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シナリオ詳細

大名屋敷の妖捕り物帖!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●罠
 ここは豊穣、カムイグラ。とある大名の屋敷である。その座敷の一室に、あなた達イレギュラーズは着座していた。
「おお、来てくれたか、神使たちよ」
 大仰にそう言うのは、この大名屋敷の主、坂巻之惟直(サカマキノコレナオ)である。何処かこちらを窺うような、探る様な表情。些か気味の悪い気持ちを覚えながら、あなた達イレギュラーズは、頷いた。
「話は聞いておろう? 我が屋敷に、強大な妖が現れておってな。
 豊穣でも名高い、そちらを呼びつけたのじゃ」
 ほほほ、と大名は笑う。近くには、異様な気配を持つ鎧武者たちの姿もあった。
「こちらは、麿の部下にある。野上、植松、大森。どれも優秀な武者じゃ……そちらに引けをとらんほどにな」
 再び、大名はほほほ、と笑った。
「こ奴らを増援につける。その他、雑兵でもあるが、武士たちもつけよう。
 ……妖は強大じゃ。この優秀な武者たちを以てもしても、狩れるかどうかはわからぬ。
 頼むぞ、神使達よ」
 惟直がそういうのへ、部下たちがうっそりと頷いた。ゆっくりと立ち上がると、野上と呼ばれた武者が声をあげる。
「ついてきていただきたい。妖が現れるのは、屋敷のはずれ。少々入り組んだところに御座る」
 野上の言葉に、あなた達イレギュラーズは頷いた。あなた達が立ち上がるのを確認し、野上は残る二人の武者を連れて、あなた達についてくるよう促す。
 指示に従って、屋敷の奥へ、奥へと向かう。何か、薄暗く、不安感を覚える気配が屋敷のあちこちに漂っているのは、件の妖の仕業だろうか。それとも……。
 廊下を渡り、部屋を抜けて、屋敷の奥へ、庭へ出て、開けた場所へ出る。屋敷の裏手の岩山、そのむき出しの岸壁を目の前にした広場に、イレギュラーズは案内された。
「我々の討伐対象はここにいる」
 野上が、ゆっくりと刀を抜いた。合わせるように、残る植松と大森、そして配下の侍たちも、生身の刀を抜き放つ。
「……やっぱり、罠だったようだな」
 あなたの仲間である、イレギュラーズの一人が、案の定、といった様子で頷いた。

 ……此処で、場面は前日、あなたたちが依頼を受けたその瞬間にまでさかのぼる。
「おや、その依頼を受けるのでござるか?」
 と、イレギュラーズの出張所である酒場にて、豊穣の武士風の男は言った。この出張所に勤める情報屋の一人だ。
 あなたが見ている依頼書。その主は、坂巻之惟直(サカマキノコレナオ)。何でも、強力な妖を倒すため、高名な神使を呼んでほしいとの事だが……。
「その依頼で御座るが、実はどうしたものかと、皆悩んでいた所で御座る」
 と、その男は言った。事情を聴いてみれば、以下のようなことだった。
「なんでも、その坂巻之惟直という男、かつては苛烈な獄人差別により益を得ていたモノに御座る。
 神使殿たちの活躍により、都は正され、その差別は撤廃された結果、惟直も大幅な損をおったそうだ。
 だが、今の世となってなお惟直は獄人の差別を言ってはばからず、この様な世に導いた神使こそ悪、と吹聴しておったほどだ。
 そのような男が、我々に依頼をするなどとは、どうしても思えん。
 現在調査中であるが、これは罠に違いないのでは、と」
「罠?」
 あなたが尋ねるのへ、男は頷いた。
「偽りの依頼で皆を呼びつけ、暗殺を狙っているのではないかと……」
 ふむ、とあなたは考える。それが事実だとするならば、この様な依頼は受けるべきではないだろう。
 だが、現体制に不満を持ち、罠を用いてローレットのイレギュラーズの暗殺を謀るほどの悪人であるならば、これを利用しその悪事を世に知らしめ、捕縛するのもまた一つの手かもしれない。
 いってしまえば、これは自分を囮に使った、おとり捜査となる。
「……」
 あなたは悩みつつも、これは一つのチャンスかもしれない、と男へと言った。男は驚いた顔をしたが、確かに、と頷く。
「ふむ……いざという時の救出部隊も用意はしておこう。
 だが、敵地への潜入となる。大変危険な任務になるが……」
 其処は任せてほしい、とあなたは笑った。
 自分もまた、豊穣の地で名声を得たもの。英雄の一人であるのだ。
 自身は在れど、油断はしない。
「ふむ……では、この依頼の受諾を、先方にも告げておこう。
 くれぐれも、気を付けて欲しい……」
 男の言葉に、あなたは力強く頷く――。

 そして時は戻る。
 依頼当日の日、あなた達が『意図的に』罠にはまったその日に。

「騙して悪いが、この仕事で始末されるのはお前達、神使だ」
 野上がうっそりといった。相手から迸る殺気。それは、ただものではないことを示唆している。
「ふん」
 あなたの仲間のイレギュラーズが、鼻を鳴らした。
「予想通り、だ。
 此方もあえて罠にはまったというわけだ。
 やはり、坂巻之惟直……危険人物らしいな。この場でまとめて捕らえさせてもらう」
「できるものなら」
 野上が言った。
「やってみるがいい、イレギュラーズ!」
 ざん、と侍たちから殺気が迸る! 敵は卑劣な相手だが、充分以上に鍛え上げた剣客たちだ!
 さぁ、イレギュラーズよ、この危機を脱するのだ!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 窮地を脱し、正義を示してください。

●成功条件
 包囲を突破し、坂巻之惟直を捕縛する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 豊穣でも名高いイレギュラーズ達を呼びつけ、妖退治をさせたい、という依頼。
 その依頼主は、過激な獄人差別と、反神使で名高い大名、坂巻之惟直でした。
 ローレットの調査でも、この依頼は十中八九罠。しかし、これは逆を言えば、坂巻之惟直の悪事の証拠をつかむチャンスでもあります。
 皆さんは、罠であることを承知の上で、敵地に飛び込みました。案の定、皆さんは敵に包囲されてしまいます。
 さぁ、皆さんはこの窮地を脱し、坂巻之惟直を捕縛し、ローレットの正義を世に示しましょう。
 作戦決行時刻は夕方。戦闘エリアは、坂巻之惟直の屋敷内部です。
 なお、シナリオは、皆さんが裏庭で敵の包囲された状態からスタートします。

●エネミーデータ
 野上
  敵部隊のリーダー格の侍です。大太刀を持った、強力な攻撃が特徴。『渾身』を持つ攻撃が特に驚異的になるでしょう。

 植松
  野上の右腕ともいうべき、強力な侍です。野上に比べて身軽なファイターであり、『背水』を持つ攻撃にご注意を。
 
 大森
  二人の補佐をする、槍を持った侍です。二人に比べてリーチはやや長め。その槍の妙技は、『防無』を持ち、的確に急所を狙ってくるでしょう。

 侍衆×20
  三人の部下の侍たちです。皆さんよりは格下の相手ですが、数が多いのをいいことに、的確に三人のサポートを行ってくるでしょう。
  『出血』系列を付与するほどに鋭い刃は、三人の剣技に引けを取りません。

 坂巻之惟直
  今回の主犯格で、にっくきイレギュラーズ達を暗殺しようと目論んだ悪の大名です。
  戦闘能力はありませんので、上記の侍たちを無力化した後なら、問題なく無力化できるでしょう。
  生死は問いません。扱いはご随意に。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • 大名屋敷の妖捕り物帖!名声:豊穣15以上完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年02月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
一条 夢心地(p3p008344)
殿
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
鏡(p3p008705)
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼

リプレイ

●包囲の果て
 じり、と侍衆たちが、イレギュラーズ達を取り囲むように足を滑らせる。
「此方を罠に嵌めるとは卑怯であります!」
 『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)が非難するように声をあげた。罠であることは承知での依頼受諾ではあったが、こうして焦っているかのような演技をし、向こうに心理的な驕りを産ませるのもまた戦術の一つであろう。
「悪いな。だが、すべては貴様らに責のある事だ」
 植松が、二振りの小刀を構えて言う。そこにあるのは冷たい殺意。此方を確実にとらえ、殺して見せるという意思。
「ふん。罠か。そいつは何よりだ」
 にぃ、と『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)が笑んで見せる。壮絶な笑みである。
「俺も鬼人種だからさぁ……お前らをぶちのめせる方が嬉しいんだよなあ。だから、はは、罠で良かった」
 ずらり、と大太刀を抜く。ぃぃぃ、と刃が吠えるように鳴った。
「これまでさんざんと鬼人種達(おれたち)を迫害してくれたな。
 同胞への借り、ここで返して貰うぜ!」
 ぶつかり合う、敵意と敵意。窮地に追い込まれてなお、イレギュラーズ達の戦意はくじけない。
「ふん……外からきて国を破壊し、救世主気取りか?」
 大森が憎悪に燃えるような声で言う。なるほど、この侍もまた、過去の政策により益を得ていたものかもしれない。或いは、純粋に鬼人種達を憎悪していたモノか。
「自分の主張を曲げないのは結構ですが、少々過激ですね」
 『鏡越しの世界』水月・鏡禍(p3p008354)が静かに言った。
「逆恨みか何なのか……その代償として、少し痛い目を見てもらう事になりそうですね」
 鏡禍が、少しだけむっとした表情を見せた。些か気弱な鏡禍ではあったが、こうも明確な悪を目にすれば、義侠心の様なものもわこうというものだ。
「この国は、きっといい方向に向かっているんです……それを、自分の利益のために、足を引っ張ろうなんて。
 僕たちを罠に陥れたそれ以上に、許せないです」
「ああ。これから少しずつ、差別のない豊穣を……という時に、これはまた厄介な大名が居たものだ」
 『紫煙揺らし』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)が、ふぅ、とため息をついた。
「今の豊穣で惟直に賛同する者がどれだけ居るか分からんが、放っておいて良い事は無さそうだね。
 獄人差別助長のテロを計画されても困る……此処で捕縛ないし討伐しておくことで、未来への不安を取り除いておくとしよう」
 シガーの言葉に、仲間達は、今回の首謀者の名前を思浮かべる。坂巻之惟直。先ほども顔を合わせた大名だが、これほど大掛かりな暗殺計画を立てる危険な男だ。放っておいてはどのような悪事を働くかは想像するに難くはない。
「この手の展開なら、越天楽が呼べりゃー楽できたんだけどな」
 『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)が言った。
「ま、あいつの事だ……もしかしたら、こうなることを察して黙ってたのかもしれねーな。
 どちらにしてもやることは同じだ。お前達を倒して、惟直を捕まえる。
 その悪徳を償ってもらうぜ」
「ふん、口だけは達者だな。それでお上も丸め込んだのか?」
 大太刀の侍、野上がうっそりと声をあげた。
「……そのような物言い。
 まさに見下げた悪党のようですね」
 『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)が冷たい視線をあえて向けた。此方も容赦はしない。そのように印象付けるように。
「敢えて言いますが。此方も加減をする余裕も所縁もありません。
 命惜しくば、すぐに去りなさい。逃げるものを追う事はしません」
 だが、数の有利を自覚しているからだろう。三人の将はもちろん、20の雑兵たちが浮足立つ様子はない。
「ふっ……なーっはっはっは! 皆は優しいものじゃなぁ!」
 『殿』一条 夢心地(p3p008344)が呵々大笑してみせた。
「なーーーはっはっは! 殿的存在であるこの麿に刃を向けるとはの。
 良いじゃろ良いじゃろ。たまには鼻たれ共の相手をするのも悪くないわ。
 悪いが……などとは微塵も思わぬ。この殿に斬られることを光栄に思うがいい!」
 すらり、と輝く東村山の刃。それに合わせるように、『氷翼断ち』鏡(p3p008705)はくっくっ、と笑ってみせた。
「ええ、ええ。それにこの方たち、悪党ではあるかもしれませんが、嘘吐きではないですからねぇ」
 鏡は実に、実に愉快そうに、その口の端を釣り上げた。
「先程この方たち……。
 討伐対象は『此処に居る』と言いましたか?
 優秀な武者であるアナタ達が集まっても降せるかわからない。
 強大な妖が此処に居るとぉ。
 ふふ、ふふふ。ねぇ、その通りでしょう?
 惟直くん、嘘なんかついてなかったって事じゃないですか?

 勇敢なアナタ達は、全員ここで妖(わたし)に斬られて死ぬんですから」

 ずらり、と鏡は刃を構えた。その刀身が抜き放たれたのは刹那。刀身は鈴のように鳴り。
 刹那、その姿は掻き消えた! 斬! 次に聞こえたのは斬撃の音。振り下ろされた刃が、野上を切り裂くべく閃光を放つ!
「ぬ、ぅっ!?」
 野上がとっさに身を引いた。兜飾りが斬り飛ばされるが。わずかに身体の上を走った刃が、野上の身体に衝撃を残した。
「おやぁ、すごい、すごい。よく避けられましたねぇ。
 では、このまま……遊びましょうかぁ?」
 鏡が刃を振りぬく。目にも止まらぬ閃光! 野上は大太刀を地に突き刺して、それを受け止めた。
「あはぁ♪」
 野上の反応に満足感を覚えるように、鏡が笑う。
「ちっ、侍衆、脚を止めろ!」
 植松が叫ぶ。同時、
「鏡禍君、頼む!」
 シガーが叫ぶ! 鏡禍は静かに頷くと、すぅ、と息を吸いこんだ。
「言うだけあるということは、僕一人ぐらい簡単に倒せるはずですよね。やってみますか?
 ――多分無理ですよ」
 魔力を乗せたような、引き付けられずにはおれない声。瞬間的に、侍衆の注意が鏡禍へと向けられる!
「や、奴から止めます!」
 応! と侍衆が駆けだす。ちっ、と植松が舌打ちを一つ。
「雑兵どもが! 大森、あの子供をまずは斬れ! 此方は野上を援護する」
「承知!」
 応、と槍侍の大森が駆けだす。それを確認しながら、鏡禍はぐっ、と身体に力を込めた。
「なるべく耐えます、でも……!」
 この数、そして大森。そう長くは耐えられないだろう。となれば、いかに素早く雑兵をか片付けるかがカギ。
「なーっはっはっは! よかろうよかろう! 雑兵どもを蹴散らすぞ!
 サンディ、希紗良、準備は良いな!?」
 夢心地が声をあげ、刃を振るった。彼の周囲が、さながら八岐大蛇がその首を振りぬいたかのような、強烈な斬撃が巻き起こる!
「お、おおっ!?」
 侍衆たちが、たまらずその刃を構えて斬撃を受け止めた。ぎぃん、と音を立てて、刃が弾かれる。あらわになった胴に、サンディのショットガンが火を噴く。ズドン、と音を立てて放たれた散弾が、射手の狙い通りに、鎧の硬い所に突き刺さる。衝撃は、充分に。しかし貫通しなかった銃弾はその肉体を食い破ることはない。不殺の一撃。
「殺さねぇだけありがたいと思うんだな」
 ふん、とサンディが鼻を鳴らす。がちゃん、とショットガンの薬きょうを輩出して、もう一発。再び散弾が、夢心地の斬撃によってブチ開けられた同鎧に突き刺さり、衝撃によって侍衆の意識を刈り取った。
「お見事。
 さて、侍衆の皆様方。やむを得ませぬ。命惜しくば、去るが良いであります。キサは加減ができぬ性分でありますがゆえに」
 一方、侍衆たちの合間を縫うように駆け、閃光のごとく刃を振りぬく希紗良。どの鋭い斬撃が、鎧の上から侍衆の身体を撫で切りにした。鮮血がほとばしり、激痛に侍衆たちから次々と悲鳴が上がる。
「――疾」
 希紗良は止まらない。敵群にもぐりこみ、次々とその刃を振りぬき、侍衆を斬り、沈黙させていく。
「ぬぅ、その業、敵ながらあっぱれ……だが!」
 大森が、その槍を力強く振るった。斬撃は巨大な真空波を生み出し、打ち放たれたそれがイレギュラーズ達を襲う!
「ちぃっ!」
 獅門が大太刀を構えて、その真空波を受け止めた。衝撃に身体が痺れるような痛みを覚える。痺れる手を軽く振るいながら、
「大森ってのも無視はできないな! 回りごとまとめて叩け!」
 叫び、その大太刀を振るいながら突撃! 乱撃が周りの侍衆を打ち叩きつつ、振り下ろされた刃が大森を狙う! 斬! 刃はしかし、大森の持つ槍の柄で受け止められた!
「この程度――」
「終わらねぇな!」
 獅門が吠える。受け止められた刃に、さらに力を籠める。ぐ、と槍の柄が動く。膂力が、相手のそれを上回り、徐々に、徐々に、槍を押し込んでいく。
「お、お、おおっ!?」
 大森が叫んだ。じり、じり、と刃が、柄にめり込んだ。獅門の豪の剣! それが徐々に、物理的なプレッシャーとなって、大森を抑える!
 長く続くかに思われたつばぜり合い――が、獅門はにい、と笑ってみせた。同時、ぱ、と刀を放して、後方へと跳躍! 抵抗を失った大森の槍が、間抜けのように高々と振り上げられた。同時に、獅門の大太刀が空中に舞う――。
「なに、を」
 大森が驚愕の声をあげるのへ、その懐にもぐりこんでいたのは、サンディだ。接近してからの、拙者によるショットガンの一撃。がうん、と吠えるショットガン。銃口から放たれた散弾が、大森の鎧に食い込む! 鎧は破砕はされていない。銃弾は一つも貫通はしない。だが、これは実質的には鉄球でタコ殴りにされたようなものであろう。激痛が、大森の身体を駆け巡る。如何に歴戦の武士といえど、この痛みにはたまらない。たまらず意識を手放した大森が倒れ伏す。
「一丁上がり」
 落下してきた獅門の大太刀を、サンディは柄を狙って手を差し出し、受け取る――僅かに、おっと、とよろめき。
「随分と重い獲物だな」
 苦笑するサンディに、獅門は凄絶な笑みを浮かべて見せた。
「俺らしいだろう?」
 さて、一方で、鏡と野上の壮絶な斬り合いは続いている。鏡の一撃、野上の一撃、共に一撃必殺級のダメージを持つそれは、しかしギリギリの綱渡りによる、躱しあいを演じることによって、決殺の時の訪れぬままの舞踏を続けていた。
「ああ、ああ! 楽しいですねぇ、うふふ」
 鏡が切り込む。その刃を、野上は弾いた。上段、振るわれる、強烈な斬撃。避けられる――鏡が確信した刹那、右足に強烈な違和感が走った。
 雑兵の一撃である。突き出された何の面白みのない刃の一撃が、鏡の体勢を崩した。
 歪む、鏡の表情。
 痛みや苦痛によるそれではない。
 嗜虐の喜びに、くだらぬ横やりを刺されたが故の、興ざめの表情。
 ずん、と、野上の刃が、身体を滑った。渾身の一撃が、自身の身体を裂くのを感じた。
「これで今日はお終いとは。最後の最後に、ああ、なんて」
 その身体から、力が抜け落ちる。
「沙月ちゃん、野上を抑える!」
「はい!」
 沙月、そしてシガーが野上に飛び掛かる。シガーの斬撃を、野上が受け止める――その横合いから、沙月の拳が、野上の鎧、その横腹を突いた。ずん、と衝撃が身体を駆け巡り、その身体のうちから野上を叩く!
「ぬ、うっ!?」
 野上の刃が、渾身の精彩を欠いた。
「多勢に無勢とは言え、鏡さんを切り伏せる……それだけの実力を持ちながら、その刃を悪しき者へと捧げるのですか」
「理想や題目で食っていければ、そうするがね!」
 先ほどまでより確実に弱まった刃。だが、それでも威力としては申し分は無い。振るわれた斬撃を、沙月は跳躍して回避。だが、そこへ植松の斬撃が迫る!
「シィィッ!」
 植松の二人の小刀が、沙月の腕を裂いた。真っ赤な傷痕が、横一文字に走る――沙月はその美しい眉をわずかにしかめながら、再度跳躍。距離をとり、構えをとる。
「……一対一、と言いたい所ですが……」
 当然、植松の周りにも、雑兵はいる。植松は、追い詰められてこそよりその本領を発揮するタイプの剣士だ。背水の陣を敷くタイプと言えるだろう。出来れば、追い込みたくはないが、此方は敵を蹴散らすという戦法をとっている以上、どうしても相手にダメージは蓄積する。必然、徐々に敵は本領を発揮しつつある。
 多くを巻き込んで倒す、という戦法は決して悪いものではない。野上の刃を鈍らせることはできたし、鏡禍を狙い突出した大森を、副産物的に早期に仕留めることもできた。が、同時にイレギュラーズ達の損害も、相応に増えていることは事実。
 だが……敵の最大戦力は、野上、そして植松であることは事実。特に野上は早期に排除しておきたい……なら。
「シガーさん、野上さんを頼みます」
 沙月は、すぅ、と息をついた。どうやら、植松は沙月に狙いを定めたらしい。ならば、ひとまずは相手をする必要があるだろう。
「ああ。気を付けて」
 シガーの言葉に、沙月は頷いた。そして、息を吸い込むと、距離を詰めるべく一気に駆けだした。

●罠の始末
「坂巻の目論見は露見しておる! 此方にも増援の用意がある!
 その上で、今逃げるなら命はとらんでおくが?」
 夢心地がそういうのへ、しかし雑兵たちは決死の表情でイレギュラーズ達に襲い掛かる。ふん、と夢心地はつまらなそうに笑うと、その刃で雑兵を切って捨てた。
「聞いてないぜ、アイツら」
 サンディが言うのへ、夢心地が頷いた。
「ふむ。見上げた忠誠心だが、愚かとしか言いようがないのう!」
「此度の黒幕である坂巻殿以外は、投降すれば身の処遇は然程酷いことにはならないでありましょう。
 趨勢は此方に有利に動いているようでありますが、まだ続けるおつもりか?」
 希紗良の言葉に、夢心地の言葉に、僅かに剣先を鈍らせるものはいても、投降までするものはいなかった。
「……仕方ありません。敵の数は残り少ない……このまま押しきるのです!」
 希紗良が叫んだ。振るわれる刃が、また一人、雑兵を打ち倒す。
「おう! 鏡禍、そっちは大丈夫か!? 鏡は!?」
 大太刀を振るい、雑兵をなぎ倒す獅門。その問いに、鏡禍が、痛みに顔をしかめながら頷く。
「大丈夫です、もう少しくらいなら……!」
 侍衆たちの攻撃を、ほぼ一手に引き受けていた鏡禍である。相応にダメージの蓄積は大きい。また、鏡は後遺症などは無いものの、すぐの戦闘復帰は難しいだろう。
「鏡禍、いったん下がれ! あとは俺たちで何とかする!」
「大丈夫、です! 最後まで、戦います……!」
 勇敢に笑いながら、鏡禍が頷いた。その意気に、獅門は力強く頷いた。
 さて、シガーは野上との闘いを継続していた。先ほどまでとは比較にならぬほど、野上の攻撃力は落ち込んでいた。が、それを差し引いても、彼の剣技の冴えは鋭い。シガーは刃を振るい、野上に斬りかかった。野上は何とかそれに反応するが、しかし徐々に、シガーの速度に追い付けなくなっていく。
「大した剣客だ。それだけの腕を持っていながら、どうして坂巻なんぞに与するんだ?
 その腕なら、どこでだってやっていけるだろうに」
 イレギュラーズ達と、対等とは言えぬまでも渡り合えるほどの腕だ。実力のほどは充分。
「……さて。身の上を語るつもりはない」
 野上が、決死の反撃に出た。振るわれる、上段からの刃! 渾身のそれならば、シガーの身体を貫いたかもしれぬそれは、しかし力を失った今となっては、容易に切っ先をそらせる程度のものでしかない。シガーは刃を滑らせてその一撃から逃れると、隙をさらけ出したのが身に斬撃を見舞った。
「まぁ、それならそれで。潔いさ」
 ふぅ、と息を吐く。野上が、その身体をどさり、と大地に横たえた。
「馬鹿な……これほどの数をそろえて、まだ届かぬか……!」
 植松は悔しげにうめいた。もはや、残る敵は彼だけになっている。沙月は、振るわれる植松の刃を紙一重でよけて見せると、そのまま一気に植松の懐へと飛び込んだ。
「ぐっ……!」
 己の運命を悟った植松が、悔しげにうめく。
「罠を仕込みたいのなら何度でも。その都度、私達は打ち破ってみせましょう」
 言葉と共に放たれた打撃が、植松の腹に突き刺さった。鎧越しの衝撃が植松の身体を駆け巡り、その意識を刈り取る。
 そして――静寂が訪れた――。

「……静かになったな。どれ、首はとれたものか」
 ほほほ、と惟直は、応接の間で笑ってみせた。部下たちは強い、絶対の自信がそこにあった。
 だが、間の扉を開いて、姿を現したのは、彼の部下などではなかった。
「坂巻之惟直さん、ですね。おとなしく投降してください」
 鏡禍が声をあげる。そこにいたのは、確かに深く傷ついていたが、しかし生還したイレギュラーズ達の姿だった。
「……ば、馬鹿な」
「……野上さん達は、確かに強かったです。あなたが、しっかりとした大名でしたら……。
 きっと、この国のために、その力を正しく使ってくれたでしょうに……」
「く、なにを! お前たちがいなければ、この国はより正しく……!」
「弁明は白洲でどうぞ」
 沙月が言った。
「……抵抗しても構わないが、その場合、あんたの命の保証はない」
 サンディがすごむのへ、惟直は力なく項垂れるのであった。

 やがて事態を聞き付けた役人たちが現れ、惟直たちを逮捕し、護送していった。
 見事、悪意の罠を突破したイレギュラーズ達。
 体は傷ついていたが、しかしその正義は、確かに示されたのであった。

成否

成功

MVP

鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 この件をきっかけに、惟直たちの悪事は多く暴かれました。
 今は裁きを待つ身ですが、決してその罪は軽いものにはならないでしょう。
 そして、皆さん神使達の正義も、また強く世に知らしめられたのでした。

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