シナリオ詳細
Gabriel Atelier
オープニング
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――クーヘンの黎明。
それはかつてバウムクーヘン一族が混沌大陸に闊歩していた頃に描かれたとされる絵画だ。皆、バウムクーヘンは樹木に擬態する性質を持つ存在であるとは当然義務教育で習っただろうが……しかし古代には平原にも生息していたと見られている。
その際の、種族単位における大移動は正に圧巻の一言であったという――
「巨大なるバウムクーヘン達の移動はバウムクーヘン一族の繁栄の始まりであったと目されていました……故に。その偉大なる光景を映した絵画は『クーヘンの黎明』と呼ばれる事になったのです」
「へぇ……! そうだったのね! これがクーヘンの黎明……!!」
『遊楽伯爵』ガブリエル・ロウ・バルツァーレク(p3n000077)の屋敷にて感嘆の吐息を零すのはキルシェ=キルシュ(p3p009805)だ――彼女は先日、別の依頼で魔物なのか混沌特有の動物なのか知らないが、動くバームクーヘンに出会っていた。
その際にそのバウムクーヘンが元になった『クーヘンの黎明』なる絵画を伯爵が所有していると判明し――どうしても気になったので訪れたのが今の経緯である。にこやかに出迎えてくれた伯爵がアトリエを案内し、奥に鎮座していたのが、大量のクーヘンの進行が描かれた『クーヘンの黎明』
とてつもない迫力を感じさせる油絵であった。
地平の彼方へと進軍する多くの群れの悠々たる一幕が描かれており。
これがクーヘンの黎明なのかと、キルシェは目を輝かせて……
「うちも初めて見たけれど……伯爵のアトリエにはぎょうさんこういうのがあるんやなぁ」
「ええ――なんなら他のも見てみますか? 折角です。
たしか皆さんの活躍が元になった絵画などもあった筈ですね……」
同時。件のアトリエにはキルシェだけでなく蜻蛉(p3p002599)も共に至っていたものだ。
眺める周囲には『クーヘンの黎明』のみならず他にも様々な絵画や石像なども鎮座しているもの。流石はこういった系統に深く根を張っている遊楽伯爵のアトリエと言うべきだろうか……どこまでもどこまでも続いているかのような広さもまた存在していれば、眼での楽しみが途絶えないものだ。
例えば伯爵が示したお勧めの絵画には他にも色々。
『勇者王の帰還』なる絵画は、かの勇者アイオンら一幕を描いた代物であり。
『桃源郷』なる絵画はかつてどこかに存在したとされる一都市の栄枯盛衰が描かれており。
『むきゃむきゃフェスティバル』なる絵画は、怒り狂う謎の大群が街を襲う恐ろしい光景が描かれており……んっ???
「ああそれから――新しい紅茶も入ったのですよ。
如何でしょう、ティータイムを楽しみながら、というのも悪くはないものです」
「そうね! あ、そういえばルシェ達、最近覇竜にもよく行くのよ!
ほら! お肉とかお菓子とか沢山持ってきてるの!」
「――ほほう? これは……亜竜の肉ですか。ほう。ほほう……これは随分と気になりますね……皆さんのご活躍は何処までも絶えない様です。ふふ。そういったお話を伺いたくも思いますね……」
と。キルシェが新しく訪れた覇竜領域での戦果(食物)を伯爵に見せれば――グルメ家たる伯爵の眼の色が刹那、変わるもの。そういえばイレギュラーズの皆さんにはまた『卵』を取りに行ってもらってもいいかもしれませんね――などと言っているが、何の事だろう?
……ともあれ今日は伯爵のアトリエや屋敷で、彼と共に穏やかに過ごしてみようか。
偶にはゆったりとした語らいも――きっと悪くないものだから。
- Gabriel Atelier完了
- GM名茶零四
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年03月26日 22時40分
- 参加人数7/7人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 7 人
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参加者一覧(7人)
リプレイ
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「ガブリエルお兄さんのアトリエ、色んな物があって素敵ね!
こーんなに広いだなんて! あ、兎さんの絵もあるのね!!」
遊楽伯のアトリエにて『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は目を輝かせるものだ――おっ。むきゃむきゃフェスティバルの絵も……このむきゃむきゃさん、どこかで見た事がある様な……あれれ? なんか今眼が動いたような……きっと気のせいね!
「キルシェちゃん、そない走ったら危ないからゆっくりとねぇ……それにしても伯爵さんの画廊。興味本位で付いてきてしもたけど、ほんに広くてびっくり」
「にしても、いや、あの、ホントに広くない?
先が見えないというか……うわっ、アタシのもあるじゃん!」
「ええ。ジェックさんのは相当ありますよ。」
そんなキルシェの様子を微笑ましく『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)は見据えるものだ。同時に『白砂糖の指先』ジェック・アーロン(p3p004755)の視界には――自分の絵画がなんと眼前に。
それぞれが立派な額縁に添えられている。直近ので言えば『ジェック 参戦!』と名付けられた勢いのある代物や、花畑の中に在る己が愛し人との一枚などなどが目に見えただろうか……今後の参考にと他の人を見たかったのに、アタシの比率結構多いな……?
「はうはう、ニルはおえかきするの好きですけど、こんなにいっぱい絵を見るの、はじめてなのです……はっ! 伯爵様、これはなんの絵ですか? これは、これは?」
「そちらは『晩餐の欠片』というタイトルですね。
皆で食卓を囲む中の、食されている食べ物の一つに焦点を絞った絵画です」
なんと。おいしいのでしょうか……伯爵が指差す先の絵画を見て吐息を零すのは『おかえりを言う為に』ニル(p3p009185)だ。おいしいごはんも、きれいな景色も、たのしいできごとも――きっと此処にはあるのだろう。
そしてそれらをみんなみんな形に残すことが出来るのが『絵』……
「ニルは、絵ってすごいなって思うのです」
「……ええ。芸術家の皆さんにより至高が詰まっています。鮮明なる、命として」
ニルの好奇心が渦巻く。あぁどれもこれも素敵なものばかりだと――
「んむ。分かる、分かるぞ。妾もだてに長年高等遊民(ニート)やっていた訳ではないのじゃ。時間はあったからのう。色々な文化、芸術は少しばかり嗜んでおるぞ」
「おや、貴女は……亜竜種の方ですね?」
同時。その背の方から物知り顔な表情で並ぶ芸術に目を向けているのは『元ニートの合法のじゃロリ亜竜娘』小鈴(p3p010431)である。異国の文化を学んで覇竜の地に輸入するべく、磨かれた彼女の高等遊民(ニート)技術が光るものだ――
「然り。まぁ、こうなった今だから判るが覇竜の地はフリアノンですら辺境も辺境なのじゃ。文化も含めて色々と輸入をせんと、取り残される一方だしのう――じゃが、興味があるのならば後で覇竜の地も聞くかの?」
「是非。今まで人類が辿り着いた事のない地ですからね……好奇心が、ふふ。抑えきれそうにありません」
そうかそうか――ともあれ、今は素晴らしき数々を眺めるとしようか。
「初めまして、バルツァーレク伯爵。私はブレンダ・スカーレット・アレクサンデル。こうしてちゃんと顔を合わせるのは初めてでしょうか? 本日はよろしくお願いいたしますね」
「――ああ、貴女がブレンダさんでいらっしゃいますね。ご高名はかねがね。
ライヒハート卿からもお話は度々伺っておりますよ」
そして『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は伯爵へと丁寧なる言を紡ぐ――とか思ってたら、なんだ? 今、なんと? 度々?
「……あの、シル……ええと。彼とはお会いになられるので?」
「ええ時折ですが。当家主催のパーティなどで――度々」
度々。その度に話題に出していたりとか――? いやそれは考えすぎか――? でも伯爵は随分と優しい微笑みを見せているぞ――どういう伝え方をしているんだシルト――!?
ともあれ! 表面上は極めて冷静にブレンダは務めるものだ。
周囲を眺めれば私達イレギュラーズを題材にした絵も多くて……んっ? なんだこのTADIMAなる画家が描いたちょっとよろしくない系の絵画は――! よし、ノータッチといこう! と、視線を別の場所に移せ――ば。
「やはり、それが目に留まられますか」
「……えぇ。そう、ですね」
眼が離れぬ一枚が其処にあったのだ。
この世界に訪れて二年足らずだが――沢山の出来事があった。
その中でも一番は、やはりこれだろうか。
映りしはシルト。彼との思い出が、瞳を閉じれば其処にある……
直近では、あぁ。正装にして紅き衣に身を纏い、その歩を合わせた……魂の寄り添いたる舞踊。
タイトルは――『Shall We Dance?』
●
伯爵と巡り往くイレギュラーズ達。
どれもこれも美しいものばかりで眼が奪われる――その最中に。
「この度はお招きいただきまして有難うございます、バルツァーレク伯爵」
「――リアさん」
意を決して、言の葉を導いたのは『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)だ。
……これほど近くに『彼』を感じるのは、いつ以来だろうか。
『――お元気でしたか?
――お疲れではないですか?
――何か力になれる事はありませんか?』
語り掛けたい言の葉は幾つもある――けれど。
今は二人だけの世界でないのなら。今は秘めて、時を共にするとしよう。
「これほど素晴らしい絵画が多く在るだなんて、流石伯爵の……え、ジェックのがある……? ちょ、ちょっと待ってくださいガブ……バルツァーレク伯! まさか、イレギュラーズの活躍の絵画があるという事は」
その、例えば!
「あたしのも有ったりするのですか!?」
「…………ええと。そうですね、その……」
「く、くくく口淀まれるのはどういう意味合いが含まれているのですか!!? あの、あのぉ! 絵画と言うのは全てが真実を描いているとは限らないと私は思うのですが、伯爵様は如何にお考えでしょうか!!!」
「……確かに芸術とは完全なる創作による成立もあり得るモノ。であれば、必ずしも全てが真とは限らぬものです――ええ。私もそう思っております。はい」
どうして目を合わせてくれないんですか伯爵!? 伯爵――!!?
刹那。視界の奥の方で『何か』が見えた。
ソレは巨大な絵画。五人のシスターが何やら立ち並ぶ……いや拘束され並ぶ様な光景の。
「…………あぁ、いえ、その、すみませんなんでもありません
皆さんの絵画楽しみですね!! さぁあちらの方に参りましょうか!!」
「わわ。リアさん、どうされたのですか? 汗が、ものすごい、のです」
何でもないんですよニルさん――ええ!
リア・クォーツ、眼を逸らす。思い起こせば色々と『危ない』ものが多いのだから――!
とは言え。(リア・クォーツプロの真実はともかく)明らかなる真を映した絵画も存在するものである。それが。
「……あぁ。これ。これも此処に収められてるんやねぇ……」
蜻蛉の見据えた一枚――浜辺の想い出であった。
それは海洋での戦いが終わった後、遊びに行った海での一枚――
空より降り注ぐ温かな日光にも負けぬ笑みの色が其処にあった。
「美しい表情ですね。心の底から幸福足らねば、こうはなりません……
しかし……気になるのですが、この構図は……」
と、その時。
伯爵が彼女へと言を紡ぐ――見た限り絵の中に在るのは蜻蛉ただ一人だ。
足で跳ねる海の水面の飛沫。蒼き空の下に彼女があり。
……されど、よく見据えれば。彼女の笑顔は『誰ぞ』に向けられている様な気がして
「この時、誰がいるんかいたんか――と?」
さすれば。彼女は口元に人差し指一つ。
――内緒です。んふふ。
語り尽くせない色々があるのだ。綺麗な空と海の青が大好きだけれども。
それ以外。描かれていない場所に確かに存在した『何か』も――好きなのだと。
「蜻蛉ママ……美人さんだわ! でも、モルモットの絵は無いのかしら?
モルモットの絵は滅多にないの……こんなに可愛いのに、どうしてかしら……」
同時。キルシェはあっちを見てこっちを見て……しかし、気付いた。
モルモットの絵が無い。どうしてみんな描かないのかしら……! と、彼女が抱き着くのは傍にいる巨大モルモットである『リチェ』だ。仲良しなリチェはモフモフしており、まるで極上の毛布が如き感触……『ぷぷぷ』という鳴き声がなんとも愛おしく。
「おや。たしかキルシェさんの絵画に時折映っているモルモットですね――リチェさん、というのですか」
「そうよ! あ、ガブリエルお兄さんもリチェもふもふどうかしら?
ふわふわであったかくてお日様の匂いで幸せになれるの!
ほら、リチェも良いって言ってるわ!」
「ぷぃぃ~♪」
ではお言葉に甘えて、と。ガブリエルは納められる絵画に時折映っていたリチェのもふもふを堪能するものだ――人程のサイズがあるモルモット。そのもふもふは正に極上……
「うーむ……しかし、本当にこれは圧巻だ……
私自身の本分は武具や刀剣の類だが……それでも尚に『分かる』」
と。言うはブレンダだ――先の色々危うい己が絵姿はともかくとしても、素晴らしい風景がの数々を見据えれば彼女の心が導かれるもの。これでも父がこういった系統を嗜んでいたのでそこそこ知識はある。
「おぉ。ブレンダさんも分かっていただけますか、この芸術の数々が」
「はい。流石に、生まれた世界が異なりますので、価値までは算定出来かねますが……しかしそれでも、絵画に込められた技術と魂は感じ得るものです。そして何よりこれだけの数を兼ね揃えるなど……」
「数に関しては保護、の観点もありますがね。芸術品は、確かなる保管を成されねばすぐに劣化し駄目になってしまいます――ぞんざいな扱いをする人物に渡るのを防ぐ意味でも、私は些か積極的に保護している次第でして」
成程、とブレンダは相槌を打ちながら絵画を見据えるもの。
見ていて飽きがこないのもまた、これらに込められし技術が素晴らしいからだろうか?
時を忘れて熱中すらさせる。これが芸術の真価……
「さて――一度お茶でも入れましょうか。如何ですか? 当家の紅茶もご用意しますが」
「ほほ~ならば、妾からも馳走しようかの。土産を持ってきたのじゃ――ほれ」
と。まだまだ歩いてもいいぐらいなのだが。
いつの間にやら時間も経っていたようだ――故に伯爵が皆を別室に招待するもの。さすれば小鈴が取り出したのは……力強くも複雑玄妙なドライ・ジン。覇竜領域をイメージした――『フリアノン・ジン』である。
「他にも食材も持ってきておるでの。折角なので厨房を貸してもろうても良いかの?
亜竜の郷土料理。是非に堪能してもらえれば幸いじゃ」
「これは素晴らしい……! 覇竜領域の食材など、私も中々食した事がありません……!」
「んむ。代わりに、と言ってはなんじゃが……
こちらの国の茶と料理……菓子を食べさせて貰えると嬉しいのじゃ。
店で買えん事も無いが、伯爵殿の屋敷で出るものならば一級品だろうしのう」
ええそれは勿論。こちらの料理もぜひご堪能ください――
小鈴が己が祝福によって生み出した従者を厨房へと向かわせれ、ば。
「あっ! えっとね、ルシェも持ってきたのよ! ほらこれ!
亜竜のお肉と向こうで貰った果物とジャーキーとワイバーンの卵持ってきました!
蜻蛉ママだったら、どんな風に料理する?」
「――えっ。持って来た食材でお料理するん?
ふふっ。キルシェちゃんの言う事なら、なんなりと……でもどないしたもんかねぇ」
キルシェも持ち込んでいた食材と共に厨房に向かうもの。
蜻蛉ママにも声を掛けながら……
しかしどうしたものか。お肉の類はともかくとしても――あぁ。
「そうねぇ、せっかくやしお茶に合うように焼き菓子にしましょか。
これなら多分『クッキー』も出来る筈やから」
「分かったわ! 蜻蛉ママの料理はあったかくて優しい味だから好きよ!」
一度はバウムクーヘンも考えたのだが、そちらはシェフ達に任せるとしよう。
それよりもクッキーならばキルシェにも、型抜きやらで共に作業が出来るものである――星形、兎さん、モルモット型に……おっと、その形は?
「……まぁ猫さんやの。嬉しいわ。形がほんに愛くるしい――」
和気藹々。紡がれる匂いが既に絶品の想定すらさせて……
「覇竜ですか? 覇竜ならニルはこの間、からあげを食べました!」
「ほほう唐揚げですか――鳥ですか?」
「色々いました! とってもとっても『おいしい』ごはんだったのです!」
にこやかなるニル――しかし彼女の言う『おいしい』とは、普通の者とは異なる意味を持っているものだ。みんなでいっしょのごはんが……ニルは大好きなのだから。
「あ、そうです! ニルはたまごとかプリンとか持ってきました!
伯爵様はたまご、好きなのですか?」
「たまご、ですか――ふふふ。ええ、とても好きですよ。
…………また卵の依頼を出してもいいかもしれませんね」
「??? だいすきならよかったです!」
どうも話を聞いてみれば、伯爵は食物であれば大概のモノが好きらしい――
例えば辛すぎるモノでも甘すぎるモノでも。食の楽しみはどこにでもあるのだと。
毒でも入っていない限り、彼は楽しむのであろう。
……そしてニルも楽しい。
味覚的な意味での美味しさは分からないけれど。
皆の温かさが。皆の優しさが――『おいしい』から
「今日のこの時間も、絵になって残ったら、きっと素敵ですね」
「――ええ。それはきっと、とても素敵な事ですね……」
紡ぐのだ。心の底から、どこまでもどこまでも本心の儘に……
そして料理が整えば皆で楽しむものだ。
小鈴の従者が作りし肉料理が、蜻蛉らのクッキーが。より取り見取り。
芸術を楽しみ食を楽しみ。紅茶の芳醇な香りに身を委ねて……
「ああ。実に甘美なる一時ですね……そうだ。お尋ねしたいと思っていたのですが、ブレンダさん――ライヒハート卿とは、如何なのですか?」
「え、ええ。そう、ですね。彼とは……一言でいうならば……」
良い関係を築けているかと存じます――えっ? こ、これ以上は言えない……こんなところで大っぴらに言えるわけないだろうが! そんな、この前のシャイネンで何をしていたかなんて……! 思わず紅茶を口に含んで誤魔化すものである。さすれば。
「いやしかし実に美味しい。これが覇竜領域の食ですか……素晴らしい。
しかしやはり皆さんでも、かの地は些か苦労があるのではないかとお見受けしますが。
特に――竜が住まうとされる地ですし」
「はは。覇竜領域はアタシはあんまり行ってるわけじゃないけどね。
ただ……そうだね。竜とは関わりがあったよ。練達の方で、ね」
「ジャバーウォックなる竜ですか。情報では得ていましたが……激戦だったとか」
「うん。それからアウラスカルトっていう竜もさ。ブレンダも別のと戦ってたよね――?」
「ああ、クワルバルツ――流石の竜と言った所だった」
流石に死を覚悟した一戦であったと、ジェックはブレンダにも話を振りながら、かの一連の出来事を思い起こすものである。ジャバーウォック戦には蜻蛉やニル、それにリアもいたものだが……
「うっかりと。一手間違えれば蒸発してたかも、ね」
あれ程の力があってこその竜なのかと、ジェックは想ったものだ。
……あまり時間は経っていない筈だが最近は激動の出来事に多く。すっかり前の様にも感じる。とはいえ練達には赴けばまだまだ爪痕は残っているか――まぁそれはそうとして。
「ああそうだ。食材は無いんだけどその代わりに……
リトルワイバーンを連れて来たよ。どうかな、伯爵」
「――これは、騎乗する事を想定したワイバーンですか……!」
「ルシェもドラネコとワイバーン連れてきたの! ドラネコは人懐っこいから遊んであげてね! この子はジャーキーも好きなのよ!」
庭の方。ジェックに案内され向かえばそこにはワイバーンの姿があった――
人に敵対心を持たぬ調教されたワイバーンだ。
「折角だからね。見せようと思って連れて来たよ」
「亜竜と言えば敵対するモノという印象でしたが……これは凄まじい」
「でしょ? こういうのが山ほどいるんだろうね――あそこには」
立ち並ぶ。その姿には、馬にはない壮観さがあるもの……一方でキルシェの連れてきたドラネコは猫程度のサイズであり、なんなら人に懐きもする為可愛らしいが。あぁ! 足元でスリスリするなんて、そんな、そんな!
「はは。まさかこのような亜竜達がいるとは……おや? リアさん、如何されました?」
「…………いえ、その……申し訳ありません。
少々体調が優れないので、私は早めに戻りたいと思います」
と、その時。
穏やかな心で過ごすガブリエルの視界の端にて――リアが頭痛を抑える様にしていた。
……何故だろうか。久方ぶりに出逢ったガブリエルとの一時であるというのに。
彼の旋律が――どこまでも『煩わしい』
「バルツァーレク伯は皆さんとの歓談をお楽しみください。
それじゃあ蜻蛉さん、後はよろしくお願いしますね」
「ええけど、大丈夫リアちゃん?」
「ええ――大丈夫です」
「リアさん……!? まさか、また――」
「いえ。違います。大丈夫、大丈夫です伯爵」
大丈夫ではない。けれど。もうダメだった。
こんな顔は。こんな己の旋律は見せられない。
……ごめんなさい、ガブリエル様。
どうして。
(貴方の、旋律だけ……! こんな……!)
駆けるリア。こんな姿は見せられないと――その場を後にする。
「ううむ? リアは様子がおかしかったの……
ま、ひとまずお開きするのかの――伯爵、今日はありがたかったのじゃ」
そして、小鈴が最後に伯爵へと礼を述べるものだ。
覇竜の外。己にとって未知多き場所にて。
目で見て。舌で味わって。
心で感じた文化が――確かに此処にあった。
「また来ても良いかの。迷惑でなければ、じゃが」
「無論です。皆さまに閉ざす門を、私は持ち合わせてはおりません」
故に、あぁ。またいずれ。
煌びやかなる芸術の園へと――訪れよう。
互いの文化を持ち寄りて。互いの心を持ち寄りて。
紡がれた美もまた……確かに此処に在ったのだから。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
伯爵との一時――如何でしたでしょうか。
ありがとうございました。
GMコメント
リクエストありがとうございます!
今回は遊楽伯爵のアトリエが舞台。
彼とのゆったりとした交流会となります……以下詳細です!!
ちなみに冒頭で出てきた『クーヘンの黎明』とは別のシナリオ(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7247)で出てきた要素ですが、特に該当シナリオを閲覧しておく必要はございません。
●依頼達成条件
遊楽伯とゆっくりとした時間を過ごす。
●フィールド・シチュエーション
遊楽伯爵の屋敷に存在するアトリエです。
此処には色々な絵画の類が納められています……『クーヘンの黎明』『勇者王の帰還』『桃源郷』『むきゃむきゃフェスティバル』などといった作品が色々と。
……もしかしたら皆さんの絵画(メタ的には、つまり納品されたイラスト)も並んでいたりするかもしれません。プレイングで指定……もといソレを見つけると、遊楽伯から何かコメントがあったりするかもしれませんね!
それ以外にも遊楽伯からお茶にも招待されている様です。
伯爵は最近交流が始まった覇竜領域などの出来事にも関心が高いようですので、紅茶などを楽しみながらゆっくりとした一時を過ごしてみるのもいいでしょう――彼も皆さんの活躍の話を待ち望んでいる様です。
……ちなみに覇竜から持って帰って来た食材などがあると彼は非常に興味津々です。ええ。シェフに即座に調理させるほどに――ええ。だって彼は美食家ですから!!
●ガブリエル・ロウ・バルツァーレク
遊楽伯爵と謳われる幻想三大貴族の一人です。
芸術や文化をこよなく愛する穏健派の貴族。
今日は皆さんと一緒に語らう日々を過ごしてみたいようです――
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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