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シナリオ詳細

兄さん、カジキマグロだよ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●悲恋の花噺から
 深い山の中に、一輪の花がありました。
 花は、旅人に恋をしていました。
 近くの集落に滞在していて、たまに近くに座りオカリナを吹く旅人です。

 新月から二日月にかけて催される祭りを控えて、花は一心に願い続けました。奇跡を。
 一夜だけ。
 ひとことだけ。
 私という存在を知ってもらいたい、心を、想いを伝えたい――。
 でも、どれだけ懸命に祈り念じ続けても、現実は変わりませんでした。
 旅人は花の存在にすら気づかぬまま祭りの料理に舌鼓を打ち、その中にあった海鮮をいたく気に入り、海を目指して新しい旅に出たのです。静寂の山地に淡々と四季が巡って、花は枯れました。願いは、叶わなかったのです。

 ――常山に伝わる御伽噺より。


●星天の下
 馥郁とした香りに包まれ、花宴に囲炉裏を囲んで暖を取る。
 文字や絵が描かれた地口行灯が幾つも飾られて、夜闇をやわらげている。空は黒玻璃めいた深淵に紫苑や藍を溶かし込んだような複雑な彩に小さく白く輝く宝石粉のような星を散らばめていた。桜色の藤袴が華やかな緋毛氈を運び、卯の花色の葛刃が野点傘をセットしている。雪童めいた精霊種の仔らが燥いで大人達に窘められ、朽ちかけた古樹めいた見た目の爺はぶつくさと何かをぼやいていた。

「情報屋からは花祭りの手伝いと聞いてきたんだが」
 『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が朱盃に盛られた花金平糖をひとつ手に取り、『長頼の兄』冬越 弾正(p3p007105)に視線を向ける。出向いてみたら秋永一族と弾正がいるじゃないか、と。
「秋永一族は先日の事件の後、豊穣に移住したんだ」
「ほう」
「この土地は常山(じょうざん)というんだが、近隣の里に住む民も気性が穏やかで懐深く、新しい郷を築こうという一族を快く応援してくれている」
 郷に入っては郷に従え。一族は閉鎖的な気質ながらも、近隣住民と不器用に交流をするようになり、地元の文化を取捨選択し、花祭りを企画したのだ。
 花は、雪中四友の一の花。小ぶりで可愛らしい淡い黄色の花――素心蝋梅によく似ていた『月雫蝋梅』。新月から二日月にかけての夜、この花の下では小さな奇跡が体験できる。
 花の近くで盃を掲げ、大切な人への想いをそっと囁いたなら、ほんの瞬きするほどの間、想いをきいた花がふわりと輝いて――盃をあたたかな光で満たしてくれる。
 
 蝋細工のような光沢のある透き通った花弁に卵形の葉。人工灯りに浮かび上がる蝋梅を鑑賞しながら、光の紗を踊らせるオパール盃を手に、試してみようかと居住まいを正したまさにその時、弾正の弟、長頼がひょこりと顔を覗かせた。弟は格好つけるのも忘れた様子で兄の袖を引き。
「どうした長頼」
「「兄さん、カジキマグロだよ」」
 示された方角を見遣れば、地面から確かに間違いなく、雨後の筍めいてカジキマグロがポコポコと顔を出している。
「弾正、あれは妖怪だな」
 アーマデルが冷静過ぎる目で指摘した。
「情報屋から事前に聞いていた言い伝えによると、この土地に祭りの時期のみ出没する妖怪は悲恋に散った花の怨念ともいわれているようだ」
「なぜカジキマグロなんだ?」
「いや。正確には、カジキマグロではない。あれは見た目こそカジキマグロだが中身はカジキマグロの形をした怨念だ」
「なぜカジキマグロの見た目なんだ?」
 2人がカジキマグロの謎を追う中、長頼は近くでびちびちしていたカジキマグロを木の棒でつついて。
「「捌いたら食べられるかな」」
「長頼、それは多分敵だ」
 兄弟の会話を背景に、アーマデルはじっとマグロの目を見つめた。何を考えているのか、その感情は窺えないが。
「可能性はある」

 すわ一大事、と駆けまわるのは葛刃の達郎。一族の中でも比較的若い世代の彼は、「どうしたどうした」と寄ってきた古参勢の前に偶々持っていた紅白の布広げ、視界を遮るようにして。
「この先は立ち入り禁止でございまする……!!」
 移住に際して最後まで反対していた古参勢は、兎角頭が固くて真新しいものと見ればまず反発を示す性質。地面から生えるマグロを見れば憤然として「こんな地面からマグロが生える土地は嫌じゃ、わしらは帰る」なんて言い出しかねない。或いはショックが大きすぎて卒倒してしまうやも。
(この局面、頼るべきは――)
 ちらりと長頼の様子を伺えば、長頼は無言で兄を示す。自分ではなく兄を敬い、指示を仰げというのだ。
「……久秀様! なんとかしてくだされい!」
 ちなみに久秀というのは弾正さんの本名です。

 と、こんなわけで、花祭りの邪魔をする妖怪カジキマグロの駆除作業が始まったのである。

GMコメント

 月末にこんばんは、透明空気です。
 アフターアクションからのエンジョイ系シナリオとなっております。綺麗なのネタなのどっちが好きなの。両方いこう。アフターアクションを送ってくださり、ありがとうございます。

●依頼内容
 妖怪カジキマグロを駆除する。

●ロケーション
 豊穣にある常山(じょうざん)という地方。最近この地に移住した秋永一族の郷です。
 事件現場は花祭りの会場。時間帯は夜。

●敵
・妖怪カジキマグロ
 20分くらいの間ずっとポコポコと地面から生えてくる妖怪。何を考えているのかは不明。攻撃方法は、ビチッと跳ねて体当たり。放置しておくと会場がマグロ山になってしまいます。大変。

●味方
・秋永一族
 冬越 弾正(p3p007105)さんの関係者です。音因子の精霊種一族。元は深緑に郷がありましたが、つい最近色々あって郷を燃やしてしまい、豊穣に移住しました。「白く洗練された姿で生まれるほど、クリアで混じりけの無い音の因子である」という独特の価値観を持っています。若い世代は新天地でこれから頑張ろうと気持ちを切り替えていますが、古い考えからの脱却が難しい古参も多いようです。

・秋永 長頼
 冬越 弾正(p3p007105)さんの関係者、弟さんです。軽度の中二病傾向と格好つけて話す時に台詞に「」がひとつ多く付く特徴あり。以前の郷を燃やした本人なので一族の中では微妙な立場となっていますが、一緒に燃やした藤袴や葛刃からは変わらず慕われている様子。兄の評価が上がる事に喜びを感じるため、「これをやったら兄さん格好いいんじゃないか」と思いついたら実現のために行動することでしょう。

●情報確度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、マグロの心境も動機もよくわかんないんだ。

●おまけ
 妖怪カジキマグロを駆除した後で、お祭りを楽しむことができます。
 花祭りの会場には『月雫蝋梅』という黄色い花が咲いています。
 花の近くで盃を掲げ、大切な人への想いをそっと囁くとほんの一瞬、盃が光で満たされます。なお、本当の想いでなければ光ってくれません。

 以上です。
 それでは、のびのびと楽しい時間をお過ごしくださいませ。

  • 兄さん、カジキマグロだよ完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
冬越 弾正(p3p007105)
終音
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
クロエ・ブランシェット(p3p008486)
奉唱のウィスプ
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵
李 黒龍(p3p010263)
二人は情侶?

リプレイ

●混沌の夜
 マグロが湧いていた。
 紅白布をひらりと抜けて、老仙は其の夜の惨状をかく表現したものだ。
「あいやーこれは酷い惨状あるね、土地が丸ごとカジキマグロのスターゲイジーパイになったみてぇあるよ」
 【壁抜けの売人】李 黒龍(p3p010263)は一言で紹介すると顔がいい。
「雑紹介ある」
「地面からカジキマグロが生えてくる光景はさながらアレですな!!! これから私はこの先一生、スターゲイジーパイを食べる度に今日の光景を思い出すんだろうね!!!」
 呟きを遮き画面を埋め尽くす【爆音クイックシルバー】ハッピー・クラッカー(p3p006706)の感嘆符。
「スターゲイジーパイ食べる機会が一生の間にあるか知らんし今のところ食べたこと無いし、私幽霊なんで一生は既に終わってるけどね!!!」
「骨化は誕生の始まりですぞ! ボーンッと!」
 カタカタと笑うのは『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)。
 『夢みるフルール・ネージュ』クロエ・ブランシェット(p3p008486)が「ボーンだけに」と一声を添えれば、骨もないと返すハッピー。
「なるほど……」
 『青き砂彩』チェレンチィ(p3p008318)が壁にもたれ掛かり現実逃避している。
「カジキマグロって地面から生えてくるんですねぇ……」
 クロエが隣で「悲恋に散った花の怨念らしいです?」と首を傾げ。黒龍がにょっと壁抜けして2人の間に首を覗かせ「妖怪あるねぇ」と訳知り顔で棒キャンを差し入れる。
「あ、いや、分かってますよ? このカジキマグロは妖怪で、何かの原因があってこんなことになっていると」
 お揃いの棒キャンを受け取った女子2人が目を合わせ。
「旅人が気に入ったのがカジキマグロ料理だったんでしょうか? 何もそんな姿にならなくても……」
「妖怪なんですよね、本当に食べられるんですかね……?」
「混沌には未知が溢れていますね」
 しみじみと頷きを交わした。

「ぶはははッ、花の祭りの真っただ中に磯臭さが漂ってちゃあ華も香りもありゃしねぇわな!」
 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は巨体を揺らして豪快に笑いながら保護結界を巡らせた。ハッピーが「ないすぅ!!」と讃えている。ムードメーカーだ。
(ここが弾正の新しい故郷……)
「自領も近い。困った事があれば相談してくれ」『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は与太とシリアスの狭間に瞳を彷徨わせ、呟いた。
「祭り会場に現れるとはさては構われたがりだな?」
「はじまりはカジキマグロから。そんな郷おれだって住みtonightだが、妖怪の無念も解らなくもない」
 俺だって一度は大失恋を知った身だ。変わりたいと願った事もあるからな、と理解を示す【長頼の兄】 冬越 弾正 (p3p007105)。
「とっとと捌いて供養してやるある」
「任せてくれ黒龍殿。アーマデル、長頼、達郎! プランBだ」
「ちなみにAは何?」
 AはさておきBは図解すると以下の陣形となる。
  魚魚魚魚魚魚
  魚ゴリョウ魚
 ゴリョウの力強く響く声、鋭く刺さる眼光、重みを感じさせる肉。『こいつを倒さねば』とマグロも思ったのだろうか、びちびち元気よく跳ねておおいに釣れた。
「よっしゃー!!そっち任せた!!! なんかそこら辺は任せろー!!!」
 ハッピーが釣れないマグロを担当し、ヴェルミリオの鎖骨をマイク代わりに。
「Look at me !! 私を見ろ!!! ミ☆」
「あ、あの少女は一体」
 紅白布の間から目撃した古参が目を見開き、呻く。
「ご存じ、ないのですか」
 ヴェルミリオが指で鎖骨の間隙を埋めながらオタ活用団扇を古参に渡した。
「彼女こそ超混沌ハッピーちゃんですぞ!!」
「キラッ☆」
「うおお、はっぴーちゃぁん!」

 カジキマグロが一斉にギョロっと睨み、爺ちゃんが団扇を振っている。
「ちょっと暫く夢に出てきそうですね!!!」
 爺ちゃんと団扇を振りながらヴェルミリオはマグロの群れに声をかけた。
「カジキマグロ殿! 思うことがあれば、お話しいただけませぬか?」
「ヴェルミリオ、お前……まさか説得をしようというのか?」
「ここで出会えたのも何かの縁。もう、届かぬ声ではございませぬ。思いがあるなら、どうぞ我らにぶつけてくだされ!」
「ぶはははッ! ぶつけてきやがれい! 全部受け止めてやるぜ!」
 ゴリョウが懐深く腕を広げ、全力体当たりしてくるマグロを父の如き眼差しで受け止め――よく見るとチェレンチィから捌いた肉を受け取り血抜きしている。抜かりなさに黒龍もにっこり。
「こちとらとっくに覚悟完了じゃ! 俺ごとやっちまいなッ!」
「ゴリョウ殿が奴らを引き付けてくれているある。吾輩らは範囲攻撃を叩き込むあるよ!」
「みんなぁー!!!」
 ハッピーが感嘆符と敵を押しくら饅頭よろしくゴリョウに凸する背中に弾正が爆音轟かせ、ヴェルミリオがスピーカーとかつ丼を手に「カジキマグロ殿~!」と演説している。
「仙気閃光ある!」
「李殿、合点承知の助! さながらシャイニングオークといったところでしょうか? カジキマグロとシャイニングオークの共演……実に見事な宴ですな! いよっ! 輝いてるヨ! 脂ノッてるネ!」
「陽気!!!」
「グワー! 神気閃光! シャイニングオークグワー!」
「エッサ、ホイサッ、足場の確保はお任せくだされ!」
 ヴェルミリオが処理済マグロを積む。アーマデル産BGMを前奏に左右に高く積み上がったマグロの花道を通り、弾正が吠えた。
「燃えよ俺の右手」
 右手に握った拳を額にあて、全力を結集してシャイニンスポットへとその手を繰り出して。
「轟け厨二魂!」
「グワー! バーンアウトライト! バーニングオークグワー!」
「電気で〆るある」
「俺は悪夢で〆る」
 いつの間にか揃いの工事帽(黄色)を被った黒龍電気と悪夢デルが同時に。
「って皆の衆はオークをどんな存在にしたいのよ!?」
「誕生月おめでとう」
「お祝いだった!?」
 弾正が燦々煌々を歌い上げれば、クロエがアンサーソングよろしく天使の歌声を添わせて。

 ♪タンク役「♪おめでとうございます」
 ♪格好良いよな「♪皆さんでお祝しましょう」
 ♪跳ねるマグロを その身に受け続け「♪キラッ☆」

「さあチェレンチィ殿も団扇を!」
「ヴェルミリオさん――ボクは団扇は……その……」
(周りが凄いことに)
 チェレンチィはトライノーイシェスチの紫電乱舞を止める事無く黙々と仕事を――「♪混沌の大地踏みしめて 与太とシリアスの境界を生きてく」釣られて小さな声で歌ってしまった……! だって、良い歌だったから……!
 ゴリョウが気づいて全てを包み込む慈愛に満ちたオークアイでチェレンチィを見つめ、サムズアップした。そっと目を逸らすチェレンチィ、耳が赤い。

「これ古参共に見せたら不殺が必殺にならねぇあるか? 見られる前に――」
「とったどー!(見せつけてやろう)」
 アーマデルがマグロを空へ打ち上げ、黒顎魔王で味見をしている。
「もう紅白布の意味ないな!」
「アッー!」
 ちらっ。金眼が阿鼻叫喚の一族を視た。ちろりと一瞬、舌が唇を舐める。
「これが俺達の……DDD(ダンサブルダンジョウドレスアップ)!」
「確信犯ある!」
 決して宇宙猫顔になってる古参の周囲でスキップしながら「いまどんな気持ち?」と問い詰めたいわけじゃないぞ、と少年Aはのちに供述した。曰く「むしろ現実を突きつけてやるのが優しさなのでは?」
「おう、ありのまま見せてやれ」


 漢ゴリョウ、両腕を汲んで堂々たる仁王立ち! ……ノッてる! こいつもやはりイレギュラーズである!
「恥じることねえさ。俺達は皆イレギュラーズだ……!」
 仁王立ちするゴリョウの周囲をクロエの光翼光刃が舞い踊る。
「これは手遅れ。とはいえ魚は鮮度が命、素早く確実に仕留めるあるよ!」
 黒龍が老体に鞭打ち微風に戦ぐ柳めいて気を練る。優婉に諸手が気を練り繊指が大気を抱き愛で。筋肉が伸縮して柔らかに生む熱が気の流れと混ざりて放つ道術。

 それは、今までどれだけ狭い世界で生きていたかを思い知らされるような事件であった。居合わせた人々はのちにそう語る――。


●雪の色
 ――だって、弾正に隔意を持ってた連中なのだ。
 アーマデルがじと眼で見ている。感情が顔に出にくい事で知られる少年だが、弾正は肌でその不機嫌さを感じていた。
「閉鎖的にしすぎるから、いざ危険なものが入って来た時に判断を誤るんだ。俺は郷を出た身だが、もう一度ここで皆のために尽くそうと思う。どうか貴方がたも歩み寄って欲しい」
 声は凛とした波紋と成り、佇まいは静寂の内側に歩み来たりし旅路と時間を思わせた。一族の者はひたりとその面持ちを視て、返す反応は多様であった。感銘を受けた様子で頷く者の隣で直ぐに飲み下す事が出来ずに拳を握る者もいる。

「食べるのも供養の一つなのだと聞きました」
 得意なのは洋風料理なのですが、と言いながらにんにくをスライスするクロエにゴリョウがニィと笑む。
「端身はつみれにすれば無駄なく汁物に出来るな!」
「こちらは、大根おろしと混ぜて和風ソースにします」
「そりゃあいい。古参勢の胃袋掴んで少しでも豊穣に馴染んでもらわねぇとな!」
 ゴリョウが常山の米を炊き、黒龍がマグロが盛られた皿をぽぉんと天に投げ、身ごとくるりと廻り袖を舞わせて降り注ぐ肉に銀閃を奔らせる。秒に満たぬひととき、瞬きすらさせぬ剣舞めいた包丁捌き。踵でトン、と地に置かれていた皿を蹴り上げ、袖躍らせて――気付けば斬ったマグロが花盛りとなり美しく皿に咲いている!
「幾回か開くや東風愁寂」
 唇が薄く息を紡げば、戯れかかるような甘やかな聲が風誘う。
(――こいつらも元は美しい花だったある)
「瓊姿只合に瑤臺に在るべし」
 老仙曰く――ならばこの様な生臭い姿ではなく花盛りの刺身として美味しく散るが良いあるよ、と。
 ワッと歓声が沸く。同時に、何人かの腹が鳴った。会場には既に食欲をいたく刺激するご馳走の芳香が満ちていた。

「はいスマイル!!」
 ハッピーが明るい笑顔で皆を見る。
「みんなぁーっ! はらぺこ9981かー-っ!!?」
 古参が拳を解いてハッピー推し団扇を持った。
「爺……」
「マグロが食いたいかぁーー!!?」
「おおぉ!」
「爺……?」
「はい乾杯ー!!!」
「乾杯じゃー--!!」
 ゴリョウが大声量で場をまとめた。
「今後生きてくこの地の魅力を舌で感じてくんな!」
「「おおおおおっ」」

 異様な盛り上がりの中、隅で慎まやかに正座するチェレンチィを見つけてクロエが微笑み、作り立ての和風マグロステーキを運んだ。
「頂きます。魚は好きなので……」
「ぶはははッ、たーんと食いねぇ食いねぇ!」
 魚好きと聞いてゴリョウがどーんと寿司を置く。隣に座り、クロエは秋永一族の面々と社交的に会話を弾ませ、年頃の少女らしさを煌めかせる好奇心の色を覗かせて「恋バナとかも、お聞きしても?」「あら、素敵。1人ずつ順番に話すのはどう?」藤袴のお姉さん達と盛り上がる輪にハッピーが加わり、笑い声が連鎖するのを近く聞きながらチェレンチィは口の中に広がる魚肉の旨味に睫毛を伏せて美味の幸せの中――「美味しい」素直な呟きを零せば、クロエが照れた様子ではにかんだ。ちらりと眼を遣れば、たいそう嬉しそうににこにこして「このつみれ汁もおすすめなんです……きゃっ」取ろうとした椀をつるりと滑らせて。さっとチェレンチィが椀をキャッチすれば、ほわほわと感謝を伝えて頭を下げてくる。
「ありがとうございます!」
「いえ」

「んまい!」
 美味に破顔する民にゴリョウが常山の米だと伝えれば、この土地は良いなと数人が前向きな言葉を発し――ひとりまたひとり、頷きが続く。

 ――まあなんだ、あれですよ。
 ふわり、きらり。盃の光が瞬いて消えるのをハッピーがひとつまたひとつ見守って。
 ――ここで囁かなくても伝えたい事はばっちり本人達に叩きつけに行くんでね!
「覚悟して待っているのですよ!!」
 それだけ囁いて、群れ咲く光にひとつを足してから、団扇を揺らす爺さんにファンサした。

「これは美味。舌が蘇る心地ですぞ」
 ヴェルミリオは盃を手に花に寄り添っていた。
 優しい夜闇が充ちている。浸るように視線を揺らがせて、蝋に似た花弁に骨の指を滑らせた。想うのは、生死を繰り返していた骸骨兵としての日々と、少女の指先。確かに絡めた指の感覚。交わした言の葉の温りと、祈り。柔らかな手のひらで頬骨を撫でて、微笑んだ眼差し。名をくれたのだ――その事実がこんなにも。
(嗚呼、フィオーレ……我が永遠の少女よ)
 夜が淡くなる。篝火は瞬かぬ星に似て、花が綻ぶ気配に微笑んだ。透明な清酒をとぷりと揺らせば表面がきらきらとして、覆らぬ現実と過去の煌めきにひらりと透き通る花弁が舞い降りる――涙滴めいてひとつだけ。盃に浮かぶそれを光で抱きしめて、ヴェルミリオは優しく口づけた。

 由緒正しき人郷とは悠久たる自然を思えば瞬きするほどの胡蝶の夢に過ぎぬと黒龍尸解仙は紙人形の麒麟に奇しく息を遣る。想うは亡き家族の事。朱杯に揺らめく酒精は映す花色をあやしく、聲は寛ぎ朗らかに。
「こうべを廻せば山あいに春萌して」
 他愛もない知らせは近しき距離にありてこそ。
「帰らずして巡る季節にまた見るいつかの緑」
 賑わいの中に静寂があった。盃を傾け一息に飲み干せばあな美味し。

 ――長生きするとこういうことも経験するあるよ。
 艶美に笑む口元があえかに紡いで仰ぐ。ちらちらと儚く降り始めた粉雪の隙間を縫うように麒麟翔ける闇天を。

 ――大切な人。
 チェレンチィは盃の向こうに地面に降りてしゅわりと潤む雪粒と風に吹きあがる粉雪を視て、地表のあちらこちらで明滅する想いにあえかな囁きを交えた。
「……約束は守っていますよ」
 ――今はもう居ない『君』へ。
 盃を軽く掲げて、首を軽く傾けた。白く小さな雪片がふわふわして、冬夜に黄梅は頑なで、花弁が少し透けている。少女は長い睫毛を閉ざして外界より深い優しい黒を視る。
 君に、何でも話すことができた。
 別れは辛いと心が知ってしまった。
 人はこんなに近いのに、地上に熱があれほど燈るのに、勇気がないボクは線を引く。涙も、ほんとうの心も奥へ奥へと追いやって。
 瞼を開けなくても、盃が燈されているのが感じられる。
 キミを想う。
 ボクの盃が光ってる。ほら。
 ……もう、居ないのに。

 ――雪夜に小さな花が震えている。

 少年が己の知らない境を視て、花に心を寄り添合わせているから、妨げぬよう低くゆったり音階を辿る。近隣の民に教わったその曲は幻想種の歌。駆け落ちし旅に出て故郷を想い亡き妻が毎夜謡っていた、そう語り吹いたと伝わる旋律。
 ――最初から叶わないものだったんだ。
 初恋の叶わない希が胸に過る。想い人の元に帰るのではなく傍に居続けて欲しいと願った。そして彼は死んだ。帰らずに――氷の刃のように心臓の内側をずたずたにした。故に遠ざけていた。

「弾正が譲れない大切なものを取り戻せてよかった」
 少年の聲が真実の光を浸せば、弾正は美しい瞳を見つめた。見返す目に己が映っている。映してくれている。
「俺は二番目でも三番目でも平気だぞ」
 囁きに光が止んで、夜が優しく暗さを増すのが愛しくて堪らない。
「……俺はまだ酒は飲めないんだ」
 大人は遠いな、と瞬く瞳が逸らされるから、手を伸ばす。触れた頬は滑らかで、確かに幼さを残していて――触れても好いのだと愛しい金が月のように冴ゆる光を魅せるから、弾正は春を掻き抱くのだ。そうしてもよいのだ。全身を駆り立てる衝動。囁く吐息が悦びの熱に震えても、許されるのだ。
「アーマデル、もしかして嫉妬してくれているのか?」
 腕のうちに大切に閉じ込めて耳もとで囁けば、あえかな反応。この体温と鼓動がその距離に相応しいのだと教えてくれる。だから、沈黙の盃に片手を伸ばして目の前で掲げて視せる。育った想いを。
「共に死地を乗り越えて気づいた。君は掛け替えのない存在だ。アーマデル……俺と婚約してくれないか」

 光の中、顔を覗き込まれる。其れは、不思議な映像だ――視ているのだ。自分の視界なのだ。アーマデルは息の白さを明瞭に意識した。指を盃の縁に沿わせれば、ひやりと冷たい。
「約束など無くとも、俺は弾正の傍に居る……、」
 息を呑んだのは、迫る黒瞳に揺蕩う欲に。独占したいんだ、と吐かれた息の熱さと響きに。肩から頬に滑る掌の温かさと唇を塞ぐ想いに。間近に閉じられた睫毛が震えている。冬は寒いんだ。思いながら倣うように目を瞑る。

 ――だけど弾正。婚約は真実の愛の名の下に破棄されるもの……もし弾正がその手を離したいと思ったら……約束は枷になるんじゃないか。
 言葉を閉じ込めたのは、相手じゃない。自分だ。だって――雪が冷たい。こんなに。

 熱がじんわり、蕩けるように広がっていく。影がひとつに寄り添って、花が震えて揺れていた。透けた花弁は世界の色を綺麗に映すけれど、己の色を忘れたわけではなかった。だからアーマデルは霊とは異なり自分が今鼓動を刻んで脈打つのを意識して頷いた。絡めた指が震えたから、誘われて吸い寄せられたように口元に寄せて息を吹きかけた――この冬に、弾正が凍える事がないように。

成否

成功

MVP

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク

状態異常

なし

あとがき

依頼お疲れ様でした。誕生月&婚約おめでとうございます。MVPは強烈な絵面を作ってくださりつつ、この土地いいじゃんと思わせてくれた漢なあなたに。米はナイスアイディアですね。楽しく面白くエンジョイしつつ、巧みに攻略もして心情も豊かと、皆さんのプレイングを存分に魅せていただきました、参りました。今後とも頼りにしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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