PandoraPartyProject

シナリオ詳細

泡沫夢幻の六出花

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 静寂。それだけがこの場所に満ち満ちていた。通常の生き物が寄り付かないような深い地下。目を瞑ってしまえば何も聞こえない、瞼の裏の虚無が広がる。
 けれども不思議とここに闇はない。天井も、壁も、地面すら淡く発光し、空間を照らしていた。

 しゃらららら。

 無音を破る美しい音色。ひとつ鳴れば、共鳴するように部屋中へ伝わっていく。音と共に何かが崩れ落ち、地面へ細やかな砂の小山を作った。

 しゃらららら。

 しゃらららら。

 幾重にも奏でられるそれは、オルゴールのよう。その音を耳にしてひとつの足音がそこへ向かってくる。
 あった、と呟かれた吐息のような声も、この空間では存外大きく響いた。彼女は口をつぐんであたりを見回し、積もった砂の山を見ると袋を取り出した。
 せっせと袋に砂を詰めていく彼女。日の差さないそこは時間感覚が曖昧で、だからこそ――見誤ったのだ。
 袋を全てバックパックへしまい、その場を後にしようとした彼女。その足はある存在に気づいてゆっくりと、音を立てないように止まる。
(どうして……違う、時間をかけすぎた……!?)
 この部屋の前をテリトリーとする亜竜だ。常は催眠の香を焚き、効いている間に帰るのだが起きてしまったようらしい。
 彼女が時間をかけすぎたのか、それとも彼らの眠りに対する耐性が上がったのか。
 いずれにせよ、問題なのはその香のストックがないということだ。予備を持ってこなかったわけではない。彼らのテリトリーが広がっており、香を充満させるのに量が必要だっただけで。
 彼女はそろそろと後退し、呼吸を整える。大丈夫、1体ずつならどうにか。
(イチカに呆れられてそう)
 土を捏ね、形を整え、焼いて生活品を作る。そんな仕事をしている姉の顔が思い浮かぶ、想像上の姉は『早く粉持ってきてよ!』と文句を言っていて、思わず口端を上げた。
 全く、こっちの身も心配してくれならいいのに。想像だけど。
 彼女は音もなくナイフを抜く。さあ、脱出劇の始まりだ。



「貴方達、イレギュラーズって人よね?」
 そう声をかけてきた亜竜種の女性はイチカと言った。急ぎ目の頼み事があるのだという。
「妹が帰ってこないの。六出花の粉を取りに行ったのだけれど」
 ウェスタの付近には洞窟が存在しており、うちのひとつへ入っていったのだそう。亜竜の住まう場所であれど、少なからず戦えるので、死んでいる心配はあまりないのだが、とイチカは続ける。
「粉の方が急ぎなのよね。ちょっと探してきてくれない?」
 妹を助けて欲しい、ではなく粉を早く持ち帰って欲しい、と。そう頼むくらいなのだから、その妹はそれなりに戦えると見て良いだろう。
 しかし、その妹が取りに行ったという『六出花の粉』とは何なのだろうか?
 問うとイチカは見たほうが早いわよと笑った。
「あの子をせっついてくれたら見に行ってもらって構わないわ。手は触れないようにね。アレはとても繊細だし、取りきってしまうわけにはいかないの」
 そうだわ、とイチカは建物に入ってすぐに出てくる。手にしているのは洞窟内の地図らしい。所々書かれていないのはそこに向かわないからなのだろう。
 六出花のある部屋は青い塗料で丸が付けられており、そのすぐ手前から一定の範囲は赤い塗料で丸が付いている。
「亜竜たちはこのあたりをテリトリーにしているわ」
 比較的広い範囲にも思えるが――これより活動範囲が広がっていることを、イレギュラーズはまだ知らなかった。

GMコメント

●成功条件
 ニナの救出

●情報精度
 このシナリオの情報制度はCです。不測の事態に気をつけてください。

●フィールド
 氷でできた洞窟です。地面が少し滑ります。
 暗い場所ですが、六出花のある部屋は明るくなっています。この部屋の光が苦手なようで、エネミーは入ってこられません。
 地図があるため、部屋まで最短距離を行こうとすればそう遠い場所ではありません。ただし、地図に書いてあることは最新情報ではありません。
 賢いリザードマン達が何かを仕掛けているかもしれません。気をつけて進んでください。

●エネミー
・グレイリザードマン
 亜竜の一種です。この辺りを縄張りとするボスです。見かけるのはレアですが、非常に危険です。このエネミーと遭遇した場合、何らかの方法で足止めして逃げた方が良いでしょう。
 このリザードマンの近くはより気温が下がります。また、この個体は他個体より五感が鈍いようです。プレイング次第でやり過ごせるでしょう。

・アイスリザードマン×12
 亜竜の一種です。成人男性よりひとまわり大きいです。
 二足歩行し、手で道具を使ったり、武器を持つなどの知性があります。人の言葉は解しません。その様子からしてテリトリーに入ってきたことを怒っているようです。
 氷の力を操り、時に武器へ纏わせて攻撃してきます。【凍結系列】のBSが予想されます。
 そこまで俊敏ではありませんが、命中力に長けています。

●NPC
・イチカ
 今回の依頼人。工芸品を使っていますが、基本的に集落の中で使われています。
 早く素材が欲しいようです。妹のことは気にしつつも、そこまで心配していないようです。

・ニナ
 今回の要救助者(?)。イチカの妹で、六出花の砂を採取に行ったまま戻ってきていません。癖っ毛の金髪をうなじで結った女の子です。
 ナイフ使いで、そこそこ戦えます。エネミーと1対1ならどうにか、と言ったところでしょう。
 リプレイ開始時、彼女がどこにいるかは不明です。皆さんと遭遇した場合、少なくとも出会いざまに襲ってくることはありません。

● 六出花
 洞窟の一角に存在する鉱石です。
 その形状は雪の結晶にも似ており、オパールのような遊色効果を持っています。非常に繊細で触れればすぐ壊れるでしょう。
 壊れる際に美しい音色を奏で、砂になります。

●ご挨拶
 愁と申します。
 六出花の咲く場所はとても美しいそうですよ。
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 泡沫夢幻の六出花完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
ミラ・ミラ(p3p009334)
聡き耳
國定 天川(p3p010201)
決意の復讐者
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼

リプレイ


 ひやり、と肌を刺す冷気が纏わりつく。小さく息を吐くと、瞬く間に白くなって消えていった。集落ウェスタからほど近い場所に位置するこの洞窟は、寒さと暗がりでまた一風違った不気味さを湛えている。
「骨の折れそうな仕事だな」
「まあ仕事だからな。救出ってのは性に合わないが、やってやるさ」
 苦笑交じりに『新たな道を歩み出した復讐者』國定 天川(p3p010201)はその暗がりへ目を向けた。ただでさえ覇竜領域という慣れない土地だと言うのに、加えて人探しときた。しかし頼まれ、受けた以上はやらぬわけにいかない。
 一方の『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)は酷く悔しげである。この洞窟にはとても強い――今回の依頼においては戦闘を回避することが推奨されるほどの――亜竜がいるのだという。強敵と戦えるチャンスだと言うのに、それを逃さなければならない。しかし仕事なのだからと、貴道は自身へ言い聞かせるように呟いた。
「だが、心配するのが妹じゃなくて素材の方とはな」
「けど何があるかわからないんだ。ああ言ってたけど、急いで向かおう」
 『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)の言葉に『嵐の牙』新道 風牙(p3p005012)もまた、依頼人たる救助者の姉の話を思い出す。あの口ぶり、いったいどれだけ妹の事を気にしているのか。
 腕に覚えがあるのなら、それを信用しているというなのだろう。だが万が一に永遠に引き裂かれるようなこととなれば、彼女だって酷く苦しむはずだ。
「僕らだって安全ってわけじゃないし、早く見つけて全員で脱出しよう」
 行くよ、とマルク・シリング(p3p001309)はサイバーゴーグルをかける。薄暗闇を見通すそれで見た洞窟は、氷で出来ているというだけで形状は変哲もない。ひとまず見えている範囲は、になるが。
 チィ。チチッ。
 マルクの足元で鼠が首を巡らせる。何をするの? と言いたげな鼠へ、マルクは危なくない範囲で偵察だよと告げた。
 鼠の視界はマルクとリンクしている。まずは六出花のあるという部屋へ向けて走って行ってもらおう。敵となる亜竜がいるのかどうか、また救助者がいるかどうかなどの情報も得られるし、それを元に捜索範囲を広げることもできる。
「六出花、か」
 それを見たことのある者はいない。故に、興味がないと言えばうそになる。『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)とてその1人だ。
 しかし亜竜の住処であるこの洞窟から帰ってこないとなれば――少なくとも厄介事だろう。既に最悪の事態となっていないことを願うしかない。
(みらも、みられる、でしょうか)
 『かがやきの先』ミラ・ミラ(p3p009334)はジョージの言葉に瞬きひとつ。いったいどんなものなのだろう。初めての、この仕事を頑張ったなら見ることができるだろうか。
 ……わからないけれど。皆の役に立ちたいから、まずは頑張ってみようとミラは冒険の一歩を踏み出した。

 かつ、かつ、かつ。
 どれだけ密やかに動こうとしても、硬質な氷の床は靴音を響かせる。それでも一同は極力音を小さくして、地図とマルクのファミリアー頼りに進んでいた。
 彼曰く、最短ルートを進もうとすると亜竜に接触してしまうらしい。不必要な戦闘を避けるため、迂回路を進むと言う事だった。
 そうならないことが依頼としてはベストであるが――貴道としてはそうなって欲しいという思いもある。何とも複雑な心境であった。
(まあ、勝てない訳じゃねーだろうが、時間も勿体ないしな)
 シオンは分岐した片方の道へ視線をやる。あの道の先にアイスリザードマンがいるのだろう。ここにいる面子を思えば全く勝算がないどころか、多少の余裕すらあるかもしれない。しかし戦いに時間をかけている間に救助者が窮地となれば本末転倒だ。
 冷える空間に吐息が白く染まる。その息遣いも、足音も、先を進む鼠の音さえもシオンの耳には良く響いた。マルクが偵察してくれている通り、この先に自分たち以外の存在が起こす音はない。
 それはつまるところ、救助者の気配もないということではある。一体どこにいるのだろうかとシオンは無駄と知りつつも、探すように視線を巡らせた。
 ――止まって。
 マルクの囁くような声に一同は従う。彼はシオンに敵の気配がないことを確認すると、罠が仕掛けられていないかと視線を向ける。大丈夫そうだ。進もう。
(全く、おっかねぇな)
 罠を張るだけの知性があるのだ。純粋な戦闘能力ではこちらが上回るのかもしれないが、驕ってはいけない。天川はさっさとトンズラしてしまいたいと小さくため息を吐く。寒いし暗い場所など長居は無用だ。
 しかし、この寒さの中において様子の変わらない――どころか、どこか元気にさえ見える『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は松明を片手に壁へ塗料で小さく印をつける。興味を示したように視線を向けたミラに、イグナートは声を潜めた。
「探索道具のスペアを借りてきたんだ。迷子防止ってやつさ」
 普段であれば決まったルートを使い、亜竜がいれば催眠の香でやり過ごしてしまうから大して必要ないそうだ。しかし救助者も持って行ってはいるそうだから、もしかしたらイグナートがつけていない印を見ることになるかもしれない。
「あったぞ。気を付けてくれ」
 ジョージの言葉に振り向けば、オイルライターを手にした彼が地面付近を照らしている。そこにはワイヤーの警報トラップが仕掛けられているようだ。それを作動させないよう、1人ずつ慎重に越えていく。罠にかかっても恙なく対処できるように、と貴道は周囲を警戒していたが、何事もなく全員通り抜けた。
(六出花の場所まではもう少しか)
 風牙は地図へ視線を落とした。迂回したものの、あといくらかも歩けば光が見えてくるだろう。油断して敵や罠に当たらないよう気を付けなければ。
「だいじょうぶ。てき、いません」
 ぴこりと耳を立て、道中に亜竜の気配がないことを伝えるミラ。その言葉に風牙は頷き、進み始める。イグナートは罠の仕掛けられそうな場所をチェックしつつ、それに続いた。
 仲間たちのスキルによって一同は恙なく進んでいく。不意にミラの耳が揺れ、その瞳がぱちぱちと盛んに瞬いた。
「どうしたの?」
「おとが」
 しゃらららら、と。
 ミラの言葉からまもなく件の場所に近いことが知れる。ほどなくして、淡い光がイレギュラーズの視界に映った。



「ここなら敵も来なくて一安心だな」
「残念ながら、ニナはいねえみたいだが」
 小さく息をついた風牙に貴道は辺りを見回して告げる。壁や天井、地面などが淡く発光するさまは美しい……のだろうが、肝心の人物はここを発ってしまったらしい。しかし最短ルートの方からも戦闘の様子はなかったとマルクやミラが言うのだから、別の道を進んだのだろう。一同は何か残っていないかと周辺を探し始める。
「これがもしかして六出花ってヤツかな?」
「……ほんとうに、こうせき、なんですか?」
 興味に目を輝かせるイグナートに、ミラはかくりと首を傾げた。そして壁に咲いたようなそれを見上げる。
 花か、雪の結晶のように見える。遊色効果を持つその功績はなんとも不思議なものであった。
 イグナートは思わず手を伸ばしそうになったが、依頼人が『手は触れないようにね』と言っていたことを思い出し、すぐさま引っ込める。だが、六出花は触れる間でもなく、ほろりと目の前で崩れ落ちた。
 しゃらららら。
「このおと、さっきと、おなじです」
 聞いたのはこれだったのかとミラは納得する。視線を落とすと、足元には小さく砂――否、粉の山ができていた。これがイチカの言っていた『六出花の粉』なのだろう。
「この砂、灯りに照らすとキレイだね」
 未知のそれにワクワクしているのだろう、喜色を滲ませてイグナートが松明を近づける。それを聞いたシオンは顔を上げた。
「なあ、ちょっと灯りを持ってこっちに来てくれないか?」
 彼女は何かを見つけたらしい。手招きされたイグナートは松明を言われた場所へ掲げる。地面に何かがきらきらと輝いているようだ。
「さっきと、いっしょですね」
「粉がこの外に続いているのか」
 風牙は暗がりへ視線を向けた。外を警戒しつつその跡を辿ってみると、出口への最短ルートとも、イレギュラーズたちが通って来た迂回路とも異なる道へ途切れ途切れに落ちていることが分かる。
「追いかけてみようぜ」
 つまりはそういうことだろう、と貴道は皆を促した。
 灯りで道標を照らし、辺りを警戒しながら進む。イグナートが使っていたのと似たような塗料が壁に塗られていたので、確かにこちらへ来たのだろう。
(頼むぜ。無事に出て来てくれよ……)
 嫌な予感というものは付きまとうもので、天川はそれを無理やり頭の隅へ追いやった。急げ、急げ。一同の頭の中で警鐘がけたたましく鳴っている。
「皆、こっちだ」
 マルクのファミリアーが伝える情報から迂回路を選んでいく。ジョージが何かをしているイグナートに視線で問いかけると、彼はにっと笑みを浮かべながらそれを見せた。

 迂回路を進み、元の道へと連結する。その時、ミラが勢いよく振り返った。
「からからって、おとが」
「こっちの粉、ここで途切れてるぞ」
 貴道は改めて先の道を見るが、この先に粉が落ちている様子はない。ジョージはイグナートを見た。視線を受けた彼はひとつ頷く。
「オレの罠に引っかかったみたいだね。行こう」
 ここで粉が途切れているということは、何かの理由で引き返した可能性がある。それによって先ほどミラが耳にしたカラカラという音――鳴子を慣らしたというわけだ。
 今度は迂回せず戻るイレギュラーズは、シオンが耳にしたという戦闘音に身を引き締め、より足を速める。こんな場所で戦っている者など、状況から考えて1人しかいない。
「やらせるかよ……!」
 風牙が誰よりも早く飛び込み、地面すれすれまで身を沈ませ槍を一閃させる。新緑の瞳と夜空の瞳がかちあった。そこへ飛び込んだ小柄な影は、速力で亜竜に攻め入る。
「まだまだ、です!」
 執拗なるミラの攻撃の合間、少女は大きな影に庇われた。ジョージはニナを背にまもりつつ、その拳で向かってくるアイスリザードマンを打つ。
「不要だったかもしれんが、姉上が早く砂を、とご希望だ」
「……!」
 目を見開くニナ。その視界の中で、貴道は嬉々として拳を握る。
「いいぜ、かかってこいよ。手加減は出来ないぜ?」
 ここまでに積もり積もった不完全燃焼な思いを拳に乗せて、貴道は嵐のような大連打を繰り出した。しかしアイスリザードマンも負けじと武器を握り、冷気を纏わせて攻めにかかる。
「魔術かな? すごいね! オレとも相手してよ!」
 イグナートの武技が炸裂する。自身への傷も厭わぬその暴力性はさすが鉄帝と言うべきか。天川もようやく俺の出番だと小太刀を手に、貴道の狙う亜竜へ攻撃を正確に叩き込む。
「あまり時間はかけるなよ」
「ニナさんとも合流できたことだし、このままスムーズに撤退したいね」
 乱撃を繰り出すシオンに魔術を放ったマルクが頷く。多少の傷はあれど、これならばどうにか勝てそうだ。
 風牙の槍が敵の懐から真上へと貫く。1匹、とその唇が仕留めた数を数えた。
 2匹、3匹。ミラのソニックエッジとマルクの呪言が敵を翻弄し、貴道の強力なアッパーが下方から放たれる。流れるようにフックを叩き込み、その左拳が捉えた敵は洞窟の壁へヒビを入れて気絶した。
「こちらも終わりそうだ」
 ジョージの渾身の一手が力強く敵を打ち、天川の二刀が変幻自在の剣筋で亜竜を斬り刻む。イグナートが攻撃を叩き込んだ最後の1匹に、シオンは直死の一撃を繰り出した。
「悪いが、面倒な奴に見つかりたくないんでね」
 ずしゃりと崩れ落ちる亜竜。これ以上敵が増えないことを感じ取り、一同は詰めていた息を吐いた。
「怪我をした人は言って。回復するから」
 マルクの言葉にジョージがニナの元を離れる。代わりに近づいたイグナートは一通の手紙を彼女へ差し出した。
「……これは?」
「イチカに書いて貰ったんだ。オレたちの事が書いてあるよ」
 イグナート達イレギュラーズの外見は、明らかにドラゴニアではない。別種族の存在にニナが不要な警戒をしないようにと頼んであったのだった。
「集落でコミュニケーションの作法も聞いて来たんだ。それを披露したらオレたちが怪しいものじゃないって信じてくれるかな?」
「いや……これだけで、十分」
 首を振って手紙を示したニナは、やはり先ほどまで気を張っていたのだろう。ほっとした表情でありがとうと一同へ礼を告げた。シオンはここに至る経緯をと声をかける。
「あんたの姉に言われたんだよ」
「ねえちゃん、心配してたぞ?」
「それは嘘」
「……ごめん、嘘」
 ぴしゃりと言い返され、しかも事実であるから続けて口を開いた風牙は小さく肩を落とす。わかるのは姉妹だからだろうか。
「で、でもこうして捜索依頼出すくらいには心配してるんだよ。依頼人がねえちゃんなのは本当だ!」
 これは本当である。口には出していなかったけど、きっとそうなのだと風牙は思うのだ。ニナは思うところもあるのだろうが――そっか、と納得の表情を見せた。
「嬢ちゃんは怪我ないか? 動けるならさっさとズラかろうぜ!」
「ああ、こちらももう問題ない」
 天川の言葉にジョージが振り返る。マルクのおかげで多少楽になった。今は亜竜たちもいないようだし、早々にこの洞窟を出てしまおう。
「そうだ。オレたちの仕事はお前の保護だ。だから後ろで守られていてくれよ?」
「……護身くらいは、いいんでしょ?」
 風牙の言葉にニナが腰に下げたナイフの柄へ触れる。彼女も戦うことができるが、イレギュラーズたちの仕事は極力邪魔しないということだろう。風牙もそれは勿論、と頷いた。
 一同は亜竜たちを警戒しつつ、時に撃退しながら帰路を進む。鋭い感覚で索敵していたミラは、不意にぶるりと震えた。
「……おい。気温が下がってる」
 ジョージの声が固い。一同は息を詰め、どこから来ようとしているのか気配を探った。だがどこから来ようとしているのか見当もつかず、マルクのファミリアーで安全な迂回路を探しながら索敵を行う。
 からん、からん。
「あ、」
 ミラの耳が真っ先にその音を捕えた。直後に一同も鳴った事に気付く。そして視線を交わすと、音がしたのと反対方向へゆっくり進んでいった。
(一番食いでがありそうだったのに勿体ねえ……)
 悔しさを心の中で噛み締める貴道。いつか再びこの洞窟へ入った時こそ、かのグレイリザードマンと会敵を果たそうではないか。

 かくして、一同は洞窟を抜け、いくばくか温かな空気に包まれた。ここまでくれば亜竜も追ってこないと今度こそ大きく息を吐く。
「そういえば、六出花の粉? 砂? だっけ。落としていってたけど、イチカが必要な分は足りてるの?」
「え? ……ああ、大丈夫」
 ニナはイグナートへ頷く。もともと採取した砂が多いので、これくらいで丁度よいのだと。ちなみに粉だとか砂だとかは皆が好き勝手に言っているようで、伝わればそれで良さそうだ。
「おはなは、もちかえれたり、しないですか?」
「残念ながら。あそこでだけ育つ……ううん、咲くんだ」
 ミラの言葉にニナは振り返る。そこでは氷の洞窟が入る前と変わらずぽっかりと口を開け、薄暗闇を湛えていた。

成否

成功

MVP

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 無事にニナと帰ることができました。

 それではまた、ご縁がございましたらよろしくお願いいたします。

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