シナリオ詳細
ひよとひよこ -銀の森にて-
オープニング
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たったったったっと軽快な音がローレットに響く。時折それが止んで、代わりに何かにぶつかった音と、次いで「ぴぃっ」と小さな悲鳴が上がるのも皆慣れたものだ。何かにぶつかったか、何もないところで転んだかだろう。
本当の本当に危険なことなんて滅多に起きやしない。それもわかっているからこそ、あのひよこを――ブラウ(p3n000090)を見守るだけなのである。
「えっと、次に出す依頼は……」
カウンターに登り、広げられた羊皮紙の上をてちてち歩きながら読むブラウ。あの資料が必要だな、なんて思って辺りを見回して。
「あれ?」
彼は首を傾げる。そしてまたてちてちと歩き回って、あったと思っていた資料を探すのだが、ない。ないのだ。アレがないと依頼を出せないのに!
「あっそうだ、まだ用意してなかったんだっけ……!? すみません、ちょっと出てきますね!」
ローレットにいた情報屋へ声をかけるブラウ。ローレットを出てすぐに「ぴよーっ!」と悲鳴が上がったので、また転んだのかもしれない。
それから程なくして『Blue Rose』シャルル(p3n000032)がローレットに顔を出す。彼女は辺りを見回してから、情報屋へ視線を向けた。
「今、ブラウっていないの?」
情報屋が資料のために出たのだと言えば、彼女はカウンターに広げられた羊皮紙を見て、それからかくりと首を傾げる。
「……資料って、ボクが頼まれた地図のことでは……?」
え、とシャルルを見る情報屋、とその一部始終を見ていたイレギュラーズ。その腕には羊皮紙の束が抱えられている。
つまるところ、シャルルに頼んでいた事を忘れて飛び出して行ってしまったと?
「そういうことになるね……うーん」
大丈夫かなぁ。言葉はそう続く。
そんなシャルルの不安は幸か不幸か、的中するのだった。
●
「待って待って足攣っちゃう!!!」
ぜーはーと息を切らしながら走り続けるブラウ。寒さなど感じている暇はない。雪の残る地面にひよこの足跡が残る。
「ひぃ……ひぃ……」
木の影へ隠れこみ、もふんとブラウは座り込んだ。これだけ走ったのだ、もう撒けただろうかと後ろを振り返って――どんよりとした目になった。
「嘘だぁ……」
シュルシュルと音を立て、木々の間を進んでくるそれらはブラウを確実にロックオンしている。ああ、また逃げなくちゃ――そう思った時であった。
「ひよーーーーーーっ!!!!!」
ブラウとモンスターの丁度中間から、服を着た黄色いものが飛び出してくる。それはブラウを見て「あ、」と声を上げ、それからモンスターを見て「げ、」と顔を引き攣らせた。
「ひよ湖さん!」
「ブラウじゃねーか! いや再開を喜び合ってる場合じゃねえんだ、走れ!」
「えーーーっ!?」
急かされ立ち上がるブラウ。『ひよ』であるひよ湖 ひよ男について行きながら、ちらりと後ろを振り返ってその身をぶるりと振るわせる。
「ひよ湖さん、なんてものに追いかけられてるんですか!?」
「好きで追いかけられてるわけじゃねー!!」
顔を引き攣らせるひよ男。彼を――今となってはブラウも――追いかけるのは双頭の大蛇だ。
万年雪を踏みしめて。ひよとひよこの悲鳴が上がった。
●
「ブラウが帰ってこないんだ」
シャルルの言葉にああ、またか……と天を仰ぐイレギュラーズたち。仕方ない、ブラウが帰ってこないのはこれが初めてではないのだ。しかし非行少年というわけでもなく、大抵がその不幸な体質により帰れなくなっている。
「ブラウが向かったのは銀の森だったな」
「うん。採取依頼がそこであって、ボクが周辺の確認をしてくる予定だったんだけど……まあ、そこはちょっとすれ違いが起こってね」
彼女の言葉に『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)はふむ、と頤へ手を当てた。銀の森へ向かうのならば、自分が向かった方が多少の土地勘はあるか。
「行くのであれば、採取依頼も済ませてしまった方が良いか」
「そうだね。これが資料だよ」
ブラウの残した羊皮紙を皆へと見せるシャルル。モンスターに気をつけて採取するだけならそう難しくない依頼だが、これにブラウの捜索が加わるわけだ。
「あと、さらについでなんだけど……ラサからモンスターに追いかけられて、ひよこっぽいのが銀の森へ入っていったらしいんだよね」
ブラウのようだが、どうも話を聞くと違ったらしい。服を着て「ひよ!」と鳴く生き物なのだとか。
「メインは採取依頼。ついでにブラウと、ラサから逃げてる子の救助を頼むよ」
忙しくてごめんね、とシャルルは皆を送り出す。万年雪の積もる、美しき森へ。
- ひよとひよこ -銀の森にて-完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年02月22日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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ひゅぅ、と風が肌を撫でる。静謐な雪景色は美しく、世界が眠りについているようだ。
……が、寒いことに変わりはないもので。もこもこに着膨れした『元ニートの合法のじゃロリ亜竜娘』小鈴(p3p010431)は、それでも刺すような空気にぶるりと体を震わせた。
「えっマジ? これ暖かい? 結構寒いのじゃが!?」
地元(デザストル)を出るのは初めてだ。寒いと聞いていたから防寒具を用意してきたが、これでも足りないと思う。
「隣接するラサは暖かい……いや、時期によっては暑いかもしれんな」
「極端すぎじゃ!!」
『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)も思わず苦笑いする。確かに、寒い土地の横に暑い土地があるなんて、ともすれば風邪を引いてしまうかもしれない。
しかし隣接しているお陰で、この銀の森には彼の地の暖かな空気が流れ込む。故に、冬であっても比較的寒さはマシと言えよう。
「にしたって、また狙われてんのかよ」
あのひよひよクラブは、と『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)は呆れたように肩をすくめる。懲りないというかなんというか。
「この世は弱肉強食。お腹空いてたから目の前の生物狙った、仕方ないこと」
ひよこがモンスターたちに追いかけられる様を想像して、『特異運命座標』雨涵(p3p010371)はさもありなんと頷く。世界は厳しくて残酷なのだ。
「流石ひよこ、食材適性が良い仕事をしているというか」
「ちっとくらい齧られた方が、自分たちの見られ方もわかるんじゃねーか?」
『紅獣』ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)へ冗談まじりに英司が返せば、『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)が片目をすがめる。
「まあまあ。我らがローレットの誇る情報屋が『モンスターに丸呑みされて殉職しました』……なんていう結果は後味が悪いだろう?」
「あのひよこなら齧るどころか一口か」
想像されるは、大きく開いた穴に「ぴよー!」と叫びながら吸い込まれていくひよこ。ギャグなら笑って済ませられるが、そうでもないのが現状だ。
「ひよって鳴く生き物……ひよさんかもしれないし……」
さくさくと小気味よい音を立てて歩きながら『淡き白糖のシュネーバル』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)はそう呟きを落とす。以前も助けたことがあったけれど、もしかして今回も、ということだろうか。
なんにせよ、ひよさんがピンチならば駆けつけないわけにはいかない。ひよこも一緒に守ってやらねば。
早く2人(2匹?)を見つけ出そう、と歩き始める一同。着いていきながらも『特異運命座標』レオナ(p3p010430)は怪訝そうに言葉をこぼす。
「ひよことひよと鳴く生物とは……?」
デザストルに住まうドラゴニアとしてはごく普通の、当たり前らしい反応だと思う。共に行く同種族やイレギュラーズたちの順応性を見た気がする、と思いながらレオナもまた森の中へ踏み込んだのだった。
●
「ひよさんの特徴はね――」
同じ世界出身だから、と祝音がひよについて仲間へ教える。とはいっても、ひよこをそのまま大きくしたような姿だと伝えれば大体は通じるだろう。話す間も鋭敏な感覚はひよとひよこを逃さぬようにと、注意深く張り巡らせていく。
雪の落ちる音。
風の囁き声。
小鳥の羽ばたき。
この周辺には穏やかな音ばかりだ、と祝音が目を瞬かせれば、ドラゴニアの翼を広げて雨涵と小鈴が空へと舞い上がる。
「上空も寒いのじゃ……うう」
「早く見つける。お花も摘む。終わったら、暖かい場所行ける」
頑張ろうというように雨涵が励まし、2人も良く聞こえる耳でひよこの鳴き声を探す。耳元を冷たい風が鋭く抜けていった。
(匂いも……特にこれといったものはないのじゃな)
体の内からも冷えてしまいそうだと思いながら、小鈴は運ばれる匂いに目を細める。冷たい――けれど、どこか清々しいようにも感じるのは、自然に満ちた場所だからだろうか。
「こちらも負けていられないね」
勝ち負けじゃないけど、とルーキスはファミリアーたちを空へ放つ。俯瞰するように見下ろせば、森全体がよく見えた。
「ソラスが何か見つけてくれると良いんだが」
「そうであることを祈るよ。私がこっちに集中してる間は、」
「勿論。任せてくれ」
ルナールが片目を瞑る。妻が頑張っている間、何者にも触れさせるものか。
(頼もしい限りだね。さてと、あるとしたら足跡とか雪解けかな?)
目撃情報はあるようだし、見つからないことはないだろう。ルーキスが空から重点的に観察する傍ら、『ベンデグースの赤龍』シャールカーニ・レーカ(p3p010392)は地上から温度視覚で雪解けを探す。
(雪解けがあれば、近くに足跡もあるはずだ)
しごく真面目な顔つきで観察するレーカ。それに上空で探すドラゴニアの2人を見上げて英司は小さく笑う。
なんとも微笑ましい、などと言えば彼女らに失礼だろうし、実際腕も立つのだろう。だが経験からフォローに回れることも少なくないはずだ。
「焦らずいこう。だが迅速にな」
「ああ」
英司の言葉にレーナははっとして、それからしっかりと頷く。英司は自身も手を抜くわけにはいかないと視線を巡らせた。
足跡や雪解けだけではない。溶けた雪が再び固まることもあるだろうし、煙などが立ち上っている可能性もある。
(まだ追われていれば、だが……)
レオナは捕まっている場合も考えながら、雪の積もる記録へそっと手を当てた。
「眠っているところにすまない。話を聞かせた欲しいんだ」
自分たちが探しているひよこと、ひよという鳴き声の存在。もしくは獣や蛇、蜥蜴などがこの辺りを通らなかったか。
問うてみるも、彼らは戸惑うような感情を返す。そういったものは近くを通っていないということのようだ。
「ありがとう。ゆっくり春まで眠ってくれ」
レオナは仲間とはぐれないように歩きながら、近くの木に手を当ててみては聞いてみる。それが一体何本目になったか――。
「これは……不快、だろうか?」
これまでと違う反応を返す木をレオナは見上げる。騒がしいものか、暑いものかは定かでないが、不快と感じる存在が木の中を通ったらしい。しかし時間というものは曖昧なようで、レオナが問うてもそこばかりははっきりしなかった。
「十分な収穫だよ。さっさと見つけないと、本当に焼き鳥にされてそうだからね」
「丸呑みだったら笑えんぞ」
からからと笑うルーキスにルナールは苦虫を噛み潰したような表情だ。だが、近くを通ったのなら足跡があるはずだと雪に目を凝らす。
「あったぞ」
英司は氷塊を見つけて駆け寄る。その先にあるのは――入り乱れた動物の足跡。
「すっかり固まっているようだな。ならもう少し先か」
レーカは顔を上げ、仲間たちに手がかりが見つかったと大きく手を振る。それをみた小鈴たちは仲間たちが向かい始めた方向へ、合わせるように飛び始めた。地面と睨めっこをすれば、見慣れてきた森の中で線を作るような溶け方をしている場所が見えて来る。
「あれじゃ。シューランの通った道じゃろう」
とはいえ真っ直ぐに進んでいるわけでもなく、故に足跡がいくつか残っているらしい。小鈴は地上の仲間たちに見えるよう、手旗を仲間のファミリアーへ向けて振った。
「上からも何か見つけたみたいだね」
ルーキスはその姿に小さく笑みを浮かべ、行こうと皆を促す。一度見つけてしまえば、あとはあちらこちらにその跡が残っていた。
「足跡……あっちに向かってるみたいだよ……!」
小さな――とは言っても普通よりは大きいのだが――足跡を辿る祝音。ようやく英司の人助けセンサーがひよこたちの声を捉える。
「こっちだ!」
英司が率先して雪道をかけ始める。そこには先ほどまで見せていたからかいまじりの姿はどこにもない。
一方の、上空も。
「……聞こえた」
雨涵が声のした方を見る。まだ常人には聞こえないような声だが、それでも確かに。
「行こう」
「うむ!」
地上の仲間への伝達もそこそこに、雨涵と小鈴は全力で声の聞こえた方角へと翔けた。
「ぴぃぃぃぃぁぁぁああああ!!」
「うっせえ!!!! あ、もうダメ体力が流石に」
「そんなこと言ってないで走る走る! 食べられたくないでしょう!?」
尽きそうな体力を誤魔化すためか、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら走るひよことひよ。しかし追いかけてくるモンスターたちに諦めそうな様子はない。
(いやでも流石に、僕も、)
そんなことを思ったからか。何もないところで躓き、ひよこはころころころんと雪の上を転がった。
「おい!」
ひよが焦ったように声を上げた、その時。
「ひよこさん、ひよさん、大丈夫……!?」
祝音が声と同時に駆けつける。力のみなぎるような感覚にひよこたちは目をぱちぱちと瞬かせた。祝音の肩越しに見えたシューランを英司が体を張って止めている。
「おう、ひよひよクラブ。まだ焼き鳥にゃなってないな?」
「勿論ですが!?」
後ろから聞こえてきた声にそうかいと返し、彼らに見えぬようほっと息をつく。無事であるのならそれでよい。心配していたのだなどと恩着せがましくするつもりもないのだから。
「あなたたちも、ご飯はお預け」
雨涵はヘルマンドルたちへ向けて挑発する。丁度良い具合に自分は弱い。それこそひよこたちが食べられないのであれば狙われるのは自分だろうと思えるほどに。だからその本能のままに、狙ってくれば良い。
(彼らのこと、心配してる人が居る。わたしも、そう)
だからやらせるものか。少なくとも――自分の『仲間』は弱くない。
「フレイムタン、汝は蛇の方へ」
「承知した」
英司が止めている蛇の方へ向かっていくフレイムタン。その背中を見送る暇もなくレオナはヘルマンドルの1体へ、闇を纏った獲物を振りかぶる。
「さて、私たちはどっちから潰そうか?」
「うーん……ま、結果的にどっちも叩くんだ、両方やるぞ!」
ルーキスは了解、と軽く告げて魔術を展開する。敵のみを呑み込む深淵。それは何時だって隣に在るもの。そこへルナールが防御攻勢で攻めていく。
「まだ前衛経験は多くないからフォローよろしくねぇ、ルナール先生☆」
「ああ。攻撃は任せたぞー」
何処か気が抜けてしまいそうな、通常運転の夫妻。あてられそうじゃと呟いた小鈴は空から魔砲を放つ。シューランの大きな体は良い的だ。
「前衛は妾も任せるのじゃー」
なにぶんか弱い身なので。攻撃なんて受けたら泣いてしまうだろう。そんな小鈴へ応えるように、レーカがシューランへと突っ込んだ。しかし間髪入れず薙ぎ払われた尻尾に、レーカの身体が宙を舞う。
「くっ……!」
受け身を取ったレーカ。その視界にハラハラとした様子のひよことひよが映った。
(こりゃまたでかいヒヨコだなぁ。ウマ――)
「ウマくねえからな!!」
「おっと」
うっかり声に出ていたらしい。口元に手を当てたレーカは、仕切り直しと大剣を握り直してシューランを見た。
シューランが暴れ、ヘルマンドルが雨涵を狙うなか、祝音の治癒が皆を支える。出血の落ち着いた英司は眼前でどうにか後方へ行こうとするシューランににやりと笑みを浮かべた。
「ウナギが自らかば焼きの火を起こしてくれるたぁいいじゃねーの。かっぴらいて串に刺してやろうか?」
その言葉が通じているのか否か、シューランは邪魔をしてくる英司へギラギラと敵意を向ける。その反対側ではルーキスが攻撃をする一方で、ルナールが向かって来ようとするヘルマンドルを見て彼女を庇う。
「だめ。先にわたし」
そのヘルマンドルを再び雨涵が引き付けようとするところへ、レオナが可能な限りの攻撃を叩き込む。多少の怪我ならどうってこともない。魔砲を打ち放った小鈴は「そこのひよこ2人!」と祝音に守られているひよこたちに叫んだ。
「手が足らんから頑張るのじゃ! 今こそ反撃なのじゃ!!」
「僕はしがない情報屋ですが!?」
「俺逃げ回った事しかないんだけど!?」
えっ、と小鈴が声を上げる。そこから数瞬の沈黙――が許されるほどに余裕がある訳もなく。
「敵が来そうだよ……!」
祝音が気を付けてと警告を上げればひよこたちはぴよぴよひよひよと目を白黒させる。英司が粘っているが、あちらも本気だ。
「ひよこさん達は、食べ物じゃない……!」
祝音のサンクチュアリが仲間たちの士気を上げる。ヘルマンドルが減ったのを見たルーキスはルナールと共により前へと出た。
「あんまり苦しませるのもかわいそうだしね?」
ゼロ距離で放たれる極撃がヘルマンドルにとどめを刺す。近くにいた敵へ向けてルナールも勢いのままに攻撃を向けた。
「あともう少しだ!」
「ああ。鱗を持つ者としてどちらが上か、その頭に叩き込んでおけ!」
戦いの最中に傷を負いながらも、レオナに続いたレーカのヘイトレッド・トランプルが敵を蹂躙する。残るはシューラン1体だと、ふらつく体で雨涵が駆けだした。
(ここで倒すこと躊躇うのは相手に失礼、仲間も危険に晒す)
武器で攻撃する事、傷つける事。可哀想だと思いはしても迷ってはいけない。迷うものかと得物を構えて、相手の力を利用した強烈なカウンターが決まる。
シューランは身体をしならせ、鳴き声を上げた。そしてイレギュラーズたちを睨みつけたかと思うと――。
「わぁっ!?」
「なんだ!?」
「雪を尻尾で舞い上げたのか……!」
突如視界を埋め尽くすし白。ある者は自身を庇い、ある者は誰かを庇うものの、視界が開けた頃にシューランの姿はない。
「逃げた……?」
小さく零れたその呟きは、静かになった空間に転がった。
●
「「た、助かったぁ……」」
戦いが終わり、真っ先に気が抜けたのは救助対象――ブラウ(p3n000090)とひよ湖 ひよ男であった。祝音が寒いならと防寒具を脱ぎ始める。
「さっきまで着てたから……少しはあったかいと思うよ?」
「いやいや、走り回ったから大丈夫だ!」
「それより、皆さんどうしてここに?」
ブラウが怪訝に見上げれば、祝音とフレイムタンがことのあらましを語る。シャルルと入れ違いになった件でブラウは雪の上に突っ伏した。
「安全、確認できた。なら、お花探す。きっとすぐ見つかる」
その様子を見下ろし、ぽやぽやの瞳を瞬かせて。雨涵は仲間たちへ視線を向ける。レーカはそうだったなと頷いた。
「しかし、花の似合うメンツだなぁおい。画になるぜ。髪にでもさしてみちゃあどうだい?」
「かみ?」
英司の言葉を復唱して雨涵は頭へ手を当てる。髪に花。似合うのだろうか? そんなふうに、おっとり首を傾げた。
「そうだ、遊色効果というのは何なんだ?」
「それはね――」
ルーカスがレーカへ教える間に、動けるものから花を探し始める。小鈴はその視力で見逃さないように、英司は雪と異なる色味を探して。ルナールは忙しいなと苦笑いだ。
「なるほど、これか」
花を摘んだレーカはほぅ、と空を眺める。光の加減で色味が変わる姿は、なんと不思議なことだろう。
「こちらも見つけた」
レオナは長時間の移動に優れたその足であちこちを見て歩き、仲間たちの見つけていない群生地を見つけていた。群生と呼べるほどの本数ではないが、それでもこれで十分に採取ができるだろう。
「猫さんのお目目みたい……」
集まった虹色に光る花を見て、祝音は目を瞬かせる。夜に見る猫の瞳のようだ。
さあ、これで依頼は完了。ひよことひよも無事に保護できた。あとはローレットは帰還するだけだ。
「帰ったら温かいお部屋でぬくぬくしたいね」
「おっいいな! まったりしようぜ」
「僕は報告書と依頼書に揉まれてきますね……」
忙しいんです、とブラウ。ちなみに彼には帰ったあと、シャルルからのお小言も待っているのだが、まだ知る由もない。
「で、今回の件もやっぱり食材適性のせい? 年明けてるけどお祓いでも行く?」
「いやぁ……お祓いでどうにかなるんなら行くんですけど」
「まあ、一度行ってみてもいいんじゃないか。真面目にそう思うぞ」
ルーキスとルナールに言われてしまえば、そうかもしれない、そうしようかと思い始める。決めの一言はルナールだ。
「本当に気を付けないと、気が付いたらブラウのローストチキンとかなりかねない」
「ぴぃっ!?!?」
さぁっとブラウが血の気を引かせる。その姿を見て、何度でも助けには行くさとルナールは苦笑まじりに返した。
ともあれ、彼らには出来る限り気をつけてもらうとして――一同は銀の森を後にしたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
無事にひよひよは保護されました。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
ブラウ・ひよ湖 ひよ男の救助
採取依頼の達成
●情報精度
2人の救助に関して、情報制度はBです。不明点もあります。
採取依頼は情報制度Aですので、安心して取り掛かってください。
●フィールド
鉄帝・銀の森。ラサとの国境付近にあり、万年雪に覆われた場所です。雪があっても比較的暖かいでしょう。
多少足場のマイナス補正はあるでしょうが、天気が良い中での捜索となります。木々で若干視界が悪いです。
●エネミー
・『熱砂の吐息』シューラン
ひよ男を追いかけていた巨大な蛇。ラサから紛れ込んだようです。その表皮はうっすら熱を帯び、周囲の雪をゆっくり溶かしています。お腹が空いているようで、イレギュラーズが立ちはだかれば邪魔者と認識するでしょう。
長い体を生かして拘束したり、薙ぎ払ったりしてきます。攻撃は周囲の木々を薙ぎ倒すほど強力です。また、口から炎を吐くことができます。
大きな体は回避に強くないようですが、防御と抵抗力はあります。その他については不明です。
・ヘルマンドル×4
ブラウを追いかけていた火蜥蜴。木々などを伝って移動し、獲物を捕まえます。
すばしっこく、命中率が高いです。飛びかかりや噛みつきなど、至近〜近接戦闘が多いでしょう。火を操り、攻撃力にブーストをかけてきます。
また捕食対象に対して、接触するタイミングで生気を吸収します。
シューランは仲間ではありませんが、厄介な敵(イレギュラーズ)が出てくればその力の恩恵を受けようと協力体制を取ります。つまるところ、仲間割れのようにはなりません。
●NPC
・『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)
精霊種の青年。銀の森に縁があります。ブラウたちは大丈夫だろうかと気にしています。
戦闘時は近接ファイターとしてそれなりに戦ってくれます。指示があれば従います。
・ブラウ(p3n000090)
獣種のひよこ。30cmくらいのふわふわなぬいぐるみのようです。食材適正を持ちます。
ローレットの情報屋ですが、不幸体質ゆえにいつも大変です。今回もモンスターから逃げ回っています。ひよ男さんと一緒です。
・ひよ湖 ひよ男
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)さんの関係者。25歳男性。召喚されたら『ひよ』という生き物の姿になってしまった旅人。食材適正を持ちます。
彼の元いた世界では、ひよこをそのまま大きくした生き物を『ひよ』と呼びます。ひよの子供がひよこ。白い羽に赤いトサカの鳥と、朝一番の鳴き声などは丸っと存在しません。
ブラウと共に必死で逃げています。
●採取依頼
銀の森に分布する、遊色効果を持った花を摘み取ります。
見逃しがちですが、景色をゆっくり見て回れば見つかるでしょう。
1人1本も採取できればOKですが、多くても良いです。取りすぎないようにだけ気をつけましょう。
※メタ的にはこちらが『おまけ』です。プレイングで少し触れるくらいでOKです。
●ご挨拶
愁です。
相変わらずな2人を助けてあげましょう。採取依頼も忘れずに!
それでは、よろしくお願いいたします。
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