PandoraPartyProject

シナリオ詳細

理想という妄想

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●あの時
 これは在り得なかった世界線の話だ。
 もしも『境界案内人』ラナードが元の世界で死の危機に陥っていなかったらどうなっていただろう。

「ラナード。お前の実績は認めるが、少し態度が悪いぞ?」
「うるせ、他の奴等が弱すぎるのがいけねーんだろ」
 死ぬ筈もなかった仲間のリーダーの言葉を軽く聞き流し、新しい依頼を見繕う。
 判断力も実力もリーダーより上だったラナードが見繕った依頼に、ちゃちなケチを付けるメンバーは誰一人いない。
「ねえラナード、次の依頼終わったあと暇?」
「また遊びに行こうってのかお前は、ちったぁ鍛錬しろ」
 思えば気の良い連中だった。少女の頼み事だったとはいえ、情で依頼を受けてしまうような奴等だったんだから、もし生きていたのなら今も仲の良いチームとして依頼を熟していただろう。

「冒険者ラナード。貴殿の活躍を称え、A級冒険者としての資格を授与する」
「おめでと、ラナード!」
「すっかり先を越されちゃったな、おめでとう」
「くっそー、俺も早くお前に追い付いてみせるからな!」
 栄誉あるA級冒険者の証を授与されるとき、C級からB級に上がったばかりの仲間は称賛を贈ってくれた。
 でも当然だ、俺はE級で仲間になった時からずっとお前らより強かった。
「なぁラナード、これからも俺たちと――」
 ……。
 …………でも、そこで視界は暗転した。

「――なんだ夢か」

●理想を見せる扉
「理想だと?」
「ええ、それは貴方が心から望んだ理想の結末です」
 『境界案内人』イヴ・マリアンヌは、ラナードが見たという夢に一つ注釈を入れた。
 理想という夢は時に儚く、厳しい現実というものを否応なしに受け入れなければいけない場面もある。
「貴方が元の世界で窮地に陥った時、イレギュラーズの介入で貴方だけ命からがら生き残りました。
 それを気にしまいと、忘れようと様々な世界で彼らイレギュラーズと行動を共にしていたようですが、貴方は自分が思っている以上に仲間想いだったというお話ですよ」
 淡々と告げるイヴにラナードは一瞬ムッとした表情を浮かべたが、じきに真っ直ぐとした目を向けた。
「別に否定はしないけど、よ?
 俺は今が楽しくないなんて想ったことは微塵も無いぜ」

 過去を振り返ることは別に悪いことじゃない。
 後悔先に立たずなんていうけれど、あの時ああだったらって妄想を偶にはしても良いじゃない。
 だからせめて、夢の中でくらい――。

NMコメント

 幸せを見に行きましょう。
 牡丹雪です。


●目標『幸せを見る』
 当ラリーシナリオは、あなたの『幸せだった結末』を夢で見ていただきます。
 『もしあの時こうだったら……』とか、『今後もしこういうことがあれば……』など、その人の理想に沿って物語は進み、幸せな世界線を冒頭のような短いSSのように描写致します。
 あくまで夢オチという扱いですので、混沌肯定による制約や現実では有り得ないことを書いて頂いても構いませんが、それは一貫して幸せなものであってください。

●他に出来る事
 プレイングに【対話希望】と記載した場合、夢を見たていでイヴと対話ができます。
 こちらは『もしそういう未来があったとして、今の心情や考え方』を記載すると、より鮮明な対話が行われると思われます。

●NPC(※対話希望を記載した場合)
『境界案内人』イヴ・マリアンヌ
 姿はOP画像参照、とても穏やかな女性です。
 基本的に聞き手に回り、その夢の内容を知っているように話します。
 対話する場合、夢の内容を熱心に語るもよいですし、イヴの言葉に決意を新たにするのも自由です。

●プレイングについて
 あなたの”幸せ”を聞かせてください。
 あなたの”最高の結末”を妄想してください。

 夢はきっと、あなたに一時の慈悲と安寧を与えるでしょう……。

●アドリブについて
 当シナリオはアドリブが含まれる場合がございます。
 アドリブNGの場合は通信欄等に記入いただければ幸いです。

  • 理想という妄想完了
  • NM名牡丹雪
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年04月26日 21時45分
  • 章数1章
  • 総採用数5人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ

●何も知らない幸せな世界
 帰りの道標を失い、何度その存在に手を伸ばしただろう。
 仄かな光に照らされて、マリンスノーを纏った彼女は美しかった。
 どうして? 嬉しい筈なのに、何故だか彼女の顔を見ると涙が零れる。
 どうしたの? 首を傾げた彼女は、優しくおれの涙を拭ってくれる。
 まだ、覚めないでくれ。もう少しだけ、平和な夢の中で。緩やかで穏やかな、何もない日々を。

「貴方は心から、故郷に”帰りたかった”のですね」
 涙道を残したトスト・クェントに、イヴはそう語りかける。
 ひと時の幸せ、もう一度愛した君と別れた彼は、知らず内に涙を流していた。
「うん。あの時の僕は、確かに疑いも無くそう願っていた……と、思う」
 記憶の封印された、遠い遠い夢の中。外の世界を知らない自分。
 或いは、召喚されずにあの水底でずっと過ごし続けた自分。
 閉鎖された空間で、外の世界や現実、何もかも知ることを放棄したのならば、死ぬまで己の故郷を疑う真似はしなかっただろう。
「地底の方が地上より平和だと思っていた。 ……けど」
 本当にそうなのか?
 脳裏に過るとある疑念は、今となっては拭うことが出来ない。
 己の見た、霊喰集落の海の底で抱いた薄ら寒い既視感は何だったのか。
「現実というのは、時に過酷で残酷です。
 前を見据えなさい。そして決して、疑心暗鬼に囚われないように」

 ――あくまで夢は、自分に都合の良いものばかりなのだから。

成否

成功


第1章 第2節

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮

●アイロニカル
 それが”仕方のないこと”だというのは、嫌というほど知っている。
 それでも俺は、ローレットという存在を恨まずにはいれなかった。
 ローレットさえ無ければ、大好きな姉が死ぬことはなかった――そう考えてしまうのだ。

「危ないことはしちゃダメよ、アルヴィ」
 誰かが呼んだ。時々忘れてしまう、自分の本当の名前。
 何処か懐かしい気がするその声に振り返ってみれば、そこには優しい顔の姉が居た。
 気が付けば、ふかふかの椅子より座り心地のいい膝の上に引き寄せられる。
「姉、さん……?」
「ふふ、改まっちゃって、どうしたの?」
 突然すぎる再開に固まっているアルヴィを、姉はギュッと抱きしめた。
 何か、決して忘れてはいけないことを忘れているような。ぼんやりとした記憶の中、姉の心地よい香りに包まれ、どうでもいい気持になってしまう。
「えへへ、お姉ちゃん大好き……」
「お姉ちゃんもアルヴィが大好きよ」
 決して裕福な暮らしとは言えないけれど、姉が居るだけで幸せだった。

 ローレットはお金をくれたけど、愛はくれなかった。
 お姉ちゃんはうんと、僕に愛をくれた。
 僕はそれ以外いらなかった。
 あれ、ローレットってなんだっけ……。

「ずっと、ずーっと一緒よ、アルヴィ」
「うん……」
 例え歪んでいたとしても、僕にとってそれが一番だった。
 姉さんはずっと頭を撫でていてくれてた。

 僕の目が覚めた時、後を追ってしまわないように。

成否

成功


第1章 第3節

レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)
青薔薇救護隊

●人並みを願う大罪は
「ママ、今日の夕食はなあに?」
「何にしましょうか、××は何を食べたい?」
 黄昏の黄金に照らされた街角の、とある親子の会話だ。
 そう、何も不自然ではない。至って普通の親子の会話。

 ――それが人並みを獲得できた者であれば。

「ここは、また……」
 目を開けばそこは、何度も観た同じ景色。
 同じだからこそ気付くことのできる共通点、これは夢だ。
 輝かしい黄金に照らされた街角で――このまま待てばもうすぐ。
「レイア、レイア?」
 背後から、もう聞き慣れてしまった声に私の名前が呼ばれる。
 振り返ってみれば、そこには本来いる筈のない母がいるのもいつも通りだ。
「ここに居たのね、レイア。一緒に帰りましょう?」
 あり得る筈がない。でも、そう願わずにはいられなかった。
 何もかも円満で、優しさと温もりに包まれた、理想的な世界を……。

「――お母さま、それでも私は」
 素足に施されたメッキが剥がれ、紛い物の足となる。
 世界は残酷だ。それでも人は、与えられた姿で歩いていかねばならない。
「そう……貴女は行ってしまうのね」
 だから私は、振り返らず歩き出した。
 その姿を見てしまえば、妄想に囚われてしまう気がしたから。
 ――私の内に秘める大罪が、其れを願ってしまうから。

「強いわね、レイアは。――いってらっしゃい」

 ――ぽたり。
 ――誰もいなくなったそこには、雨の跡が残っていた。

成否

成功


第1章 第4節

フーガ・リリオ(p3p010595)
青薔薇救護隊

●神はそれを当然という
 嘗て脳裏のほんの片隅にあった夢。
 華奢な身体付きに、ちょっぴりメイクを加え整った顔。確かな重量と質感のある胸部は、それが幻想であることを物語っていた。
 一体、いつからおいらはこんなに意識してしまっていたのだろう。

 それが夢だとわかった時、感じたことのない魔性に囚われた。
 力仕事も夜警もせず、只々綺麗なお花畑の上に寝そべり、風と香りを感じながら昼寝をする。
 時折鼻歌を空に逃がせば、夕暮れ時には家族が自分を見つけ、手を重ねることだってできた。

 ――心地よかったんだ。
 ――女性に強い憧れを抱いてしまったんだ。

 繋いだその手は柔らくて、暖かくて、そしてちぐはぐだった。
 嬉しいのに悲しくて、満たされるのに寂しくて……その和かさに違和感を感じてしまって。

「そうだ……おいらが握るべきなのは、これじゃない」
 違和感の正体に気付いた時、その手にはトランペットが握られていた。
 自分にしか奏でることのできない、美しくも可哀想な、黄金の百合。
 女の子になったら”自分”じゃない。だとすれば、この百合を誰に奏でることができようか。

「女の子ならと、簡単に言っちゃいけないな」
 きっとおいらがそれに憧れを抱くように、それはおいらに憧れを抱くだろう。
 別の自分に憧れるとはそういうことなのだ。

 握ったドラドへ口づけしたフーガは、そのまま静かに息を吹いた。

成否

成功


第1章 第5節

水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで

 ――い。
 ――おい。

「おい、妙見子!」
「ひゃわ?! 何事でございますの!?」
 気が付けばそこは、過去に見覚えのある宮廷でした。
 直前までの記憶が定かでない私は、耳元で大声を出す陰陽師に目を白黒させてしまいます。
「お前、本当に大丈夫か? さっきからボーっとしすぎだ」
 具合が悪いのか、熱でもあるのか、何か悩みごとでも抱えているのか――呆れた表情を浮かべつつそう心配し、おでこに手すら当ててくれたその男を見ると、どこか胸が苦しい気持ちになりますが、その正体はわかりません。
 しかし同時に、安堵や安寧といった感情を抱いてしまったことを否定はできないでしょう。
「熱は、無さそうだな。全く、体調でも崩して看病なんてさせられたら堪ったもんじゃない」
「ほ、ほほ……随分と辛辣ですのね?」
 男のその言葉が本音でないことなんて、お見通しの筈でした。
 それなのに、何故でしょうか――。
「お、おおおおい泣くなって! 嘘だ、俺が悪かった。看病くらいしてやるから!」
 ええ、私は傾国の狐。これはきっと泣き真似です。
 そう決めつけた私は、揶揄うように彼に舌を出し、悪戯な笑みを浮かべるのです。

 ――。
 あの時どうしてあんな選択をしてしまったのか、今となってはわかりません。
 けれど、私の中で”後悔”という名の楔として私の中に残り続けていることに違いありませんでした。
 そうでないのなら、こんな夢など視ることはございませんから。

成否

成功


第1章 第6節

「ふむ、理想を夢見ることに何か不満でも?」
「いや別に不満て訳でもねえけどよ」
 首を傾げたイヴに、ラナードはため息交じりに肩を窄めた。
 彼が乗り気でないのは心から願った冒険者としての再起が、暴走のちイレギュラーズに助けられたことにより境界案内人となり、最後まで叶うことがなかったからだろう。
「やっぱお前、人間っぽくねえよな」
「ええ、私が人間であることは私ですらわかりませんからね」
「まさか、緑色の血が流れてる訳でもあるまいし――いや、ロボットじゃねえよな?」
「あら、触ってみます?」
 イヴがからかうのへ、ラナードが顔を赤面させたのは言うまでもなく。
 結局、理想が適わずとも”彼”という存在は確かにここで生きて、笑えていた。確かに夢が叶えば嬉しかろうが、理想を現実にできる者などほんの一握りだけの存在だ。
 今その瞬間、後悔なき過ごせるよう。

「おや、どこか行くのですか?」
「ああ、久々に魔獣を斬ってくる」
「無理せずよう、ご飯までには帰ってくるのですよ」
「おかんかお前は!」

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