PandoraPartyProject

シナリオ詳細

転げ落ちた夜が遠くて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――レミーア、僕はさ。立派なティーチャーになって、下層の皆にも良い暮らしをさせてあげるようにしたいんだ。

 天義を襲った『厄災』。大いなる災いを内包し乍らも、神の声は正しいと言い張った教会を弾劾する人々の声。
 その中で育ったレミーア・スティレットロは自らの命を経つことさえ考えた。
 少女の家は山間部に存在し、天義の信ずる神を敬虔深く信仰していた。
 父は巡礼者である。母は村長の娘としてレミーアとその弟を神をお支えする者とすべく教育した。
 跡取りは弟だった。レミーアはと言えば、幾つかの村が寄り集まって作った学校ではトップクラスの成績であった。
 この調子ならば白き都、『聖都』で学び聖職者になる事が出来る筈だと信じて止まなかった。
 だが、少女の人生が狂ったのは彼女が信じた神の膝元でのことだった。
 天義を暗き闇に覆い尽くしたあの『災い』は神が罪人ではないと判断した女によるものだったらしい。
 偽りの神であったことに絶望した母は頭を抱えた。父は信じられないと苦しみ、あの災いに巻込まれて死んだ。
 弟もそうだ。父と共に巡礼に出た彼はあの大いなる災いで死んだのだ。
 村人達の苦しみを見て入られず、聖都で学ぶ事の決まっていたレミーアは父と弟を奪った神を偽りだと認識し――アドラステイアへとやってきたのだった。

 アドラステイアのティーチャー・カンパニュラが私兵として飼う『蜜蜂』と『毒蠍』
 その偵察部隊のリーダーになれたのは持ち前の器量の良さだったのだろう。レミーアは『蜜蜂』で一部隊を任された。
 だが、憧れた『先輩』のプリンシバルは姿を消し、イレギュラーズはアドラステイアこそ偽りの神を抱いていると言った。
 彼らと接触した以上、この都市には居られない。レミーアは天義の騎士団に保護され、息を潜めるように過していた。


「ああ、来てくれたか!」
 天義、聖騎士団の詰め所でイル・フロッタ (p3n000094)は手を振った。
 呼び出されたのはコラバポス 夏子(p3p000808)を始めとする幾人かのイレギュラーズだ。
「アドラステイアの中層潜入で保護したプリンシバル、レミーアが皆に話したいことがあるそうなんだ。
 ……まあ、突然のことで『断罪』を免れるために外に連れ出した事もある。気がかりもあると思う。その、私じゃ力になれないから……よければ力を貸してやって欲しいんだ」
 アドラステイアに聖騎士団は手出しを出来ない。それは、全面的に聖騎士団が動けば内乱状態になるからだ。
 天義は近隣の幻想や鉄帝といった脅威に対して出来る限り余裕を見せておきたい。その理由もあり、アドラステイアに関してはイレギュラーズにほぼ任せているのである。
「こんにちは」
 ぺこりと頭を下げた少女は緊張した様子であった。夏子を見てほっと胸を撫で下ろしたのは――彼が、彼女を連れ出した時に同席したイレギュラーズであったからだろう。
「改めて、自己紹介させてください。私は『プリンシバル』レミーア・スティレットロ。
 アドラステイアの中層で過していた聖銃士です。皆さんが中層手形を手にした際に、手引きした事で断罪されるかも知れないと外への脱出を手伝って頂きました」
 藍色の瞳の少女は礼儀正しく頭を下げる。レミーアは魔術師の才覚を備え、偵察のために広域を見詰める『眼』を有していたらしい。
 だが、今もその才能は活かせない。外を出歩けば、オンネリネンの子供達を始めとした『アドラステイア』の包囲網に掛かり断罪される可能性さえある。だが、現状は彼女の選んだことだ。彼女は納得しているのだろう。
「実は、気がかりがありまして……。聖銃士の中でも特に優秀なティーチャー候補を『プリンシバル』と呼びます。
 私の先輩であったショーンと名乗っていた聖銃士がどうなっているのかを、知りたいのです」
 背筋をピンと正したレミーアはそう言った。彼女がアドラステイアに疑問を覚えたきっかけこそが『ショーン』であるそうだ。
 彼は下層の子供達の生活を良くすると努力し、ティーチャーとなる事が決定した。
 だが、待てど暮らせど彼は帰ってこない。上層に立ち入ることは出来ないが、中層と下層で彼の足取りを得られないかと言うことだ。
「私が蜜蜂で活動していたとき、中層でショーンを見かけたと言って居た子が居ました。
 中層にはショーンの幼なじみだったヒューゴが居たので、会いに行ったのかも。
 それから、下層にはショーンの妹のミレイアが居ます。ショーンはミレイアの貯めに努力していましたから。
 ……ミレイアも、出来れば何処かでまともな暮らしをさせてあげられれば……」
「じゃあさ、ミレイアちゃんも救い出しちゃえば? 天義じゃあ窮屈な暮らしだろうし、何処かで保護してあげてさ」
 夏子の提案に驚いた様子のレミーアは「いいのでしょうか」と俯いた。
「……イルから聞きました。アドラステイアは、皆さんにとっては敵。異形の神様を信じている『都市』なのでしょう?
 そんな、私達でも救われてもいいのでしょうか……」
 ――少女は心の片隅でショーンはもう死んでいると考えていた。
 だが、生きているはずのミレイアだけでも。ショーンのために良き暮らしをさせて上げたい。
 願うようにレミーアは「もしもよければ――」と震える声で絞り出したのだった。

GMコメント

 夏あかねです。

●成功条件
 ミレイアの保護
 (努力条件: +ショーンの足取り)

●アドラステイア中層
 中層手形は届けられており、レミーアが人数分準備してくれました。
 潜入時は周囲に気を配り、『アノニマス』や『インスタントキャリア』を使用するほか『大人が少ない都市』(大人はティーチャーやマザーのみ)であることに留意して活動して下さい。
 レミーアが活動していた周辺のみレミーアがざっくりとした地理を教えてくれていますが断片的な情報です。
 下層よりも潜入の際は危険がつきまといます。存在が不安視された場合は戦闘が起こる可能性があります。

 ・聖銃士ヒューゴ:ショーンという少年の幼なじみです。どうやら最近は聖獣様の世話をしているようです。
 ・聖獣様:アドラステイアではおなじみの異形のモンスター。ヒューゴが世話しているのは青い髪の天使様を思わせます。
 ・『ひかりの宿』:ショーンはどうやら此処で暮らしていたそうです(レミーア談)。

●アドラステイア下層
 アドラステイアの下層はスラムのような様子です。子供達に怪しまれないように潜入して下さい。
 中層の門に近い場所にミレイアは住んでいるようです。
 下層での危険は中層よりも大きくはありません。『潜入』を行う事に気を配り、行動して下さい。

●ミレイア
 レミーアが保護して欲しい対象の少女。
 非常に大人しいヒューゴの妹。まだ幼く、兄が逢いに来てくれることを待っているようです。
 髪は兄と同じ青い髪と青い瞳をした少女です。口癖は「神様が見ていてくれる」

●参考:『プリンシバル』レミーア・スティレットロ
 深い藍色の瞳の少女。『蜜蜂』の一部隊のリーダーでありプリンシバルと呼ばれる階級の聖銃士でした。
 <ディダスカリアの門>にてイレギュラーズに接触、協力したことでアドラステイアから逃げ果せ、現在は聖騎士団の詰め所で保護されています。彼女の身柄は引き受けることも可能です。現状では息を潜めて詰め所内で暮らしているようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 転げ落ちた夜が遠くて完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ

リプレイ


 もしもよければ――ショーンの妹を……ミレイアを、救い出してくれませんか。

 絞り出すようにそう言ったレミーア・スティレットロを思い出してから『イケるか?イケるな!イクぞぉーッ!』コラバポス 夏子(p3p000808)はやれやれと肩を竦めた。所在なさげで、不安げであったアドラステイアのプリンシバル。その地位になるまでは彼女とて口には出来ぬ過去があっただろう。
 それは察することも簡単だ。アドラステイアは生き残る為に誰かを蹴落とし続けるような場所であるからだ。『ステージ』の上で踊る鉄靴の娘、『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)にとっての日常を更に恐慌へと潜ませた世界――プリンシバルと呼ばれた立場が、どうにも耳に残って気にもなる。
「レミーアちゃんはさあ」
 夏子の嘆息する声に少女の方が跳ねた。『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)は一瞥をして、アドラステイアとは何と罪深き場所なのかと感じ取る。それでも、ルチア・アフラニアと云う少女は『アドラステイア』を否定はしない。夏子が「クソ食らえだ」と声を上げるような場所であろうとも『Dominus tecum est』――アドラステイアの神は誰ぞを救った。信じる神がなんであれ、救われたいと願う誰かを無碍にすることは出来ない。
(……異形の神というならば、異世界の神を寄る辺とする私の方が余程異端でしょうしね)
 ルチアは唇を噛みしめて夏子を見上げたレミーアを眺めていた。
「そーんな悲しそうな顔、しないでおいてよ。悩みを聞かせて貰っちゃった以上、力にならん訳にはいかんよね。
 救われたい子の力になろう。ってのがこの僕夏子なワケよ……とは言え皆も同じ気持ちだろうし大丈夫。
 大人はね。可愛い子には、頼って欲しいモンなのだ」
 そうだ、と笑いかけたのは『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)。
「幸せであっていいさ。ガキは幸せであるべきだ。ガキどもに罪を背負わせる大人は、いずれ大人代表として酷い目に合わせにゃ、なあ」
 振り仰いだヤツェクに頷いた夏子が「まあね」と笑えば、レミーアの瞳が大きく見開かれた。
 美しい、柔らかな色彩だ。夜を映したような眸が徐々に濡れ、雨の気配を連れてくる。
「でも、こんな私が――」
 ――そんな、私達でも救われてもいいのでしょうか……。
 その言葉に『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は「馬鹿ね」と笑った。
「当たり前じゃない。救われたいと思ったなら、いつだって救われていいのよ」
「ええ。救われていいかなんて誰かに聞くものじゃないわ。誰だって救われていいし救っていいの。
 助けてほしくて頼ってきた人を無下にしない優しさくらいは持ってるつもりよ?」
 ヴィリスとアーリアを見詰めて、レミーアは泣いた。
 お願いします、助けて下さい。雨垂れのように言葉を重ねて、震える唇は言葉にもならぬ嗚咽を漏す。
 その深い藍色の瞳は幼い子供の様に涙ばかりを湛えているのを眺めやってから『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)は征きましょうかと背を向けた。


 アドラステイア――天義の海沿いに出来た『新興』国家は堅牢なる壁に覆われていた。中層にまで踏み入る事が適えども進展とは大きくは言葉に出来ない。ウィルドにとってもあと一歩が届かぬのは何とも居心地が悪かった。
「スラムへの侵入か……俺も子供ではないし、可能な限り怪しまれない様にしないといけないな」
 下層での活動を中心とする『竜撃の』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)はファミリアーの栗鼠を仲間に手渡しながら思い返す。
 涙に濡れたレミーアを宥めていた『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)が少しばかり滲ませた不安。『壁の向こうの都市(アドラステイア)』の恐ろしさ。
『ミレイアを無事に保護出来たら、君も共にどうだ。君の為だけじゃない、ミレイアの為でもある』
 そう声を掛けたベネディクトはミレイア一人がこの都市を離れることは不安を大きくするだけだろうと告げた。少しでも共通点のあり、顔見知りと呼べるレミーアが共にあれば幼い少女は安心することが出来るだろうという提案だ。
『わ、私が……?』
『すぐに判断が難しいなら、考えておいてくれ。確かにアドラステイアは俺達の敵なのかも知れないが、そこに住む人々全てを敵だとは俺は思わないよ』
 アドラステイアの、子供達の中でも幹部級であったレミーアはそれでも、と言いたげであった。
 まだ、年齢の近しさを感じさせるタイムはベネディクトに促されて『レミーアさんとミレイアさんの思い出を教えて欲しいの』とそう囁いた。
 ――其れを思い出し聖職者を思わせる衣装に身を包んでいたタイムは息を吐く。潜入捜査ともなれば、自身が余所者である事がばれないように気を配らねばならない。ベネディクトが一緒であるならば、多少は安心できるがそれでも、だ。
「それじゃ、頑張りましょうか」
「ええ。良ければ子供の役は任せて頂戴」
 ティーチャーだらけの集団では悪目立ちするだろうとスラムでは良く着られる安価な麻の服に身を包んだルチアは自身の上背ならば子供として認識されるだろうと前髪で顔を隠しながら囁いた。タイムに手を引かれるルチアは「いってらっしゃい」と中層に向かう仲間達を見送った。

 ベネディクト、タイム、ルチアにファミリアーを預けたヴィリスは包帯で顔を隠して俯き加減で車椅子に座る。
 大怪我をしながらもアドラステイアでは聖銃士となるべく切磋琢磨をしてきた少女ジゼルは口数も少なく、自身の車椅子を押すティーチャーを振り返った。
「……ティーチャー」
「分って居るさ、ジゼル」
 優しく微笑んだティーチャー――夏子はヴィリスの車椅子を押しながら、ゆっくりと歩く。
 その傍らには変装や自身の持ち得るスキル全てを用いたアーリアが柔らかな笑みを浮かべて『ジゼル』の世話をし続ける。
「あの子、転んだわ……」
「嗚呼ジゼル、優しい子ですね。また一歩神の御許へ近づきましたよ」
 優しい微笑みを浮かべて、アーリアはジゼルの手をそうと握りしめた。敬虔な少女を気遣うように微笑んだティーチャーの姿を眺めやったのは聖銃士たちだ。『中層』は『下層』と違い、ある程度の地位を約束された子供達が多い。
「彼女の様にハンデがあっても、善行は積めるのだ」
「……そんな、ティーチャー……」
 目を伏せった『ジゼル』にアーリアは「誇るべきですよ」と穏やかに微笑んだ。まるで――『父を失うことのなかった』少女時代の続きのように、柔らかな声音は己のあり得なかった未来を象徴しているようで笑顔の裏に自嘲を隠した。
「彼女達はお互いを思い遣る事で無限善行を積んでいるのだ。励むのだ」
 頷いた夏子は人の近くに獣を思わせる存在が居ないかと探し求める。戻りたい、帰りたいと願う者。そうした淡い感情を探すティーチャーの横顔を見遣ってからヴィリス――『ジゼル』は呟いた。
「……ヒューゴ…と話したいの……」

 単独行動をする神父、ウィルドは中層の簡単な地図作成をしたいと考えていた。どうやら、元となった街そのものを使用して作られていることには変わりが無いらしい。
 古びた看板や、建物の様子を見れば聖騎士団に保存されているアスピーダ・タラサの地図やレミーアの発言と照らし合わすことが出来そうだ。
 歩き回りながら、ウィルドは助けを求める越を捜し求めた。
(……趣味の悪い実験やら何やらの現場が近くにあれば、おそらく反応はあるでしょう)
 ウィルドと同様に、自身の出自をひた隠すように偽装をするヤツェクは下層に抜ける際に利用する秘密の隠れ家を指定していた。
 レミーアや聖騎士団に聞いたアドラステイアのティーチャーの振る舞いはある意味、普通の聖職者そのものだと言えただろう。
 ウィルドが言う様な『趣味の悪い実験』は彼らにとっては神の元に至るためのものであり、ヤツェクが演じるティーチャーの在り方も『正しき聖職者』の在り方その者だ。
「ひかりの宿か……」
 呟いてからヤツェクは何らかの声を探すように歩いて行くウィルドの後ろ姿を見付けた。彼が視線を向けているのは、中層より更に上。
「どうかなさいましたか」
「いいえ、今日も鐘が美しいですね」
 微笑みを仮面として貼り付けたウィルドに声を掛けたのはおっとりとした女性であった。息を潜めて眺めるヤツェクはウィルドに声を掛けた女が新米のマザーである事に気付く。穏やかに下がった目尻に伸ばした金色の髪が美しい女はヤツェクには気付いて居ないのだろう。
「ええ、お祈りの鐘が鳴るまでまだ少しでしょうから……我らの神を象徴するようなあの鐘は素晴らしいですね」
「そうですね。あの『壁』の向こうは私も知らぬ場所ですが……」
 そう、ウィルドが察知した助けを呼ぶ声は壁を更に隔てた場所であった。更に上――中層よりも進んだ場所。底に何かが潜んでいるのだろう。
 新米マザーは「私も存じ上げないのです」と目を伏せる。真に認められたプリンシバルであれば向かう事が出来るのだろうが、落ちこぼれていたというマザーは子供達の教育係として中層に留まっているらしい。
「マザー、実は『ひかりの宿』という場所を探しているのですが」
「『ひかりの宿』……ここから下層に近寄った場所ではありませんか?」
 首を捻って自身も詳しくは知らないというマザーにウィルドは「そうですか」と頷いた。直ぐに動けば怪しまれる。話を聞いていたヤツェクは小さく頷いてから、そろそろと下層側への道を下った。
「そういえば、青い天使様のような聖獣様がいらっしゃるらしいですね。是非見てみたかったのですが……」
「まあ、私は知りませんわ。『お増えになったばかり』なのかしら」
 ウィルドはさて、どういう事であろうかと目を伏せてから丘を下るタイミングを見計らっていた。

 ウィルドは新米マザーを名乗る女の相手を続けている。どうにも、彼女の語る言葉はちぐはぐだ。
 一方で、彼が知り得た情報を通じて『ひかりの宿』へと向かったヤツェクは『ジゼル』とティーチャー達と出会った。
「おや」
「ご機嫌よう」
 微笑んだアーリアにヤツェクも同じように「ご機嫌よう」と笑みを浮かべる。
 ひかりの宿と呼ばれていたのは質素な街の宿場であった。扉を開けば、中には眠る聖獣の姿が見える。
「どちら様ですか」
 低く、確かめるような声音にヴィリスは「ジゼル」と名乗ってから頭を下げた。眠る聖獣は青色の柔らかな髪をしている。ブラッシングをする青年は「ヒューゴです。ティーチャー」と頭を下げた。
「綺麗な聖獣様ですね、貴方の献身が伝わりますよ」
 穏やかに微笑んだアーリアは息を呑む。鮮やかな青色。その色彩は『まるで、聞き及んだ兄妹』と同じ。
 ヴィリスが首を振ったのは動物疎通ではどうにもならなかったからだ。それは『人間』だとでもいうのだろうか。
「聖獣様の世話を私一人でしております。あまり近付きませぬよう。この聖獣は気性が荒いので……」
「なるほど手厚いの。彼女の後学の為でもあるのだ。
 しかし、目的は見つからなかった。かく言う私もショーン氏には助けられたのだ。何処でどうしているのか……気になるのだ」
 ぴくり、とヒューゴの肩が跳ねた。アーリアは「ええ、見なくなったのです」と不安げに眉を寄せる。
「……居なくなったの……」
 ぽつりと零した少女に「ジゼル」とヒューゴは声を掛けた。
「此処にショーンはいない。いないから、帰ってくれ。ティーチャーも。……彼奴はいないんだ。
 聖獣様が似ているから来たんでしょう? こいつは私が護ります。ですから、どうかお引き取りを!」
 強い語調でそう言った少年に夏子は「撤退しよう」と囁く。頷いたヤツェクは嘆息した。
 聖獣様――それが『そう』でないことを誰もが願っていた。
「あれじゃあ、まるで……あの聖獣が『戦いに出ないように』護っているようじゃない」
 呻いたアーリアに誰も何も言うことは出来なかった。


「青い髪の子供に用があります。聖銃士の妹で名はミレイア。知っていれば教えてください」
 キシェフを手にしながらタイムは柔らかに声を掛けた。彼女に手を引かれて俯くルチアは『アドラステイアの聖銃士の家族』であるように装う。
 ベネディクトはあまり派手には動きすぎぬようにと警戒し、気を遣った。品がある様子で弱々しさを醸し出すルチアに「大丈夫だ」と穏やかに微笑む様子は『下層の子供達』が想像するティーチャーそのものだろうか。
「ミレイアなら、あっちですよ。どうしてですか? ティーチャー」
「……ああ、すこし」
 ルチアを隠すように立ったベネディクトはそっとキシェフを子供に握らせた。ミレイアの居場所を囁き合う子供達の声に耳を欹てながらルチアはタイムと共に進む。
 傾いだ屋根に、扉はない。藁のベッドに腰掛けていた少女は「どちらさまですか」と首をひねた。柔らかな青い髪は癖と脂で固まっている。煤汚れたかんばせの幼い少女はぎゅうとスカートを握りしめてタイムを見遣った。
「こんにちは」
 微笑んだタイムに代わりルチアは「大切な話があるらしいから」と子供達へと声を掛ける。リーダー格であろう体格の良い少年にキシェフを握らせれば子供達は直ぐに小屋から距離を置いた。
「ショーンさんの妹ね。お兄さんと同じ聖銃士のレミーアさんは知ってる? 彼女から貴女を連れて来るよう頼まれたの」
 先ずはタイムはそう言葉を紡いだ。驚いた様子のミレイアは「レミーアちゃんが?」と首を捻る。
「信じきれないかも知れないが、ついて来てくれないか」
 中層への出入りを行う手形を見せるベネディクトにミレイアは「上……」と怯えたような表情を滲ませた。
「レミーアさんとは仲良くしていたの?」
 問うたルチアにミレイアはこくりと頷く。ベネディクトは「幼い頃には君とショーンと木登りをしたレミーアから頼まれたんだ」と彼女から聞いたエピソードを付け加える。
「あの、お兄ちゃんが木から落ちた時の。えへへ……お兄ちゃんは、元気かな?」
「分からないわ。けど、レミーアさんは貴女を連れてきて欲しい、って。
 大丈夫よ……怖い場所には行かないわ。いい子にしていたんでしょう?」
 こくりと頷いたミレイアの背をタイムは撫でた。ファミリアーに合図を送る仕草を見せたベネディクトは立ち上がったミレイアがタイムと手を繋いだことに安堵する。
 手を繋いで、「ついていらっしゃい」と囁けば少女は少しばかり途惑いながらも歩き出す。ルチアはその仕草に倣うように引き連れられるように歩き出した。
 こんな場所だ。子供が誰か消えても『選ばれた』程度で終わるだろう。下層はそうやって子供達を使い捨てて来たのだ。
 合流を目指すという中層のメンバーと合流するのはアドラステイアの外だ。潜入用の通路に戻りながらタイムはふと、下層と中層を隔てた壁を見遣った。
 ああ。嫌な予感ばかりだ――妹や下層の為に尽くした聖銃士。
 ヒューゴは聖獣の成り立ちを知ったのだろうか。幼なじみであったという二人はどのように『そう』なったのか。
(……どうか辛い思いをしていませんように)
 ミレイアはぎゅうと、強く握りしめられた手に「ティーチャー?」と首を傾いだ。
「いいえ……」
 彼女は何も知らない――ひとりずつ、すこしずつ。
 こんな腐りきった深い夜から子供達を朝日の下へと救い出すことが出来たならば。


「レミーアちゃん達、僕の領地来る? アドラステイアから天義の詰め所って、マシだろうけどまぁまぁヤでしょ。
 優しい女性も多いし 良ければおいでね。女性皆は来てくれるよね……?」
「ええと、」
 不安げに視線を揺れ動かせたレミーアの背中にぎゅうとミレイアがしがみつく。その様子を眺めてからアーリアとタイムは顔を見合わせて笑った。
「大丈夫よぉ。安心して。屹度、この人が護ってくれるわ」
「ええ。女性の事は命懸けで護ってくれるはずよ」
 二人の声かけに、ヴィリスは「そうね」と頷いた。ヒューゴとは相容れなかったがこの二人ならば仲良く出来る可能性もある。
 レミーアはアドラステイアの潜入などにも貢献できる聖銃士ではあるが、ミレイアはそうではない。彼女は幼く、何も知らぬ少女だ。
「私達は、役に立たないかも知れませんよ」
「構わないでしょう」
 振り返ったヴィルドに夏子は頷いた。ヤツェクは「子供が深く考えなさんな」と頭を撫でる。
「……仕事に行く前に、聞いただろう?判断が難しいのならば、お試しで良いだろう。君が新しい道を見付けるまでだ」
 ベネディクトが事前に声かけをしていてくれたことを思い出し、レミーアは頷いた。
「……宜しくお願いします。夏子さん。一応、炊事や掃除程度ならばお手伝いも出来ましょう」
「マジ? はは、宜しくねレミーアちゃん」
 ――立派なティーチャーになれなかったとしても、遣ってみたいことがあるんだ。人を導く教師という仕事だ。
 其れを目指そうとしたショーンを追って、あの街から救い出した誰かを導けるような。
 そんな『大人』になりたいとレミーアは俯き加減で語った。「良いんじゃない」と頭を撫でてくれた夏子の掌に、少女は幼い子供の様にまたも泣きじゃくった。

成否

成功

MVP

タイム(p3p007854)
女の子は強いから

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 レミーアとミレイアを預っていただけ、有り難うございます。
 まだまだ、先も見通せぬアドラステイアではありますが、問題の解決に一歩ずつでも近づけますように。

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