PandoraPartyProject

シナリオ詳細

囚人護送任務発令。或いは、砂漠の奥から来た女…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ヤギで来た
 ラサの砂漠の奥深くより、長い時間をかけて彼女は首都ネフェルストへとやって来た。
 灰を被ったようなウルフカットの髪型と、その両脇から伸びた捻れた角が目を引く女丈夫だ。
 縫い目の粗い外套を纏う体は細く、しかし引き締まった筋肉に覆われている。
 赤い目は鋭く、硬く引き結ばれた唇は乾燥していた。
 黒鋼のような蹄で熱い砂漠を踏みしめて、山羊を引き連れ1人、砂漠を越えてきたのだ。
 彼女の名はヘイズル・アマルティア。
 曰く、砂漠の奥の更に奥……1年を通して吹き止まぬ砂塵を越えた先に住む小さな部族“バロメット”の出身だという。
 長年、外部との接触を絶っていたバロメットは、砂漠の遺跡みたいに時間をかけて衰退し、いずれは消えて無くなる定めだ。
 部族の者も、ヘイズル自身も、それでいいと考えていた。
 どうやらそれはバロメットの人間全てに共通する思考であるらしい。
「永遠に続くものなど無いのだ。全てはやがて砂へと還る。ならば今を精一杯に生き抜いて、歌を歌って酒を煽ろう。そして明日滅ぶなら、それで良しとすればいい」
 ネフェルストの酒場にて、ヘイズルは上の口上を述べて、小樽一杯の酒を飲み干した。
 それから、ほんのりと頬を酒精に赤く染めたヘイズルは、同席していた盗賊あがりの姉妹へと「仕事はないか?」と問うたという。

 ヘイズルの目的は“文明の収集”であるらしい。
 彼女の部族、バロメットは長い間、外界との関わりを絶っていた。そのため、今現在、外の世界に何があるのか、情勢はいかなものか、などおよそ全てを知らなかった。
 滅び行く定めを良しとするバロメットの中で、ヘイズルだけはほんの少しだけ、外の世界に興味を持った。どうせ滅び行くのなら、その前に少し外の世界を見てこよう。
 そうして彼女は、砂塵を越えて、砂漠を旅して、ネフェルストへとやって来た。
「気に入ったものがあれば持ち帰る。“もの”って言うのは、何も形有る物品に限らないんだ。文化であったり、思想であったり、知識であったり、人であったり……そうして色んなものを掻き集めて、私は私のバロメットを造ろうと思う」
 なんて。
 ヘイズルは今日の天気でも話すみたいな気楽さで、自身の夢についてを語った。
 けれど、それには金がいる。
 何をするにも金はいるのだ。
 結果、バロメットの旅は一時的に終わりを迎え、代わりに路銀稼ぎの日々が始まった。
 文化に疎いバロメットは、文字の読み書きも、一定以上の計算も苦手としている。けれど、生まれ持った身体能力の高さだけは、誰もが目を見張るほどだった。
 喧嘩が強い。
 文化的な都市においては、ともすれば野蛮とも思われない彼女の長所を活かすのに、ラサの土地は実に都合の良い場所だったのである。
 果たして、ヘイズルは囚人護送の任務を請け負うことになる。

●ヘイズルの初仕事
「さて、今回の依頼は囚人の護送任務だ。目的地は砂漠の果てにある監獄塔……その入り口まで囚人が収容されている馬車を運べば任務完了となる」
 そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)は砂漠の地図を差し出した。
 移動予定のルートは、赤い線で表されている。
 結構な距離だ。最短で半日。休憩を挟めば1日近くはかかるだろうか。
「馬車といったが、荷台は分厚い皮のシートで覆われている。つまり、君たちが乗るスペースは無いということだな」
 万が一にも囚人を逃がすことが無いように……ということで、荷台は密閉されているというわけだ。中の囚人が暑さで命を落とさないよう、荷台には何らかの魔術が付与されているらしい。
「荷台を覆う皮のシートに魔法陣が描かれている。くれぐれも目的地に到着するまで、それが破損しないように注意してくれ」
 魔法陣が破損することで、中にいる囚人が暑さで参ったり、逃げ出したりするリスクが高くなるのだ。囚人とは言え、死刑囚では無い。死刑の命令が出ていない以上、その命は可能な限り守らなければならない。
「まぁ、何十人という旅人や商人を襲った奴だ。死刑になってもおかしくないような極悪人だが……何らかの目的があって拘束しておきたいらしい」
 手間の多い話だな、と。
 肩を竦めてショウは言う。
「さて、最短で半日。途中で休憩を挟むのなら1日近くの時間がかかると言ったことを覚えているか? 経路の途中で立ち寄るべきポイントが2つあって、それぞれの場所で君たちにはやるべきことがある」
 指を2本立てて、ショウは言う。
 1つは、経路の前半にあるオアシスの都市に立ち寄って、保存食を受け取ること。
 1つは、経路の後半にある遺跡に立ち寄って、“黒く光る石”を採掘すること。
「保存食はオアシスにいるパンタローネという老商人から受け取ってくれ。黒く光る石は、遺跡をよく観察すれば赤い線が光って見えるそうなので、そこを掘り返してくれ」
 食糧も、黒く光る石も、監獄塔の維持に必要なものだ。
 食料の受け取りと、石の採掘がスムーズに済んだうえで、トラブルなく進行すれば監獄塔には半日ほどで到着する。
「もちろん、トラブルが起きる可能性だってある。例えば、経路を縄張りとする盗賊たちや魔物が最たるものだろう。盗賊たちは【廃滅】【苦鳴】を与える毒を剣や矢に塗っているし、砂漠に現れる巨大な芋虫は【石化】を付与する毒液を吐く」
 そう言ったトラブルに備えて、イレギュラーズに護送が依頼されたのだ。
 相応に警戒してことにかかるべきだろう。
「それから同行者であるヘイズル・アマルティアには注意してくれ。あぁ、彼女が悪人というわけじゃないんだが……何というか、我々の常識が通用しないんだ」
 何しろ、つい最近まで文明とは隔絶された土地で過ごしていたのだから。見る物、聞くこと、すべてが新鮮なのだろう。
 戦力としては優秀なのだが……なんて、ヘイズルの経歴が記された1枚の紙に視線を落とし、ショウはため息を零すのだった。

GMコメント

●ミッション
囚人を砂漠の監獄塔へと護送すること。
※道中で2か所に立ちより“保存食”と“黒く光る石”を回収する必要がある。

●ターゲット
・囚人×1
護送対象の囚人。
馬車の荷台に拘束されている。
馬車の荷台は皮のシートに覆われており姿は見えない。皮のシートに描かれた魔法陣が損傷すると死亡や逃走のリスクが発生するため護送には注意が必要となる。

・保存食
経路前半にあるオアシスの街で回収。
パンタローネという老商人から受け取る必要がある。

・黒く光る石
経路後半にある遺跡で採掘する。
赤く光っている箇所を掘ることで手に入る。日中は見つけづらいかもしれない。

・盗賊たち×10~30
砂漠で悪事を働く盗賊。
身を隠す術に優れているようだ。
また【廃滅】【苦鳴】を与える毒を剣や矢に塗っている。

・サンドワーム
砂漠に住む魔物。
巨大な芋虫の姿をしている。
【石化】を付与する毒液を吐く。

●同行者
・ヘイズル・アマルティア
灰を被ったようなウルフカットの髪型と、その両脇から伸びた捻れた角が目を引く女丈夫。
砂漠の奥深く、砂塵を超えた先にある未開地よりやって来た。
身体能力は高いが、常識に欠ける。
路銀を求めて今回の任務に参加した。
また「気に入ったものがあれば持ち帰る」主義。

●フィールド
ラサの砂漠。
首都ネフェルストを出発。
経路の前半にはオアシスの街、経路の後半には遺跡がある。
スムーズに進んで半年、トラブルに見舞われたり、休息を挟めば1日近くの時間がかかる。
ラサの砂漠は過酷だ。
強い日差しに乾燥、砂塵、盗賊、サンドワームと幾つかのトラブル発生が予想される。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 囚人護送任務発令。或いは、砂漠の奥から来た女…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
鏡(p3p008705)
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
小鈴(p3p010431)
元ニートの合法のじゃロリ亜竜娘

リプレイ

●道中、砂漠の果てまで
 渇いた砂漠を馬車が行く。
 砂煙を巻上げて、走る馬車の数は3つ。そして、馬車と兵装するウォーワゴンが1台。
 先頭を走る馬車を牽くのは、精巧に造られた木馬であった。
 手綱を握る『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は、チラと後ろへ視線を向けて、暫く閉じていた口を開いた。
「約一日砂漠を行くんじゃ、徐々に疲労も溜まるだろう。水や果物を積んである。道中も交代で休めるようにしといたから、適度に摘まんでくれ。リコリスも腹が減ったら果物食べろよ?」
 ラサの商人にとっては、砂漠の長旅など日常茶飯事。事前の準備にも抜かりはない。例えば今回の面子でいうなら『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)や、砂漠の果てから来たというヘイズル・アマルティアなども涼しい顔をして渇いた風を浴びていた。
 一方、最後尾を走る馬車の御者席では『元ニートの合法のじゃロリ亜竜娘』小鈴(p3p010431)が口を半分ほど開けて、熱さに悲鳴を上げている。
「あーつーいーのーじゃーー。いや、この砂漠を歩けとか拷問なのじゃが!!」
 叫ぶ元気があるのなら、まだ暫くは大丈夫だろう。
 無言の時間が長く続くようになったらそろそろ危ない。
「然し、密閉の囚人とは中々に鮮烈なビジュアルですね。安全性と拘束力を両立しているのでしょうが……見た目が」
 ふわり、と。
 風に舞う羽のような身軽さで『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)はウォーワゴンの上に降り立つ。ハンドルを握る『狐です』長月・イナリ(p3p008096)が視線を横へ。
 ラダの馬車に牽引されるもう1台の馬車の荷台は、皮のシートで隙間なく覆われている。
 シートには魔法陣が刻まれており、それが内部の温度を一定に保っているのだ。また、内部に収監されている囚人を外へ逃がさない仕掛けも施されているらしい。
「馬車の中身には興味無いけど、この馬車の冷却方法は興味深いわね。施設に引き渡した後、調べさせてくれないかしらね」
 なんて。
 零した声は、砂漠の風に吹かれて消えた。

「囚人護送に盗賊魔物。ここまではラサなら日常だが、中継地で物資の回収も含むとどうにも慌ただしいな」
 やれやれ、といった様子で溜め息を零す『舞祈る』アルトゥライネル(p3p008166)は視線を左右へ泳がせる。
 ラダの操る馬車の荷台で果物を頬張る狼少女、『( ‘ᾥ’ )の化身』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)と、その隣で項垂れているエルス。
 そして、御者席に身を乗り出してラダのライフルを突っついているヘイズルの姿がそこにはあった。
「なぁ、これはなんだ? 火薬の臭いがするな? どうやって使う? 見たところ、この突起に指をかけて使うんだろう? 使っていいか? いいよな?」
「駄目だ。後ろで大人しくしていてく……まて、何を咥えている?」
 身を乗り出したヘイズルの口から艶やかで黒い何かが……髪がはみ出していた。それを見てアルトゥライネルはエルスが項垂れている理由を理解した。
「いい香りがしたから、つい……な」
 どうやらヘイズルは、エルスの髪を齧ったらしい。
 それを聞いたリコリスが、エルスの髪へじぃと視線を送っていた。エルスは齧られた髪の先を手に取って、怯えたように後退る。リコリスには化石を齧った前科があるのだ。髪ぐらいなら、何の苦もなく食むだろう。
 そして2人は同じ馬車の荷台に乗っている。
 逃げ場は無い。
「あぁ、皆さん。そろそろおしゃべりはお終い……オアシスが見えてきましたよぉ」
 喧噪を遮ったのは鏡(p3p008705)の声だ。
 馬車と並走する鏡は、伸ばした手を額に当てて進路の彼方を見つめていた。
 それから、視線を右前方へ。
「……ついでに盗賊らしい人たちも」
 オアシスでの食糧確保と、遺跡での採掘、そして囚人の護送。
 トラブルの気配が付きまとう、何ともハードなミッションだ。

●トラブルは津波のように
 それはアルパカか、それともラクダか。
 否、その生き物の名はパカダクラ。
「先行して様子を見て来る。盗賊も来ているみたいだし、皆は馬車の警護を頼む」
 そして騎乗するのはアルトゥライネルだ。するりとオコジョに姿を変えると、馬車を追い越しオアシスへ向かう。
 トラブルのリスクを下げるため、先行して様子を見て来る心算だろう。
「はい!ボクは保存食をもらう係がいいです!」
 馬車から身を乗り出してリコリスは元気に手を挙げた。
 その隣ではヘイズルも同じように挙手している。じっとりとしたラダとエルスの視線を受けて、リコリスはこてんと小首を傾げる。
「……大丈夫だって! 化石みたいにつまみ食いしたりなんかしないから安心して?」
「そうだぞ。私も付いているんだから、心配はいらない」
 そう宣言するリコリスとヘイズル。
 無言の視線がさらに幾つか増える結果に、2人は顔を見合わせる。
「……ジグリさんとエルスさんが疑惑に満ちた眼差しでこっちを見てくるんだ……なんでだろ?」
「さぁ? 世の中には不思議が一杯だ」
 なんて、声を潜めて言葉を交わす2人の元にアッシュが飛んでやって来た。
 彼女は馬車の荷台から、1枚の紙面を取り出すとリコリスへそれを手渡して告げる。
「これから2人の会う商人、パンタローネ氏は老獪な商人です。しかし、取引には真摯ですのでその点は信用しても良いでしょう」
 そう言って、アッシュは視線をイナリへ向ける。
 イナリは頭上に舞う小鳥を指さすと、僅かに顔を顰めて見せる。どうやら盗賊が近くまで来ているようだ。荷物の受け取りに使える時間はそう長くはないかもしれない。

 オアシスの畔で待っていたのは、緑の衣服に身を包んだ老爺であった。
 穏やかな笑みを浮かべて、ゆったりと茶など飲んでいる。一見して好々爺といった印象の彼は、近づいて来るリコリス、アッシュ、ヘイズルの3人を見て一層笑みを深くした。
 その視線は鋭く、3人の足元へと向いている。
「遠路はるばるご苦労。馬車は外に止めているのか? 荷物はここで渡しても構わんかね?」
 アッシュの手渡す紙面に目を走らせて、従者らしき男へ指で合図を送る。
 暫くして男が運んで来たのは、都合5つの木箱であった。中身は食料や酒だろうか。
 ヘイズルは木箱を3つまとめて抱え、面白そうにそれを揺らした。
 一方、リコリスは形の良い鼻をヒクつかせると唇の端を舌で舐める。
「ああ、よだれが! よだれが!」
「……問題ないのかね? 私の仕事はここで終わりだが、荷が届かないなどあっては商会の名に傷がつく」
「えぇ、問題ありません。しっかりと監視はしておきますから」
 リコリスもヘイズルも。
 クセの強い人物であるが、共に旅をする仲間である。
 可能であれば交友を深めておきたいというのが本心だ。
「それと、よければ保存食を幾つか売ってもらえませんか? 仲間が欲しているもので」
「構わない。今回、料金はサービスしておこう……さて、荷は確かに受け渡した。道中の無事を祈っているよ」
「そちらも。よい商売を」
 短く言葉を交わした2人は、砂漠流の祈りを簡素に捧げ合う。
 小鈴に頼まれた保存食を受け取ると、アッシュは木箱を持ち上げた。
 直後、アッシュの脳裏にアルトゥライネルの声が響く。
『ヘイズルとリコリスが馬車に戻った。それと盗賊が近づいてきている』
 
 飛来する矢がウォーワゴンの車体に刺さった。
 向かって来る盗賊の数は7。全員が馬に騎乗している。
「オアシスの外周に沿って走って! アルトゥライネルさんとアッシュさんは、途中で拾い上げればいいわ!」
 盗賊と馬車の間に車体を割り込ませたイナリは、ファミリアーの小鳥を飛ばしてそう叫ぶ。それと同時にアクセルを踏み込み、ハンドルを大きく旋回させた。
 滑るように車体をドリフトさせ、砂埃を巻上げる。
 視界を遮られたことにより、盗賊たちの矢が止む。
 その間に馬車は走行を開始。
 だが、既に疾走していた馬と、たった今走り始めた馬車では初速が違う。
「1人抜けたわっ!」
 盗賊の1人が砂埃を突き破ってラダの操る馬車へと迫るのをイナリは見た。
 問題は無い。
 盗賊の1人程度であれば、不意打ちにさえ注意すれば容易に対処が可能だろう。
「車軸を狙う気ね! いいわ、私が相手になってあげるんだから!」
 馬上で剣を振り上げる盗賊へ向け、馬車の荷台からエルスが跳んだ。
 黒い髪と冷気を靡かせ、その手に氷の鎌を形成。大上段に振り上げたそれを、三日月の軌跡で一閃させる。
 魔力の奔流が盗賊の掲げた剣を2つに切り裂いた。
 鎌を振り抜いたエルスは、そのまま小鈴の馬車へと着地。衝撃に馬車が揺れ、驚いた馬が高く嘶く。
「ゆーれーるーのーじゃー! まったく、楽な仕事など無いのう!」
 エルスを受け止めた小鈴の馬車が速度を上げる。
 【保護結界】の行使を担う小鈴が、護送馬車から離れることは出来ないのである。

 氷の鎌が剣を切り裂く。
「うぉっ!?」
 姿勢を崩した盗賊が、馬上から落ちた。
 地面を転がりながらも、彼は剣を投げ捨てて背負った弓へ手を伸ばす。
 しゃらん。
 刹那、涼やかな音が耳朶を震わす。
 次いで、何かが地面に落ちる音。
「あ?」
「あぁ~、遅いですねぇ」
 なんて、艶やかな女の声。
 地面に落ちたのは自分の腕だ。
 声の主は、白と黒の髪色をした細い女……鏡である。
 しゃらん。
 再び、鈴に似た音。
「……あぁ?」
 どういうわけか、女は逆さを向いていて……。
「そして、私はアナタの思考より速い」
 否。
 逆さになっているのは自分の頭だ。
 痛みを感じる暇もなく、男の首は砂上に転がる。

 盗賊を突き放し、一行は採掘場へと辿り着いた。
 油断は出来ないが、一時の間、襲撃を受ける心配はないだろう。
「ほむん。角から同族かと思ったら別の種族なのじゃな。出身は何処なのじゃ?」
 採掘場に着いた一行は、再び手勢を2つに分ける。
 採掘へ向かったメンバーは鏡とアルトゥライネル、エルスの3人。ラダとイナリが周辺の警戒をしている間に、小鈴とアッシュ、リコリス、ヘイズルの4人は休憩である。
「出身は砂漠の果て。砂塵を超えた先にある荒れた土地だ。……甘いな。ちょこれいとばーとか言ったか? うちの里で保存食と言えば干し肉ばかりだった」
 チョコレートバーを頬張りながらヘイズルは木箱へ視線を向けた。
 “気に入ったものは持ち帰る主義”というヘイズルの性質を思い出し、小鈴は慌てて革の袋を差し出す。
「そういえば保存食もその土地の文化の一種と言えるのじゃな……気に入ったら妾の買った分なら全部やるぞ?」
「いいのか? お前、いいやつだな。そして、甘い食物には渋い茶が合う。お前たち、私のバロメットに来るか?」
 上機嫌な様子でヘイズルがはしゃぐ。
 バロメットとは、彼女の故郷の名である。ヘイズル曰く、意味するところは“帰る場所”ということだ。
「呈茶は未だ未熟ではありますが……お気に召しましたならば、茶葉は差し上げますよ」
 そう言ってアッシュは茶を啜る。
 なんとも長閑なひと時だ。小鈴の従者が団扇で扇いで起こす微風も心地いい。
 
 ラダが地響きに気付くのと、イナリが盗賊の接近を知るのはほぼ同時だった。
 幸いがあるとすれば、採掘に向かった鏡たちが既に帰還していたことか。
「盗賊にサンドワーム……なかなか楽して進めなさそうね」
 馬車に飛び乗り、エルスが氷の鎌を手にした。
 追って来る盗賊の数は20ほど。馬やラクダに騎乗しているほか、幌無しの馬車も2台ほど見えた。
「正規のルートは使えないな。このまま遺跡の中を突っ切って行く」
「先導します。リコリスさんは牽制を!」
 イナリの小鳥が飛び立つのと同時、ラダは馬へ鞭を入れた。
 
 一行を逃がさないためか、当初、盗賊は横へ広く展開していた。
 しかし、狭い遺跡内部を走るとなると、陣形も自然と狭まっていく。
「追いつけるぞ! 得物を抜け!」
「真ん中の馬車は何だ? 厳重に守ってんぞ!」
「何でもいいさ! 一切合切奪っちまうのが俺らの流儀だ!」
“黒く光る石”を積み込んだ分、馬車の速度も落ちている。後方からは馬やラクダに乗った盗賊。左右を2台の馬車に挟まれるのに、そう長い時間はかからなかった。
「射て! 射て射て!」
 ひゅん、と風を切る音がして作りの粗末な矢が飛んだ。
 次々と射掛けられる矢を、ウォーワゴンと小鈴の馬車が盾となって受け止める。僅かに速度が鈍った刹那、左右から馬車が詰め寄った。
「ぬわーー敵が護送の馬車に近寄る前に倒すのじゃ!! 保護結界でも体当たりされたら耐え切れんのじゃ!!」
 激しく揺れる馬車の手綱を操りながら小鈴が叫ぶ。
 小柄な体が大きく跳ねて、今にも飛んでいきそうだ。
「おーけー! 任せて!」
 馬車の2台に座ったリコリスが、素早くドローンを起動させた。
「なんだ!? 面白いな、それ!」
 音を立てて飛び立つそれへ、ヘイズルが素早く手を伸ばす。
「あーん! だめだよヘイズルさん! これはボクじゃないと動かすことができない虫さんなの!」
「なるほど。これも世の中にある不思議なことの1つだな!」
 追走してくる盗賊たちへ、ドローンが弾丸をばら撒いた。地面を鉛弾が撃ち抜き、その度に火花が飛び散る様は、見ていて実に気持ちがいい。
 もっとも、撃たれる盗賊たちがどう思っているかは知らないが。

●砂漠の喧噪
 轟音。
 地響き。
 舞い散る粉塵と、雪崩落ちて来る遺跡の残骸。
 盗賊たちの悲鳴と共に現れたのは、全長7、8メートルはあろう巨大な芋虫であった。
「護送馬車に当てさせないで! この状況では囚人にまで手が回らないから!」
 サンドワームを横目に見ながらイナリが叫ぶ。それと同時にハンドルを切って、寄せて来た馬車を弾き飛ばした。
 弾き飛ばされた馬車は大きく進路を外れ、瓦礫の山へと突っ込んで行く。
「V8を讃えなさい!」
 悲鳴をあげる盗賊へ向け、イナリはそう言葉を投げた。

 銀の閃光が盗賊の腹を撃ち抜いた。
「討伐することが主目的ではありませんが……痛い目を見てもらう他は無さそうですね」
 アッシュとリコリスが追いすがって来る盗賊たちを牽制している。
 しかし、数が多すぎた。
 半数ほどは瓦礫を盾に馬車へ接近。馬から馬車へ飛び乗る者も出始めた。
「きーとーるーぞー!」
「問題ない! 蹴落とせばいいだけの話だ!」
 もっとも、馬車に取りついた端からヘイズルの蹴りを顔面に受けて次々地面に落ちて行ったが。
 
 アォーン! と、狼の吠える声がした。
 リコリスとアッシュが、盗賊馬車の車軸を撃ち抜き横転させる。
 それを見届け、鏡とエルスは隊列を離れサンドワームへと向かう。
「出ましたねぇ大物。でも、何もさせてあげませんよぉ」
「1体ね。確実に仕留めるわよ!」
 大口を開け、跳びかかって来るサンドワームの眼前でエルスは鎌を一閃させた。
 足元から頭上へ向けて……鎌の軌跡を追うように魔力を纏った斬撃が放たれる。口腔から、口内を抉られたサンドワームが身を悶えさせて仰け反った。
「鏡さん、今よ!」
「えぇ、ありがとうございます……というかもう斬っちゃいましたし」
 するり、と。
 滑るように鏡はサンドワームの隣を駆け抜けた。
 しゃらん。
 刃と鞘の擦れる音は、死神の足音と同義であろう。

 護送馬車に張り付いていた盗賊を、アルトゥライネルの振るった布が打ち据える。次々と襲い掛かって来る盗賊相手に防戦を強いられた結果か、アルトゥライネルの身体中には幾つもの切り傷が付けられていた。
 頬を流れる血を拭い、熱い吐息を零した彼は護送馬車から、舞うような身軽さでラダの馬車へと飛び移る。
「隠密するなら遺跡は恰好の狩場だろう。敵地に乗り込んだんじゃないか?」
 盗賊たちの攻勢は、遺跡に来てから明らかに勢いが増していた。リコリスやアッシュ、ヘイゼルも無数に傷を負っている。
 肩に刺さった矢を抜いて、アルトゥライネルは地図を一瞥。それから進行方向へ指を向けた。
「たぶんこの先辺りに……見ろ。待ち構えている」
「あぁ、問題ない。少しの間、操縦を頼むよ」
「え、ちょ! ラダ!」
 手綱をアルトゥライネルへと握らせてラダは馬車から飛び降りた。下半身を馬に変え、馬車と並走するラダはゆっくりとライフルを持ち上げる。
「馬車の中身は金じゃないぞ! 死にたくなけりゃ手出ししないで欲しいが、聞く耳はあるか?」
「金を運んでる奴は、皆揃ってそう言うんだ!」
「……盗賊はいつも、皆揃ってああ言うよな」
「まったくだ」
 アルトゥライネルと軽口を交わして、ラダはライフルのストックを肩へ。
 ゆっくりと引き金を絞れば、撃鉄が落ちる。
 火薬の爆ぜる音がして、放たれたのは1発の弾丸だ。
 まっすぐに空を疾駆したそれは、盗賊の額を撃ち抜いた。
 仲間が撃たれて慌てふためく盗賊たちの中央を、馬車は強引に駆け抜ける。
「おぉ! それはそうやって使うんだな! お前もうちのバロメットに来るか?」
「故郷の話は聞いてみたいね。いつか遊びに行っても大丈夫かな?」
 血塗れのまま喝采を送るヘイゼルへ、笑みを返してラダは馬車へと飛び乗った。
 こうして一行は遺跡を抜け、目的地である監獄塔へと至るのである。

成否

成功

MVP

長月・イナリ(p3p008096)
狐です

状態異常

アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)[重傷]
Le Chasseur.
アルトゥライネル(p3p008166)[重傷]
バロメット・砂漠の妖精
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)[重傷]
花でいっぱいの

あとがき

お疲れ様です。
皆さん、カーチェイスは好きですか? 私は最近大好きになりました。

囚人の護送は無事に成功。
奇妙な同行者との旅の一幕、お楽しみいただけましたでしょうか。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

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