありがとな」
エドワードは笑って、そして自信満々に温かさの方へと歩き出した。
●『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)とサイレントスノウ
人は絶望から生まれる。それは一体だれの言葉だっただろうか。
産まれてすぐに自分の行くべき場所を知っている人間なんていないと、その人は言ったのだったか。
そして希望とは……。
「いくつもの優しく、暖かな思い出が思い出せる自分は、きっと幸せ者なんでありますね」
ムサシにとって、父の背中は目指すべき希望だった。
養成学校で先輩が教えてくれたことは、自分のやるべきことを見せてくれた。
きっと誰かが望んだわけじゃない。
やると決まっていたわけじゃない。
自分が、そうすると決めたことなのだ。けれど選択肢を暮れたのは、間違いなく……。
「だから自分は、全てがリセットされても、進むべき道が見えるのであります」
胸に、そして腕の端末に手を当てる。
「仮面の騎士さんや花嫁さん達みたいな夢のヒーロー達と出会って、自分もその一員になれた……。
鋼鉄で、雷のように鮮烈で、虎のように強く、そして、誰かのために戦える優しい三人の皇帝が即位した……。
色んなものが積み重なって、仮面の騎士さんや花嫁さん、パン屋さんにバイクさん…そして、赤い正義のヒーローと共に戦えた……」
思い出すたび、見えてくる。
その時だ。腕の端末が、赤く優しく光を灯し、光は遠い彼方へと伸びた。
迷う必要は、もう無い。
「自分は宇宙保安官として。……ヒーローとして戦い続ける!」
ムサシは全力で走り出した。
●『未来を願う』ユーフォニー(p3p010323)とサイレントスノウ
寒い寒い、行く先も分からない真っ白な世界に、ユーフォニーはひとりきりだった。
もしかしたらそれは、この世界に召喚された日と同じだったかもしれない。
世界にぽつんと現れて、何をしたらいいかも分からなくて、なにをしたらいけないのかも分からなかった。
『自由』はユーフォニーにとって、あまりに広くて、そして冷たかったのかもしれない。
「けど……」
それでよかったのだと、今ならわかる。
両手をゆっくりと胸に当て深く深く息を吸う。
手を開き、まるで何かを抱くように翳した。
「今でも覚えてます。ミーちゃんと出会った日。クーちゃんと出会った日。ハーちゃんと出会った日……」
初めて触れた感動と、そして共に出会えた仲間達。
『産まれただけ』の自分が、やりたいことを見つけた日の思い出だった。
「おいで、ミーちゃん」
囁き声に応えるように、ドラネコのミーフィアがぽんっと雪の中から頭を出した。そして跳ねるように雪の上を飛ぶと、ユーフォニーの胸へと飛び込んだ。
抱きしめると温かくて、ふわふわして、どこかお日様のにおいがした。
「だから未来を願うんです。思い出は連鎖して未来に繋がるから。
これから出会う思い出も、優しい気持ちであふれますようにって」
そうだ。これからも出会うのだ。温かい思い出に。
これからも作っていくのだ。優しい思い出を。
それだけで、道は見える。
●『想心インク』古木・文(p3p001262)のサイレントスノウ
「白くて綺麗だね。白い景色も好きだな。
このまま先に進めば皆と合流できる、そんな気がする。
あんまり心配はしていないんだ。頼もしいメンバーだったからね」
真っ白な景色のなかでひとりきり。
けれど文は笑って、なんでもない方向へと歩き出した。
誰とも分からない『誰か』へと、自分の気持ちを語りながら。
「思い返せば、イー君と遊びに行くことが増えたかもしれない。
誘ってもらってばかりだから、次は僕のほうから声をかけないとね。
お菓子を選んだり、お土産を選んだり、ハンドメイドしたり。
サプライズプレゼントを贈ろうとしたら逆に貰ってしまったり。
楽しい思い出ばかりだよ」
不思議な塔を上ったり、お酒を飲んで笑ったり、兄のようだなんて言われたことも、あったっけ。
大きな金魚になって、一緒に戦車を乗り回したことだってあった。
「こんな時だから言うよ、イー君。君の助けになるのなら、僕はいつだって……」
笑顔で、文は手を伸ばした。
その先にいる『彼』が、見えないのにわかるみたいに。
●『諦めぬ心』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)のサイレントスノウ
「――!?」
ハッとしてイーハトーヴは振り返った。
文が自分にささやきかけたのが、確かに分かったからだ。
「聞こえたかしら?」
「……うん。これが、『優しい思い出』」
メアリの問いかけに、頷きながら歩き出す。
それなら俺はいっぱい持ってる。イーハトーヴは笑顔になって走り出した。
「例えば朝、下宿の俺達の部屋で目が覚めて皆におはようを言ったら、早くしないと朝市が閉まっちゃうわよ、なんて、早速オフィーリアに叱られるんだ。
ベッドの中でぐずぐずしてると、こっちは腹が減ってるからさっさと準備しろ、ってノルデが無愛想に促してくれて、ネネムも、今日はいいお天気で気持ちがいいよ、って優しく誘ってくれる。
それからメアリ、俺は君とオフィーリアのお洋服を選びながら、2人とも春色の新しいドレスが欲しくなるね、って声をかけるんだ。
俺の『いつも』には、幸せがたくさんあるんだ!」
もしかしたら人生ってやつは、悲しいことや辛いことがいっぱいあるかもしれない。
砂利道を裸足であるくみたいに、痛いことかもしれない。
けれどだからって、歩くのをやめたりはしない。
幸せな時を、優しい思い出を、もう知っているのだ。
自分はちゃんと幸せになれるって。
誰かもきっと幸せにできるって。
知っているから、進めるのだ。
「ねえ、メアリ……君とお喋りしてると、元いた世界でコウと過ごした時間を思い出すんだ。なんでかな」
「さあ、ね」
歩く途中で、メアリがぽつりと足を止めた。
振り返ると手を伸ばしてくる。
「お喋りできるのはここまでよ。『また』話せて楽しかったわ」
「……君は」
何かに気付いたようで、しかしイーハトーヴはそれ以上考えないことにした。ハッキリしないほうが、きっと素敵だ。
だから、今はこれだけを言おう。
「うん、楽しかった! またね!」
手を振り、歩き出す。
歩き出す先で、文が笑顔で手を振っていた。
●さよならサイレントスノウ
パッ――と視界が開けたその時に、八人は同じ場所にいた。
うっすらと雪の積もる平原のまんなかに。
「さて、と」
誰かが言った。振り向けば、雪で出来た人型の大きな怪物が立っている。更に現れた無数の雪の怪物を――しかし誰も恐れなかった。
進むべき道は、やるべきことは、もう分かっている。
「さぁイレギュラーズ揃い踏みだ。悪いが負ける気は全くしないね」
ヨハンが真っ先に飛び出した。迷いなく放たれた『聖銃アンティキア』の光が雪の怪物を撃ち抜いていく。
「優しさとは弱さではない! そして弱さも……誰もが持ち得る優しさなのだ!」
「うるせークセェ台詞でシメようとすんな!」
キドーが背後に回って膝をカックンてやってきた。うわあといって雪の上にころがるヨハン。
「伸びたり縮んだりややこしいんだよゼシュテルのガキ!」
くひひと笑って、キドーは水の邪妖精との盟約を行使した。雪が溶けてうまれた水の槍が次々に怪物へと刺さっていく。
「よーしっ、こっからだ!」
エドワードが前に飛び出し、怪物のはげしい打撃を受け止める。
思わず吹き飛んだが、くるりと身をひるがえしてエドワードは華麗に雪の上に着地した。
「これで、大丈夫。わたしは、戦えますっ」
メイメイが空に手をかざすと、どこからともなくポンッと現れた黒いひつじさんが無数にいる雪の怪物たちへと次々にタックルをあびせていく。
ぽむぽむのタックルにも関わらず砕け散っていく怪物たち。
ユーフォニーはそんな風景にくすくす笑うと、抱いていたミーフィアの背をそっと撫でた。
「色々なことを思い出して、なんだかすごく暖かいんです。私、今なら何でもできる気がします――!」
えいっと突き出したミーティアがぱっくりと口を開くと、なんだかほっそりとしたドラゴンブレスが吐き出された。
エネルギーの光線が怪物達を次々に貫いていく。
「どんなに辛くて苦しい思い出があっても。優しい思い出はいくらでもある。そして、これから先もきっと優しい思い出を作り続けられる。
自分は、そう信じているであります。いつか誰かの優しい思い出が生まれる、そんな場所を守りつづける!」
ムサシは構え、そして巨大な雪の怪物へと飛びかかった。
「ゼタシウムブレイザー!」
剣に纏わせた光がのび、怪物達を一刀両断に斬り伏せる。
「さ、仕上げだよ。気合入れていこうか、白紙(しらかみ)」
文は笑い、ペンで真っ白な風景にさらさらと文字を描きだした。
生み出された魔術が牙を剥き、巨大な怪物へ食らいつく。
「行くよ、メアリ!」
イーハトーヴは笑って、ものいわぬビスクドールのメアリに『おねがい』をした。
ぴょんと飛びかかり、怪物をぺしりと叩くメアリ。それだけで『愛らしき魔法』が発動する。
それまで蓄積したダメージが爆発したのだろう。怪物が派手に砕け散り――そして雪が消え去った。
そこにあるのは、無人の駅と扉だった。
八人は頷き合い、とびらに手をかける。
それが行くべき道だと、誰もがわかっていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
GMコメント
●プレイングについて
このシナリオでは、参加PCは特別な事情がないかぎり全員が分断されます。
そしてダンジョンを踏破するには、自分のもつ『優しい思い出』を強く思い出さなければなりません。
●優しい思い出
プレイングで、自分がこれまでに得た『優しい思い出』のひとつを語って下さい。
自分にとって優しいと感じられることが重要ですので、どんなものでも構いません。他人から見て規模や特別感のないものでも、自分にとっては強く思い出せる大切なものであることは往々にしてあるものです。
※「私達は二人セットで思い出を共有したいです!」という方は、プレイング冒頭で離れず一緒に進むことを明記してください。特別な理由や関係性がある場合は二人組あるいは三人組でもよいものとします。ここぞとばかりにグループ参加予約をご活用ください。
※もし仮に『優しい思い出』を思い出すことができなかった場合は遭難してしまう可能性がありますが、その場合はパンドラを消費した状態であとから発見、救出されることになります。
●雪の怪物
道を進みきった先では、雪の怪物が現れます。
このダンジョンのゴールは同じ場所になっており、どういう進み方をしたとしても『全員同時に』この場所にたどり着きます。つまりは『PCメンバー全員VS雪の怪物』になります。
怪物は巨大なリーダー個体×1体と、1~2m程度の通常個体×複数体で構成されます。
主に格闘や雪玉の射撃といった方法で戦闘をしかけてくるでしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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