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シナリオ詳細

沃野の餓狼

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●餓えた狼
 更に西へ行けば、そこはやがて幻想――レガドイルシオン王国と呼ばれる。
 国境線にほど近く、肥沃な土地を占めるその場所にて、領主が軍備を増強しているという噂があった。
 リョウヤ達はその情報を確かめ、それが事実だと知った時、彼の領主を――シルヴェストル=ベルジュラックを暗殺せんと決めた。
 肥沃なる土地の下、正義を突き崩さんと言う傲慢さには、対処しなくてはならない。

 時間を探り、シルヴェストルが聖騎士達を連れて領地の中の森林で埋伏策の訓練を施している日。
 その時に本の数分ほど、シルヴェストルが1人になる時があった。
 だから――あとは簡単だった。

 ――いや、簡単なはずだった。

「お待ちしておりましたよ」
「ば、化け物め!? なぜ死なない!」
 思わず、リョウヤは叫んだ。
 視線の先、シルヴェストルの横腹には1本のナイフが突き立っている。
「さて、何故でしょうか」
 柔らかい声がした。あるいは嘲笑うような声が。
「良い顔をしますね。なるほど、確かに普通なら今の一突きで殺せたのでしょう」
 驚くリョウヤの顔に、如何にも愉しそうにシルヴェストルは言う。
「きっ――さまッ!? まさか……!」
「さて、君を殺すのは簡単ではありますが……」
 突き立つナイフを事も無げに引き抜き、そのままこちらに向かって歩いてくる。
 思わず一歩後ずさったその刹那、まばたきのうちに敵の姿が懐にあった。
「っ――!」
 直後、先程までシルヴェストルに刺さっていたナイフが、リョウヤの腹部に突き立っている。
(……ば、化け物が!)
 腹部を抑え、思わずそちらを見れば、シルヴェストルが己の剣を抜いたところだった。
「……貴様、悪魔め」
「否定はしませんが」
 腰――あるいは先程までリョウヤのナイフが刺さっていた場所に手を当て、シルヴェストルが肩を竦めた。
 そうして顔を上げたシルヴェストルが誇らしげに頬を綻ばせた。
「流石は私の部下ですね。封魔忍軍の捕縛が出来るなんて」
 思わず顔をそちらへ向ければ、陽動をしてくれるはずだった仲間達が捕縛されていた。
「――――くそ、くそっ……!」
 睨む。睨む。
 それは自らへの怒り。あるいは、自らを否定されたことへの怒り。
「そんなに、私が憎いのですか? けれど、君達は君達でどうにも傲慢だと思いますが。
 旧価値観から脱却できず、更生不能であれば暗殺する? その考え方そのものが、脱却できてない証拠でしょうに」
 見下すように笑って剣を構えた騎士へ、リョウヤは睨んだ。

●深刻なる人材不足
「ある人達を助けに行ってくださりませんか?」
 開口一番、アナイスから資料が手渡される。
「天義――聖教国ネメシスが例の『冥刻のエクリプス』事件での反省から、意識改革が行なわれていることは御存知かと思います。
 あらゆる不正義を『断罪』のみをもってして是としてきた国体を、『更生と社会復帰』を念頭に置いた国体へと変えようとしているという話です」
 そこまでが前提だと、彼女はそう言って。
「ですが、これもまた当然ではあるのですが、それを許さない者と言うのもいるようです。
 もちろん、そう言った人の方が遥かに少数なのですが。
 彼らを仮に保守強硬派としますが、この保守強硬派を解体しようという向きがあるようなのです」
 言いながら、アナイスは別の資料を取り出した。
「――で、そのために動いている戦力が、こちらの資料の封魔忍軍という人達です。
 この人達は暗殺を始めとするグレーな案件を行なっているのですが、その仕事柄、正直人気がないそうでして。
 元々、暗殺、諜報、裏工作は人気が出るものではありませんが、こと天義であればその向きは増すのも当然ですね」
「それじゃあ、私達の今回の依頼は……」
「はい、人手不足の封魔忍軍の人達に協力ください。
 今回、彼らが暗殺を試みるのは……『沃野の餓狼』の異名をとる聖騎士です。
 幻想との国境線に小さながら肥沃な所領を持ち、それ故に精強な聖騎士を私兵としているそうです。
 その上、当代の当主シルヴェストルは野心家であるらしく、政府転覆を試み準備をしている――という噂があるそうで」
「その人の暗殺が任務……?」
「ええ、そうでなくともその証拠の一部でも手に入ればそれでいい――と」
「……分かった」
 頷き、示された場所へ向かったイレギュラーズは、窮地に陥った封魔忍軍と出会うことになる。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。
 封魔忍軍を助けに参りましょう。

●オーダー
【1】封魔忍軍の救出する。
【2】『沃野の餓狼』シルヴェストル=ベルジュラックとの交戦。

●フィールドデータ
 ベルジュラック領に広がる森。
 自らが私兵の如き聖騎士達を調練する場所らしく、敷地は広大です。
 主要な戦場は広間のようになっていますが、森と言う環境上、遮蔽物は多く、身を隠すには容易です。
 その一方で射線が通りにくい場合もあります。

●エネミーデータ
・『沃野の餓狼』シルヴェストル=ベルジュラック
 どことなく飢えた狼を思わせる穏やかな騎士です。
 性格は穏やかであり、一見すると二つ名から受ける印象とは異なりますが、
 戦いでは餓狼の異名に違わぬ実力を発揮するでしょう。
 個人の力量もですが、真価は将としての指揮能力にあります。

 野心家ではあるのでしょうが、実際に謀反の予定があるかは疑わしい――かもしれません。

 また、戦場はシルヴェストルの庭のような物。
 封魔忍軍を救い、ある程度の情報を得た後は生存を優先することをおすすめします。

・聖騎士×8
 シルヴェストル配下の私兵と化している聖騎士です。
 国境線付近にいる騎士なだけあり、戦闘経験豊富な熟練の武人ばかりです。


●NPCデータ
・封魔忍軍×6
 リョウヤをリーダーとする封魔忍軍。
 潜入、暗殺に長けた非戦スキルを多く所持しています。

 奇襲からの暗殺であれば、本来ならば成功したでしょうが、どうにも察知されていた様子。
 正面から追い詰められてはピンチと言うほかありません。
 皆さんの到着に伴い、皆さんは情報を共有してもらえます。

●その他状況
 リプレイ開始時の皆さんはオープニング1章の直後に現場に到着し、直後に戦闘に入ります。
 あまりに時間を要する事前行動は難しいと思われます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 沃野の餓狼完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月30日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
すずな(p3p005307)
信ず刄
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼

リプレイ


 目的地に入ってすぐ、喧騒を頼りに森を突っ切ったイレギュラーズは、直ぐにその場所を見た。
 開けた場所には穏やかな日差しがかかり、涼しい風が穏やかに身を包む。
「楽しそうだねェ、おれさまも混ぜろよ」
 その言葉が言い終わる前に、『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は既に飛び掛かっている。
 封魔忍軍と目標となるいけ好かない男との間に割り込みながら斧を振り下ろす。
 合わせるように動いた男の剣と暫しの拮抗、一瞬斧を戻し――死角から蹴り飛ばす。
「……ローレット、ようやく来られましたか」
 笑いながら立て直した男の声は余裕ありげな一方でどこか――そう、どこか安堵しているようにも見えた。
「ったく、ヘマしやがって。足手まといなんだよてめえらは! おら、さっさと行きな!」
 そんな騎士には目もくれず、グドルフはへたりこんでいる男へそう指示を与えつつその意識は油断なくシルヴェストルへ注いでいる。
「いやあ、しかし、い~い場所だねェ。てめえが死んだらおれさまの土地(ナワバリ)にするのも悪かねえ!」
 山賊らしく、強奪の意思を示した刹那、男の表情が敵意に燃えた。
「悪いが、それだけは困るな」
 そう言った男の瞳には、それこそけだものの如き胡乱な光がある。
「この戦場は天義聖騎士、サクラ・ロウライトが預かります!」
 続くように跳び込んできた『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)の姿をみとめたシルヴェストルが、驚いた様子を見せた。
「まずロウライト家の非礼は侘びましょう。裁きが必要ならば後日ふさわしい場所にも出頭させましょう」
「お気になさらず。ロウライトのご令嬢。私が疑いを受けるような真似をしていることは事実ですからね」
 そういう騎士は、剣を納めるでもなくこちらの様子を窺うように見えた。
「今ひとつご確認を。貴方には尋常ならざる力があるそうですね」
「さて――どうでしょう」
 ほんのりと笑みをこぼしたシルヴェストルはイレギュラーズと相対しているのに自然体だ。
「……単刀直入にお聞きします。シルヴェストル=ベルジュラック、貴方は魔種ですか」
「――さて。どうでしょう」
 そういう男からは、原罪の呼び声は聞こえてこない。
 それを考えれば、魔種ではない――のかもしれないが。
 微弱すぎる呼び声の場合や、極々希な例では原罪の呼び声を発さない魔種もいるという。
 まだ判断するには尚早か。
 イレギュラーズの介入に気づいた騎士のうち、3人がシルヴェストルの援護に向かおうと動き、そこに割り込む影があった。
「二つ名持ちの領主殿もとても、とても気になるのですが、お相手頂きましょう……!」
 1人と向き合い、先手とばかりに『忠犬』すずな(p3p005307)の太刀が走る。
 無数の太刀筋の1つ、それは触れれば最後、恐ろしいほど致命的な太刀筋。
 青白い光を湛えた刀身は美しく輝き、騎士の関節を斬りつける。
「……仕方あるまい、お相手致す」
 名の知らぬ騎士はすずなを警戒したように剣を振るう。
「とりあえず、忍びの人達を助けたら撤退かなぁ。
 ここでシルヴェストルと聖騎士全員を倒すのは無理そうだしね」
 先を行く面々が介入に成功したのを見届けつつ、『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)もその指先に光を宿す。
(さっきははぐらかされたみたいだけど、なんかシルヴェストルは魔種っぽい気もする。
……そうすると戦力的に倒すのが厳しい)
 それはここに集うイレギュラーズがほんのりとはいえ抱いていることだ。
 すずなが止めた1人以外、2人の騎士が直線状に並ぶ場所へ移動して放った光の紐が鋭く走り、傭兵の手足を縛り付ける。
 締め上げられた聖騎士の身体を、紐が内に秘めていた呪いが侵蝕していく。
 拘束は呪術となり、2人の聖騎士の身動きを封じ込めた。
「人手不足なのは大変そうだけれどこの手の仕事に人気がないのはまあいいことでしょう、きっとね」
 仕込み杖をそのままに、『盲御前』白薊 小夜(p3p006668)は緩やかに微笑みながら前に出る。
 ただ佇むだけ。隙だらけな姿に、聖騎士達が警戒したように小夜の方へ剣を構えた。
(相手は訓練を受け、戦闘経験もある騎士、体勢が整ったらそのまま撤退して欲しいけれど)
 無計画に突っ込まれれば、ただ斬ればいい。
 そうならずに済んでいるのはまだ警戒しているからだろう。
「――総員、剣を取り己の役目を果たしましょう。負けるわけにはいかない」
 グドルフがクローンボイスで声をかけるより前、そう声を上げたシルヴェストルの指示が聖騎士達を奮い立たせた。
 イレギュラーズであればクェーサーアナライズに相当するような、強制力を伴う号令か。
 介入後も捕縛されている封魔忍軍の下を離れない2人の騎士と封魔忍軍の間に割り込んだのは『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)だ。
 警戒を露わに剣を構える聖騎士の眼前、セラフィムの出力を上げた。
「強そうな相手のように見えるけど私の守りを突破できるかな?」
 紛いなりにも聖職者のスティアが神の奇跡にも見える魔術を行使したからか、あるいは純粋な警戒からか。
 ふわりと溢れる天使の羽根に、聖騎士達が僅かに後ずさる。
 やがて舞い散る羽根は花弁のような姿を取り、スティアの周囲にいる封魔忍軍へと降り注ぐ。
 周囲を埋めるほどの温かな花弁がその傷を、疲労感を癒していく。
「幻想側国境付近、即ち中央の統制が効きにくい遠方の領主が軍備増強を行っている……と。
 それは、確かに不穏な話です。個人的にも、位置的に他人事では済ませられない」
 幻想天義間の国境となれば、『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)にとっては正しく故郷のある地域だ。
 立地上、完全に隣り合わせではないようだが、もしも天義と幻想の戦などあれば確実に戦う相手でもある。
 国力を考えれば、ファーレルはまず負けない――それでも他人ごとでは済ませられそうにない。
 緋炎が鮮やかな紫電を抱いた辺りで振り下ろせば、鞭のようにしなった光が眩く走る。
「この国は、いつまで揉め事を抱えたままなのでしょうね」
 溜め息を一つ。『永訣を奏で』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)とて同じ聖職者として、信仰への想いはある。
(本来信仰とは尊きもの。他者を認め、赦し、ともに歩むもの。
 ……なのに。排他的な思考が、道を曇らせた。
 天義という国にかかった雲は、いつ晴れるのか)
 後退してきたリョウヤを呼び止め、ちりんと静かに鐘を鳴らす。
 天使による抱擁の如き温かく優しい光が、傷を受けて腹部を抑える青年の傷を癒していく。


「もっと苦戦すると思ったんだけど手加減してくれているのかな? 全力できて貰っても大丈夫だよ」
 振り抜かれた太刀筋は、スティアが展開する聖域を侵すには至らない。
 堅牢な守りは2人の聖騎士では削り切るにはまだ足らない。
「……では、本気で行かせてもらおう」
 片方が言えば、剣身に魔力が籠る。目のくらむ眩さを湛え、振り抜かれた剣が脅威の火力をもたらす――がそれでもスティアを削るには足らない。
 もう片方が冷気を湛えた剣を振り下ろせど、こちらもスティアの高潔なる精神性をもってすればまるで意味を為さず。
「その程度じゃ私の守りは崩せないよ!」
 刹那、セラフィムが出力を増した。
 天使の羽根が吹雪のように乱れ舞い2人の身体へと叩きつけられる。
 羽の魔力は、2人の注意を引きつけ続ける。
「聖騎士シルヴェストル=ベルジュラック卿……『沃野の餓狼』の武名の程は兎も角として。
 彼が保守強硬派であるのなら、密かに兵を集めるのにベルジュラック領は確かに適した場所ではありますが……」
 半ば思考するリースリットは、封魔忍軍へ情報の提供を求めていた。
 少なくとも、軍備の増強が事実である以上、そうとられてもおかしくはない。
(その目的は……保守強硬派としてであれば、兵を挙げる為?
 或いは混乱を引き起こす為――例えば幻想国内の協力者と呼応して国境を騒がせ中央の眼を引き付ける、とか……?)
「彼は本当に野心を抱いていたのでしょうか。政府転覆を狙っているとするならば、その根拠はどこにあるのでしょうか」
 リースリットの言葉も受けたクラリーチェの問いかけに、封魔忍軍たちは暫しの間口を噤み、頷きあう。
「間違いない。あいつは先代を1年ほど前に追放して家督を継承したんだ。
 そんでやり始めたのは軍備の増強。お国が大変な時にだ!
 大体、あいつらは先代からずっと保守強硬派なのさ。それだけで十分じゃないか!」
「それでは軍備増強の証拠はあっても謀反の証拠にはなりえない。
 暗殺を仕掛けて失敗した上、実は潔白でした、では誰になんと言い訳するおつもりなのでしょう。
 まさか、先代の当主の追放を理由に、当主を追放するぐらいですから、国にだって牙を剥くと?」
 クラリーチェは淡々としたものだ。
 あくまで穏やかに心掛けながら、少々強引すぎる理由を冷静に詰める。
「ちっ、碌なもん持ってねェな」
 肉薄の刹那に収奪を試みたグドルフだったが、その成果は芳しくない。
 もしも謀反を起こす証拠があれば、気付かれない場所にそれとなく隠すか、或いは肌身離さず持っているかと思ったが。
 少なくとも肌身離さず――というわけではないらしい。
「今のあの国がどうなろうが、おれさまの知ったこっちゃねえがな……てめえみてえなカスが、偉そうにふんぞり返るのは気に食わねェ!」
「奇遇ですね。この国がどうなろうが知った事じゃありませんが、貴方のような手合いに奪われるのだけはごめんですよ!」
 激しく削り合いながら、ほんの一瞬に遠慮なく蹴り飛ばし、ぶん殴って攻めていくグドルフに合わせるように、シルヴェストルが食らいついてくる。。
「油断ならない相手ではあるけど……強力な怪物や魔種、果ては冠位や竜まで相手にしてきた。私達とは実戦経験の質が違う!」
 姿を消した――そう錯覚するほどの自身が出せる最速を叩きだしたサクラが振り抜いたのは神速の一太刀。
 それは天空の竜――生態系の頂点をも捉えんとする人の到達点。
 壮絶なる武技に、騎士が合わせんとする。その太刀筋を読み、軌道の変えた居合太刀が首を狙って走る。
「いざ尋常に――と行かないのが大変心苦しいですが。
 手負いの貴方から倒させていただきます」
 すずなが見据えたのはまだ戦い続けている1人。
 数多の斬撃を交わした果て、振り払った栄光への太刀筋。
 美しい軌跡は水をも断つ銀色の閃光。
「――お見事」
 眼を見開いた騎士の鎧が裂け、鮮血が走った。
「……ありがとうございます」
 ひとまず勝負への礼を述べて、顔を上げて次をみた。
 そこへ振り抜かれた剣に太刀を合わせる――その刹那を影が遮った。
 すずなの視界、ふわりと舞ったのは黒。
 返るは斬撃。思わぬ斬傷を受けた聖騎士が、半歩後ずさる。
「さ、小夜さん!?」
「貴女にはあまり傷ついてほしくないもの。倒せたのなら少しだけ共闘しましょう?」
 まだ危険という水準ではないことは声からも分かるけれど――それでも。
 時期に、仲間の治癒魔術が2人の傷を癒すはず。それまでのわずかの間になろうとも。
 残心の後、そこに立つ聖騎士の気配を知覚すれば、ただ佇む小夜の姿を騎士は無視できない。
 ――そして、その2人でやれば遠からず倒せよう。
「……分かりました。でも、無理はしないでくださいね!」
 すずなの言葉に小夜は小さく笑っている。
「傷は治ったし、縄も……はい、これでよし」
 Я・E・Dは捕らえられていた封魔忍軍へ近づくと、彼らを縛っていた縄を解いて解放する。
(うーん、わたしとしては封魔忍軍と一緒に戦った方が良いと思うけど……
 皆の方針としては、聖騎士の注意が引けてさえいれば退却させる方が良いっていう話だよね。
 ここで矛盾してる方が拙いのはたしかだよね)
 考えつつ、Я・E・Dはマスケット銃の幻影を生み出していく。
 装填するは魔弾。破壊力を極限にまで高めた貫通弾。
 それを2度に渡って叩きこめば、聖騎士の鎧を破砕した魔弾がその身体を焼きはらう。


「……なるほど、これがローレット、でしたか」
 血を吐いたシルヴェストルが片膝をついた。
「投降しましょう、総員、剣を降ろすのです」
 そのまま、シルヴェストルが生き残った数人の聖騎士へ告げれば、彼らもまた、緩やかに構えを解いて剣を地面へ置いた。
「……もう一度聞かせてください。貴方は、魔種ですか?」
「こいつはちげぇよ。『弱すぎる』」
 サクラの問いかけに答えたのはシルヴェストルではなくグドルフだ。
 鳩尾へと叩き込んだ拳を開いて斧を肩に担げば、地声に声を戻し。
「けどまぁ、俺様に及ばねェが一般人よりはやる。
 ……あれだな、狂気に侵されてたやつらを相手にしてた感じだ」
「じゃあ、彼を狂気に侵した相手が……魔種がいるってのは確実なんだね」
 Я・E・Dがつなげれば、視界の端でシルヴェストルが鳩尾に手を当てていた。
 淡い光が放たれ、傷が癒えていく。
(……あれは、魔術?)
 温かな光は、恐らくは治癒魔術の類のように見える。
「これならば、貴方達に賭けるのもありかもしれませんね」
 少しだけ傷を癒したシルヴェストルが、口元を拭ってふらふらと立ち上がる。
「……賭ける、というのは?」
 リースリットの問いに、シルヴェストルが鈍く笑った。
「私はね、保守強硬派にも、革新派にもつきたくないのですよ」
 つきかけた体力で立ったまま、薄っすらと笑って――倒れた。
「……気絶しましたか」
 警戒しつつも近寄ってみれば、意識は無さそうだった。
 魔種ではないというのなら、よくもった方といえた。
「はぁ……疲れたわ」
 がさりと音がして、草陰の向こうから1人の少女が姿を見せる。
 振り返ったすずなは、少女を見てそちらへ歩いていく。
「はじめちゃんもありがとうございます」
「くそワンコ! あんたね、いきなり――はぁ、まぁ、いいわ。わたしも疲れたし」
 溜息を吐いたはじめを見れば、その身体は傷を受けている。
 一応の保険として掛けておいた通り、伏兵はいたらしい。
「おふたりとも、はじめちゃんにもお願いします!」
 すずながいうよりも前に、クラリーチェとスティアの術式が少女を包み込んでいた。
「すずなもサクラさんも無事みたいで何よりね」
 小夜はサクラやすずながやり取りする様子を耳に入れながら、微笑を浮かべた。
「倒してこそないけれど、投降したのなら撃破で良いでしょう。
 そろそろ帰りましょうか。聖騎士も彼の治療をしたいでしょうから」
 小夜の言葉に否を唱える者はない。
 騎士たちが無言で見送る中を、イレギュラーズは後退していく。

成否

成功

MVP

白薊 小夜(p3p006668)
永夜

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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