PandoraPartyProject

シナリオ詳細

勿忘草の咲く頃に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 その女の子は異物であった。だからソレはそぅっとその様子を見守る。
 異物ではあるけれど、悪意はない。ただこの地に降り注ぐ日差しを浴びて、咲き誇る花々を見ているだけだったから。ソレとて、異物を無差別に傷つけるわけではない。
 けれど最も大切なものがここの植物たちであることは変わりなく、故に危害を加えるような存在なら即座に倒してくれようと、ソレはどんな隙も見逃さないように彼女を凝視していたのだった。
「内緒にしてね。今、かくれんぼの途中なんだ」
 植物が隠してくれるわけもないだろうに、とソレは思う。彼らは皆、そこに在るだけのものなのだ。自身の意思で身体が動かせるわけもないのに、どうしてそんな言葉をかけるのだろう。
 思い出せば、その興味がきっかけだったのだと思う。何の、かはまだ分からないけれど。
(どんな人間なんだろう)
 ただ、ソレはとてもその子のことが気になったから。義務や使命のようなものを抜きにして、ほんの少しだけ彼女を見てみたくなった。
 植物たちの影に隠れて、ソレは彼女に近づく。葉の下から様子を伺うと、まず白い毛が見えた。髪と呼ばれるそれはふわふわで長くて、雪のベッドのようだ。うっかり地面まで届いてしまいそうで、擦ったら汚れるだろうにと毛先へ視線を向ける。目がどこにあるのかなんて、気にしてはいけない。
 本当は、誰にだって見えないはずだった。いつ空気に混ざって消えてしまうかもわからない、ひどく淡い存在だったから。
 だというのに――。
「あれ? もしかして……精霊さん?」
 声が落ちてくる。視界を上げる。

 その『眼』と視線が合った途端、意識が薄れて――。


「――!」
 少しばかり、意識を飛ばしていたか。『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は知らず知らずのうちに詰めていた息を吐きだした。
 視界に揺れた青。風になびくその姿。何が引き金だったのか、それとも何もかもがキッカケだったのか。心を落ち着かせるように小さく吸って、吐いて、自身の手を見下ろす。
(忘れていた、あの続き)
 今回も、想うところがあったわけではない。ただ無意識に歩いて、気付いたら辿り着いていた勿忘草の花畑。
 再び見ても思い出すことはないと言うのに、心がざわつくのは思い出したことがあったからか。

 だってあれは――あの少女の姿は、今のボク自身じゃないか。



「最近、ちょっとシャルルさんの元気がないんですよね」
 どうしたんでしょう、と首を傾げるブラウ(p3n000090)。最も、感情の見えにくい彼女を正確に捉えられるのは良く見ている者や、彼女の友人だろうが。
「なんでも、不思議な勿忘草の花畑を見たそうなんです」
 どうやってそこを訪れたか、そしてそこを離れたかもわからない。いつの間にか辿り着いていて、何故だろうかと考えていたら元の場所に戻っているのだと言う。
 そして、どういうことだか。その花畑を見た瞬間、『忘れていたはずの記憶』が呼び起こされるのだそうだ。
 人によってはそんなもの、不確かな妄想だと考える者もいるだろう。しかし心をざわつかせる其れが、全くの空想であると誰が断言できようか。
 心の底で蓋をしていたもの。
 本当は覚えていたはずなのに、年月を経て風化してしまったもの。
 シャルルだけではなく、他のイレギュラーズだって呼びこまれてしまうかもしれない。
「害はないと言っていましたが、皆さんも気をつけて。もしそんな場所に行ってしまったら、その時の事を教えてくださいね」

GMコメント

●すること
 『忘れていた過去』の追憶

●忘れていた過去
 この無辜なる混沌へ降り立つ際、失ってしまったものかもしれません。あるいはもっと以前に。
 もしくは覚えても居ないような幼い頃のお話かもしれません。
 この依頼に参加した皆さんは、気付けば忘れていた過去を見ています。過去から目が覚めたなら、一面に広がる勿忘草の花畑が見えるでしょう。
 PCが本来なら覚えている筈がない記憶(設定)を不意打ちで呼び起こしてみませんか。

 プレイングには忘れていたはずの過去について記載ください。PCについては当シナリオへ参加している場合のみ、名前の記載が可能です。
 また、参加者同士で同じ場面を思い出す(思い出の共有)も可能です。2名とも忘れている場合に限ります。

●ご挨拶
 愁と申します。
 以前出したシナリオの続きですが、新規で参加しても、継続で参加して忘れていた記憶の続きを見ても構いません。
 それでは、よろしくお願い致します。

関連シナリオ:『Forget-Me-Not』https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/1530

  • 勿忘草の咲く頃に完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2022年03月25日 23時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ビヴラ・スキアレイネ(p3p007884)
異端審問少女
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ
ツェノワ=O=ロフニツカル(p3p010170)
眠り梟
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼
アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(p3p010347)
アーリオ・オーリオ

リプレイ


「忘れていた過去、かぁ」
「忘れてしまえるというのは、ある意味幸せなことだと思うけどねぇ」
 首を傾げながら歩く『断片の幻痛』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)に『闇之雲』武器商人(p3p001107)はそう告げるも、その瞳はそっと伏せられる。
 誰もが忘却できるわけではない。それができることは、前に進む力にもなる。
(けれど、忘れたことすらも忘れていたら……それは少し、寂しいね)
 忘れるべきなのか、覚えているべきなのか。昔から今に至るまで、きっと未来まで続く難題だ。

「おや」
「あれ」
 2人はいつのまにか家に着いていたことに気づき、ただいまのキスをしてキッチンに向かう。2人で一緒に何か作っても良いし、おやつで小腹を満たしてしまっても良い。
「んー……? 小鳥、この調味料買わなくちゃ」
「この前、言ってたね……紫月、野菜もだよ」
 色々と思い出してきた。調味料、野菜、肉。油だって買い足さなければ。そんなことを考えていれば、関係ない――急ぎじゃないものとか、娯楽に関することとか――ものが次々と思い出される。お気に入りの入浴剤、どうなくなりそうだったじゃないか。
 なんて指折り数えていれば、なんだかおかしくなってきて。2人はどちらからともなく笑い出す。思い出すことがあまりにも小さなことばかりで、何とも平和なことだ。
「ふ、ふ。おかしいねぇ」
「ふふ、ふ……思わず笑っちゃった」
 けれど嫌なことを思い出すよりも、自身にまつわることを思い出すよりも、ずっといいと武器商人は思う。小さなことを思い出すことこそが大きな幸せだろう。
「こんなことだって、俺たち2人の幸せな思い出なんだなぁって……再確認しちゃった」

 ふと振り返れば、そこに少女が佇んでいた。ヨタカは誰だったかと首を傾げる。忘れているのだと言うことはわかる。思い出せそうで思い出せない、モヤの向こう側にいる。
(何処か懐かしくて……昔から変わらない……)
 モヤの向こうが捉えられない。けれど代わりに思い出すのは夢の中だ。そこでだけ時折出会う少女。最近は悪夢が多くて忘れてしまっていた。そもそも夢など不確かなもので、起きてしまえば忘れてしまうばかりだから。
「久しぶりに――」
 会ったね、と続けようとしたヨタカの目の前で、少女はほろほろとその形を崩す。崩れ落ちた先には勿忘草が広がっていて、突然どこかへ向かって喋り出した彼に振り返った武器商人もぽかんと口を開けた。
「小鳥……誰かと話していたのかい?」
「……いや。話す前に、消えてしまった」
 いつから幻の中にいたのだろう。家にいたと思った彼らはそう考え始めて、気がつけば帰路の途中にいた。どうやら家に着いた時点で幻だったようだ。
 けれど途中で思い出したアレコレ――食材とか入浴剤とか――がないことは確かなので、このまま買い物へ向かうことにする。
(また、今度)
 ――甘くて優しい記憶とはきっと、夢の中で出会えるだろう。



 規則正しく揺れて、やがて立ち止まる。全ては自分で行われているわけではなく、『異端審問少女』ビヴラ・スキアレイネ(p3p007884)は抱き上げている叔父を見上げた。
 叔父も、ビヴラも、他の人も皆、喪服を纏っていた。写真に映る母。そばに置かれた棺。動くことのない……母の遺体。
 父はネクロマンサーであったが、母を起こすことは無かった。虚しかったのかもしれないし、眠らせてやりたかったのかもしれない。そんなこと、幼い彼女に分かるわけもなかったが。
 けれど、ビヴラは思ったものだ。いつも自信満々で偉そうな父でも、こうして項垂れて泣くのだな、と。
 流石に父に聞ける雰囲気ではなくて、ビヴラは叔父は母のことを聞いてみた。返ってきた言葉は『変な人』だった。
 父は天才と自由半端を足したような男で、だと言うのに放っておけない、自分がついていなければ、などと言っていたのだとか。
 しかし不老不死という存在があるのだから、母が寄り添い続けることは不可能だった。それが――誰もが思わないくらいに、早かったと言うだけ。
「彼にとっては不幸なことであるけど、かと言って君たちがわるいわけじゃあないよ」
 父が竜になれなかったこと。なのにビヴラたちが竜として生まれてしまったこと。父が人間らしくあれる唯一の楔を失ったこと。
 全てが誰のせいでもなくて、けれどこの先に少なからず不幸が待っている。それを謝る叔父こそが、ビヴラと弟にとっては『父』だった。

「――あのヒトも人間だったのかしら」
 勿忘草の花畑は答えない。応えてもらう必要もない。
 あの人を許せるのか、許し如何に問わず会えるのかすらもわからないのだから。



 ぴちゃっという音とともに頬が濡れた。なんだろうかと『鏡に浮かぶ』水月・鏡禍(p3p008354)が手をやれば、ぬるりと指先が触れる。よくよく見ればそれは赤く、
(血だ)
 ようやく、理解した。
 のろのろと顔を上げれば、そこは広くもない和室の1室だった。いるのは女性が1人。手に刃物を持って踊り狂った彼女の着物は綺麗だったのかもしれないが、真っ赤に染まってしまっては何の柄だったのかもわからない。
「ねえ、どうして私を置いていったの? ねえ? ねえ! あははは!」
 泣いているのか、怒っているのか、笑っているのか。美人だろうその端正な顔を歪めて、泣いているのに笑い声をあげる様は正気とも思えない。
 彼女は終始そんな様子で、足元に転がった塊に刃物を何度も何度も突き刺した。その勢いで塊は跳ねるけれど、うんともすんとも言いやしない。当然だ、もうその付き人の命はとうに尽きているのだから。
(この人を、知っている)
 鏡禍はどうしてかそう思った。思い返しても知らないのに、確かに知っている、見覚えがあるのだと。その謎が解けないうちに女性は鏡禍の前へ立ち、刃物を振り上げる。
(殺される――!)
 逃げることもできず、ぎゅっと目を瞑る鏡禍。しかし衝撃は訪れず、代わりにびちゃっと先ほどとは比べものにならないくらいの血が降りかかった。頭にも顔にも体にも――全身にかかったそれは、けれど自分のものではない。
 ゆっくりと目を開けた鏡禍は、倒れている女性へ目を向けた。その胸には持っていたはずの刃物が刺さっているけれど、自身で即死するほどに深く刺すことは難しい。しかし時間が経てば失血死することは確実だった。
 耳を澄ませることなく、女性の言葉が耳に滑り込む。
「あの人は私のもの……他の人の所に行くのなら、呪い殺してしまえ……あの人は……」

 嗚呼、これは『僕が僕として初めて意識を持った時』の景色だ。
 恋に狂った女の血が鏡面を染め上げて、棲家の手鏡と姿見の鏡面が黒くなった日の記憶だ。
(思い出したくなかったな)
 強い想いは時として呪いになる。

 『愛する人を殺したい』想いで『僕』になった僕も、同じことをしないとは限らない。




「おかしいとは思わないか」

 暗い洞窟の、子供である『微睡む水底』トスト・クェント(p3p009132)の手のひらほどの穴からした声だった。けれど相手の問いかけにトストはかくりと首を傾げる。
「なにが?」
「全部だよ」
 仄かに光る鉱石に囲まれたその人は言った。
 何故こんな地底湖に暮らしているのか。何故外へ出ようとしないのか。地上との連絡役が1人だけの理由は。交易品の釣り合いは。
「だって、そういうもの、でしょ」
 特におかしいと思ったことは無かった。ここで暮らしているのも、昔の大規模な水害で流され、それでも生き延びた者たちが遠つ祖になったのだと聞いている。
 別に外へ出たいと思わないから出ないのだし、それならば1人だけが連絡役として『外へ行かされる』のも当たり前だろう。
 そうか、とため息混じりに呟いた彼は、でもなと続けた。
「……俺はおかしいと思っているよ。誰も何も疑問をもたないこともな」

 ひゅう、と鳴ったのは自身の喉か。トストは一面に広がる勿忘草に束の間魅せられる。
(これが、あの勿忘草……)
 確かに今、トストは思い出したことがあった。どうして忘れていたのだろうかと首を傾げたくもなるけれど、それはきっと今まで"気にしていなかった"からだ。
 改めて考える。おかしいところはなかったのかと。どうしてあんなところに人がいたのかと。
 わからない。わからない。わからない。
(わからないけれど、)
『おかしいとは思わないのか?』
 あの人の言葉がリフレインする。頭の中で反響して、何度も何度も問いかける。
 それでも。
「……やっぱり、地底の方が平和だったよ」
 だから、帰りたいのだ。



 その一族は生まれし日に長老より役目を受け、大樹の中で過ごす。『眠り梟』ツェノワ=O=ロフニツカル(p3p010170)も例外なく、書庫で生まれ落ちた彼女は、知識を護る役目を与えられた。
 外の世界は全然知らないけれど、本の中の世界は何だって知っている。特に花は好きなもので、眠くない時にはずぅっと図鑑を眺めていたものだった。
 けれど役目を果たせというように、彼女は不思議な夢を見た。住処一帯が火事になる、嫌な夢だ。
 それを普通ならただの悪夢だと一笑で済ませるものだろうが、ツェノワは少しずつ本を湖へ投げ入れ、燃えずに済むように保存を始めた。全てが湖に沈んだ翌日、彼女の住処は『燃やされた』のだ。
 どうして、と言うべきか。やはり、と言うべきか。起こった事態に呆然とした彼女へ近づく影があった。
「どうして、生きているんだ」
 それは同じ種族の少年だった。大樹にもよく出入りをしていて、そんなことをしそうな者ではなかったのだが。
「お前ごと燃やしてしまえば、その役目は俺の物なんだよ」
「……そんなことで?」
 思わず飛び出た言葉は返ってこない。あっと思った瞬間に少年の表情が憤怒の色に染まり、鈍く光るナイフがツェノワに向けられる。彼女は向かってくる少年を半身ずらして避けると、その背中を押し出した――今なお燃え盛る、火の方へ。
「うわあああああ! あつい、あついいぃぃ!!」
 火の中で少年が踊る。服を、肌を焼き焦がして、こちらへ逃げようと向かってくるも足を滑らせ地を這いつくばる。
 そんな光景に、何も感じるものはなかった。

「……ぼくは」
 人を殺したのか、と呟いた。泳ぐ視線に一面の花畑が映る。
 真実の友情。誠の愛。――私を忘れないで。
 そんな花言葉を思い出した彼女は、目を擦ると欠伸をひとつ。
(もう二度と、思い出したくないなぁ)
 楽しいものでもないのだから、思い出す必要がないならそれまでだ。
 気づけば見知った場所に戻ってきていて、ツェノワはいつもの場所へ微睡みに行く。何を思い出そうと、ずっと平穏に過ごせれば良い。
 叶うなら――続きは、優しい夢でありますように。



(忘れている記憶なんてあるわけないのだ)
 ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)はその話を聞いた当初、そう思った。だって忘れられないものばかりの人生で、思い出さなければ思い出せないものなどないのだから。
 だから関係ない――そう思っていたのだ。

 この日も彼女は秘密基地を訪れていた。家にいても母は自分を愛してくれなくて、逃げてきてしまったのだ。
(どうしたら母ちゃんは愛してくれるのかな)
 親に愛を求めるのは、まだ当然とも言える年頃で。そんな彼女は不意に落ちた影を見て顔を上げた。
「何か悩んでるみたいだね?」
 その人は忘れ物を取りに訪れたらしいのだが、彼女の様子を見かねて声をかけたようだった。
 面識もない青年だったが、何故か無性に引かた。母に愛されたいという心情を吐露したヘルミーネに彼は美しく微笑みかける。

「君には炎魔法の適性があるみたいだから、それを見せてあげよう。きっと喜んでくれる」

 教えてもらわなかったから知らなかったそれは、彼に教えてもらったことで扱えるようになった。僅か12歳の身であれど、ヘルミーネにとってはそう難しいことではなかったのだ。
 青年に別れを告げ、帰路へ着いたヘルミーネ。喜んでくれるのなら、愛してくれるのなら、その足取りはいつもの何倍にだって軽くなる。
「母ちゃん!」
 家はと駆け込んで、小走りに母の元へ。その手元に覚えたての魔法を現したなら、母の瞳にそれがゆらりと揺らめく。
 それから。それから――。

「――っ!」
 どくどくと血が駆け巡っている。胸に手を当てながらヘルミーネは視線を伏せた。
(忘れてるものなんて、ないと思ってたのだ……)
 あの人は一体誰だろう。魔法を教えてくれた人なんて、そう忘れることでもないだろうに。
 それに、何故だか。思い出してから、あの人のことが頭から離れない。こんなの――いつまでも昔の男を引きずっていた母と同じではないか。



 楽しい場所だったとだけ、知っている。ほとんど覚えていない、遥か遠い元の世界。
(そう、こんな風に――)
 いつしか『アーリオ・オーリオ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(p3p010347)は、混沌とは別の場所に立っていた。柔らかな日差しの落ちる、豊かな田舎町。きゃいきゃいとはしゃぐ子供たちが孤児院へ駆けていく。
 嗚呼、どうして孤児院だとわかるのだろう? それはアンジェリカが勤めていた場所だから。
(確か、戦争が終結した直後だったような)
 だから人々の表情がこんなに柔らかいのだろうか。
 蒸気機関の発達した世界では魔法が廃れ、戦争では数多の戦車や飛空艇が出された。そうして命が失われるたび、世界は不浄に覆われる。
 何度も繰り返し、行き止まりの未来に行きついていたその世界は、話に聞いたところによれば『その先』を掴み取ったらしい。創造神の箱庭は真実、人々の世界となったわけだ。
 けれど、その先のことは――知らない。

(……この花畑で薄れていた記憶が少し、戻ったような気がします)
 アンジェリカは目を瞬かせ、花畑に目を細める。まだまだ薄れている記憶は存在するが、少しでも知ることができたのは良かったと言うべきなのだろう。
 それに、あの先を知らなくとも、察する術がアンジェリカにはある。無辜なる混沌にいる知人は、自身の記憶より大人びていたから。
(無事に、世界は未来へと続いていったのでしょう)
 そこにアンジェリカがいなくとも、あの世界は昨日を過ぎて今日を歩み、明日へ向かう。
 アンジェリカが明日を迎える時、あちらもまた明日を迎えているのだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 思い出したものは、思い出したいことでしたか?

 それではまた、どこかで。

PAGETOPPAGEBOTTOM