シナリオ詳細
<spinning wheel>ふりかえっても誰も居ないの
オープニング
●とうに朽ち果てた魂
ここはどこ、ねえ?
答えは返ってこない。喉が擦り切れるまで問いかけたのに、答えは返ってこない。
私のこの声がかすれているから?
私のこの腕が枯れ木のようだから?
私のこの足が棒のようだから?
私のこの髪が案山子のようだから?
私の、私の、私の……。
ここはどこ、出口はどこ?
寒いよ。体が凍りつきそうだよ。マッチはとうに使い果たした。
だれか私を救ってよ。ここに巣食い続けるのはもう飽きたよ。光溢れる場所へ行きたい……。
●
「よっ、お久しぶりの人もそうでない人もお集まりいただければ重畳だ」
ラウラン=コズミタイドはパンと手を打ってあなたを見た。
「幻想種と妖精たちの国、深緑で厄介なことが起こってる。知ってるかい? 知らなくてもいい、今から説明する」
ラウランは資料を取り出し、空中へばっと放り投げた。ひらひらと落ちてきた書類が魔法のようにあなたの前で静止する。
『茨』
最初の1ページには大きくそう書いてあった。
「深緑ことアルティオ=エルム、こいつが謎の『茨』によって国境が封鎖されてしまったんだよな。『茨』のせいで深緑へアクセスすることができなくなって困ってる。ここまではOK?」
確認を取るようにラウランはあなたの目を見る。
「だが唯一、大迷宮アルヴィオンに閉ざされた妖精郷からは、外部へ出入りできる秘密の経路が開かれている。驚いたことに、こいつはブルーベルとかいう魔種が妖精たちへ教えたらしい」
魔種は基本的にこの世界すべての驚異であり、憎むべき相手だ。だがしかし、今回のブルーベルの件に関しては、妖精女王自ら信用できるというお墨付きが出た。ブルーベルがいったい何を企んでいるのかはわからない。しかし怠惰の魔種である彼女が、深緑に居れば妖精たちへ危害がおよぶと「わざわざ告げた」、という点において、この情報だけは信用できるのだそうだ。
「おまえらには秘密の経路の奥にある、アンテローゼ大聖堂を取り戻してほしい。口で言うのは簡単だが、とてつもないやつらがうじゃうじゃしてるうえに、『茨咎の呪い』が戦場を覆っている。で、だ」
ラウランがパキンと指を鳴らす。同時に資料がめくれ上がり、裏を見せた。ぼろぼろの頭巾をかぶった、これはなんだ、少女か? そう呼ぶことすらはばかられる木乃伊のようなラフスケッチが記されていた。
「大聖堂を取り戻せば、深緑に拠点が作れる。ここはしっかり確実にひとつづつ目標へ到達していきたいところだよな。だからおまえらにはこいつの相手をしてもらいたい。『迷子のメアリ』って呼ばれてる魔種だ。俺の事前情報によると、魔種にしてはそう強いほうじゃないな。といっても……」
ラウランはまぶたを半ばまで落とした。
「一撃でもっていかれる可能性があるからベテランでも油断は禁物だけどな」
- <spinning wheel>ふりかえっても誰も居ないのLv:20以上完了
- GM名赤白みどり
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年04月04日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
それを少女と呼んでいいのだろうか。
雪に巻かれふらりふらりと歩く姿は人形そのものだ。かろうじて赤と分かる頭巾も、白いワンピースも、もはや衣服の用をなさなくなっている。
かすれた声が聞こえる。すがりつく何かを求めているかのような。
そんなものは存在しないのだと『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)は小さく笑った。ああ、哀れなものだ、腹を抱えたくなるほど。怠惰とは病のようなもの。必ずしも責められるものとは限らない人の性質。そのままでいいのですよ、そのままで。ライは心中つぶやくとニイと唇を釣り上げた。
(……そういう人こそ、私達ギャンブラーのカモなのだから)
一瞬漏れ出た本音は隠し、ライは優しく敬虔なシスターを装い言葉を吐く。
「ええ、ええ、神の元へたどり着けない哀れな方々……大丈夫、神の救いはもう目の前です」
聞こえているのか、聞いていないのか、それとも聞こえないのか、わからない、ぽっかりとあいた迷子の眼窩は黒々とした闇を抱えている。
その闇を真正面から見てしまった『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は腰を抜かしそうになったが、全身を震わせて寒さごと悪寒を吹き飛ばした。だいじょうぶだいじょうぶと自分へ言い聞かせる。今日は手袋もしてきた。マフラーもあたたかい上着も、しっぽだけはちょっと寒いけど、だいじょうぶだいじょうぶ。ペテロ・ヘイストの錠剤を飲みこみ、地面からわずかに浮き上がる。
「迷子ってなまえだけどパット見かわいいかんじじゃないね…! はなれててもきけんっていうか、こわいかんじが毛先につたわってくるよ」
「相手が相手だけに一筋縄じゃいかんだろうが、やれることをやるしかないな」
『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)がリュコスへ応えるようにひとりごちた。同じくペテロ・ヘイストを飲み、不安定な足場から空中へ逃れる。しかし白い毛皮の下の、満月の加護を受けた肉体は、この戦場の異様さを汲み取っていた。寒さに紛れて、手に、足に、引っかかるような感触。茨棘の呪いとでも呼ぶべきものだろうか。
(こいつは現状対処のしようがないが……まぁできるだけ動けるうちに行動するしかないな)
けれど海軍将校はこのていどではくじけない。
「さて、俺を相手にどこまでやれるかな、お嬢さん」
斧砲【白狂濤】が凍りつく空気のなか、静かに出番を待っている。
白雪がまつげを濡らす。
『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)の白で統一された華奢な肢体へ雪が吹きつける。
「すこし寒いわね」
そういいつつも彼女の吐息は曇らない。吐息など不要なのだ。彼女は人形であるからして。美しい肢体はいまから阿鼻叫喚で濡れるのだ。それもまた一興。うっとりとそう考えながらヴァイスは少女を見つめた。枯れ木のような体がよたよたと雪の中よろめいている。
「死してなお魔に囚われているのね……かわいそうに」
ラ・レーテを鞘から抜きはらい、円を描く。漆黒の刃が応えるように輝く。
「ここを抜ける為にも、頑張りましょうか、ねえ黒子さん」
『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は答えない。ただうなずくのみだ。呪いと寒さで覆われた戦場で、彼は魔種を見つめた。まだあちらに攻撃する気はないように見える。ならば先手はこちらが取れる。冷静に分析する黒い瞳に揺らぎはない。彼は魔種を打破するためだけにここへ立っている。ひゅるりと風が吹いて彼のスーツ越しにうなじを撫でていった。寒い、だからなんだというのか。かじかんできた両手をすり合わせ、口元へ寄せて吐息を吹きかける。祈るようにまぶたを閉じ……ふたたび開かれた瞳には闘志が燃えていた。
「この寒さ、そして呪い、懸念事項はありますが本番とはそういうもの。身命を尽くすのみです」
誰もが黒子の言葉にうなずき、かまえた。その中で一人空気読まない奴がいた。『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)だ。
「あっはっはー、いやー雪だねー! 肌寒い肌寒い! 普段なら雪だるまでも作っちゃうところだけど、こんだけ降ってるとそういうわけにもいかないかな! あ、かまくら、かまくらならいいんじゃないかしら!? どう思う!?」
となりの黒子へ話しかけるも返事は得られない。それでも気にせず彼女はしゃべりたおす。まずはホットなトークで気合を充電だ。
「七輪持ってきてさ、中でお餅とか焼いちゃったりとか、くぅ~楽しそう! っと、ダメダメ、仕事中だったね! やるのは終わってからにしようか!」
舌なめずり一つ。既に彼女は戦闘狂の面構え。暴力へのあくなき執念が宿っている。
マフラーが風にひるがえる。動きやすさを重視して厚着をした『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は寒さなどものともせず戦場に立っていた。
ふらふらと歩き続ける迷子を視線の先へ捉え、アルテミアは片手で口元を覆った。
(あの枯れ果てた姿……いったい、どれほど長い時をこの地で……)
胸へ宿るは憐憫。魔種と呼ぶにはあまりに哀れな姿。
(障害を打ち倒してでもさまよい続けるその姿は、帰る家を探す幼子のようで……あまりにも痛々しい……。けれど救うにはあまりにも時がたちすぎていて不可能)
ならば、と彼女は誓う。
「せめてその魂だけでも永遠の迷子から解放するために、この剣を振るいましょう」
プリゼペ・エグマリヌを鞘の上から叩くと、短剣は青い光を放ち始めた。
そのうしろでは『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)がずれたフードをラウランになおしてもらっていた。
「よし、これでいい。どんだけ動いても平気だ」
「面倒見がいいな、ラウラン殿には兄弟がいるのだったか」
「ああ、まあな」
「大事なのだろうな、弟妹にとっても、ラウラン殿が。だからラウラン殿も無茶はしないでくれ」
「俺としてはイレギュラーズががんばってくれりゃ済む話だ」
ウインクを一つこぼし、ラウランは笑ってみせた。
「回復メインで援護をしてくれ、頼んだぞラウラン殿」
「了解」
短く言葉を交わし、アーマデルはミイラのような少女へ目をやる。
(まるで死者のようで、性質としては既にそれに似たものか。逝くべきところへ逝けるよう、俺もできる限りを尽くそう。これ以上冬に迷わず済むように……彼女も、他の誰も、皆……)
アーマデルの脳裏をあの激闘がよみがえる。いな、あれはもう終わったことだ。今はこの戦いへ集中しよう。
白い息が吐かれ、アーマデルは一歩進んだ。迷子がぐにゃりと体を揺らす。
「行きますよ!」
黒子が声をあげた。
●
すすり泣く迷子の周りに、ぼんやりと三つの発光体が浮かび上がる。それは迷子を守るように周囲を威嚇した。
「待っていましたよ」
雪道を滑りながら黒子は両手を交差させた。緑の焔がその手に宿る。ふたつの心意気が混じり合い、物理変換された魔力が緑から赤へ変わる。
「行け」
上空へはじき出された魔力の塊は、迷子の頭上で砕け、赤い雨のように鋭い弾丸となって降り注ぐ。赤い弾丸は雨となるだけにとどまらず、迷子の周りを跳ね回った。亡霊が苦悶の声を上げて消滅していく。雨に打たれた迷子もまたふらりと大きく傾く。
「うぐるぅ……ああ……」
なんで、なんで痛いことするの……?
迷子が身を捩る。反撃しようとする。そこへライがすべりこんだ。
「ええ……大丈夫。そのまま怠惰でありなさい…………そういう者が居てくれなくては困るのです」
ちらりと見せた眼差しは悪党のそれ。美しい聖職者のベールの下の本性をライは一瞬だけ迷子へ見せた。
「うう……ううう……」
いや、怖い。怖いよ。たすけて。
かすれた声が気力を削ぎ、ライの身体を芯まで凍えさせる。
「大丈夫ですよおびえなくとも……天の御国はすぐそこです。わたくしがここにおります。あなたの隣へおります…………倒すためにね」
削がれた気力のせいか頭痛がひどい。だがライはものしずかに笑ってみせた。
そんなライと重ならないよう移動しながら、リュコスは思う。
(あの子、くるしんでるんだ。いやがってるんだ。戦いを……)
それはすこしだけリュコスの過去を思い出させた。
(だからって、てかげんして勝てるあいてじゃない!)
射線を確保し、リュコスは大きく息を吸った。圧縮された空気が耳障りな音を立てていく。
「がおー!」
叫びとともに発射された魔力砲が迷子へ突き刺さる。迷子は苦しげに胸を抑えた。
「うぐぅ……ぐるぅ……」
やめて、やめてよ、帰りたいだけなのに……。
「かえらせてあげるよ。だからていこうはやめて!」
リュコスは再び空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
2発目が発射されると同時に踏み込む影があった。京だ。
「ライ、いくよ!」
「ええ、こっちはだいじょうぶです」
「それじゃあ遠慮なく! 弐拾肆式ー!!」
京が天高く舞い上がる。そこから加速を付けて迷子めがけて落ちていく。自慢の脚を武器にして。その姿はまるでミサイル。その破壊力もまたそれ。
「落月ー!!!」
ドゥン!
破砕音があがり、かすれた悲鳴が聞こえた。炎が天まで焦がし、ひとたび熱風が周囲を覆う。しかし四方から来る冷気はまたたくまに足元の雪を分厚くしていく。
「雪も呪いの一種なのかなー、まーいっか。当初の目的は達成したしー? ははっ!」
京の目の前で炎に巻かれる迷子の姿があった。枯れ木のようにパチパチとはぜる音がする。
「ああぅ……うああぅ……」
熱い。いやだ。熱い。やめて、たすけて、だれか。だれか!
だがしかしその誰かは来なかった。代わりに来たのは死角からの一撃。バルムンクとすら呼ばれる鋭き一閃。
「被害者ぶるのはおやめなさい。あなたも本当はわかっているのでしょう?」
アルテミアが悲しい目で迷子を見つめている。その美しい瞳にはうっすらと涙すら浮かんでいた。
「苦しいのもつらいのも、あなたが魔種になってしまったから。そうなるきっかけはあなた自身にあったはずよ」
呼び声に乗ったものでなければ魔種にはならないのだ。アーマデルはそれを思い出していた。
逡巡する英霊たちの嘆きが聞こえる。まるで目の前の迷子の泣き声のようだ。するどく正確な一撃をくれてやると、ボロリと迷子の胸が剥がれ落ちた。中からミミズのようにウネウネと這い出してきたのは……。
「茨……!」
その醜さに、アーマデルは舌打ちをした。
「うぐぅ……あう…あ…」
いたい、いたい、いたい、いたいいたいいたい。
流れ込んでくる思考へ舌打ちをもう一つ。同情してやるつもりはハナからなかった。
それはヴァイスも同じだったようで、遠間から術式を起動している。やわらかな微笑を浮かべたまま、ヴァイスは陰陽術の文言を唱える。
「さあ、焼きなさい、苦しめなさい、邪魔をなさい、息を止めなさい、ありとあらゆる苦しみを与えなさい」
呪術の火の玉が迷子へ雨あられと襲いかかる。ヴァイスはそれを静かに笑ったまま見ていた。
「が……あ……」
もういや、もういや、もういやよ、いや……。ボロボロと迷子の表皮が剥げ、茨が浮き出てくる。
「そんなにつらいなら、早く眠らせてあげましょうか」
「同感だな」
エイヴァンが前へ出た。既にリュコス、京、アーマデルへとプロトコル・ハデスは付与してある。最初の一手以降は手番を取られてばかりだったが、それでも追撃は十分に効果を発揮していた。
あとは……。
「ライ、代わるぞ」
「ええ、お願いいたします」
ふらつく足元を押さえ、ライが交代する。
エイヴァンはその鈍い瞳を光らせて、堂々と立った。
迷子のぽっかりと空いた洞がエイヴァンを見据える。失われた瞳には狂気が渦巻いていた。
●
ここまでは好調だった。イレギュラーズたちが戦場の流れを握っていた。
流れが変わったのは迷子が本性を剥き出しにしてからだ。
戦場へ響く絶叫。そのたびに誰かが体力気力を大幅に失い、ときに昏倒する。
エイヴァンはごりごりと生命力を削られるも、必死で迷子の注意を自分へ向けている。そこへたたみかけるように茨咎の呪いが確実に全員を蝕んでいた。
「こんなところで倒れるわけにはいきませんのよ」
比較的軽症のヴァイスが攻撃を続けようとした。
「あう!」
見えない茨がその身体へ巻き付く。ヴァイスはムリをしてそれを振りほどいた。己の可能性を呼び覚まし、陰陽術を唱え続ける。飛び交う呪術と茨の棘。散弾のようにヴァイスを狙う。
「迎えに来てあげたのに。もう、それじゃあダメよ。ここで朽ち果てなさい!」
ヴァイスが憤りを交えて叫ぶ。
その奥で黒子が血を吐いた。迷子へいれた一撃への反撃が彼の腹を射抜いたのだ。息を整え、賦活力を高めようとするも茨に邪魔される。そこへ迷子の絶叫が追い打ちをかけた。
「中盤以降はスリップ系ダメージを期待していましたが、茨の呪いの進行がこうも苛烈とは……」
とはいえ計算違いはよくあることだと、役人魂を発揮して奮起する。
「やれやれせっかくの礼装に穴をあけてくれて。高く付きますよ」
痛みを意識の下へ鎮め、冷静に狙いをつける。
後ろへ下がったライは復讐心を胸に秘め、迷子へロザリオを向けた。カシャカシャと機構が動き、ロザリオが一丁の銃へ変じる。
「父と子と聖霊の御名によって……amen」
大砲のような鈍い音が立った。
「ぐうっ!」
ライが身体をくの字に折り曲げる。
「はぁ、はぁ、はっ、はっ、はっ、はは、あははは。いいですね。悪くないです。この倍の量の痛みが、あなたを襲っているのでしょう?」
ライは迷子をねめつけた。
「大丈夫大丈夫、いけるいける……あと一枚のヒットならバーストはしませんよ。」
ビタミン剤をぐっと飲み干し、ライは目をギラつかせた。
戦場は泥沼の様相を呈してきた。血で血を洗うの形容通り、あちらでもこちらでも深い傷からあふれた血が雪面を汚していた。そこらの軍隊ならあわれにも地に伏していただろう。しかしイレギュラーズの負担はまだ軽かった。ひとつには彼らにはパンドラがあった、ひとつには位置取りを徹底していた、もうひとつは……。
「大いなる大きなる存在よ。戦場をかける美しき翼よ。悲しみをうずめてください。苦しみを星にしてください。あなたの加護こそが大いなる翼の美しき存在よ」
アルテミアのヴァルキリーオファーがあと一歩の仲間を常に支え続けていたからだ。
苦痛を取り除かれた京が、アルテミアへ口笛を送った。
「ありがと! あとちょいだねきっと。負けないよ!」
「ええ、どれだけ傷つこうとも、心が折れぬ限り、私達は立ち上がり続ける!」
「いいねそういうの、大好きよ! よっしゃー! ダメージ優先でぶっ飛ばしていくぜー、あっはっはー!」
京の身体を炎が包む。炎は利き足へ収束していく。京はまっすぐに迷子へ向けて走った。ぶつかる直前でジャンプし、炎熱をまとった利き足で踵落としを決める。
「さあ、喰らいなさい! こいつがアタシの必殺技よ!!」
スイカのように割れた頭から大量の茨が飛び出してくる。茨は京の脚へからみついた。
「ぐぬ! むぎい!!」
利き足を取り込まれる形になった京は茨を強引に手で引っこ抜き、なんとか脱出した。すかさずアルテミアが駆け寄り治癒を与える。
「も、もうどうなってるのかわかんないよ」
茨の塊と化した迷子の姿にリュコスは細い体を震わせた。だがこんなところで臆病風に吹かれるわけにはいかない。自分もまた特異運命座標なのだから。リュコスは胸をしゃんとはって突撃した。黒の大顎を召喚し、ともに戦場を駆け抜ける。
「いっけえー!」
風に乗り、リュコスに出せる精一杯の一撃を。
「がらららああがあああああああ!!!」
もはやどこから出しているのかもわからない悲鳴が雪の中響いた。
反撃を受けたリュコスはくらりとする。
(しかえしがさけられないなら、それも食べてたおれるまで強く。どっちが最後までたっていられるかのがまんくらべだ……! 封鎖をとかなきゃだし、いまのみためはこわくても、もとが迷子だったならずっとかえりみちもわかんないままにさせておくのがかわいそうだよ)
もう一撃、後一撃、これにすべてをかける。リュコスはさらに迷子へとびかかった。
(だから、このがまんくらべにはぜったいに勝たないといけない……たえて! ぼくのからだ! おしきって! ぼくのちから!)
たしかに手応えがあった。同時に今までとは比べ物にならない痛みが襲いかかってきた。リュコスの体が雪の上をバウンドして転がる。もう起き上がる力はない。
ゆらり。何かが視界の隅で動いた。茨を集めて作ったかかし、いや迷子の姿だった。
(ああ、だめ、だったんだ……そんな……)
リュコスのまぶたを涙が濡らす。そのままぎゅっとリュコスはまぶたをとじた。熱い涙があふれて落ちる。
ビシッ。ミキィッ!
異音に目を開けると、迷子を両腕で締め上げているエイヴァンの姿があった。
「守るのが、俺の務めだからな」
そういうエイヴァンの毛皮は真っ赤に染まっていた。にもかかわらず、エイヴァンは両腕へ力を込める。メキメキと音を立てて、茨が折れて大地に散らばっていく。それが終わりの合図だった。
●
「あの子は帰れたのかしら」
ぽつりとヴァイスがつぶやく。
「自分はそういうことにうといので」
周囲をクリアリングしてきた黒子がそっけなく返した。
「これだから書類仕事しかしない連中は……」
エイヴァンが短く喉を鳴らし、リュコスの具合を見ている。ぐったりとしているが命に別状はないようだ。
「利き足が食われたときはちょーっとやばかったね。あっはっはー!」
「それも含めて、楽しかったのでしょう?」
ライの言葉に京がまあねと返事をする。
「そろそろ戻らないと呪いが深くなるぞ」
「まあ待て、鎮魂くらいさせろ。すぐ済む」
ラウランの言葉にアーマデルは集めた茨、かつて迷子のメアリと呼ばれていたものをアルテミアへ差し出した。
「もう、凍える必要も、彷徨い続ける必要もないわ。さぁ、いきなさい、アナタのかえるべき場所へ……」
プロメテウスの恋焔が、茨の束を浄化していく。その炎の中から、おだやかな笑みが聞こえた気がした。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
おつかれさまでしたー!
ひやひやしながら判定していましたが、無事勝利です!
MVPは戦線維持に走り回ったアナタへ。
称号「倒れずの矜持」を付与しています。
またのご利用をお待ちしています。
GMコメント
みどりです。帰る家がなくなった迷子の行き先は決まっています。送ってあげてくださいね。
とはいっても相手は魔種。ステータス管理にはお気をつけて。
やること
1)魔種『迷子のメアリ』討伐 25T以内
●エネミー
『迷子のメアリ』
ぼろぼろの頭巾をかぶったミイラのような少女です。
迷子になった理由はもはや誰にもわかりません。彼女にすら。自ら帰り道を探そうとしない怠惰が、すべてを忘却させてしまったのです。一刻も早く打倒し、辺りを覆う冬から彼女を救いあげてください。
HPが異常に高く、反応と防御技術に優れています。また、たまにEXAが発動するようです。
HP半分以下ですべての攻撃に【防無】がつきます。ご留意ください。
・かすれた声 神域識別 ダメージ中 Mアタック大 鬼道中 【絶凍】
・悲鳴 神域識別 ダメージ大 Mアタック特大 【飛】
・絶叫 物超貫万能 ダメージ特大 Mアタック特大 30%の確率で主行動を1回分キャンセルさせる
・すすり泣き 亡霊を3体召喚する
P『茨』の体(HP半分以下で発動) ダメージを受けた時、相手に自分が受けた50%の確定ダメージを与える
亡霊
回避が異常に高いです。逆に言えばそこしか取り柄がありません。全体的なステータスは低めです。
・神至単 ダメージ中 Mアタック中【飛】
●戦場
雪が降っていてとても寒いです。気候による特殊状況のマイナス補正がかかります。この補正はプレなどによって軽減することができます。足場はでこぼこしており、非常に動きにくい状態です。機動力に-2の補正がかかります。
視野および戦闘に必要な広さは問題ありません。
●『茨咎の呪い』
大樹ファルカウを中心に広がっている何らかの呪いです。
イレギュラーズ軍勢はこの呪いの影響によりターン経過により解除不可の【麻痺系列】BS相応のバッドステータスが付与されます。
(【麻痺系列】BS『相応』のバッドステータスです。麻痺系列『そのもの』ではないですので、麻痺耐性などでは防げません。)
25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります。
●友軍
ラウラン=コズミタイド
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)さんの関係者です。皆さんの指示を聞きます。弓矢による毒・混乱などのBSおよび回復ができます。またよっぽど無謀なプレを書かない限り、25T以上経過した場合、ラウランが連れ帰ってくれます。
「いやいや、あんまり俺のこと信用しないでくれよ?」
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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