PandoraPartyProject

シナリオ詳細

それはまるで、花の蜜のような

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 覇竜領域デザストルは、険しい山脈地帯に存在している危険地域である。故に亜竜種たちは空から見つからぬ洞窟などに集落を作り、そこへ身を寄せた。しかしとある『家』はその場所を離れることを良しとせず、集落の外れにぽつりと存在している。
 それは大樹のよう――否、大樹のうろを利用して作られた家だった。洞窟の中、ぽっかりと開いた天井を覆うように枝葉は広がり、木漏れ日が地面へと零れ落ちる。亜竜にも見つからぬ大きな緑の傘の下では、花々が柔らかくその花弁を広げているのだ。
 けれど、その花々は手折ってはいけない。それは『花の魔女』のものだから。
 大樹に住まう花の魔女は、大樹の下で育つ花々を、そして家の中でも育てているそれらを大切にしている。育った花は彼女を飾り付けるためであったり、蜜を採取するためであったり、売り物や見本とするためであったりする。彼女の許諾なしには、何人たりとも手折ることができないのである。
 ささやかなルールは、外との交流がないため滅多に破られることがない。精々ドラゴニアの悪ガキがこっそり摘もうとして見つかり、こってり絞られて帰るくらいである。
 故に――この場所へイレギュラーズを招き入れるのは、花の魔女にとっても酷く珍しい事であった。



「お招き、ありがとうございます」
「ふふ、そんなに硬くならないで。お茶を入れるわね」
 カチンコチン、と音が鳴りそうなほど硬くなったエル・エ・ルーエ(p3p008216)の姿に女性がくすりと笑い、キッチンで茶の用意をする。大樹の中はうろの一部を大きな窓のようにしているからか、とても明るい。
「どうぞ」
 女性が置いたティーカップからは湯気と共に甘い香りが立ち上る。それを吸い込んだエルはふわりと頬を緩ませた。
「いい匂い、ですね」
「そうでしょう? 花の蜜を垂らしているの」
 ティーカップを他のイレギュラーズの前にも並べた女性は開いている椅子へ腰かけた。目の前に座っているエルがティーカップを傾ける様を見て、その瞳はほんの少しだけ羨望の色が見え隠れする。けれどその視線は自らの手へと落とされて、小さく伏せられた。
 そんな動作は僅かな時間のことで。彼女は鱗に覆われた手でティーカップを取り、口を付けてからイレギュラーズたちを見回す。
「改めて、ここへ来てくれてありがとう。外の世界を知る貴方たちにお願いがあってお呼びしたの」
「はい」
 エルの背筋がしゃんと伸びる。依頼の話だ。
 依頼人――『花の魔女』麗・厘楼。彼女が欲しているのは外国の茶葉であるという。寒い北の地には、ミルクティーのようにまろやかな味わいの紅茶があるのだとか。
「けれど花の世話もしないといけないから、代わりに取りに行ってきてほしいの。茶葉の代金は勿論こちらから出すわ」
 自身の売った交易品で手持ちはあるのだと彼女は言う。その身を飾る服や装飾品も厘楼のお手製だ。
「わかりました。ちゃんと、茶葉を頂いて、帰ってきます」
「お願いね。けれど……どうか、無理はしないで頂戴」
 外の世界は何があるかわからないから。そう告げる厘楼に、エルは神妙な面持ちで頷いた。



「あーあ、こりゃどうすっかなあ」
「あれは随分手ごわいぞ」
 そんな声は、イレギュラーズたちが茶畑へ近づくほど鮮明に聞こえてきた。茶葉を卸している店から「件の茶葉が出回っていない」と言われ、実際に茶畑へ向かってみることにしたのだ。
「何か、あったのでしょうか?」
 エルも小さく首を傾げる。と、ぼやいていた1人がエルに気付いて近付いてきた。
「なあ、あんた、イレギュラーズのエル・エ・ルーエだろう?」
 この国に領地を持つからか、彼女自身の名声か。いずれにしても相手はエルの活躍をどこかで耳にしたのだろう。頷いた彼女に「こいつぁありがてえ!」と見るからにホッとした表情を浮かべる。
「どこかへ行く途中ですまんが、実力者が必要なんだ。ここでひとつ、依頼を受けてくれねえか?」
 曰く。今が時期の茶葉があるのだが、そこにモンスターが現れてしまったのだという。そこらのモンスターなど鉄帝人ならある程度伸せるのだが、そのモンスターは『ある程度』に含まれなかったという訳だ。
「俺達にもやってやれないことはないが、周りの茶葉をダメにしちまいそうなんだ。頼む!」
 いや、イレギュラーズだからって駄目にしない保証はないのだが――とはいえ、聞けばその茶葉とやらが厘楼から頼まれた品であるらしい。モンスターを倒してくれさえすれば、無事な茶葉は優先的にイレギュラーズへ販売してくれるというし、やるしかないのだろう。
「そうとなれば善は急げだ! こっちに来てくれ!」
 茶畑まで案内するという男の背中を、イレギュラーズたちは追った。

GMコメント

●成功条件
 ポイズンスライムの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●フィールド
 鉄帝の地です。雪が積もっており、若干動きにくいでしょう。
 茶畑はそれなりに広く、均等な間隔で木が植えられています。

●エネミー
・ポイズンスライム×??
 紫色の大きなスライムです。ぶよんぶよんしており、茶畑の間を徘徊しています。見た目はごく普通のスライムっぽいです。
 正確な総数は不明ですが、1ターン目では多くても10体程度と予想されます。ただし、何かのタイミングで彼らは分裂を起こすようです。
 物理攻撃は効きにくく、特殊抵抗が高めです。体当たりや体液を飛ばすなどの攻撃を行い、【毒系列】【麻痺系列】のBSが予想されます。また、戦闘不能時に破裂して域範囲に体液を飛散させます。
 ポイズンスライムの体液を被った茶葉は売り物として使えなくなります。被害ゼロは難しいと思いますが、被害が抑えられた分だけ茶畑の関係者には喜ばれるでしょう。

●NPC
麗・厘楼(れい・りんろう)
 エル・エ・ルーエさんの関係者。ドラゴニアで、花の魔女の二つ名を持っています。
 彼女の作る薬はとても重宝され、また自身を着飾ることに余念がありません。
 今回はデザストルで皆さんの帰りを待っています。

●ご挨拶
 愁と申します。
 このシナリオでは、成功時の名声が『鉄帝』『覇竜』へ分配されます。
 広い茶畑で1匹残らず見つけ出す工夫と、被害を抑えながら戦う必要があるでしょう。
 それではよろしくお願い致します。

  • それはまるで、花の蜜のような完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月02日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
ディアナ・クラッセン(p3p007179)
お父様には内緒
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
エル・エ・ルーエ(p3p008216)
小さな願い
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
蛇蛇 双弥(p3p008441)
医神の双蛇
小鈴(p3p010431)
元ニートの合法のじゃロリ亜竜娘
紲 冥穣(p3p010472)
紲の魔女

リプレイ


 鉄帝の冬は厳しい。吐息さえも凍りそうな寒さの中で、茶葉は甘さを蓄えるのだという。そのような種は確かに、覇竜領域デザストルにはないものかもしれない。
「だが、亜竜種が交易とはな。思ったより社交的じゃないか」
 感心した『医神の双蛇』蛇蛇 双弥(p3p008441)に『元ニートの合法のじゃロリ亜竜娘』小鈴(p3p010431)と『紲の魔女』紲 冥穣(p3p010472)はそこまで珍しいことではないと告げる。なんたって外の世界などほぼ知らない面々だ。ラサから細々と交易はあったものの、未知を知りたくなる者が一定数いるのは道理とも言えよう。
「お茶、アタシも好きだもの。いいわよねぇ」
「でも流石に、冬の屋外は寒いわ……」
 冥穣の言葉にふるりと震える『お父様には内緒』ディアナ・クラッセン(p3p007179)。温かいお茶が飲みたい。早いところ依頼を済ませてしまわないと、茶畑を救う前に自身らが凍ってしまいそうである。
「討伐するのはいいとして、毒が厄介よ」
「スライム自体は何処にでもいるもんみたいですけれどねぇ」
 こんな寒い場所にもいるなんて、と『雪風』ゼファー(p3p007625)はぼやく。馴染み深いモンスターではあるが、ここでまで人様に迷惑をかけなくても良いだろうに。
「スライムの知性次第では面倒じゃな。妾達を餌だと思う程度の感じだと丁度良いのじゃが」
 小鈴は茶畑へ視線をやるも、ひと先ずそこから見える場所にスライムの姿はない。隠れているのか、あちらもまだイレギュラーズに気付いていないのか。
「ポイズンスライムさん、雑食みたいです」
 知識を掘り返して敵の生態を調べた『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)は顔を曇らせる。このまま放置していたら、茶葉が駄目にされるだけでなく、それ自体も食べられてしまうかも。何か他にスライムたちが食べられそうなものはないかと聞いてみると、商品にならず廃棄予定の茶葉があるのだと教えられた。
「別に味は悪くないんだが、基準を満たさないとどうにもな。普段は俺たちで飲んでるんだが、これで良ければ使ってくれ」
 そもそも金にならないものだから、支払いもいらないという相手にエルはぺこりと頭を下げる。そして袋に詰まった規格外の茶葉を持つと、仲間たちに合流した。彼女が揃ったことで一同は作戦を開始する。『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)は彼女の小さな背中を見てふっと笑った。

 ――これより紡ぐ花の魔女と冬の少女の物語が、聞きしに惚れる結末とならんことを。

(さあ、頑張りましょ)
 同じ『魔女』の二つ名を冠する者からの依頼だ。それに鉄帝の民が目の前で困っているというのに素通りするのは気が引けるもの。
 冥穣が近くの木に近づくと、彼らの不安な気配が伝わった。それはどうも隣接した木々の怯えが伝播してきているようで、脅威たるスライムが近くにはおらずとも、近づく可能性があると言っているようだ。
(この辺りはまだスライムが通っていないのね。それに、急いで対応が必要そうな木も見当たらない)
 広域俯瞰で周囲の木々の様子を一瞥した冥穣は、そのままスライムを探しに移動した。木々を見下ろして居れば、その間を滑るように飛んでいく数羽の小鳥たちが見える。それらは手分けをするように中央で散開し、茶畑を飛び回った。
「焦らず、確実に見つけていきましょ」
 ディアナの言葉にはい、と頷くエル。その視界に紫色の塊が映る。4体……いや、5体か。
「分裂したところでしょうか?」
「そうかもしれないし、群れで固まっているのかもしれないわね」
 『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)はディアナの言葉になるほどと納得し、少し離れた場所にあった茶の木へスライムについて聞いていた。
 木は酷く怯えていた。対象がすぐ近くにいるようで、ハンナはそっとファミリアーの視界から木の裏側を見てみる。
(――!)
 いた。根っこの近くでじっとしているスライムだ。下手に刺激してしまわないよう、ハンナはそっと木から離れる。怯えている木には申し訳ないが、少しの辛抱だ。
(ふうむ。今のところこちらに敵対心はない、か?)
 対照的に小鈴は敢えてその身を晒し、存在を認識させるために辺りを飛び回っているが――それらしき敵意は見られない。注目を浴びている気配はするが、そもそも彼らの目はどこなのだ。
(連中に体温があるようで何よりだな)
 双弥はファミリアー越しの温度視界を頼りにスライムを見つけていく。この寒さでファミリアーである蛇の動きは緩慢だが、その視界を借りた双弥は明らかに周囲と異なる温度感で、スライムがいるだろうと結論付けた。その近くをマッダラーのロバ・ロボットたちがかけていく。彼らは茶畑を駆け巡り、スライムがいるところを見つけるとマッダラーへそれを知らせにUターンした。
 そうして大体の位置が把握できた頃。イレギュラーズたちは集まって作戦を開始する。
「保護結界を張ったのじゃ。これで被害はいくらか少なくなるじゃろう」
「それなら数が多い所を優先的に回っていきましょう」
 どうかしら、とディアナ。元より作戦を立ててきた彼らに否やはなく、ゼファーは小鈴にエネミーサーチの結果を問う。
「からっきしだったのじゃ。姿を見せたとて、これっぽっちも敵意を向けん」
「ふむ?」
 ただ姿を見せるだけでは反応がないのか。しかし『食材適性』を持っていたとしたらどうなるのだろう?
「やってみますかね」
「回り方に変わりはない。引き付けるのでも、押し出すのでも良いだろうさ」
 マッダラーの言葉にゼファーは茶畑の方を振り返る。それなら善は急げ――茶畑がスライム塗れになる前に、どうにかしなければ。
 一同は捜索した中で多くたむろしていた場所へと移動する。多少の移動はあるだろうが、誤差の範囲だ。
「貴方達! 葉っぱよりずっと食いでがある獲物がこっちにいるわよ!」
 釣れれば上々、釣れなければある意味一安心。スライムを思いきりどつき、さあどうだと睨みつけるゼファー。その表面を大きく波立たせたスライムは――ぼよんと跳ねて、ゼファーの方へと動き出した。
 食材適性が良かったのか、それともこちらから危害を加えることで興味を持たせたことが良かったか。あるいはその両方かもしれない。周囲のスライム数匹も、仲間の動きに合わせてもにょもにょと動き出す。
 ゼファーのひきつけをフォローするように、エルは貰った余りものの茶葉をえい、と撒いていく。少しずつ、少しずつ、畑の外へと向かって。それをたまたま踏んだスライムが、自ら千切らなくても葉が落ちていることに気付き、餌を辿り始める。
「いい調子だ。せっかくだから、演奏を交えてセッションとしゃれこもう」
 協奏馬たちと共に演奏で気を引き付けようとするマッダラーだが、これには敵の反応もにぶいか。そもそも奴らの耳はどこなんだ?
 ともあれ、効果が薄いと察したマッダラーはすぐさま戦法を変える。すなわち――実力行使。
「よっと」
 ぐわし、と手でスライムをわし掴むマッダラー。何とも捕らえづらいそれをどうにか小脇に抱え、もう1体も同じように。落ちている茶葉に夢中になっているスライムを大きな喝で吹っ飛ばしていたハンナはその様子に唖然とする。
「す、すごいですね……!?」
 何とも豪快だが、いちいち飛ばして進むよりは断然早い。問題は抱えているスライムに否応なく攻撃を喰らうという事だが、何があっても倒れぬと万全を期しているマッダラーだからこそできることである。痛そうだけれど。
「こっちも負けていられないわね」
「ああ。悠長にやっていて分裂されるわけにもいかねェしな」
 ディアナと双弥も衝撃を与え、次々とスライムを追いやっていく。それなりに広い茶畑の外れまで連れて行くというのは多少骨が折れるが、畑の事を考えればこれが最善だ。
「ゼファーくん、こいつらも任せていいか?」
 マッダラーは冥穣の超分析で回復してもらいつつ、ゼファーへスライムの1体を放ると後方にいるスライムをひっつかむ。
 そうして時間はかかったものの、イレギュラーズはポイズンスライムたちを畑の外まで誘導していったのだった。


「やれやれ。これで概ね集まっただろう」
「お疲れ様。それじゃあ皆、準備は良いかしら」
 ディアナの言葉にマッダラーはスライムへ構える。ここからは気兼ねなく戦えるのだ、早々に倒して茶葉を頂くとしよう。
「ざらめ」
 エルの声が魔力を伴い、雪豹の雪像を形作る。それはまるで生きているかのようにスライムの1体へ肉薄すると、雷雪を伴って噛みついた。すかさずゼファーが挑発し、双弥も気を炸裂させる。2人へ飛び掛かるスライムの一部をマッダラーが盾として阻み、ディアナは掌に昏き月を輝かせた。
「ごめんなさいね。貴方たちには恨みも何もないけれど、居座られちゃ迷惑なのよ」
 その身が含む毒に恐れていてはどうにもならないと、彼女は敵陣へ真っすぐ突っ込んでいく。何体か分裂したようだが、ならば全てを叩くのみだ。
「ふむん、ここなら敵だけを一網打尽にできそうじゃな?」
 小鈴はゼファーや双弥、ディアナに当たらない位置を見つけ、魔砲を炸裂させる。ハンナはその中へ切り込むと、流れるような剣舞でスライムを切り裂いた。
(剣が効きにくくとも、手数で押してみせましょう!)
 柔らかなスライムの表皮が削がれ、幾重にも傷が重なる。より深く入ったその瞬間、スライムは爆発するように体液をまき散らした。
「させないわよ」
 すかさず冥穣が仲間を治癒していく。とはいえ、複数人がかかってしまえば順番が出来てしまうのは必須。少しでもその他のダメージを減らそうとマッダラーが意地を見せる。
「こいつら、どういうタイミングで分裂してるのかしらね」
 ゼファーは乱撃でスライムを翻弄しながら、その様子を見定める。殴って攻撃するなら手出しは出来ないが、先ほどのハンナの猛攻を見る限りそうではなさそうだ。
「っと、いかせねェよ」
 スライムがずるりと群れから離れる様を温度視覚で見た双弥は、回り込んで衝術により押し込む。他の場所からもぴょんぴょん出始めたスライムを、ハンナやエルが押し返した。
 群れがばらけ始めたところで、ゼファーは地面を食む個体がいることに気付く。それは暫くするとぽん、と分かれた。
「ははあ。こいつら、食べると分裂するのね」
 すぐではなく、一定量食べたらということだろう。ならば食べる暇もない状態にしてやらねばなるまい。
「冬の嬢ちゃん、いけるか?」
「はい。エルも、頑張ります」
 群れへスライムを押し込む双弥に頷き、おとぎ話を開く。舞台になった冬は、誰にも平等に訪れる。まるで恩恵のように。呪いのように。その力は奔流となって、敵を一掃する。
 いくつもの破裂音と共に、べったりとした紫の体液が周囲へ飛び散る。冥穣は茶畑にかかりそうな体液に向けて衝術を放ち、次いで味方のフォローへと回った。
「あともう少しよ、頑張りましょ!」
「ええ。ここを大事にしてる人がいるんだもの、これ以上は絶対に汚させないわ!」
 ディアナは自分の体を茶畑の盾にしながら、黒のキューブにスライムの1体を閉じ込める。そこから解き放たれたスライムはすぐさま小鈴の魔法に巻き込まれ、破裂した。
「うんうん、良い調子じゃない」
 残るはほんの数体。分裂する隙など与えず、ゼファーは急所を的確に気で貫く。ハンナの持つガンエッジが華麗な剣捌きで叩き込まれ、スライムは絶命した。
 あまりにも自分たちの身を顧みなさ過ぎて、小鈴とエル以外の6名が冥穣の治癒にかかったことは言うまでもない。ともあれ、茶畑の大部分はスライムの体液を被ることもなく、木々たちは安寧を得られたのだった。



「さて、後片付けだ」
 双弥は腕まくりした。自分たちが来てからの毒液は大したことないだろうが、それまでに被ったらしい茶の木などがある。汚染された葉や土壌は別にしておかなければ、次からの収穫に悪影響が出るかもしれない。
「おっ助かるぜ」
「この籠に詰めて行ってくれ」
 討伐が終わって様子を見に来た男たちが、茶葉を収穫する時の籠へ袋をかけて出す。これならば廃棄する時も運びやすい。
「いや、これ、よく考えたらお茶のお使いと、スライム退治の2つも仕事をしてるのじゃ……」
 酷いのじゃあ……とめそめそしながらも、小鈴は乗り掛かった舟だからと手伝いに精を出す。こんなブラック労働、あとで花の魔女に美味しいお茶と甘いお菓子を強請らなければやってられない。
「そういや、規格外の茶葉だとか花は何かに使わないのか? 装飾にするなり、栞にするなりやりようはあるだろ」
「あることにはあるがね」
「作ってたら在庫が増えるばっかりでね。持って行くかい?」
 双弥は是非、と頷く。土産になりそうなものがあるなら貰っておきたいところだ。今日のこの騒動だって土産話になるだろう。
「麗さん、喜んで、くれるでしょうか」
「きっとね。ま、スライム塗れの土産話ってのもなんですけど」
 それだって、無事に終わったら笑い話になるのだから。皆でこの茶葉で一休みしながら、嗤ってもらおうじゃないか。
「行くならお菓子も手土産に持っていきましょ。期間限定なのよ」
 冥穣は通りがかりにある店を思い出す。覇竜の外で扱われている菓子ならば、かの魔女も気になることだろう。こうしてドラゴニアがイレギュラーズになり、外へ出る機会も増えた今なら、色々な品物を見ることも多くなるだろう。
(店に並べる品物も増えるわね)
 そのうち花の魔女にも訪れてほしい。2人で楽しく話に花を咲かせられたならきっと楽しいだろうから。
「楽しいお茶会になりそうですね。この茶葉はどんな味を出すんでしょう?」
 ハンナは貰った茶葉へ視線を向けた。お茶を飲むことはあるけれど、深緑と鉄帝では風味も何もかも違うはずだ。覇竜で飲む異国のお茶に心が弾む。
(厘楼様もこのお茶で、素敵な時間が過ごせますように)
 かくして、イレギュラーズたちは花の魔女の元へ帰還する。そして温かいお茶と美味しい菓子を前に、持ち帰ったあれこれを彼女へ見せ、聞かせるのだろう。
 マッダラーは次の茶葉の季節へ受け継がれるように、物語を詩に紡いで乗せたのだった。

成否

成功

MVP

エル・エ・ルーエ(p3p008216)
小さな願い

状態異常

マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)[重傷]
涙を知る泥人形

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 厘楼は皆様のお話を楽しく聞いたようですよ。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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