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シナリオ詳細

夜もすがら 物思ふころは 明けやらで

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 雪が解け、山菜が若芽を伸ばす。春告げ鳥の鳴き声と春一番が吹いたなら、すっかり日中の寒さはどこかへ行ってしまった。
 とはいえ朝晩は冷えるもので、日が昇るより前に動き出した者たちは手を擦り合わせ、息を吹きかける。そうして曙を迎える頃、注がれる温かな陽光にようやくホッと表情を緩めるのだった。
 しかし、村の中にはそんな日差しにさえも微笑むことのできない少女がいた。齢は17,18ほどだろうか。
「カヨ、まだ眠れないのかい」
「……母さん」
 母を見上げるカヨには濃い隈が浮かんでいるも、その首はゆるゆると横に振られる。母はそう、と呟いて彼女の頭を撫でた。
 山菜を摂りにいく途中で異形にあったカヨは、共にいた従姉妹を拐われてしまった。そして次は自分なのだという強迫観念に囚われ、一睡もできない数日間を送っている。
 最初こそ馬鹿なことをと一蹴していた親であったが、眠りもできず食事も通らない娘の様子に、今ではそう軽く考えることもできない。従姉妹は見つかっていないが、言葉の通じない異形に拐われたとなれば、無駄な希望は抱かない方が良いと思われた。
「父さんがまじない師を呼んでくれるそうだよ。それと、神使の方もね」
「神使……?」
「本当に来るなら、奪わせるわけにはいかないよ。私たちの可愛い子」
 異形がカヨを拐うというならば、出来る限りの手段で対抗するしかない。子供は何ものにも代え難い宝なのだから。

 ――こうして村から高天京へ、イレギュラーズへ向けて。1通の依頼が舞い込んだ。



「やあ、お揃いかな」
「……あー。ええと、夢売り?」
 『Blue Rose』シャルル(p3n000032)が記憶を掘り返しながら名を呼べば、夢売りは正解、と微笑んでみせる。
 どこか眠たげな眼をした少年は『夢売り』『夢買い』などという通り名で呼ばれている。本名は誰も知らないし、ではどちらの呼び名が良いのかと言えばどちらでも良いそうで。人々は己が呼びやすいままに呼んでいた。
「今回は夢をご所望されてね。とはいえ、なかなか難しそうだけれど」
「へえ。……夢売りのアンタが難しい依頼か」
 だからこそイレギュラーズも呼ばれたのだろう、とシャルルは察する。これまでも彼の手に負えない依頼はイレギュラーズの手を借りていた。此度の依頼もその口なのだろう。
「過大評価されているようだけれど、ここじゃあただの怪しげなまじない師だよ。だから信頼できる神使も呼んだのかも」
 そう告げる夢売りは、しかしその名が広がり始める程には長く、そして広く活動をしていたようだ。新天地では噂の広がりやすい市井で、買い求めやすくほんの少しのそれを。さる貴人が噂を聞きつけて呼びつけたならば、値段相応のそれをと、自身の名を広めてきたのだろう。
 故に、そんなことはない――と言いたいところでもあるが、京の外である以上は何かしらの偏った考え方もあるかもしれない。
「ま、何はともあれお互い依頼を受けたことに変わりはないからね。頑張ろうじゃないか」
 夢売りへシャルルは頷き、準備は良いだろうかとイレギュラーズたちへ視線を送る。一同はしかと頷き返した。
 依頼としてはモンスター討伐であるが、そのモンスターというのが奇妙なものらしい。なんでもキメラのような女で、人攫い――しかも娘ばかり――をしているのだそうだ。前回は村長の姪が攫われ、今度は娘が攫われようとしているのだという。既に攫われた娘の消息は知れず、狙われている方の娘は怯えて一睡もできない日々を送っているのだそうだ。
 よくよく情報を集めてみたところ、そのモンスターは近隣の集落でも目撃されており、やはり娘を攫っていたらしい。ここまで音沙汰がなかったのは神使や夢売りのような存在を雇う金銭がなかったからである。耐え忍ぶ冬の季節であり、そう簡単に大きな金銭を動かせない時だったことも災いした。
 だが、イレギュラーズが来た以上ここまでだ。モンスターの凶行に終止符を打たなくては。

GMコメント

●成功条件
 エネミーの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●フィールド
 豊穣のとある集落。田畑などが広がった広大な地で、見晴らしは良いです。
 そこまで家も密集していないため、村人を巻き込む可能性は低いです(ゼロとは言えません)。
 うっかり田畑に突っ込むと足を取られる可能性はあります。

●エネミー
・『宵闇鴉』トバリ
 カラスのような翼と、無数の四肢に刃がついた女です。射干玉のような長い髪が特徴です。その顔立ちは整っているものの、顔には血の涙を流したような模様が入っています。時折何かを呟いているようですが、よく聞こえません。
 呪力的な攻撃の他、四肢についた刃で戦うこともあるようです。とはいえ、主力となるのは呪力の類であり、刃に触れた者は様子がおかしかったという証言があります。但し、触れた者は攫われてしまっているため、詳しい事は不明です。
 EXAが高く、【飛行】を持っているため空へ逃げられないように注意が必要でしょう。単体・範囲攻撃ともにそつなくこなします。
 トバリの目的は村長の娘です。しかし弱そうで手頃な娘がいれば矛先を変える可能性はあります。そこまで知性が高い訳では無さそうなので、なんらかの工夫をすれば騙されるかもしれません。

●NPC
・『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
 ウォーカーの少女。元の世界では精霊でした。カヨの事を気にしている様子です。
 神秘系アタッカーとして皆様と戦います。指示があれば従います。

・夢売り
 眠たげな目をした少年。夢売りとも夢買いとも呼ばれており、どちらでも良いようです。
 夢を商売道具にしています。これまで見たことのある夢は全て覚えているらしいです。
 相手から拒絶されず、自らにその意思がある時、人を夢へ誘うことや、その夢を抜き取ることができます。自身が夢を見ることはできませんが、誰かの夢に入り込むことは可能であるようです。
 今回は眠れないという娘のために来ていますが、元凶を発たなければ彼女は眠ることが出来ないだろうと判断しています。戦闘時は娘の傍についています。

・娘『カヨ』
 村長の娘。働き者で利発な少女でしたが、今は一睡もできずに憔悴しきっています。
 基本的に家の自室にこもっています。

●ご挨拶
 愁と申します。
 夢売りを出すのが約1年ぶりでした。彼の仕事のためにも、元凶たるモンスターを倒しましょう。
 それでは、よろしくお願い致します。

  • 夜もすがら 物思ふころは 明けやらで完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月30日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
温もりと約束
嘉六(p3p010174)
のんべんだらり
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼
ジン(p3p010382)
香 月華(p3p010546)
月華美人

リプレイ


 大陸よりはるか東、豊穣の空気と春の香りを『月華美人』香 月華(p3p010546)は胸いっぱいに吸い込む。外の世界、イレギュラーズとしての仕事、それらの一歩はここから始まるのだ。
(けれど、浮かれてばかりはいられません)
 期待も高揚もするけれど、依頼の先には心身の弱った者がいる。治すために最大限の努力をするのは、医の名門『香』家に連なる者として当然のことでもあるのだ。それは真剣に、真摯に取り組まねば。
「しかし、人攫いねぇ」
 依頼主の家へ向かう道すがら、『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)は首を傾げた。どうにもきな臭い。
 ただ女を捕食するだけならば、その場で食べてしまえば逃げられる心配もない。住処へ持ち帰らないと気が済まないのか、それとも何かしらの目的を持っているのか。
(それに女の一部を持つモンスター……か。そいつの生まれた経緯にも関係があるのか?)
 理由を考え始めたシオンは小さなため息とともに首を振る。今はどこまで行っても推測の域を出ないし、いずれにせよ今回のモンスターは倒してしまうのだ。考えるのはそれからでも良いだろう。
「目の前で人攫いを見ちまうたぁ衝撃だっただろうな。眠れなくもなるもんさ」
「何の罪もないのにな」
 『のんべんだらり』嘉六(p3p010174)に頷いたシオンは周囲の家屋より一回り大きなそれへ視線を向ける。依頼主の家はあそこだろう。
「2人はカヨちゃんの側にしてやってくれるか? 不測が起こっちゃいけねえ」
「わかった」
 頷く『Blue Rose』シャルル(p3n000032)。夢売りも元よりそのつもりだと胸を叩く。そんな彼らへ嘉六はファミリアーを預けることにした。
「何かあれば駆けつける。とはいえ、そうならねえのが一番だけどな」
「ま、その時はボクの頑張りどころだよ」
 肩をすくめる彼に片目を瞑ってみせるシャルル。そんなやりとりのうちに一同は家の中へと案内された。
「娘のカヨは寝られないと憔悴しきっておりまして……」
「娘に一声かけても?」
 ジン(p3p010382)の言葉に長はカヨを呼びに行く。気の利いた言葉をかけられる自信はないが、何もしないよりは良いだろう。
 暫しして姿を見せた少女は酷くやつれ、怯えているようだった。月華は甘やかな香りを出しながら「大丈夫ですよ」と優しく声をかける。
「カヨ様を脅かす者は私たちが絶対倒してみせます。吉報をお待ちください」
「本当ですか……?」
「はい」
 抱きしめた体は随分と細い。その身が、心が少しでも安らぐようにと月華は優しく撫でた。
 カヨの元にシャルルと夢売りを残し、一同は外へ出る。まずはどこから現れるか手がかりを見つけなければ。
「……では、どこから訪れているのかわからないのですね」
「そうだなぁ」
 畑を耕す壮年の男は首を捻る。広い一帯を縄張りとしているようで、その帰る先ははっきりしないのだそうだ。
(共にいた方を攫われ、消息も不明……できることなら、攫われた方も見つけたいものですが)
 『粛々たる狙撃』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は小さく唸る。攫われた者の他にも、既に亡くなってしまっている人がいるはずだ。住処がわかれば彼らの遺品も見つかるかもしれないのだが、いかんせん手がかりがない。せめて元凶を駆除し、安心させてやりたいものだ。
「何か手がかりは掴めたか?」
 その声に振り返ったジョシュアは一瞬ぽかんとした。声をかけてきたのは村娘……ではなく、村娘に扮装したシオン。依頼人の家で着替えてきたようだが、あまりにも似合いすぎて本当に村娘に見えてしまったほどだ。
「向かう場所は決まっていないようです」
「なら、村長の家周辺で囮をしたほうが良さそうか……」
 一応自身の足でも証言を集めたいところだが、これだけ見晴らしの良い場所だ。あちらに行った、こちらに行ったと目撃証言がとっ散らかってしまえば、有力な証言がないも同然だろう。
(この辺りならだ戦いやすそうだ)
 『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)の足が地面を踏みしめる。村長宅の前は少し広くなっていて、先に村人へ通達しておけば巻き込む心配もない。最悪、囮に気づいたとしてもすぐカバーに回れるだろう。
「コフッ」
「だ、大丈夫ですか!?」
「いえ、別人になるというのは初めてで、気分が高揚してしまって」
 口元を拭う村娘。別人、と慧が目を瞬かせていると相手は片目を閉じてみせる。
「その様子ですと、わたくしの偽装はうまくいっているようですね?」
「……あ、月華さん?」
 アノニマスでどこにでもいそうな人物に見えていたから、その口調と作戦を知っていなければ慧も騙されるところだった。敵を騙すにはまず味方から、とはよく言ったものである。
 植物にも話を聞いてきます、と歩き始める慧の頭上を小鳥が飛んでいく。『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)はそれを見届けてから、村へ視線を向けた。
(豊醸というところは、度々人攫いが発生するような……)
 こんなに長閑な場所だというのに、人々を脅かすものが跋扈している。西の大陸も同じなのだろうか。それにしては話を聞くのが豊穣ばかり、と思うのは希紗良だけだろうか。
 誰もが安心して暮らせる世の中にはまだ遠く、されどその一助になればと希紗良は刀を取る。そろそろ情報収集を切り上げて、トバリの襲撃待つとしよう。
「カヨ殿は勿論、攫われた娘御達も不安に苛まれているでありましょうな」
「ああ。悩み事があって眠れねえのは辛いだろう」
 『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)も希紗良も同じように隠れ、ファミリアー越しに囮たちの様子を伺う。
(異形が何を考えてるのかよく分からねえが、さっさと叩き斬ってやらねえとな)
 悩みの種さえなくなれば、ぐっすりと眠ることができるはずだ。夢中になれるものがあって寝不足になるなら話は別だが、カヨに関してはただただ不憫である。
 さて、果たしてか弱い村娘の姿をした仲間たちに引っ掛かるかは定かでない。しかしそれを待つように仲間たちは準備を進める。
 ジョシュアは物陰を見つけ、微塵も動くことなく気配を殺す。視線は空へ、どんな小鳥だってすぐに見つけられるだろう視力でトバリの姿を探した。

 それから――暫し。


 シオンは怯えながらも周囲を窺っていた。何の力もない少女のように、せめて警戒することが精一杯の対抗手段だというように。
(スラムにいた時に比べればなんてことない)
 弱者を装うこともあれば、他にも色々としてきた。ただ弱いふりをするならば慣れたものである。
 空を横切り地上に影が落ちる。それがどことなく鳥でないものに見えたとしても気にしない。それが旋回したあと、シオンと月華に向かって勢いよく迫って――。

「――なんてな!」

 シオンに押される形で月華もその急襲を避ける。すかさず駆け出した嘉六は砂塵を巻き上げ、かの死角から狐火を灯した。
「鴉の女よ、若い娘とばかりじゃあ寂しいぜ? 俺とも遊んでくれよ」
 トバリは擬態の解けたシオンと月華に謀られたと気付いたようだが、その首目掛けて飛び出してきたジンと希紗良も得物を抜いた。
「トバリよ、娘御たちへの狼藉も今日が終いでありますよ!」
 勢いよく肉薄した希紗良の得物が首元へ迫る。同時に急所を穿つようなジンの太刀筋が逃げる余裕をも削り落とす。その斬撃に合わせ、シオンは翼へ向けて手数で攻め立てた。
「速度がだせなきゃ飛び立つこともできねえからな!」
「ええ。風穴を開けて差し上げます」
 後方からジョシュアの凶弾が一直線に飛んでいく。異形の散らした朱が地面を染めた。
「この先に易々通すなんてさせるかよ」
 俺が相手だと獅門が声を上げ、敵の視線を誘導した。その間にするりと入り込んだ月華はトバリの前へ立ちはだかり、獅門の元へ行かせまいと両手を広げる。
「倒れません。絶対に」
「早々に余計な悪夢には退いてもらいましょう。春は微睡むのも気持ちいい季節なんすから」
 こうして季節が過ぎてしまうのはもったいない、と言いながら慧は月華へ聖骸闘衣を降ろす。カヨにも、被害者にも、トバリにだって――眠ってもらおうじゃないか。
 ぶつぶつと絶えず何かを呟くトバリから黒い縄のようなものが伸ばされる。獅門と月華をまとめて上から射抜かんと振り下ろされたそれと、髪で表情のわからない女の部分を見ながらジンは目をすがめた。
(面妖な姿ながら、人に似た部分もあるか)
 とはいえ、そのほとんどは人外というべき姿。人に害なすものならば、それはただのモンスターであり躊躇は不要だとジンは切先を向ける。
 トバリは交代して月華の呪縛から逃れるなり獅門へと回り込み、攻撃しては再び月華に立ちはだかられている。その動きを見ながらジョシュアはチラリと視線を家屋へ向けた。
(まだ被害はありませんが……)
 村ということもあり、民家が密集しているわけでもない。しかし村長の家に敵が突っ込もうものなら大変なことになるだろう。早急に仕留めるべく、逃げ回るトバリへジョシュアは的確に弾幕を張る。
 もっと早く、もっと鋭くと自身へ強化魔術をかけた希紗良が飛び込んでいく。しかしそれは刃をもって阻まれ、硬質な音が鳴り響いた。間伐入れずぐわりとトバリの手足が動く。
「いけない……!」
 その刃が帯びる呪いに慧はすかさず光の翼を顕現させる。仲間には癒しを、敵には傷を。それを受けながら月華はつんと唇を尖らせた。
「先程まではあんなに迫ってきましたのに、つれないのではないかしら」
 その体から発される香が甘く重く耽溺させようにトバリを包み込む。誘蛾灯へ引き寄せられるように――さあ、おいでなさい?
「あの刃はやばそうだな」
 やはり間合いに入らなくて正解か、とシオンはギリギリの距離から黒の斬撃を放つ。追うように獅門は強烈な竜撃の一手を叩き込んだ。
「中々にしぶといこったな」
 魔弾を放った嘉六は目をすがめる。ずっと何を呟いているのだろうか。意味のあることを言っているとは思えないが、もしもということはある。
「攫った娘御たちの居場所を吐かせたいでありますが……!」
 嘉六のいう通り、そのしぶとさに希紗良は歯噛みする。手を変えて攻勢を続ける。その翼が不意に大きく空気を打った。
「逃げるぞ……!」
 ジンが咄嗟に刀を投擲し、掠めた切先にややはばたきが重くなる。月華は力強く血を蹴ると、空まで追いかけた。
「何事も根性! 逃がしませんとも!
 その執念深い追走と纏う香りがトバリを引き戻す。慧は天使の歌を響かせ、月華の傷を癒した。その身が倒れることはなくとも確実に傷は増えていく。少しでもその痛みが取り除かれるようにと聖なる歌が響き渡った。
「そのまま地に落ちろ!」
 シオンの執拗な斬撃とともに獅子の顎を幻視するが如く獅門が連撃を叩き込む。黒の翼は見るも無惨で、その手足も幾本かもがてしまった女の眉間に、ジョシュアは照準を合わせた。こちらも被害を受けたが、もう仕留め時だ。
(大切な人を奪われた方々がいるんです)
 目の前で従姉妹が連れ去られるところを見たカヨ。村長にとっては姪で、彼女の両親だって村にはいるはずだ。
「人と関わるのが苦手でも――なんとも思わないわけじゃない」
 その弾丸が真っ直ぐに、トバリの眉間へ突き刺さる。トバリはその勢いで後ろへのけぞり、地面へと倒れ込んだ。
「死んだか……?」
 ゆっくりと近づいた嘉六はぶつぶつと呟く声にぎくりと足を止めるが、よくよく聞けばその声はだんだんとか細くなっている。もう長くはないだろう。
「なあ、トバリ。あんたは何がやりたかったんだ。教えてくれねえか?」
 キセルの煙が風に乗り、トバリまで届く。それはこの行動の真意を問うはずのものであったが――煙に巻かれた意思の欠片を知り、嘉六は小さく目を見張る。

 もう、声は聞こえなくなっていた。



「こちらは終わりまし――」
 月華の言葉が途切れる。シャルルはしぃ、と人差し指を唇にあてて、視線をカヨの方へ向けた。
「……突然、糸が切れたみたいにね」
「眠っているだけのようだよ。このまま寝かせてあげれば、そのうち目覚めるさ」
 大丈夫だと夢売りが柔らかく微笑む。その言葉にイレギュラーズたちはほぅと胸を撫で下ろした。
 シャルルと夢売りがついていたおかげで、意識を失った際に頭を打つこともなかったらしい。月華はそっと膝枕をすると、小さく子守唄を口ずさむ。
(どうか、安心して寝てくださいね)
 もうカヨを脅かす者はいない。気がすむまで寝てしまえばよい。
「ゆっくり眠ってくだされ、カヨ殿」
 小さく呟いた希紗良は村長の元へ顔を出す。すでに家の前にあったトバリの遺体を見たようで、彼は然りに礼を述べ頭を下げた。
「まだであります。姪御殿を捜すでありますよ」
 しかしそんな彼に希紗良は首を振った。彼の姪も、他の被害者も、まだ生きている者がいるかもしれない。それならここで終わりとせず、1人でも救われるようにしたい。
(キサは、救われてほしいのであります)
 これは誰もが穏やかに過ごせる未来を目指す、その一歩だ。
「流石に当てなく捜すのは厳しいが、トバリのおかげでいくらか検討はつけられるだろう」
 ジンも頷く。トバリの飛んできた方向や身につけていたもの、偶然付着していたものからある程度の推測はできるかもしれない。
 善は急げとジンは外に出る。先客としていた慧はひとつの霊魂を成仏させていたようだった。
「被害者か?」
「いや……わかりません」
 緩く首を振る慧。意思疎通もできないほどに希薄な霊魂だったが、カヨの無事を伝えてみるとふっと成仏していったのだ。それがカヨのことを心配していたのは確かだが、果たして被害者かといわれるとそうとも言い切れない。しかし状況からすればその可能性が高いだろうか。
 ジンと慧の2人はトバリの遺体から何かの手がかり――そうでなくても違反など――がないかと検める。その姿を嘉六は離れた場所で見ながら、小さく呟いた。

「……殺して、か」

成否

成功

MVP

香 月華(p3p010546)
月華美人

状態異常

香 月華(p3p010546)[重傷]
月華美人

あとがき

 遅くなりましてすみません。
 無事にトバリ討伐となり、カヨは眠ることができたようです。

 ご参加いただき、ありがとうございました。

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