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シナリオ詳細

鋼鉄探偵ヴィクトリアと「確定申告は詐欺!」

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「還付金は詐欺!」

 メガホンのノイズがキンと響いた。

 朝礼台の上から呼びかけるのは『鋼鉄探偵』ヴィクトリア・ラズベリーベル(p3n000219)である。
 これは鉄帝国スチールグラードの一角であるエルニスカ地区に多発する詐欺事件を撲滅するための、当局主催の市民集会的な、何かこう、そういうやつだ。
 相手を信用させ、不特定多数から金銭をだまし取る巧妙な手口であり『特殊詐欺』と呼ばれている。しかもギャング達の資金源になっているらしい。

 本件は市民の手で特殊詐欺に対抗するための講習という話になっている。
 講師はヴィクトリアと、ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)。さらには「皆様の力もお借りしたい」と、鋼鉄探偵達二人に招かれたイレギュラーズも講習に参加している。

「それで、特殊詐欺ってなんだ?」
 市民の一人が声を上げる。だって鉄帝国だよ。知る訳ないじゃないか。
 メガホンを受け取ったヴィクトリアが頷いた。
「よろしい。答えようじゃないか。諸君、耳をかっぽじってよぉーく聞きたまえ」


 そう、世の中にはいろいろな難しい言葉がある。

 たとえば『還付金』だとか。
 ほかには『確定申告』であるとか。
 はたまた『所得控除』だったりとか。

「かんぷ……それ何だ?」
 もちろん鉄帝国人が知っているはずもない言葉達。
 ならば教えねばなるまい。
「冴え渡る鋼の頭脳がお答えしよう。それは詐欺だね!」
「詐欺!」

 還付金は、詐欺!
 つまり詐欺は犯罪だ!

「では実際どのように推理し捕まえたのか、デモンストレーションをご覧ください。被告人をここへ!」

 引き出された男の名はサギモフ・カネスキー。二人の活躍によって逮捕された詐欺師である。
 去年十二月二十五日ごろ、男は二十代の女性へ「この先に七面鳥の配給がある。カップルしか受け取ることが出来ないため彼女のふりをしてほしい。まずは銀行からお金を引き出してきてくれたら、後で還付金を支払う」などとしつこく持ちかけ、偶然駆けつけたヴィクトリアとヴァレーリヤに、酒瓶で頭を殴るなどの推理によって取り押さえられた。

「町で何と言ったか、もう一度出来るな? 司祭様もお願いできますかな?」
 当局のニコライが男に詰め寄り、ヴァレーリヤへ合図を送る。
「分かりましたわ。お任せあれ」
「サギモフ。分かるな。言っておくが、これも司法取引に響く」
 もう一度念を押すニコライ。
「っち。俺はな、こう言ってやったんだよ」
 司法取引という言葉の意味は理解出来なかったが、サギモフは悪態をつきながらも言われた通りにやる。

「還付金――」
 スパーン!

 酒瓶と書かれたハリセンを握りしめたヴァレーリヤが、即座にサギモフの頭をひっぱたいた。

「還付金」
 スパーン!
「還付金」
 スパーン!
「かんぷ」
 スパーン!
「」
 スパーン! スパーン!

「お分りいただけましたでしょうか? 推理というのは、まさに知恵の結晶であります。皆様が知識としてしっかりと身につけることが出来れば、誰にとっても護身のための強力な武器になると信じております」
 ニコライが市民達を見渡した。
「では皆さん、私がいくつか単語を述べますので、詐欺だと思った方は『詐欺!』とお答え下さい」
 ニコライが問いかける。

「青色申告!」
「詐欺!」
「示談金!」
「詐欺!」
「扶養控除!」
「詐欺!」
「保険料!」
「詐欺!」
「年金基金!」
「詐欺!」
「よろしい!」

 ――ウオオオー!
 喝采が飛び交う。
 市民達は理解した。

 この国では、自助努力こそが尊ばれる。
 ならば詐欺師にも、市民達の力で対抗すべし。
 故に――

「町で還付金だとか確定申告といった言葉を聞いたら、身の安全を守るため即座にぶん殴って下さい」
「!!!」

 ――ウオオオー!
 完全に理解した。

「これから皆様は町に出て、詐欺師を見つけ次第、ぶん殴って頂きます」
 つまり、ここからが本当の実践講習なのである。

GMコメント

 桜田ポーチュラカです。
 町にはびこる特殊詐欺。冴えた頭脳を駆使して華麗に撲滅しましょう。

■依頼達成条件
 町を歩き、還付金とか確定申告とか所得控除とか、なんか難しげなそういう系統の単語を聞いたら、詐欺師なので即座にぶん殴るなどの名推理を披露して解決しましょう。
 実際のところ、殴った相手は本当に詐欺師です。鉄帝国だから。
 もし皆さんが言っても別に殴られません。イレギュラーズだから。

■フィールド
 鉄帝国スチールグラードの一角、エルニスカという小さな地区です。
 灰色の空に、小雪が舞っています。道の端とかには雪も積もっています。
 アパートの立ち並ぶ住宅地、商店街、カフェ、町工場、レストラン、銀行、ダンスクラブ、駅、公園、当局の詰め所などがあります。
 好きな場所を適当に歩いたり、レモネードを買って飲んだり、たき火にあたったり、ウィンドーショッピングとかしながら、町をぶらぶらしましょう。
 しらみつぶしにする必要とかありませんので、好きなところを好きなようにお散歩です。
 するとたまに怪しい単語が聞こえます。即座にぶん殴って下さい。鉄帝国だから。

■敵
 ギャングなどの反社会勢力を構成したり、つながっていたりする詐欺師達です。
 町のあちこちに、結構沢山います。
 なんかこう『所得控除』とかそういう難しい専門用語を使い、人々を「おまえあたまいいな!」と信用させて金銭をだまし取る悪辣かつ巧妙な手口を持つ卑劣漢達です。
 容赦なく殴りましょう。当局の人が連れて行ってくれます。鉄帝国だから。

■年末の事件
 知らなくても大丈夫です。
 気になる方はこちらヴァレーリヤさんの素敵なイラストに付属したSSを参照下さい。
 https://rev1.reversion.jp/illust/illust/56792

■同行NPC
『鋼鉄探偵』ヴィクトリア・ラズベリーベル(p3n000219)
 近接格闘術とピストルで戦うことが出来ます。
「ふっふっふ。この私の頭脳が、必要とされているようだね」

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 鉄帝国だからです。

  • 鋼鉄探偵ヴィクトリアと「確定申告は詐欺!」完了
  • GM名桜田ポーチュラカ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
ジン(p3p010382)
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

サポートNPC一覧(1人)

ヴィクトリア・ラズベリーベル(p3n000219)
鋼鉄探偵

リプレイ

●鋼鉄探偵ヴィクトリアと「確定申告は詐欺!」
「――つまり」
 目をくわっと開けた『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は理知的な知見から現状を考察する。
「難解な専門用語で煙に巻いているだけ。税務用語でなくオカルトでもさして違いはないでしょう。こちらで徴税請負を勤めていた事もありましたから、その物言いがどれだけ支離滅裂かわかろうというものです」
 そもそも鉄帝に還付などといった高度な税理制度などあるはずもなく。倒せばお金が出てくるとかそういうのだ。たぶん。
「必要ないかもしれませんが、念のため一通り見て回りましょうか」
 騙されやすい高齢の方の一人暮し世帯や、勤め始めたばかりで制度を知らない若者の所へ赴く瑠璃。
「……いや、本当だ。還付金が振り込まれるから。先に5万ゴールドを渡してほしい。あとから返って来るから問題無い」
 怪しい言葉を発する男を見つけた瑠璃は顎の先を掠めるようにドンってして捕縛する。

「危ない所でしたね。このお金は返しますよ。それと、犯人のあなた。稼いだ金額に応じて所得税を徴収しましょう。『収入金額とすべき金額』は、その収入の起因となった行為が適法であるかどうかを問いませんので。なに、お金を持っていなくとも大丈夫です。私の仮説が正しければ、貴方を倒すたび金貨をドロップするはずですので……!」
 犯人が頬へと衝撃を食らう。瑠璃が拳で殴り付けたのだ。
「ちなみに【還付】とは納付に対する言葉で、多く収めた税や減額措置などの結果収めすぎになった税を納付者に還すものです。何もせずただ還付がある、という事は通常ありえないとご理解下さい」
 この鉄帝国にその制度があるかはわからないけれど、騙されやすいお年寄りや新社会人には伝えて置かねばならないだろう。

「詐欺はよくないでありますね、詐欺は」
『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は腰に手を当ててふんっと息を吐く。
「やっぱり信頼できるのは現物取引。ねえこの洗剤自然由来の成分でとってもお肌にいいんでありますよ。それにこのフライパン……これがたったの10000G!!!! 自分で使うだけじゃなくて人に薦めればその分お金も返ってくる、みんなが幸せになれる素敵なシステムでありますよ!!」
 力説するエッダは振り向いて別のテーブルに座っている男を指差す。
「って今そこに座ってた方が」
「なにぃ! 逮捕だー!」
「マイニングブベッ!?」
「ブロッグジェェーンッ!」
 詐欺を働いている男をペシンとやってケツをひんむいて、逆さにつる。
「詐欺とは! 人の心の弱さに付け込み我欲を満たすもの! つまり詐欺を仕掛けられている瞬間、その人は心の中にある不安を掻き立てられ無意識に助けを求める状態になる。そこを! 人助けセンサーで感知するであります」
 エッダの人助けセンサーにビンビン感じる助けを求める声!
「はいお前も詐欺! お前も詐欺! たぶんきっと詐欺! ん? 今のやつはただの恐喝の現場でありましたな? まあいいか。悪い奴には変わるめえ」
 次々と犯人を仕留めていくエッダに警察も見事だと彼女を褒めた。

 追徴課税、および被害者への返金が済んだ瑠璃は酒場へと向かう。
 酒場のドアを開けると『鋼鉄探偵の助手』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の声が聞こえてきた。
「たった今、主のお言葉が聞こえました。理屈はよく分からないけれど、この街で交わされる言葉の全ては詐欺と言っても過言ではないと。取り戻しましょう、この街の平和を。殴られた人の記憶やら何やらと引き換えに!」
 ヴァレーリヤの高らかな声を聞いて『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)も腕組みをしてうんうんと頷く。
「ふふん! ここが詐欺師が蔓延る退廃の街……! 詐欺師共め! 正義の鉄槌を受けるがいい!
 ヴィクトリア君! どんどん詐欺師を取り締まって行こうじゃあないか!」
「そうだとも! 我ら鋼鉄探偵とその助手とその相方と頼もしい仲間に掛かれば、一網打尽なのだよ!」
 マリアとハイタッチした『鋼鉄探偵』ヴィクトリア・ラズベリーベル(p3n000219)はレモネードのグラスをドンとテーブルに置いた。

「そういえば、素敵なボトルを何本かお礼にと頂いたので、皆で頂きましょうか」
 瑠璃の提案にヴァレーリヤが目を輝かせる。
「いいですわね。決意を新たにしたところで、休憩がてら皆で昼食にしましょう」
 テンションの上がったヴァレーリヤが手を広げ、そこへたまたま通りかかった男の顔面に拳がクリティカルヒットする。
「ッカンプァ!?」
 もちろんこの男は詐欺師だ。
「なんと!? この男も詐欺師ですわ!?」
「あぁ……詐欺師をぶん殴るヴァリューシャも可愛いなぁ」
 可愛いヴァレーリヤの雄姿を撮影するマリアが良いアングルで撮ろうと移動した瞬間に偶然歩いて居た男がぶち当たり地面に転がる。詐欺師である。
「しかし分かりやすくていいね!♪ 特定ワード言ってる人物皆詐欺師なんて!」
 ヴァレーリヤを見ながら何故か周辺の詐欺師が吹き飛ぶ。すごい!

「嘘を吐いて人から財を巻き上げる……詐欺師とは実に許されざる者です。それらを排するこの依頼、世のため人の為に実に貢献的な素晴らしいものでありましょう」
 そんな感じの敬虔で優しいシスターであると演技と嘘を吐く『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)は「大丈夫…信じる者は、すくわれると神も仰せです」と言ったあと、足下をと心の中で唱える。
 ジン(p3p010382)も成程、と首を傾げつつも現状を受入れるため一呼吸置く。
「ぶん殴る=推理……なるほど……なるほど? にわかには信じがたいが、周囲の者の反応を見るに正しいらしい。……外の世界は己の常識では図れないものだとは思っていたが、俺の想定もまだ甘かったか」
 だが、よく在ることわざに郷に入っては郷に従えというものがある。生きて行く為の先人の知恵だ。
「この鉄帝の流儀にて、不届き者を捕えるとしよう」
 そう難しい事では無い。とりあえず、殴れば良いのだから!

「何だかよくわかんないけど取り敢えずわかったわっ! その還付金……? だとか確定申告……? だとか、小難しい言葉が聞こえたら近付いてぶん殴ればいいって事よね? 朱華もこれから街だとかで暮らすってなるともう少し覚えた方が良いのかしら……?」
 しっぽをぶんと振った『炎の剣』朱華(p3p010458)は難しそうに考えたあと。
「まっ、今はそんな事よりヴァレーリヤ達が言ってるみたいに、この街の平和を取り戻す事が先決よねっ! やっぱり力こそがパワーっ! 力があれば大抵のことは万事解決よっ!」
 そう言ってしっぽをぶんぶん振り回す。
「昼食はどんなのがいいのかしら。以前鉄帝に訪れた時はギアバジリカパフェとか頂いたんだけど、この国独自の料理だとかはあんまり食べたことがないのよね。良ければお勧めを教えて貰えないかしら? あ、ちなみにお酒はNGよっ! だって朱華はまだ20歳になってないものっ!」
 朱華がメニューから顔を上げてヴァレーリヤに問いかける。
「そうですわね。ペリメニなんてどうかしら。サワークリームをたっぷり付けると美味しいんですのよ! 私はウォッカとシャシリク。ヴィクトリアは、何がよろしくて?」
「フィッシュ&チップス、モルトビネガーを添えてくれたまえ!」
「折角だし私もヴァリューシャと同じものにしようかな! 飲み物はモスコミュールで! 朱華君はまだお酒は飲めないんだね……残念……」

『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)はヴィクトリアに手を差し出す。
「お会いできて光栄だよ。ヴィクトリア・ラズベリーベル君。貴方は凄腕の探偵であると、そう聞き及んでいる。(自分がいつか追われる身になった時の)後学のために、ぜひ貴方の手法を学ばせてもらいたい。よろしく頼むよ、探偵君?」
「ああ、ルブラット! この鋼鉄探偵に任せるが良い!」
 フィッシュフライに酢をダッバダバあほみたいにぶっかけながらヴィクトリアが胸を張る。


「私はジャーキーやチーズ等酒のあてになる物を。酒はビールをメインに、届いたおつまみの方に合わせてワインなどもお願いします」
 ライは手を上げて注文を取り付ける。
「え? 依頼中に酒を飲んでも良いのかって? 説明いたしましょう、決して言いくるめなどではありませんよ? それに関してエキスパートでもありますが。悪人や市井の情報というのはどういう場所に集まるでしょう。そう……その一つが酒場です、酒場で情報収集は合理的な一手」
 ライが手を広げ酒場を見渡す。
「そして情報収集する為には? そう、その場に溶け込むことが大切なのです。酒場という場所に溶け込むには? そう、飲むしかないでしょう。
 というわけでこの飲食代、依頼主かローレットから経費で落ちませんか???」
 ?????
 言いながら、ライは周囲の声に耳を傾ける。
「俺に五万ゴールドの還付金を支払うと来年度の税が免除されるぞ」
 怪しい言葉が聞こえて来た方向に、何故か手が滑って酒瓶が飛んでいき、詐欺師の頭に直撃した。
「ギャァ! 俺は何もしてねぇ、怪しくねぇ。還付金で人を騙そうとしてるわけねぇだろ!」
「問答無用です!」
 ライはガッとやって怪しい輩を黙らせてから、警察に詐欺師を引き渡す。

「私も鉄帝の料理は疎い。皆の話は興味深いな。だが酒は遠慮しておく。医師なのでね」
 お酒はどうだと勧められたルブラットは手を振ってやんわりと断りを入れる。
「さて、肝心の詐欺師についてだが。私とて、主観的な憶測のみで他者を罪人と断定したくない」
 何か説得を熱心に行っているような気配を感知するためルブラットは神経を研ぎ澄ませた。
「還付金やら確定申告やらはよく分からないが、難解な単語を発するのと同タイミングに技能が発動したのならば、良からぬ事を企んでいる筈だ」
 ルブラットが用心深くあたりを捜索する傍らでジンが大人しく付いてくる。
「俺は余所者だし、この国は初めてだ。土地勘はないし、迂闊に歩き回ってはぐれたりすれば逆に迷惑がかかる。ここはヴァレーリヤやヴィクトリアについて行きながらと思ったんだ」
「たしかに、それは賢明な判断だ」
 ジンの考えに賛同するルブラット。この国出身のイレギュラーズの話も興味があるし、国自体への理解をふかめる事が出来る良い機会だ。
「ついでに、俺も暖かい食べ物を店主にいくつか見繕って貰おう。買い食いは不真面目な行いではあるが、慣れない寒さでやられるよりはマシだろう。仕事ではあるが、どうやらそう硬くなる必要もないようだしな……酒は遠慮しておくが」
 フィッシュ&チップスを頬張るジンは同じ種族の朱華を見つめて感心する。
「……俺が言うことではないが、朱華嬢はちょっと順応が早くないか。俺、未だに躊躇いなく殴る領域までは心が追いついていないのだが」
「そうかな? 大丈夫だよ! 怪しい言葉を言ってるヤツが詐欺師!」
 朱華の笑顔の後ろで、何やら不可解なセリフが聞こえてくるのをジンは聞き取った。
「むっ……今のは。おい、お前。今何と言った。『確定申告』と、そう言ったな?」
「な、何を言い出すんだ。俺は詐欺師じゃないぞ!?」
「つまり、詐欺師だな?……いや詐欺師か? いやまあ、詐欺師なんだろうが……ええい! 南無三! 言い訳無用だ !成敗ッ!」
 ジンは鞘で詐欺師の男をガっと殴る。

「チェスト還付金!
 確定申告! 斬!
 所得控除! 滅!
 年末調整! 遅い!」

「カワセウボァ」
「トウショヒデブ!?」
「ナスダッブベラ!?」

 続けざまに現れた新手の詐欺師を次々と鞘打ちで倒していくジン。
 ルブラットが白黒つける前に、ボコボコになった詐欺師。それを見つめ「どうせ殴る予定だったのだから問題ない」ともう一発ついでに念のため殴っておく。
「ふっふっふ、この鋼鉄探偵に掛かれば、詐欺師など一網打尽なのだよ!」
 隣で得意げに言い放つヴィクトリアをしっかりと見届けて、勉強するルブラット。
 ルブラットは持参したロープで詐欺師をぐるぐる巻きにする。
「仲間を教えるのならば縄を緩めてやっても――何だ? 司法取引? そのような単語は理解が難しいと言っているだろう。もっと分かりやすく、聖書や古詩の引用を用いて喋りたまえ」


「えっ、お仕事中にお酒はどうなのかですって? 良いではありませんの。いざという時の武器にもなるのですから。例えば、そう――」
 ヴァレーリヤは後ろの席に居る男女の前に立つ。突然現れたヴァレーリヤに男女は驚いた。
「貴方、詐欺師ですわね」
「何を言い出すんだ!」
「言い逃れしても無駄でございますわ。鉄帝の臣民であれば、1+1の計算以外はできないはず」
 男は驚愕の表情を浮かべガタガタと震え出す。朱華はその計算が出来なくてどう商売が成り立つのか疑問に思いつつペリメニを夢中になって食べる。
 その朱華の耳に聞こえてくる男の声。真横のテーブルに居る男が何やら怪しい言葉を発している。
「俺だよ……喉の調子が……落として……」
「さっきから傍でうっさいのよっ! ぶっ飛ばすわよ!?」
 言い終わる前に朱華は男をぶん殴っていた。
「は? 言葉より先に手が出てるですって? アンタが朱華の食事の邪魔をするのが悪いのよ、文句ある!? って言うかアンタの言ってたのってアレよね? ……何とか詐欺っ! つまり殴っていいって事ね?」
 詐欺師の男の断末魔が響き渡り、朱華は再び美味しい料理を頬張る。

「へぇ! 鉄帝民は1+1くらいしか計算できないんだね!? 流石はヴァリューシャ! 天才かな? メモしとこう!」
 マリアはヴァレーリヤの賢さと可愛さにメロメロで微笑ましく彼女の勇姿を見守る。ついでに何やら難しいことを言っている連中をドゴンして。
「カンプァ!?」
「フルザドノウゼッ!?」
「ツミダデニーザッ!?」
「悪(AP)は去った」
 と拳を高らかにあげるマリア。

「そんな難しい言葉を使っている時点で、詐欺師であることを自白しているも同然。そうですわよね、ヴィクトリア?」
 ヴァレーリヤは隣に居るヴィクトリアに確認を取る。
「助手よ。名推理だ! その通りじゃあないか!」
「でええい、私の正当防衛を喰らいなさい!!」
 脳天に酒瓶を叩きつけたヴァレーリヤは「ふぅ……」と息を吐いた。
「ふう、またしても事件を解決してしまいましたわ
「なんだかんだで完璧に事件を解決してしまったようだね! 流石はヴァイクトリア君! 流石はヴァリューシャ! そしてイレギュラーズ!」
「無実の流れの商人が、何人か犠牲になった気もしますが良しとしましょう。大義には、犠牲がつきものなのですから」
「優しいヴァリューシャ……でも、仕方ないよ。巻き込まれる商人君達が悪いんだ」
 気にしちゃあ駄目だとマリアはヴァレーリヤの手を取る。

「あっ、結構入っていましてよ」
 ヴァレーリヤはたまたま偶然、倒した詐欺師の懐に落ちていた財布を取得した。
「これでここの支払いは実質無料になりますわね!」
「はーい先生! 悪い奴は酒場に溜まるものと相場が決まっているでありますゲフー」
 エッダの声がして酒場のドアがドーンと開かれる。
「あっ、これはちょっと詐欺師からくすねたエールで……ちょっと飲んだらもっと飲みたくなったとかそんなことは……」
 手にした酒瓶の出口をヴァレーリヤの口にして、証拠隠滅を図るエッダ。
「うおー! この酒場は我々が占拠した!! 文句がある奴と詐欺師は前に出てくるであります!!」
 エッダは手当たり次第その辺りの客に掴みかかる。
「お前詐欺師か? 詐欺師だな!! 自分の酒が飲めない奴も詐欺師!!」
「うわああ!? 待ってくれ、俺は確定申告の話しをしただけで」
「いや、その酒瓶いくらすると……」
「酒代払わせようとする奴も詐欺師!! やんのか!! かかってこいやぁオラァ!!!
 暴れ回るエッダからカメラはヴァレーリヤに戻ってくる。酒代がこれでは足りないと店主に詰められているのだ。
「足りない? ……鉄帝の臣民であれば、1+1の計算以外は」
 問答無用でヴァレーリヤを掴む店主。酒場の店主の力はつよい!
「あっあっ、放しなさい! これは正当防衛ですのよ!」
 ぐいぐいと店主に引っ張られるヴァレーリヤの腕を掴むのはマリアだ。
「ああああああ!? ヴァリューシャぁぁぁぁ!? 君! 離したまえ! ヴァリューシャは無実だ!」
「アァ!? 無銭飲食は犯罪だろうがよ!?」
「――私は虎だぞ!? この後どうなってもいいのかい!?」
「そんな子猫ちゃんみたいな面して、何がどう虎だっていうんだ!」

「君は私を怒らせた――!」
 バリバリと電気が散って、猛虎マリアの咆哮が酒場へ響き渡った。


 夕方の鐘が街に響き、ルブラットはよいしょっと腰を上げる。
「では。定時になったので帰らせてもらおう。今日も良き学びを得られた日だった。
 ありがとう、皆……しかし、還付金とは結局何だったのだね?」
「ふっふっふ、それは――詐欺さ!」
 鋼鉄探偵ヴィクトリアの笑い声が夕暮れの街に響いた。

成否

成功

MVP

マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫

状態異常

なし

あとがき

 イレギュラーズの皆さん、お疲れ様でした。
 楽しんで頂けたら幸いです。
 MVPは名推理だった方にお送りします。
 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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