PandoraPartyProject

シナリオ詳細

星に願いを、きみに光を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 星が溢れている。
 黒玻璃にたくさんの星が咲いている。ひとつだけでは広大な夜黒に埋もれて見落とされてしまうような小さな光が無数に散りばめられて、空が煌びやかに飾られている。
 いつもはすやすやと眠る夜の羽リス達がぱたぱたと羽搏き、うろちょろする夜、晶窟『プーロセル』に、ふわふわの星晶獣の群れが近づいていた。
 晶窟『プーロセル』の天井や左右の岩肌は色とりどりの淡い輝きに溢れる水晶や鉱晶石が美しく、空気はひんやりとしていて清らかな心地がする。星晶獣は長毛のあしで透明度のひくい水晶花をちょいちょいつついて、鼻をふんふんさせてから「あーん」ぱくりっ――美味しそうに「くるるぅ!」黄色い石も青の石も、真っ白なのも、全部ぜーんぶ味見しよう、たらふく食いつくしてしまおうなんて鳴き声でお話しながら大暴れ――。

「こまったなあ」
 晶窟の守人が眉をさげ、小鳥みたいに首をかしげた。
「ああ、そうだ。トライアル……だっけ。あの強いひとたち。あのひとたちに、お願いしてみようかな」

●きら、きら、光る
 太陽がまだ中天に輝く時間。
 『覇竜領域トライアル』に積極的に挑むベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は依頼をこなした後、亜竜集落『ウェスタ』を歩いていた。依頼後の調査活動である。その耳に、ネーヴェ(p3p007199)が亜竜種の少年と会話する声が聞こえたのは、偶然の縁でもあり、その積極姿勢が引き寄せた運命のようなものでもあった。

 薄桜色の長い後ろ髪をウェスタの風に靡かせる少年は、宝石めいた煌めく瞳を瞬かせた。ベネディクトの気品ある金発と堂々たる佇まい、黒の外套を見て「最近よくトライアルに尽力しているのを見かけるひとだ」と思ったのだ。
「そっちのお兄さんも、手伝ってくれる?」
 少年に釣られて苺めいた愛らしい眼を向けたネーヴェは、ふわふわの柔らかそうな兎耳をぴこんっとさせて白皙に笑みを咲かせた。頼もしい方です、と紹介をして、楚々とした所作でスカートの裾をつまんで春花の妖精めいた挨拶をして。近くにいた他の特異運命座標も、依頼内容を聞いてみようかと集まってくる。

「ぼくは、晶・蒼良(しょう・そうら)。依頼についてお話するね。依頼を受けてくれるとうれしいな」
 ぼんやりと眠たげな雰囲気で、少年が話し始める。近くでは、ドラネコがてくてくお散歩していたり、ぱたぱたと羽音をたてて羽リスが低く飛んでいたり。

「ぼくの家――晶家は、この集落のちかくにある晶窟『プーロセル』の管理を行っているんだ」
 プーロセルの鉱石の一つ、オーライト・クリスタルは薄く光り輝き洞窟暮らしを行う事の多い亜竜種達は光源として使用することが多い。様々な鉱石を得ることの出来る晶窟『プーロセル』は晶家にとって宝であり、最も護るべき存在なのだ、と蒼良は語る。
「生活に使用する鉱石は、とっても大切、だよね。
 だからぼくたちは無法者に荒らされぬように晶窟の守人として働いているんだけど……『プーロセル』には現在、すごくたくさんの星晶獣が入ってしまってるんだ」
 星晶獣は、星空に似た煌めきを放つ鉱石を額に填めたふわふわの獣。数が多くすばしっこくて、氷の魔法を使うことができ、足元をつるつるに凍らせたり、氷弾を撃ってくるのだという。
 ローティーンと思しき外見年齢にしては非常に落ち着いた風情の少年は、美しい晶石風の竜尾を優美に揺らして淡く光る凍魔術を魅せた。氷の魔術が使えるんだよ、と語る声に、能力を誇る気配は薄い。どちらかといえば、未熟だと自覚している様子で、はにかんで。
「星晶獣には氷の魔術が効きにくいんだ。数もおおくて……ぼくは、まだ一人前じゃないからね。だから、きみたちに頼みたいんだ」

 少年はちかくでじゃれているドラネコと羽リスを見て、そうそう、と付け足した。
「この羽リスなんだけど、ここ数日、夜に活発に動いているみたいなんだよ。ぼくが前に友人からきいた言い伝えでね、『羽リスが夜に元気いっぱいな時、夜空の星に願いをかけると幸運が得られる』っていうのがあるんだよ」
 
 きら、きら、
 真昼の日差しは輝いて
 夜はゆったり眠るけど
 夜廻りのおつきさまがゆるりとお空にのぼった頃に
 お星さまが耳を澄ませて

 ――きみのお願い、待ってるよ。

GMコメント

 透明空気です。今回は覇竜です。
 アフターアクションを送ってくださって、ありがとうございます。

●オーダー
・晶窟の鉱石を食い荒らしにやってきた星晶獣の撃退。
 退治してもよいですし、追い払ってもよいです。

●場所
・晶窟『プーロセル』
 亜竜集落『ウェスタ』近郊に存在する晶窟。
 プーロセルの鉱石の一つ、オーライト・クリスタルは薄く光り輝き洞窟暮らしを行う事の多い亜竜種達は光源として使用することが多い。
 天井も壁が色々な鉱石で溢れています。晶窟をできるだけ壊さないで問題を解決すると蒼良が喜ぶことでしょう。
 戦闘する区域は手前(外に近い場所)ほど快適空間で、奥にいくほど天井が低めになり、道幅も狭くなります。奥のほうで戦闘する場合は、若干窮屈に感じるかもしれません。

●敵
・星晶獣
 星空に似た煌めきを放つ鉱石を額に填めたふわふわの獣。大きさはライオンサイズ。
 数が多く、すばしっこい。不吉なオーラを纏う爪と牙があり、氷の魔法で足元をつるつるに凍らせたり、氷弾を撃ってきます。

●味方
・晶・蒼良
 ネーヴェ(p3p007199)さんの関係者で、今回の依頼者です。今回は晶窟『プーロセル』の入り口まで案内してくれて、その後は皆さんにおまかせするようです。
 晶・蒼良は、亜竜集落『ウェスタ』に住まう少年。近郊に存在する晶窟『プーロセル』の管理を行っている家系に生まれました。
 蒼良は幼い頃から、晶窟『プーロセル』に親しみ、愛すべき存在としてその地を認識してきました。まだ幼い彼は亜竜種達が生活に使用する鉱石が無法者に荒らされぬようにと晶窟の守人として両親と共に働いていました。晶窟を護る為に護身術を身に付け、魔術師のように戦う事に長けているそうです。だが、基本は周辺環境を傷つけたくはないと彼の本来の実力を見たことある者は少ないといいます。
  生活の大半を晶窟で過しているため、鉱物の扱いに対しては長けています。
 ちょっとしたアクセサリーや武器への加工なども得意としているが、大切な自然の恵みを分け与えるのは心を許したひとだけ。何時の日か、彼がその大切な鉱石をイレギュラーズに渡す日が来るのでしょうか――それは、皆さんの行動しだいなのです。

●依頼後のおまけ要素
・『星に願いを』
 普段は昼行性の羽リスが、活発に夜間活動をする時がある。
 時期は不定期で、7日ほどの間なのだが、その時期に夜空の星に願いをかけると幸運が得られる、という言い伝えがある。
 蒼良いわく、ここ数日は羽リスの夜間活動が活発らしい。
 星が綺麗な今夜、依頼を終えたあなたは試しに星に願いをかけてみてもいいし、かけなくてもいい。

※ドラネコ
 亜竜集落内をトコトコ歩いてる姿も散見されるかわいい亜竜。
 大人になってもサイズは猫程度。可愛さに全振りした結果戦闘能力を失った、可愛さで世の中を渡る亜竜。
 猫にドラゴンの羽が生えたような姿で、色や模様は千差万別。
 鳴き声は「ニャー」です。

※羽リス
 亜竜集落内をトコトコ歩いたりパタパタ飛んでる姿が散見されるかわいい自然動物です。
 リスに白い羽が生えたような姿です。
 鳴き声は「きゅ~」「きゅ?」。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 以上です。
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 星に願いを、きみに光を完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
秋霖・水愛(p3p010393)
雨に舞う
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

リプレイ

●プーロセルを巡る冒険
 『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)はタイニーワイバーンを右の蒼翼で柔らかに包み込むように撫でた。その指には夕暮を宿した緋石が輝いている。
「さあて今日も今日とてお手伝いだ」
 ワイバーンの瞳に、月光色に輝くルーキスの髪が映っている。
「亜竜の集落も色々大変そうだからね、もっと遠慮なく仕事くれるとうれしいなぁ!」

 細かな粒子が輝くような乳白色の石に共生するピンク色と紫色の蛍石、縞模様が年月を思わせるクロサイト。透明度の高いクンツァイト、月長石めいた肌の壁から生える苔めいた孔雀石と葡萄石、結晶花咲く天青石に煙水晶……に似た晶石群。淡い輝きに包まれて。
「なるほど……洞窟内部では光源に何を使っているのかと思いましたけど、こういうものもあるのですね」
 『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は緋色の炎の如き魔晶のレイピアを携えて素直な声色を零した。
「光を放つ鉱石、オーライト・クリスタル……本当に綺麗」

「オーライト・クリスタルか。この鉱石で亜竜種の皆は光源を確保したりしているんだな、不思議な鉱石だ」
 『黒狼』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は光輝く神秘的な鉱石群を新鮮な気持ちで眺めて、燥ぐポメ太郎を落ち着かせた。
「例の星晶獣とやらは、これを食べに来ると。放置しておけばまた戻って来るか?」
 蒼良はぼんやりと考え込む。
「星晶獣に限らず、獣たちは自分達より強い生き物の縄張りには近づかないから」
「縄張り……成程な」
 晶窟に足を踏み入れてみれば、至るところでふわふわの星晶獣が我が物顔で闊歩している。餌が枯渇するまで、彼らは此処に居座るつもりに違いなかった。
「となると、此処に来る前は別な場所で餌を……? 其処を食い尽くしたか、或いはより強い生き物が出て追い払われたか……」
「亜竜種の集落には、まだまだ初めて見るものがたくさんありますねぇ。光源になるこの鉱石を星晶獣は食べてしまうとか……」
 『闇に融ける』チェレンチィ(p3p008318)は石の表面を軽く撫でてみた。ひんやり、つるりとした感触は心地よくて、好ましい。それに、仄かに良い香りもするようだ。
「生活必需品を食べられてしまってはとても困ってしまいますし、こんなに綺麗で神秘的で、大切にしている場所を荒らされるのも気分は良くないですよねぇ。ここはこのメンバーで協力して、頑張って退治しましょうか」

「ほわぁ~、ウェスタに住んでるけどプーロセルなんて初めて来たよ、綺麗だねぇ」
 『雨に舞う』秋霖・水愛(p3p010393)が癒し系のほんわかした声を響かせる隣で、フリアノンの戦士団見習いである『炎の剣』朱華(p3p010458)が頷いた。
「此処が晶窟『プーロセル』……話には聞いていたけど綺麗な物ね――何て、景色に見惚れるのは後ね。先ずは仕事を片付けちゃいましょうか」

「星晶獣、……ですか」
 『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)はふわふわの獣たちを濃い桃色と白桃色のオッドアイで見つめて、猫耳をへたり。
「アレは同胞……と呼んでいいのかどうか。微妙に判別に困るやつなのです」
(私が焔であっちは氷なのですし。アレと羽リスはともかく、ドラネコは間違いなく同胞なのですが)
 足元で野良のドラネコが人懐こくすりすりしてきて、「にゃーん」と甘えてくる。クーアはしゃがみこんでドラネコを抱っこし、よしよしと頭を撫でた。
「晶窟……聞き慣れない、言葉です。蒼良様にとっても、他の方にとっても……大切な場所、なのですね。ならばできる限り、守って、さしあげましょう……!」
 『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)はそんなクーアの隣にちょこんと座り、ドラネコにそーっと指を差し出した。その頭に羽リスがぽふりと乗って寛ぐ。
「それにしても……星晶獣も、ふわふわ、ですね……!」
 ネーヴェはふわふわの美しい獣たちに胸をドキドキさせた。長くやわらかな毛並みは遠目にもふわふわしていて、どうしようもなく胸に「触れてみたい」という衝動が湧いてしまう。鳴き声も愛らしくて、仕草も可愛い。仲良くできたらどんなに素敵でしょう――、
「しかし、悪い子は、めっ、しないといけません」
 頬に手を当て、しょんぼりと呟くネーヴェ。
「オーライト・クリスタルが必需品なら、確保はとても大切な事です」
 リースリットも優しさの滲む声で頷いた。
「星晶獣達も、食料としているのなら狙ってくるのも仕方のないですが……」

「この晶窟のお話もっと聞きたいけど先に悪い子をメッてしないといけないんだよね?」
 水愛が首を傾げれば、うんうん、とクーアが頷く。
「個人的に積極的に撃滅する気は起きませんが、さりとて手加減する道理もなし」
 朱華も訳知り顔で知識を披露する。
「星晶獣……ね。見た目は愛らしいんだけどドラネコ達や羽リスと違って、生活に使用する鉱石を食べちゃうのが厄介なのよね……」
「朱華さんは詳しいんだねぇ、私、ウェスタ住みだけどぜんぜん知らなかったよ」
 湖水めいた清らかな瞳を円くしてそう言う水愛は邪気がなく、なんともゆるゆるした雰囲気。対する朱華はきびきびと頷いて、燃え盛る焔華のような瞳をきらきらさせた。
「星晶獣の件、確かに朱華達が請け負ったわ。晶窟も出来るだけ壊さないように気を付けるから朱華達に任せておきなさいっ!」
「よーし、お仕事がんばるぞ~、ところで朱華さん、その子はなぁに?」
「陸鮫よ」

 蒼良は個性豊かなメンバーを順に見て、「皆強そうだし、安心して任せられるよ」と入り口でポメ太郎を抱っこして待つ様子。
「星晶獣は可能な限り撃破、しかし逃げていくものは追わないという方向で話がまとまりました」
 チェレンチィが方針を伝えると、蒼良はのんびりと頷いた。

「まずは、晶窟への被害を極力抑えるのです!」
 気合入れて追い払いましょう、とメイド服の裾を上品につまみ、クーアが朱華と視線を交わして2人同時に保護結界を展開する。
「壊さないように気を付けるって蒼良と約束したもの。これ位はね」


 ベネディクト、ネーヴェ、チェレンチィの3人は晶窟の奥まで進んでから作戦を開始した。

 ベネディクトが名乗り口上を朗々と響かせる。
「さあ、残念ながら此処からは通行止めだ。この晶窟を縄張りとして晶石を喰らいたいというなら、俺達を倒して貰わねばな」
「ボク達はこの晶窟の守り人です。即刻退去を願います」
 チェレンチィの眼帯で覆われていない側の露出した糖蜜色の瞳が剣呑に敵意を伝える。凍気に先んじて美しい青翼で軽く虚空を叩いて爪先を浮かびあがらせて――獣たちの氷の魔法が足元をつるつるに凍らせても、「もう遅いですよ」すいすいと空中を泳ぐように逃げていく――仲間が待つ、入り口付近の広い空間へ!
(ボクらと戦うことで「この洞窟にいたら危険だ、逃げよう」と星晶獣が理解してくれたらいいんですが)

「この場所は、素敵ですけれど……わたくしも同じくらい、魅力的ではなくて?」
 ――夢の灯の夜は兎の空中舞踏をやさしく許してくれたから。
 お気に入りの靴をすこしだけ地面から浮かせて軽やかに跳ねるようなステップを踏むネーヴェは、兎の魅力を振り撒いて獣を惹きつける。
 ――それが物理的に『食べてしまいたい』でも結構。さあ、おいでませ!

 3人が仲間のもとに獣の群れを連れていくと、仲間達は一斉に攻撃を始めた。
「あっ、来ましたねぇ……いっぱい釣れたようで」
 水愛はポニーテールを揺らして淡く発光する両手を差し伸べた。瑞々しい賦活の力がふわりとチェレンチィを包み込み、傷を癒していく。

 長い金髪を靡かせて、クーアが黒顎魔王の大鎌を振るう。
「氷を容易く溶かす我が情熱、おみまいして差し上げるのです!」
 魔性の一撃はこの時会心の威力を伴い、ぶわりと膨張して獣を悪夢のように捉えて貪り喰い、使い手に僅かな反動の痛みを齎した。痛みを物ともせず、連撃が奔る――
 蒼銀の腕が晶石光に煌めいて、ベネディクトの金色竜爪が群がる獣らを薙ぎ払っている。苛烈な斬撃は本来何世代も時代が経過し、薄れた血から発生しえない筈の竜と人の混血の先祖返りであるベネディクトに発露した竜血の力に因る魔性の一撃でもあった。只一振り浴びただけの獣たちは不可視の爪に捉えられ、身の内からの炎獄と致死毒にのたうちまわる。

「最初はチェレンチィさんを狙う敵を減らして、次いでベネディクトさんの周辺からが望ましいと思います……っ」
 リースリットが優先順位を共有しながら魔力を練る。紅の魔装衣が魔力に煽られ、ふわりと揺れた。
「其は、神鳴」
 ほっそりとした指先が風と戯れるように虚空を撫でて、敵を指す。可憐な聲が凛として厳かに反響する様は神々しい。
「風火、交わりて光鎖の蒼蛇と成す――」
 しゅるり。風が清かな光を鎖状に纏い、生き物のように敵を絡め取って牙を突き立てた。

「自分から出て行ってくれると良いんだろうけど。言葉が通じない以上は仕方ないね」
 ワイバーンに騎乗するルーキスが星灯の書をひと撫でした。魔術師の指に煽られて淡く燈る夜の魔典はひとりでにページを捲り、形無き銀鍵の術式を浮かび上がらせる。
「《クラウストラ》」
 ルーキスが謡うように音を紡げば、幾筋もの光条が細く奔って檻状に象り、獣たちを閉じ込めた。
「此処を荒らされると困る人が居るからね――悪いけど加減は無しだ、容赦なくやらせて貰うよ」
 彩の異なる双眸が玲瓏とした聲を降らせる。光が内部へと光棘を弾けさせると、獣たちは一斉に悲鳴をあげた。

 ネーヴェがくるりくるりとステップを踏み、獣たちを翻弄している。可憐に引き付け、防御に集中するネーヴェは巧みに敵の攻撃を躱し、軽減していた。
 両刃のコンバットナイフを躍らせるのは、チェレンチィ。挑発に釣られて至近に寄ってくる獣たちは、ある意味自分から間合いに飛び込んでくる獲物。追いかけっこをするように入り口に駆けて、振り向きざまに刃を閃かせれば容易く鋼の切っ先が獣を裂いて、軽く刃を抜きとって続く個体に差し出せば手応えがかたい。流れるような自然な所作で独楽のように廻りながら連撃を穿つ脇に氷弾が命中していたが、一瞬で癒される――思い切った攻勢は治癒者を信頼できてこそ。チェレンチィは一瞬のアイコンタクトで感謝を告げた。
「もうここに来たら危ないんだーってことを可哀そうだけど星晶獣たちに教えてあげなきゃ」
「ええ、ボクもそう思います」

 陸鮫に騎乗する朱華が獣の群れに突っ込んで行く。鮫の背で勇猛に振るうは支配属性を顕現させた灼炎の剱。人鮫一体の機動を魅せて鮫が跳ね、炎の切っ先が天井に向かって斬撃の花を咲かせて――宙で鮫が一回転! 躍動する尾ひれが天井を蹴り、地上に鋭い乱撃が落ちる。獣の氷撃が炎に溶かされ、床が正常に戻っていた。

 距離を取り、氷弾を放とうとしていた獣にはルーキスの『ハンターズ』が忍び寄る。さわめき、血を啜らんと群れるそれに気づいた獣たちは一瞬で己らが狩られる側なのだと察して、一目散に逃げていく。
「多少距離を取った程度で安心しちゃだめだよ?」
 気紛れな金糸雀のように『ハンターズ』を退かせて逃亡する獣らを見逃すルーキスは暴れたりないとばかりに羽を騒がせる自らのワイバーンをよしよしと撫でてやった。
「深追いはしないよ、追い出せればそれで充分だからね」

 ――獣たちが逃げていく。
「依頼、成功ですね……、お怪我は、大丈夫ですか?」
 ふわりと全身を包み込むのは、リースリットの癒しの風。清らかなる精霊の吐息は春風に似てあたたかで、優しく傷を癒してくれた。水愛がおつかれさま、と微笑んで天使の歌を口ずさむ。おっとりと歌い上げる歌声は心を和ませるあたたかなアルトで、蒼良も「疲れがなくなるみたいだよ」と尻尾を揺らした。


●星に願いを……?
「また俺達の力が必要になったら呼んでくれ、トライアルに関係なく助力させて貰うよ」
 ベネディクトがポメ太郎を受け取って挨拶すると、蒼良は「噂通りの見事なお手並みだったね」と感心した顔でお礼を告げた。
「おかげで被害はほぼ無いと言っていいみたいだ。ありがとう」
 助かったよ、と微笑む蒼良。ネーヴェは好奇心を煌めかせて、中で見かけた煌めく鉱石について蒼良に尋ねた。
「装飾品に使われる石もあるし、武器や防具に使われる石もあるよ」
「蒼良さん、……星晶獣は、オーライト・クリスタル以外に食料にする鉱石があるのでしょうか?」
 リースリットが尋ねると、蒼良は首を縦にした。
「彼らは、石なら何でも食べられるよ。ただ、鉱石や晶石が鉱物というだけで」
 鉱石が自生する地下遺跡にもよく出没する姿が報告されているという。
「例えば、最近ペイトの戦士たちが攻略中だという地下遺跡『レウル・ファン』でもよく星晶獣が目撃されているみたいだね」

 真っ暗な夜空は距離感が掴みにくくて、無数の星がすぐ近くにあるみたいに思えて手を伸ばしてみれば矢張り遠い。澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込めば、柔らかな大地と清冽な水の薫りが感じられて、背筋が自然と伸びる心地が下。
「確かこの時期、夜空の星に願いをかけると幸運が得られるだったかしら?」
 朱華が伝承を語ると、伝承を伝えゆく一族である水愛が嬉しそうに聞き入った。
「もっと詳しく聞けたりしないかな? 本にしちゃいたいよ!」
 蒼良は「もしかしたら朱華さんの方が詳しいんじゃないかな」と言いながら言い伝えを語る――「羽リスは、おひさまやおつきさまと仲が良いんだって」。

「ポメ太郎、ちゃんと良い子にしていたか?」
「わんっ!」
 ベネディクトはわしわしとポメ太郎の頭を撫でて、蒼良を誘って星空の下を散歩する。両腕で抱っこするポメ太郎が嬉しそうに尻尾をふりふり、顔を見上げている。歩く傍をドラネコが一匹、とことことついてきた。
「ポメ太郎、待っている間に仲良くなったのか?」
「わん!」

「この美しい晶窟に、平穏が訪れん事を」
 リースリットが願い呟く聲が清廉に響いた。リースリットは平穏の価値と得難さ、覇竜の獣やモンスターたちの生存競争の激しさをよく識っている。獣の群れを追い払ったから安心、と安堵する事はできなかった。
(石は自然の産物。人だけのものではありません……けれど、この地に生きる人には必要なものなのです)
 なにより、あの美しさ。素直に心から、綺麗だと――守りたいと感じた故に。

(お願い、ですか……)
 クーアは星の煌めきを見上げて瞳を瞬かせた。
 ――己を満足させうる焔を見つけ出す。それがクーアの願いだけれど。
(もしかしたら、当地を探し回って見つけ出せるかもしれませんし。そうなったらそのときはそのとき、見つからなくてもそのときはそのとき)
「星に願うようなものでもないのです」
(まっすぐに願うには、まだ。わたくしは……迷っているから)
 ネーヴェも願いは秘めたまま、願う代わりに近くに寄る羽リスをそっと撫でた。
「願いなんてあまり考えたことなかったですねぇ」
 チェレンチィは羽リスを頭に乗せ、ドラネコをもふもふしながら満天の星空に思案した。
「とりあえず、ここプーロセルの平穏でも願っておきましょうか」

 蒼良が静謐な空気を纏ってイレギュラーズをぼんやりと見ている。
(彼にも願い事はあるんだろうか?)
 ベネディクトが横顔を見ていると、少年の瞳がベネディクトを見た。
 少年は眠たげな瞳でふわりと笑った。
「皆、あまり自分のためのお願いがないのかな?」
 ――同じ好奇心を抱いた瞳が水鏡のように見つめ合い、しばし沈黙した後で共に星を視る。

 ――せっかくだからお星さまにお願いしようかな?
 水愛は羽リスをゆるりと撫でて、願い事を考える。最初は、水弥を想い浮かべて。
「『双子の弟にまた会えますように』……かな?」
 弟を想う姉の顔でそう呟いてからにっこりする。
「でもそれよりも、言い伝えのが気になるなぁ」
「弟より言い伝えなのです?」
 近くでドラネコを撫でていたクーアが思わず突っ込んだ。水愛はほわりと優し気な瞳を笑ませて「う~ん。両方……♪」と微笑んだ。

「ほう、これがドラネコ。話として聞いたことはあったけど、こんな見た目なんだねぇ。羽根のある猫って感じかな?」
 ルーキスは一匹のドラネコを抱き上げてみた。ぬくぬく、柔らかい毛が手触りよい。すり、すりと自ら手にからだを擦り付けて、全身で歓びを訴えるような小さな温もりが愛おしい。
「みゃーあ!」
 ドラネコは元気いっぱい、ルーキスに頬をすりすり、愛らしく片手をもちあげて、ごろごろ喉を鳴らしている。
「ぴんくの肉球、ふにふにだねぇ」
(うーんこれは……是非とも一匹連れて帰りたい)
「ドラネコが連れて帰れますように!!」
 星に願いを呟きながら、ルーキスはこのドラネコを連れ帰って紹介したときの旦那様の反応を想像してにこにこした。

 仲間達と作戦の成功を祝い、労い合って――朱華は無言のうちに星晶獣達の為の祈りを捧げた。幾多の生命の終わりと、残る個体の行く末に。
 生きるため、獣は餌としてそれを。人は光源としてそれを必要とした。公平な大地と空の狭間、戦士は人の代表として戦い、勝利した。ならば戦いが終わった後は、敗者に敬意を示し、祈るのだ。

成否

成功

MVP

煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。依頼お疲れ様でした。
 無事プーロセルは守られ、蒼良も「イレギュラーズはとても良いひとたちだったよ」と両親に報告をしたようです。ドラネコも構ってもらえてうれしそうでしたね。
 MVPは「設定を活かした大胆で気持ちの良いRP」「相性の良い炎を活かした上で晶窟に配慮の行き届いた繊細なプレイング」「やさしさ」の3点セットなあなたに。
 ご参加ありがとうございました。

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