PandoraPartyProject

シナリオ詳細

亜竜種たちの花見酒

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●桜、さく
 覇竜領域デザストル――恐るべき竜、そして亜竜とそれに匹敵する怪物たちが闊歩する、前人未到の危険地帯。
 が。そこにも静かに、人の営みはある。亜竜種と呼ばれる人間たちは、いくつかの集落を作り、そこで息を殺しながら生活している。
 大手を振って外を歩けるような場所ではないが、それでも、いくつか安全の確保がなされている場所はある。例えば、亜竜同士の縄張りに接し、偶然にも緩衝地帯となった場所……そこに集落を作るのは難しいが、短時間の滞在なら、問題ない。そんなような、ある種奇跡的な恵みの地。
 さて、人がいれば、必要なのはレジャー、である。人は、必要最低限のそれだけでは生きていけない。例えば、花を愛でる、といった心の余裕とやすらぎも必要なわけだ。それは、外であろうが、覇竜領域デザストルであろうが、人が生きている以上は当然の事。
 とある小集落の近く、小さな広場。ここに、デザストル・チェリーブロッサムと名付けられた、一本の大木がある。厳密には、それは桜そのものではない。桜によく似た、薄桃色の可愛らしい花を、春に咲かせる大樹だ。まぁ、桜である、と考えてもらって何の問題もないだろう。学者は怒るかもしれないが、現地の民にとっては、憩いの桜だ。それでいい。
 花見酒、という文化は、アルコールと花があれば、どこにでも根付く文化らしい。それに伴う、食事のやり取りも。詰まる所、この小さな集落の亜竜種たちの間には、どうにかこうにか花見という文化はあって、おっかなびっくり、晴れた日に桜の下で、大勢で騒いで飲んで食べる。
 外ほど油断できるお祭りではないが、それでも、この桜を見るイベントは、小集落の亜竜種たちにとっても、欠かせない催しだ。毎年これを楽しみに、人々は暖かさを見せる太陽の光を、集落の中から覗くのである……。

「わぁ……本当に、桜、なんですね……」
 ネーヴェ(p3p007199)が、広場の桜の下で、感激するような声をあげた。ひらり、と桜の花びらが落ちてくるのを、ネーヴェは掌で受け止める。それは、ひとひらが親指大の……なんとも大きなものだったけれど。
「ふふ……大きくて、元気な、桜なのですね」
「外のものとは、だいぶ違うのでしょうね」
 と、小集落の戦士の亜竜種の男が言った。ネーヴェや、あなたを始めとするイレギュラーズ達は、花見会場の下見に来ていた。というのも、あなたたちローレットのイレギュラーズは、今回花見会の護衛を任されたからだ。
「普段は、我々戦士団が護衛をしているのですが……たまには花見に参加したい、と若いものからクレームが来ましてね。
 それで、戦士団が花見休憩をとっている間、皆さんに護衛をお願いしたいのです」
 と、亜竜種の男が言う。
「はい……お花見、したい気持ち。わかります」
「そう言っていただけると」
 亜竜種の男は頭をかいた。
「もちろん、お仕事の後は、我々戦士団が護衛を行います。ですから、お花見を期待してもらっても構いませんよ。
 外とは違うかもしれませんが、我々の桜も中々のものでしょう? それに、ここは風も優しくて、心地の良い広場です。
 外は危険ですが、ここは比較的安全……いつでも来れるわけではありませんが、ここが過酷な地であることを忘れさせてくれます」
 そういう亜竜種の男の気持ちは、あなた達にもわかったかもしれない。穏やかな風の吹く、静かなこの広場の光景からは、ここが覇竜領域と呼ばれる場所であることを認識するのを忘れさせるだろう。
「護衛は、広場のはずれ。此方で行ってください」
 亜竜種の男に連れられて、桜の木から離れていく。少し行くと、岩場のごつごつとしたエリアが見えて、先ほどの広場とは違う、寂し景色になった。
「この辺り、飛行種のワイバーンはほとんど来ないのですが、陸生種のワイバーンが現れる危険性があります。
 我々でもなんとか対処できる相手ですが、相手はワイバーンです。くれぐれもお気を付けください」
「はい。ありがとう、ございます」
 やわらかく、ネーヴェが微笑む。
「時間は……そうですね、二時間ほどお願いします。二時間、ワイバーンと戦いっぱなしなんてことはありませんが、警戒は怠らないでください。
 二時間立ちましたら、交代にお呼びしますので、そうしたら、お仕事は完了です。後は、皆と一緒に、花見を楽しんでください。
 集落で作った皆に振る舞う料理を用意していますから、手ぶらでも構いませんよ。もちろん、差し入れは大歓迎ですが。外の食べ物などは喜ばれるでしょう」
 そういって、亜竜種の男は笑った。
「……できれば、皆さんにも、楽しんでいただきたいです。ですから、あまりご無理はなさらないでくださいね」
 亜竜種の男の心づくしに、ネーヴェは柔らかく笑い、頷く。
「皆様も。わたくし達が、担当している間は……お花見を、たのしんで、くださいね?」
 ネーヴェの言葉に、男は嬉しそうに頭を下げた。
 かくして、お花見が始まろうとしている。背後ににぎやかな気配を感じながら、イレギュラーズ達は荒野を睨み、敵を待ち構えるべく警戒を始めた。
 ……亜竜種たちの、ささやかな催しを、守らなければならない。
 そんな決意と、戦いの後の食事と酒を思いながら。
「皆様、がんばりましょう、ね?」
 ネーヴェの言葉に、あなたも、そして仲間達も頷いた――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 覇竜領域に咲く桜。亜竜種たちのささやかな花見。
 それを守り、そして祭に参加してみてください。

●成功条件
 『リンドラプトル』の群れを撃退し、二時間の間、警備を完遂する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 覇竜領域に存在する、亜竜種たちの小集落。その近くの広場には、大きなデザストル・チェリーブロッサムと名付けられた桜によく似た大木があり、この時期、花を咲かせます。
 その広場は、奇跡的に、安全が確保されており、この時期に集落の人々で、花見が催されるのです。
 安全が確保されている、といっても、そこは覇竜領域。ワイバーンの到来の可能性は捨てきれません。
 そこで、皆さんに依頼がもちこまれました。皆さんは、二時間の間、この祭りを守る護衛となって、会場のはずれ、荒野地帯で警備をしてください。
 作戦決行タイミングは昼。周囲は、ごつごつした岩の転がる荒野になっています。

 もちろん、護衛時間完了後は、お花見に参加できます。
 あとは戦士団が護衛を引き継いでくれますので、のんびりとお花見をお楽しみください。

●エネミーデータ
 リンドラプトル ×???
  陸生種の亜竜(ワイバーン)です。空は飛べず、小型ですが、ある程度の無理で狩りをするタイプです。中型肉食恐竜のようなイメージです。
  鋭い爪と、素早い動きが特徴的です。特にEXAが高めで、総数以上の攻撃回数で、皆さんを翻弄してくるでしょう。
  総数は不明ですが、2~3体の群れで、皆さんの前に立ちはだかるでしょう。戦闘は一度だけではなく、何回か、ランダムで発生する可能性がありますので、長期の戦闘の用意を。
  といっても、連続で何度も戦闘するわけではありません。戦闘の合間には、休めるタイミングがあります。そのタイミングで、HPやAPなどを回復させることができます。

●お花見について
 集落でお酒や料理を用意してくれているので、手ぶらでも大丈夫です。
 が、持ち込みなどあると喜ばれるでしょう。
 お花見にうつれば、敵の襲撃に対応する必要はありませんので、お酒も飲んで大丈夫です。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • 亜竜種たちの花見酒完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
シャールカーニ・レーカ(p3p010392)
緋夜の魔竜
玖・瑞希(p3p010409)
深き森の冒険者

リプレイ

●まずはお仕事
「この覇竜領域にも、桜の木があって花が咲くのですね。
 ……いえ、別に特別不思議な話ではないのですけど。
 この厳しい土地でも逞しく生きているのだな、って」
 くす、と嬉しそうに微笑う、『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)。その手の中には、先ほど花見会場で、ひらりと散った、デザストル・チェリーブロッサム……桜の花びらがある。外のいわゆる桜よりは、随分と大きい花弁だったが、そこもなんというか、覇竜領域らしい生命力を思わせる。
「それに、桜があればお花見、というのも共通なんですね。
 ただ、外のように安全な場所、というわけでもないようですが」
 ふむ、というリースリット。その通り、安全がある程度確保されているとはいえ、そこはやっぱり、覇竜領域なのだ。
「危ナイ レンゲ 言ッテタ。
 外カラ イキモノ 来ル 難シイ」
 『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が、いつもの定位置にレンゲが居ないことを、ふと何かが欠落しているような感覚を覚える。本当は一緒の来たかったレンゲだが、覇竜領域とあっては、まだ安全が確保されていない以上、足手まといになってしまう可能性が高いし、レンゲ自身の身も危ういかもしれない。
『なんで、アタシがいけない所に浮気(おはなみ)に行くのかしら……!』
 ぶつぶつと呟くレンゲを覚えている。レンゲは不機嫌そうに、でも心配する声色を乗せて、
『いい? 無茶と寄り道はダメ! ちゃんと帰って来なさいよ!
 べ、別にアンタがいないと嫌だとかじゃないの! アンタの身体の土! それが気に入ってるだけなんだから!』
 そう言って、ぷんぷんと怒りながら送り出してくれたのを覚えている。フリークライは、頭を――レンゲの特等席を、撫でてみた。そこにレンゲはいない。何か、足りない気がした。
「フリック 気ヲ付ケル。
 ミンナモ 気ヲ付ケル」
「そうだな。私達(ドラゴニア)からみても、やっぱりこの地は危険だからな」
 『ベンデグースの赤竜』シャールカーニ・レーカ(p3p010392)が苦笑しつつ、言った。
「だから……まぁ、こんな事は釈迦に説法、という奴だけれど。どうか気を付けて、警備にあたって欲しい。
 さて、約二時間ほど、だったな。万が一のことを考えると、交代しながら休みつつ警備した方がいいだろうか?」
「そう、ですね。空を飛ぶワイバーンは、いない、とのことですが。
 それでも、ワイバーンは、強敵、です。しっかり、休む人たち、と、警備をする、人たち。
 わかれて、頑張りましょう」
 『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)が、微笑みながら言った。
「兎は、逃げるのも、引き付けるのも、得意です。
 ですから、わたくしと、何名か。それから、交代できる方……」
「引き付け役なら、ボクがやれるよ!」
 『深き森の冒険者』玖・瑞希(p3p010409)が、はいはーい、と手を振ってみせる。
「ふふ、だから、ボクとネーヴェさんは交代交代でお仕事だね。
 あとは、他の皆がなるべく役割が偏らないように交代できれば……かな?」
「そうだな。といっても、サポーターはフリークライくらいか。
 ふむ、フリークライには、治療に専念してもらうのも手だな」
 『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)がそういうのへ、フリークライが頷く。
「フリック ソレデモイイ。デモ フリック ズット動ケル。
 飲食不要。ズット警備 大丈夫」
「そうは言っても、メンテナンスは必要だろ? フリークライ」
 ルカは頭を振った。
「それに、アンタが倒れたら、治療面で少し辛いかもしれないな。
 やっぱり、隠し玉、って事で控えていてもらうか」
「ええ、わっちはそれで構いませんとも」
 『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)が頷く。
「となると、4,3,くらいで分かれることになりんすね? ちょっと3名のチームに負担がかかりんすが」
「おいおい、 おれさまを誰だと思ってる? グドルフ・ボイデル様だぜ?
 一人で二人分の働きくらいはして見せるってな」
 がはは、と豪快に笑う『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)。ルカが、ふぅん、と唸った。
「じゃあ、こうしよう。俺とグドルフ、瑞希が第一陣。残る四人が第二陣。これを……そうだな、一戦闘か、30分ごとに交代する。
 フリークライは、悪いが待機して、休憩中のメンバーの回復に努める」
「いいと、思います」
 ネーヴェがにこりと笑う。これが一番バランスがいいだろう。
「とはいうもの、だがな」
 グドルフが、顎をさすりつつ、笑う。
「考え過ぎってもんだぜ。警備なんて言うがね。どうせ、なあんにも来やしねえのさ。
 警備を雇うカネで、もっとド派手な宴会ができたってのに、勿体無ェマネしやがる。
 ま、そのおかげで突っ立ってるだけでカネは貰えるわ、オマケにタダ酒も飲めると来たもんだ。
 まったくラクな仕事だぜえ! ゲハハハッ!」
 その言葉通り、確かに敵が現れなければ、楽な仕事だ。敵が、現れなければ、だが。その時、既に索敵を開始していたリースリットが声をあげた。
「……敵です! 地上種の亜竜……三匹の群れです!」
「あぁ!?」
 グドルフが、素っ頓狂な声をあげる。
「マジか!? おめえ、笑えねえ冗談だぜ?」
 リースリットが苦笑した。
「冗談だったら、良かったのですけれど」
 おいおい、とグドルフは天を仰いだ。
「オイオイオイ!!!! マジか!
 ふざけやがって……空気読みやがれクソトカゲァ!! シッシッ!!」
 とはいうものの、リンドラプトル達も引き下がることはない。やがてその小さくも恐ろしい姿が見えるのへ、イレギュラーズ達は構える。
「じゃあ、まずはボクと、グドルフ君、ルカ君の出番だね!」
 瑞希が笑ってみせた。
「大丈夫、ボクは不滅だからね! まずは第一陣、やってみせるよ!」
「その意気だ。さて、宴会の前の軽い運動と行くか」
 ルカも不敵に笑って構えて見せる。グドルフは舌打ち一つ、武骨な斧を構える。
「クソトカゲが! おれさまの楽しみを邪魔してくれた礼はきっちり叩き込んでやるぜ!」
 かくして、三人は突撃する!
「おう、瑞希! 敵を引き付けろ! 間違っても、宴会場(おれさまの酒)に近寄らせるんじゃねぇぞ!」
「まかせてっ! 広場には絶対に、一匹も通さないよ!」
 瑞希が朱の旗を掲げ、走る。それに目をとられたラプトルたちが視線を釣られるのへ、グドルフは有無を言わさぬ斧の一撃を叩き込んだ! ごっ、と鈍い音が響き、ラプトルの脳天を叩き割る! 強烈な一撃が、ラプトルの命を刈り取った!
 仲間が倒れた驚きに、残る二匹のラプトルがぎゅい、と鳴き声をあげる――そこへ叩き込まれる、黒き大剣。巨大な刃がラプトルの首に叩き込まれ、どう、という音とともに、裁断された頭部が地に落ちる。
「酒宴に乱入しようなんて無粋はやめときな!」
 にぃ、と笑うは美丈夫。巨大な両手剣を片手で振り回し、ラプトルの命を狩る、黒き暴風。三人の戦いを皮切りに、警備任務ははじまりを告げる。

 さて、イレギュラーズの警備は、順調に進んでいた。ラプトルたちは連続で襲来したわけではないが、それでも、数度の襲撃は発生する。イレギュラーズ達は交代交代で、敵の迎撃にあたっていた。普段、戦士団は追い払うのが精いっぱいなのだろう。或いは、やはり竜の住む世界、ラプトルたちも総数が多いのかもしれない。酒宴の前の軽い運動……とは思っていたが、やはり相応に、苦労はするものだ。
「皆 大変。フリックモ 頑張ル」
 フリークライが、聖なる光を以って周囲を照らす。戦闘が進めば、必然、被弾し、傷も増えて行く。そうなれば回復手であるフリークライの出番だが、そうなればフリークライも大忙しだ。
「フリークライさん、ありがとうございます」
 リースリットが自身の傷の様子を確かめつつ、言った。直接戦闘に参加しないとはいえ、フリークライも相応に疲労しているだろう。
「タイミングを見て休んでくださいね。
 私達も、そろそろ交代しなければ……」
「リースリット 頑張ッテ。フリック 待ッテル」
 ほわほわと手を振るフリークライに、リースリットが微笑む。
「おう、交代だ交代!」
 グドルフが戻ってくるのへ、リースリットが頷いた。残る三人のメンバーと共に、再び前線へ舞い戻る。
「そろそろ二時間でありんすね」
 エマがそういうのへ、レーカが頷く。
「亜竜など、出てこないに越したことはないのだが……流石にそうはいかなかったが。
 だが、何とか時間まで役目を全うできそうだ」
「そうですね。お花見の、役に立てて、よかったです」
 にこにこと、ネーヴェが頷く。その身体には確かにダメージをおっていたが、ネーヴェが引き付け役であることにも起因する。が、その傷も、しっかりと役目を果たせた勲章であることに違いはない。
「無理は禁物でごぜーますよ。引き付け役が倒れてしまえば、わっちらも困りますので」
 エマが言うのへ、ネーヴェがゆっくりと頷く。フリークライによって治療を受けているため、倒れるほどのダメージはない。
「はい。気をつけます、ね」
 そう言ったネーヴェの耳に、ざざざ、と地をかける音が聞こえる。すでに何度か聞いた、ラプトルの足音だ。ネーヴェがこくり、と頷くのへ、仲間達も頷いた。
「これで最後になりそうですね……気を引き締めて、行きましょう」
 リースリットが声をあげる。
「さて、仕事の時間だ。同族のお楽しみを邪魔させる訳にはいかないからな。覚悟はいいか、亜竜ども」
 レーカが構える。同時、やってきたのは二体のラプトルだ。レーカの言葉に、威嚇するように鳴くラプトル。レーカはラプトルを睨みつけた。
「ネーヴェ、頼んだ!」
「はい。
 亜竜さん、亜竜さん? わたくしは……兎は、美味しく見えるのでしょう、か?
 そう簡単に……食べさせては、あげられません、けれど!」
 ネーヴェが、ぴょん、と飛び跳ねた。ラプトルたちの視線が、兎に絡みつく。うまそうな獲物に見えるのだろうか? だが、その兎は獲物ではない、狩人なのだ。
「さあ、さあ。食べられるものなら、食べてごらんなさいませ!」
 うさぎが跳ねる。うさぎが舞う。戦場を飛び回るは可憐なうさぎ。されどその兎は、狩人の猟犬。
「おっと、兎追いし……とはいきませんえ?」
 エマがその手を掲げる。その口元がさらに吊り上がり笑みを見せると、掲げた手から放たれるは、砂礫の嵐。熱砂のそれはラプトルたちの身を包み込み、執拗にその砂塵にて、強固な鱗を叩く!
「さて、とどめをお願いします」
 エマが一礼、同時、リースリット、そしてレーカが駆け抜ける!
「精霊の風剣――覇竜の地でも、衰えぬものと知りなさい!」
 リースリットが、その手に緑の風剣を現出させた。ごう、と竜巻の如き風が巻き起こり、剣が激しい風を纏う。そのまま、旋風のごとくリースリットが斬りつければ、ラプトルの硬い鱗をも切り裂いて、その肉をも切り裂いた。ぎゃ、と悲鳴を上げたラプトルがもんどりうって倒れて、そのまま意識を手放した。
「ならば、雷撃の一撃――!」
 レーカのもつ大剣に、雷が発生し、まとわりつく。全身の力を雷撃に変換して叩きつける一撃――ギガクラッシュ! 叩き落された刃が、ラプトルの身体を切り裂いた! レーカと、リースリット。風と雷のアンサンブルが二体のラプトルを一刀のもとに切り伏せる! ラプトルが悲鳴を上げて倒れ、レーカが、ふう、と息を吐きつつ、大剣を振り払った。
「よし、片付いたな」
「ネーヴェさん、お怪我はありませんか?」
 レーカの言葉に、リースリットが続く。ネーヴェは、僅かに増えた傷を抑えながら、にこりと笑った。
「はい。兎は、意外と強か、なのですよ」
「ふふ。か弱いだけでは生きては行けぬものでごぜーます」
 エマが笑った。
 その時、広場の方から数名の足音が響いてきた。振り返ってみれば、戦士団たちの姿が見える。
「いやあ、お待たせしました! おかげでリフレッシュ出来ましたよ!」
「まったくヒデェ目に合ったぜ。ウジャウジャと虫みてェに湧きやがる。
 まァ、タダ酒に免じてチャラってことにしてやるか!
 で、ひとつ聞きてえんだが……さんざん酒飲みまくったコイツラが、おれさまが飲んでる間、ロクに警備なんてできるのかい?」
 グドルフが言うのへ、隊長が苦笑する。
「ええ、弱いのを一杯二杯程度に制限してありますので。
 ……まぁ、もっと飲ませろ、とは言われましたけれどね?」
「そりゃ残念だったな。まぁ、それでも、少しでも楽しめたのは良しとしてくれ」
 ルカがそう言って笑う。
「ええ、お疲れさまでした。後はごゆるりと!」
「オ疲レ様。フリック達 コレデオ仕事 終ワリ」
「そっちは気をつけてね! 結構強かったから!」
 フリークライの言葉に、瑞希が笑いかける。
 かくして、警備の仕事は終わり、ここからは楽しいお花見の時間が始まるのだ。

●そして大きな桜の下で
『かんぱーい!!』
 声が響く。笑い声。或いは歌なども。人々の表情は皆一様に笑顔で、僅かな時間とは言え、日の下、桜の下で騒げるこの時を、心から楽しんでいるのが分かる。
 大きな、桜の木の下で。イレギュラーズ達も、既に始まっていた宴会に混ざり、腰を落ち着けていた。
「フリック 豊穣産 桜茶 持ッテキタ」
 とん、とポットを置くフリークライ。はるか遠い地のお茶の香りに、お酒を飲めない亜竜種たちも興味津々のようだ。
「これ、お茶なのかい?」
「ソウ。 豊穣 国ニアル」
「へー、良い香りだぁ」
 子供達も寄ってきて、フリークライの持ってきたお茶に興味津々のようだ。わいわいと楽しむ人々を、どこかまぶし気に、フリークライは見つめている。
「ふぅん、こいつは果実酒か? いい酒だ」
 グラスに注がれた、甘みを感じる酒を口に含みつつ、ルカが笑う。
「ああ、集落の近くでとれる木の実で作るんだ。名産って言うのかな? まぁ、他の集落じゃのめない奴だぜ?」
 口中を優しく撫でる、甘さと酸味のあるアルコール。ルカはしっかりと味わってから、飲み干した。
「美味かったよ、ありがとう。さぁ、こいつは礼だ。これはラサのウィスキーだ」
「へー! ラサってのは名前はきいたことあるよ。フリアノンとかじゃ取引してるんだっけか? 高級酒じゃねぇか!」
 目を丸くする亜竜種の男。ルカは苦笑した。
「そうかい? ま、今日は特別な日だ。空けちまってくれよ」
「助かるぜ、兄ちゃん! おい! すげぇ酒が来たぞ!!」
 手を振る男に、他の酒飲みたちが群がってくる。ルカは果実酒を口に含み、再びその甘みのある香りを楽しんだ。
「そういやレーカは、この前誕生日だったんだってな。良いタイミングじゃねえか」
 ルカが言うのへ、レーカが頷く。
「ああ、ちょうど、依頼を受けた時くらいにさ。
 それで、ようやく飲めるようになったんだが……」
 外で入手したジェラートを子供達に配りつつ、レーカが笑った。
「おいおい、そりゃ早く言えよな」
 グドルフが笑う。
「じゃあ、酒の飲み方ってのを教えてやるか! 駆けつけ三杯ってな!」
「おいおい、グドルフ。再現性東京の方じゃ、そういうのはアルハラって嫌われるらしいぞ?」
 ルカが笑うのへ、グドルフはうげぇ、と唸った。
「生きづらい世の中だなぁ。おい、レーカ! その辺で酒貰ってきな! 今日成人なんです~って言えば山ほどもらえるだろ!」
「それって、グドルフの分ももらって来いって言ってるな?」
 レーカが苦笑するのへ、グドルフは豪快に笑った。
「あたりめぇだろ! 授業料だ! ほら、さっさともらって来いよ!」
「グドルフ様、飲み過ぎは、だめですよ」
 ネーヴェが苦笑する。
「レーカ様は、お誕生日、おめでとうございます!
 ひと口サンドイッチを、持ってきました。皆さんで、いただきましょう」
 ネーヴェがバスケットから取り出したのは、小さなサンドイッチだ。ハムやチーズ等、様々な具材が一口大に包まれている。
「お誕生日おめでとうございます、レーカさん」
 リースリットも、バスケットからチーズやフルーツのタルトを取り出した。
「お酒に合うかは……分かりませんけれど。甘いものも、用意してありますよ」
「いや、酒にも甘いものは合うんだ」
 ルカがそういうのへ、リースリットは「それならばよかったです」と微笑む。
「おっと、料理でしたら、わっちもも用意してごぜーますよ」
 くく、とエマが笑った。その手に抱えているのは、新鮮な肉の塊だ。
「それ、さっきのラプトルの奴?」
 瑞希が尋ねるのへ、エマがくく、と笑う。
「ええ、ええ。無闇に狩ればいい、というものではごぜーません。
 わっちらは自然に生かされている以上、
 返せるものは返さねば。
 こうやって命は巡るのでありんす」
「うーん、おっしゃる通り……」
 瑞希が、おこげチップスを齧りながら言った。フリークライが子供達を連れて戻ってくる。
「フリック タダイマ」
「おかえりー! お、皆もおこげチップたべる?」
 瑞希がそういうのへ、ネーヴェ、そしてリースリットも続いた。
「サンドイッチも、ありますよ。良かったら、他の皆さんと、食べてください、ね?」
「これは、チーズや、外のフルーツのタルトです。良かったらどうぞ」
「わー、ありがと! イレギュラーズさん!」
 子供たちが、目を輝かせながらおこげチップやサンドイッチ、タルトに手を伸ばした。
「……たまには、こうしてみんなで食事とをとるのも、悪くござーせんね」
 エマがそういうのへ、グドルフが笑う。
「おう! こうやって飲む酒は最高だな!」
「グドルフさんは、いつ飲んでもお酒は最高なのでは?」
 リースリットが苦笑する。そのまま、桜の木を見上げた。
「……やっぱり、植物は強いですね。どんな場所でも、誇らしく咲く……」
「フーリュー、ってやつだな。酒も進む。
 ……ああ、こりゃあ美味ぇ。来て良かったぜ」
 ルカが笑うのへ、ネーヴェも頷いた。
「お酒は、少しだけ、ですけれど。
 でも、お花を眺めながら、皆で、こうして過ごすのは、本当に」
 とても、心地よく、幸せな時間だ。
 舞い散る桜の花を浮かべたグラスを傾けながら、イレギュラーズ達は戦いの疲れをいやす。
 桜の花びらも、皆をねぎらうように、優しく、優しく、咲き誇っていた。

成否

成功

MVP

フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 覇竜の地でも、桜は穏やかに。
 人々の営みを、見つめています。

PAGETOPPAGEBOTTOM