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シナリオ詳細

嗚呼、悲しみのワイバーン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●亜竜だって生きている
 覇竜領域デザストル。強くなければ生き残れぬ、まさに覇竜の魔境。
 強靭な魔物。破壊的な怪物。そして、時に彼らを喰らう亜竜と、それらすべてを歯牙にも欠けぬ超越種、竜種。
 およそ恐るべき前人未到の地。人間たる亜竜種は、その隅でどうにか生存を許されているに過ぎない。
 ……そんな恐るべき、弱肉強食の世界。そこに生きるものは皆強靭……というわけでもなかった。
 ここに、一匹の亜竜がいる。亜竜(ワイバーン)とひとくくりにしても、その種類は千差万別だが、とにかくその中の一つ。それがこのワイバーンである。
 人間がつけた種類名は、『ロジオリクス』。ロジオ、なる亜竜種が発見したのでその名がついているとかいないとか、まぁこのさいそれは置いておいて、このロジオリクスの特徴をあげるなら、『弱い』。この一言に尽きる。
 とにかく弱い。見た目は、二足歩行の1mほどのトカゲ。地球世界で言う所の、ヴェロキラプトルなどを思い浮かべていただければまさにその姿だが、見た目はいかついがとにかく弱い。
 気が弱い。力が弱い。精神が弱い。弱い。とにかく弱い。亜竜種の子供に棒でつつかれて逃げだすくらいの弱い。
 何でこんなのが、覇竜領域で生きてるんだ? と不思議に思うほどに弱い。そんな弱い亜竜だが、自然界において何の役にも立たない極つぶし、というわけではない。
 彼らは雑食だが、主に草木の実や種を食べる。そうして飲み込んだ種を、別の場所で、ふん、として排出する――。
「……つまり、こいつらが生きていることで、周囲の草木の生態系が保たれている……との事だ」
 と、あなたたちイレギュラーズに、真我(マナガ)というリザードマン風の亜竜種が言った。
 フリアノンから少し離れた小集落。この辺りには、前述のロジオリクスの縄張り……縄張りというか、生息地がある。
「ロジオリクスは、この小集落にとっても生命線だ。何せ、外から種を運んできてくれる。この小集落は、その種やふんを利用して生活している」
「これ、ロジオリンゴ、って言うの。ロジオリクスが持ってきた種から生えてきた、木からなる木の実なの」
 と、小集落の小さな男の子がが、あなたたちにこぶし大ほどの赤い実を渡してくれた。リンゴとは違うが、リンゴに見えなくもない。
「たべられるよー。皆おやつに食べるんだ」
 えへへ、と笑う子供。試しに齧ってみれば、リンゴのような、甘酸っぱい味がして、これは確かにおいしい。
「これ、実をつけると枯れちゃうの。何個か実を残しておいて、ロジオリクスに食べさせて、別の場所に植えたりするのね」
「つまり……虫の類の様なものだ。あいつらは、花を……増やすのだろう? 理屈は分からんが。そういうふうに、ロジオリクスは食える実を増やすのだ。もちろん、このリンゴだけじゃない。いくつかの木の実を、ロジオリクスは運んで増やす。それは、この小集落の保存食にもなるのだ」
 だが、と真我は言った。
「少し困ったことが起きてな。何でもこの子供の言う事には、ロジオリクスの縄張りに、タイラント・ライナス共が入り込んだらしい。
 タイラント・ライナス……といってもわからんだろう。外には居ないだろうしな。そうだな、サイ、という動物が外にはいるらしいな。それが二足歩行をしたような怪物だ。二足歩行をしているが、人間ではない。言葉も通じんし、道具も使わん。だが、徒党を組んで狩りをする程度の知能はあるようだ」
「十匹くらいいたの」
 と、少年が言った。
「ごめんね、やっつけられれば良かったんだけど、怖くて逃げちゃった……」
「いいや、正しい判断だよ」
 と、あなたの仲間のイレギュラーズが言う。
「それで、今回の任務は……その、タイラント・ライナスの討伐か?」
「ああ。お前達にしてみれば、ワイバーンを護る、等奇妙な感覚かもしれんが……これも覇竜領域の文化だと理解してくれると助かる」
 真我の言葉に、あなたは頷いた。いずれにせよ、困っている集落があるなら、それを助けない理由は無いだろう。
「行こう。連中は、この先の岩場に陣取っているらしい。
 道中は、安全が確保されたルートを行く。道を外れるなよ」
 あなた達は頷くと、真我の案内に従って、集落を後にした。
 道は迷うようなものではない。問題なく、目的地にはついた……が、そこで問題が発生した。
「……しまった! ライナスども、既にロジオリクスを追い立て始めている!」
 真我が叫んだ。覗き見れば、岩の転がる荒野に、サイのような外見の大男と、それから逃げ惑う、ロジオリクスの姿があるではないか!
 ロジオリクスは怯えたように鳴き声を上げ、辺りを逃げ回っている。このままでは、ライナスたちに、ロジオリクスを全滅させられてしまうだろう!
「すまん、作戦は抜きだ! 今すぐ飛び込んで、奴らを討伐しなければ!」
 真我の言葉に、あなた達は頷いた。そして武器を抜き放つと、荒野へと飛び出した!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 弱きワイバーンを救うため、サイの怪人と戦いましょう!

●成功条件
 ロジオリクスが最低1体でも生存している状態で、タイラント・ライナスを全滅させる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 か弱きワイバーン、ロジオリクス。木の実を食べて、あちこちに種を落とすことで実りをもたらす奇妙なワイバーン。
 そんな彼らの落とす実りを、とある小集落では採取し、奇妙な共生関係を築いていました。
 が、そんなロジオリクスの生息地に、タイラント・ライナスという怪物が乱入してきます。
 ライナスたちは、ロジオリクスを狩り、食いつくす模様。そんなことをしては、小集落にも痛手が発生します。
 皆さんは、奇妙な形ですが、ワイバーンを護るため、怪物と戦うという構図に身を投じます。
 作戦決行タイミングは昼。周囲は、ごつごつした岩の転がる荒野になっています。身を隠す場所があったり、少しあれているため動きずらい場所が有ったり、などが考えられるでしょう。

●エネミーデータ
 タイラント・ライナス ×10
  サイが二足歩行をしたような怪物です。知能や文化を持っていませんが、動物並みの本能は持ち合わせています。
  硬い皮膚は鎧のようであり、体力も非常に多く、攻撃力も高めです。半面、遠距離への攻撃は不得意で、特殊抵抗も高くはありません。
  連携をとる程度の、知能はあるらしく、複数のライナスから集中砲火を受けると危険です。攻撃を受けるユニット、攻撃するユニットなど、うまく役割を分担できると有利に戦えるでしょう。

●護衛対象
 ロジオリクス ×10
  非常に弱いワイバーンです。基本的に、木の実を食べて、その木の実のタネをあちこちにばらまくことで、植物の繁殖を手助けする性質を持っています。
  もちろんワイバーンなので、襲われれば怪我をするではすみませんが、今回に限って言えば、もう戦意を喪失しているのか、戦場を逃げ回っているだけです。
  此方の言う事を聞いてくれるわけはもちろんないので、複数範囲攻撃で巻き込まないように注意しつつ戦いましょう。また、意図的に低威力の攻撃で、死なない程度に邪魔な個体を吹き飛ばしてみたりしてもいいでしょう。ワイバーンなので、生命力はそこそこあります。

●味方NPC
 真我 ×1
  亜竜種の戦士です。長い槍を持つ、リザードマンタイプ。
  基本的に物理攻撃に特化した戦法を行います。皆さんよりは格下、という扱いで問題ありません。
  そこそこには戦えますので、皆さんの攻撃のサポートや、いっそロジオリクスの相手を任せてもいいかもしれません。
  特に指示が無ければ、邪魔にならない程度に一生懸命戦ってます。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、おまちしております。

  • 嗚呼、悲しみのワイバーン完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月29日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛
ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)
戦乙女の守護者
ジン(p3p010382)
梅・雪華(p3p010448)
梅妻鶴子
スースァ(p3p010535)
欠け竜

リプレイ

●遭遇へのカウントダウン
「か弱いと聞いて!
 か弱いと聞いて!
 か弱いと聞いて!」
 くるぅり、と廻ってみせるのは『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)である。喜びを表すそれはダンサーのよう。軽やかに回って、これから出会うであろう『か弱いもの』を抱きしめるように胸に手をやれば、満面の笑顔の華が咲く。
「素敵ね! 覇竜領域の亜竜ちゃんは、か弱くないのかと思っていましたけれど。
 そんなにか弱い子が居たなんて!」
 ガイアドニスにとって、『自分より脆いもの』はすべて『か弱いもの』だ。亜竜ロジオリクスは確かに、イレギュラーズ達の手助けが必要な程度には、脆い。
 依頼のため、タイラント・ライナスの潜む野営地のような場所へ向かう道中である。イレギュラーズ達は、亜竜種たちの使う『安全なルート』を利用して、進んでいた。
「か弱い、か。ロジオリクスも一応亜竜だ。か弱いと言われては形無しだろうな」
 くくく、と笑うのは真我である。道案内と手伝いを買って出てついてきてくれたわけだ。
「でも、正直びっくりしてるよ。ボク達が練達なんかで遭遇した亜竜は、強敵ばっかりだったからね」
 『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が、むむ、と唸った。確かに、亜竜とは基本的には恐ろしい怪物ばかりだ。むしろ、ロジオリクスのような存在が例外と言えるだろう。
「それを守って~、っていうのは。確かに、むむー、変な感じかも」
 むずむずするような様子で、焔が言った。
「そうだろうな。まぁ、実物を見てみると良い。何というか……覇気のない奴らだ」
「ははぁ、変わったワイバーンもいるものですよー」
 『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)が、感心したように声をあげる。
「確かに、いろんな種類が居てしかるべき、ですが。
 それでも、いくら大切な存在でも弱いとこうなっちゃうって、やっぱり覇竜厳しいのでして」
 むぅ、と肩を落とす。亜竜種たちにとっては共生の可能性もある亜竜だが、しかし覇者たるその他の怪物たちにとっては、弱いものとはすなわち餌に過ぎない。もちろん、ここでロジオリクスが全滅した所で絶滅するわけではないのだが、この辺りの植物にとっても、亜竜種たちにとっても、相応の打撃はあるだろう。
「それも自然の摂理――ではあるが。益があるなら守るってのも、また自然の摂理だな」
 ふむん、と不敵に笑ってみせる、『梅妻鶴子』梅・雪華(p3p010448)だ。
「ふん、しかし真我、か。フリアノンの洟垂れ小僧が、いつの間に戦士になったものだったか?」
「……勘弁していただきたい、仙人殿」
 バツの悪そうな顔で、真我は苦笑した。雪華が、かかか、と笑う。
「腕は立つようだが、頭の方は相変わらずだな? 花を増やすは虫だけじゃぁないぞ? 風、水、獣……口伝で学ばなかったか?」
 からかうように言う『仙人』。真我が苦笑する。
「まさか仙人殿までイレギュラーズになっておられるとは。運命とは数奇なものだ……」
「風はともかく、獣に関しての役目を担うのが、ロジオリクス、という事か?」
 『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が、話を継いだ。
「外だとそういう、植物の種を広げるような役割をするのはこれくらいの鳥が受け持つものなんだが……。
 こちらではワイバーンがその役まで担っているのか」
「もちろん、鳥、がいないわけではないが」
 雪華が答える。
「そういう役目を持つ、亜竜もいるという事だよ」
「ここいらじゃ、空の王者と言えばやはり亜竜だ」
 『欠け竜』スースァ(p3p010535)が言う。
「外とは違う。鳥もいるが、自由というわけじゃない。
 ……亜竜種(アタシら)と一緒だ。ま、精一杯生きてるのさ。それなりにな」
「ま、そういうわけだ。俺はロジなんとかってワイバーンの事は知らなかったが、か弱いワイバーンが居たっておかしくはないだろ?」
 『不屈の』ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)が笑った。
「相手はか弱い奴らだ。だったら、それを守るのが特異運命座標、ってな。助けない手はないよな?
 そうだろ、センパイ方?」
「ふふ、任せてほしいのでして!」
 むん、とルシアが胸を張る。エーレンが静かに笑い、
「君もすでに特異運命座標だ。共に力を合わせよう」
 そう言った。ジェラルドは嬉し気に、にぃ、と笑う。
「ふふふ! か弱いみんなが仲よくするの、とっても素敵!
 おねーさん、ちゃんと守ってあげるからね!
 ルシアちゃん、抱きしめて良い?」
 か弱い(防御技術1)なルシアに向かって手を広げるガイアドニスに、ルシアは「ええっ」、と目を丸くした。
「は、はずかしいのでしてー!!」
「え、ルシアちゃん抱きしめていいの? ボクもぎゅーってするー!」
 焔がからかうように言うので、ルシアはますます目を回した――と。
「待ってくれ。何か……騒がしい」
 ジン(p3p010382)がそう声をあげた。もちろん、イレギュラーズ達に関してのことではない。魔的な勘、とでも言おうか。戦士として培ってきた勘が、この時ジンに、他の仲間より一足先に、異変を告げていた。
「何か、重いものが動く足音がする……それから、軽いものが逃げ回る様な……。
 真我、まずいかもしれない」
 ジンの言葉に、真我は頷いた。
「すまない、先にライナス共が動き始めたかもしれん!」
 叫ぶその言葉に、仲間達は走り出した。果たして、少しの後。荒野のような荒れ果てた場所に、キュイ、キュイ、というような甲高い鳴き声と、ごごう、ごごう、というような野太い声が上がる。それは、ロジオリクスの悲鳴と、獲物を追い立てるタイラント・ライナスが興奮してあげる声だ!
「……しまった! ライナスども、既にロジオリクスを追い立て始めている!」
 真我が叫んだ。
「すまん、作戦は抜きだ! 今すぐ飛び込んで、奴らを討伐しなければ!」
 その言葉に、イレギュラーズ達は頷く。異変を察知した時点で、すでに戦いの用意は済ませてある。
「作戦は抜きって言ったけど、大丈夫! こういうパターンにも慣れてるからね!」
 焔はウインク一つ。
「真我、ロジオリクスのおいたてを頼む! 敵はすべてこちらで抑えよう!」
 ジンが声をあげた。
「なるべく多く生き残って欲しいからな」
 スースァが続いて、頷く。
(なるほど……経験か、或いは事前にシミュレーションしていたのか。急な事態にも顔色一つ変えずに対応できるとは……!)
 真我が胸中で感心しつつ、
「分かった! 気を付けてくれ、奴らは強敵だぞ!」
 槍を取り出し、駆けだした。ロジオリクスを追い立てるように振る舞うのを確認しながら、イレギュラーズ達もまた、ライナスたちを討伐すべく飛び出した! 奇襲攻撃のような形になったイレギュラーズ達の登場。横合いから殴られる形となったライナスたちが、困惑と怒りの雄たけびを上げる!
「みんな、おねーさんに続きなさーい!」
 ガイアドニスが、ぴょーん、と飛び出した。そのまま大きく手を広げる。
「ふふふ! ふふふ! おいでなさい、ライナス君たち!
 でも、愛してはあげないわ。ごめんなさい。
 だってだって、ライナス、大き(硬)そうだものね……。可愛くないわ。残念だわ。
 それにそれに、かよわいあの子たちをいじめるのですもの!
 それってとっても悪い事だわ。だから――めっ、ってします!」
 宣戦布告――イレギュラーズ達の戦意に、ライナスたちが、ぐごう、と雄たけびを上げた――。

●怒涛の暴君
 ライナスたちの身体は、まさに二足歩行を獲得した際のごとしである。人間の胴体ほどはあるだろうに発達した巨腕。そして丸太のような首。全身之筋肉と硬質化した皮膚。ライナスたちには人間ほどの知性はなく、道具も精々、岩や丸太をそのまま棍棒として使うのみである。だが、持ち前の筋肉と皮膚は、既に凶器と鋼鉄の鎧を着ているに等しい。そして、その猛獣たちが一気に攻めよれば、それは重装歩兵の大群か、大地をかける恐怖の雪崩か――。
「奴らを引き付ける」
 ジンが声をあげる。
「真我とロジオリクスの方へ近づけるな!」
「了解でして!」
 ルシアががちゃ、とライフルを構える。魔砲を撃つため、ただその為だけの銃だ。
「前に護るものが居ないなら全力全開です!
 皆さんは巻き込まれないように気を付けてください!
 ルシアも責任はとれませんので!」
 銃口に、光が満ちる。同時、解き放たれたそれは、極太の光の帯……いや、光線を通り越して一筋の道のようにすら見えた。飲み込まれたライナスががあ、と声をあげたままに消滅する。
「やるぜ、流石センパイだ!」
 後方に、ロジオリクスがいる事を意識しつつ、ジェラルドが言った。ロジオリクスは、パニックに陥っているのか、あちこちをばたばたと走り回っている。ジェラルドは意識して、その背にロジオリクスたちを庇いつつ、ライナスへと向かった。
「ジン、敵のコントロールはできるか!?」
「任せろ……こっちだ、ウスノロども!
 その自慢の図体! だが、このペイトのジンは砕けぬものとしれ!」
 ジンが、挑発するように口上をあげる。つられたライナスがジンに突撃! それは、岩石にぶつけられたようなものだ! 強烈な衝撃が身体を駆け巡るが、一歩のところで踏みとどまる!
「よし、そのまま止めててくれ!」
 ジェラルドが、その手に虚無の剣を生み出し、ライナスへと斬りつけた。一撃――その鋼鉄の皮膚を切り裂く、鋭い斬撃。怒ったライナスが拳を振り下ろすのへ、ジェラルドは身軽によけて見せると、さらにもう一撃。今度は突き刺すように、ライナスの心臓を狙う!
「悪いな、この地は弱肉強食……だろ?」
 虚無の剣が黒い塵を残して消えると同時、その潰えた心臓につながる傷口から、どろりと黒い血が流れる。ライナスが絶命するのを、ジェラルドは確認。
「よし、このペースでいこう!」
「了解だよーっ!」
 焔の足が鋭く振り上げられる。強烈な一撃が、巨体であるはずのライナスを高く打ち上げた。
「よっと!」
 声とともに、焔が跳躍。空中で暴れるライナスに、今度はくるりと一回転、そのまま勢いを乗せたかかとおとしと、脳髄に叩き込む!
 如何に強固な皮膚を持っていたとて、脳へと伝わる衝撃は殺せまい。焔の鋭い蹴撃は、それを可能としていた。直接脳を揺さぶる攻撃に、ライナスは空中で意識を失い、その不安定な体制のまま落下した。脱力した筋肉は鎧にならず、ただのデッドウェイトに過ぎない。落下したライナスは、自らの身体の重さ故に死を掴まされた。
「ふふ、そっちに比べればちっちゃくて細いけれどね?
 強さなら、負けてないよ!」
 不敵に笑い、手招きしてみせる焔。仲間の仇を撃たんとしたか、ライナスが突進してくる。
「単純だね!」
 焔は、跳び箱をするような要領で、突撃してきたライナスの頭に手をつくと、そのまま飛び越えて見せた。
「エーレン君!」
「了解。
 ――鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。お前たちに恨みはないが、止めさせてもらうぞ」
 後ろに控えていたエーレンが、ゆっくりと、剣の柄に手を伸ばす――刹那、一瞬の閃光が、ライナスの首元を走った。次の瞬間には、巨大な頭がごろり、と大地に転がっている。それに気づかないのか、身体だけは数歩ほどたたらを踏むように進んで、それから遅れて大地に倒れ伏した。
「如何に硬い皮膚だとしても、剣のはいる隙間は必ずある。そこを狙えば、容易い事さ」
 言ってはいるが、勿論容易い事ではない。エーレンの持つ技術だからこそできる、それは神業だ。
 さて、ライナスたちとイレギュラーズ達の戦いは続いていく。ライナスとは同等以上の実力を持つイレギュラーズだが、しかしこちらには護るべきものがある。だが、ロジオリクスは、強烈にイレギュラーズ達の足を引っ張る。必然、守るために身を差し出すタイミングもあり、そのたびに、傷は増えてゆく――。
「おらおら急急如律令(とっとと働け)!!
 こっちも身体をはっとるんだ、式神がサボるな!」
 雪華が生み出した木や石の式神が、つたないながらもロジオリクスを追い立てる牧羊犬のような真似をしている。大半は気づかづけり倒されたりしているが、何とか起き上がって、再びとてとてと歩いて、ロジオリクスを追い立てていた。
「しかし……タイラント・ライナスも雑魚ってわけじゃァないんだぞ?
 それを、対等か、それ以上、か。
 ……ハッ、やっぱ歴戦の先輩らはモノが違え。
 ローレットのイレギュラーズならここにも住めんじゃねえか?
 強い胤も胎も大歓迎だぜ。弱肉強食だからな」
 にぃ、と笑う。
「確かに、外でも相当の戦いを食広げてきたんだろうな」
 スースァが頷いた。
「……だが、先輩方に頼り切りってのは性に合わないな」
 しかし、自分たちとて、既にローレットの一員だ。頼るだけではない。自らが、可能性をもたらす光となるのだ!
 スースァが飛び込んだ。暗黒物質の武器を手にして、ライナスへと叩きつける! ぎごご、とライナスが悲鳴を上げた。強烈な一撃が、その命を刈り取らんとしていた。
「生きる為にお前らはロジオリクスを狩るんだろう?」
 スースァが、そう言って……すぐに、壮絶な笑みを浮かべた。
「でもアタシらも生きる為にあいつらを守るのさ。フェアだな?」
 口元が吊り上がると同時に、二撃目の打撃がぶち込まれる。その攻撃がライナスの意識を刈り取った。ぐるり、と白目をむいて、サイの巨人がぶっ倒れる。
「オイ、残り何匹だ!」
「はーい!
 あと、三人かしら!」
 傷つきながら、ガイアドニスが声をあげた。か弱いものをまもるため、その両手をいっぱいに広げていたガイアドニスは、相当に傷を負っている。だ、それもある意味、愛の証であるのかもしれない。
「ふふ、少しずつ愛らしくなってきたのね?
 でも、ダメよ。今日は、お仕置きの日だから!」
 ガイアドニスが、手に持っていた白い傘を優雅に振るった。鋭い打撃がライナスに叩き込まれる。それから踊るようにくるり、と跳躍すると、入れ替わる様にルシアの魔砲が、ライナスを飲み込んだ。
「一発必殺でして!」
「なら、ボクとエーレン君でトドメ!」
 焔の言葉に、エーレンが頷く。突撃した焔が、並ぶライナスをまとめて薙ぎ払うように、炎の槍を振るった。巻き起こる炎が、二匹のライナスを飲み込む! 強烈な、それは炎神の焔か。体力を大きく減じていた一匹が、その熱に耐え切れず、炎の内に倒れた。残り、1。その瞬間には、既にエーレンは、ライナスの眼前へと飛び込んでいる。
「終わりだ」
 走る、剣閃! それがライナスの首を弾き飛ばすと同時に、エーレンは刃を鞘へと締まった。どう、とライナスの身体が倒れ、ワンテンポ遅れて首が落下する。
「戦士殿、ロジオリクスは」
 エーレンが尋ねるのへ、真我は頷いた。
「ああ、ほとんど無事だ……見事だな。戦士として、見惚れてしまうほどだったよ」
 イレギュラーズ達の戦いを、真我は称賛した。

●命をつなげて
「さて、実際、初めて見たが――」
 スースァが、じろり、とロジオリクスをみやる。ロジオリクスは、明らかにおびえたように、きしゃー、と威嚇した。
「気が抜けるな、これは……いや、一般人にとっては充分脅威だとは思うが。
 それでも……」
「本当に、まったく戦闘能力はなさそうだな……」
 ふむ、とジンが唸る。ジンに敵意はないが、近づいただけでも距離を開けようとするロジオリクスに、ジンは困ったように、再びふむ、と唸ってみせた。
「……戦闘中も、逃げ回っていただけだからな。こうもなるだろう……」
「いや、ほんとにいろんなワイバーンが居るんだねぇ」
 焔が、目を細めてうむうむ、と唸った。
「あ、ガイアドニスちゃん、だめだよ、抱き着いたら」
「えーっ!?
 ……いえいえ、そんなことは、しませんとも!」
 ふるふるとガイアドニスが頭を振った。手がわきわきしてる。
「っし……お前ら生きてっか?
 おっと暴れてくれるなよ? 俺達がタイラントを処理してやってんだ」
 ジェラルドはそういうが、ロジオリクス達はきょろきょろとあたりを見回すのみである。はぁ、とジェラルドはため息をついた。
「タイニーワイバーンにも怯えてくるくらいだからな……ほんと、こいつら今までどうやって生きてきたんだ……」
 傍らの、ジェラルドのタイニーワイバーンも、ジェラルドへ困った顔を向けた。近づけば、ロジオリクス達は怯えて逃げてしまう。
「まぁ、このくらいの距離を保ってくれているだけでも、向こうとしては譲歩だろう」
 雪華が言った。
「人には慣れても、懐かん。そこは腐っても、誇り高き亜竜だろうさ。
 所で真我、ライナスの死体は資源化できそうか?」
「ああ、ある程度は」
 真我が頷く。
「まぁ、肉は我々には食えんが……細かく加工して、家畜の餌にはできるかと」
「うむ。まぁそんな所か。
 俺たちがこのちびを護るのは、益があるからだ。
 それは、こいつらの死によって得られる益だ。
 すべて与えるものと与えられるものがあり、得るだけのものは竜の他にあらじ。
 即ち竜が覇を唱えし領域さ」
 ふ、と雪華が笑った。
「こいつらはどんな植物を増やしていくんだろうな……?
 もうなるべくこんな連中に狙われたりするんじゃないぞー」
 エーレンの言葉に、頷くみたいに、ロジオリクス達が鳴いた。それから、群れを伴って、イレギュラーズ達に背を向ける。
「よーし、じゃあ、贈る言葉の代わりに、癒式魔砲をプレゼントします!」
 ルシアがじゃき、と銃を構えたのへ、ロジオリクス達はびっくりしてしまって、たたた、と駆けだした。
「あっ! ち、違うのです! これは癒しの魔砲でしてー!」
 弁解するルシアの言葉も、ロジオリクス達には届かない。その様子に、仲間達が思わず楽しげに笑うのへ、ルシアはぷぅ、と頬を膨らませた。

成否

成功

MVP

エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 今日も彼らは、どこかで木の実の種を運ぶのでしょう。

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