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シナリオ詳細

<咎の鉄条>グレムリン聖堂に鐘は鳴るなり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●グレムリン聖堂に鐘は鳴るなり
 窓から差し込む朝日と小鳥の声に、うっすらと少女は目をあけた。
 木綿によって作られたうすいかけ布団をはぎ、身体をおこす。うーんと小さくうなりながら背伸びをすると、豊かな胸がふるえた。
 そのことに少しばかり顔を赤らめ、少女は窓の外を見る。
 カーテンはそよかぜにゆれ、少女の纏った薄衣をこして爽やかな風を運んでいた。
 地域によっては深い雪が降り積もる季節だと聞くが、部屋に寒気はない。どころか、温かい春の光すらあった。
 少女の髪の間からのぞくのは長い耳。ハーモニアの特徴である。窓際に並ぶ花を見て、今日も調子がよいことを確認するとベッドから降りた。
 今日も森の様子を確認してまわろう。あの木は老いていたから、添え木をしてあげないといけないだろうか。
 などと一日の予定を考えはじめ、支度のために髪にブラシをかけていた手が止まる。
 ぼぉーん――と、鐘が鳴ったのだ。
 続けて三度。大きな鐘の音だ。
 ブラシをとりおとし、少女は窓の外へと身を乗り出す。
 見つめたさきは、高い木の上だった。
 洞ができた巨木にはひとつの鐘がさがり、それが揺れている。
 それだけならば良い。問題は、その鐘は『災いを感知して鳴る呪物である』という点であった。
 少女はすぐさま弓矢を手に取ろうとして、先に外行きの服に着替えなくてはとハンガーに手を伸ばした――ところで、トスンとその場に寝転んだ。起き上がることはない。
 眠りについたまま。ずっと。

●深緑完全封鎖
 ローレットラサ支部……と人が呼ぶ酒場のひとつに、多くのローレット・イレギュラーズが集まっている。
 見る者が見ればその顔ぶれの豪華さに驚くことだろう。
 例えば『呪い師』エリス(p3p007830)。深緑方面ではかなり名の知れたイレギュラーズであり、異世界のエルフという種族の特徴とハーモニアの生き方が似ていたという理由からよく馴染み、ファルカウにも領地をもつ女性だ。彼女のもつ『カース・サーチ』という能力もその特徴のひとつである。
 もう一人は『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)。自らが悲恋の呪いを纏った妖精鎌であるというウォーカーであり、妖精郷の事件にはかなり積極的に参加していたことが知られている。
 更にもう一人は『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)。彼の総合的な名声は三人の中でもトップクラスといったところだ。深緑方面で残した功績もまた大きい。
 そんな面々が集まってしているのは、やはり『咎の鉄条』――あるいは『茨』事件についてである。
「深緑が謎の茨によって完全に封鎖されてしまったことは、皆さんも知っていると思います」
 エリスの言葉に、他のイレギュラーズたちが頷く。
「斬ってもだめ。飛行で越えようとしてもだめ。先行した調査隊の中には無理に越えようとして命を落としたケースまであった。茨そのものへの調査はいまはやめておいたほうが良さそうだな」
 すこし段階を飛び越えたサイズの意見に、リゲルは無言のまま頷く。
 リゲルの視線は再びエリスへと戻り、エリスはその意図を察して話をはじめた。
「深緑国内に領地を持っている人や、家族のいる人も多いでしょう。私も領地を持っていますが、いまどういう状態にあるのか把握することができません。
 内部からの連絡は勿論、外から様子を見に行くことすら出来ないのですから」
 そう語りながらも、エリスは何か考えがあるような様子を見せていた。知識の深い者なら、彼女の領地にて執政官をつとめるリモスという呪物師に思い至るだろう。かの冬の王災害を乗り越えたという、ある種の生き証人のことを。
 だがエリスが切り出したのは、その話ではなかった。
「邪妖精と呪物によってまわる、『グレムリンズ』という村落があります」
 エリスが広げたマップにはピンが立てられ、そこがグレムリンズであることが示されている。
 意図を読んだサイズは、まわりのイレギュラーズの顔を見る。
「深緑の国境線沿い……いや、すこし外れてるな。もしかして、茨の外にある村か?」
「その通りです」
「なら――」
 サイズの続く言葉は、エリスによって止められる。
「外側にあるといっても、呪いから逃れてはいません。住民もみな眠りの呪いに落ちているとのことです」
 そこまでは先行した調査隊によって調べがついているのだろう。
 ということは、調査隊がそこまでの内容で切り上げなければならない事態が起きたと言うことで……周囲のイレギュラーズが浮かべたその予感は、続くエリスの言葉で肯定された。
「この村は『グレムリン』という妖精が外敵から守っていましたが、村の住民がみな昏睡してしまったことで一転して村の外から現れるあらゆる存在を敵視し、攻撃するようになってしまいました」
 邪妖精であるグレムリンは、付き合い方を間違わなければいつのまにか鍛冶仕事をしてくれるなど便利な妖精としてこの村落では知られている。共生が成り立っているのだ。
 が、その共生関係が村人の昏睡という形で崩れた今、グレムリンはただただ攻撃的な存在へと変化してしまったのである。
 サイズは頷き、リゲルや他の仲間達の顔を順に見た。
「俺たちは少しでも情報をあつめなくちゃならない。茨の向こうへ行くための手段がすこしでもあるなら……」
 それに否定する者はいない。
 ハーモニア村落グレムリンズへの本格調査が、開始したのだった。

GMコメント

●オーダー
 成功条件はグレムリンズでの調査にあたることです。
 何かしら決定打を見つけられなかったとしても、「ここにはない」と分かることが大事な発見なので成功扱いとなります。
 ただし、この村へでの調査を行うには各所に潜んでいるグレムリンによる襲撃に対処しなければなりません。襲撃によってチームが壊滅してしまった場合、失敗扱いとなるでしょう。

●グレムリンと調査
 村のあちこちに潜んでいる邪妖精です。探索中に奇襲攻撃をしかけてくるでしょう。
 また、この村落が安全であるという保証は一切無いので、ゆっくりと時間をかけて調査する余裕はとれそうにありません。
 チームをある程度メンバー分けして村落にちらし、情報を収集していく必要があるでしょう。どの程度の細かさまで分けるかはメンバーの能力をみたりリスクと相談したりして決定してください。

・グレムリン
 工具などをもった小柄な小人型邪妖精です。
 付き合い方を間違わなければ便利な妖精ですが、今は『間違った後』であるため非常に危険な存在となっています。
 それが人間種であろうが幻想種であろうがあるいは精霊種であろうが、全ての存在に対して極めて攻撃的です。

●主な調査ポイント
 村落にはいくつかの建物が密集したエリアがあり、全ての建物を調査することは難しいですがひときわ大きな建物に目星をつけることで調査を効率化出来ます。

・村長宅
 村落の長が暮らしているやや大きめの建物です。
 おそらく村に関する資料もここにある程度は集まっているでしょう。

・大聖堂
 グレムリン大聖堂と呼ばれる巨木です。かなり高い位置にある洞には鐘が据えられており、これは村に災いが起きたときのみ鳴り響く呪物であるとのことです。

・集合居住区
 ハーモニアたちの集合住宅エリアです。縦向きに重なるようにいくつもワンルームハウスが存在しており、あちこちをざっと見て回ることで村がどういう状態になっているのかを把握するのに役立ちます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <咎の鉄条>グレムリン聖堂に鐘は鳴るなり完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
エリス(p3p007830)
呪い師
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼

リプレイ

●暗闇を抜ける最大の手段は動くこと
 さく、さく――と踏んだ草が音をたてた。
 長年獣にすら踏みつけられてこなかった草が太く長く育ったためだと、『呪い師』エリス(p3p007830)は知っている。
 リュミエ様よりファルカウ内に割譲された領地での経験からだ。いまあの場所は無事なのだろうか。
 妹のオリビアも、眠りの呪いに落ちてしまっているのだろうか。リモス……はなんだか要領よく凌いでいそうな気もするが。
「まずは……」
 高く見上げると、木と縄でできた通路とどんぐり状の家屋が連なる巨木が見える。クリムゾンズという村落は、どうやら木の上に住居をもつらしい。深緑ハーモニアの村落は迷宮森林によって個々が隔てられており、それによって良くも悪くも部族の独自性が保たれている。極端なところでは生まれてから死ぬまでずっと木の上で暮らし、地上に降りると『地上酔い』するハーモニアもいると聞く。
「この村を襲った呪いについて、調べなくてはいけませんね」
「そうだな。無理に茨を突破することは不可能なのだろうから……」
 『黒鋼二刀』クロバ・フユツキ(p3p000145)が重々しく呟き、そして周囲へと警戒の視線を向ける。
 エネミーサーチをもっていなくてもわかるほど、村からはずっと殺気を感じていた。この村で共生関係にあったという妖精『グレムリン』が邪妖精となり、侵入者に対して無差別に敵対している状態だという。その挙動はどこか『大樹の嘆き』にも似ているが……。
「そっちは村長の家を調べるんだったな?」
 短剣を手に、『気をつけろよ』と言葉を加える『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)。
「不意打ちを感知できるメンバーはそっちにいねえんだ。備えはあるのか?」
「怪我は承知の上だ」
 クロバはそうとだけ言って手をかざす。それが最大の答えだと分かったようで、シオンは小さく肩をすくめるだけに留めた。
 マントの端を掴んで身を覆うようにして、『じゃああたしは行くから』と歩き出す。
 そんなシオンについて歩き出したのは『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)と『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)だった。
 三人が目指すのはこの村の中心でありシンボルでもあるグレムリン大聖堂だ。
 大聖堂という名前から想像するような人工建築物はなく、あるのは巨木。それも霊樹である。
 かなり高い所に鐘が据え付けられており、それが災いの際になる呪物であると言われていた。
「どういう調査をするつもりですか?」
「鐘にインタビューだ」
 サイズの返事に、アッシュはなんともいえない表情をする。
「分かってるよ。『無機疎通』の力を持ってたからって相手がぺらぺらとしゃべり出したりしないってことくらい。けど災いを感知する呪物なんだ。もしかしたら話ができるかもしれない」
 たとえば化学実験であれば、既存の知識の内側だけで確認作業をし続けるだけならパラダイムを起こせない。あたらしい発見をしたければ多少オカルトに片足を突っ込む必要があるだろう。そういうハナシをしているのかな? とアッシュは思ってそれ以上の追求をやめた。
 代わりに、別の話題にシフトしてみる。
「シンボル的な場所であるなら、グレムリンの襲撃も充分にありえそうですね」
「そうだな……ていうか、なんでそのグレムリンは眠ってねえんだ? 『大樹の嘆き』とかにも言えることだが、眠っちまう奴とそうでない奴で違いはあるのか?」
 シオンに言われて、アッシュは『確かに』という目をする。
 各地では魔物や邪妖精との戦闘が起きているとも聞く。より厳密に言うなら、いまこの場所に踏み込んでいる自分達が眠ってしまわないことにも理由はあるはずだ。
 アッシュは殆ど本能的に、眼帯ごしに片目へ指を触れた。
「まずは調べることから、ですか」
「そういうこったな」

 翼を羽ばたかせながら青い空の下、『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は景色を眺める。
 そしてゆっくりと降下をはじめると、広場で旋回飛行を始めた。
「何かあった時は一旦ここに集合しようよ。皆にも教えておくね」
 アクセルの役目は主に警戒と迎撃だ。
 『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)は慎重に螺旋階段を上りながら、一件目の住居へとたどり着く。
「この調査で少しでも何か分かると良いのですが……」
 建物の中を覗き込むと、広間らしき部屋でテーブルに二人の男女が突っ伏すように眠っていた。
 揺り動かそうとしてみるが、気付く様子はない。
「茨の外でもあっても影響を受けるのですね。本当にこれはいったい何なのでしょう」
「さあ、ね」
 『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)が部屋の内外へ警戒を行いながら答えた。
「正解のカードを引くには不正解のカードを何枚か引かなきゃいけないものよ。ラッキーヒットを祈って乱発するつもりでもないわけだし……」
 ゆっくりと近づき、テーブルに突っ伏して眠る男女の様子をうかがう。
 寝息は安らかで、苦しそうな様子はみられない。
 本当にただ眠っているだけのようだ。


 ハンナは剣を握り込み、魔術発動トリガーに指をかける。
 彼女が今剣を抜き臨戦態勢をとっているのは、周囲に満ちる敵意を感知してのことだ。
 相手も相手でこちらが構えたことを理解しているのだろう、襲いかかるタイミングを計っているようにも思える。誰がどの程度動き、どういうタイミングをはかろうとしているのかまでは察することができないが――しかし。
「そこです!」
 わざとがら空きにした背めがけて飛びかかる小柄な影。振り向きざまに爆炎の魔術を機動したハンナは剣によって対象を斬り伏せた。
 スパンと切断されたのは、トカゲと虫を掛け合わせたような小柄な怪物だった。
 だというのに手にはスパナを握り、それを鈍器として使おうとしていたのが見て取れる。
「グレムリンというのはもっと可愛らしい妖精だと聞いていましたが――これが『付き合い方に失敗した姿』ということですか!」
 周囲の気配が離れる。
 もう一度攻撃のチャンスを作るべく離れたのだろうが――無駄だ。
「ヴィリスさん、アクセルさん!」
「ええ」
 小さく、返事がある。建物の出口。壁に背を付けるようにして立っていたヴィリスがトトンとステップを踏むと異常なほどの瞬発力で回転を始め、一回転の末に高く振り上げた足が建物より飛び出たグレムリンをスパンと切断してしまった。
 ギャッと声をあげて真っ二つとなり、そして空気に霞むにようにして消滅するグレムリン。
「こういうところは妖精なのね」
 長い裾をたらして振り上げ、露わとなった義足には鋭いブレードが備えられていた。
 逃げ切ることは不可能と判断したグレムリンたちがギギッと鳴き声をあげ、手にのこぎりやペンチのような工具をもって取り囲む。
 ヴィリスは口の端で笑みを作ると、直立姿勢に戻ってからゆっくりと頭を垂れる。
 ステージのショーマンが観客に見せるような深い深いおじぎだ。
 あまりにも隙だらけの彼女に全員が一斉に襲いかかり――そして、風がふいた。
 巨木の周りを旋回するように飛ぶアクセルからは、ヴィリスが突然踊り出したように見えた。
 情熱的な舞いを踊るバレエダンサーのそれであり、ぴたりと止めた身体に満員の観客が立ち上がり拍手をおくるさまが脳裏をよぎる。
 が、現実に残っているのは斬り割かれ転がったグレムリンたちである。
 アクセルは彼女の頭上へと飛ぶと、制動をかけてからホバリングした。
「一人で片付けちゃうんだもんな」
「あら。一緒に踊りたかった?」
 世にも美しい直立姿勢から首をかしげて見せるヴィリス。
「ダンスはともかく、演奏には参加したかったなあ」
 アクセルは冗談をいって笑うと、魔法の杖をスッと取り出す。
 そのさまはオーケストラを前にした指揮者の姿勢であり、アクセルが今から行うのもやはり『指揮』であった。
 杖と翼を振るその動きによって生み出された魔法の精霊たちがあちこちを飛び回り、近くに隠れていたグレムリンたちを見つけ出す。
 あちこちであがる花火の連続に、今度は建物から出てきたハンナが拍手を送った。
「お二人とも、流石です」
 えっへんと胸を張るアクセル。
「……それで、収穫はあった? オイラが見てきた限りじゃ眠りの呪いから逃れた人はいなさそうだったけど」
「グレムリンが眠らなかったのは、妖精だったからかしら?
 死体が残らないところからしても、グレムリンたちはこの村落にすまう精霊の一種……言ってみれば『大樹の嘆き』と同種の存在とみていいでしょうね。他にも、植物のように睡眠という概念がない生命には効いていないように見えるわ」
 ヴィリスの発言に、ハンナが肯定の頷きを返した。
「ただ、植物たちからは怯えの感情がありました。グレムリンの暴走を恐れたのか、災いを恐れたのかまではわかりませんでしたが……」
 いずれにせよ、ハンナたちの存在に多少なりとも安堵の意志を見せたようではある。
「あとは、他のメンバーがどれだけ調べられたかですが……」

 アイススフィアを展開し、ハンズオブグローリーによってグレムリンを倒すサイズ。
「これでよし、と」
 木の大きな洞からグレムリン大聖堂の中へ入ると、大きな鐘をしげしげと見つめた。
 観察した限りは特にどこかがおかしくなっている様子はない。取り外したりバラしたりすれば細かなことはわかるかもしれないが、呪物をバラすというのはなかなかリスキーなことだ。とりあえず表面を濡れた布で磨くなどして綺麗にしてやってから、『無機疎通』を試みてみる。
「探知した災いの数は1つか?
 探知した災いは魔種なのか?
 探知した災いは呪いか?
 今も最初に探知した災いを探知出来ているか?」
 このような問いかけを口頭でしてみるも、特に反応はない。意思を持ち自ら意思表示をしてくるタイプの呪物ではないということだろう。
「疑問なんだが、喋る呪物なんてあるのか?」
「……」
 シオンの問いかけに、『俺がそうだけど?』という顔で指をさすサイズ。サイズの場合ウォーカーなので定義から外れそうではあるが、意図するところは一緒だ。
 その返答によって、シオンは大体を理解した。
「呪物が意思疎通可能なら、無機疎通とか要らない感じなのか。まあそりゃそうだよな、喋る精霊とか喋る花とかにその手の疎通能力いらねえし」
 シオンは刀を収め、フウと息をつく。
 サイズと違って地上からロープやなにかを使って一生懸命登ってきたのだが、その最中にグレムリンに襲われるなどして苦労したためのため息である。
 まあ、苦労といっても相手を片手で斬り伏せたのでちょっと疲れた程度のものだが。
「ま、あたしもちょっと調べてみるか。未知の物品解析なら心得があるぜ」
 一緒に上ってきたアッシュがこくんと頷く。
「なら、調査は任せましたよ」
 『私はあっちを』と顎で示すと、洞の奥へ続く通路にグレムリンが複数体現れていた。
 アッシュはにこりと微笑み、そしてグレムリンたちへと走り出す。
 放ったワイヤーが一体を絡め取り、連鎖するように周囲のグレムリンがしかけられたワイヤーに転倒する。そこへスライディングをかけてワイヤーの下をくぐり抜けたアッシュは短剣を振り抜き、数体を一度に斬り割いてしまった。
 一度に斬り割くためのトラップであり、そのための配置である。
 あまりにもスマートな勝利に、グレムリンたちはその場にばたばたと倒れ、消滅していく。
 一通り倒した所で、アッシュはシオンへと振り返った。
 どうやらシオンの調査は終わったようだ。
 問いかけたいサイズやアッシュの気持ちを察して、シオンは手帳にメモをしながら話し始めた。
「こいつはいわゆる警報装置だ。深緑の国境付近にあるのもそのせいだな。
 できたのは……多分『冬の王』災害の後だろう。同じようなことがおきたら深緑中に警告しようって考えだったんじゃねえか? まあ、今回は伝えることもできずに全員こうなっちまったわけだが」
 ちらりと見ると、部屋の隅でうずくまり眠る男性があった。
「ああ、それと……この鐘が察知する『災い』だけどな。魔種とは関係なさそうだぜ」
「……は?」

「『グレムリンの鐘』は、霊樹が危機を感じたことに反応して鳴る仕組みらしいな」
 村長の家を調べ、いくつかの資料を読み解いたクロバはそう言ってパタンと本を閉じた。
「魔種がらみの話かとおもったが、どの資料にも魔種に関する記述がない。おそらく森そのものの免疫――つまりは『大樹の嘆き』が発生しそうな時に、その代わりに鐘を鳴らす仕組みなんだろう」
 この村に大樹の嘆きが生まれていないのもそういう理由なのかもしれない、とクロバは調べた資料の内容を照らし合わせながら考えた。
 そして、椅子に座ったまま眠る村長へと視線を移す。あまり眠り続けるのに適した姿勢ではないが、苦しそうな様子はない。むしろ、ベッドへ運ぼうとすると苦しみ出すくらいだ。
「この村は鐘の手入れを代々おこなってきたようだ。来るべき災厄に備え、警報をいつでも鳴らせるように。そして本来なら機能するはずだった警報は……何らかの外的要因によって村の中の人間が聞くだけに留まってしまった、と」
「魔種に関する記述がないのはそうでしょう」
 床を探っていたエリスがランタンを持って立ち上がる。
「今では当たり前に受け止めていますけど、魔種なんて『狂気のサーカス』が現れるまで物語に登場する架空の存在だと思われていたんですから」
 今思えば、かつて深緑を襲ったという『冬の王』なる存在も魔種だったのかもしれないが……。
「たしか、冬の王とは『勇者王』が戦ったのでしたか?」
「ああ。幻想王国に残る伝説だ。ハイペリオンやフィナリィに巨人族たちの封印を任せ、勇者王は魔法使い『マナセ・セレーナ・ムーンキー』たちと共に災害を封じた。
 その際に用いたタリーア・ペタルは……確かブルーベルに持ち去られたんだったか」
「それって、呪物……ではないんですよね?」
 エリスの半分確信をもったような言い方に、クロバは小さく首をかしげた。
「いや、わからないが……どうしてだ?」
「あ、いえ。なんででしょう? そんな気が凄くしたんですが……」
 エリスは自分でも分からないという顔で首をかしげ、そして地面をトンッと踏んだ。
 その音は床というより、空箱の蓋を踏むような音である。
 クロバとエリスが、頷き合う。

 床下には、巨大な隠し縦穴があった。
 巨木の洞を利用して作られたこの場所をみつけたのはエリスであり、その理由は『呪物の存在を感知したから』である。
 ロープを垂らし慎重に降りていく。ランタンで照らし出した底の部分には小さな横穴があけられており、その部分を覗き込むと……。
「これは?」
 エリスが手を伸ばす。
 小箱、であった。
 『somir(ソミィ)』という名前が刻まれたそれを、そっと掴む。
 片手にのるほどの小箱であり、エリスは自分でも説明のできないような気持ちからその箱を開いて見た。
 そこにあったのは。
 一個の指輪であった。白い宝石のはまったそれは……。
「呪物、ですね。間違いなく……」
 エリスはそれを……なぜだろう。自分では全く説明のできない理由から、自らの右手の中指にはめた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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