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シナリオ詳細

腹を鳴らしたイグニアス

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 覇竜領域デザストル――ラサに程近く、そして地中という『安全』を死した竜の尾骨に沿い掘り進んだ『竜骨の道』を越えた先に存在する『亜竜集落フリアノン』にて里長の血筋である少女は「よくぞ参られた!」と叫んだ。
「一度は言ってみたい台詞だったの。今日は来てくれてありがとう。突然のお呼び立てごめんなさいね。
 里長代行達にフリアノンの事を任せて見聞を広めに行こうと思ったのだけれど……その前に一つだけ」
 そう口を開いたのは『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)。新米イレギュラーズでもある亜竜種の少女だ。
 幼い頃に両親を不慮の事故で亡くし、里長の家系であった彼女は幼くもその座についた。
 フリアノンというデザストルの中でも巨大な亜竜集落を治めるには力不足であった彼女のために複数の里長代行が付き、彼女を支えながら今日までやってきた。だが、外からの来訪者を受け入れる以上は見識を広め、外との交易も活性化させるべきだと琉珂は考えた。
 竜骨の道があったことで大海を隔てる神威神楽程、隔絶された場所ではなかったが知識が足りていないのは確実だ。
 故に、イレギュラーズとして外に旅立とうとした彼女は『忘れてはいけない問題点』に行き着いた。
「あのね、時折オジサマと一緒に動向を観察していた亜竜(モンスター)が居るのだけど……。
 その子がフリアノンの程近くに出没して折角作ったお野菜を食い散らかそうとして居るみたいなの。
 集落から出ると勿論危険だし、亜竜種の皆は安全な活動域は知っているわ。けど、モンスターが其れを理解しているとは限らないでしょ?」
 此の儘では里の者に危険が及ぶかも知れない。
 まだまだ覇竜領域に慣れぬイレギュラーズ達に『体験!』と揶揄うように仕事をお任せしていたフリアノンでも問題の一つに浮上したそうだ。
「私が観察してたモンスターだもの、私が責任持たないとって思って!
 アナタもそう思わない? 思う……思うわよね。それじゃ、早速倒しに行きましょう?」


 フリアノンの程近く――安全区域として認識された巨骨の傍にはラサから運ばれ来た植物を育てる畑が存在した。
 琉珂に言わせれば「新鮮な野菜はやっぱりお日様が大事よね」との事である。
 彼女が心配するのは最近この畑を荒らし回る炎を吐く蜥蜴が居る事なのだそうだ。
「オジサマがあの子に名前を付けてたのよね。『イグニアス』って。
 炎を吐くからだそうなのだけど、私はイグちゃんって呼んで可愛いなあって思ってたのよね」
 可愛いと思っていてもモンスターはモンスターだ。ペットではない。人に仇なす可能性があるならばさ里長として決断しなくてはならないと琉珂は決意を固める。
「皆にはあの子――イグちゃんを倒して欲しいの。倒した後、多分お肉は食べられるわ。
 それも自然の恵みだもの。飢えるよりはマシなこと……フリアノンに持って帰って調理して貰いましょうね」
 ほら、と指さす彼女の前には――

 巨大な蜥蜴が地を這いつくばっている。
 決して可愛いなどとは言えないだろう。2mを普通に越えるであろう巨大な蜥蜴は炎の鬣を有し舌をちろちろと出している。
 足も其れなりに太いか歩むたびに地を鳴らす。
 人語は有していないだろう。対話をすることは難しそうだ。
「イグちゃん、見えた?」
 大きいから見えるでしょうと言いたげな琉珂は人里に近付かなければ可愛らしいだけのモンスターなのだと怖い物知らずなことを呟いた。
「あの子は、火を吹いてるところ見たことあるわ。あと、あの大きな足で他のモンスターを踏ん付けてぺしゃんこにするのも。
 気性は見た目的にもそうだけど荒らそうでしょう? だからね、此の儘放置して里の誰かが怪我する前に私達で倒しちゃいましょう!」
 頑張りましょうと拳を振り上げた琉珂はイレギュラーズ達に微笑みかけたのだった。

GMコメント

 夏あかねです。琉珂ちゃんと一緒にモンスター退治。

●成功条件
 イグニアスを倒す

●『イグニアス』
 体長は2mを普通に越えており、正確な大きさは分かりません。非常に太い足を持った炎の蜥蜴です。
 琉珂はオジサマと一緒に里に近い場所に生息するこの蜥蜴を観察していたそうです。最近は里に程近い場所に生息するようになったため、討伐を決意しました。
 炎の鬣を有し、炎を吹いたり、大きな足でずしんとのし掛かる等の行動を取るそうです。
 琉珂曰く「とっても重いと思う!」とざっくりとした評価です。お肉はどうやら食べられるようですので、討伐後はフリアノンに持って帰りましょう。

●小さな蜥蜴*5
 イグニアスが連れていた蜥蜴です。小さいと言えども1m50cm位はありそうです。
 雷撃、麻痺を駆使する個体や空を飛ぶ個体などバリエーションが様々なものが5匹存在しているようです。

●珱・琉珂
 フリアノンの里長。イレギュラーズになりました。里長代行に里は任せて天真爛漫に頑張ります。
 竜覇は炎。皆さんのサポーターとして頑張ります。
 戦闘終了後はイグニアスを持ち帰って自然の恵みに感謝してシチューを作る予定です。良ければご一緒にどうぞ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 腹を鳴らしたイグニアス完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
囲 飛呂(p3p010030)
きみのために
文・久望(p3p010407)
運命で満たすは己の欲
カーリン・ラーザー(p3p010424)
龍魔術師

リプレイ


 亜竜集落の近郊。『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)がイレギュラーズと共に向かいと言ったその場所は荒れた様子が見受けられた。
 覇竜領域デザストルで活動を行うようになって、『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)は畑の被害に関する依頼を見かけると感じていた。細やかな暮らしを行う亜竜種達に撮っては自身等の畑はそれだけ重要だということなのだろうと合点がいく。飛呂自身は『恵まれた生活』をしていると自負している。故に、想像出来ぬ部分も多くあるが――
「単純に危ないのもあるだろうけど、畑、食料なんて、命に直結するもののひとつだ。それを脅かされるってんなら、そりゃどうにかしねーとな」
「そう、そうなの!」
 頷く琉珂に畑の様子を眺めていた『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)は「荒れていますね」と呟いた。
「お野菜、イグニアスさんにとっても美味しい良いお野菜なのでしょうね。
 こうなってしまったのは残念ですけれど……だからこそ、きちんと守りましょう。あの、琉珂さん」
「なあに?」
「……ところでこんな大きな生き物、普段も食料に……?」
 畑の様子を覗き見るリンディスの視界にどっしりと存在するのはイグニアス。体長は2mを越え、琉珂が「可愛いペット」のように称する生き物にしては余りにも――……
「流石は覇竜といったところでしょうか。
 可愛いのスケールまで段違いということですね。亜竜の皆さんには学ぶべきことが沢山ありそうです」
「私って、また世間知らずしたかしら!?」
 所変われば常識変わると首を振った『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)に「アレが可愛いか」と快活に笑ったのは『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)。琉珂が可愛いイグちゃんと呼ぶくらいだ。『思い入れのあるペット』の様な存在であることは疑う余地もない。
(……そういや琉珂に初めて会った時もそうだったな。人の味を覚えたワイバーンを倒してくれって。
 あの時のワイバーンにしろ、こいつにしろ、琉珂には愛着ある相手だったんだろう。私情を交えず立派に里長務めてるって事か)
 一瞥すれば、フリアノン出身の『運命で満たすは己の欲』文・久望(p3p010407)が「琉珂」と声を掛けている様子が見て取れた。彼のように好意的に語りかける様子を見れば琉珂が里長として少し至らぬ所もあれば立派に過して切ったことが感じられる。
(そいつぁ立派な事だが……こんな若いやつが無理してるところを見るのは好きじゃねえな。
 そうは言ってもやることはやらなきゃならねえ。せめて琉珂がしんどい想いをしねえように苦しまねえように方を付けるぜ)
 すう、と息を吸い込んでから「よし」と琉珂の頭をぽんぽんと叩いたルカは「いけるか?」と問いかける。
「ええ。久望も大丈夫?」
「ああ。あれが今日の飯か。蜥蜴も腸を取れば干し物に出来るかもしれんな。
 心配はいらん。大丈夫だ、ちゃんと狩らせて貰おう。調理すれば何とでもなるからな。そうだろ、琉珂?」
 頼もしいと微笑む琉珂に久望は満足げに頷いた。そんなフリアノン亜竜種二人を眺めていた『龍魔術師』カーリン・ラーザー(p3p010424)は「イグニアス……初めて見ましたね……」とまじまじと亜竜を眺める。
「珱・琉珂さん……ええと、里長と呼ぶのも何か違いますし……姫と、呼んだ方がいいでしょうか?
 姫はイグニアスのことをよく知っておられるようですし、ベテランの方々と一緒に行ってもらいましょう」
「えっ、琉珂でいいのに」
 いいえ、と首を振るカーリンに琉珂と呼んでと距離を詰めるフリアノンの里長の様子を見る限り普通の少女と何ら変わりない。
 あの前人未踏とさえも言われた覇竜領域に住まう亜竜種――その中でも特に巨大な集落だというフリアノンの『里長』
 だとしても『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)が見れば普通のイレギュラーズの様に感じられて微笑ましくも感じられた。
「里長様だかなんだか知らねぇが、同じイレギュラーズの一員って事には間違いねぇ訳だ。背中は任せたぜ」
「アナタの信頼、しっかり応えて見せるから!」
 意気揚々と任せて頂戴と胸を叩いた琉珂の肩をぽんぽんと叩いてから頬に指先を突き刺した『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は「おいっすー!」と揶揄うように笑った。
「何々? みんなしてトカゲ日和ですっておかおしてー。ちゃん琉珂もテンアゲでいってみようぜー? うぇいうぇい!」
 今日はトカゲ日和――早速腹を空かせた『トカゲ』に『ごめんなさい』をして美味しく頂く用意をしよう。


 その蜥蜴はその地が己のテリトリーであるかのようにどしりと腰を下ろしていた。周囲を歩き回る小蜥蜴達はイグニアスの家族か、それとも同種の他人であるかは定かではない。人語を有さず巨躯を縮めた蜥蜴。琉珂が観察していたそれはイレギュラーズに気付きのそりと身を起こす。

 ―――ギャア!

 此方を挑発するように一度。吼えたイグニアスの声を聞いて琉珂は「イグちゃんが戦闘準備してるみたい!」とイレギュラーズを振り返る。
 まるで下拵えでもするような感覚でイグニアスを見詰める久望と琉珂に揶揄うようにルカが唇を吊り上げる。
「さーて、琉珂。お前さんにゃサポート頼む。頼りにしてるぜ里長様!」
「ええ、ええ! ルカさん見たいな強いイレギュラーズに頼られるなんて私も捨て置けない女ね! 頑張っちゃおう!」
 自分で言うかと笑ったルカは黒犬と名付けた両手剣を片腕で振り上げる。地を蹴り、そして距離を詰めるは巨大な亜竜。
 イグちゃん覚悟と叫んだ琉珂に「イグちゃんって知り合いがチラつくのは私ちゃんだけ?」と首を捻ったのは秋奈。
「うわー……でけー……とっても重いとかいうやつじゃあないんだわ!
 フッ……もちろん知ってたんだぜっ! むしろ、そういうことなら話が早い!
 みんな行くぞォ! せえーのっ! 私ちゃんたちの戦いはこれからだ!!! ……フフフ、すみませんでした。だってあんなの見せられたら、やりたくなっちゃうじゃん?」
 敵前逃亡はしませんと笑った秋奈は早速と接近して行く。余りに巨大であったからついつい言ってみたという秋奈の瞳がきらりと輝いた。
 踏みつける攻撃は『とっても重いと思う』というざっくりとした評価を下す琉珂を揶揄うように秋奈が引き抜いたのは無骨な姉妹刀。友の名を冠した其れは己が盾となる決意のように閃いた。
「成程。此方のことは敵視してる、と……。
 イグニアスのブレスは予兆なんかもあるんだろう? 琉珂、イグニアスの予兆は直ぐに伝えてくれ」
 シュバルツは前方より引付ける秋奈とは別の方向――斜めから攻撃を入れるように立ち回る。その足で蹴撃の一撃や踏みつけが飛んでくるのも想定されるがブレスに巻込まれるよりマシだ。
 頷いた琉珂をサポーターにルカと秋奈、シュバルツはイグニアスを引き寄せた。早速獲物を定めたイグニアス。その傍らに引っ付き餌を求めるように蠢いていた蜥蜴――小さいと言えども立派な存在感だ――を相手取るのはアッシュ。
 敗北と呼ばれた宵闇をも切り裂くように振り上げる銀色は少女の掌で銃へと変貌した。放つ、帚星の如き眩く燦然と輝く力。
「此度は素早い分断と露払いが肝要かと――此方はお任せ下さい」
「ええ。我々で小蜥蜴達は対処しましょう。其方はお任せしました」
 リンディスは広域からの俯瞰での視界を有し、イグニアスを相手取る仲間達も意識に残す。自身に宿したのは負担を軽減するような『鏡』、何時の日か刻んだ物語をその紅き羽筆は描き続ける。
「支援します」
「頼もう――成程、小蜥蜴まで連れてやってくるとは立派な畑荒らしだな」
 懐に仕舞い込んだ解体用ナイフと肉を運ぶための袋は後々のために役に立つ。小蜥蜴達も貴重な食料にもなりそうだと思考の端に置いた久望は自由なる攻勢を魅せ付けるように蜥蜴の前方へと躍り出て全てを引付け立ち回る。
「こほん――……というわけで今から言葉がきつくなるかもしれない、許してくれ」
 仲間達に非礼を詫びるように告げたカーリンの瞳に好戦的な色彩が宿された。
 おおらかな亜竜種の娘は先程までの穏やかさをかなぐり捨てて、戦いの始まりを告げる赤き血潮の気配をその身に宿した。
「飛行型は自由にさせると厄介なのは理解してる。一気に落とすぞ。
 此の儘、順番に倒し切り、さっさと救援に向かう」
 その双眸に蜥蜴達を捉えたカーリンの魔弾が上空を躍った個体を追い縋る。飛呂は狙撃銃のトリガーを引いた。
「空を自由に飛んでる所で悪ぃけど、落ちてもらうぞ!」
 叩き込んだのは魔力の弾丸。敵を縫い止めるように叩き込まれた弾丸に小蜥蜴の肉体が軋んだ。
 反撃をすると別の個体が久望へと飛び込んで牙を剥く。放たれるブレスが纏うのは雷撃の気配。ばちり、と音を立て青年の体を包むが――彼の竜語魔術(ドラゴン・ロア)はその痛みを赦しはしない。
「ふっ。電撃というには生ぬるいな。もう少し、俺に響かせてみてはどうだ!」
 反撃と言わんばかりに距離を詰めて叩き込んだ一閃。ぎゃ、と鈍い声を漏した蜥蜴を逃すまいとアッシュがひらりと躍る。
 堅牢であろうとも、切り崩せば問題は無い。手が届く場所が全ては狩場。華奢な少女の肢体が力強く躍動する。
「――狩場に踏み込んだ以上、逃しはしません」
 少女のその身を支援したのはリンディスの軍略。無数に存在する個体から仲間達を護る為に立ち振る舞う戦場の参謀は鋭くハヤブサの眼を研ぎ澄ませ、小蜥蜴を逃しはしない。
「大丈夫ですか?」
 励起された癒やし手の物語が秋奈を包み込む。小蜥蜴は数を減らしているがイグニアスは巨体だ。簡単に倒すまでは至らない。
 空より落ちた小蜥蜴に地へと転がって息絶えたそれさえ構わぬ様子のイグニアスが身を揺すりその足を叩きつければ「ぺちゃんこはいやだー!」と秋奈が首を振る。
「よーく見とけよちゃん琉珂! JK盾巫女として頑張るところを、なっ!」
「ええ、秋奈さん! ……イグちゃん、何かお口に含んでるわ!」
「もうちょい先に言おうぜ!?」
 秋奈が手にした刀の一対を眼前に向ける。身を捻りイグニアスのブレスを避けるシュバルツが放たれた炎の気配に息を呑む。
 巨大な蜥蜴の身震いと共に放たれたそれが畑を害する炎であるのは一目瞭然。秋奈の周囲の雑草が焼かれ、荒れた畑に僅かな火の粉が飛び散った。
「私、この畑気に入ってたのに!」
「なら、畳みかけるぜ、琉珂」
 イグニアスの動きが止まった。ブレスを発した事による反動である事に気付きシュバルツが仕掛けるが為に声を発した。
 主力である刃の一閃。それは斬って、斬って、斬り捨てる。強靱なる皮膚さえ裂いて、肉へ届かすが為に。
「此方は終わりました!」
 リンディスが声を掛けると同時に、カーリンがイグニアスへと距離詰める。小蜥蜴の死骸を乗り越えて飛呂の弾丸が無数にイグニアスを襲った。
「お前だってただやられるなんざ冗談じゃねえだろ。全力で来い!」
 ルカは引付ける秋奈の頭上から一気に剣を振り下ろす。喰らうように叩きつけた一撃にイグニアスの巨躯が僅かに軋んだ。
「いいのかい? よそ見なんざしてたら、あっという間に食いちぎっちまうぜ!」
 ルカが唇吊り上げてイグニアスを縫い止めるように剣を叩き込む。巨大な蜥蜴の意識は前方に向いたか。
 ならば、シュバルツは――その背後より忍び寄る。黒き刃は敵を斬り裂くに適している。
「決して恨みなどありません、が――此処に住まう人が、安心して眠るため、暮らすため……終わりにしましょう」
 亜竜種達がここで暮らしている。それが命の営みの在り方。自然界では弱い生き物が淘汰される。アッシュは其れを知っている。人はか弱くも、徒党を組んでこうして生きる糧を得た。
 故に、人として生きるためにその命を狩り取るが為。少女の唇が揺れ動いた。生命力の顕現。それは赫々たる雷と化して苛烈にも切り裂いて行く。
 熱したナイフがバターを裂くように肉を断った意志の刃を引き抜いてアッシュはそれでも尚と牙を剥き出したイグニアスを目の当たりにする。
(――ええ、生きているからこそ)
 リンディスは構える。仲間を支える様に準えた文字列。それに後押しされるように狙撃銃より弾丸を放った飛呂はイグニアスを眺める琉珂を一瞥してから引き金を引いた。
「此の儘、倒し尽くすぞ」
 囁くカーリンの焔がイグニアスを包み込む。カーリンが一歩後退し、身を捻る。その位置へと飛び込んだのは久望の鋭き蹴撃。
 イグちゃんと呼んだ琉珂の声がイグニアスが含んだブレスにかき消される。それさえ、厭わぬ様に久望は一撃を叩きつけた。
「――望み通り、くれてやる!」


 しんと静まりかえった畑付近は荒れ果てる。また開墾を改めて始めなくてはならないかと周囲の確認をする琉珂へと「お疲れ様でした」とアッシュは小さく頭を下げた。
「……戦闘中はきつい言葉を言ったかもしれません、申し訳ないです。とりあえず、珱さん……やっぱり姫でいいです?」
 格好良かったわよと笑った琉珂にカーリンは肩を竦めてそう応えたのだった。ちなみに、琉珂が「琉珂でいいのに!」と繰り返しカーリンが困った顔をしたのは言うまでも無い。
「琉珂、イグニアスと蜥蜴の肉を持って帰るのだろう?」
 解体用のナイフを投げて寄越した久望は自らそれらの解体に手を着ける。頂ける物は頂くのが斯うした里で生きる為の常識だ。
「肉は、焼くも良ければ煮るもよし。爪と鱗は剥ぎ取って、装具の素材にでもして貰おうか。これも命の恵み、大事に使わせて頂こう」
 準備を行う久望を眺めながらリンディスは畑をまじまじと見遣る。育てている野菜はラサから種を得たものも多いらしい。だが、どことなく風貌が違うものも多い。
「私たちの知っている野菜とはまた違うものが育っていたりするかもしれませんし、それが新しい知識への出会いになるかもしれませんね」
「育つ場所で大きく違ったりするんでしょう? お野菜、観察して違うところがあれば教えて欲しいわ!」
 外とウチでは大きく違うのだろうとリンディスの傍らに座り勢いよく野菜を引っこ抜く琉珂は「これも持って帰りましょう」と何食わぬ顔で久望の袋に野菜を投げ入れていく。
「確かに自然の恵みだもんな。残しちゃ罰当たりってもんだ。さ、里に持って帰るか」
「そうだな。肉も、これだけあれば里の皆で分け合うのも良いな。
 琉珂は何か食いたい肉料理はあるか? 嗚呼、野菜料理でもいいぞ」
 飛呂は問いかける久望を眺めていた。琉珂にとっては危険と言えども『思い出』の一欠片だ。危険だった、で終わるのは何となく居心地が悪い気がして飛呂は里へと「シチューが食べたい。あと、焼肉!」と楽しげに向かって歩く琉珂の背中を眺めていた。
 里でシチューを作成する手伝いをしてくれた民達に礼をいいながら琉珂は熱した鉄板とまじまじと向き合った。その傍らにはシュバルツが立っている。
「どうせなら焼いて食べたいと思ってたんだ。
 こんなこともあろうかと、鉄の胃袋を持ってきた俺に死角はないぜ。いや……大丈夫だよな?」
「ふふ、シュバルツさんったら! 大丈夫よ。私は亜竜を食べてお腹を壊したことはないもの!」
 いまいち信用できない気配をさせる琉珂を一瞥してからシュバルツは「それなら……いや……」と頭を抱えたのだった。
「ちゃん琉珂ー、ほら、食べるぜい」
 手招く秋奈に頷いてその傍らに座った琉珂はまじまじと皿を眺めやる。
「これが、イグニアスか……危険だった、でも今日の俺達の糧になったんだ。ちゃんと『いただきます』も『ごちそうさま』も言わないとな」
 感謝ってやつだと笑った飛呂に琉珂はぱちりと瞬いてから「そうね」と笑った。
「ほら、カーリンさんもシュバルツさんもリンディスさんも!」
「はい。食生活のお話など聞かせて頂けますか? 私にとってはまだ未知……新しい世界を、記録したいのです」
 微笑んだリンディスに頷いて琉珂は「いただきます」と手を合わせる。
「生きることは、食べること。此処のマナーであれば、ご相伴に預かりましょう……熱っ……あつ、熱……少し冷ましてからたべますね」
「ふふ、アッシュさん。お水は必要?」
 にこにこと嗤いながらも未だにスプーンを握ったまま微動だにしない琉珂にルカは「琉珂」と呼びかけた。
「あいつは強敵だった。勇士だった。そいつを食らって、俺達の血、俺達の肉にするんだ。そいつが供養だ。だから湿気たツラしねえで、胸張って生きな」
 自身の胸をどん、と戦うルカに琉珂は「そうね」と微笑んだ。
 屹度――思い出を喰らって血肉にして糧にする。そうして、生きていくのだと感じ入るように頷いて。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

文・久望(p3p010407)[重傷]
運命で満たすは己の欲

あとがき

 お疲れ様でした。琉珂にとってはイレギュラーズとしての初めてのお仕事でした。
 皆さんと食べたシチュー、屹度、彼女にとってはとても美味しい物だったでしょう。

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